説明

透湿性フィルム

【課題】透湿性に極めて優れた透湿性フィルムを提供する。
【解決手段】マトリックス樹脂と、架橋された再生コラーゲンからなるコラーゲン粉末を含む透湿性フィルムであって、前記コラーゲン粉末による連通度が1〜95%であることを特徴とする透湿性フィルムである。この透湿性フィルムは、マトリックス樹脂中に、架橋された再生コラーゲンからなるコラーゲン粉末が分散してフィルムが構成され、前記コラーゲン粉末同士が接触し、フィルムの一方の面から、他方の面まで、前記コラーゲン粉末が連通していることに起因して、極めて優れた透湿性を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生コラーゲン粉末を含有する透湿性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布等の衣料素材に適当な樹脂を付着させることにより、衣料の防水性や保温性を高め、透湿性を向上させて、むれ等を防ぎ、着心地を改善することが行われている。いわゆる透湿性防水布であり、このような例として、ポリウレタン樹脂を用いた透湿性防水フィルム、あるいは、基布上に前記フィルムを積層させた透湿性防水布が知られ、合成皮革、スポーツ衣料などに用いられている。
ポリウレタン樹脂は優れた機械強度、弾性を有することから、コーテイング剤、成形材料、表面処理剤、塗料等、種々の用途にも使用されるが、通常のポリウレタン樹脂を塗布した透湿性防水布は透湿性に劣る為に、着用時に蒸れる欠点があった。これを解決する為にポリウレタン樹脂溶液を湿式凝固させて多孔質にする方法が提案されている(特許文献1)。しかし、加工工程が煩雑であり、また膜強度が劣るなどの欠点を有していた。また、ポリウレタン樹脂のポリオール成分として、親水性のあるポリオキシエチレングリコールを用いて主鎖に導入する方法が提案されている(特許文献2)。しかし、得られたポリウレタン樹脂は、一般に耐水性及び耐溶剤性が低く、耐久性が劣る問題があった。また、ポリウレタン系樹脂の場合、ウレタン特有のベトツキ感があり、特に、汗をかいた肌で接触した場合のベトツキ感が多いことが大きな課題であった。そこで、ポリウレタン樹脂溶液中に天然コラーゲン等の吸湿性の粉末を混合して塗布する方法が提案されている(特許文献3)。しかし、表面触感や透湿性の機能は満足されるものの、天然コラーゲンの耐熱性が低く、高温で加工すると熱劣化したり、湿熱劣化してゼラチン化したりして、ベタツキ感が発生するなどの欠点を有していた。
【特許文献1】特開平11−269773
【特許文献2】特開平7−3148
【特許文献3】特開平4−82974
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、透湿性に優れた透湿性フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、本発明を完成するにいたった。即ち本発明は、マトリックス樹脂と、架橋された再生コラーゲンからなるコラーゲン粉末を含有する透湿性フィルムであって、前記コラーゲン粉末による連通度が1〜95%であることを特徴とする透湿性フィルムに関する。
好適な実施態様としては、架橋された再生コラーゲンが、有機化合物および/または金属塩を含有する処理液で架橋処理されたことを特徴とする透湿性フィルムがある。
好適な実施態様としては、有機化合物が単官能エポキシ化合物であり下記一般式(1):
【0005】
【化2】

(式中、Rは、R−、R2−O−CH2−またはR2−COO−CH2−で表される置換基を示し、Rは炭素数2以上の炭化水素基またはCHClであり、Rは炭素数4以上の炭化水素基を示す。)で表される化合物であることを特徴とする透湿性フィルムがある。
好適な実施態様としては、金属塩が次の式で表される塩基性塩化アルミニウム又は塩基性硫酸アルミニウムである透湿性フィルムがある。
Al(OH)n Cl3-n、又はAl2 (OH)2n(SO4 3-n
(式中、nは0.5〜2.5である)
好適な実施態様としては、マトリックス樹脂が、ポリウレタン系樹脂であることを特徴とする透湿性フィルムがある。
【発明の効果】
【0006】
本発明の透湿性フィルムは、透湿性が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明の透湿性フィルムは、マトリックス樹脂と、架橋された再生コラーゲンからなるコラーゲン粉末を含有する透湿性フィルムであって、前記コラーゲン粉末による連通度が1〜95%であることを特徴とする。
【0009】
本発明の再生コラーゲン粉末について以下に説明する。
本発明の再生コラーゲンは、牛、豚、馬、鹿、兎、鳥、魚などの動物の皮膚、骨、腱などから可溶化コラーゲン溶液を製造し、架橋処理することにより製造され、従来のコラーゲン粉末が有していた品質問題を解決しうる新規なコラーゲン粉末を提供しうるものである。さらに、可溶化コラーゲン水溶液を紡糸し、再生コラーゲン繊維とすることにより、コラーゲンの徹底的な精製と、紡糸による繊維化工程において緻密な架橋を行うことにより、全く新規なコラーゲン粉末を提供できる。
【0010】
上記再生コラーゲンの製造方法としては、例えば特開2002−249982号公報に開示されているように、原料は床皮の部分を用いるのが好ましい。床皮は、たとえば牛、豚、馬、鹿、兎、鳥、魚等の動物から得られるフレッシュな床皮や塩漬けした生皮より得られる。これら床皮は、大部分が不溶性コラーゲン繊維からなるが、通常網状に付着している肉質部分を除去し、腐敗・変質防止のために用いた塩分を除去したのちに用いられる。また、前記動物の骨、腱など他の材料も同様に用いることができる。
【0011】
この不溶性コラーゲン繊維には、グリセライド、リン脂質、遊離脂肪酸等の脂質、糖タンパク質、アルブミン等のコラーゲン以外のタンパク質等、不純物が存在している。これらの不純物は、粉末化するにあたって光沢や強度等の品質、臭気等に多大な影響を及ぼす。したがって、たとえば石灰漬けにして不溶性コラーゲン繊維中の脂肪分を加水分解し、コラーゲン繊維を解きほぐした後、酸・アルカリ処理、酵素処理、溶剤処理等のような一般に行われている皮革処理を施し、予めこれらの不純物を除去しておくことが好ましい。
【0012】
前記のような処理の施された不溶性コラーゲンは、架橋しているペプチド部を切断するために、可溶化処理が施される。前記可溶化処理の方法としては、一般に採用されている公知のアルカリ可溶化法や酵素可溶化法等を適用することができる。前記アルカリ可溶化法を適用する場合には、たとえば塩酸等の酸で中和することが好ましい。なお、従来から知られているアルカリ可溶化法の改善された方法として、特公昭46−15033号公報に記載された方法を用いても良い。
【0013】
前記酵素可溶化法は、分子量が均一な再生コラーゲンを得ることができるという利点を有するものであり、本発明において好適に採用しうる方法である。かかる酵素可溶化法としては、たとえば特公昭43−25829号公報や特公昭43−27513号公報等に記載された方法を採用することができる。さらに、前記アルカリ可溶化法及び酵素可溶化法を併用しても良い。
【0014】
このように可溶化処理を施したコラーゲンにpHの調整、塩析、水洗や溶剤処理等の操作をさらに施した場合には、品質等の優れた再生コラーゲンを得ることが可能なため、これらの処理を施すことが好ましい。得られた可溶化コラーゲンは、たとえば1〜15重量%、好ましくは2〜10重量%程度の所定濃度の原液になるように塩酸、酢酸、乳酸等の酸でpH2〜4.5に調整した酸性溶液を用いて溶解される。なお、得られたコラーゲン水溶液には必要に応じて減圧攪拌下で脱泡を施し、水不溶分である細かいゴミを除去するために濾過を行ってもよい。得られる可溶化コラーゲン水溶液には、さらに必要に応じてたとえば機械的強度の向上、耐水・耐熱性の向上、光沢性の改良、紡糸性の改良、着色の防止、防腐等を目的として安定剤、水溶性高分子化合物等の添加剤が適量配合されてもよい。
【0015】
可溶化コラーゲン水溶液を、たとえば紡糸ノズルやスリットを通して無機塩水溶液に吐出することにより再生コラーゲンが形成される。無機塩水溶液としては、たとえば硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム等の水溶性無機塩の水溶液が用いられ、通常これらの無機塩の濃度は10〜40重量%に調整される。無機塩水溶液のpHは、たとえばホウ酸ナトリウムや酢酸ナトリウム等の金属塩や塩酸、ホウ酸、酢酸、水酸化ナトリウム等を配合することにより、通常pH2〜13、好ましくはpH4〜12となるように調整することが好ましい。pHが2未満である場合及び13をこえる場合、コラーゲンのペプチド結合が加水分解を受けやすくなり、目的とするコラーゲン粉末が得られにくくなる傾向がある。また、無機塩水溶液の温度は特に限定されないが、通常35℃以下であることが望ましい。温度が35℃より高い場合、可溶性コラーゲンが変性を起こすため、強度が低下し、安定した製造が困難となる。なお、温度の下限は特に限定されないが、通常無機塩の溶解度に応じて適宜調整することができる。
【0016】
前記コラーゲンの遊離アミノ基を、β―位又はγ―位に水酸基又はアルコキシ基を有する炭素数主鎖が2〜20のアルキル基で修飾する。前記炭素数主鎖とは、アミノ基に結合したアルキル基の連続した炭素鎖を示すものであり、他の原子を介在して存在する炭素数は考慮しないものとする。遊離アミノ基を修飾する反応としては、通常知られているアミノ基のアルキル化反応を用いることが出来る。反応性、反応後の処理の容易さ等から前記β―位に水酸基又はアルコキシ基を有する炭素数2〜20のアルキル基が下記一般式(2)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0017】
―CH2―CH(OX)―R (2)
(式中、Rは、R1−、R2−O−CH2−又はR2−COO−CH2−で表される置換基を示し、前記置換基中のR1は炭素数2以上の炭化水素基又はCH2Clであり、R2は炭素数4以上の炭化水素基を示し、Xは水素又は炭化水素基を示す。)
一般式(2)の好ましい例としては、グリシジル基、1−クロル―2―ヒドロキシプロピル基、1,2−ジヒドロキシプロピル基が挙げられる。加えて、グリシジル基がコラーゲン中の遊離アミノ基に付加した構造が挙げられる。さらには、前述の好ましい基に記載されたアルキル基に含まれる水酸基を開始点として、用いたエポキシ化合物が開環付加、及び又は開環重合した構造が挙げられ、このときの付加及び又は重合の末端構造として、前述のアルキル基の構造を有しているものが挙げられる。
【0018】
前記再生コラーゲンの遊離アミノ基を構成するアミノ酸としては、リジン及びヒドロキシリジンが挙げられる。さらに、本来コラーゲンを構成するアミノ酸としてはアルギニンで存在するものの、前記再生コラーゲンを得るために、アルカリ条件下で加水分解を行う際に、一部加水分解が進行して生じたオルニチンのアミノ基もアルキル化反応される。加えて、本発明においてはヒスチジンに含まれる2級アミンにおいても反応が進行する。
【0019】
遊離アミノ基の修飾率は、アミノ酸分析により測定することが可能であり、アルキル化反応前の再生コラーゲン繊維のアミノ酸分析値、又は原料として用いたコラーゲンを構成する遊離アミノ酸の既知組成を基準に算出される。尚、本発明におけるアミノ基の修飾では、β―位又はγ―位に水酸基又はアルコキシ基を有する炭素数2以上のアルキル基で修飾された構造が、遊離アミノ基の50%以上であれば良く、その他の部分は遊離アミノ基のままでもよいし他の置換基で修飾された構造であっても良い。再生コラーゲンの遊離アミノ酸の修飾率は50%以上である必要があり、より好ましくは、65%以上、更に好ましくは80%以上である。反応率が低い場合、耐熱性で良好な特性が得られない。
【0020】
ここで、遊離アミノ基の修飾においては、通常、遊離アミノ基1つあたり1分子のアルキル化剤が反応するが、2分子以上反応していてもよい。さらに、遊離アミノ基に結合したアルキル基のβ―位又はγ―位に存在する水酸基又はアルコキシ基又はその他の官能基を介して、分子内又は分子間での架橋反応が存在していても良い。アルキル化反応の具体例としては、エポキシ化合物の付加反応、α―位又はβ―位に水酸基又はこの誘導体を有するアルデヒド化合物の付加反応とこれに続く還元反応、β―位又はγ―位に水酸基又はアルコキシ基を有する炭素数2以上のハロゲン化物、アルコール及びアミン等の置換反応が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明において、アルキル化反応剤として使用しうる有機化合物としては、アルデヒド類、エポキシ類、フェノール誘導体等が挙げられるが、反応性・処理条件の容易さからエポキシ化合物による修飾反応が、優れた特性を示すことから好ましく、単官能エポキシ化合物が特に好ましい。
【0022】
ここで用いられる単官能エポキシ化合物の具体例としては、たとえば、酸化エチレン、酸化プロピレン、酸化ブチレン、酸化イソブチレン、酸化オクテン、酸化スチレン、酸化メチルスチレン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、グリシドール等のオレフィン酸化物類、グリシジルメチルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、ノニルグリシジルエーテル、ウンデシルグリシジルエーテル、トリデシルグリシジルエーテル、ペンタデシルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、ポリエチレンオキシドグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、蟻酸グリシジル、酢酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、安息香酸グリシジル等のグリシジルエステル類、グリシジルアミド類等が挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0023】
単官能エポキシ化合物のなかでも、再生コラーゲンの吸水率が低下するため、下記一般式(1)で表される単官能エポキシ化合物を用いて処理することが好ましい。なお、式中、Rは前記と同じである。
【0024】
【化3】

このようにして得られた再生コラーゲンは、水又は無機塩の水溶液で膨潤した状態になっている。この膨潤は再生コラーゲンの重量に対して4〜15倍の水又は無機塩の水溶液を含有した状態が良い。水又は無機塩の水溶液の含有量が4倍未満では再生コラーゲン中のアルミニウム塩含有量が少なく、耐水性が不充分であり、また15倍を越える場合には強度が弱くなって取扱いが困難である。
【0025】
膨潤した再生コラーゲンは、次いでアルミニウム塩の水溶液に浸漬する。このアルミニウム塩水溶液のアルミニウム塩としては、次の式、Al(OH)nCl3-n、又はAl2(OH)2n(SO43-n(式中、nは0.5〜2.5である)で表される塩基性塩化アルミニウム又は塩基性硫酸アルミニウムが好ましい。具体的には、例えば硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ミョウバン等が用いられる。これらのアルミニウムは単独で又は2種以上混合して用いることができる。このアルミニウム塩水溶液のアルミニウム塩濃度としては、酸化アルミニウムに換算して0.3〜5重量%であることが好ましい。このアルミニウム塩の濃度は、0.3重量%未満では再生コラーゲン繊維中のアルミニウム塩含有量が少なく、耐水性が不充分であり、また5重量%を超える場合には処理後硬くなって風合いを損ねてしまう。
【0026】
このアルミニウム塩水溶液のpHは、例えば塩酸、硫酸、酢酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等を用いて通常2.5〜5に調整する。このpHは、2.5未満ではコラーゲンの構造を壊して変性させる傾向があり、また5を超える場合にはアルミニウム塩の沈殿を生じるようになり、浸透し難くなる。このpHは、最初は2.2〜3.5に調整して充分にアルミニウム塩水溶液を再生コラーゲン内に浸透させ、その後に、例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等を添加して3.5〜5に調整して処理を完結させることが好ましいが、塩基性の高いアルミニウム塩を用いる場合には、2.5〜5の最初の pH調整だけでもかまわない。また、このアルミニウム塩水溶液の液温は特に限定されないが、50℃以下が好ましい。この液温が50℃を超える場合には、再生コラーゲンが変性する傾向がある。
【0027】
このアルミニウム塩水溶液に再生コラーゲンを浸漬する時間は、3時間以上、好ましくは6〜25時間とする。この浸漬時間は、3時間未満ではアルミニウム塩の反応が進み難く、再生コラーゲンの耐水性が不充分となる。また、浸漬時間の上限には特に制限はないが、25時間以内でアルミニウム塩の反応は充分に進行し、耐水性も良好となる。なお、アルミニウム塩が再生コラーゲン中に急激に吸収されて濃度むらを生じないようにするため、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩を適宜前記アルミニウム塩の水溶液に添加しても良い。
【0028】
このようにアルミニウム塩で処理された架橋された再生コラーゲンは、次いで水洗、オイリング、乾燥を行う。こうして得られた再生コラーゲン繊維は、従来法のクロム塩で処理されたような着色がほとんどなく、かつ、耐水性に優れているので、本発明の利点が多大であることは明らかである。一般にコラーゲンの変性(ゼラチン化)を防ぐため、加工時の温度履歴には注意が必要である。架橋後においても変性を防ぐためには、製造時、粉末化加工時・製品保管時の水分と温度の管理を再生コラーゲンの変性条件以下に保持することが必須である。大部分がゼラチン化したものは特性が変化しているため、目的であるコラーゲンの特性を発現することは困難である。変性防止の点において前記の再生コラーゲンを使用することは有利である。
【0029】
また、コラーゲン溶液から紡糸する場合には、溶液中又は紡出直前に顔料や染料を混合して着色することも公知の方法により容易である。使用する顔料や染料は用途に応じて、紡糸工程や粉末化工程での溶出分離が無いこと、また使用製品の要求品質に対応して種類や色相を選択することができる。また必要に応じて、充填剤、老化防止剤、難燃剤、酸化防止剤等を添加することもできる。このようなコラーゲン繊維製造工程で、スリットノズルを用いてフィルムを同様の方法で製造して、これを粉末化することもできる。
【0030】
本発明においては、上記の方法により得られた再生コラーゲンを、粉砕することで架橋された再生コラーゲンからなるコラーゲン粉末(再生コラーゲン粉末)とすることができるが、再生コラーゲンが繊維あるいはフィルムの場合には粉砕に適した繊維長もしくはサイズに切断するか、この切断したものをさらに粉砕するか、もしくは、繊維やフィルムを直接粉砕することにより再生コラーゲン粉末とすることができる。本発明において再生コラーゲン粉末の製造に使用できるカッターは特に制限は無いが、繊維のカットに通常使われる、回転刃カッター、ベルトカッター、シャーリングマシン、カッターミル等で0.1mm〜数mm程度に切断する。さらに、このカット綿を、ローラーミル、ロッドミル、ボールミル(乾式、湿式)、ジェットミル、ピンミル、振動ミル、セントリフューガル(CF)ミル、遊星型ボールミル、グラインダーミル等せん断型ミル等の粉砕機を用いて微粉砕、また媒体攪拌型超微粉砕機等を用い超微粉砕する。ジルコニア製ボール等の硬質のボールを使用することで粉末へのボール素材の混入を防ぐ点及び粉砕効率の点から好ましく使用することができるが、アルミナ製ボール等他の素材のボールを用いることもできる。
【0031】
上記粉砕機の種類や粉砕時間によって得られる再生コラーゲン粉末の粒子径を適宜調節することも可能であるが、例えば振動ミルを使用した場合、1時間〜数十時間で、平均粒径として5〜80μm程度のものが得られるが、0.01〜5μmの平均粒径のものを得る場合には破砕した再生コラーゲン粉末を分級することで得られる。
再生コラーゲン粉末の平均粒径は、0.01〜80μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。80μm以上であると、フィルムを形成した後の表面触感がざらついたものとなり、好ましくない。0.01μm以下であると、有機溶剤やポリウレタン塗料への分散性が悪く好ましくない。平均粒径は、例えば、レーザー回折法の1つである、マイクロトラック法により求めることができる。
マトリックス樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、合成ゴムなどを用いることができる。この中で、機械強度や、柔軟性、耐擦傷性等の点で、ポリウレタン系樹脂であることが好ましい。ポリウレタン系樹脂としては、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、シリコーン変性ウレタン樹脂、フッ素変性ウレタン樹脂、ポリアミノ酸系ウレタン樹脂などが挙げられる。この中で、強度と透湿性のバランスから、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂が好ましい。ポリウレタン樹脂としては、市販のポリウレタン塗料を用いることができる。また、熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いることもできる。
【0032】
マトリックス樹脂と再生コラーゲン粉末の組成比は、透湿性と膜強度の観点から、95:5〜30:70(重量比)であることが好ましく、90:10〜50:50(重量比)であることがより好ましい。前記範囲以上に再生コラーゲン粉末を配合すると膜強度が低下して、好ましくない。前記範囲以下に配合すると、十分な透湿性が発現しないため、好ましくない。
【0033】
連通度とは、連通構造の含有量である。本発明の再生コラーゲン粉末は、不定形な粒子形状であるため、マトリックス樹脂に分散させた場合に、粒子同士が容易に接触点を形成するため、連通構造をとり、そのため、透湿性に極めて優れている。特に、CFミルを用いて製造した再生コラーゲン粉末は、針状形状が強く、粒子同士が接触し易く、好ましい。連通構造の概略を図1に示す。
【0034】
連通度は、電子顕微鏡により、測定、算出することができる。フィルムのミクロトーム切断面を走査型電子顕微鏡で観察し、2300倍の倍率画像を無作為に10視野取得する。次に、この画像それぞれについてフィルム上面側(キャスト上面側)の表面部中央100ミクロンの長さにおいて粉末が突出している部分の割合を算出する。この10視野それぞれについて算出した粉末突出部の割合の平均を連通度と定義する。
【0035】
連通度は、1〜95%であることが好ましく、10〜90%であることがより好ましい。連通度が1%未満であると、十分な透湿性が発揮されず、好ましくない。連通度を95%以上とするためには、再生コラーゲンの配合量を多量に配合する必要があり、フィルムの強度が著しく低下し、好ましくない。
本発明の透湿性フィルムは、透湿性と膜強度の観点から、その厚みは通常5〜30μmが好ましく、10〜20μmであることがより好ましい。厚みが30μm以上であると、透湿性が低下して好ましくない。厚みが5μm以下であると、膜強度が低下して好ましくない。
【0036】
透湿性とは、湿気(水蒸気)を通す性質であり、透湿度は、例えば、JIS L 1099−1985 A−1法(塩化カルシウム法)により測定することができる。透湿度は、300g/m/24h以上であることが好ましく、500g/m/24h以上であることが、より好ましい。合成皮革やスポーツ衣料に関して、透湿度が高いと、発汗時にむれを防ぎ、快適性を得ることができる。
【0037】
本発明の透湿性フィルムは、透湿性を損なわない範囲において、強度を付与する目的で、本発明以外のフィルムを積層し、積層フィルムとすることができる。このような積層フィルムは、2層フィルムであってもよく、多層フィルムであってもよい。本発明以外のフィルムとしては、ポリウレタン系樹脂からなるフィルムなどが挙げられ、フィルムは無孔質であってもよく、多孔質であってもよい。また、再生コラーゲン粉末の含有量の異なる本発明の透湿性フィルムを積層することもできる。
【0038】
本発明の透湿性フィルムは、乾式製膜、湿式製膜、押出成形など、公知の方法を用いて製造することができる。この中で、乾式製膜法により作製することが好ましい。乾式製膜は、樹脂溶液をキャストして溶媒を蒸発させることにより製膜されるが、好ましくは離型紙上に樹脂溶液をコンマコーター、ナイフコーター、リバースコーターなどにより均一厚みに塗布した後、乾燥させ離型紙を剥離することにより製膜される。なお樹脂膜中に、着色剤(顔料)、安定剤、充填剤、その他の添加剤を添加してもよい。また、有機溶媒で希釈し、溶液粘度を調整しても良い。有機溶剤としては、N,N−ジメチルホルムアミド、2−ブタノン(メチルエチルケトン)、イソプロパノール、トルエンなどの単独またはこれらの混合物を使用することができる。
【0039】
本発明の透湿性フィルムを乾湿製膜により、基布上に形成させ、透湿性防水布とするための方法としては、スプレー塗工、グラビア塗工、ナイフコーティング、ロールコーティング、離型紙を用いたラミネート法などの公知の方法が採用できる。基布としては、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、綿、レーヨンなどの繊維単独またはこれらの混合繊維よりなる織布、編布、不織布などが用いられ、必要により起毛処理を施してもよい。
【0040】
このようにして得られる透湿性防水フィルムは、人が皮膚に接触した場合に違和感の無い表面触感を有し、ベタツキ感が無く、かつ、優れた透湿性を有する。
【0041】
本発明の透湿性フィルムは、透湿性に優れているため、合成皮革、人工皮革、靴、スポーツ衣料、サウナスーツ、ウインドブレーカー、レインコート、防寒服などに好適に用いることができる。
【0042】
本発明の再生コラーゲン粉末は、天然皮革に由来する特徴である吸放湿性、触感、冷涼感と、アルミ架橋に由来する抗菌、抗黴性を有するため、本発明の透湿性フィルムは、これら特徴を発揮するものである。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
(製造例1)再生コラーゲン繊維の製造方法
牛の床皮を原料とし、アルカリで可溶化した皮片1200kg(コラーゲン分180kg)に30重量%に希釈した過酸化水素水溶液30gを投入後、乳酸水溶液で溶解し、pH3.5、固形分7.5重量%に調整した原液を作製した。原液を減圧下で撹拌脱泡機(株式会社ダルトン製、8DMV型)により撹拌脱泡処理し、ピストン式紡糸原液タンクに移送し、さらに減圧下で静置し、脱泡を行った。かかる原液をピストンで押し出した後、ギアポンプ定量送液し、孔径10μmの焼結フィルターで濾過後、孔径0.275mm、孔長0.5mm、孔数300の紡糸ノズルを通し、硫酸ナトリウム20重量%を含有してなる25℃の凝固浴(ホウ酸及び水酸化ナトリウムでpH11に調整)へ紡出速度5m/分で吐出した。
【0044】
次に、得られた再生コラーゲン繊維(300本、20m)を、エピクロロヒドリン1.7重量%、水酸化ナトリウム0.0246重量%、及び硫酸ナトリウム17重量%を含有した水溶液1.32kgに25℃で4時間浸漬した後、さらに反応液温度を43℃に昇温して2時間含浸した。
【0045】
反応終了後に反応液を除去後、流動型装置にて1.32kgの25℃の水を用いて3回バッチ水洗を行った。この後、硫酸アルミニウム5重量%、クエン酸三ナトリウム塩0.9重量%、水酸化ナトリウム1.2重量%を含有した水溶液1.32kgに30℃で含浸し、反応開始から2時間後、3時間後及び4時間にそれぞれ5重量%水酸化ナトリウム水溶液13.2gを反応液に添加し、合計6時間反応させた。反応終了後に反応液を除去後、流動型装置にて1.32kgの25℃の水を用いて3回バッチ水洗を行った。
【0046】
ついで、作製した繊維の一部をアミノ変性シリコーンのエマルジョン及びプルロニック型ポリエーテル系静電防止剤からなる油剤を満たした浴槽に浸漬して油剤を付着させた。50℃に設定した熱風対流式乾燥機内部で繊維束の一方の端を固定し、他方の端に繊維1本に対して2.8gの重りを吊り下げ2時間緊張下で乾燥させ、60dtexの再生コラーゲン繊維を得た。
(製造例2)再生コラーゲン粉末−Aの製造方法
再生コラーゲン粉末−Aは製造例1に示した再生コラーゲン繊維を物理的に粉砕することにより調製した。すなわち、まず再生コラーゲン繊維30kgをカッターミルSF−8(株式会社力製作所製)にて1mm前後の長さに細断し、同社製サイクロンCYC−600型にて回収した。次に、振動ミルFV−100(中央化工機株式会社製)を用い粉砕を行った。粉砕条件としては、容量283Lのアルミナ製容器に同じアルミナ製のボール(径20mm)を充填容量80%、細断したコラーゲン繊維を充填容量として50kgで入れ、24時間粉砕処理を実施した。その結果、24時間の粉砕により平均粒径11.0μmの粉末を得ることができた。この平均粒径11.0μmの粉末を乾式分級した。乾式分級機ミクロンセパレータMS−1H(ホソカワミクロン株式会社製)とパルスジェット式集塵機CP−16−6(ホソカワミクロン株式会社製)を用い、風量12m/min(2次風量3m/min)、回転数5000rpmとした。その結果、平均粒径5.0μmの粉末(以下、再生コラーゲン粉末−Aとする。)を得た。粉末の粒径は、湿式レーザー回折・散乱法により測定した。マイクロトラックMT3300(日機装株式会社製)を用い、分散媒としてメタノールを用いた。
(製造例3)再生コラーゲン粉末−Bの製造方法
再生コラーゲン粉末−Bは製造例1に示した再生コラーゲン繊維を物理的に粉砕することにより調製した。すなわち、まず再生コラーゲン繊維2kgをカッターミルSF−8(株式会社三力製作所製)にて1mm前後の長さに細断し、同社製サイクロンCYC−600型にて回収した。次に、CFミルCF−630(宇部興産株式会社製)を用い粉砕を行った。粉砕条件としては、ジルコニア製容器に同じジルコニア製ボール(径6mm)を40kg、セパレータ回転数1400rpm、ミル回転数1000rpm、供給量1.8kg/hとした。その結果、平均粒径13μmの粉末(以下、再生コラーゲン粉末−Bとする。)を得た。再生コラーゲン粉末−Bは、再生コラーゲン粉末−Aよりも、平均粒径が大きく、電子顕微鏡による観察の結果、針状形状の強い粒子形状の粉末であった。
【0047】
(実施例1)
下記処方の塗料組成物をフィルムアプリケータ(クリアランス200μm)を用いて離型紙上に均一厚みに塗布した。室温で30分間乾燥し、さらに100℃で10分間乾燥させ、離型紙を剥離して厚み29μmの透湿性フィルムを得た。
ニッポラン5199(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分30wt%)100重量部
(日本ポリウレタン工業株式会社製)
再生コラーゲン粉末−A 5重量部
2−ブタノン(メチルエチルケトン)25重量部
(実施例2)
下記の塗料組成物を実施例1と同じ操作を行い、厚み30μmの透湿性フィルムを得た。
ニッポラン5199(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分30wt%)100重量部
(日本ポリウレタン工業株式会社製)
再生コラーゲン粉末−A 30重量部
2−ブタノン(メチルエチルケトン)80重量部
(実施例3)
下記の塗料組成物を実施例1と同じ操作を行い、厚み32μmの透湿性フィルムを得た。
ニッポラン5199(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分30wt%)100重量部
(日本ポリウレタン工業株式会社製)
再生コラーゲン粉末−A 60重量部
2−ブタノン(メチルエチルケトン)150重量部
(実施例4)
下記の塗料組成物を実施例1と同じ操作を行い、厚み32μmの透湿性フィルムを得た。
ニッポラン5199(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分30wt%)100重量部
(日本ポリウレタン工業株式会社製)
再生コラーゲン粉末−B 5重量部
2−ブタノン(メチルエチルケトン)25重量部
(比較例1)
再生コラーゲン粉末を含まない下記の塗料組成物を実施例1と同じ操作を行い、厚み32μmの透湿性フィルムを得た。
ニッポラン5199(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分30wt%)100重量部
(日本ポリウレタン工業株式会社製)
2−ブタノン(メチルエチルケトン)15重量部
(1)透湿度
透湿度は、JIS L 1099−1985 A−1法(塩化カルシウム法)により測定した。
(2)連通構造
フィルムの連通度は以下の方法で測定、算出した。すなわち、まず実施例1〜4および比較例1で作製したフィルムのミクロトーム切断面を走査型電子顕微鏡JSM−6060LA(日本電子株式会社製)で観察し、2300倍の倍率画像を無作為に10視野取得した。この画像それぞれについてフィルム上面側(キャスト上面側)の表面部中央100ミクロンの長さにおいて粉末が突出している部分の割合を算出した。この10視野それぞれについて算出した粉末突出部の割合の平均を表1に記載した連通度とした。
【0048】
【表1】

実施例1〜4では、再生コラーゲン粉末を含有し、マトリックス樹脂であるポリウレタン樹脂中で、粉末の粒子同士が連通構造をとることに起因して、極めて良好な透湿性を示した。また、実施例4では、針状形状の強い粒子形状で、平均粒径の大きな再生コラーゲン粉末−Bを使用しているため、再生コラーゲン粉末−Aを使用している実施例1よりも、高い透湿度を示した。比較例1は、再生コラーゲン粉末を含有しないポリウレタン樹脂のみのフィルムであるため、透湿性が不十分であった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の透湿性フィルムの概念図
【符号の説明】
【0050】
1 再生コラーゲン粉末
2 マトリックス樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂と、架橋された再生コラーゲンからなるコラーゲン粉末を含有する透湿性フィルムであって、連通度が1〜95%であることを特徴とする透湿性フィルム。
【請求項2】
架橋された再生コラーゲンが、有機化合物および/または金属塩を含有する処理液で架橋処理されたことを特徴とする請求項1に記載の透湿性フィルム。
【請求項3】
有機化合物が単官能エポキシ化合物であり下記一般式(1):
【化1】

(式中、Rは、R−、R2−O−CH2−またはR2−COO−CH2−で表される置換基を示し、Rは炭素数2以上の炭化水素基またはCHClであり、Rは炭素数4以上の炭化水素基を示す。)で表される化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の透湿性フィルム。
【請求項4】
金属塩が次の式で表される塩基性塩化アルミニウム又は塩基性硫酸アルミニウムである請求項1〜3のいずれかに記載の透湿性フィルム。
Al(OH)nCl3-n、又はAl2(OH)2n(SO43-n
(式中、nは0.5〜2.5である)
【請求項5】
マトリックス樹脂が、ポリウレタン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜4に記載の透湿性フィルム。

【図1】
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