説明

透視可能な衛生マスク

【課題】着用者の顔部分が透視可能な透明性を有すると共に、花粉など空中に浮遊する異物の吸入を防止したり、鼻や口などの呼吸器からの発生する飛沫を充分に遮断したりすることのできる衛生マスクを提案する。
【解決手段】本発明の衛生マスク1は、着用者6の鼻や口など呼吸器を覆うためのマスク本体が、合成繊維フィラメントから構成され、撥水処理加工が施されている透明織布11からなっている。そして、合成繊維フィラメントの繊度は1〜10デニールであり、透明織布11の目付け量は3〜50g/m2であることが好ましく、さらにこの撥水処理加工がフッ素樹脂系撥水剤により加工されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生マスクに関し、特に顔面に着用しても、着用部分が透視可能であり、マスク着用者の表情や人相が確認できる衛生マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
衛生マスクは、花粉など空中に浮遊する異物の吸入を防止するために着用されるほか、食品の製造や販売、理美容室、病院などにおいて、鼻や口などの呼吸器からの発生する飛沫を遮断するために、従業員、医師、看護師などに着用され、衛生用に用いられている。しかしながら、通常の衛生マスクは本体がガーゼや不織布で構成され、鼻や口に密着して覆うため、着用者にとっては呼吸や会話の邪魔になり、不便を感ずるものであった。さらには、着用者の顔が隠され、表情が確認できなかったり、風邪などの病人をイメージされたりして、相手に不快感を与えることもあった。
【0003】
そのため、マスクを着用しても顔面が隠されることなく、着用部分が透視可能なマスクや、着用者の肌が透けて見え、着用が目立たなくなるマスクがこれまでに提案さている。特許文献1には、マスク本体として、着用者の顔部分が透視可能な透明性を有すると共に通気性を有する布状物からなるマスクが提案され、布状物として透明なフィラメントを編んだり織ったりした編織物が用いられている。そして、特許文献2には、マスク本体として、不透明度が低く透明性のある通気性素材、例えば織布や不織布などの繊維集合体からなるマスクが、着用が目立たないマスクとして提案されている。
【0004】
しかしながら、これらのマスクにおいては、表情を確認できる透明性を維持するために、マスク本体を構成する布状物や繊維集合体の厚さを薄くしたり、目付け量を減少させたりしているが、このようなマスク本体ではマスクの機能である飛沫の遮断が不十分となり、透明性の維持と飛沫の遮断とは必ずしも両立してはいなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−146396号公報
【特許文献2】特開2007−21026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、着用者の顔部分が透視可能な透明性を有すると共に、花粉など空中に浮遊する異物の吸入を防止したり、鼻や口などの呼吸器からの発生する飛沫を充分に遮断したりすることのできる衛生マスクを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の衛生マスクは、鼻や口などの呼吸器を覆うためのマスク本体が、合成繊維フィラメントから構成され、撥水処理加工が施されている透明織布からなっている。そして、合成繊維フィラメントの繊度は1〜10デニールであり、透明織布の目付け量は3〜50g/m2であることが好ましく、さらにこの撥水処理加工がフッ素樹脂系撥水剤により加工されていることが好ましい。
【0008】
また、衛生マスクとしては、1枚もしくは重ね合わせられた2枚以上の透明織布が、マスク全体形状に切り取られ、切り取られた透明織布の周辺端部が熱融着されている衛生マスクや、ナス形またはU字形に湾曲成型された横長の形状復元力を有する樹脂シートのマスク本体相当部分が切り抜かれ、この切り抜き部に透明織布が貼着され、樹脂シートの両端内側が頬への密着装着部となっている衛生マスクが好ましい。その他、前記の透明織布からなっているマスク本体の周辺端部および耳掛け部を、軟質合成樹脂やゴム材料などの柔軟性材料で構成して衛生マスクとすることもできる。
【0009】
また、複数枚の透明織布をマスク本体とする場合には、本体部分を格子状に熱融着し、透明性を損なうことなく、複数の透明織布を一体化することも有効である。そして、上記樹脂シートに透明織布を貼着した衛生マスクでは、樹脂シートの両端に、内側方向に切り曲げられた舌状部を設けて、この舌状部を頬への密着装着部とすることも好ましい。
【0010】
上記の透明織布とは、1枚もしくは重ね合わせられた2枚以上の織布をとおして、着用者の口許が、他者から充分に認識、確認できる透視可能な織布をいう。したがって、複数枚の織布を用いる場合には、複数枚重ねた状態で透視可能であることが必要である。
【0011】
また、上記の形状復元力を有するとは、樹脂シートを屈曲させても、折り曲げるなど極端な変形をさせない限り、元の形状に戻りうる弾性力を有することであり、この樹脂シートを用いた上記衛生マスクは、湾曲成型された樹脂シートの両端を押し広げても、力を緩めれば元の湾曲した形状に戻ることができる。そのため、樹脂シートの両端を押し広げて、両端内側で両頬を挟むことで、樹脂シートの弾性力により装着でき、上記衛生マスクを着用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の衛生マスクは、マスク本体となる透明織布が着用者の表情を確認できる透明性を有しているのにもかかわらず、撥水処理加工が施されているために、呼吸器からの飛沫を充分に遮断できる。そのため、この衛生マスクを装着しても、装着が目立たず相手に良好なイメージを与えることができ、スーパー、デパートなどの食品売り場、菓子店、食料品店、理美容室、エステ、病院、食品工場などで好ましく使用することができる。
【0013】
また、湾曲成型された樹脂シートに透明織布が貼着された形態の衛生マスクでは、樹脂シートの両端を押し広げ頬を挟みこむだけで簡単に着用できる。脱着も両端を広げるだけで簡単にできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】透明織布をマスク全体形状に切り取り、周辺端部を熱融着した衛生マスクの正面説明図である。
【図2】図1に示した衛生マスクの着用説明図である。
【図3】透明織布のマスク本体部分を格子状に融着した衛生マスクの正面説明図である。
【図4】図3に示した衛生マスクの中央部の断面説明図である。
【図5】樹脂シートに透明織布を貼着した衛生マスクの斜視説明図である。
【図6】図5に示した衛生マスクの中央部の断面説明図である。
【図7】図5に示した衛生マスクの上面説明図である。
【図8】図5に示した衛生マスクの着用説明図である。
【図9】樹脂シートの両端に舌状部を設けた衛生マスクの斜視説明図である。
【図10】図9に示した衛生マスクの着用説明図である。
【図11】マスク本体の周辺端部および耳掛け部を、柔軟性材料で構成した衛生マスクの正面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の衛生マスクを図に基づき詳細に説明する。
【0016】
図1は、合成繊維フィラメントから構成され、撥水処理加工が施されている透明織布11を、横長のマスク全体形状に切り取り、切り取った透明織布11の周辺端部12を熱融着した衛生マスク1の正面説明図である。この透明織布11は1枚もしくは2枚以上の織布を重ねて用いている。周辺端部12を熱融着することで、織布の周辺部のほつれの防止と、2枚以上の織布を用いた場合には、これらの織布の接合とを行っている。横方向の両端部には耳掛け部13を切り抜き、この切り抜き部分の周辺端部14も熱融着し、同様にほつれの防止と接合とを行っている。
【0017】
また、平織りの透明織布11を図に示すように布目をバイヤスに取ることにより、横方向に張力を加えると図1の鎖線で示すように引き伸ばすことができ、マスクの着用が楽になる。図2は着用者6が、このマスクを着用している状態を示す説明図である。
【0018】
図3に示す衛生マスク2では、2枚以上の織布の接合を強化するために、透明織布21の周辺端部22を熱融着すると共に、マスク本体部分にも格子状の融着部25を設けたものである。融着部25は格子状に融着されているために、透明織布21の透視性を損なうことなく、複数枚の織布の接合を強化することができる。図4は透明マスク2の中央部の断面説明図であり、複数枚からなる透明織布21が融着部25により接合されている状態を示している。
【0019】
上記の熱融着に替えて、接着剤を用いて周辺端部等を接着し、接合することもできるが、本発明の衛生マスクにおいては合成繊維フィラメントから構成されている透明織布を用いているので、熱溶融による方法によれば、織布の切り取りと溶融接合を同時に行なうことができるので好ましい方法である。
【0020】
図5に示す衛生マスク3は、ナス形またはU字形に湾曲成型された樹脂シート32のマスク本体相当部分が切り抜かれ、この切り抜き部に透明織布31が貼着され、樹脂シートの両端内側33が頬への密着装着部となっている。図6は衛生マスク3の中央部の断面説明図であり、透明織布31が樹脂シート32に貼着されている状態を示している。ここで、樹脂シート32は形状復元力を有しており、図7に示すように、樹脂シート32の両端を、矢印の方向に鎖線で示すように押し広げ、図8に示すように、着用者6の頬を両端内側33で挟みことで、着用することができる。
【0021】
図9には、樹脂シートの両端に内側方向に切り曲げられた舌状部43が設けられた樹脂シート42に、透明織布41を貼着した衛生マスク4を示し、舌状部43が頬への密着装着部となっている。図10に、着用者6の頬を舌状部43で挟みこんでいる状態を示す。この衛生マスク4では、舌状部43が設けられていることで、安定して着用することができる。また、衛生マスク3や4では、さらに、頬への密着装着性を向上させるために、滑り止め加工を施すこともできる。
【0022】
上記の衛生マスクに用いられる樹脂シートとしては、各種の合成樹脂を使用することができる。例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、酢酸セルロース、セルロイドなどの熱可塑性合成樹脂を用いることにより、好ましい形状復元力のある樹脂シートとなる。シートの好ましい厚さは使用する合成樹脂の種類により、好ましい範囲は多少異なるが、0.2〜1.0mm、より好ましくは0.3〜0.8mmの範囲のシートが好ましく用いられる。このような熱可塑性合成樹脂を押出成型などにより成型し、図で示したような横長の長楕円ないしは角を丸めた菱形に近い面形状の横長シートに断裁し、熱を加えながら、ナス形ないしはU字形に湾曲成型して、使用することができる。
【0023】
また、使用する樹脂シートは着色してもよいが、マスク本体を透明織布としているため透明としておくことが好ましい。そして、透明織布を樹脂シートに貼着するには、公知の各種の接着剤を用いることができるし、衛生マスク1や2と同様に、熱融着によって接合することも可能である。
【0024】
図11には、透明織布51により構成されるマスク本体周辺端部52に柔軟性材料を配し、耳掛け部53は、同様の柔軟性材料を耳掛け紐54としている衛生マスク5を示す。ここでは、マスク本体周辺部52には、鼻密着部55および顎当て部56が設けられ、着用がし易いようになっている。柔軟性材料としては、柔軟性合成樹脂、例えば軟質ポリ塩化ビニルやポリウレタン樹脂などや、ゴム材料、例えば天然ゴム、各種の合成ゴムなどを用いることができる。透明織布と柔軟性材料との接合は、接着剤を用いて貼着したり、熱融着により接合したりして行なうことができる。
【0025】
以上、本発明のマスクの種々の形態を示したが、いずれの形態のマスクも本体部分は撥水処理が施された透明織布で構成され、着用者の表情を確認できる透明性を有しているのにもかかわらず、撥水処理加工が施されているために、呼吸器からの飛沫を充分に遮断できるものである。
【0026】
本発明の透明織布を構成する、合成繊維フィラメントはモノフィラメントでもマルチフィラメントでもよく、マルチフィラメントの場合は総繊度が1〜10デニールの範囲で用いられる。透明性を維持するためには平織物が好ましく、ウォータージェットルームやエアージェットルームなどの織機を用いて製織される。透明織布の目付け量は、3〜50g/m2であることが、透明性の観点から好ましい。合成繊維としては、各種の合成繊維が使用しうるが、ポリエステル繊維が透明性や疎水性の面から好ましい。
【0027】
透明織布は透明性を維持するために、極薄手の織布であり、衛生マスク本体として使用した場合には、そのままでは、着用しても呼吸器からの飛沫の遮断が不十分となる。そのため、本発明においては、透明織布に撥水加工を施すことにより、極薄手の織布であるにもかかわらず、呼吸器からの飛沫の遮断を実現している。織布の撥水加工には種々の公知の撥水加工剤を用いることができるが、フッ素樹脂系撥水剤が好ましく、シリコーン樹脂系を用いる場合でもフッ素樹脂を併用している撥水剤が好ましい。撥水加工は公知の撥水加工方法を用いることができ、透明織布に撥水処理剤を塗布または含浸し、乾燥、熱処理を行なうことで加工できる。さらには、予め撥水加工を施したフィラメントを用いて製織してもよい。
【0028】
そして、透明織布は、極薄手の織布を複数枚重ねて構成した場合には、飛沫の遮断効果はより大きくなる。
【0029】
飛沫防止に関して、透明織布の撥水加工の効果を確認するために、撥水加工を行った透明織布と撥水加工を行わない透明織布とに、家庭用の霧吹きスプレーを用いて、水滴を吹きかけて、通過する水滴の量の比較試験を行った。
(試験内容)
試験織布
5デニールのポリエステルフィラメントを目付け量5g/m2にて製織した織布。
撥水加工
フッ素樹脂(フッ素系ウレタン樹脂)含有撥水剤スプレーを用いて、上記の試験織布に
スプレー塗布し、乾燥して試験に供した。
水滴遮断テスト
上記の撥水加工を行った試験織布を2〜3重に重ね合わせたマスク本体サンプルを垂直に吊るし、サンプルの後方10cmの距離に段ボールを垂直に吊るした。この垂直に吊るしたサンプル面の前方20cmの距離より、家庭用霧吹きスプレーにて、霧状の水滴を吹きかけ、サンプルの後方に設置した段ボール面に到達した水滴の量を調べた。
水滴の量は、マスク本体サンプルのない状態で、30cmの距離より、霧状の水滴を拭きかけた時に段ボールに到達した水滴の量を100%とした。
試験結果
段ボールに到着した水滴量
マスク本体サンプル 2重に重ね合わせ 3重に重ね合わせ
撥水処理なし 15% 5%
撥水処理あり 8% 3%
【0030】
上記試験のマスク本体サンプルにおいて、透視性をほとんど損なわない2重に重ね合わせたサンプルでも、撥水加工を行うことで、水性の飛沫を充分に遮断できることが分かった。やや白っぽくなるが十分透視性を維持している3重に重ね合わせたサンプルでは充分な飛沫の遮断効果が確認できた。
【符号の説明】
【0031】
1、2、3、4、5 衛生マスク
6 着用者
11、21 透明織布
12、22 周辺端部
13、23 耳掛け部
14、24 周辺端部(耳掛け部)
25 熱融着部
31 透明織布
32 樹脂シート
33 両端内側
42 樹脂シート
43 舌状部
51 透明織布
52 マスク本体周辺端部
53 耳掛け部
54 耳掛け紐
55 鼻密着部
56 あご当て部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク本体が、合成繊維フィラメントから構成され、撥水処理加工が施されている透明織布からなる衛生マスク。
【請求項2】
合成繊維フィラメントの繊度は1〜10デニールであり、透明織布の目付け量は3〜50g/m2であることを特徴とする請求項1に記載の衛生マスク。
【請求項3】
撥水処理加工がフッ素樹脂系撥水剤により加工されていることを特徴とする請求項1または2に記載の衛生マスク。
【請求項4】
1枚もしくは重ね合わせられた2枚以上の透明織布が、マスク全体形状に切り取られ、切り取られた透明織布の形状周辺端部が熱融着されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の衛生マスク。
【請求項5】
ナス形またはU字形に湾曲成型された横長の形状復元力を有する樹脂シートのマスク本体相当部分が切り抜かれ、この切り抜き部に透明織布が貼着され、樹脂シートの両端内側が頬への密着装着部となっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の衛生マスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−66643(P2013−66643A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208719(P2011−208719)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(504064674)ビオデザイン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】