説明

透過型スクリーン

【課題】コントラストの高い映像光を出射する透過型スクリーンの提供。
【解決手段】透過型スクリーンであって、映像光を入射させる入射面に平面的に配列して設けられ、透過型スクリーンの出射面近傍に焦点を有する複数の単レンズと、複数の単レンズ同士が隣接するレンズ境界に形成され、レンズ境界に入射する映像光を遮断する入射側遮光層と、透過型スクリーンの出射面近傍において、複数の単レンズのそれぞれの焦点の近傍に、単レンズの光軸を中心とする開口が形成された出射側遮光層とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型スクリーン、及び透過型スクリーンの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、映像光を透過させる透過型スクリーンとして、映像光を拡散するレンズアレイが用いられる。このレンズアレイは、映像光の入射側に複数の単レンズを有し、観察者側に各単レンズの焦点を中心とした複数の開口が形成された遮光層(以下、ブラックマトリクスと呼ぶ)とを有する。観察者側に設けられたブラックマトリクスは、単レンズによって集光された映像光を開口から出射させると共に、観察者側から入射する外光の大部分を吸収する。これにより、映像光のコントラストを向上するという効果を有する。
【0003】
ブラックマトリクスを形成するには、単レンズの集光作用を利用するセルフアライメント法が用いられる。セルフアライメント法は、単レンズの観察者側に積層する未硬化の紫外線硬化性樹脂に対して、単レンズの光源側から平行な紫外光を入射させて焦点付近の樹脂を選択的に硬化させ、焦点付近を除く範囲に遮光層を形成する(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開2004−29402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の透過型スクリーンにおいては、単レンズ同士の境界部に入射する映像光が単レンズの焦点に集光されることなく迷光になり、映像光のコントラストを低下させるという課題があった。また、レンズアレイを生産する場合に、単レンズの境界部に入射する紫外光が焦点付近の紫外線硬化性樹脂を露光する場合のコントラストを悪化させ、結果的にブラックマトリクスの形状精度を悪化させるという課題があった。
【0005】
そこで本発明は、上記の課題を解決する透過型スクリーンを提供することを目的とする。この目的は特許請求の範囲における独立項に記載の特徴の組み合わせにより達成される。また従属項は本発明の更なる有利な具体例を規定する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することを目的として、本発明の第1の形態によれば、映像光を透過させる透過型スクリーンであって、映像光を入射させる入射面に平面的に配列して設けられ、透過型スクリーンの出射面近傍に焦点を有する複数の単レンズと、複数の単レンズ同士が隣接するレンズ境界に形成され、レンズ境界に入射する映像光を遮断する入射側遮光層と、透過型スクリーンの出射面近傍において、複数の単レンズのそれぞれの焦点の近傍に、単レンズの光軸を中心とする開口が形成された出射側遮光層とを備える透過型スクリーンが提供される。これにより、入射側遮光層がレンズ境界への光の入射を防止するので迷光を低減することができる。従って、コントラストの高い映像光を出射することができる。
【0007】
上記のレンズアレイにおいて、複数の単レンズは、互いに隙間無く配列されており、入射側遮光層は、レンズ境界において単レンズの光軸方向から見て一様な幅で形成されている。これにより、レンズ境界の面積が狭められ、映像光の透過率を向上することができる。
【0008】
上記の透過型スクリーンにおいて、レンズ境界は、単レンズの光軸と平行な側壁と、側壁に対して垂直な底部とを有し、入射側遮光層は、底部及び側壁の内側に堆積して形成されていてもよい。これにより、光軸方向に関する側壁の高さの範囲内で入射側遮光層の厚みがばらついても、光軸方向から見た入射側遮光層の幅が変化しない。従って、光源側から見た単レンズの開口率の精度が高まり、フライアイレンズの光透過率のばらつきが少ないという効果を奏する。
【0009】
本発明の第2の形態によれば、映像光を透過させる透過型スクリーンであって、映像光の光源から観察者側に向かって順に、映像光をコリメートするフレネルレンズと、コリメートされた映像光を拡散するレンズアレイとを備え、レンズアレイは、コリメートされた映像光を入射させる入射面に平面的に配列して設けられ、レンズアレイの出射面近傍に焦点を有する複数の単レンズと、複数の単レンズ同士が隣接するレンズ境界に形成され、レンズ境界に入射する映像光を遮断する入射側遮光層と、レンズアレイの出射面近傍において、複数の単レンズのそれぞれの焦点の近傍に、単レンズの光軸を中心とする開口が形成された出射側遮光層とを有する、透過型スクリーンが提供される。これにより、第1の形態と同様の効果を奏する。
【0010】
本発明の第3の形態によれば、複数の単レンズを有する透過型スクリーンの生産方法であって、透明基材の一方の面に、透明基材の他方の面の近傍に焦点を有する複数の単レンズを成形する工程と、複数の単レンズ同士が隣接するレンズ境界に遮光性インクを充填することにより、レンズ境界に入射する光を遮断する入射側遮光層を形成する工程と、透明基材の単レンズと反対側の面に、未硬化の紫外線硬化性樹脂を形成する工程と、単レンズのレンズ面から、単レンズの光軸に略平行な紫外光を入射させることにより、複数の単レンズのそれぞれの焦点近傍に位置する紫外線硬化性樹脂を硬化させる露光工程と、紫外線硬化性樹脂の未硬化部分に出射側遮光層のパターンを形成する工程とを備える透過型スクリーンの生産方法が提供される。このような生産方法によれば、入射側遮光層がレンズ境界への紫外光の入射を防止するので露光時の迷光が低減し、光軸部分の粘着剤を高いコントラストで露光することができる。これにより、出射側遮光層の光透過部分(開口)と遮光部分とのコントラストを高めることができる。また、入射側遮光層がレンズ境界に入射する紫外光を遮蔽するので、粘着剤を露光する紫外光の直径が狭まり、出射側遮光層の開口サイズを縮小できる。これにより、出射側遮光層の開口率が低下し、外光の反射率が低減される。以上の作用により、映像光のコントラストが高い透過型スクリーンが生産できる。
【0011】
上記の生産方法において、単レンズの光軸方向から見た入射側遮光層の範囲が所定の範囲になるように、レンズアレイと遮光性インクの濡れ性を調節する工程を更に備えてもよい。これにより、入射側遮光層の範囲を容易に管理できる。
【0012】
本発明の第4の形態によれば、複数の単レンズを有する透過型スクリーンの生産方法であって、複数の単レンズを成形する雌型における、複数の単レンズ同士が隣接するレンズ境界を成形する部位に遮光剤を塗布する工程と、遮光剤が塗布された雌型を用いて、透明基材の片面に複数の単レンズを成形し、レンズ境界に遮光剤を転写することにより、レンズ境界に入射する光を遮断する入射側遮光層を形成する工程と、透明基材の単レンズと反対側の面に、未硬化の紫外線硬化性樹脂を形成する工程と、単レンズのレンズ面から、単レンズの光軸に略平行な紫外光を入射させることにより、複数の単レンズのそれぞれの焦点近傍に位置する紫外線硬化性樹脂を硬化させる露光工程と、紫外線硬化性樹脂の未硬化部分に出射側遮光層のパターンを形成する工程とを備える透過型スクリーンの生産方法が提供される。これにより、第3の形態と同様の効果を奏する。更に、遮光剤を雌型からレンズ境界に転写して入射側遮光層を形成するので、入射側遮光層の範囲が精度よく管理される。以上の作用により、映像光のコントラストが高い透過型スクリーンが生産できる。
【0013】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るリアプロジェクションディスプレイ800の構成を示す。リアプロジェクションディスプレイ800は、光学エンジン700と、鏡600と、スクリーン500とを備える。光学エンジン700から出力された映像光は鏡600で反射され、スクリーン500に入射する。スクリーン500は、入射した映像光を拡散させて観察者側に出射することにより、適切な視野角を実現する。スクリーン500は、本発明の透過型スクリーンの一例である。
【0016】
図2は、図1のスクリーン500におけるA部の詳細な構成を示す。スクリーン500は、フレネルレンズ200、フライアイレンズ100、及び前面板300を有する。フレネルレンズ200は、光学エンジン700から出射された光の進行方向をフライアイレンズ100の光軸方向にそろえる。フライアイレンズ100は、映像光を入射させる入射面に複数の単レンズ10を平面的に配列して備え、入射した光を単レンズ10で拡散して出射する。前面板300は、フライアイレンズ100を保護すると共に、表面に施されたARコートなどのアンチグレア処理により外光の反射を低減する。前面板300は、スクリーン500の機能上、必ずしも必要ではない。フライアイレンズ100は、本発明の透過型スクリーンの一例である。
【0017】
図3は、フライアイレンズ100の構成の例を示す断面図である。フライアイレンズ100は、単レンズ10、基材40、出射側遮光層20、及び入射側遮光層30を備える。複数の単レンズ10は、基材40における映像光を入射させる面に平面的に配列して設けられる。入射側遮光層30は、複数の単レンズ10同士が隣接するレンズ境界に形成されている。出射側遮光層20は、基材40を基準として複数の単レンズ10と反対側に設けられている。単レンズ10の光軸方向に関する出射側遮光層20の位置は、複数の単レンズ10の焦点の近傍である。出射側遮光層20には、単レンズ10の光軸を中心とする複数の開口部22が形成されている。単レンズ10の光軸と垂直な方向に関する入射側遮光層30の幅は、レンズピッチの10分の1程度が適当である。例えば、本図に示すフライアイレンズ100のレンズピッチは約50μm、入射側遮光層30の幅は約5μmである。一方、単レンズ10の光軸方向に関する、入射側遮光層30の高さ(深さ)は入射側遮光層30の幅と、レンズ境界の断面形状によって決まる。例えば、本図の例における単レンズ10の高さは約30μm、入射側遮光層30の高さ(深さ)は約15μmである。
【0018】
ここで、本実施形態の迷光入射側遮光層30は、レンズ境界に入射しようとする光を遮蔽する。これにより、開口部22から観察者側に出射する迷光を低減することができる。従って、フライアイレンズ100は、コントラストの高い映像光を出射することができる。
【0019】
図4は、入射側遮光層30の断面形状の他の例を示す。本実施例のフライアイレンズ100は、レンズ境界が、基材40に対して略垂直、すなわち単レンズ10の光軸と平行な側壁14と、側壁14に対して略垂直な底部15とを有する点で、図3に示した実施例と異なる。入射側遮光層30は、底部15及び側壁14の内側に堆積して形成されている。この場合、光軸方向に関する側壁14の高さの範囲内で入射側遮光層30の厚みがばらついても、光軸方向から見た入射側遮光層30の幅が変化しない。従って、光源側から見た単レンズ10の開口率の精度が高まり、フライアイレンズ100の光透過率のばらつきが少ないという効果を奏する。
【0020】
図5は、フライアイレンズ100aの入射側遮光層30の平面形状を示す。本実施例の入射側遮光層30は、基材40と平行な平坦面をなす。3つの単レンズ10に囲まれた領域における入射側遮光層30は、2つの単レンズ10が最も接近している部分の入射側遮光層30よりも幅が広い。本実施例のフライアイレンズ100aは単レンズ10の開口形状が円形なので、映像光をあらゆる方向に均等に拡散するという効果を有する。
【0021】
図6及び図7は、フライアイレンズ100の他の実施例を示す。図6は、フライアイレンズ100bの入射側遮光層30の平面形状を示す。図7は、図6に示したフライアイレンズ100bの斜視図である。本実施例のフライアイレンズ100bにおいて、複数の単レンズ10は、互いに隙間無く配列されている。すなわち、単レンズ10は、3以上の単レンズ10が一点で接するように配列されている。この場合、3以上の単レンズ10が一点で接しているレンズ境界は、光軸方向に関するレンズ深さがレンズ頂点から最も深い位置にある。そしてレンズ境界は、2つの単レンズ10が最も接近しているレンズ境界を頂点とするアーチ状のカーブを描く。このような形状をなすレンズ境界において、入射側遮光層30は、単レンズ10の光軸方向から見てほぼ一様な幅で形成されている。本実施例によれば、図5に示した実施例よりも、光源方向から見た場合のフライアイレンズ100の開口率が高まり、映像光の透過率を向上することができる。
【0022】
図8(A、B、C、D)は、フライアイレンズ100の生産方法の一例を示す。フライアイレンズ100の生産方法は、レンズ成形工程、入射側遮光層形成工程、及び出射側遮光層形成工程を備える。まず、公知のレンズ成形工程で、透明な基材40の片面に複数の単レンズ10を成形する。例えば、未硬化の紫外線硬化性樹脂を単レンズ10の雌型に充填し、その上に基材40を載せて紫外線を照射することにより、基材40の片面に複数の硬化した単レンズ10が成形される。
【0023】
次に、入射側遮光層形成工程において、複数の単レンズ同士が隣接するレンズ境界に遮光性インクを充填する。この様子を図8Aに示す。入射側遮光層形成工程では、例えば、フライアイレンズ100を支持するテーブルを回転させながら、単レンズ10の上方からディスペンサ34で遮光性インク32を垂らす。余分な遮光性インク32は、遠心力によりフライアイレンズ100の外側へ除去される。あるいは、遠心力により余分な遮光性インク32を排出する代わりに、テーブルを介してフライアイレンズ100を振動させることにより、余分な遮光性インク32をレンズ境界から排出してもよい。遮光性インク32は、単レンズ10のレンズ境界における毛細管現象により、フライアイレンズ100全体のレンズ境界に行き渡る。この後、遮光性インク32を乾燥させることにより、レンズ境界に入射側遮光層30が形成される。
【0024】
ここで、入射側遮光層形成工程におけるテーブルの回転速度を調節することによって、単レンズ10の光軸方向から見た入射側遮光層30の範囲を所望の範囲に調節してもよい。例えば、テーブルの回転速度を上げるほど、レンズ境界に残る遮光性インク32の量が減り、入射側遮光層30の範囲を狭くすることができる。
【0025】
出射側遮光層形成工程は公知のセルフアライメント法を用いる。まず、図8Bに示すように、基材40の単レンズ10と反対側における、単レンズ10の焦点近傍を含む一面に、未硬化の紫外線硬化性樹脂24を貼り付ける。そして、図8Cに示すように、単レンズ10のレンズ面から、単レンズ10の光軸に略平行な紫外光を入射させることにより、単レンズ10の焦点近傍に位置する紫外線硬化性樹脂24を選択的に硬化させる。さらに、図8Dに示すように、紫外線硬化性樹脂24の未硬化部分に出射側遮光層20を形成する。例えば、紫外線硬化性樹脂24の未硬化部分に選択的に黒色膜又は黒色粉体を付着させることによって出射側遮光層20を形成する。以上のようにしてフライアイレンズ100が生産される。
【0026】
尚、単レンズ10と遮光性インクの濡れ性を調節することによって、単レンズ10の光軸方向から見た入射側遮光層30の範囲を所望の範囲に調節する工程を更に備えてもよい。単レンズ10と遮光性インクの濡れ性が適正なレベルに保たれていない場合、入射側遮光層30の範囲を管理することが困難になる。例えば、単レンズ10と遮光性インクの濡れ性が高すぎる場合、単レンズ10のレンズ頂点部分まで遮光性インクが広がり、フライアイレンズ100の透過性が低下する。一方、単レンズ10と遮光性インクの濡れ性が低すぎる場合、フライアイレンズ100全体のレンズ境界に遮光性インクを充填することが困難になる。
【0027】
単レンズ10と遮光性インクの濡れ性は、例えば以下のようにして調節する。まず、単レンズ10の濡れ性は、成形後の単レンズ10の表面に公知のプラズマ処理、コロナ処理、又はオゾン処理を施すことにより向上することができる。この場合、処理時間を変えることにより濡れ性のレベルを調節することができる。また、プラズマ処理及びコロナ処理は、電圧を変更することによっても濡れ性のレベルを調節することができる。オゾン処理に関しては、使用するオゾンの濃度を変更することによって濡れ性のレベルを調節することができる。一方、遮光性インクの濡れ性は、遮光性インクの組成物中にレベリング剤を入れることにより調節することができる。あるいは、溶媒の単レンズ10の材料に対する溶解性が高い溶媒を遮光性インクの溶媒として用いることによっても、単レンズ10と遮光性インクの濡れ性を向上させることができる。
【0028】
以上の生産方法によれば、出射側遮光層形成工程において、入射側遮光層30がレンズ境界への紫外光の入射を防止するので紫外線硬化性樹脂24を露光する場合の迷光が低減する。これにより、光軸部分の紫外線硬化性樹脂24が高いコントラストで露光され、出射側遮光層20における光透過部分(開口)と遮光部分とのコントラストを高めることができる。
【0029】
また、入射側遮光層30がレンズ境界に入射する紫外光を遮蔽するので、紫外線硬化性樹脂24を露光する紫外光の直径が狭まり、出射側遮光層20の開口サイズを縮小できる。これにより、出射側遮光層20の開口率が低下するので外光の反射率が低減される。以上の作用により、映像光のコントラストが高い透過型スクリーンが生産できる。
【0030】
図9(A、B、C、D)は、フライアイレンズ100の生産方法の他の例を示す。本実施例は、単レンズ10を成形する工程において、単レンズ10のレンズ境界に入射側遮光層30を雌型から転写する。まず、本実施例におけるフライアイレンズ100の生産方法は、雌型への遮光剤塗布工程、レンズ成形工程、及び出射側遮光層形成工程を備える。尚、本実施例は、単レンズ10のレンズ境界が平坦なフライアイレンズ100を生産する場合に適している。図5に示したフライアイレンズ100aはそのようなフライアイレンズ100の一例である。
【0031】
まず、図9Aに示すように、雌型への遮光剤塗布工程において、フライアイレンズ100を成形する雌型60におけるレンズ境界を成形する部位、すなわち雌型60の脱型方向における最外面に遮光剤を塗布する。遮光剤の塗布方法は、例えば雌型60におけるレンズ境界を成形する部位を、遮光剤を保持するパッド36に接触させることにより塗布する。パッド36は、例えばウレタン等、柔軟性のある多孔質物質で構成され、予め遮光剤を含ませておく。遮光剤は、液状、ゲル状、又は粉状である。粉状の遮光剤を用いる場合には、雌型60に予めオイルなどを薄く噴霧しておくことが好ましい。これにより、遮光剤が雌型60にムラ無く付着する。雌型60に遮光剤を塗布する他の実施例として、表面がウレタン等、柔軟性のある多孔質物質で構成されたローラに遮光剤を含ませて、雌型60の表面でローラを転がしてもよい。塗布した遮光剤を乾燥させることにより、図9Bに示すように、雌型60におけるレンズ境界を成形する部位に、レンズ境界に転写されるべき入射側遮光層30が準備される。
【0032】
図9Cは、レンズ成形工程を示す。本実施例のレンズ成形工程は、遮光剤が塗布された雌型60を用いて、基材40の片面にフライアイレンズ100を成形する。例えば、遮光剤が塗布された雌型60に未硬化の紫外線硬化性樹脂16を充填し、その上に基材40を載せて紫外線を照射することにより、基材40の片面に複数の単レンズ10が成形され、さらに単レンズ10のレンズ境界に入射側遮光層30が転写される。この後、硬化したフライアイレンズ100を脱型することにより、図9Dに示すように単レンズ10のレンズ境界に入射側遮光層30が形成されたフライアイレンズ100ができる。この後、出射側遮光層形成工程において出射側遮光層20が形成される。出射側遮光層形成工程は、図8C及び図8Dを参照して説明した前述の生産方法と同様なので説明を省略する。
【0033】
本実施例に示したフライアイレンズ100の生産方法は、図8(A、B、C、D)を参照して説明した実施例と同様の効果を有する。更に、本実施例の生産方法は、入射側遮光層30の範囲が、雌型60に塗布される遮光剤の範囲で決まる。ここで、雌型60に塗布される遮光剤の範囲は、雌型60の形状でほぼ決定される。従って、入射側遮光層30の範囲が精度よく管理されるという効果を有する。
【0034】
以下、フライアイレンズ100の材料及び生産方法の詳細を説明する。単レンズ10の材料は、少なくとも可視光を透過する紫外線硬化性樹脂のうちで、屈折率が1.4から1.65程度の材料を用いる。屈折率が1.4よりも小さい材料を用いた場合、単レンズ10は十分なレンズパワーを有さず、入射光を適切な角度で拡散することができない。逆に、屈折率が1.65よりも大きい材料を用いた場合、レンズ形状によっては、単レンズ10に入射した光が内部反射し、スクリーンとしての透過効率が下がってしまう。
【0035】
雌型60の生産方法は、切削機械加工、ガラスのエッチング、フォトリソグラフィー技術、MEMS(マイクロマシン)法など、公知のいかなる手段を用いても良い。この場合、雌型60は平板状のものであってもよいが、基材40が可撓性を持つプラスチックフィルム等の場合には、ロール状の雌型を用いてもよい。ロール状の雌型の場合、可撓性をもつ基材40に対して単レンズ10を広い面積にわたって連続的に成形できる。これにより、単レンズ10を効率的に製造することができる。
【0036】
紫外線硬化性樹脂は、モノマー、プレポリマー、ポリマー、及び光重合開始剤などを含む。紫外線硬化性樹脂の特性は、モノマー、プレポリマー、ポリマー、及び光重合開始剤の成分を変更することにより調整される。モノマー及びプレポリマーは、基本的に少なくとも1個以上の官能基を含有する。光重合開始剤は、紫外線を照射することによりイオンまたはラジカルを発生する。
【0037】
ここで、官能基とは、ビニル基、カルボキシル基、水酸基などの反応性の原因となる原子団または結合様式をいう。本実施形態の生産方法では、紫外線を照射して樹脂を硬化させるので、紫外線による硬化性に優れたアクリロイル基などのビニル基を有するものを使用することが好ましい。アクリロイル基を有するモノマーは、公知のものから選択する。例えば、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、及び、1,3−ブタンジオールジアクリレートが挙げられる。他にも、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、及びトリプロピレングリコールジアクリレート等が挙げられる。更に、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートなどの2官能のもの、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、ジペンタエリストールヘキサアクリレートなどの3官能以上のものが挙げられる。上記モノマーの中でも3官能以下のものが、硬化後の膜硬度がHB以下となり可撓性に優れている点、架橋密度が小さく低体積収縮率のものが多い点、耐カール性に優れている点などから好ましい。
【0038】
本実施形態では上記モノマーと共に、プレポリマーを併用することが好ましい。本実施形態で使用されるプレポリマーは、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートなどを用いる。低体積収縮、可撓性などの理由から3官能以下、特に2官能または3官能のものを使用することが好ましい。
【0039】
光重合開始剤は、例えば、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、ミヒラーケトン系、ベンジル系、ベンゾイン系、ベンゾインエーテル系、及びベンジルジメチルケタール系等が挙げられる。他にも、ベンゾインベンゾエート系、α−アシロキシムエステル系等のカルボニル化合物、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン類等の硫黄化合物、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド等の燐化合物等が挙げられる。これらを単独あるいは2種以上混合して使用する。上記光重合開始剤の添加量は、モノマーおよび/またはプレポリマー成分100重量部に対して、0.1〜20重量部、さらには0.5〜15重量部であることが好ましい。光重合開始剤が範囲未満では硬化性が低くなり、また範囲を超えると硬化後ブリードアウトするという問題が起こるため好ましくない。
【0040】
また本実施形態においては樹脂組成物の硬化前、硬化中、さらには硬化後の樹脂の特性及び物性、又は硬化膜の特性及び物性を制御する為に、各種添加剤を使用してもよい。ここで硬化前の特性及び物性を制御する物質としては、塗料安定化剤(ゲル化防止、硬化防止)、増粘剤(塗工性向上)などがある。また硬化中の特性を制御する物質としては、光重合促進剤、吸光剤(両者とも硬化挙動の調整)などがある。さらに硬化後の膜特性を制御する物質として、可塑剤(可撓性の向上)、紫外線吸収剤(耐光性付与)などがある。
【0041】
本実施形態で使用される紫外線硬化性樹脂には、強度、可撓性、耐カール性などの点からポリマーを添加してもよい。ここでポリマーの種類は、公知のポリマー、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0042】
基材40は、プラスチックシートまたはプラスチックフィルムが好ましく用いられる。基材40の材質は、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、及びポリエーテル等が挙げられる。あるいは、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、マレイミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、及びノルボルネン樹脂などであってもよい。さらにこれらの共重合体、ブレンド物、及び架橋したものを用いてもよい。透明性などの光学特性と機械強度のバランスの点からは、ポリエステルフィルム中でも2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。
【0043】
前述の単レンズ10の生産方法は、単レンズ10のピッチが200μm以下であって、かつ集光点距離が200μm以下であるような、配列ピッチに対する集光点距離が比較的小さいフライアイレンズに適している。特に、単レンズ10のピッチが100μm以下で、集光点距離が配列ピッチより小さいフライアイレンズシートを精度よく、安定して製造するのに適している。
【0044】
開口部22を有する出射側遮光層20の形成方法は、公知のセルフアライメント法を用いる。セルフアライメント法は、紫外線等のエネルギー線をレンズに入射させ、レンズの集光作用を利用して単レンズ10の焦点付近を露光する。この場合、露光に用いる紫外線などのエネルギー線の光路と、映像光を透過させる場合の可視光の光路とが、単レンズ10および基材40の屈折率波長依存性によってずれる。このずれを補正する手段として、露光に用いる紫外線等を予め一定の角度に拡散させてもよいし、露光光の光軸を単レンズ10の光軸から±10度の範囲で揺動させながら露光してもよい。あるいは、これらを同時に実行してもよい。
【0045】
単レンズ10の光軸方向に関する出射側遮光層20の位置は、単レンズ10の焦点近傍に位置することが好ましい。これにより露光時の光線のコントラストを高めることができる。ここで、単レンズ10の光軸方向に関する出射側遮光層20の位置は、基材40の厚みを変更ことによって容易に精度よく調節できる。従って、出射側遮光層20における開口部22のパターンを高いコントラストで露光することができる。
【0046】
なお、出射側遮光層20は、主に樹脂で構成される。例えばバインダー樹脂に、フィラー成分を分散させて構成される。フィラー成分は、金属粒子およびその酸化物、又は顔料や染料が用いられる。フィラー成分の色調は、可視光に対して黒色であることが好ましい。これにより、フィラー成分がノイズの原因となる外光を吸収する。可視光に対して黒色の顔料は、例えばカーボンブラック、及びチタンブラック等を用いる。また、染料を用いる場合には耐光性などの点から日光堅牢度が5以上の黒色染料を使用することが好ましい。更に分散性、樹脂との相溶性、汎用性などの観点から、アゾ系の黒色染料を使用するのが最も好ましい。上記顔料及び染料を分散あるいは溶解させるバインダー樹脂は、公知の樹脂例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル、ノボラック樹脂、ポリイミド、エポキシ樹脂などを用いる。
【0047】
以上、本実施形態を実施の形態を用いて説明したが、本実施形態の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本実施形態の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施形態の一実施形態に係るリアプロジェクションディスプレイ800の構成を示す図である。
【図2】スクリーン500の構成を示す断面図である。
【図3】フライアイレンズ100の構成の一例を示す断面図である。
【図4】入射側遮光層30の断面形状の他の例を示す図である。
【図5】フライアイレンズ100aの入射側遮光層30の平面形状を示す図である。
【図6】フライアイレンズ100bの入射側遮光層30の平面形状を示す図である。
【図7】図6に示したフライアイレンズ100bの斜視図である。
【図8】フライアイレンズ100の生産方法の一例を示す図である。
【図9】フライアイレンズ100の生産方法の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10 単レンズ
14 側壁
16 未硬化の紫外線硬化性樹脂
20 出射側遮光層
22 開口部
24 紫外線硬化性樹脂
30 入射側遮光層
32 遮光性インク
34 ディスペンサ
36 パッド
40 基材
60 雌型
100 フライアイレンズ
200 フレネルレンズ
300 前面板
500 スクリーン
600 鏡
700 光学エンジン
800 リアプロジェクションディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像光を透過させる透過型スクリーンであって、
前記映像光を入射させる入射面に平面的に配列して設けられ、前記透過型スクリーンの出射面近傍に焦点を有する複数の単レンズと、
前記複数の単レンズ同士が隣接するレンズ境界に形成され、前記レンズ境界に入射する映像光を遮断する入射側遮光層と、
前記透過型スクリーンの前記出射面近傍において、前記複数の単レンズのそれぞれの焦点の近傍に、前記単レンズの光軸を中心とする開口が形成された出射側遮光層と
を備える透過型スクリーン。
【請求項2】
前記複数の単レンズは、互いに隙間無く配列されており、
前記入射側遮光層は、前記レンズ境界において前記単レンズの光軸方向から見て一様な幅で形成されている請求項1に記載の透過型スクリーン。
【請求項3】
前記レンズ境界は、前記単レンズの光軸と平行な側壁と、前記側壁に対して垂直な底部とを有し、前記入射側遮光層は、前記底部及び側壁の内側に堆積して形成されている、請求項1に記載の透過型スクリーン。
【請求項4】
映像光を透過させる透過型スクリーンであって、
前記映像光の光源から観察者側に向かって順に、前記映像光をコリメートするフレネルレンズと、コリメートされた前記映像光を拡散するレンズアレイとを備え、
前記レンズアレイは、
コリメートされた前記映像光を入射させる入射面に平面的に配列して設けられ、前記レンズアレイの出射面近傍に焦点を有する複数の単レンズと、
前記複数の単レンズ同士が隣接するレンズ境界に形成され、前記レンズ境界に入射する映像光を遮断する入射側遮光層と、
前記レンズアレイの前記出射面近傍において、前記複数の単レンズのそれぞれの焦点の近傍に、前記単レンズの光軸を中心とする開口が形成された出射側遮光層と
を有する、透過型スクリーン。
【請求項5】
複数の単レンズを有する透過型スクリーンの生産方法であって、
透明基材の一方の面に、前記透明基材の他方の面の近傍に焦点を有する複数の単レンズを成形する工程と、
前記複数の単レンズ同士が隣接するレンズ境界に遮光性インクを充填することにより、前記レンズ境界に入射する光を遮断する入射側遮光層を形成する工程と、
前記透明基材の前記単レンズと反対側の面に、未硬化の紫外線硬化性樹脂を形成する工程と、
前記単レンズのレンズ面から、前記単レンズの光軸に略平行な紫外光を入射させることにより、前記複数の単レンズのそれぞれの焦点近傍に位置する前記紫外線硬化性樹脂を硬化させる露光工程と、
前記紫外線硬化性樹脂の未硬化部分に出射側遮光層のパターンを形成する工程と
を備える透過型スクリーンの生産方法。
【請求項6】
前記単レンズの光軸方向から見た前記入射側遮光層の範囲が所定の範囲となるように、前記透過型スクリーンと前記遮光性インクの濡れ性を調節する工程を更に備える、請求項5に記載の透過型スクリーンの生産方法。
【請求項7】
複数の単レンズを有する透過型スクリーンの生産方法であって、
前記複数の単レンズを成形する雌型における、前記複数の単レンズ同士が隣接するレンズ境界を成形する部位に遮光剤を塗布する工程と、
前記遮光剤が塗布された前記雌型を用いて、透明基材の片面に前記複数の単レンズを成形し、前記レンズ境界に前記遮光剤を転写することにより、前記レンズ境界に入射する光を遮断する入射側遮光層を形成する工程と、
前記透明基材の前記単レンズと反対側の面に、未硬化の紫外線硬化性樹脂を形成する工程と、
前記単レンズのレンズ面から、前記単レンズの光軸に略平行な紫外光を入射させることにより、前記複数の単レンズのそれぞれの焦点近傍に位置する前記紫外線硬化性樹脂を硬化させる露光工程と、
前記紫外線硬化性樹脂の未硬化部分に出射側遮光層のパターンを形成する工程と
を備える透過型スクリーンの生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−163263(P2006−163263A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358244(P2004−358244)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000155698)株式会社有沢製作所 (117)
【Fターム(参考)】