透過カラー陰影図の作成方法と作成プログラム、及び透過カラー陰影図
【課題】本願発明の課題は、全体の明度が上がるように標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示させ、断層のような方向性に依存する地形を容易に把握しうる透過カラー陰影図の作成方法と作成プログラム、及び透過カラー陰影図を提供することにある。
【解決手段】同一の地形モデルに対して、標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示させる透過カラー陰影図であって、地形モデルが点群データから作成されるDEMであり、標高段彩図が標高値に対応するRGB値を設定したカラーテーブルに基づいて、ピクセルの標高値に応じたRGB値で各ピクセルを彩色表示したものであり、陰影図が標高値に対応するグレースケールを設定したグレースケールテーブルに基づいて、ピクセルの陰影度に応じたグレースケールで各ピクセルを表示するものである透過カラー陰影図を提供する。
【解決手段】同一の地形モデルに対して、標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示させる透過カラー陰影図であって、地形モデルが点群データから作成されるDEMであり、標高段彩図が標高値に対応するRGB値を設定したカラーテーブルに基づいて、ピクセルの標高値に応じたRGB値で各ピクセルを彩色表示したものであり、陰影図が標高値に対応するグレースケールを設定したグレースケールテーブルに基づいて、ピクセルの陰影度に応じたグレースケールで各ピクセルを表示するものである透過カラー陰影図を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、標高段彩図と陰影図を重ねて表示したカラー陰影図に関するものであり、より具体的には、重ねた標高段彩図と陰影図を透過して表示した透過カラー陰影図に関するものでありである。
【背景技術】
【0002】
我が国は地震が頻発する国として知られ、近年でも兵庫県南部地震や、新潟県中越地震など大きな地震が発生し、そのたびに甚大な被害を被っている。地震を引き起こす主な原因は活断層による断層運動と考えられており、1995年の兵庫県南部地震では野島断層、2003年の宮城県北部地震では小平尾断層、2004年の新潟県中越地震では須江断層が、それぞれ原因とされている。
【0003】
我が国の陸域には、およそ2000の活断層が存在するといわれているが、すべての活断層の位置が明確になっているわけではなく、現在も文部科学省をはじめとする各機関で鋭意調査が進められている。活断層の調査手法には、地形観察、実施測量、トレンチ調査、弾性波探査といった物理探査など現地で行う調査と、空中写真判読などの机上調査があるが、一般的には、まず机上調査で活断層の存在を把握し、その後に特定の活断層に対して現地調査を行っている。
【0004】
従来、机上調査として行われてきた空中写真判読は、航空機などで地形を撮影した2枚の空中写真を並べ、人が立体視することによって地形の起伏などを読み取り、活断層の存在を把握するものである。この空中写真判読には熟練を要するため誰でも実施できるものではなく、また立体視した状態の画像を他人に示すことが極めて困難な手法である。
【0005】
一方、航空レーザー計測の出現など地形情報を取得する計測手法は著しく高度化し、また、コンピュータの進化に伴い地形情報を扱う技術も飛躍的に進歩してきた。航空レーザー計測は、図11に示すように、計測したい地形Aの上空を航空機Bで飛行し、飛行中に地形Aに対して照射したレーザーCの反射を受けて計測するものである。この航空レーザー計測によれば、地形をあらわす情報として無数の点群データを密に取得することが可能となり、この点群データをコンピュータで処理すれば計測した地形をモデル化することもできる。このようにコンピュータ上でモデル化された地形モデルは、立体的に表現することも可能で、昨今では空中写真判読に代わる机上調査としてのみならず、地形を再現する手法として広い分野で採用されている。
【0006】
地形を立体的に表現する手法として、例えば出願人が本願に先立って出願した特許文献1では、航空レーザー計測で取得した点群データからDEMを作成し、DEMの各メッシュに傾斜量や標高値などの地形量を付与し、この地形量に基づいてカラー標高図(「標高段彩図」ともいう。)やグレースケール傾斜図を作成し、さらにこのカラー標高図とグレースケール傾斜図を合成したカラー標高傾斜図を作成するシステムを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−48185
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のカラー標高傾斜図は、傾斜を濃淡で表示しているため誰でも地形を立体的に見ることができるうえに、標高を色分け表示しているため地形の高低も容易に把握することができる。また、陰影図などのようにある特定の方向から光を当てて地形に陰を付けるものではないことから、どの地点でも同等に地形を把握することができる。しかしながら、断層のように所定の方向から光を当てて地形に陰を付けることでその微地形が際立って把握しやすい地形(以下、「方向性に依存する地形」という。)が対象となる場合には、前記カラー標高傾斜図が方向性に依存しないことが却って微地形を把握し難くするという課題があった。
【0009】
特許文献1のようにどの地点でも同等に地形を把握することができる図、つまり方向性に依存しない図面が現在では多く利用されているものの、方向性に依存する図面、たとえば標高段彩図と陰影図を合成したカラー陰影図も利用されることはあった。標高段彩図は標高に応じて色分け表示するもので、また、陰影図は特定の方向から光を当てて地形に陰を付けこの陰の具合を濃淡で表示するものである。この陰影図は方向性に依存する図、すなわちある方向に対しては光と陰によって微地形が強調されるが、ある方向に対しては地形が把握し難いといった図であり、当然ながら標高段彩図と陰影図を合成したカラー陰影図も方向依存性がある。
【0010】
カラー陰影図は、所定の方向から光を当てれば、断層のような方向性に依存する地形も明確に把握できるはずであるが、従来のカラー陰影図は全体的に暗くなるためこのような地形の把握が極めて困難であった。特に、他の主題図(例えば地形図)と従来のカラー陰影図を重ねると、断層などの微地形が消されてしまうことさえあった。これは標高段彩図のRGB値と陰影図のRGB値を乗算合成しているためで、次式が示すように乗算合成では一般的に明度が低下してしまい、その結果全体として暗くなっていた。
(標高段彩図のRGB)×(陰影図のRGB)/255
このように従来のカラー陰影図は、方向性に依存する図でありながら断層のような方向性に依存する地形を把握し難いという課題をもっていた。
【0011】
本願発明の課題は、上記の課題を解決し、全体の明度が上がるように標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示させ、断層のような方向性に依存する地形を容易に把握しうる透過カラー陰影図の作成方法と作成プログラム、及び透過カラー陰影図を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明の透過カラー陰影図の作成方法は、同一の地形モデルに対して、標高値に応じた色で彩色する標高段彩図を作成し、所定位置に置いた光源からの光に対して陰影を付けた陰影図を作成する工程と、前記標高段彩図と前記陰影図を重ねて透過表示させる工程と、を備えた方法である。
【0013】
この場合、地形モデルをDEMとし、このDEMのメッシュに基づいてピクセルを作成する工程と、各ピクセルに対してそれぞれ標高値を付与する工程と、前記それぞれのピクセルに、光の入射角に対するピクセルの傾斜に基づいて演算される陰影度を付与する工程と、標高値に対応するRGB値を設定したカラーテーブルを作成する工程と、陰影度に対応するグレースケールを設定したグレースケールテーブルを作成する工程と、前記カラーテーブルに基づいて、ピクセルの標高値に応じたRGB値で各ピクセルを彩色表示して標高段彩図を作成する工程と、前記グレースケールテーブルに基づいて、ピクセルの陰影度に応じたグレースケールで各ピクセルを表示して陰影図を作成する工程と、を備えた方法とすることもできる。また、標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示させる工程を、ピクセルごとに、標高段彩図のRGB値と陰影図のグレースケールを半透明合成して表示させる工程とすることもできる。
【0014】
本願発明の透過カラー陰影図の作成プログラムは、DEMのそれぞれのメッシュに基づいて作成されるピクセルに、標高値を付与する機能と、所定位置に置いた光源からの光の入射角に対する前記ピクセルの傾斜に基づいて陰影度を演算し当該ピクセルに陰影度を付与する機能と、標高値に対応するRGB値を設定したカラーテーブルに基づいて、ピクセルの標高値に応じたRGB値で各ピクセルを彩色表示して標高段彩図を作成する機能と、陰影度に対応するグレースケールを設定したグレースケールテーブルに基づいて、ピクセルの陰影度に応じたグレースケールで各ピクセルを表示して陰影図を作成する機能と、DEMで構成される同一の地形モデルに対して、前記標高段彩図と前記陰影図を重ねて透過表示させる機能と、をコンピュータに対して実行させうるものである。この場合、標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示させる機能を、ピクセルごとに、標高段彩図のRGB値と陰影図のグレースケールを半透明合成して表示させる機能とすることもできる。
【0015】
本願発明の透過カラー陰影図は、同一の地形モデルに対して、標高値に応じた色で彩色する標高段彩図と、所定位置に置いた光源からの光に対して陰影を付けた陰影図と、を重ねて透過表示させる透過カラー陰影図であって、前記地形モデルがDEMであり、このDEMのメッシュに基づいて作成されるピクセルは、標高値と、光の入射角に対する当該ピクセルの傾斜から演算される陰影度と、を備え、前記標高段彩図が、標高値に対応するRGB値を設定したカラーテーブルに基づいて、ピクセルの標高値に応じたRGB値で各ピクセルを彩色表示したものであり、前記陰影図が、陰影度に対応するグレースケールを設定したグレースケールテーブルに基づいて、ピクセルの陰影度に応じたグレースケールで各ピクセルを表示するものである。この場合、ピクセルごとに、標高段彩図のRGB値と陰影図のグレースケールを半透明合成することによって透過表示させたものとすることもできる。また、標高段彩図と、陰影図と、等高線図と、を重ねて透過表示させたものとすることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の透過カラー陰影図の作成方法と作成プログラム、及び透過カラー陰影図には、次のような効果がある。
(1)陰影図を用いていることから方向依存性があり、この結果、断層のような方向性に依存する地形を明確に把握することができる。
(2)標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示しているので、従来のカラー陰影図に比べると、陰となる部分や微細な地形も容易に把握することができる。
(3)図全体の明度が高いため、地形図など他の主題図と重ねても、断層のような方向性に依存する地形を把握することができる。
(4)陰となる部分でも微地形を確認できることから、フィルタリング作業におけるエラー検出(過度のデータ剥ぎ取りや、除去すべきデータの残置)が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本願発明の透過カラー陰影図を説明するための説明図。
【図2】従来のカラー陰影図と対比した本願発明の透過カラー陰影図の作成フロー図。
【図3】色の3属性をモデル化した説明図。
【図4】(a)はランダムに計測されたレーザー計測点の集合を示す説明図、(b)はレーザー計測点が配点された上に正方格子を被せた状態を示す説明図。
【図5】カラーテーブルを作成する場合に標高値のレンジを設定する手法の一例を示す説明図。
【図6】標高段彩図を説明するための説明図。
【図7】陰影図を説明するための説明図。
【図8】(a)は光源からの光が地形モデルのメッシュに陰を付ける概念を示す説明図、(b)は(a)とは異なる位置に置いた光源からの光が地形モデルのメッシュに陰を付ける概念を示す説明図。
【図9】(a)はメッシュが座標形状に傾斜配置される概念を示す説明図、(b)はメッシュの方位角を示す説明図、(c)はメッシュの鉛直角を示す説明図。
【図10】(a)は光源鉛直角が65度、光源方位角が315度となるように光源を配置した場合の透過カラー陰影図、(b)は光源鉛直角が65度、光源方位角が45度となるように光源を配置した場合の透過カラー陰影図。
【図11】航空レーザー計測による点群データの取得状況を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態)
本願発明の透過カラー陰影図の作成方法と作成プログラム、及び透過カラー陰影図の一実施形態を図に基づいて説明する。図1は、標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示した透過カラー陰影図1である。図1からもわかるように、透過カラー陰影図1は全体的に明るく(明度が高く)地形の微特徴も容易に把握し得る図である。
【0019】
(全体概要)
図2は、本願発明の透過カラー陰影図1の作成フローを、従来のカラー陰影図の作成フローと対比して示すフロー図である。図2に示すように本願発明の透過カラー陰影図1、従来のカラー陰影図ともに、航空レーザー計測などによって地表面の平面座標(X、Y)と標高値(Z)を有する点の集合であるいわゆる点群データを取得し、この点群データからDEMを作成し、このDEMから標高段彩図と陰影図を作成する。本願発明の透過カラー陰影図1の作成と従来のカラー陰影図の作成における相違点は、標高段彩図と陰影図の合成工程にあり、すなわち本願発明の透過カラー陰影図1の作成では標高段彩図と陰影図を透過表示するのに対し、従来のカラー陰影図の作成では標高段彩図のRGBと陰影図のRGBを乗算合成している。このような合成手段の相違によって、図2に示すように本願発明の透過カラー陰影図1は従来のカラー陰影図に比べて全体的に明るくなる。
【0020】
以下、標高段彩図、陰影図、透過表示について詳細な説明を行うが、その前にこれらの技術的内容を説明する上で必要な基本的技術についていくつか説明する。
【0021】
(色の3属性)
本来、色は人の視覚で認識するものであり、個人差が伴うものである。近年、この色をコンピュータ(電式計算機)で扱うべくモデル化させるようになった。色をモデル化する手法にも種々あり、赤(Red)・緑(Green)・青(Brue)の3色を基本色とするRGB、シアン(Cyan)・マゼンタ(Magenta)・イエロー(Yellow)・ブラック(Keycolor)の4色を基本色とするCMYK、黄・赤・青・緑・黒・白の6色を基本色とするNCSやオストワルト表色系などが知られている。本実施形態では、RGBで色をモデル化した場合について説明するが、本願発明を実施するには他の手法を採用してもよい。
【0022】
色は、色相、彩度、明度からなる3つの属性を備えている。RGBは前記したとおり、赤・緑・青を基本色とし、この3原色を混ぜ合わせる加法混色により様々な色を表現するものであり、種々の組み合わせによって色相、彩度、明度を表現する。具体的には、RGBは赤・緑・青をそれぞれの明度で表現するものであり、赤の明度をr、緑の明度をg、青の明度をbとすると、RGBは(r、g、b)で表され、rとgとbの値の組み合わせによって色の3属性を表現する。この明度は、0から255の整数で表現することが多いが、0%〜100%の範囲で表現したり、0〜1(整数に限らない)の範囲で表現したり、適宜選択することができる。一例として、純色の赤のRGBは(255、0、0)で表され、純色の緑は(0、255、0)、純色の青なら(0、0、255)となる。
【0023】
RGBによる、色相、彩度、明度の表現について、図3に基づいて説明する。図3は、色の3属性をモデル化した説明図であり、この図の球形が、RGBで表現できる色相、彩度、明度の組み合わせを示している。
【0024】
色相は色味を表すものであり、図3に示す中心軸O回りの矢印H方向に赤〜緑〜青と変化していく。なお、赤と緑の間にはこれらを混ぜ合わせた黄色(255、255、0)があり、緑と青の間、青と赤の間にもこれらを混ぜ合わせた色があり、色相は徐々に変化していく。なお、色相のみの変化を平面上に表したものを色相環という。
【0025】
彩度は文字通り色の鮮やかさを表すものであり、図3に示す中心軸Oから離れるほど(図中の矢印S方向へ進むほど)色は鮮やかとなる。純色の赤(255、0、0)、純色の緑(0、255、0)、純色の青(0、0、255)はそれぞれ中心軸Oから最も離れた円周上(球形の赤道上)にあって彩度が最大となる。一方、RGBが(255、200、200)などのように赤の明度r、緑の明度g、青の明度bの値が近似すると、それぞれの明度が相殺されて中心軸Oに近づき、すなわち彩度が小さくなる(この場合、白っぽくなる)。赤の明度r、緑の明度g、青の明度bがすべて等しい場合、中心軸O上に位置することとなり、彩度は失われ、また色相もなくなり、この結果、明度だけで表現される色となる。たとえば、RGBが(255、255、255)であれば白、RGBが(0、0、0)であれば黒となる。
【0026】
明度は、色の明るさ(暗さ)を表すものであり、図3に示す中心軸Oと平行する矢印Lu方向へ進むほど色は明るくなり、矢印Ld方向へ進むほど色は暗くなる。すなわち、赤の明度r、緑の明度g、青の明度bすべての明度が最大である白(255、255、255)が最も明るく、逆に、赤の明度r、緑の明度g、青の明度bすべての明度が最小である黒(0、0、0)が最も暗い色となる。なお、純色の赤(255、0、0)は赤の明度r以外の明度が0であり彩度が最大となっているが、他の明度を0としたまま赤の明度rを減少させていくと図の球形の最下点(球形の南極点)に近づき、明度が小さくなるばかりでなく、彩度も小さくなり、色相も失われていくことが分かる。
【0027】
(グレースケール)
グレースケールは、色の3属性のうち明度のみで色(色相や彩度はないが、明度を備えているのでここではグレースケールも「色」と表現した)を表すものであり、図3の中心軸Oの線上の範囲を表現するものである。RGBでは、赤の明度r、緑の明度g、青の明度bのすべての値が等しく、明度を0から255の整数で表現する場合、(0、0、0)〜(255、255、255)の256種類の色を表現することができる。
【0028】
本願では、後に説明する陰影図にグレースケールを用いる。なお本願では、赤の明度r、緑の明度g、青の明度bのすべての値が等しい厳密なグレースケール(以下、「厳密グレースケール」という。)を用いることはもちろんできるが、赤の明度r、緑の明度g、青の明度bそれぞれの値が若干異なるものの視覚的には白、グレー、黒に見える範囲の色(以下、「近似グレースケール」という。)であっても陰影図に用いることができる。また、モノクロームによるグレースケールなど他の手法によるグレースケールであっても陰影図に用いることができる。すなわち、厳密グレースケール、又は厳密グレースケールと近似グレースケールを組み合わせたもの、又はモノクロームなど他の手法によるグレースケールを陰影図に用いることができる。
【0029】
(DEM)
DEMとは、Digital Elevation Modelを省略したものであり、地表面の形状である地形を数値モデル化したもので一般的には格子モデルである。なお、本実施形態では地形モデルとしてDEMを採用した場合で説明しているが、他の地形モデルを採用しても構わない。DEMは、地表面の平面座標(X、Y)と標高値(Z)を有する点の集合であるいわゆる点群データに基づいて形成され、点群データが密であるほど正確に原地形を再現することができる。この点群データは、航空レーザー計測によって取得することができる。航空レーザー計測は、図11に示すように、計測したい地形Aの上空を航空機Bで飛行し、飛行中に地形Aに対して照射したレーザーCの反射を受けて計測するものである。この航空レーザー計測によって点群データを取得する場合、樹木頂部など地表面ではないデータを取り除くいわゆるフィルタリング処理を施して、より正確な地表面の点群データとすることが望ましい。なお点群データは、広範囲にかつ大量に計測データが取得できる航空レーザー計測によって取得するほか、ステレオの航空写真や衛星写真を基に三次元の空間情報をもつ点群データを生成してもよいし、直接現地を測量して三次元の空間情報をもつ点群データを取得してもよい。いずれにしろ、三次元の空間情報をもつ点群データであれば取得方法は限定されない。
【0030】
航空レーザー計測によって取得される点群データは、図4(a)に示すようにランダムに計測されたレーザー計測点2の集合であり、以下の手順でDEMを作成する。すなわち、図4(b)に示すように取得したレーザー計測点2が配点された上に、2m間隔に配置された複数のグリッド(軸)、すなわち横軸3と縦軸4が交差する正方格子を被せる。この正方格子で区切られることにより、格子点5が生成され、多数の四角形すなわちメッシュ6が形成される。メッシュ6には一つの代表点7が設けられ、ここではメッシュ6の中心に設けた点を代表点7として説明する。なお、4つの格子点5のうち右上隅の格子点5を代表点7とするなど格子点5にこの代表点7を設けたり、メッシュ6内の任意の位置に代表点7を設けたり、その他種々選択できることは言うまでもない。また、本実施形態では直交する横軸3と縦軸4からなる正方格子の例でDEMの作成を説明するが、格子点5の平面座標(X、Y)が特定できれば、横軸3と縦軸4が直交しないグリッドや、その他任意のグリッドを採用することができる。
【0031】
レーザー計測点2の三次元の空間情報(X、Y、Z)に基づいて、代表点7の平面座標(X、Y)と標高値(Z)を算出する。この算出方法は、レーザー計測点2から不整三角網より高さを求めるTIN(Triangulated Irregular Network)による補間法のほか、最も近いレーザー計測点2を採用する最近隣法(Nearest Neibor)のほか、逆距離加重法(IWD)、Kriging法、平均法など従来の方法を採用することができる。
【0032】
また、メッシュ6に基づいて描画用のピクセル6aを作成する。この実施形態では、図4(b)に示す格子網の最小単位であるメッシュ6(2m×2m)を1つのピクセル6a(2m×2m)とし、メッシュ6の代表点7をそのピクセル6aの代表点7として説明する。なお、ピクセルの大きさを変えたい場合は、DEMのメッシュの大きさ(すなわちグリッドの間隔)を調整すればよい。あるいは、四つのメッシュ6を1つのピクセル6b(4m×4m)とするなど複数のメッシュ6を1つのピクセルとすることもできる。複数のメッシュ6、たとえば四つのメッシュ6を1つのピクセル6bとすると代表点7も四つとなるが、この場合には、四つの代表点7のうち最も標高値の高いもの、あるいは最も低いもの、あるいは平均値に近いものをそのピクセル6bの代表点7とすることもできるし、あらたに四つのメッシュ6の中心に代表点7を設けてもよい。
【0033】
(段彩図)
図6に示す標高段彩図8は、三次元の空間情報(X、Y、Z)のうちのZの値、すなわち標高値に基づいて配色される図である。あらかじめ、標高値とRGB値を対応させたカラーテーブルを作成し、ピクセル6aの代表点7の標高値をカラーテーブルに照らし合わせてRBG値を決め、そのRGB値で、当該ピクセル6aに対して彩色する。これを作図範囲に含まれるすべてのピクセル6a対して行うと標高段彩図8が作成される。
【0034】
カラーテーブルを作成するにあたって、標高値には所定のレンジをもたせ、そのレンジごとにRGB値を対応させる。また、RGB値はすべての範囲(図3の球全体)で対応させてもよいし、図3の球形の赤道上、つまり彩度が最大となる色を範囲とするなど色相のみで対応させてもよい。一例として、標高が0〜20mは青、標高が100〜120mは赤などとしてカラーテーブルを作成することができる。
【0035】
また、図5に示すように、レーザー計測点2の点群は通常正規分布を示すため、確率密度関数が示すグラフとX軸(標高値軸)で囲まれる面積がそれぞれ等しくなるように、標高値のレンジを定めてもよい。一例として図では、面積1〜面積7がそれぞれ等しい面積となるように、レンジ1〜レンジ7からなる7つのレンジに分けられている。これら7つのレンジに対してそれぞれ対応するRGB値を設定してカラーテーブルを作成する。もちろんレンジ数をこれより多数としてカラーテーブルを作成してもよい。
【0036】
(陰影図)
図7に示す陰影図9は、太陽光に対して地形モデルがどのような陰を付けるかを表現した図である。実際には、図8(a)(b)に示すように太陽光の代わりに所定位置に光源10を置いたと想定し、この光源10からそれぞれのメッシュ6に向かう光に基づいて陰影を付けている。そのため、実際には太陽の軌道上でない位置から光を当てて陰影図9を作成することができる。
【0037】
所定の高度、所定の平面位置に置かれた光源10から照射される光の方向は、平面的な角度、及び鉛直面となす角(以下、「光源鉛直角」という。)をもつ。なお、ここでは平面的な角度を、北向き(測量座標系でX軸)からの角度とし、この角度を光源方位角と呼ぶこととする。
【0038】
また、それぞれのメッシュ6も方位角と鉛直角をもって傾斜し、同様にメッシュ6から形成されるピクセル6aも傾斜している。なお、ピクセル6aの傾斜具合を示す傾斜量は、当該ピクセル6aの代表点7と、周囲のピクセル6aの代表点7の座標値(X、Y、Z)に基づいて算出する。この場合、周囲に位置するレーザー計測点2を用いて算出することもできる。
【0039】
算出された傾斜度によって表されるピクセル6aの傾斜は、概念的には図9(a)に示すことができる。この図に示すピクセル6aは、X軸、Y軸、Z軸からなる座標系における面Sとして表される。なお、ここではX軸を北向きとした測量座標系で説明している。面Sは、この座標系において次式で表される。
aX+bY+cZ+d=0(ただし、a、b、c、dは定数)
この面Sが水平面と交差するときにできる直線を直線L1、この直線L1に対して垂直であって面S上にある直線を直線L2とすると、直線L1とX軸がなす角が方位角δ(図9(b))、直線L2とXZ平面がなす角が鉛直角θ(図9(c))となる。直線L1は、Z=0であることから次式で表すことができる。
aX+bY+d=0
これにより、方位角δは次式で示される。
δ=tan−1[−a/b]
また、鉛直角θは次式で示される。
θ=tan−1[−c/(a2+b2)1/2]
【0040】
このように算出されるピクセル6aの方位角δ及び鉛直角θと、光源10からの光がもつ光源方位角及び光源鉛直角とに基づいて、陰影の程度を表すパラメータである陰影度がそれぞれのピクセル6aで演算される。ピクセル6aの方位角δ及び鉛直角θ、光の光源方位角及び光源鉛直角から計算し、ピクセル6aの表面側が光に対して垂直となる場合に、最も陰を付けない陰影度(以下、「明るい陰影度」という。)が付与される。逆に、メッシュ6の裏面側が光に対して垂直となる場合に、最も陰を付ける陰影度(以下、「暗い陰影度」という。)が付与される。
【0041】
一例としては、ピクセル6a面Sに対して垂直方向に向かう直線(以下、「法線」という。)を次式により算出し、さらにこの法線と光源10からの光との交差する角度を求め、余弦長が長いほど(余弦角が小さいほど)明るい陰影度を付与し、余弦長が短いほど(余弦角が大きいほど)暗い陰影度を付与する。
(X−X0)/a=(Y−Y0)/b=(Z−Z0)/c
ただし、(X0、Y0、Z0)は、ピクセル6a面S上の点である。
【0042】
陰影度に応じたグレースケールを付与するため、陰影度とグレースケールを対応させたグレースケールテーブルを作成する。この場合、明るい陰影度となるに従って明度の大きなグレースケールを対応させ、逆に暗い陰影度となるに従って明度の小さなグレースケールを対応させる。具体的には、明るい陰影度となるほどRGBが白(255、255、255)に近づき、暗い陰影度となるほどRGBが黒(0、0、0)に近づくようにグレースケールテーブルを作成する。
【0043】
それぞれのピクセル6aにおいて演算された陰影度をカラーテーブルに照らし合わせてグレースケール(RBG値)を決め、そのグレースケール(RBG値)で、当該ピクセル6aに対して配色する。これを作図範囲に含まれるすべてのピクセル6a対して行うと陰影図9が作成される。
【0044】
(透過表示)
同一の地形モデルに対して異なる形式の図を2つ作成し、これらを合成する場合、従来ではRGB値を乗算合成していた。乗算合成とは次式に示すように、異なる2つのRGBの値(明度)である赤の明度r、緑の明度g、青の明度bを、それぞれ掛け合わせて明度の最大値で除した値を合成後のRGB値とするものである。
(r3、g3、b3)=(r1×r2/255、r1×r2/255、r1×r2/255)
なお、(r1、g1、b1)と(r2、g2、b2)は、合成前の異なる図のRGB値で、(r3、g3、b3)は、合成後のRGB値である。
前述のとおり、乗算合成では合成後のRGBの各値(明度)が小さくなる傾向にあり、すなわち乗算合成後の図は暗くなる傾向にあった。
【0045】
本願発明では、同一の地形モデル(DEM)に対して、標高段彩図8と陰影図9を作成し、これらを重ねて透過表示して透過カラー陰影図1を作成するものであって、透過表示することにより透過カラー陰影図1は明度が上がり(明るく表示され)、微地形が把握しやすくなる。この透過表示について以下説明する。
【0046】
透過表示では、同一の地形モデル(DEM)の同一のピクセル6aに対して、当該ピクセル6aにおける標高段彩図8のRGB値と、当該ピクセル6aにおける陰影図9のグレースケール(RGB値)を次式によって合成する。
rt=rh×α+ri×β
gt=gh×α+gi×β
bt=bh×α+bi×β
なお、(rh、gh、bh)は標高段彩図8のRGB値、(ri、gi、bi)は陰影図9のRGB値、(rt、gt、bt)は合成後の透過カラー陰影図1のRGB値、α及びβはそれぞれ標高段彩図8と陰影図9の透過係数である。このように、標高段彩図8のRGB値と陰影図9のRGB値を乗算ではなく加算することにより明度を上げ、かつ標高段彩図8のRGB値と陰影図9のRGB値の両方に係数を乗じて双方の図を透過させている。なお、標高段彩図8の透過係数αと陰影図9の透過係数βとの和を1とし、次式よって合成する合成手法を半透明合成という。
rt=rh×(1−β)+ri×β
gt=gh×(1−β)+gi×β
bt=bh×(1−β)+bi×β
このような合成を、作図範囲に含まれるすべてのピクセル6a対して行うと透過カラー陰影図1が作成される。
【0047】
透過表示の他の合成方法としては、スクリーン合成がある。このスクリーン合成は、同一の地形モデル(DEM)の同一のピクセル6aに対して、当該ピクセル6aにおける標高段彩図8のRGB値と、当該ピクセル6aにおける陰影図9のグレースケール(RGB値)を次式によって合成する手法である。
rt=(rh+ri−rh×ri/255)/255
gt=(gh+gi−gh×gi/255)/255
bt=(bh+bi−bh×bi/255)/255
この手法は、加算合成と乗算合成を組み合わせたものであり、加算合成を組み入れることによって明度を上げている。このスクリーン合成を作図範囲に含まれるすべてのピクセル6a対して行うと透過カラー陰影図1が作成される。
また、半透明合成やスクリーン合成以外の透過表示の他の合成方法として、オーバーレイ合成なども採用できる。
【0048】
上記のとおり透過カラー陰影図1は、標高段彩図8に方向依存性のある陰影図9を重ねた図であるため、光源10を置く位置(平面位置、と高度)によって、異なる図面が作成されることになる。一例として、光源鉛直角が65度、光源方位角が315度となるように光源10を配置した場合の透過カラー陰影図1を図10(a)に、光源鉛直角が65度、光源方位角が45度となるように光源10を配置した場合の透過カラー陰影図1を図10(b)に示す。図10(a)では活断層11に対して略垂直方向から光を当てているため活断層11が鮮明に表示されるが、図10(b)では活断層11に対して略平行な方向から光を当てているため活断層11が把握し難くなっていることが分かる。このように、透過カラー陰影図1は方向依存性があるため、確認したい微地形に対して適切な位置に光源を配置すれば、その微地形を鮮明に把握することができる。
【0049】
前記した透過表示によって重ねられた標高段彩図8と陰影図9に、さらに他の主題図を重ね合わせて透過カラー陰影図1とすることもできる。標高段彩図8と陰影図9を重ねて表示しても全体の明度が高いため、他の主題図と重ねてもなお断層のような方向性に依存する微地形を把握することができる。ここで、他の主題図とは、等高線や地物を表示した等高線図、この等高線図に種々の情報を表示した地形図など、種々のものが選ばれる。なお他の主題図を重ねる場合も、前記した透過表示によって重ねられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
透過カラー陰影図の作成方法と作成プログラム、及び透過カラー陰影図は、活断層の存在を把握しうるとともに、経年の地殻変動に伴う地表面変化なども把握することが可能である。この結果、断層活動の動きや地すべりの活動状況なども把握することが可能となり、ひいては自然災害を未然に防ぎ、あるいは自然災害による被害を軽減させるといった対策に寄与するものであり、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0051】
1 透過カラー陰影図
2 レーザー計測点
3 (正方格子の)横軸
4 (正方格子の)縦軸
5 (正方格子の)格子点
6 メッシュ
6a(1つのメッシュ6からなる)ピクセル
6b(4つのメッシュ6からなる)ピクセル
7 (メッシュ6の)代表点
8 標高段彩図
9 陰影図
10 光源
11 活断層
A 地形
B 航空機
C レーザー
S (メッシュ6を座標系に配置した場合の)面
L1(面Sが水平面と交差するときにできる)直線
L2(直線L1に対して垂直に向き面S上にある)直線
δ (直線L1の)方位角
θ (直線L2の)鉛直角
【技術分野】
【0001】
本願発明は、標高段彩図と陰影図を重ねて表示したカラー陰影図に関するものであり、より具体的には、重ねた標高段彩図と陰影図を透過して表示した透過カラー陰影図に関するものでありである。
【背景技術】
【0002】
我が国は地震が頻発する国として知られ、近年でも兵庫県南部地震や、新潟県中越地震など大きな地震が発生し、そのたびに甚大な被害を被っている。地震を引き起こす主な原因は活断層による断層運動と考えられており、1995年の兵庫県南部地震では野島断層、2003年の宮城県北部地震では小平尾断層、2004年の新潟県中越地震では須江断層が、それぞれ原因とされている。
【0003】
我が国の陸域には、およそ2000の活断層が存在するといわれているが、すべての活断層の位置が明確になっているわけではなく、現在も文部科学省をはじめとする各機関で鋭意調査が進められている。活断層の調査手法には、地形観察、実施測量、トレンチ調査、弾性波探査といった物理探査など現地で行う調査と、空中写真判読などの机上調査があるが、一般的には、まず机上調査で活断層の存在を把握し、その後に特定の活断層に対して現地調査を行っている。
【0004】
従来、机上調査として行われてきた空中写真判読は、航空機などで地形を撮影した2枚の空中写真を並べ、人が立体視することによって地形の起伏などを読み取り、活断層の存在を把握するものである。この空中写真判読には熟練を要するため誰でも実施できるものではなく、また立体視した状態の画像を他人に示すことが極めて困難な手法である。
【0005】
一方、航空レーザー計測の出現など地形情報を取得する計測手法は著しく高度化し、また、コンピュータの進化に伴い地形情報を扱う技術も飛躍的に進歩してきた。航空レーザー計測は、図11に示すように、計測したい地形Aの上空を航空機Bで飛行し、飛行中に地形Aに対して照射したレーザーCの反射を受けて計測するものである。この航空レーザー計測によれば、地形をあらわす情報として無数の点群データを密に取得することが可能となり、この点群データをコンピュータで処理すれば計測した地形をモデル化することもできる。このようにコンピュータ上でモデル化された地形モデルは、立体的に表現することも可能で、昨今では空中写真判読に代わる机上調査としてのみならず、地形を再現する手法として広い分野で採用されている。
【0006】
地形を立体的に表現する手法として、例えば出願人が本願に先立って出願した特許文献1では、航空レーザー計測で取得した点群データからDEMを作成し、DEMの各メッシュに傾斜量や標高値などの地形量を付与し、この地形量に基づいてカラー標高図(「標高段彩図」ともいう。)やグレースケール傾斜図を作成し、さらにこのカラー標高図とグレースケール傾斜図を合成したカラー標高傾斜図を作成するシステムを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−48185
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のカラー標高傾斜図は、傾斜を濃淡で表示しているため誰でも地形を立体的に見ることができるうえに、標高を色分け表示しているため地形の高低も容易に把握することができる。また、陰影図などのようにある特定の方向から光を当てて地形に陰を付けるものではないことから、どの地点でも同等に地形を把握することができる。しかしながら、断層のように所定の方向から光を当てて地形に陰を付けることでその微地形が際立って把握しやすい地形(以下、「方向性に依存する地形」という。)が対象となる場合には、前記カラー標高傾斜図が方向性に依存しないことが却って微地形を把握し難くするという課題があった。
【0009】
特許文献1のようにどの地点でも同等に地形を把握することができる図、つまり方向性に依存しない図面が現在では多く利用されているものの、方向性に依存する図面、たとえば標高段彩図と陰影図を合成したカラー陰影図も利用されることはあった。標高段彩図は標高に応じて色分け表示するもので、また、陰影図は特定の方向から光を当てて地形に陰を付けこの陰の具合を濃淡で表示するものである。この陰影図は方向性に依存する図、すなわちある方向に対しては光と陰によって微地形が強調されるが、ある方向に対しては地形が把握し難いといった図であり、当然ながら標高段彩図と陰影図を合成したカラー陰影図も方向依存性がある。
【0010】
カラー陰影図は、所定の方向から光を当てれば、断層のような方向性に依存する地形も明確に把握できるはずであるが、従来のカラー陰影図は全体的に暗くなるためこのような地形の把握が極めて困難であった。特に、他の主題図(例えば地形図)と従来のカラー陰影図を重ねると、断層などの微地形が消されてしまうことさえあった。これは標高段彩図のRGB値と陰影図のRGB値を乗算合成しているためで、次式が示すように乗算合成では一般的に明度が低下してしまい、その結果全体として暗くなっていた。
(標高段彩図のRGB)×(陰影図のRGB)/255
このように従来のカラー陰影図は、方向性に依存する図でありながら断層のような方向性に依存する地形を把握し難いという課題をもっていた。
【0011】
本願発明の課題は、上記の課題を解決し、全体の明度が上がるように標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示させ、断層のような方向性に依存する地形を容易に把握しうる透過カラー陰影図の作成方法と作成プログラム、及び透過カラー陰影図を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明の透過カラー陰影図の作成方法は、同一の地形モデルに対して、標高値に応じた色で彩色する標高段彩図を作成し、所定位置に置いた光源からの光に対して陰影を付けた陰影図を作成する工程と、前記標高段彩図と前記陰影図を重ねて透過表示させる工程と、を備えた方法である。
【0013】
この場合、地形モデルをDEMとし、このDEMのメッシュに基づいてピクセルを作成する工程と、各ピクセルに対してそれぞれ標高値を付与する工程と、前記それぞれのピクセルに、光の入射角に対するピクセルの傾斜に基づいて演算される陰影度を付与する工程と、標高値に対応するRGB値を設定したカラーテーブルを作成する工程と、陰影度に対応するグレースケールを設定したグレースケールテーブルを作成する工程と、前記カラーテーブルに基づいて、ピクセルの標高値に応じたRGB値で各ピクセルを彩色表示して標高段彩図を作成する工程と、前記グレースケールテーブルに基づいて、ピクセルの陰影度に応じたグレースケールで各ピクセルを表示して陰影図を作成する工程と、を備えた方法とすることもできる。また、標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示させる工程を、ピクセルごとに、標高段彩図のRGB値と陰影図のグレースケールを半透明合成して表示させる工程とすることもできる。
【0014】
本願発明の透過カラー陰影図の作成プログラムは、DEMのそれぞれのメッシュに基づいて作成されるピクセルに、標高値を付与する機能と、所定位置に置いた光源からの光の入射角に対する前記ピクセルの傾斜に基づいて陰影度を演算し当該ピクセルに陰影度を付与する機能と、標高値に対応するRGB値を設定したカラーテーブルに基づいて、ピクセルの標高値に応じたRGB値で各ピクセルを彩色表示して標高段彩図を作成する機能と、陰影度に対応するグレースケールを設定したグレースケールテーブルに基づいて、ピクセルの陰影度に応じたグレースケールで各ピクセルを表示して陰影図を作成する機能と、DEMで構成される同一の地形モデルに対して、前記標高段彩図と前記陰影図を重ねて透過表示させる機能と、をコンピュータに対して実行させうるものである。この場合、標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示させる機能を、ピクセルごとに、標高段彩図のRGB値と陰影図のグレースケールを半透明合成して表示させる機能とすることもできる。
【0015】
本願発明の透過カラー陰影図は、同一の地形モデルに対して、標高値に応じた色で彩色する標高段彩図と、所定位置に置いた光源からの光に対して陰影を付けた陰影図と、を重ねて透過表示させる透過カラー陰影図であって、前記地形モデルがDEMであり、このDEMのメッシュに基づいて作成されるピクセルは、標高値と、光の入射角に対する当該ピクセルの傾斜から演算される陰影度と、を備え、前記標高段彩図が、標高値に対応するRGB値を設定したカラーテーブルに基づいて、ピクセルの標高値に応じたRGB値で各ピクセルを彩色表示したものであり、前記陰影図が、陰影度に対応するグレースケールを設定したグレースケールテーブルに基づいて、ピクセルの陰影度に応じたグレースケールで各ピクセルを表示するものである。この場合、ピクセルごとに、標高段彩図のRGB値と陰影図のグレースケールを半透明合成することによって透過表示させたものとすることもできる。また、標高段彩図と、陰影図と、等高線図と、を重ねて透過表示させたものとすることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の透過カラー陰影図の作成方法と作成プログラム、及び透過カラー陰影図には、次のような効果がある。
(1)陰影図を用いていることから方向依存性があり、この結果、断層のような方向性に依存する地形を明確に把握することができる。
(2)標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示しているので、従来のカラー陰影図に比べると、陰となる部分や微細な地形も容易に把握することができる。
(3)図全体の明度が高いため、地形図など他の主題図と重ねても、断層のような方向性に依存する地形を把握することができる。
(4)陰となる部分でも微地形を確認できることから、フィルタリング作業におけるエラー検出(過度のデータ剥ぎ取りや、除去すべきデータの残置)が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本願発明の透過カラー陰影図を説明するための説明図。
【図2】従来のカラー陰影図と対比した本願発明の透過カラー陰影図の作成フロー図。
【図3】色の3属性をモデル化した説明図。
【図4】(a)はランダムに計測されたレーザー計測点の集合を示す説明図、(b)はレーザー計測点が配点された上に正方格子を被せた状態を示す説明図。
【図5】カラーテーブルを作成する場合に標高値のレンジを設定する手法の一例を示す説明図。
【図6】標高段彩図を説明するための説明図。
【図7】陰影図を説明するための説明図。
【図8】(a)は光源からの光が地形モデルのメッシュに陰を付ける概念を示す説明図、(b)は(a)とは異なる位置に置いた光源からの光が地形モデルのメッシュに陰を付ける概念を示す説明図。
【図9】(a)はメッシュが座標形状に傾斜配置される概念を示す説明図、(b)はメッシュの方位角を示す説明図、(c)はメッシュの鉛直角を示す説明図。
【図10】(a)は光源鉛直角が65度、光源方位角が315度となるように光源を配置した場合の透過カラー陰影図、(b)は光源鉛直角が65度、光源方位角が45度となるように光源を配置した場合の透過カラー陰影図。
【図11】航空レーザー計測による点群データの取得状況を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態)
本願発明の透過カラー陰影図の作成方法と作成プログラム、及び透過カラー陰影図の一実施形態を図に基づいて説明する。図1は、標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示した透過カラー陰影図1である。図1からもわかるように、透過カラー陰影図1は全体的に明るく(明度が高く)地形の微特徴も容易に把握し得る図である。
【0019】
(全体概要)
図2は、本願発明の透過カラー陰影図1の作成フローを、従来のカラー陰影図の作成フローと対比して示すフロー図である。図2に示すように本願発明の透過カラー陰影図1、従来のカラー陰影図ともに、航空レーザー計測などによって地表面の平面座標(X、Y)と標高値(Z)を有する点の集合であるいわゆる点群データを取得し、この点群データからDEMを作成し、このDEMから標高段彩図と陰影図を作成する。本願発明の透過カラー陰影図1の作成と従来のカラー陰影図の作成における相違点は、標高段彩図と陰影図の合成工程にあり、すなわち本願発明の透過カラー陰影図1の作成では標高段彩図と陰影図を透過表示するのに対し、従来のカラー陰影図の作成では標高段彩図のRGBと陰影図のRGBを乗算合成している。このような合成手段の相違によって、図2に示すように本願発明の透過カラー陰影図1は従来のカラー陰影図に比べて全体的に明るくなる。
【0020】
以下、標高段彩図、陰影図、透過表示について詳細な説明を行うが、その前にこれらの技術的内容を説明する上で必要な基本的技術についていくつか説明する。
【0021】
(色の3属性)
本来、色は人の視覚で認識するものであり、個人差が伴うものである。近年、この色をコンピュータ(電式計算機)で扱うべくモデル化させるようになった。色をモデル化する手法にも種々あり、赤(Red)・緑(Green)・青(Brue)の3色を基本色とするRGB、シアン(Cyan)・マゼンタ(Magenta)・イエロー(Yellow)・ブラック(Keycolor)の4色を基本色とするCMYK、黄・赤・青・緑・黒・白の6色を基本色とするNCSやオストワルト表色系などが知られている。本実施形態では、RGBで色をモデル化した場合について説明するが、本願発明を実施するには他の手法を採用してもよい。
【0022】
色は、色相、彩度、明度からなる3つの属性を備えている。RGBは前記したとおり、赤・緑・青を基本色とし、この3原色を混ぜ合わせる加法混色により様々な色を表現するものであり、種々の組み合わせによって色相、彩度、明度を表現する。具体的には、RGBは赤・緑・青をそれぞれの明度で表現するものであり、赤の明度をr、緑の明度をg、青の明度をbとすると、RGBは(r、g、b)で表され、rとgとbの値の組み合わせによって色の3属性を表現する。この明度は、0から255の整数で表現することが多いが、0%〜100%の範囲で表現したり、0〜1(整数に限らない)の範囲で表現したり、適宜選択することができる。一例として、純色の赤のRGBは(255、0、0)で表され、純色の緑は(0、255、0)、純色の青なら(0、0、255)となる。
【0023】
RGBによる、色相、彩度、明度の表現について、図3に基づいて説明する。図3は、色の3属性をモデル化した説明図であり、この図の球形が、RGBで表現できる色相、彩度、明度の組み合わせを示している。
【0024】
色相は色味を表すものであり、図3に示す中心軸O回りの矢印H方向に赤〜緑〜青と変化していく。なお、赤と緑の間にはこれらを混ぜ合わせた黄色(255、255、0)があり、緑と青の間、青と赤の間にもこれらを混ぜ合わせた色があり、色相は徐々に変化していく。なお、色相のみの変化を平面上に表したものを色相環という。
【0025】
彩度は文字通り色の鮮やかさを表すものであり、図3に示す中心軸Oから離れるほど(図中の矢印S方向へ進むほど)色は鮮やかとなる。純色の赤(255、0、0)、純色の緑(0、255、0)、純色の青(0、0、255)はそれぞれ中心軸Oから最も離れた円周上(球形の赤道上)にあって彩度が最大となる。一方、RGBが(255、200、200)などのように赤の明度r、緑の明度g、青の明度bの値が近似すると、それぞれの明度が相殺されて中心軸Oに近づき、すなわち彩度が小さくなる(この場合、白っぽくなる)。赤の明度r、緑の明度g、青の明度bがすべて等しい場合、中心軸O上に位置することとなり、彩度は失われ、また色相もなくなり、この結果、明度だけで表現される色となる。たとえば、RGBが(255、255、255)であれば白、RGBが(0、0、0)であれば黒となる。
【0026】
明度は、色の明るさ(暗さ)を表すものであり、図3に示す中心軸Oと平行する矢印Lu方向へ進むほど色は明るくなり、矢印Ld方向へ進むほど色は暗くなる。すなわち、赤の明度r、緑の明度g、青の明度bすべての明度が最大である白(255、255、255)が最も明るく、逆に、赤の明度r、緑の明度g、青の明度bすべての明度が最小である黒(0、0、0)が最も暗い色となる。なお、純色の赤(255、0、0)は赤の明度r以外の明度が0であり彩度が最大となっているが、他の明度を0としたまま赤の明度rを減少させていくと図の球形の最下点(球形の南極点)に近づき、明度が小さくなるばかりでなく、彩度も小さくなり、色相も失われていくことが分かる。
【0027】
(グレースケール)
グレースケールは、色の3属性のうち明度のみで色(色相や彩度はないが、明度を備えているのでここではグレースケールも「色」と表現した)を表すものであり、図3の中心軸Oの線上の範囲を表現するものである。RGBでは、赤の明度r、緑の明度g、青の明度bのすべての値が等しく、明度を0から255の整数で表現する場合、(0、0、0)〜(255、255、255)の256種類の色を表現することができる。
【0028】
本願では、後に説明する陰影図にグレースケールを用いる。なお本願では、赤の明度r、緑の明度g、青の明度bのすべての値が等しい厳密なグレースケール(以下、「厳密グレースケール」という。)を用いることはもちろんできるが、赤の明度r、緑の明度g、青の明度bそれぞれの値が若干異なるものの視覚的には白、グレー、黒に見える範囲の色(以下、「近似グレースケール」という。)であっても陰影図に用いることができる。また、モノクロームによるグレースケールなど他の手法によるグレースケールであっても陰影図に用いることができる。すなわち、厳密グレースケール、又は厳密グレースケールと近似グレースケールを組み合わせたもの、又はモノクロームなど他の手法によるグレースケールを陰影図に用いることができる。
【0029】
(DEM)
DEMとは、Digital Elevation Modelを省略したものであり、地表面の形状である地形を数値モデル化したもので一般的には格子モデルである。なお、本実施形態では地形モデルとしてDEMを採用した場合で説明しているが、他の地形モデルを採用しても構わない。DEMは、地表面の平面座標(X、Y)と標高値(Z)を有する点の集合であるいわゆる点群データに基づいて形成され、点群データが密であるほど正確に原地形を再現することができる。この点群データは、航空レーザー計測によって取得することができる。航空レーザー計測は、図11に示すように、計測したい地形Aの上空を航空機Bで飛行し、飛行中に地形Aに対して照射したレーザーCの反射を受けて計測するものである。この航空レーザー計測によって点群データを取得する場合、樹木頂部など地表面ではないデータを取り除くいわゆるフィルタリング処理を施して、より正確な地表面の点群データとすることが望ましい。なお点群データは、広範囲にかつ大量に計測データが取得できる航空レーザー計測によって取得するほか、ステレオの航空写真や衛星写真を基に三次元の空間情報をもつ点群データを生成してもよいし、直接現地を測量して三次元の空間情報をもつ点群データを取得してもよい。いずれにしろ、三次元の空間情報をもつ点群データであれば取得方法は限定されない。
【0030】
航空レーザー計測によって取得される点群データは、図4(a)に示すようにランダムに計測されたレーザー計測点2の集合であり、以下の手順でDEMを作成する。すなわち、図4(b)に示すように取得したレーザー計測点2が配点された上に、2m間隔に配置された複数のグリッド(軸)、すなわち横軸3と縦軸4が交差する正方格子を被せる。この正方格子で区切られることにより、格子点5が生成され、多数の四角形すなわちメッシュ6が形成される。メッシュ6には一つの代表点7が設けられ、ここではメッシュ6の中心に設けた点を代表点7として説明する。なお、4つの格子点5のうち右上隅の格子点5を代表点7とするなど格子点5にこの代表点7を設けたり、メッシュ6内の任意の位置に代表点7を設けたり、その他種々選択できることは言うまでもない。また、本実施形態では直交する横軸3と縦軸4からなる正方格子の例でDEMの作成を説明するが、格子点5の平面座標(X、Y)が特定できれば、横軸3と縦軸4が直交しないグリッドや、その他任意のグリッドを採用することができる。
【0031】
レーザー計測点2の三次元の空間情報(X、Y、Z)に基づいて、代表点7の平面座標(X、Y)と標高値(Z)を算出する。この算出方法は、レーザー計測点2から不整三角網より高さを求めるTIN(Triangulated Irregular Network)による補間法のほか、最も近いレーザー計測点2を採用する最近隣法(Nearest Neibor)のほか、逆距離加重法(IWD)、Kriging法、平均法など従来の方法を採用することができる。
【0032】
また、メッシュ6に基づいて描画用のピクセル6aを作成する。この実施形態では、図4(b)に示す格子網の最小単位であるメッシュ6(2m×2m)を1つのピクセル6a(2m×2m)とし、メッシュ6の代表点7をそのピクセル6aの代表点7として説明する。なお、ピクセルの大きさを変えたい場合は、DEMのメッシュの大きさ(すなわちグリッドの間隔)を調整すればよい。あるいは、四つのメッシュ6を1つのピクセル6b(4m×4m)とするなど複数のメッシュ6を1つのピクセルとすることもできる。複数のメッシュ6、たとえば四つのメッシュ6を1つのピクセル6bとすると代表点7も四つとなるが、この場合には、四つの代表点7のうち最も標高値の高いもの、あるいは最も低いもの、あるいは平均値に近いものをそのピクセル6bの代表点7とすることもできるし、あらたに四つのメッシュ6の中心に代表点7を設けてもよい。
【0033】
(段彩図)
図6に示す標高段彩図8は、三次元の空間情報(X、Y、Z)のうちのZの値、すなわち標高値に基づいて配色される図である。あらかじめ、標高値とRGB値を対応させたカラーテーブルを作成し、ピクセル6aの代表点7の標高値をカラーテーブルに照らし合わせてRBG値を決め、そのRGB値で、当該ピクセル6aに対して彩色する。これを作図範囲に含まれるすべてのピクセル6a対して行うと標高段彩図8が作成される。
【0034】
カラーテーブルを作成するにあたって、標高値には所定のレンジをもたせ、そのレンジごとにRGB値を対応させる。また、RGB値はすべての範囲(図3の球全体)で対応させてもよいし、図3の球形の赤道上、つまり彩度が最大となる色を範囲とするなど色相のみで対応させてもよい。一例として、標高が0〜20mは青、標高が100〜120mは赤などとしてカラーテーブルを作成することができる。
【0035】
また、図5に示すように、レーザー計測点2の点群は通常正規分布を示すため、確率密度関数が示すグラフとX軸(標高値軸)で囲まれる面積がそれぞれ等しくなるように、標高値のレンジを定めてもよい。一例として図では、面積1〜面積7がそれぞれ等しい面積となるように、レンジ1〜レンジ7からなる7つのレンジに分けられている。これら7つのレンジに対してそれぞれ対応するRGB値を設定してカラーテーブルを作成する。もちろんレンジ数をこれより多数としてカラーテーブルを作成してもよい。
【0036】
(陰影図)
図7に示す陰影図9は、太陽光に対して地形モデルがどのような陰を付けるかを表現した図である。実際には、図8(a)(b)に示すように太陽光の代わりに所定位置に光源10を置いたと想定し、この光源10からそれぞれのメッシュ6に向かう光に基づいて陰影を付けている。そのため、実際には太陽の軌道上でない位置から光を当てて陰影図9を作成することができる。
【0037】
所定の高度、所定の平面位置に置かれた光源10から照射される光の方向は、平面的な角度、及び鉛直面となす角(以下、「光源鉛直角」という。)をもつ。なお、ここでは平面的な角度を、北向き(測量座標系でX軸)からの角度とし、この角度を光源方位角と呼ぶこととする。
【0038】
また、それぞれのメッシュ6も方位角と鉛直角をもって傾斜し、同様にメッシュ6から形成されるピクセル6aも傾斜している。なお、ピクセル6aの傾斜具合を示す傾斜量は、当該ピクセル6aの代表点7と、周囲のピクセル6aの代表点7の座標値(X、Y、Z)に基づいて算出する。この場合、周囲に位置するレーザー計測点2を用いて算出することもできる。
【0039】
算出された傾斜度によって表されるピクセル6aの傾斜は、概念的には図9(a)に示すことができる。この図に示すピクセル6aは、X軸、Y軸、Z軸からなる座標系における面Sとして表される。なお、ここではX軸を北向きとした測量座標系で説明している。面Sは、この座標系において次式で表される。
aX+bY+cZ+d=0(ただし、a、b、c、dは定数)
この面Sが水平面と交差するときにできる直線を直線L1、この直線L1に対して垂直であって面S上にある直線を直線L2とすると、直線L1とX軸がなす角が方位角δ(図9(b))、直線L2とXZ平面がなす角が鉛直角θ(図9(c))となる。直線L1は、Z=0であることから次式で表すことができる。
aX+bY+d=0
これにより、方位角δは次式で示される。
δ=tan−1[−a/b]
また、鉛直角θは次式で示される。
θ=tan−1[−c/(a2+b2)1/2]
【0040】
このように算出されるピクセル6aの方位角δ及び鉛直角θと、光源10からの光がもつ光源方位角及び光源鉛直角とに基づいて、陰影の程度を表すパラメータである陰影度がそれぞれのピクセル6aで演算される。ピクセル6aの方位角δ及び鉛直角θ、光の光源方位角及び光源鉛直角から計算し、ピクセル6aの表面側が光に対して垂直となる場合に、最も陰を付けない陰影度(以下、「明るい陰影度」という。)が付与される。逆に、メッシュ6の裏面側が光に対して垂直となる場合に、最も陰を付ける陰影度(以下、「暗い陰影度」という。)が付与される。
【0041】
一例としては、ピクセル6a面Sに対して垂直方向に向かう直線(以下、「法線」という。)を次式により算出し、さらにこの法線と光源10からの光との交差する角度を求め、余弦長が長いほど(余弦角が小さいほど)明るい陰影度を付与し、余弦長が短いほど(余弦角が大きいほど)暗い陰影度を付与する。
(X−X0)/a=(Y−Y0)/b=(Z−Z0)/c
ただし、(X0、Y0、Z0)は、ピクセル6a面S上の点である。
【0042】
陰影度に応じたグレースケールを付与するため、陰影度とグレースケールを対応させたグレースケールテーブルを作成する。この場合、明るい陰影度となるに従って明度の大きなグレースケールを対応させ、逆に暗い陰影度となるに従って明度の小さなグレースケールを対応させる。具体的には、明るい陰影度となるほどRGBが白(255、255、255)に近づき、暗い陰影度となるほどRGBが黒(0、0、0)に近づくようにグレースケールテーブルを作成する。
【0043】
それぞれのピクセル6aにおいて演算された陰影度をカラーテーブルに照らし合わせてグレースケール(RBG値)を決め、そのグレースケール(RBG値)で、当該ピクセル6aに対して配色する。これを作図範囲に含まれるすべてのピクセル6a対して行うと陰影図9が作成される。
【0044】
(透過表示)
同一の地形モデルに対して異なる形式の図を2つ作成し、これらを合成する場合、従来ではRGB値を乗算合成していた。乗算合成とは次式に示すように、異なる2つのRGBの値(明度)である赤の明度r、緑の明度g、青の明度bを、それぞれ掛け合わせて明度の最大値で除した値を合成後のRGB値とするものである。
(r3、g3、b3)=(r1×r2/255、r1×r2/255、r1×r2/255)
なお、(r1、g1、b1)と(r2、g2、b2)は、合成前の異なる図のRGB値で、(r3、g3、b3)は、合成後のRGB値である。
前述のとおり、乗算合成では合成後のRGBの各値(明度)が小さくなる傾向にあり、すなわち乗算合成後の図は暗くなる傾向にあった。
【0045】
本願発明では、同一の地形モデル(DEM)に対して、標高段彩図8と陰影図9を作成し、これらを重ねて透過表示して透過カラー陰影図1を作成するものであって、透過表示することにより透過カラー陰影図1は明度が上がり(明るく表示され)、微地形が把握しやすくなる。この透過表示について以下説明する。
【0046】
透過表示では、同一の地形モデル(DEM)の同一のピクセル6aに対して、当該ピクセル6aにおける標高段彩図8のRGB値と、当該ピクセル6aにおける陰影図9のグレースケール(RGB値)を次式によって合成する。
rt=rh×α+ri×β
gt=gh×α+gi×β
bt=bh×α+bi×β
なお、(rh、gh、bh)は標高段彩図8のRGB値、(ri、gi、bi)は陰影図9のRGB値、(rt、gt、bt)は合成後の透過カラー陰影図1のRGB値、α及びβはそれぞれ標高段彩図8と陰影図9の透過係数である。このように、標高段彩図8のRGB値と陰影図9のRGB値を乗算ではなく加算することにより明度を上げ、かつ標高段彩図8のRGB値と陰影図9のRGB値の両方に係数を乗じて双方の図を透過させている。なお、標高段彩図8の透過係数αと陰影図9の透過係数βとの和を1とし、次式よって合成する合成手法を半透明合成という。
rt=rh×(1−β)+ri×β
gt=gh×(1−β)+gi×β
bt=bh×(1−β)+bi×β
このような合成を、作図範囲に含まれるすべてのピクセル6a対して行うと透過カラー陰影図1が作成される。
【0047】
透過表示の他の合成方法としては、スクリーン合成がある。このスクリーン合成は、同一の地形モデル(DEM)の同一のピクセル6aに対して、当該ピクセル6aにおける標高段彩図8のRGB値と、当該ピクセル6aにおける陰影図9のグレースケール(RGB値)を次式によって合成する手法である。
rt=(rh+ri−rh×ri/255)/255
gt=(gh+gi−gh×gi/255)/255
bt=(bh+bi−bh×bi/255)/255
この手法は、加算合成と乗算合成を組み合わせたものであり、加算合成を組み入れることによって明度を上げている。このスクリーン合成を作図範囲に含まれるすべてのピクセル6a対して行うと透過カラー陰影図1が作成される。
また、半透明合成やスクリーン合成以外の透過表示の他の合成方法として、オーバーレイ合成なども採用できる。
【0048】
上記のとおり透過カラー陰影図1は、標高段彩図8に方向依存性のある陰影図9を重ねた図であるため、光源10を置く位置(平面位置、と高度)によって、異なる図面が作成されることになる。一例として、光源鉛直角が65度、光源方位角が315度となるように光源10を配置した場合の透過カラー陰影図1を図10(a)に、光源鉛直角が65度、光源方位角が45度となるように光源10を配置した場合の透過カラー陰影図1を図10(b)に示す。図10(a)では活断層11に対して略垂直方向から光を当てているため活断層11が鮮明に表示されるが、図10(b)では活断層11に対して略平行な方向から光を当てているため活断層11が把握し難くなっていることが分かる。このように、透過カラー陰影図1は方向依存性があるため、確認したい微地形に対して適切な位置に光源を配置すれば、その微地形を鮮明に把握することができる。
【0049】
前記した透過表示によって重ねられた標高段彩図8と陰影図9に、さらに他の主題図を重ね合わせて透過カラー陰影図1とすることもできる。標高段彩図8と陰影図9を重ねて表示しても全体の明度が高いため、他の主題図と重ねてもなお断層のような方向性に依存する微地形を把握することができる。ここで、他の主題図とは、等高線や地物を表示した等高線図、この等高線図に種々の情報を表示した地形図など、種々のものが選ばれる。なお他の主題図を重ねる場合も、前記した透過表示によって重ねられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
透過カラー陰影図の作成方法と作成プログラム、及び透過カラー陰影図は、活断層の存在を把握しうるとともに、経年の地殻変動に伴う地表面変化なども把握することが可能である。この結果、断層活動の動きや地すべりの活動状況なども把握することが可能となり、ひいては自然災害を未然に防ぎ、あるいは自然災害による被害を軽減させるといった対策に寄与するものであり、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0051】
1 透過カラー陰影図
2 レーザー計測点
3 (正方格子の)横軸
4 (正方格子の)縦軸
5 (正方格子の)格子点
6 メッシュ
6a(1つのメッシュ6からなる)ピクセル
6b(4つのメッシュ6からなる)ピクセル
7 (メッシュ6の)代表点
8 標高段彩図
9 陰影図
10 光源
11 活断層
A 地形
B 航空機
C レーザー
S (メッシュ6を座標系に配置した場合の)面
L1(面Sが水平面と交差するときにできる)直線
L2(直線L1に対して垂直に向き面S上にある)直線
δ (直線L1の)方位角
θ (直線L2の)鉛直角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の地形モデルに対して、標高値に応じた色で彩色する標高段彩図を作成し、所定位置に置いた光源からの光に対して陰影を付けた陰影図を作成する工程と、
前記標高段彩図と前記陰影図を重ねて透過表示させる工程と、を備えたことを特徴とする透過カラー陰影図の作成方法。
【請求項2】
請求項1記載の透過カラー陰影図の作成方法において、
地形モデルをDEMとし、このDEMのメッシュに基づいてピクセルを作成する工程と、
各ピクセルに対してそれぞれ標高値を付与する工程と、
前記それぞれのピクセルに、光の入射角に対するピクセルの傾斜に基づいて演算される陰影度を付与する工程と、
標高値に対応するRGB値を設定したカラーテーブルを作成する工程と、
陰影度に対応するグレースケールを設定したグレースケールテーブルを作成する工程と、
前記カラーテーブルに基づいて、ピクセルの標高値に応じたRGB値で各ピクセルを彩色表示して標高段彩図を作成する工程と、
前記グレースケールテーブルに基づいて、ピクセルの陰影度に応じたグレースケールで各ピクセルを表示して陰影図を作成する工程と、を備えたことを特徴とする透過カラー陰影図の作成方法。
【請求項3】
請求項2記載の透過カラー陰影図の作成方法において、
標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示させる工程が、標高段彩図のRGB値と陰影図のグレースケールとを半透明合成して、ピクセルごとに表示させることを特徴とする透過カラー陰影図の作成方法。
【請求項4】
DEMのそれぞれのメッシュに基づいて作成されるピクセルに、標高値を付与する機能と、
所定位置に置いた光源からの光の入射角に対する前記ピクセルの傾斜に基づいて陰影度を演算し当該ピクセルに陰影度を付与する機能と、
標高値に対応するRGB値を設定したカラーテーブルに基づいて、ピクセルの標高値に応じたRGB値で各ピクセルを彩色表示して標高段彩図を作成する機能と、
陰影度に対応するグレースケールを設定したグレースケールテーブルに基づいて、ピクセルの陰影度に応じたグレースケールで各ピクセルを表示して陰影図を作成する機能と、
DEMで構成される同一の地形モデルに対して、前記標高段彩図と前記陰影図を重ねて透過表示させる機能と、をコンピュータに対して実行させうることを特徴とする透過カラー陰影図作成プログラム。
【請求項5】
請求項4記載の透過カラー陰影図作成プログラムにおいて、
標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示させる機能が、ピクセルごとに、標高段彩図のRGB値と陰影図のグレースケールを半透明合成して表示させることを特徴とする透過カラー陰影図作成プログラム。
【請求項6】
同一の地形モデルに対して、標高値に応じた色で彩色する標高段彩図と、所定位置に置いた光源からの光に対して陰影を付けた陰影図と、を重ねて透過表示させる透過カラー陰影図であって、
前記地形モデルがDEMであり、このDEMのメッシュに基づいて作成されるピクセルは、標高値と、光の入射角に対する当該ピクセルの傾斜から演算される陰影度と、を備え、
前記標高段彩図が、標高値に対応するRGB値を設定したカラーテーブルに基づいて、ピクセルの標高値に応じたRGB値で各ピクセルを彩色表示したものであり、
前記陰影図が、陰影度に対応するグレースケールを設定したグレースケールテーブルに基づいて、ピクセルの陰影度に応じたグレースケールで各ピクセルを表示するものであることを特徴とする透過カラー陰影図。
【請求項7】
請求項6記載の透過カラー陰影図において、
ピクセルごとに、標高段彩図のRGB値と陰影図のグレースケールを半透明合成することによって透過表示させたことを特徴とする透過カラー陰影図。
【請求項8】
請求項6又は請求項7記載の透過カラー陰影図において、
標高段彩図と、陰影図と、等高線図と、を重ねて透過表示させたことを特徴とする透過カラー陰影図。
【請求項1】
同一の地形モデルに対して、標高値に応じた色で彩色する標高段彩図を作成し、所定位置に置いた光源からの光に対して陰影を付けた陰影図を作成する工程と、
前記標高段彩図と前記陰影図を重ねて透過表示させる工程と、を備えたことを特徴とする透過カラー陰影図の作成方法。
【請求項2】
請求項1記載の透過カラー陰影図の作成方法において、
地形モデルをDEMとし、このDEMのメッシュに基づいてピクセルを作成する工程と、
各ピクセルに対してそれぞれ標高値を付与する工程と、
前記それぞれのピクセルに、光の入射角に対するピクセルの傾斜に基づいて演算される陰影度を付与する工程と、
標高値に対応するRGB値を設定したカラーテーブルを作成する工程と、
陰影度に対応するグレースケールを設定したグレースケールテーブルを作成する工程と、
前記カラーテーブルに基づいて、ピクセルの標高値に応じたRGB値で各ピクセルを彩色表示して標高段彩図を作成する工程と、
前記グレースケールテーブルに基づいて、ピクセルの陰影度に応じたグレースケールで各ピクセルを表示して陰影図を作成する工程と、を備えたことを特徴とする透過カラー陰影図の作成方法。
【請求項3】
請求項2記載の透過カラー陰影図の作成方法において、
標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示させる工程が、標高段彩図のRGB値と陰影図のグレースケールとを半透明合成して、ピクセルごとに表示させることを特徴とする透過カラー陰影図の作成方法。
【請求項4】
DEMのそれぞれのメッシュに基づいて作成されるピクセルに、標高値を付与する機能と、
所定位置に置いた光源からの光の入射角に対する前記ピクセルの傾斜に基づいて陰影度を演算し当該ピクセルに陰影度を付与する機能と、
標高値に対応するRGB値を設定したカラーテーブルに基づいて、ピクセルの標高値に応じたRGB値で各ピクセルを彩色表示して標高段彩図を作成する機能と、
陰影度に対応するグレースケールを設定したグレースケールテーブルに基づいて、ピクセルの陰影度に応じたグレースケールで各ピクセルを表示して陰影図を作成する機能と、
DEMで構成される同一の地形モデルに対して、前記標高段彩図と前記陰影図を重ねて透過表示させる機能と、をコンピュータに対して実行させうることを特徴とする透過カラー陰影図作成プログラム。
【請求項5】
請求項4記載の透過カラー陰影図作成プログラムにおいて、
標高段彩図と陰影図を重ねて透過表示させる機能が、ピクセルごとに、標高段彩図のRGB値と陰影図のグレースケールを半透明合成して表示させることを特徴とする透過カラー陰影図作成プログラム。
【請求項6】
同一の地形モデルに対して、標高値に応じた色で彩色する標高段彩図と、所定位置に置いた光源からの光に対して陰影を付けた陰影図と、を重ねて透過表示させる透過カラー陰影図であって、
前記地形モデルがDEMであり、このDEMのメッシュに基づいて作成されるピクセルは、標高値と、光の入射角に対する当該ピクセルの傾斜から演算される陰影度と、を備え、
前記標高段彩図が、標高値に対応するRGB値を設定したカラーテーブルに基づいて、ピクセルの標高値に応じたRGB値で各ピクセルを彩色表示したものであり、
前記陰影図が、陰影度に対応するグレースケールを設定したグレースケールテーブルに基づいて、ピクセルの陰影度に応じたグレースケールで各ピクセルを表示するものであることを特徴とする透過カラー陰影図。
【請求項7】
請求項6記載の透過カラー陰影図において、
ピクセルごとに、標高段彩図のRGB値と陰影図のグレースケールを半透明合成することによって透過表示させたことを特徴とする透過カラー陰影図。
【請求項8】
請求項6又は請求項7記載の透過カラー陰影図において、
標高段彩図と、陰影図と、等高線図と、を重ねて透過表示させたことを特徴とする透過カラー陰影図。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−133952(P2011−133952A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290422(P2009−290422)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(390023249)国際航業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(390023249)国際航業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】
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