説明

透析用製剤

【課題】 酢酸及び/又は酢酸ナトリウムを含有しない酢酸フリーの重炭酸透析液において、イオン化カルシウム濃度の低下を抑制した透析用製剤を提供すること。
【解決手段】 重炭酸透析用液を調製するための電解質成分、pH調整剤としてクエン酸及び/又はクエン酸塩、及び/又はブドウ糖を含有する透析用A剤であって、調製後の重炭酸透析液における電解質成分であるイオン化カルシウムの濃度を1mmoL/L以上となるように、クエン酸及び/又はクエン酸塩により調整されていることを特徴とする透析用A剤であり、具体的にはクエン酸塩としてクエン酸ナトリウムを使用し、また、これにより得られた透析液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析に使用する重炭酸透析液に関し、特にpH調整剤として酢酸/酢酸ナトリウムを含有せず、クエン酸及び/又はクエン酸塩、好ましくはクエン酸ナトリウムをpH調整剤として含有し、電解質成分としてのイオン化カルシウム(Ca++)濃度の低下を抑制した重炭酸透析液に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性腎不全(CRF)患者等に対して行われる血液浄化療法の最も一般的なものとして、血液透析治療法(人工透析療法)がある。血液透析治療法は、透析により血液中の老廃物の除去、除水などを行うほかに、血清電解質成分の濃度の是正、酸−塩基平衡の是正等を行うことを目的としている。
【0003】
このために使用する透析液中には大量のアルカリ化剤が必要とされているが、これは主にCRFに伴う代謝性アシドーシスを是正するためである。したがって、このようなアルカリ化剤として重炭酸塩が最適であることは当然のことであり、重炭酸透析液が血液透析療法に使用されている。しかしながら、重炭酸透析液にあっては、含有される重炭酸イオンがカルシウムイオン及びマグネシウムイオンと反応して不溶性化合物(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸金属塩化合物)を生成し、不安定であること、また細菌が繁殖しやすいことから、長期間にわたる保存が困難である等の問題があった。
【0004】
そこで、酢酸が肝臓において代謝され重炭酸に変換されることを利用してアルカリ補充を図る手法が確立され、また安定した透析液を供給することができることから、アルカリ化剤として酢酸塩である酢酸ナトリウムを用いる酢酸透析が行われるようになった。この結果、高いアルカリ濃度が設定できるようになり、十分な量の重炭酸イオンの補充が可能となった。しかしながら、その一方で、酢酸には血管拡張作用あるいは心機能の抑制作用が認められ、血圧低下の一因にもなり、また酢酸の代謝の遅い酢酸不耐症例には酢酸に起因する透析不均衡症候群の悪化や、透析中の血中の二酸化炭素(CO)が大量に失われることで、呼吸抑制が生じる等の問題点が出現した。
【0005】
その後、透析を必要とする患者の増加や、糖尿病性腎症を原疾患とする対象患者の拡大に伴い、透析不均衡症候群の頻度と重症度が高まり、また通常の透析患者でも透析中の不快感が軽微な無症候透析への要求が増えてきたこと、これらの症状の原因として酢酸の関与が疑われたことから、現在では、アルカリ化剤として酢酸塩を用いる酢酸透析から炭酸水素ナトリウムを用いる重炭酸透析が、主流を占めるようになってきている。
【0006】
この重炭酸透析では、一般的にはカルシウムイオン及びマグネシウムイオン等を含む電解質成分、pH調整剤及び/又はブドウ糖を含むいわゆる「A剤」と、重炭酸イオンとなる炭酸水素ナトリウムからなるいわゆる「B剤」の2剤構成となっている。これは重炭酸イオンがカルシウムイオン及びマグネシウムイオンと反応して、不溶性化合物である炭酸金属塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等)を生成するのを防ぐためである。しかしながら、重炭酸透析といってもpH調整剤としての酢酸や酢酸ナトリウム等を含有するものであり、その含有量は、以前の酢酸透析ほどではないが、透析液のpHを7〜8に調製する6〜12mEq/L程度の酢酸が含まれている。
【0007】
当初はこの程度の酢酸の添加は問題がないと考えられていたが、酢酸は元来生体内にはほとんど存在しないもの(血中濃度:0.1mEq/L以下)であるため、最近では透析の長期化に伴い、酢酸に起因すると思われる透析中の血圧低下や、頭痛等の臨床症状の発現が問題となっている。
【0008】
また、ダイアライザーの性能の向上等により酢酸が過度に負荷されて循環器系に悪い影響を与えるようになり、酢酸不耐症等、酢酸の毒作用は予想以上に強いということが認識されるようになってきた。そこで、重炭酸透析においても、酢酸を全く含まない透析液の開発が求められ、酢酸及び/又は酢酸ナトリウムに代わるpH調整剤としてクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムの使用が提案されるに至った(特許文献1)。
【0009】
重炭酸透析液において使用されているpH調整剤としてのクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムは、上記した酢酸に由来する種々の臨床的な問題点を解決したものであるが、その一方でクエン酸のキレート作用も少なからず問題視されるものであり、大量のクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムの添加は、透析中にイオン化カルシウムをキレート作用により低下させ、低カルシウム血症の発生が考えられた。
特に透析患者におけるイオン化カルシウム濃度の基準値は、2.05〜2.60mEq/L(1.025〜1.30mmol/L)であるとされており(非特許文献1)、透析の前後を問わず、この値を確保することが重要である。
【0010】
通常にあっては、正常人の血清中のカルシウム値としては8.0〜10.5mg/dLであり、そのうちでイオン化しているカルシウム、すなわちイオン化カルシウムは1mmoL/L以上であることが必要とされているが、クエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムをpH調整剤として含有する重炭酸透析液を使用した場合には、このクエン酸およびクエン酸ナトリウムがカルシウムとキレートを形成し、その結果、イオン化カルシウム濃度の低下を引き起こすことが観察された。
【0011】
重炭酸透析液と酢酸透析液における慢性血液透析症例においてCa代謝を比較検討した結果、Ca++の変化において酢酸透析液に比較して重炭酸透析液のほうが有意に低下しており、また骨塩量においても酢酸透析液に比較して重炭酸透析液のほうが有意に低下していることが報告されている(非特許文献2)。このイオン化カルシウム濃度の低下は低カルシウム血症を招き、Ca・骨代謝において必ずしも好ましいものでない。したがって、かかる低Ca重炭酸透析液におけるCa++の補充として、炭酸カルシウム製剤及び活性型ビタミンD製剤の投与が提案されている(非特許文献3)。
【0012】
しかしながら、炭酸カルシウム製剤の投与は、逆に高カルシウム血症を招くことにもなりかねない。かかる観点からみれば、重炭酸透析液中のCa++濃度を高いものとして、pH調整剤として含有されるクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムとキレートを生じて低減されるイオン化カルシウムを考慮し、電解質成分である例えば塩化カルシウムの濃度を高くすることでイオン化カルシウム濃度を高値に保つことも可能である。しかしながら、透析液中の高い濃度のカルシウムイオンは、高カルシウム血症の発現をきたし、また、透析液中のカルシウム濃度の調整が煩雑なものであり、好ましいものではない。
したがって、現在一般的な重炭酸透析液中に添加される電解質成分としてカルシウムの至適濃度を維持したまま、イオン化カルシウム濃度の低下をきたさない、酢酸フリーの透析液の開発が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−104869号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「透析患者の検査と管理」下条文武編著者,第32頁, 1999年6月21日 初版1刷(中外医学社)
【非特許文献2】千葉栄市ら、透析会誌, 21(6):517〜522 (1988)
【非特許文献3】中山文義ら、人工臓器, 18(3):1220〜1224 (1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記の現状に鑑み、酢酸及び/又は酢酸ナトリウムを含有しない、酢酸フリーの重炭酸透析液において、イオン化カルシウムが1mmoL/L以上となる透析用製剤を提供することを課題とする。
【0016】
かかる課題を解決するべく本発明者らは鋭意検討した結果、酢酸フリーの重炭酸透析液において、添加される電解質成分としてカルシウムの至適濃度を維持したまま、pH調整剤として使用されているクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムの添加量をできるだけ少ないものとしつつ、その量を調整することにより、透析液中のイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上とすることができ、上記した問題点が改善されることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち本発明は、基本的な態様として、pH調整剤としてクエン酸及び/又はクエン酸塩を用いる重炭酸透析液において、電解質成分としてのイオン化カルシウム濃度が1mmoL/L以上となるようにクエン酸及び/又はクエン酸塩の含有量を調整したことを特徴とする透析液である。
【0018】
より具体的には、本発明は、pH調整剤としてクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムを、透析液中のクエン酸濃度を1.5mEq/L以下とし、クエン酸ナトリウム濃度を0.2〜0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることによりイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上となるよう調整したことを特徴とする透析液である。
【0019】
また本発明は、別の態様として、pH調整剤として酢酸及び/又は酢酸塩を含有せず、クエン酸−クエン酸塩を用いる重炭酸透析液において、電解質成分であるイオン化カルシウム濃度を1.0mmoL/L以上となるようクエン酸及び/又はクエン酸塩により調整する方法である。
【0020】
この場合にあっても、より具体的な本発明は、pH調整剤としてクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムを、透析液中のクエン酸濃度を1.5mEq/L以下とし、クエン酸ナトリウム濃度を0.2〜0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることによりイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上となるよう調整する方法である。
【0021】
さらに本発明は、また別の態様として、重炭酸透析用液を調製するための、電解質成分、pH調整剤としてクエン酸及び/又はクエン酸塩、及び/又はブドウ糖を含有する透析用A剤であって、調製後の重炭酸透析液における電解質成分であるイオン化カルシウムの濃度を1mmoL/L以上となるように、クエン酸及び/又はクエン酸塩により調整されていることを特徴とする透析製剤用A剤である。
【0022】
より具体的には、本発明の透析製剤用A剤は、クエン酸濃度を1.5mEq/L以下としたうえで、クエン酸ナトリウムを0.2〜0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることによりイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上となるよう調整されている透析製剤用A剤である。
【0023】
本発明はさらに別の態様として、酢酸及び/又は酢酸塩を用いずに、イオン化カルシウム濃度が1mmoL/L以上となるように重炭酸透析液を調製して透析を行うことを特徴とする血液透析方法である。
【0024】
より具体的には、イオン化カルシウム濃度の調整を、上記したイオン化カルシウム濃度の調整方法により行う血液透析方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明が提供する重炭酸透析液は、透析液中のイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上となるよう調整されているものである。したがって、Ca・骨代謝に負担をかけることが無い良好な重炭酸透析液が提供される。
さらに、本発明が提供する重炭酸透析製剤用A剤は、透析液の調製後においてイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上となるよう、クエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムの含有量を組み合わせることにより調整されているものであり、安定した重炭酸透析液を供給し得る利点を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明が提供する重炭酸透析液においては、従来の重炭酸透析液で使用されていたpH調整剤としての酢酸及び/又は酢酸ナトリウムを含有せず、生体内にも存在する酸であるクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムを使用した点に第一の特徴がある。これにより、いわゆる酢酸フリーの重炭酸透析液が調製されるのである。
【0027】
さらに、pH調整剤として含有されるクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムの添加量を調整することにより、透析液中の至適カルシウム濃度を維持したまま、イオン化カルシウムの濃度を1mmoL/L以上となるようにしたことに第二の特徴がある。
【0028】
かかる重炭酸透析液は、電解質成分、pH調整剤としてのクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウム、及び/又はブドウ糖を含有するいわゆる「A剤」と、アルカリ化剤としての重炭酸イオンの炭酸水素ナトリウムからなるいわゆる「B剤」の2剤を希釈混合し、得られる透析液である。
なお、本発明にいう透析製剤用の「A剤」の配合成分は、透析液成分として含有する成分を、所望により適宜選択して配合し得る。また、「B剤」にあっても炭酸水素ナトリウムのみならず、他の透析液成分を適宜配合し得るものである。
【0029】
したがって、本発明における透析用の「A剤」とは、炭酸水素ナトリウム液(いわゆる「B剤」)と希釈混合して重炭酸透析液を調製するための製剤であり、その剤型は、液剤でも良く、固形剤であっても良い。
【0030】
なお、固形剤の場合にあっては、全ての成分を一剤化すると、ブドウ糖とクエン酸等が反応することがあることから、反応する各成分をそれぞれ区分して収納することもできる。その場合には、1つの袋の中でいくつかの収納室に分かれている複室容器を使用すれば、各成分の調整忘れが無いため、特に好ましい。例えば、電解質成分とブドウ糖を別々の二室に分けたり、電解質成分、ブドウ糖およびpH調整剤としてのクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムをそれぞれの三室に分けたりして収納することもできる。
【0031】
本発明が提供する重炭酸透析液は、上記したように、透析液中の至適カルシウム濃度を維持したまま、イオン化カルシウムの濃度を1mmoL/L以上となるようにしたものであるが、その調整は具体的にはpH調整剤として含有させるクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムの添加量を調整することにより行えることが判明した。
【0032】
本発明者らの検討によれば、その調整は、透析液中のクエン酸濃度を1.5mEq/L以下とし、クエン酸ナトリウム濃度を0.2〜0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることによりイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上となるよう調整し得ることが判明した。
【0033】
なお、本発明が提供する透析液にあっては、そのpHは7〜8の範囲内になるように調整され、通常含有されるアルカリ化剤の量とでそのpH調整剤の含有量は異なり、一概に限定できないものであるが、上記のクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムの含有量で目的とするpHの範囲内に調整されると共に、イオン化カルシウム濃度も1mmoL/L以上と調整されることが判明した。
【0034】
さらに、本発明が提供する透析用A剤は、通常、電解質成分、pH調整剤及び/又はブドウ糖を含んでおり、かかる電解質成分としては、クエン酸ナトリウム等のクエン酸塩の他、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウム等が用いられる。
【0035】
好ましい電解質組成物としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムである。
【0036】
透析液の各成分の配合量は、適切な濃度に希釈、混合した場合、重炭酸透析液として、下記の濃度であることが好ましい。
【0037】
Na 120〜150mEq/L
0〜4mEq/L
Ca2+ 0〜4mEq/L
Mg2+ 0〜1.5mEq/L
Cl 55〜150mEq/L
HCO 20〜45mEq/L
シトレート3− 1〜2mEq/L
ブドウ糖 0〜3.0g/L
【0038】
なお、本発明においてはpH調整剤としてクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムを使用する。このクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムの量は、重炭酸透析液を調製した場合、すなわち、「A剤」と「B剤」を混合し、適当な希釈を行った場合に、その液のpHが約7〜8程度に調整できるような量で、イオン化カルシウムとのキレートを最小限に抑え、1mmoL/L以上と調整される量を含有すればよい。
【0039】
従来の重炭酸透析液には、「A剤」においてはpH調整剤として酢酸及び/又は酢酸ナトリウムが含有されていたのに対し、本発明ではクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムを含有させ、酢酸を一切含有していない。したがって、炭酸水素ナトリウムのみをアルカリ化剤として用いることができるため、より生理的な処方である利点を有している。
【0040】
また、クエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムを使用することにより、沈殿の発生抑制効果も期待できる。例えば、電解質成分、pH調整剤及び/又はブドウ糖を含有するいわゆる「A剤」と、重炭酸イオンの炭酸水素ナトリウムからなる「B剤」の2剤は、重炭酸イオンがカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンと反応して不溶性化合物である炭酸金属塩を生成するため、一般的には用時希釈混合後、目的とする重炭酸透析液とする。
【0041】
調製された重炭酸透析液を用いて実際の血液透析に要する時間は、一般的に3〜5時間程度であるため、それ以上の時間安定であることが必要である。本発明が提供する重炭酸透析液にあっては、透析液を調製した後長時間にわたって沈殿が認められず、安定であることが判明した。この安定化は、pH調整剤として使用しているクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムによる透析液中のクエン酸イオン(シトレート3−)による効果であり、その点でも本発明の臨床的な利点は優れたものであるといえる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明を、実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1:
重炭酸透析液を調製するための電解質成分、pH調整剤としてのクエン酸及びクエン酸ナトリウム、及びブドウ糖を含有する透析用A剤を以下の5処方で調製した。
すなわち、電解質成分として、塩化ナトリウム(NaCl)214.8g、塩化カリウム(KCl)5.222g、塩化カルシウム(CaCl・2HO)7.72g、塩化マグネシウム(MgCl・6HO)3.56gを用い、これにブドウ糖52.5g、及び下記表1に記載のpH調整剤としてクエン酸(C・HO)及びクエン酸ナトリウム(CNa・2HO)を水に溶解して1Lとした透析用A剤を調製した。
なお、pH調整剤としてのクエン酸及びクエン酸ナトリウムの含有量は、後記するB剤との混合希釈後においてその濃度が各濃度となるように調整された含有量である。
【0044】
【表1】

【0045】
一方、アルカリ化剤として炭酸水素ナトリウム29.404gを水に溶解し、全量を1Lとした(B剤原液)。
【0046】
(試験方法)
試験1.透析液装置を用いて調製した透析液におけるイオン化カルシウム濃度及び透析液のpH値
上記の処方1〜5で調製したA剤およびB剤原液を用い、個人透析装置により透析液を調製し、そのときの透析液について血中電解質測定装置[i−STAT(アイスタットコーポレーション社製)にて『CG8+型』カートリッジによるイオン化カルシウムの測定]及びABL77型(ラジオメータートレーディング社製)の2種類によりイオン化カルシウム濃度およびpH値を測定した。
なお、対照として人工腎臓用透析液で、pH調整剤として酢酸及び酢酸ナトリウムを含有する市販のAK−ソリタ(登録商標)・DL(液剤)およびAK−ソリタ(登録商標)・FL(液剤)についても同様に透析液を調製し、試験した。
【0047】
試験2.実験用ガラス製品を用いて調製した透析液におけるイオン化カルシウム濃度及び透析液のpH値
実験用ガラス製品を用いて調製した透析液について試験を行う場合の透析液の調製は以下のようにして行った。すなわち、上記したB剤原液を下記表2に記載の量を、350mLのメスフラスコに正確に取り、水を300mL加えて、さらにここに上記の各処方(処方1〜5)のA剤を10mL加え、水で正確に350mLとし、透析液を調製した。
なお、上記試験1と同様に、AK−ソリタ(登録商標)・DL(液剤)およびAK−ソリタ(登録商標)・FL(液剤)についても同様透析液を調製し、試験した。
【0048】
【表2】

【0049】
その結果を下記表3及び4に示した。
表3は、個人透析装置を用いて調製した透析液についての結果であり、表4は、実験用ガラス製品を用いて調製した透析液についての結果である。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
以上の結果から判明するように、透析液中のカルシウム濃度を一般的に広く用いられている一定濃度(3.0mEq/L)に固定し、そのときのpH調整剤としてのクエン酸濃度を1.5mEq/L以下としたうえで、クエン酸ナトリウムを0.2〜0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることによりイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上となるよう調整されていることが理解される。
【0053】
実施例2:透析液中のカルシウム濃度を高値としたイオン化カルシウム濃度の調整
上記した実施例1における透析液は、透析液中のカルシウム濃度を一般的に広く用いられている一定濃度(3.0mEq/L)に固定し、そのときに使用するpH調整剤としてのクエン酸及びクエン酸ナトリウムの含有量を調整した、透析液中のイオン化カルシウム濃度の調整例である。
この透析液中のイオン化カルシウム濃度は、透析液中のカルシウム濃度を高めることによっても調整することができる。
すなわち、本実施例では、上記した実施例1の処方4における電解質成分中、カルシウム濃度を透析液中の濃度として3.5mEq/Lと変更する以外は同様の電解質成分量、B剤原液(35mL)により透析液を調製した。
その調製後の透析液のイオン化カルシウム濃度及びpH値を血中電解質測定装置(i−STAT及びABLの2種類)により測定したところ、i−STATではイオン化カルシウム濃度は1.15mmoL/Lで、そのpHは7.53を示し、ABLでは、イオン化カルシウム濃度は1.26mmoL/Lで、そのpHは7.46を示した。
以上の結果から、透析液中のイオン化カルシウムの濃度は、透析液中のカルシウム濃度を高めることによっても調整することができることが理解される。
【0054】
実施例3:臨床試験におけるイオン化カルシウム(Ca2+)濃度の検討
本発明の透析液を使用して透析を行った、臨床使用における透析患者の血中イオン化カルシウム濃度(Ca2+)の変動を観察した。
透析液として実施例1の処方4を用いた。
【0055】
本発明の透析液を用いた透析(週3回)を連続して行った患者の、透析前の血中イオン化カルシウム濃度[0週目(0週値)、4週間後(4週値)、7週間後(7週値)、8週間後(8週値);表5]及び、透析後のイオン化カルシウム濃度[1週間後(1週値)、5週間後(5週値)、8週間後(8週値);表6]をそれぞれ測定、観察した。
結果:
測定されたイオン化カルシウム濃度の平均値、最小値、及び最大値の結果を、下記表5、表6に示した。
【0056】
【表5】

【0057】
【表6】

【0058】
上記表より明らかなように、本発明の透析液による透析を行った透析患者において、血中イオン化カルシウム濃度は、その基準値である2.05〜2.60mEq/L前後の値(非特許文献1)が確保されていることが理解される。
【0059】
また、8週間の連続使用においても、基準値内を維持された透析を行うことができた。
【0060】
上記の結果からも明らかなように、本発明の酢酸フリーの透析剤による透析を行った場合であっても、血中イオン化カルシウム濃度は、その基準値内に維持されており、本発明の透析液の有用性がよく理解される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上記載のように、本発明により透析液中のイオン化カルシウム濃度の低下を防止した透析液となる透析用製剤が提供される。
また、本発明が提供する重炭酸透析製剤用A剤は、透析液の調製後において、特にイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上となるよう、クエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムの含有量を組み合わせることにより調整されているものであり、安定した重炭酸透析液を供給し得る利点を有している。
したがって、Ca・骨代謝に負担をかけることが無い良好な重炭酸透析液が提供されることからその医療上の価値は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH調整剤としてクエン酸及び/又はクエン酸塩を用いる重炭酸透析液において、電解質成分としてのイオン化カルシウム濃度が1mmoL/L以上となるようにクエン酸及び/又はクエン酸塩の含有量を調整したことを特徴とする透析液。
【請求項2】
pH調整剤としてクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムを、透析液中のクエン酸濃度を1.5mEq/L以下とし、クエン酸ナトリウム濃度を0.2〜0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることによりイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上となるよう調整したことを特徴とする請求項1に記載の透析液。
【請求項3】
pH調整剤として酢酸及び/又は酢酸塩を含有せず、クエン酸及び/又はクエン酸塩を用いる重炭酸透析液において、電解質成分であるイオン化カルシウム濃度を1.0mmoL/L以上となるようクエン酸及び/又はクエン酸塩により調整する方法。
【請求項4】
pH調整剤としてクエン酸及び/又はクエン酸ナトリウムを、透析液中のクエン酸濃度を1.5mEq/L以下とし、クエン酸ナトリウム濃度を0.2〜0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることによりイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上となるよう調整する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
重炭酸透析用液を調製するための、電解質成分、pH調整剤としてクエン酸及び/又はクエン酸塩、及び/又はブドウ糖を含有する透析製剤用A剤であって、調製後の重炭酸透析液における電解質成分であるイオン化カルシウムの濃度を1mmoL/L以上となるように、クエン酸及び/又はクエン酸塩により調整されていることを特徴とする透析製剤用A剤。
【請求項6】
クエン酸濃度を1.5mEq/L以下とし、クエン酸ナトリウムを0.2〜0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることによりイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上となるよう調整されている請求項5に記載の透析製剤用A剤。
【請求項7】
剤型が粉末剤であることを特徴とする請求項6に記載の透析製剤用A剤。
【請求項8】
剤型が液剤であることを特徴とする請求項6に記載の透析製剤用A剤。
【請求項9】
酢酸及び/又は酢酸塩を用いずに、イオン化カルシウム濃度が1mmoL/L以上となるように重炭酸透析液を調製して透析を行うことを特徴とする血液透析方法。
【請求項10】
イオン化カルシウム濃度の調整を、請求項3または4に記載の方法で行う請求項9に記載の血液透析方法。

【公開番号】特開2012−131801(P2012−131801A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−21839(P2012−21839)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【分割の表示】特願2006−550896(P2006−550896)の分割
【原出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】