説明

透視・盗撮防止セルロース系繊維構造物およびその加工方法

【課題】 セルロース系繊維構造物の風合いや染色性能(例えば、染色できる色)条件を損わずに、赤外線を用いたカメラによる透視・盗撮を防止できるセルロース系繊維を用いた繊維製品を提供する。
【解決手段】 本発明は、赤外線の吸収特性を持つ染料により染色したセルロース系繊維構造物であって、赤外線の吸収または反射特性を有する染料にて連続染色し、連続染色した前記繊維構造物の片面をエメリーまたはブラシ起毛加工し、エメリーまたはブラシ起毛加工後、直接染料、反応染料、ナフトール染料、バット染料から選ばれる少なくとも1種の染料を用いて染色することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外線領域の吸収または反射が大きい染料を用いて、セルロース系繊維を染色することにより、赤外線によるカメラなどを用いた透視・盗撮を防止できるセルロース系繊維構造物およびその加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外光線を光源としてCCDカメラなどにて撮影すると、生地を透視した状態で人体が撮影されるという現象を利用し盗撮などが行われた。
このような赤外線を用いたカメラによる透視・盗撮を防止するためは、赤外線を反射するまたは吸収することが考えられる。赤外線を反射する方法として、例えば、軍隊の迷彩服に、赤外線を反射する染料を利用することが提案されている(特許文献1)。また、赤外線を吸収する方法としては、例えば、カーボンを含有した染料で染色すれば、赤外線を吸収するために透視できない。また、特許文献2(特開2000−328441号公開公報)では、透視を防止するために赤外線吸収または赤外線反射能を有する肌面当接用繊維材料が提案されている。
【0003】
従来の方法で、(1)赤外線を吸収するカーボンを含有する染料で染色する場合、カーボンの色が基本となるため、黒い色しか染色できない。(2)特許文献1は、赤外線遮断剤を生地に固着させているために、生地の風合いや性能を損なわないようにするために、点や線、格子などとしている。また、固着方法は従来の捺染(プリント)法などが用いられている。(3)また、特許文献3(特開平9−291463号公開公報)では、赤外線を吸収し保温効果が得られる衣料が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−222682号公開公報
【特許文献2】特開2000−328441号公開公報
【特許文献3】特開平9−291463号公開公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、セルロース系繊維構造物の風合いや染色性能(例えば、染色できる色)条件を損わずに、赤外線を利用したカメラによる透視・盗撮を防止できる繊維製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
<1>赤外線の吸収または反射特性を持つ染料により染色したセルロース系繊維構造物であって、前記染料にて染色し、染色した前記繊維構造物の片面をエメリー起毛加工またはブラシ起毛加工したことを特徴とする透視・盗撮防止セルロース系繊維構造物、
<2><1>記載のセルロース系繊維構造物であって、前記エメリー起毛加工またはブラシ起毛加工後、直接染料、反応染料、ナフトール染料、バット染料から選ばれる少なくとも1種の染料を用いて染色することを特徴とする透視・盗撮防止セルロース系繊維構造物、
<3><1>乃至<2>記載のセルロース系繊維構造物であって、前記セルロース系繊維が木綿、麻等の天然セルロース繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン(キュプラ)、テンセル(精製セルロース)、ポリノジック等の再生セルロース繊維、アセテート等の半再生セルロース繊維、または、動物繊維、ナイロンやポリエステルの合成繊維をセルロース系繊維と混合したことを特徴とする透視・盗撮防止セルロース系繊維構造物、
<4>赤外線の吸収または反射特性を持つ染料により染色したセルロース系繊維構造物であって、前記染料にて染色する工程と、染色した前記繊維構造物の片面をエメリー起毛加工またはブラシ起毛加工する工程からなることを特徴とする透視・盗撮防止セルロース系繊維構造物の加工方法、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセルロース系繊維構造物は、赤外線を吸収または反射する染料により染色され、かつ、エメリー起毛加工またはブラシ起毛加工されているので、
<1>赤外線を用いたカメラによる暗視または透視を防止できるとともに、
<2>エメリー起毛またはブラシ起毛加工しており、且つバインダーを用いていないので生地の風合いが柔らかい、
<3>エメリー起毛またはブラシ起毛加工側の染料は削除されているので、所望の染色が可能になる、
<4>捺染(プリント)による染色方法よりも生産効率が良くコストを抑えられる、
などの効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のセルロース系繊維構造物としては、織物、編物、不織布等が挙げられる。これらの繊維構造物を構成するセルロース系繊維としては、木綿、麻等の天然セルロース繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン(キュプラ)、テンセル(精製セルロース)、ポリノジック等の再生セルロース繊維、アセテート等の半再生セルロース繊維が挙げられる。本発明の目的をそこなわない範囲で、羊毛等の動物繊維、ナイロンやポリエステル等の合成繊維や他のセルロース系以外の繊維を混合してもよい。これらのなかでも特に、吸水性、吸湿性、風合い等の点から綿繊維を30質量%以上、特に50質量%以上含有することが好ましく、とりわけ綿繊維が100質量%の繊維構造物を好適に使用することができる。
【0009】
本発明は、セルロース用に上市されている染料の中から、赤外線領域の吸収がより大きい染料で染色する。
赤外線領域の吸収がより大きい染料としては、直接染料、反応染料、ナフトール染料、バット染料の中から選定できるが、特に、バット染料の一部のものが効果的であり、インダンスレン グレーNC(Vat Black 19)(ダイスター社製)、インダンスレン ブラウン LBG(VatBrown 84)(ダイスター社製)、ミケスレン オリーブ T(Vat Black 25)(ダイスター社製)、ニホンスレン グレーM(Vat Black 8)(住友化学製)、ミケスレン グレーCL(Vat Black 31)(ダイスター社製)、ミケスレン ダイレクトブラック RB(ダイスター社製)等が例示できる。
以下、赤外線の吸収特性を有する染料で説明するが、赤外線の反射特性を有する染料を用いても同様の効果が得られる。
【0010】
本発明の加工方法は、セルロース系繊維構造物、たとえば織編物の糸または生地の内部まで染色されない範囲で、連続で染色し、これらの内部に染料が染み込まない程度に加工する。本発明の染色は、パディング法やスプレー法などにより、染料の付与、乾燥を短時間に連続的に行い、染料が表面部に存在する間に乾燥させる。または、乾燥に伴なう染料の移行(マイグレーション)によって表面部に染料が移動するように加工する。液流染色法などによるバッチ染色は、染料と生地との接触時間の管理が困難であり、糸の内部まで染料が染み込むことが多く、好ましくない。
【0011】
次に、染色後の織編物の片側を、エメリー起毛加工またはブラシ起毛加工により、前述の染料を剥ぎ取る。エメリー起毛加工は、エメリー・ペーパー(サンド・ペーパー、工業用ダイヤモンドを使ったもの等)を表面に貼り付けたローラーで、織編物の表面を擦って、軽く起毛するものである。また、ブラシ起毛はこれら研磨物をブラシの毛の表面に配置したものである。これらの起毛加工により織編物の起毛加工面は、表面のセルロースが削られ染料が擦り取られるとともにフィブリル化するために独特のソフトな風合いとなり、染色されていない糸の色が表面に現れる。この染色されていない糸に、所望の染色を施すことができる。
【0012】
また、これらの染料で染色の色は、黒っぽい色または濃色に染色した場合、エメリー起毛で表面を剥ぎ取ったとしても、染料を残した側の色が透けて見えるために、剥ぎ取った面に淡色系の染色をしても所望の色がでない。ゆえに、染料を剥ぎ取った側に所望の色を出すためには、赤外線領域を吸収する無彩色、例えば薄い灰色などで染色することが好ましい。
【0013】
エメリー起毛加工により赤外線吸収染料を剥ぎ取った面への染色は、所望とする色相に応じて、直接染料、反応染料、ナフトール染料、バット染料等の中から適宜選定できる。染色方法は、連続染色、捺染(プリント)、浸染染色など、適宜求められる染色手法によって決定すればよい。
【0014】
本発明の赤外線領域の吸収がより大きい染料を用いた染色を説明する。
これらの染料は、例えば漂白綿100%(シルケット加工無し)の生地に0.75owf%で染色した場合、分光反射率が、400から700nmの範囲で15〜25%、および800から1,200nmの範囲で60%以下であるものが好ましい。
また、赤外線領域の吸収が大きいバット染料を用いた場合、繊維構造物への染料濃度owf%(対生地重量%)の濃度範囲については、目的の色相および素材繊維によって変わる。前述のバット染料の場合、例えば漂白綿100%(シルケット加工無し)の生地のとき、少なくとも、0.5owf%とするが、淡色であるためには、1.0owf%以下、好ましくは、0.8owf%以下とすることが望ましい。尚、ここで淡色とは、JIS L 0808標準染色濃度の3号(1/6濃度)の色相と同等もしくはそれよりも淡い色をいう。
【0015】
本発明の染色後のセルロース系繊維構造物の赤外線吸収程度としては、750から1500nmの範囲内で生地の分光反射率が、65%以下とするが、太陽光による放射照度が高い750から900nmでの分光反射率が50%以下、および900nmを超え1500nmの範囲で65%以下であることが好ましく、750から900nmでの分光反射率が40%以下、900nmを超え1200nmの範囲で55%以下、および1200nmを超え1500nmの範囲で65%以下であることがさらに好ましい。
【0016】
なお、本発明では、分光反射率の測定方法は、JIS Z 8722の条件d)で行なった。
【0017】
本発明のセルロース系繊維構造物は、エメリー起毛加工後に加工面側に所望の染色が可能であることから一般的な衣料に用いられ、肌着はもちろんシャツ、例えばスクールシャツ等が好適である。
【実施例】
【0018】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0019】
表1に記載の木綿100%かつ英式番手60番手の糸を丸編み機にて作製したスムス編みの生地と、木綿100%かつ英式番手30番手のS撚りとZ撚りの糸を1:1交編で丸編み機にて作製した天竺編みの生地を用意した。
[表1]

【0020】
[実施例1、2]
前記2種類の生地を、プリマゾール AMK(BASF社製)とVat Black 19(ダイスター社製)を表2に示す分量で混合した染色液(水溶液)に、パディングし、マングルで絞り、乾燥する。次に苛性ソーダ、無水ボウ硝、ハイドロサルファイトを表2に記載した分量の水溶液をパッドして、その後、105℃で45秒間還元スチーム処理する。引き続いて、定法に従い、35%過酸化水素の水溶液で酸化した後、ソーピングを行う。
次に、240番エメリー・ペーパーを用いてエメリー起毛加工を、6回通す。
起毛加工後、Reactive Blue 52(ハンツマン社製)、Reactive Red 56(クラリアント社製)、並びに、Reactive Black 5(ダイスター社製)を用いて定法に従い浸染法により表3に示す分量、温度、時間で反応染料染色をおこなった。
【0021】
[表2]染色パッド液処方・還元スチーム処方

[表3] 浸染法反応染料染色

*owf%とは、繊維生地質量に対する質量%です。バッチ加工での使用する単位である。例えば3.0 owf%とは、繊維生地重量が100gの時にこの薬品を3g使用する。
【0022】
[比較例1、2]
比較例1,2は、生地及び加工方法は同一であるが、処理液と表2及び表3に記載した分量及び染色処理温度とその時間以外は、実施例と同一である。
【0023】
評価方法は、日本紡績検査協会のボーケン REPORT No.89(2007)に記載されている方法に準じて行った。
日本紡績検査協会の試験方法
(1)試験(生地)を透過判定板(視力検査表)に被せ、試験台に設置する。
(2)赤外線投光機を用いて、試験表面に約7mW/cm2の強度で投光する。
(3)試料をデジタルカメラで通常撮影する。
(4)試料を赤外線カメラで透過撮影する。
(5)透過撮影した画像を確認し、透過の有無を判定する。
【0024】
図1は、スムス編みの染色加工生地を反射板の上に被せ、赤外線カメラで撮影したものである。(a)実施例1の生地は透過しないが、(b)比較例1は透過し、反射板の記号がはっきり写っている。
図2は、天竺編みの染色加工生地を反射板の上に被せ、赤外線カメラで撮影したものである。(a)実施例2の生地は若干透過するが、(b)比較例2は透過し、反射板の記号がはっきり写っている。
[表4]

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】スムス編みの染色加工生地を反射板の上に被せ、赤外線カメラで撮影したもの。(a)実施例1の生地を撮影したもの、(b)比較例1の生地を撮影したもの。
【図2】天竺編みの染色加工生地を反射板の上に被せ、赤外線カメラで撮影したもの。(a)実施例2の生地を撮影したもの、(b)比較例2の生地を撮影したもの。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線の吸収または反射特性を持つ染料により染色したセルロース系繊維構造物であって、前記染料にて染色し、染色した前記繊維構造物の片面をエメリー起毛またはブラシ起毛加工したことを特徴とする透視・盗撮防止セルロース系繊維構造物。
【請求項2】
請求項1記載のセルロース系繊維構造物であって、前記エメリーまたはブラシ起毛加工後、直接染料、反応染料、ナフトール染料、バット染料から選ばれる少なくとも1種の染料を用いて染色することを特徴とする透視・盗撮防止セルロース系繊維構造物。
【請求項3】
請求項1乃至2記載のセルロース系繊維構造物であって、前記セルロース系繊維が木綿、麻等の天然セルロース繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン(キュプラ)、テンセル(精製セルロース)、ポリノジック等の再生セルロース繊維、アセテート等の半再生セルロース繊維、または、動物繊維、ナイロンやポリエステルの合成繊維をセルロース系繊維と混合したことを特徴とする透視・盗撮防止セルロース系繊維構造物。
【請求項4】
赤外線の吸収または反射特性を持つ染料により染色したセルロース系繊維構造物であって、
前記染料にて染色する工程と、染色した前記繊維構造物の片面をエメリー起毛加工またはブラシ起毛加工する工程からなることを特徴とする透視・盗撮防止セルロース系繊維構造物の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−127146(P2009−127146A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302323(P2007−302323)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】