説明

透析装置

【解決手段】 透析装置1は、透析液が流通する透析液回路4と、患者に接続される血液回路3と、透析液回路4および血液回路3に接続される透析器2とを備えている。
患者に対する透析治療が終了すると、先ず、透析器2の透析液室2D内に空気を導入して、透析液室2D内の3分の1程度に透析液を充填した状態で逆ろ過を行う。それにより、透析液回路4の透析液は透析器2を介して血液回路3内に流入するので、血液回路3内の血液が患者に返血される。
【効果】 従来と比較すると、患者に返血される血液が透析液によって薄まる量を減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透析装置に関し、より詳しくは、血液回路内の血液を患者に返血する場合に好適な透析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透析装置による透析治療は公知であり、さらに、透析治療後において血液回路内に残留する血液を逆ろ過によって患者に返血するシステムも公知である(例えば特許文献1)。
ここで、図5に示すように、『逆ろ過』とは、患者に接続される血液回路内よりも透析液回路内を陽圧にした状態において該透析液回路から透析器の透析液室に透析液を流通させることであり、それにより透析器の透析液室から血液室へ透析液を流入させ、さらに血液回路に流入させることである。この図5に示すように、上記特許文献1においては、この逆ろ過を行うことによって血液回路内に残留した血液を患者に返血するようになっている。この特許文献1の返血システムにおいては、比較的安価な透析液によって返血することができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3858260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1にあるように、『逆ろ過』処理によって血液回路の血液を患者に返血するシステムにおいては、次のような問題点がある。すなわち、図5に示すように、透析器は、多数の中空糸膜の内部空間からなる血液室と、中空糸膜の外方で外装ケースの内部空間となる透析液室とを備えている。そして、返血のために逆ろ過を行う際には、透析器の透析液室の全域に透析液が満たされた状態となっており、その状態で中空糸膜を透過した透析液が血液室内に流入し、さらに血液回路に流入することになる。そのため、逆ろ過を開始した際に血液室の全域にわたって透析液が流入して血液に混入することになるので、透析液によって薄まる血液の量が多くなるという問題がある。従って、透析治療による除水の効果が低下するという問題があった。
また、透析治療においては、中空糸膜の内側(血液室の内面)の動脈側通路との接続部付近に老廃物が多く溜まって付着する傾向がある。そのため、透析治療後の逆ろ過処理の際に中空糸膜の外側(透析液室)から中空糸膜(血液室)内へ流入する透析液によって、中空糸膜の内面(血液室の内面)に付着した老廃物が剥離して血液とともに患者に返血されやすくなり、透析治療による効果が低減するという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した事情に鑑み、請求項1に記載した本発明は、半透膜によって内部を血液室と透析液室とに区画された透析器と、一端が採血口であって他端が上記透析器の血液室の入口に接続される動脈側通路および一端が返血口であって他端が上記血液室の出口に接続される静脈側通路からなる血液回路と、上記透析器の透析液室の入口に接続された透析液供給通路および透析液室の出口に接続された透析液回収通路とを有する透析液回路と、上記透析液回路に設けられるとともに、所要時に透析液を上記透析器の透析液室から血液室へと流入させる逆ろ過手段とを備え、上記逆ろ過手段により透析液を上記透析器を介して上記血液回路内に流入させて、該血液回路内の血液を返血するように構成した透析装置において、
上記透析器の透析液室内に気体を導入する気体導入手段を備え、上記透析器の透析液室内に上記気体導入手段により気体を導入し、該気体が導入された以外の透析液室内の領域に透析液を残留させた状態で、上記逆ろ過手段により透析液を血液回路内に流入させて返血することを特徴とするものである。
また、請求項2に記載した本発明は、上記請求項1の構成を前提として、上記透析器は、透析液室の出口が上方に位置するように鉛直方向に保持されており、上記気体導入手段は、上記透析器における透析液室の出口から該透析液室へ気体を導入することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
上述した請求項1の発明によれば、透析器の透析液室内に透析液が流入する量を従来よりも減少させることができるので、血液回路から患者へ返血される血液が透析液によって薄まる量を減少させることができる。
また、請求項2の発明によれば、上方となる透析液室の出口から透析液室へ気体が導入されるので、下方側の入口から気体を導入する場合と比較して、透析液室内で気泡が発生することを抑制することができる。そのため、気泡が血液室の外面に付着して、血液回路から患者へ返血する際の効率が低下することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施例を示す斜視図。
【図2】図1に示した透析装置の回路構成を示す図。
【図3】図1に示した透析装置によって返血処理を行う場合の要部の断面図であり、図3(a)は透析治療終了の時点を示し、図3(b)は透析器に大気を導入時の状態を示し、図3(c)は逆ろ過による返血の準備段階を示し、図3(d)は逆ろ過の処理中の状態を示している。
【図4】図1に示した透析装置による処理工程を示す要部の断面図であり、図4(a)は透析治療時の状態を示し、図4(b)は返血処理の準備段階を示し、図4(c)は返血処理中の状態を示している。
【図5】従来の透析装置による逆ろ過処理を示す要部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図示実施例について本発明を説明すると、図1ないし図2において、透析装置1は病院のコンセントCなどの電源から給電されて作動し、また、箱型の本体部1A内に設けられた制御手段1Bによって作動を制御されるようになっている。本実施例の透析装置1は、本体部1Aの側面に鉛直方向に保持される円柱状の透析器2と、この透析器2に接続された血液回路3と、透析器2に着脱自在に接続されるとともに本体部1A内に設けられた透析液回路4とを備えている。
上記制御手段1Bは画面表示式の操作パネル1Cを備え、その画面には操作に必要なボタンやアイコン、メッセージが表示され、装置の操作および各種パラメータの設定を行うことができるようになっている。
本実施例の透析装置1は、1人の患者を対象に血液透析療法(HD)を行う透析装置であって、透析装置1の使用開始直前におけるプライミングを行うことができるようになっている。
また、この透析装置1は、透析治療中において透析液回路4側を血液回路3側よりも陽圧にすることにより、透析器2と血液回路3を介して患者に透析液を補液できるようになっている。このように、透析液回路4側を陽圧にして透析器2と血液回路3を介して患者に透析液を補液することは、従来一般的に『逆ろ過』と称されている。また、後述するが、本実施例においては、透析治療後において透析装置1によって『逆ろ過』を行うことにより、血液回路3内に残留した血液を患者に戻す『返血』処理も行うようになっている。
【0009】
上記透析器2の構成は従来公知ものと同じであり、透析器2は、円筒状の樹脂からなる外装ケース2Aと、該外装ケース2Aの内部に設けられた多数の中空糸膜2Bとを備えている。そして、上記各中空糸膜2Bがろ過膜(半透膜)となっており、それらの内部は血液室2Cとなっている。この血液室2Cは上記血液回路3と連通して血液が流通するようになっている。上記透析器2に用いられるろ過膜としての中空糸膜2Bは、液体は通過させるが気体を通過させない性質を有している。他方、円筒状の外装ケース2Aの内面と血液室2C(各中空糸膜2B)との間の空間部は透析液が流通する透析液室2Dとなっている。外装ケース2Aの側面の下部には、透析液室2Dに透析液を導入するための入口2Eが形成されるとともに、外装ケース2Aの側面の上部には透析液を排出するための出口2Fが形成されている。後述する透析液回路4の透析液供給通路23が入口2Eに接続されるとともに、透析液回路4の透析液回収通路24が出口2Fに接続されている。それにより、透析液室2D内は上記透析液回路4と連通して、透析液が血液とは逆方向に流通するようになっている(図4(a)(参照))。
本実施例においては、透析器2は、上記入口2Eが下方となり、出口2Fが上方となるように、本体部1Aの側面に鉛直方向に保持されるようになっている(図1、図4参照)。
従来公知のように、血液回路3を患者に接続して透析器2の血液室2C(中空糸膜2B)に血液を流通させるとともに透析液回路4からの透析液を透析器2の透析液室2Dに流通させることにより、患者に対して透析治療を行うことができるようになっている(図4(a)参照)。
【0010】
次に血液回路3について説明する。血液回路3は、患者の血管に接続されて上記透析器2の血液室2Cに血液を供給する動脈側通路11と、透析器2の血液室2Cから患者に血液を戻す静脈側通路12とを備えており、これらの通路は樹脂製のチューブで構成されている。前述したように、透析器2は本体部1Aに鉛直方向に保持されており、それに伴って動脈側通路11が上方側に位置しており、静脈側通路12が下方側に位置している。
動脈側通路11は、その一端に患者の血管に穿刺される穿刺針11aが設けられるとともに他端が透析器2の血液室2Cの入口に接続されている。また、この動脈側通路11には、上記穿刺針11aから順に、動脈側通路11を閉鎖する閉塞手段としてのクランプ手段13と、血液を送液する血液ポンプ14と、ドリップチャンバ15とが配置されている。上記血液ポンプ14は、チューブをしごいて送液するローラポンプであるとともに、上記制御手段1Bによって作動を制御され、患者から透析器2の血液室2Cへ血液を送液することが可能となっている。
上記動脈側通路11のドリップチャンバ15には圧力計16が設けられるとともに、ドリップチャンバ15内の液面高さを調整するための図示しない液面調整手段が接続されている。この液面調整手段は、透析治療開始前に予め上記血液回路3に透析液を充満させるプライミングを行う際に使用され、その際にドリップチャンバ15の液面を所定高さに調整するようになっている。また、透析治療中においては、液面調整手段によってドリップチャンバ15内の液面の高さを所要の高さに維持するようになっている。
上記静脈側通路12は、その一端が上記透析器2の血液室2Cの出口に接続されるとともに他端に患者の血管に穿刺される穿刺針12aが設けられている。また、静脈側通路12には、上記透析器2から順に、ドリップチャンバ15’および静脈側通路12を閉鎖する閉塞手段としてのクランプ手段13’が配置され、ドリップチャンバ15’には圧力計16’が設けられている。
【0011】
次に、透析液回路4について説明するが、この透析液回路4の基本構成は例えば特開平10−43290号公報に開示された従来技術と実質的に同じである。すなわち、透析液回路4は、第1透析液チャンバ21または第2透析液チャンバ22から新鮮な透析液を透析器2の透析液室2Dに供給する透析液供給通路23と、透析器2の透析液室2Dを通過した使用済みの透析液を第1透析液チャンバ21または第2透析液チャンバ22に回収する透析液回収通路24とを備えており、これらの通路は樹脂製のチューブで構成されている。
上記第1、第2透析液チャンバ21、22には、図示しない透析液製造装置から供給される新鮮な透析液の流通する給液通路25と、使用済みの透析液を排出するための排液通路26とが接続されている。
第1透析液チャンバ21および第2透析液チャンバ22は同じ構成となっており、それらの内部は2枚のダイアフラムによって区画されている。つまり、新鮮な透析液を供給するための供給室21a,22aと、使用済みの透析液を回収するための回収室21b、22bと、これら供給室21a,22aと回収室21b、22bとの間に形成された中間室21c、22cとに区画されている。
【0012】
上記中間室21c、22cの内部にはそれぞれシリコーンオイルが充満されており、各中間室21c、22c内のシリコーンオイルはオイルポンプ27によって各中間室21cと中間室22cとの間を相互に送液されるようになっており、これにより中間室21c、22cの容積が増減されるようになっている。本実施例においては、オイルポンプ27によって各チャンバ21,22の中間室21c、22cの容積を増減させることにより、透析治療中において逆ろ過を行って透析液を患者に補液することができるとともに、透析治療後において同様に逆ろ過を行うことで血液回路3内の血液を患者に返血できるようになっている。
上記給液通路25には上記透析液を送液する給液ポンプ31が設けられるとともに、該給液ポンプ31の下流側において給液通路25は2方向に分岐して上記第1、第2透析液チャンバ21、22の上記供給室21a,22aに接続されている。そして、分岐した通路にはそれぞれ上記制御手段1Bによって開閉される給液弁V1,V2が設けられている。
【0013】
上記透析液供給通路23は、その上流部分が2方向に分岐してそれぞれ上記第1、第2透析液チャンバ21、22の供給室21a,22aに接続され、下流側の端部はカプラ23Aを介して上記透析器2の透析液室2D(入口2E)に接続されている。透析液供給通路23の端部は、カプラ23Aにより入口2Eに着脱可能となっている。そして、上記分岐部分にはそれぞれ制御手段1Bによって開閉される供給弁V3,V4が設けられている。
また、透析液供給通路23における透析器2に近い箇所には、透析液の有害成分を除去する第1透析液フィルターF1および第2透析液フィルターF2が所定間隔を隔てて直列に配置されており、さらに、第2透析液フィルターF2と透析器2との間の箇所には制御手段1Bによって開閉される第1開閉弁V5が設けられている。上記両フィルターF1、F2の間の箇所となる透析液供給通路23には、所要時に透析液供給通路23を大気に開放する開放手段32が接続されている。
【0014】
上記第1透析液フィルターF1内は半透膜によって一次側(上流室)と二次側(下流室)とに区画されており、透析液が一次側(上流室)から半透膜を通過して二次側(下流室)へ透過する際に有害成分が除去されるようになっている。この第1透析液フィルターF1における一次側(上流室)には、上記透析液供給通路23と透析液回収通路24とを連通させる第1バイパス通路33が接続されており、この第1バイパス通路33には上記制御手段1Bによって開閉される第2開閉弁V6が設けられている。
上記第2透析液フィルターF2内も半透膜によって一次側(上流室)と二次側(下流室)とに区画されており、透析液が一次側(上流室)から半透膜を通過して二次側(下流室)へ透過する際に有害成分が除去されるようになっている。第2透析液フィルターF2における一次側(上流室)には、透析液供給通路23と透析液回収通路24とを連通させる第2バイパス通路34が接続されており、この第2バイパス通路34には上記制御手段1Bによって開閉される第3開閉弁V7が設けられている。
透析治療中においては、上記第1開閉弁V5は開放される一方、上記第2開閉弁V6と第3開閉弁V7は閉鎖されている。これに対して、例えば図示しない濃度センサによって透析液の濃度の不良が検出された場合には、制御手段1Bは上記第1開閉弁V5を閉鎖するとともに第2開閉弁V6を開放する。それにより、濃度不良の透析液を透析器2に流通させることなく第1バイパス通路33を介して透析液回収通路24へと送液できるようになっている。このように、本実施例においては、透析液供給通路23に両透析液フィルターF1、F2が直列に配置されるとともに、透析液供給通路23と透析液回収通路24とにわたって両バイパス通路33,34が並列に配置されている。
【0015】
そして、本実施例においては、上記両透析液フィルターF1、F2の漏れを検出するために、開放手段32が設けられている。開放手段32は、透析液供給通路23における両透析液フィルターF1、F2の間に接続された開放通路35と、この開放通路35に設けられて制御手段1Bによって開閉される第4開閉弁V8と、開放通路35に設けられて透析液の流出を阻止する逆止弁36と、流入する大気を清浄化する無菌フィルター37とを備えている。
上記開放手段32は、上記両透析液フィルターF1、F2の漏れの検査に使用されるものであり、透析治療前又は透析治療後の所要時に、この開放手段32を用いて漏れの検査が行われる。より詳細には、所要時に制御手段1Bが上記第1開閉弁V5を閉鎖して第2開閉弁V6、第3開閉弁V7、第4開閉弁V8を開放する。すると、上記開放通路35を介して透析液回路4への大気の流入が許容され、上記両透析液フィルターF1、F2における二次側(又は一次側)から一次側(又は二次側)への大気の流入の有無により、透析液フィルターF1、F2の漏れを検査できるようになっている。なお、透析液回路4に流入する大気は、開放通路35の無菌フィルター37によって清浄化されるようになっており、透析液回路4内の透析液は上記逆止弁36によって流出を阻止される。
【0016】
本実施例では、透析治療後に逆ろ過により血液回路3内の血液を返血する際に、透析器2の透析液室2Dに大気を導入するようにしており、その際に上記開放手段32を気体導入手段として兼用するようにしている。より詳細には、上記開放通路35と透析器2に近い透析液回収通路24とを連通させる気体通路38が設けられており、該気体通路38には制御手段1Bによって開閉される第5開閉弁V9が設けられている。後に詳述する透析治療後の返血処理の準備段階において第5開閉弁V9が制御手段1Bによって開放されると、開放通路35と気体通路38および透析液回収通路24を介して透析器2の透析液室2D内に大気を導入できるようになっており(図4(b)参照)、その状態で逆ろ過を行うことで血液回路3内の血液を患者に返血するようになっている(図4(c)参照)。
【0017】
次に、透析液回収通路24について説明するが、この透析液回収通路24の構成は従来公知のものと同じである。すなわち、透析液回収通路24は、上流側の端部がカプラ24Aを介して上記透析器2の透析液室2D(出口2F)に接続されるとともに、下流部分が2方向に分岐してそれぞれ上記第1、第2透析液チャンバ21、22の回収室21b、22bに接続されており、上記分岐部分にはそれぞれ制御手段1Bによって開閉される回収弁V10,V11が設けられている。透析液回収回路24の上流側の端部は、カプラ24Aにより出口2Fに着脱可能になっており、所要の場合にはカプラ24Aを出口2Fから取り外すことができる。
また、透析液回収通路24には、上記透析器2側から順に、透析液回路4内の圧力を測定する圧力センサ41と、透析液を送液する透析液ポンプ42と、透析液内の気体を除気する除気槽43とが設けられ、該除気槽43と排液通路26との間には第3バイパス通路44が配設されている。この第3バイパス通路44には上記制御手段1Bによって開閉される第6開閉弁V12が設けられている。また、透析液回収通路24における第2バイパス通路33および気体通路38の接続部の間には第7開閉弁V13が設けられている。この第7開閉弁V13は、制御手段1Bによって所要時に開閉されるようになっている。
患者に対する透析治療中においては、上記第7開閉弁V13は開放される一方、上記第6開閉弁V12は閉鎖される。
上述したように、透析液供給通路23の端部にはカプラ23Aが備えられる一方、透析液回収通路24の上流側の端部にもカプラ24Aが備えられている。そのため、後述する第2透析液フィルターF2の漏れ検査の際には、図2に想像線で示すように両カプラ23A,24Aを相互に接続することで、透析器2を介することなく両通路23,24を連通させることができる。
【0018】
次に、上記排液通路26は、その上流部分が2方向に分岐してそれぞれ上記第1、第2透析液チャンバ21、22の回収室21b、22bに接続され、下流側の端部は医療機関に設備された図示しない排液管に接続されており、さらに、上記分岐部分にはそれぞれ制御手段1Bによって開閉される排液弁V14,V15が設けられている。
【0019】
以上の構成からなる透析装置1において、先ず、患者に対して透析治療を行うようになっており、また、透析治療中における所要時に逆ろ過を行って透析器2と血液回路3を介して透析液を患者に補液するようにしている。そして、患者に対する透析治療が終了したら、逆ろ過を行って透析器2の透析液室2D内に透析液を流通させるようにしてあり、それにより血液回路3内に残留する血液を患者に返血するようにしている。この返血処理を行うに当たって、事前に透析器2の透析液室2D内に所定量の大気を導入することが本実施例の特徴となっている。また、透析治療前または透析治療後の所要時に、開放手段32を用いて両透析液フィルターF1、F2の漏れ検査が行われる。
【0020】
以下、透析装置1による透析治療と逆ろ過による補液処理および透析治療後の逆ろ過による返血処理について説明する。
先ず、患者に対する透析治療は次のようにして行われる。透析治療開始前に患者に対して両穿刺針11a、12aを刺して血液回路3を接続し、その後に血液ポンプ14を作動させて血液回路3に血液を流通させる(図2、図4(a)参照)。
この状態において、上記制御手段1Bは、給液弁V1と排液弁V14を開放するとともに供給弁V3と回収弁V10を閉鎖し、さらに、制御手段1Bは、給液ポンプ31を作動させるとともに第1開閉弁V5、第7開閉弁V13を開放させる。なお、その他の各開閉弁V6〜V9、V12は閉鎖されている。
すると、第1透析液チャンバ21では、給液弁V1と排液弁V14とが開放されているため、供給室21aには上記給液通路25から透析液が流入し、回収室21bではダイアフラムが押圧されて先に充填されている使用済みの透析液が排液通路26を介して外部へ排出される。
一方、上記第2透析液チャンバ22では、制御手段1Bが供給弁V4と回収弁V11を開放するとともに給液弁V2と排液弁V15を閉鎖する。すると回収室22bには上記透析液ポンプ42によって送液された使用済みの透析液が流入し、これにより供給室22aから新鮮な透析液が透析液供給通路23を介して透析器2の透析液室2Dに供給されることとなる。
その後、上記制御手段1Bが上記給液弁V1,V2、供給弁V3,V4、回収弁V10,V11、排液弁V14,V15を交互に開閉することで、第1透析液チャンバ21と第2透析液チャンバ22を介して新鮮な透析液が透析液供給通路23を介して透析器2の透析液室2Dへと供給される一方、透析器2の透析液室2Dを通過した使用済みの透析液は第1透析液チャンバ21と第2透析液チャンバ22に交互に回収され、その後、上記排液通路26を介して透析液回路4の外部へ排出されるようになっている。なお、このような透析液回路4の基本構成は、上記特開平10−43290号公報等で公知である。
このように、透析液回路4から透析器2へ透析液が流通するとともに、血液回路3を介して透析器2の血液室2Cに血液が流通することで、患者に対して透析治療が施される。
【0021】
ところで、透析治療中において、患者に対して『逆ろ過』によって透析液を補充する必要が生じた場合には、次のような処理が行われる。つまり、処理済み透析液が回収されている第1透析液チャンバ21の中間室21cに、オイルポンプ27によってシリコーンオイルを所要量供給する。それにより、第1チャンバ21の供給室21aの容量よりも回収室21bの容量が小さくなる結果、それらの容量差に相当する透析液が透析器2の血液室2Cを介して血液回路3へ、すなわち患者の血液へと圧入されることになる。このようにして、透析治療中の所要時に逆ろ過による透析液の補液の処理が行われる。
【0022】
上述のようにして患者に対して透析治療が行われるとともに、透析治療中の所要時に逆ろ過による透析液の補液が行われるが、透析液供給通路23に配置された両フィルターF1、F2に破損による漏れがない否かを検査する必要がある。そこで、本実施例の透析装置1においては、透析治療中を除いて透析治療の前後の所定時に開放手段32を用いて両フィルターF1、F2に対する漏れの検査が行われる。
より詳細には、本実施例では、先ず第1透析液フィルターF1について漏れ検査が行われ、次いで第2透析液フィルターF2に対して漏れ検査が行われる。第1透析液フィルターF1の漏れ検査は次のようにして行われる。すなわち、給液ポンプ31を停止させて透析液回路4からの透析液の給液を停止した状態において、制御手段1Bは、第2開閉弁V6、第4開閉弁V8および回収弁V11を開放させるとともに、供給弁V4、第1開閉弁V5および第3開閉弁V7を閉鎖させる。その状態で、回収側となる第2透析液チャンバ22の中間室22cから第1透析液チャンバ21の中間室21cへとオイルポンプ27によりシリコーンオイルを所要量送液する。これに伴い、第1バイパス通路33およびそれが接続された箇所よりも下流側となる透析液回収通路24が陰圧となる。
そのため、第1透析液フィルターF1の二次側(下流室)内の透析液は、内部を区画した膜を透過して第1透析液フィルターF1の一次側(上流室)へ流入した後、第1バイパス通路33と透析液回収通路24を介して回収室22bへ排出される。そして、空になった第1透析液フィルターF1の二次側(下流室)の内部へ開放通路35からの大気が導入される。このように、空になった第1透析液フィルターF1の二次側(下流室)の内部へ大気が導入された際に、仮に第1透析液フィルターF1内の膜に破れによる漏れがある場合には圧力センサ41が所定値よりも高い値となる。他方、第1透析液フィルターF1の膜に破れや漏れがない場合には圧力センサ41が所定値となる。それにより、第1透析液フィルターF1に漏れがあるか否かを検出できるようになっている。以上のようにして、開放手段32を用いて先ず第1透析液フィルターF1の漏れ検査が行われる。
【0023】
次に、第2透析液フィルターF2に関して次のようにして漏れ検査が行われる。この場合には、先ず両カプラ23A、24Aを透析器2から取り外した後に相互に接続して、両通路23、24を接続させる(図2の想像線参照)。この後、給液ポンプ31を停止させて透析液回路4からの透析液の給液を停止した状態において、制御手段1Bは、供給弁V4、第2開閉弁V6および第3開閉弁V7を閉鎖させるとともに、第1開閉弁V5、第4開閉弁V8、回収弁V11および第7開閉弁V13を開放させる。
その状態で、回収側となる第2透析液チャンバ22の中間室22cから第1透析液チャンバ21の中間室21cへとオイルポンプ27によりシリコーンオイルを所要量送液する。これに伴い、第2透析液フィルターF2よりも下流となる透析液供給通路23および両カプラ23A,24Aと透析液回収通路24の内部が陰圧となる。それにより、第2透析液フィルターF2の二次側(下流室)内の透析液は、上記陰圧となった両通路23、24と両カプラ23A,24Aを経由して回収室22bへ排液されて、二次側(下流室)は空になる。そして、第2透析液フィルターF2の一次側(上流室)には、開放通路35およびその接続位置の透析液供給通路23を介して大気が導入される。この第2透析液フィルターF2の一次側(上流室)に導入された大気は、第2バイパス通路34を経由して透析液回収通路24へ流通して、圧力センサ41によって圧力を検出される。
このように第2透析液フィルターF2の一次側(上流室)内へ大気が導入された際に、仮に第2透析液フィルターF2内の膜に破れによる漏れがある場合には上記圧力センサ41が所定値よりも高い値となり、他方、膜に漏れがない場合には圧力センサ41が所定値となる。それにより、第2透析液フィルターF2に漏れがあるか否かを検出できるようになっている。
このようにして、本実施例においては、透析治療時を除いた所要時に開放手段32を用いて各透析液フィルターF1、F2内に大気を導入して、圧力センサ41によって検出した圧力値の違いによって両透析液フィルターF1、F2の漏れの有無を検査するようになっている。
【0024】
さらに、本実施例においては、上述した透析治療が行われて透析治療が終了した際には、血液回路3内に残留している患者の血液を前述した逆ろ過によって患者に返血するようにしている。ここで、本実施例においては従来の返血処理とは異なり、先ず最初に準備段階として透析器2の透析液室2D内に3分の2程度大気を導入することで、透析液室2D内の3分の1だけに透析液が充填された状態を維持し、その状態において逆ろ過を行うことで返血するようにしている。
先ず、透析液室2D内の3分の2程度に大気を導入する工程にっいて説明する。前述した透析治療が終了した時点において、第1透析液チャンバ21および第2透析液チャンバ22が図3(a)の状態であるとする。つまり、第1透析液チャンバ21の供給室21aに給液通路25から導入された新鮮透析液が入っており、第2透析液チャンバー22の回収室22bに透析液回収通路24から導入された使用後の透析液が入った状態であるとする。
【0025】
この図3(a)に示す状態において、制御手段1Bは第1透析液チャンバ21側の給液弁V1、供給弁V3および排液弁V14を閉鎖するとともに、第2透析液チャンバ22側の給液弁V2、供給弁V4および回収弁V11を閉鎖する(図3(b)参照)。次に、制御手段1Bは、第1開閉弁V5、第3開閉弁V7および第5開閉弁V9を開放し、第7開閉弁V13を閉鎖する。これにより、開放通路35、気体通路38、透析液回収通路24および透析器2の出口2Fを介して透析液室2Dに大気が導入可能な状態となる。
そして、この後、第1透析液チャンバ21の中間室21cから第2透析液チャンバー22の中間室22cへオイルポンプ27によって所要量のシリコーンオイルを送液する。すると、透析器2の透析液室2D内の透析液が入口2Eから透析液供給通路23と第2バイパス通路34およびその接続位置より下流の透析液回収通路24を経由した後に回収弁V10を介して回収室21bへ回収される。これに伴って、無菌フィルター37で清浄化されて開放通路35および気体通路38へと導入された大気は、第5開閉弁V9よりも上流の透析液回収通路24および透析器2の出口2Fを介して透析液室2D内に導入される。また、それと同時に第2透析液チャンバ22の回収室22b内に入っていた透析液が排液弁V15を通過して排液通路26から排液される。したがって、この処理が進行することに伴って第1透析液チャンバ21および第2透析液チャンバ22は、図3(a)の状態から図3(b)の状態へと変化する。なお、図3(b)〜図3(d)における両チャンバ21,22内の破線の円弧は移動前のダイアフラムの位置を示しており、それらの隣接位置の矢印はダイアフラムの移動方向を示している。
ここで、制御手段1Bは、透析液室2Dの内部空間の3分の2程度が大気に置換されるように上記オイルポンプ27の作動量を調整している。そのため、透析器2の透析液室2D内における上方の3分の2程度に大気が導入されるとともに、透析液室2D内の下方となる3分の1だけに透析液が残留した状態が維持される(図4(b)参照)。本実施例では、このようにして、返血のための準備段階の処理が終了する。
【0026】
次に、逆ろ過によるプライミング工程について説明する。上述のように準備段階の処理が終了した図3(b)に示す状態から、制御手段1Bは第1透析液チャンバ21の供給弁V3を開放するとともに回収弁V10を閉鎖し、また、第2透析液チャンバ22の給液弁V2を開放するとともに排液弁V15を閉鎖する(図3(c)参照)。また、制御手段1Bは、透析液回路4の第3開閉弁V7、第5開閉弁V9、第7開閉弁V13を閉鎖する。
そして、オイルポンプ27によってシリコーンオイルを第2透析液チャンバ22の中間室22cから第1透析液チャンバ21の中間室21cへと所要量送液する。すると、透析治療終了の時点で第1透析液チャンバ21の供給室21aに入っていた透析液が供給弁V3を通過した後に透析液供給通路23を経由して透析器2の入口2Eから透析液室2Dへと導入される。透析液室2D内に導入された透析液は、透析液室2Dの容積の3分の1だけ残留している領域から血液室2C(中空糸膜2B)を介して血液回路3へ圧送される(図4(c)参照)。また、第2透析液チャンバ22の供給室22aには給液弁V2を通って給液通路25から新鮮透析液が導入される(図3(c)参照)。したがって、この前段階の処埋が進むにつれて、第1透析液チャンバ21と第2透析液チャンバ22の状態は、図3(b)の状態から図3(c)の状態へと変化する。
なお、この際、血液ポンプ14は、逆ろ過によって血液回路3へと圧送される透析液の流量の約半分の流量となるような回転数において透析治療時とは逆方向に回転されるようになっている。それにより、血液室2Cに圧送された透析液が動脈側通路11と静脈側通路12にそれぞれ略等分に配分されるようになっている。
【0027】
なお、上述した前段階の処理で、患者への返血に十分な透析液を血液回路3へ逆ろ過できなかった場合には、再度、逆ろ過を行うようにしている。その場合には、図3(c)の状態から、制御手段1Bは第1透析液チャンバ21の給液弁V1および排液弁V14を開放するとともに供給弁V3を閉鎖し、また、第2透析液チャンバ22の供給弁V4を開放するとともに給液弁V2を閉鎖する。
そして、オイルポンプ27によって第1透析液チャンバ21の中間室21cから第2透析液チャンバ22の中間室22cへシリコーンオイルを所要量送液する。すると、先の逆ろ過の際に新鮮透析液が導入された第2透析液チャンバ22の供給室22aから供給弁V4を通って、先の逆ろ過時と同様の経路で血液回路3へと透析液が圧送される。また、第1透析液チャンバ21の供給室21aには、給液弁V1を通って給液通路25から新鮮透析液が導入される。したがって、この処理が進むにつれて第1透析液チャンバ21と第2透析液チャンバ22の状態は図3(c)の状態から図3(d)の状態へと変化する。
【0028】
以上のように、本実施例においては、両透析液フィルターF1、F2の漏れ検査用の開放手段32を気体導入手段として用いることで、上記返血処理の準備段階において透析液室2Dの3分の2程度に大気を導入するようにしている。換言すると、透析液室2Dの3分の1程度だけに透析液を残留させた状態において逆ろ過を行って返血処理を行うようにしている。このように、本実施例においては、透析液室全域内を透析液で満杯して逆ろ過を行って返血処理をしていた従来と比較すると、血液室2Cにおける、透析液が流入される領域を大幅に減少させることができる。そのため、返血処理の際に血液回路3から患者へ返血される血液が透析液によって薄まる量を減少させることができる。
さらに、透析液室2D内の大気は上方3分の2の空間部に導入されるので、換言すると透析器2の上方に位置する血液室2Cの入口側付近に大気が導入されている。そのため、血液室2C(中空糸膜2B)内の上方部に付着した老廃物が、透析液室2Dを経由して血液室2C内へ流入してくる透析液によって剥がれることがない。したがって、血液回路3から患者へ返血される血液内に血液室2Cで剥離した老廃物が混入される量を減少させることができるので、患者に対する透析治療による効果を減退させることがない。
また、透析器2における透析液室2Dの上方となる出口2Fから透析液室2Dへ大気が導入されるので、下方側となる入口2Eから透析液室2Dへ大気を導入する場合と比較して、透析液室2D内での気泡の発生を良好に抑制することができる。したがって、透析液室2D内に生じる気泡が中空糸膜2Bの外面に付着して逆ろ過の効率が低下することを防止することもできる。
【0029】
なお、上述した実施例においては、一対のダイアフラムを内蔵した可変容積式の両透析液チャンバ21,22によって『逆ろ過』を行っているが、このような可変容積式チャンバの代わりに透析液回路に設けた除水ポンプを逆転させることで、『逆ろ過』を行うようにしても良い。そのような除水ポンプを備えた透析装置は、例えば特開2003−180823号公報により公知である。
また、上記実施例においては、透析器2の透析液室2Dに気体を供給する気体供給手段として開放手段32を兼用しているが、この開放手段32を用いないで別個の気体供給手段を設けて、該気体供給手段によって返血時に透析器2の透析液室2Dへ気体を供給するようにしても良い。
【符号の説明】
【0030】
1‥透析装置 2‥透析器
2C‥血液室 2D‥透析液室
3‥血液回路 4‥透析液回路
11‥動脈側通路 12‥静脈側通路
27‥オイルポンプ(逆ろ過手段)
32‥開放手段(気体導入手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透膜によって内部を血液室と透析液室とに区画された透析器と、一端が採血口であって他端が上記透析器の血液室の入口に接続される動脈側通路および一端が返血口であって他端が上記血液室の出口に接続される静脈側通路からなる血液回路と、上記透析器の透析液室の入口に接続された透析液供給通路および透析液室の出口に接続された透析液回収通路とを有する透析液回路と、上記透析液回路に設けられるとともに、所要時に透析液を上記透析器の透析液室から血液室へと流入させる逆ろ過手段とを備え、上記逆ろ過手段により透析液を上記透析器を介して上記血液回路内に流入させて、該血液回路内の血液を返血するように構成した透析装置において、
上記透析器の透析液室内に気体を導入する気体導入手段を備え、上記透析器の透析液室内に上記気体導入手段により気体を導入し、該気体が導入された以外の透析液室内の領域に透析液を残留させた状態で、上記逆ろ過手段により透析液を血液回路内に流入させて返血することを特徴とする透析装置。
【請求項2】
上記透析器は、透析液室の出口が上方に位置するように鉛直方向に保持されており、上記気体導入手段は、上記透析器における透析液室の出口から該透析液室へ気体を導入することを特徴とする請求項1に記載の透析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−235840(P2012−235840A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105545(P2011−105545)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【出願人】(000253019)澁谷工業株式会社 (503)
【Fターム(参考)】