透過型電子顕微鏡およびそれを用いた試料像の観察方法
【課題】電子顕微鏡において、従来、複数の方向からの試料の観察を一度に実施することは不可能であり、例えば、試料の3次元形状を求めるには、試料を様々な角度に傾斜させ、得られた各々の画像から3次元形状を再構築するトモグラフィー法、右視野像、左視野像の2枚の画像を試料の傾斜もしくは電子線の照射角度の変化によって作り出し、立体観察を可能成らしめるステレオ法などがあるが、いずれも複数枚の画像を得るには画像枚数回の画像取得作業を必要としており、時間分解能が低く、動的観察、実時間観察には至っていない。
【解決手段】照射光学系中に第1の電子線バイプリズムを設置し、角度の異なる2つの電子線を試料の観察領域に同時に照射する。この同時に試料を透過した2つの電子線を結像光学系に配置した第2の電子線バイプリズムにより空間的に分離して結像させ、照射角度の異なる2つの電子顕微鏡像を得る。この2つの画像を検出手段で取得しこれを元に試料の立体像や異なる情報を有する2つの像を生成し、表示装置に表示する。
【解決手段】照射光学系中に第1の電子線バイプリズムを設置し、角度の異なる2つの電子線を試料の観察領域に同時に照射する。この同時に試料を透過した2つの電子線を結像光学系に配置した第2の電子線バイプリズムにより空間的に分離して結像させ、照射角度の異なる2つの電子顕微鏡像を得る。この2つの画像を検出手段で取得しこれを元に試料の立体像や異なる情報を有する2つの像を生成し、表示装置に表示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡およびそれを用いた試料像の観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線は物質との相互作用が大きく、プローブとして用いるには高電圧で加速し、真空中を伝播させなければならない。そのため、レーザー光学系の様に、光学ベンチ上に3次元空間を利用して光学系を構成することは不可能で、光源(電子源)、レンズ、試料、観察装置が1つの真空容器(鏡体)内に1次元状に列を成して構成される。この様な構成から、従来の電子顕微鏡では試料を同時に2方向から観察することは大変に困難であり、2つの電子線を必要とする干渉型電子顕微鏡においても、1次元状に構成された光学系の範囲内での取り扱いであり、干渉の結果記録される干渉像も一時に1画像である。
【0003】
このような電子顕微鏡における3次元観察法、立体観察法としては、トモグラフィー、ステレオ法、共焦点走査法などが用いられている。ステレオ法は、最も古くから実施されている観察法で、電子線に対して試料をプラスマイナスのそれぞれの方向に数度傾斜させた2枚の画像(もしくは試料像)を取得し、ステレオビュアーなどを用いて立体的に観察する方法であり、例えば、非特許文献1に開示されている。ステレオ法では、傾斜角度の異なる2枚の画像が、右視野像、左視野像に該当し、2枚の画像の角度差が視差角となる。
【0004】
トモグラフィーは、近年のコンピュータを用いた画像処理技術の発達、試料位置/角度のコンピュータ制御の発達を受けて、同一視野内において試料傾斜角を例えば±70°の範囲で数度ずつ変更しながら複数枚(数十枚)の画像を取得し、得られた画像を計算機処理することによって試料の所定の視野領域の3次元構造を計算機内に再構築し、任意の方位からの立体観察を可能成らしめる方法である。トモグラフィーは、例えば、非特許文献2に開示されており、これはステレオ法を高精度に発展させたものと考えることができる。
【0005】
以上の方法は、画像の取得方法には依らないため、透過型電子顕微鏡において実施されているだけでなく走査透過型電子顕微鏡においても実施可能である。また、ステレオ法については、試料の表面形状を主な観察対象とする走査型電子顕微鏡においても実施されており、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1では、偏向器等を用いて電子線を偏向させ垂直照射電子線と斜め照射電子線とに切替えて、これら2つのビームを交互に試料に照射することで試料を異なった角度から観察できるようにしている。同様に、透過型電子顕微鏡を用いた試料の立体観察法が、特許文献3にも開示されている。特許文献3には、電子線源から発せられた電子線から、電子線台形プリズムに印加される電圧の極性の切替えによって異なる角度に偏向された第1の電子線と第2の電子線とを交互に形成し、これらの第1、第2の電子線を試料に交互に照射することにより第1の像、第2の像を撮像し、立体形状を再構築してモニタに表示する方法が開示されている。
【0006】
共焦点走査法は、走査透過型電子顕微鏡法の一種であるが、照射角度の大きな電子線を用いて電子線の光軸方向の収斂部を小さくするとともに結像系に小径絞りを用いて被写界深度の浅い2次元画像を作り出し、観察面を光軸方向に変化させた複数枚の画像から試料の3次元構造を得る方法である。共焦点走査法は例えば、特許文献2に開示されている。
【0007】
一方、上段の電子線バイプリズムが試料の下流側に配置され、下段の電子線バイプリズムが、上段の電子線バイプリズムの陰の空間に配される構造の2段バイプリズムを備えた干渉計が、特許文献4に開示されている。
【0008】
また、照射光学系に四角錐型電子線プリズムを用いた干渉装置の例が、特許文献5の図15に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−310070号公報
【特許文献2】特開2008−270056号公報
【特許文献3】特開2004−171922号公報
【特許文献4】特開2005−197165号公報
【特許文献5】特開2006−313069号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】桐谷道雄 『電子顕微鏡』Vol. 16, (1981) P71-P81
【非特許文献2】K. Kimura et al., J. Electron Microsc. Vol. 54 (4), (2005) P373-P377
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の電子顕微鏡において、複数の方向からの試料の観察を一度に実施することは困難であった。そのため、例えば、試料の3次元形状を求めるには、試料を様々な角度に傾斜させ、得られた各々の画像から3次元形状を再構築するトモグラフィー法、右視野像、左視野像に該当する2枚の画像を試料の傾斜もしくは電子線の照射角度の変化によって作り出し、立体観察を可能成らしめるステレオ法、走査型共焦点光学系においては、電子線の照射スポット(収斂部)と試料との位置関係を相対的に光軸方向に変化させて得られる複数の走査画像から試料の3次元形状を求める方法などがある。
【0012】
しかし、上記各方法は、いずれも複数枚の画像を順次取得するため、画像取得の所要時間が大きく、動的観察、実時間観察には不適当な方法である。すなわち、いずれの方法も複数枚の画像を得るには画像枚数回分の画像取得作業を必要としており、時間分解能が低く、動的観察、実時間観察には至っていない。
【0013】
その欠点を補うために、ステレオ法においては、試料を傾斜させる代わりに、電子線の照射角度を変化させることによって2枚の画像を短時間で取得する方法が考案されており、例えば、上記特許文献3に開示されている。
しかし、特許文献3の方法でも、印加電圧の極性を交互に切替えて電子線を偏向させて第1、第2の電子線を形成し、試料に交互に照射することで、第1の像と第2の像を順次取得している。そのため、第1の像、第2の像すなわち右視野像、左視野像の取得においてそれぞれ照射光学系の変更・調整と検出系との同期操作が必要であり、それらの所要時間内において動的観察を可能成らしめるもので、右視野像、左視野像の同時取得には至っていない。
【0014】
本発明の主たる目的は、2種類の観察像の同時取得によるデータ量の倍増、及びそれによるデータ精度、信頼度の向上などを実現する透過型電子顕微鏡およびそれを用いた試料像の観察方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の代表的なものの一例を示せば以下の通りである。即ち、本発明の透過型電子顕微鏡は、電子線の光源と、前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持手段と、前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、前記結像レンズ系による前記試料の像を取得するための少なくとも1つの検出手段とを備えた透過型電子顕微鏡であって、前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の上流側に配置された第1の電子線バイプリズムと、前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の下流側で、前記第1の電子線バイプリズムによって作り出される前記電子線の陰の空間に配置された第2の電子線バイプリズムとを有し、前記第1の電子線バイプリズムにより、前記光源から放出された電子線を偏向させて、前記試料の所定の領域を異なる角度から照射する第1の電子線と第2の電子線とに分離し、前記第2の電子線バイプリズムにより、前記試料を透過した前記第1の電子線および前記第2の電子線を偏向させて、前記第1の電子線により作られる前記試料の第1の像と前記第2の電子線により作られる前記試料の第2の像とを空間的に分離して形成し、前記第1の像と前記第2の像とを前記検出手段で取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、試料の同一領域の複数の観察像が同時に得られる様になり、取得情報量が倍増し、観察者にとっては観察効率が向上する。すなわち、同時に取得される右視野像、左視野像に該当する2枚の画像は、試料を全く同時刻に透過した2つの電子線の結像によるものであり、同時観察が厳密に実現されている。そのため、試料像の検出系の時間分解能に制約されるのみで、通常の電子顕微鏡観察と同様の動的観察、実時間観察が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】電子線バイプリズムの構成とこの電子線バイプリズムを利用した本発明による電子線の偏向を示す模式図である。
【図1B】図1Aの電子線バイプリズムの透過前後の各位置における、電子線の断面形状を示す模式図である。
【図2】照射光学系の電子線バイプリズムを照射レンズの主面に配置した、本発明の原理を示す光学系の模式図である。
【図3】図2の光学系とは、右視野像と左視野像を入れ替えた状態で結像させる、本発明を適用した他の光学系の模式図である。
【図4】照射光学系の電子線バイプリズムを照射レンズの上方に配置した、本発明を適用した他の光学系の模式図である。
【図5】照射光学系の電子線バイプリズムを照射レンズの下方に配置した、本発明を適用した他の光学系の模式図である。
【図6】本発明を適用し、照射光学系の電子線バイプリズムを照射レンズの下方で、光源の像のさらに下方に配置した場合の光学系の模式図である。
【図7】本発明を適用し、照射光学系の電子線バイプリズムを照射絞りと併用した場合の光学系の模式図である。
【図8】本発明を適用し、照射光学系の電子線バイプリズムを照射絞りの上方で併用した場合の光学系の模式図である。
【図9】本発明を適用し、照射光学系に2つの電子線バイプリズムを用いた場合の光学系の模式図である。
【図10】本発明において干渉顕微鏡像を得るための原理を示す光学系の模式図である。
【図11】本発明を適用し、照射光学系の電子線バイプリズムを、照射絞りの下方で併用した場合の光学系の模式図である。
【図12】本発明の第1の実施例になる電子顕微鏡の構成例を示す模式図である。
【図13】第1の実施例における光学系の調整法を示したフローチャートである。
【図14】本発明の第2の実施例になる電子顕微鏡の構成例を示す模式図である。
【図15】本発明の第3の実施例になる電子顕微鏡の構成例を示す模式図である。
【図16】本発明の第4の実施例になるトモグラフィーへの応用例を示す模式図である。
【図17】本発明の第5の実施例になるトモグラフィーへの応用例を示す模式図である。
【図18】本発明の第6の実施例(2電子線による同時フーコー法)になる模式図である。
【図19】本発明の第7の実施例(4電子線による同時フーコー法)になる模式図である。
【図20】本発明の第8の実施例(明視野像/暗視野像の同時観察)になる模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
最初に、本発明の概要を説明する。
本発明は、透過型電子顕微鏡において複数の方向からの試料の観察を可能成らしめるとともに、立体観察法において、動的観察、実時間観察を実施するためになされたもので、右視野像、左視野像に該当する2枚の画像の実時間、同時取得を特徴とする。
【0019】
前提として、透過型電子顕微鏡の光学系は、光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、電子線が照射した試料の像を観察領域に結像するための対物レンズおよび複数のレンズから構成される結像光学系(結像レンズ系もしくは拡大結像系とも言う)とを備えている。
【0020】
本発明の一形態では、照射光学系中に第1の電子線バイプリズムを設置して角度の異なる2つの電子線を作り出し、試料の所定の観察領域に異なる角度から同時に照射する。この全く同時に試料を透過した2つの電子線を結像光学系に配置した第2の電子線バイプリズムにより空間的に分離し、検出面(観察記録面)にそれぞれ個別に結像させることにより、同時に右視野像、左視野像に該当する照射角度の異なる2つの電子顕微鏡像を得る。なお、この2つの電子顕微鏡像を検出手段により検出する検出面を、以下、便宜的に観察記録面と称するが、この観察記録面では試料像の検出と記録を行う場合のみならず、試料像の検出のみが行われる場合もあることは言うまでもない。
【0021】
これにより、同一領域の複数の観察像が同時に得られる様になり、取得情報量が倍増し、実験効率が向上する。具体的には、以下の通りである。
上述した構成により取得される右視野像、左視野像に該当する2枚の画像は、全く同時刻に試料を透過した2つの電子線の結像によるものであり、同時観察が厳密に実現されている。そのため、試料像の検出系の時間分解能に制約されるのみで、通常の電子顕微鏡観察と同様の動的観察、実時間観察が可能となる。また、2種類の試料像の同時取得によるデータ量の倍増、もしくは、時間的画像精度の向上、2枚の画像に対する拡大結像条件が全く同じであるためデータ精度、信頼度の向上などを実現できる。
【0022】
さらに、右視野像、左視野像に該当する2枚の試料像取得に際して、新たな光学系の変更、再調整は必要なく、照射系、結像系を通じて全く同じレンズ、偏向器が用いられるため、誘導磁場やレンズ電流の揺らぎなど、取得される2枚の試料像に加わるノイズ等の外乱は同じものであり、画像解析時のアーティファクトを生じ難い。以上のことから、本発明によれば、試料の3次元形状・立体観察において、高精度、高分解能で、かつ高時間分解の動的、実時間観察が可能となる。
【0023】
また、試料を多方向から実時間観察できるため、経時変化するような試料(例えば生物試料等)のリアルタイム多面観察が可能となる。また、細胞内部や生体内の微細構造を含む、比較的厚みを有する生物試料に対しても同様に、高精度且つ高時間分解の動的、実時間観察が可能となることはいうまでもない。
【0024】
磁区構造を観察するローレンツ顕微鏡法(フーコー法)においても、磁化状態により異なる2方向に偏向された電子線を同時、個別に結像できるため、より高精度な磁区構造観察が可能となる。
【0025】
以下、本発明の構成要素である電子線バイプリズム及び光学系、さらには干渉光学系について説明する。
<電子線バイプリズム>
電子線の伝播方向や位置を分離・重複させるために、照射光学系と、結像光学系において各々少なくとも1つずつの電子線バイプリズムを必要とする。先ず、この電子線バイプリズムについて、図1A、図1Bを参照しながら説明する。
【0026】
電子線バイプリズムは、光学におけるフレネルの複プリズムと同じ作用をする電子光学系における装置で、電界型と磁界型の二種類がある。このうち、広く普及しているものは図1Aに示す電界型電子線バイプリズムであり、これは、中央部の極細線電極9と、その電極を挟む形で平行に保持され接地された一対の平行平板型接地電極99とで構成される。例えば、図1Aに示したごとく、光軸2上の中央極細線電極9に正電圧Vfを印加すると、中央極細線電極9の近傍を通過する電子線e−は、この中央極細線電極9の電位により互いに向き合う方向に偏向される(電子線の軌道27参照)。
もちろん、光学系の構成によっては、電子線バイプリズムの中央極細線電極9に負電圧を印加する場合もあり、このときは、中央極細線電極9の近傍を通過する電子線e−が互いに離れる方向に偏向される。
【0027】
照射光学系に設置される電子線バイプリズムは、電子線を2つの領域(第1の電子線21と第2の電子線23)に分離する機能を有する。
【0028】
図1Bに、電子線の進行方向の各位置での電子線の断面形状を示している。図1Bの(a)−(c)は、各々、図1Aにおける電子線の断面A−A’、B−B’、C−C’の各位置での電子線(電子線の断面もしくは照射領域、以下、単に電子線)の形状を示している。光源から放出された電子線20の断面(A−A’)を円形とした場合、これが、断面(B−B’)に示すように、電子線バイプリズムの中央極細線電極9により該中央極細線電極の軸を中心にして左右対称な2つの半円形の領域(第1の電子線21と第2の電子線23)に分離され、かつ、これら2つの領域の電子線が互いに向き合う方向に偏向されることにより、断面(C−C’)に示すように、これら2つの半円形の領域(第1の電子線21と第2の電子線23)が全く同時刻に試料面上の同一観察領域に重畳して照射される。
【0029】
本発明において、結像光学系に設置される電子線バイプリズムは、2つの領域の電子線21、23を、互いに離れた干渉を生じない位置に空間的に分離する機能を有する。試料の観察記録面上で得られる2つの電子線(右視野電子線21、左視野電子線23)は、全く同時に試料を透過した2つの電子線、すなわち同時に試料面上の同一観察領域に重畳して照射された2つの電子線によって得られた試料透過像である。
【0030】
以下、電子線バイプリズムとして電界型電子線バイプリズムを用いて説明を行う。しかし、本発明は電子線バイプリズムとして電界型、磁界型に依らず構成可能であり、以下の説明で用いる電界型電子線バイプリズムに限定するものではない。
【0031】
なお、中央極細線電極9から離れるほど電子線に作用する電位は小さくなるが、電位が作用している空間範囲が長くなるため、結果的に電子線の偏向角度は入射位置に依らず極細線電極への印加電圧に比例する。すなわち、αを電子線バイプリズムによる電子線の偏向角度とすると、中央極細線電極9への印加電圧Vfと偏向係数kを用いてα=kVfで表わされる簡単な関係を持つ。偏向係数kは中央極細線電極9と接地電極99との距離など装置の形状に依存するが、一般に加速電圧が100kVから300kVの電子顕微鏡においては k=2×10-6 rad/V 程度であり、中央極細線電極への印加電圧が500Vのときに、結晶によるブラッグ角1°の1/10程度の値(0.1°(0.001 rad))となる。この角度は、照射光学系により拡大、縮小が可能で、±5°(±0.5 rad)の照射角度差を作りだせる。
<光学系>
本発明は、1つの鏡体からなる電子顕微鏡の1つの光軸のみをもつ電子光学系において、照射角度の異なる2つの電子線(第1の電子線と第2の電子線)を作り出し、試料を透過後、それぞれの電子線を異なる試料像として個別に結像、記録することを特徴とする。
【0032】
図2に、本発明を適用した代表的な光学系の例を示す。電子の光源1から放出された電子線は、照射光学系(照射レンズ4)により試料への照射に際して適切な電子密度、照射領域と成るよう調整される。このとき同時に、照射光学系に配置された第1の電子線バイプリズム91により照射電子線は2つの電子線(第1の電子線21と第2の電子線23)に分離される。ここでは、第1の電子線21の領域をドットで表示し、第2の電子線23の領域と区別している。
試料3の所定の領域を異なる角度から照射した2つの電子線21、23は、それぞれ拡大結像系にて結像される。31は対物レンズ5により結像された試料の像を示している。2つの電子線21、23は、さらに、例えば、結像レンズ6による光源の像(光源の実像)10の近傍に配置された第2の電子線バイプリズム92により空間的に分離され、観察記録面89の空間的に離れた位置にそれぞれ個別に像(試料の右視野像321、試料の左視野像323)を結ぶ。
【0033】
図2の光学系においては、簡単のため、電子線の加速管など照射光学系に至るまでの装置(電子源もしくは電子銃)を、省略して電子の光源1として表すとともに、照射光学系も1段のレンズ4で代表して示している。拡大結象系においても、本発明の概念をより判り易く説明するため、対物レンズ5と拡大レンズ6の各1段のみを描いている。
【0034】
さらに、2つの電子線バイプリズム91、92に関しては、中央極細線電極をその断面形状を示す円でのみ表し、接地電極は省略している。
また、電子線バイプリズムについて、光学系の中で厳密に中央極細線電極を示す場合は『電子線バイプリズムの中央極細線電極』と表記し、電子線の偏向器として慣用する場合には『電子線バイプリズム』とのみ表記するが、符号に関しては同じものを用いる。以上は、図2以降の図、説明においても同様である。
【0035】
図2の光学系において、照射光学系に配置される第1の電子線バイプリズム91は、試料直上(電子線の進行方向の上流側)の照射レンズ4の主面に配置した場合を図示しているが、その設置位置は照射レンズ4の上下に複数の場合が考えられる。利用する照射レンズとしては、上流側の第1照射レンズ、その下流側の第2照射レンズのどちらでも可能である。照射絞りとの併用、下流側第2照射レンズによる拡大、もしくは縮小の可能性から、上流側の第1照射レンズを利用する方が合理的と推定される。しかし、この構成の限りではないことはもちろんである。
【0036】
一方、拡大結像系に配置される第2の電子線バイプリズム92は、照射光学系に配置された電子線バイプリズムの陰の空間22に配置すればよく、電子顕微鏡の機械的位置構成などを勘案して具体的な設置位置が定められれば良い。このように下流側の電子線バイプリズムが、上流側の電子線バイプリズムの陰の空間に配される点は、特許文献4に開示された2段バイプリズム干渉計と同様の構成である。しかし、特許文献4の下流側の電子線バイプリズムは、観察面に干渉像を生成するように電子線を偏向させる機能を有する点で、本発明の電子線バイプリズム92とは異なる。
【0037】
なお、第2の電子線バイプリズム92が配置される位置は、対物レンズ5の下流側でも良く、対物レンズ5と第1拡大レンズ、第1拡大レンズと第2拡大レンズ、第2拡大レンズと第3拡大レンズの間などが想定される。いずれの位置においても、機械的、空間的に第2の電子線バイプリズム92を設置可能な電子顕微鏡の装置上のスペースがあることと、第1の電子線バイプリズムの陰の空間22内に収まる中央極細線電極の太さであることが必要である。
【0038】
まとめると、第1の電子線バイプリズムが配置される位置は、電子線の光軸2上で試料の配置される位置より電子線の上流側の照射光学系であれば良く、これには照射光学系を構成するレンズと試料の間の位置も含まれる。さらに、第2の電子線バイプリズムが配置される位置は、電子線の光軸上で試料の配置される位置より電子線の下流側で、第1の電子線バイプリズムによって作り出される電子線の陰の空間であれば良く、これには結像レンズ系を構成するレンズと、試料との間や観察面との間も含まれる。
【0039】
なお、第2の電子線バイプリズムは、観察領域において重畳された2つの領域の電子線21、23を、互いに空間的に分離する機能を有するものであれば良く、中央極細線電極9に印加電圧の極性は負電圧に限定されるものではない。
【0040】
図3の光学系は、第2の電子線バイプリズム92への印加電圧Vfの正負を図2の光学系の場合と逆転させた例を示す。右視野電子線21と左視野電子線23を大きく偏向させることによって、図2の場合とは互いに逆の検出系へ、右視野像321、左視野像323を記録することができる。
【0041】
図3の光学系の構成で立体視を行った場合には、図2の光学系と比較して凹凸の逆転した試料像が得られる。このように、本発明における第2の電子線バイプリズム92の利用の仕方は、従来の電子線ホログラフィーなどで用いられる電子線バイプリズムの使い方とは本質的に異なり、2つの試料像をそれぞれ個別に結像し、検出手段により取得するために、2つの電子線を空間的に分離させるために使用することを特徴とする。
【0042】
また、広範囲を入射電子線が照射した場合には、第2の電子線バイプリズム92による、偏向だけでは2つの試料像を分離しきれず、右視野像へ左視野像が、左視野像へ右視野像が、互い重畳されて観察される可能性がある。この場合には、観察記録面89の直前での視野制限を行い2試料像の重畳を防げばよい。但し、この場合には、2孔の視野制限が必要となる。そのため、図3に示したごとく、制限視野絞り56を用いて、結像の初期に視野制限を実施することが合理的である。これにより、制限視野絞りの像356が試料の像(右視野像321、左視野像323)に重畳される。
【0043】
既に述べた通り、第1の電子線バイプリズムが配置される位置は、電子線の光軸上で試料の配置される位置より電子線の上流側の照射光学系であれば良い。図4、図5、図6に、それぞれ第1の電子線バイプリズム91の位置を電子線の進行方向において変えた場合の光学系の例を示す。図4の光学系は、第1の電子線バイプリズム91を試料3の直上の照射レンズ4のさらに電子線の進行方向の上流側に配置した例である。図5の光学系は、第1の電子線バイプリズム91を試料3の直上の照射レンズ4の電子線の進行方向の下流側で、該照射レンズ4による光源の像10の上流側に配置した例である。図6の光学系は、第1の電子線バイプリズム91を試料3の直上の照射レンズ4の下流側で、かつ該照射レンズ4による光源の像10のさらに下流側で、試料3の位置より上流側に配置した例である。このように第1の電子線バイプリズム91の位置を電子線の進行方向において変えることで、試料への照射角度が異なり、ひいては観察記録面で得られる試料像のもつ情報が異なったものになる。
【0044】
図2、図3、図4、図5の各光学系における第1の電子線バイプリズム91への印加電圧Vfは負、図6の光学系における第1の電子線バイプリズム91への印加電圧Vfは正であり異なっているが、これは第1の電子線バイプリズム91と照射レンズ4と光源の像10の位置とによって定まるもので、これらの光学系の試料上の所定の領域を第1の電子線21と第2の電子線23により2方向から照射する作用に対しては同等である。
【0045】
電子線の試料3に対する照射角度を分離、複数化する第1の電子線バイプリズム91は、照射角度、照射電子線量を制御する際に用いられる照射絞り15と併用が可能である。図7に、照射絞り15と、第1の電子線バイプリズム91の併用の例を示す。この例では、照射絞り孔(1孔)の中央部に第1の電子線バイプリズムの中央極細線電極91が配置され、これらが照射レンズ4の主面近傍に配置されている。
【0046】
図8の光学系は、照射絞り15に2孔のものを用いるとともに、照射絞り15と第1の電子線バイプリズム91の位置を一致させない場合の例である。すなわち、照射絞り15を照射レンズ4の主面近傍に配置し、第1の電子線バイプリズム91を照射絞り15の上流側に配置している。
図8の光学系に示した様に、照射絞りを2孔に分けた場合、照射レンズ4の励磁(焦点距離)によっては、第1の電子線バイプリズム91による電子線の偏向作用が無くても、試料への2つの照射角度を作り出すことは可能であるが、照射光学系に求められる制御性を考慮すると、第1の電子線バイプリズムを備えることが好適である。
<干渉光学系への適用>
上述の光学系においては、電子線の干渉性については特に考慮しなかった。照射絞り、および第1の電子線バイプリズムの中央極細線電極から発生するフレネル回折電子線は、主電子線21、23とともに試料に重畳して照射され、フレネル縞を発生させるが、熱電子源を光源とする場合には、電子線の可干渉性が低くフレネル縞の発生領域は試料照射領域の周辺部に限られるため問題とならない。これは熱電子型電子顕微鏡において、照射絞りの発生させるフレネル縞が観察像に影響を与えないことから明らかである。しかし、電子線源を例えば電界放出型とした場合には、フレネル縞の影響は照射領域の広範囲に及び、観察像へも影響を与える可能性がある。
【0047】
図9の光学系は、干渉型電子顕微鏡において、本発明を実施する場合の、光学系について示したものである。照射光学系に電子線バイプリズムを2つ用いる点を特徴としている。第1の電子線バイプリズム91、および照射絞り15を、照射レンズ4の物面に設置し、試料3上に第1の電子線バイプリズム91と照射絞り15の像を結像させることによりフレネル縞の発生を抑止するものである。2つの電子線21、23が試料3の同じ所定の領域を照射するために、照射光学系内において、第3の電子線バイプリズム93が第1の電子線バイプリズム91の陰の空間22に配置され、2つの電子線21、23を偏向させている。この配置をとることにより、第3の電子線バイプリズム93によるフレネル回折は発生しない。従ってこの照射光学系を採る際には、干渉型電子顕微鏡であっても、フレネル縞の影響なく、同一視野の2つの試料像を観察記録することができる。
【0048】
図10の光学系は、図9の干渉型電子顕微鏡において、さらに電子線ホログラフィーを行うために第4の電子線バイプリズム94を追加した一例である。すなわち、干渉像を得るための第4の電子線バイプリズム94が、対物レンズ5の電子線の下流側で、かつ対物レンズの像31の上流側に配置されている。この第4の電子線バイプリズム中央極細線電極94の方位は、図10の紙面内でかつ光軸2と直交しており、第1の電子線バイプリズム91の方位とは『ねじれの位置関係』にある。すなわち、電子光学上の右視野電子線21、左視野電子線23ともに、物体波と参照波は、第4の電子線バイプリズム94により紙面の上下に分離されている。右視野電子線21、左視野電子線23の各々の物体波、参照波が各々、観察記録面89上に試料の像(321と323)と干渉縞8を描く様子を図10の下部に描いている。電子線ホログラフィーを行うための光学系は、従来の電子線干渉顕微鏡とまったく同様に構築することが可能で、図10のごとく、干渉のための電子線バイプリズムを1段利用するものに限らず、特許文献4に開示された2段電子線バイプリズム干渉光学系も、従来法と同様に構築可能である。すなわち、本発明による2視野を同時に得るための光学系は、干渉光学系の構築とそれによる干渉像の観察を妨げるものではない。
【0049】
図10の光学系に関し、第4の電子線バイプリズム94に電圧を印加しない状態で使用すれば、図9の光学系と同じものとなる。従って、同じ装置において、第4の電子線バイプリズム94に電圧の印加状態を変えることによって、同一視野の2つの試料像を観察記録する処理と、同一視野の2つの試料像の干渉像を観察記録する処理とを使い分けることも出来る。
【0050】
図11は、図8の光学系と同様に2孔の照射絞り15を用いた場合の、干渉型電子顕微鏡のための照射光学系の例である。照射絞り15を照射レンズ4の物面とし、試料位置をその像面とすることによりフレネル縞の発生を抑止する。そして、試料上の同一視野を2つの角度の電子線で照射するために、照射絞りの孔間の陰の空間に第3の電子線バイプリズム93を配置した例である。照射絞り15の電子光学系上の位置が、照射レンズ4の物面と定められたこと以外は、図8の光学系の例と概念は同じである。なお、図11は2孔の照射絞り15を採用した場合には、第1の電子線バイプリズム91を省略し、第3の電子線バイプリズム93のみにより、試料への2つの照射角度を作り出すことが出来ることを示している。
【0051】
以上説明してきた本発明の各光学系は、照射光学系に設置した1つもしくは2つの電子線バイプリズムを用いて照射角度の異なる2つの電子線を作り出し、試料を照射・透過後、それぞれの電子線を再度拡大結像光学系の電子線バイプリズムにより空間的に分離し、それぞれ異なる試料像として個別に結像、記録することを特徴としている。
【0052】
なお、これら干渉型電子顕微鏡においては、照射電子線の安定度は電子線の可干渉性に直接関係しており、電子顕微鏡への設置においては、第1電子線バイプリズムでの帯電効果や電圧印加のための導入線などが、誘導磁場によるノイズの源とならないような配慮、工夫が成されるのは当然のことである。
以下,図面を参照しながら,本発明を具体的に適用した透過型電子顕微鏡の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0053】
本発明の実施例1として、図4に示した光学系を搭載した透過型電子顕微鏡の例を、図12に示す。図12において、電子光学系は、電子源(もしくは電子銃)1、加速管40、照射光学系(第1照射レンズ41、第2照射レンズ42)、及び結像光学系(対物レンズ5、第1結像レンズ61、第2結像レンズ62、第3結像レンズ63、第4結像レンズ64)を備えている。この電子光学系は真空容器18中に組み立てられ、真空ポンプにて継続的に排気されている。
【0054】
また、19は電子源の制御ユニット、49は加速管の制御ユニット、48は第1照射レンズの制御ユニット、96は第1の電子線バイプリズムの制御ユニット、47は第2照射レンズの制御ユニット、39は試料ホルダー(図示略)を介して試料3を制御する試料の制御ユニットである。59は対物レンズの制御ユニット、69は第1結像レンズの制御ユニット、68は第2結像レンズの制御ユニット、97は第2の電子線バイプリズムの制御ユニット、67は第3結像レンズの制御ユニット、66は第4結像レンズの制御ユニット、51は制御系コンピュータを示している。第1の電子線バイプリズムの制御ユニット96や第2の電子線バイプリズムの制御ユニット97は、α=kVfの関係に基き、第1、第2の電子線バイプリズムの各中央極細線電極9への印加電圧Vfを制御する。
【0055】
制御系コンピュータ51は演算処理部及び所定の情報を格納するための記憶部やデータストレージを備えており、さらにモニタ52や電子顕微鏡本体とオペレータとのマン・マシンインタフェースとなるユーザインタフェース53及び画像記録・演算処理装置77が接続されている。79は試料の観察記録面上で得られる2つの電子線(右視野電子線21、左視野電子線23)の像を検出する検出手段としての撮像部、78は撮像部79の制御ユニットである。
【0056】
制御系コンピュータ51の記憶部には、図13で説明するフローチャートを実行するためのプログラムを含む、上記各制御ユニットを制御して試料の記録・観察を実行するためのプログラムが記憶されており、制御系コンピュータ51は、これらのプログラムに従って、上記各制御ユニットを制御する。ユーザインタフェース53は、例えば、キーボードやマウス、GUI機能などの情報入力手段を備えている。画像記録・演算処理装置77(以下、画像処理装置、演算処理装置ともいう)は、撮像部79で取得した複数の試料像の情報を記録するとともに、該記録された画像情報を処理して新たな情報を持つ画像を生成し、画像表示装置76に表示する機能を有している。
【0057】
なお、検出手段を構成する撮像部79は、例えば、試料像の検出機能と記録機能と有するものであっても良く、あるいは、光センサーのように単に観察記録面の試料像の検出機能のみを有し、その結果を遂次画像記録・演算処理装置77に送信するものであっても良い。例えばTVカメラやCCDカメラでは、試料像を検知しA/D変換して記録媒体に一時的に記録し、画像記録・演算処理装置77などに送信する。光センサーの場合は、フォトダイオード等の光電変換素子と、光電変換素子からのアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器とを備え、試料像の光を検出しその情報を光電変換、A/D変換したデジタルデータが画像記録・演算処理装置77や制御系コンピュータ51に送信される。
【0058】
なお、画像記録・演算処理装置77に代えて、画像記録・演算処理装置77の機能を有する画像演算プログラムを制御コンピュータ51やネットワークを介して接続された上位のコンピュータ内に組み込み、右視野像と左視野像を利用した異なる情報を含む2つの画像、もしくは右視野像と左視野像の視差等を利用して3次元形状を構築し、モニタ52に表示し、さらにプリンタなどの出力装置に出力することもできる。
【0059】
また、撮像部79で取得した複数の試料像情報やそれらの画像処理の結果を、各制御ユニットにより与えられる試料の測定条件、測定時刻などの情報と共に、制御コンピュータ51や上位のコンピュータのデータストレージに記録し、別途実験者や他の者が利用できるようにしても良い。
【0060】
本実施例において、試料3よりも電子線の進行方向上流側の第1の電子線バイプリズム91は、照射光学系の第2照射レンズ42の主面近傍に配置されている。そして、角度の異なる2方向から試料3に照射され、透過した2つの電子線(21,23)は、結像光学系の対物レンズ5、第1、第2拡大レンズ61、62で拡大された後、電子線の進行方向下流側に位置する第2電子線バイプリズム92で空間的に分離され、さらに2段の拡大レンズ63、64を経た後、観察記録面89で2つの像321、323を結ぶ。図12には、2つの像321、323がそれぞれ、感度を調整した個別の撮像部79で検出、記録され、演算処理装置77に送られて、1つの画像データ760として表示装置76に出力される様子を示している。演算処理装置77の処理データは、制御系コンピュータ51のデータストレージにも格納され、試料面の観察や解析などに利用される。
【0061】
図12は、従来型の100kVから300kVタイプの電子顕微鏡を想定して、2つの電子線バイプリズムや、拡大結像系のレンズを描いているが、これらの電子顕微鏡光学系の構成要素は、この図に限られるものではない。さらに、実際の装置ではこの図12に示した構成要素以外に、電子線の進行方向を変化させる偏向系、電子線の透過領域を制限する絞り機構などが存在する。しかし、これらの装置は、本発明には直接的な関係が無いので、この図では省略している。さらに、真空排気系についても、本発明とは直接の関係が無いため省略する。以下の図においても、同様である。
【0062】
ここで、検出系の2つの撮像部79の調整方法の一例について述べる。
(1)感度の調整:
同種同型の記録媒体を用いても、左右2視野の試料像が自然な形で立体視されるには、2つの試料像の明るさ、コントラストが同じである必要がある。そこで、第1、第2の電子線バイプリズム91と92を光軸2上に挿入しない状態で観察記録面89を広く均一に電子線照射し、このとき検出系の2つの検出・記録媒体である撮像部79において同じ明るさが入力データとなるように感度調整を行う。この入力データが出力されるモニタなどの表示装置76の調整も同時に行う。
(2)照射電子線の調整:
上記(1)の調整の後、第1、第2の電子線バイプリズム91と92を光軸2上に挿入し、しかるべく電子線を偏向して左右2視野の試料像を得る。このとき、左右の入力画像に明るさの差がないように第1の電子線バイプリズム91の位置を調整する。もしくは、電子線の照射位置を調整する。
【0063】
このように電子線バイプリズムにおいては、光軸2上への挿入、引出が簡便に行われる方が操作上便利が良い。また、各々の電子線バイプリズムの位置の微調整も出来なければならない。但し、その精度は、現行の電子線バイプリズムの性能の程度で十分である。
【0064】
撮像部79の調整は随時可とし、何らかの事情による左右2視野像の明るさの差を、電子光学系ではなく、画像処理装置側で補正可能としておくことは実使用に際しての利点と成る。このときの初期の調整値(同じ感度値)をデフォルトとして保全するとともに、いつでも復帰可としておくことは当然である。
【0065】
ここで検出系の感度調整を含めて、上記光学系の調整法について、図13のフローチャートを参照しながら説明する。
【0066】
ステップ01 通常の立ち上げ作業を行い、電子線を発生させる。(この時点では、試料、両電子線バイプリズムは光軸外にある。)
ステップ02 観察記録面89を広く均一に電子線照射する。
ステップ03 両検出系78が同じ入力データとなるよう、検出系のカメラ79の感度を補正する。
ステップ04 両検出系の画像出力装置76が、同じ明るさの画像を出力するように画像出力装置を調整する。
ステップ05 第1の電子線バイプリズム91を光軸上に挿入する。
ステップ06 第1の電子線バイプリズムに電圧を印加し、電子線の重畳照射領域を作り出す。重畳照射領域の観察は、図12に図示はしないが、観察記録面全体を視野に納めるカメラ、もしくは観察記録面全視野をビューポートなどから目視により実現できる。
ステップ07 照射レンズ系により、観察を想定している試料の大きさ、サイズに合わせて重畳照射領域を調整するとともに、第1の電子線バイプリズムにより、左右両試料像の視差角と重畳領域を定める。
ステップ08 第2の電子線バイプリズム92を光軸上に挿入する。第1の電子線バイプリズム91の陰の空間22(第2の電子線バイプリズム92が観察されない空間)に位置調整する。
ステップ09 第2の電子線バイプリズム92に電圧を印加して照射領域を分離し、両検出系79上へ合わせる。このとき、両照射領域が分離仕切れない場合には、照射系を再調整して照射領域を小さくするか、もしくは、制限視野絞り56を用いて視野を制限してもよい。
ステップ10 両照射領域に明るさの差がある場合や、照射領域の大きさに差がある場合は、第1の電子線バイプリズム91の位置を再調整し、上記差が最小となるようにする。
ステップ11 第2の電子線バイプリズムへの印加電圧をゼロとし電子線の重畳照射領域を作り出す。すなわち、この段階では、観察記録面89の中央付近に1つの重畳照射領域が得られるように調整する。
ステップ12 試料を光軸上に挿入し、観察領域を光軸上の電子線の重畳照射領域に定める。すなわち、観察記録面89の中央付近で試料像が得られるように調整する。
ステップ13 観察倍率を所定の倍率に定めるとともに、必要に応じて照射光学系により照射領域の大きさ、明るさなどを再調整する。
ステップ14 試料像のフォーカスや非点収差補正などを行う。
ステップ15 第2の電子線バイプリズム92に電圧を再び印加し、右視野像321、左視野像323をそれぞれの検出系に個別に結像させる。すなわち、右視野像321、左視野像323を、2つの離れた位置の撮像部79に対応する各位置において、観察記録面に結像させる。
ステップ16 観察・記録を実施する。すなわち、TVカメラやCCDカメラなどの撮像部79により観察記録面に結像された右視野像321、左視野像323を検出、記録し、それらを演算処理装置77に送り、画像処理された結果を画像表示装置76のモニタ画面で観察する。観察に際しては、実験者の選択により、所定の画像が画像表示装置76に表示される。
ステップ17 観察の結果、画像が不適切で再調整が必要と判断された場合には、例えばステップ10に戻って、再調整を行う。このとき、試料はすでに光軸上に挿入されているので、試料の存在が不適当な場合は試料を抜き出す。試料を挿入したままの調整作業が可能な場合は、ステップ12の試料挿入操作が省略される。いずれのステップに戻って、再調整を行うかは、状況に応じて実験者が適宜決めればよい。
【0067】
ステップ18 観察の条件を変更して試料の観察を継続する場合は、例えばステップ12に戻る。観察条件の変更には、試料の観察領域の変更、倍率の変更、試料の温度の変更などが含まれる。いずれのステップに戻って、観察を継続するかは、状況に応じて実験者が適宜決めればよい。
【0068】
以上により、右視野像321、左視野像323を同時に観察・記録することが可能となる。なお、試料像の観察記録部分の処理と、記録された試料像の演算処理を行い出力する部分の処理は独立して行われる。すなわち、ステップ16で得られた画像データをどう処理するかは、実験者の自由である。以後の実施例にも示すが、立体像観察に限らず、異なる情報を有する2つの像の同時観察法も含めた、様々な応用が考えられる。
【0069】
このように、本実施例によれば、照射光学系において電子線が2つに分離され、その各々が試料の所定の領域を照射、透過し、拡大結像される様に調整された後には、光学系に対する操作は無い。従って、試料の観察領域の時間的変化をそのまま実時間で記録可能である。そのため、従来の立体観察法が原則として出来なかった、動的かつ実時間での立体像観察が可能となる。
【実施例2】
【0070】
図14は、図8に示した光学系を搭載した透過型電子顕微鏡の例である。照射絞り15を第2照射レンズ42の主面近傍に配置し、第1の電子線バイプリズム91を照射絞り15の上流側に配置している。17は照射絞り15を制御する照射絞りの制御ユニットである。他は図12と同様な構成であるが、撮像部79が1つとなっている。すなわち、2つの独立した試料像321、323を記録するに十分な記録面積のある1つの撮像部79を想定している。このシステムの場合、記録計が1つであるため、実施例1とは異なり、撮像部相互の感度調整(図13のステップ3、ステップ4)は不要となる。出力装置76は2つの画像761、762を個別に描画するタイプを例示している。
【0071】
本実施例によれば、実施例1と同様に、試料の観察面の時間的変化をそのまま実時間で記録可能である。そのため、従来の立体観察法が原則として出来なかった、動的かつ実時間での立体像観察が可能となる。
【実施例3】
【0072】
図15は、図9に示した、照射光学系に電子線バイプリズムを2つ使用する、干渉型電子顕微鏡を想定した実施例である。照射光学系内において、第3の電子線バイプリズム93が第1の電子線バイプリズム91の陰の空間22に配置され、2つの電子線21、23を偏向させて試料3の同じ所定の領域を照射する。98は第3の電子線バイプリズムの制御ユニットである。光学系の調整法に関しては、図13のフローにおいて、ステップ5〜10における第1の電子線バイプリズム91に関する処理に加えて、第3の電子線バイプリズム93に関する処理が追加される。
【0073】
この構成により、第3の電子線バイプリズム93によるフレネル回折波は発生しない。その他の詳細は、先の実施例1,2と同様である。画像出力装置76には、例えば偏光タイプなどのステレオビュアーを用いた立体視モニタを想定しており、図15では左右の視野像が重なった像763を描いている。
【0074】
本実施例によれば、実施例1と同様に、試料の観察面の時間的変化をそのまま実時間で記録し、立体画像を表示可能である。そのため、従来の立体観察法が原則として出来なかった、動的かつ実時間での立体像観察が可能となる。
【0075】
以上、実施例1〜3では、2つに分離された電子線が作るそれぞれの像を用いて試料の3次元像を得ることを主たる目的としていた。照射光学系において電子線が2つに分離され、その各々が試料の所定の領域を照射、透過し、拡大結像される様に調整された後には、光学系に対する操作は無い。従って、試料の時間的変化をそのまま実時間で記録可能である。そのため、本発明に依れば、従来の立体観察法が原則として出来なかった、動的かつ実時間での立体像観察が可能となる。
【0076】
さらに、実施例1〜3で明らかな様に、電子顕微鏡に関連した、画像の観察記録部分と演算処理を行い出力する部分に関しては独立であり、それらの組み合わせは自由である。そのため、同時取得された2つの画像を用いた立体視という概念から離れ、2種類の試料像の同時取得によるデータ量の倍増、もしくは、時間的画像精度の向上、2枚の試料像に対する拡大結像条件が全く同じであるためデータ精度、信頼度の向上など、別の利点、実施例が挙げられる。
【0077】
なお、図3、図5〜図7、図10、図11に示した各光学系についても、上記実施例1〜3と同様に、透過型電子顕微鏡に搭載し、同様な効果を得ることが出来ることは言うまでもない。例えば、図10に示した光学系の調整法に関しては、図13のフローにおいて、ステップ5〜11における第1の電子線バイプリズム91、第2の電子線バイプリズム92の調整に関する処理に加えて、第3の電子線バイプリズム93、第4の電子線バイプリズム94の調整に関する処理が追加される。
【実施例4】
【0078】
<トモグラフィーへの応用1>
電子線によるトモグラフィーでは、光軸と垂直な軸を中心に試料を傾斜させ、各々の角度での試料像を演算装置に取り込み、観察領域に存在する所定の領域の3次元情報を再構築する。このとき、試料の回転軸の方向に伸びた針状の試料で無い限り試料の回転角度には、観察不可能な角度域が発生する。それを補うために、光軸を軸として試料を水平面内で回転(アジムス回転)させ、再び試料を傾斜観察させ、得られた2通りのデータからより高精度の3次元情報を再構築する手法が用いられる。すなわち都合2度の実験を行っている。
【0079】
図16は、本発明の第4の実施例になるトモグラフィーへの応用例を示す模式図である。33はトモグラフィー用の試料ホルダーであり、試料を連続的に傾斜させて撮影した多数の投影像(例えば1度毎に±75度まで傾斜させて撮影した151枚の像)を演算処理装置77で画像処理し、3次元的構造を再構成する。
【0080】
光学系の調整法に関しては、図13のフローにおいて、試料ホルダーの傾斜角の制御と各角度毎の試料像データの取得の繰り返しに関連した処理が追加される。例えば、光軸2と試料ホルダー33の傾斜軸25が成す平面内を2つの電子線21、23が伝播するように、試料上方の電子線バイプリズムの方位角を合わせ、2つの電子線21、23が図16に示すごとく2方向(照射角:θRとθL)から試料3を照射し、観察記録面89に2つの像321、323を結像させる。この光学系条件とトモグラフィー実験における試料の傾斜は、全く独立であるため、この条件にてトモグラフィー観察を実施する。そして、取得される2種類のその各々の試料像データを元に、3次元情報の再構築を実施する。画像再構築の手法は、電子線の照射角度を考慮する点を除けば、従来のトモグラフィーと同じである。先述の試料のアジムス回転と異なり、試料の傾斜角度は、2通りの試料像データ間で全く同じであるため、より高精度の3次元情報の再構築が実現できる。
【0081】
なお、図16では簡単のため、すべての電子レンズを省略し、試料3とそれに入射する2つの電子線21、23とその電子線の元となる2つの光源の像10、および観察される象321、323を模式的に表している。この省略は、2つの電子線の角度が異なり、それに伴って試料を透過する2つの電子線の角度が異なれば、それぞれの電子線を個別の像として観察記録できる本発明の原理に基づいている。光学系としては図4、装置の構成としては図12などと同様である。以下の図においても同様の省略を行っている。
【実施例5】
【0082】
<トモグラフィーへの応用2>
図17に、本発明の第5の実施例になるトモグラフィーへの応用例を示す。図17は、試料ホルダー33の傾斜軸25が実施例4と90°異なる場合の模式図である。この場合には、実施例4の様に異なる照射方位角の2種類のデータを得ることにはならないが、試料3の傾斜角度に加えて電子線の照射角度(θRまたはθL)だけ、大きな角度でのトモグラフィー実験が実施可能となる。
【0083】
さらに、照射角度の和θR+θLが傾斜角の変化量の半分となる条件にて実施すれば(一例を挙げれば、θR=…、−8、−4、0、4、8、12、…とθL=…、−6、−2、2、6、10、14、…)、となるように照射角、傾斜角の変化の関係を選べば、従来法の半分の時間で従来法と同数の試料像が得られる。すなわち、実験効率が向上し、実験系における経時変化に対して影響を受け難い観察が可能となる。
【0084】
一方、左右の照射角度が一致するような傾斜角度の変化を選んだ場合には、試料ホルダー33の傾斜角度の範囲内においては、同照射角度の試料像を2枚ずつ取得することなり、実験の再現性の確認、もしくは、データ積分によるランダムノイズの低減に効果が望める。
【実施例6】
【0085】
<ローレンツ法への応用1>
磁性体の磁化状態を観察するローレンツ顕微鏡法への適用も実施可能である。図18は、ローレンツ法のうち、磁化による電子線の偏向成分を対物絞り55によって選択し、磁区構造を観察するフーコー法への適用例である。観察する磁性薄膜3が図中BUPとBDounで示した180°反転磁区構造をとっているとき、磁化方向と垂直方向に2つの電子線を分離するように、試料上方の電子線バイプリズムの方位角を選ぶ。各々の電子線は、試料を透過した後、磁区構造を反映した2つの電子線(gBUPとgBDoun)にそれぞれ分離される。従来のフーコー法によるローレンツ像観察では、その分離された電子線の片側を対物絞りで選択し拡大結象することにより、磁区の磁化方向を反映した白黒のストライプ状の像を観察する。黒いコントラストの領域は対物絞りで遮蔽された電子線が情報を担っていた磁区を示し、磁化情報の欠落が磁化情報の源である。そのため、試料中の結晶欠陥や析出物など磁化以外の情報を得るためには、再度対物絞りを調整しなおし、逆コントラストのローレンツ像(フーコー法)を観察するか、通常の電子顕微鏡像観察を実施しなければならなかった。
【0086】
本発明によれば、図18に示したごとく、その分離された電子線の片側ずつ(図18では、光軸に近い角度の電子線(gBUPとgBDoun))を対物絞り55で選択し、拡大結象する。従来法では対物絞りを調整し直して得られていた2種類のフーコー法のローレンツ像321、323が、同時に、かつ個別に観察されるため、試料3中の結晶欠陥や析出物などの情報を実時間でより正確に得ることができる。なお、対物絞り55には所定の電子線を透過させる2孔のものを用いてもよい。
【実施例7】
【0087】
<ローレンツ法への応用2>
本発明において、観察領域に同時に照射される電子線は、第1の電子線と第2の電子線に限定されるものではない。実施例6をさらに発展させ、同様に、4つの電子線を用いて任意の方位をとる磁区構造を4方位それぞれ個別に観察することが可能である。図19に、その原理を示す光学系の模式図を示す。本実施例においては、照射光学系に配置された四角錐型電子線プリズムの中央極細線電極95を用いる。四角錐型電子線プリズム95の詳細は、たとえば特許文献5の図15に開示されている。この四角錐型電子線プリズム95は、図19のとおり、光軸2に垂直な同一平面内で中央極細線電極が直交するように配置されたものでも良いし、光軸上別の2平面に分けて直交するよう構成された2つの電子線バイプリズムから構成されてもよい。いずれにしても、光源から放出された電子線が四角錐型電子線プリズム95により偏向されて入射角度の異なる4つの電子線となり、これらを試料3の同一領域を同時に照射できる構成である。試料を透過し、磁区によって伝播方向に偏向を受けたそれぞれの電子線は、孔径サイズ、形状を適切に設定された対物絞り55により、それぞれ異なる磁化方向の磁区情報を持った電子線を個別に透過させることが可能である。そして、結像系に適切に設置された四角錐型電子線プリズムにより、それぞれ異なる磁区情報を反映した試料像(図19上の、試料の下向き磁区画像311、試料の上向き磁区画像312、試料の右向き磁区画像313、試料の左向き磁区画像314)を、観察記録面89に結像することができる。すなわち、磁性体試料の磁化情報を、全方位漏れなく同時観察可能とできる。
【実施例8】
【0088】
<明視野像、暗視野像の同時観察>
本発明は、透過電子線のみを用いた観察像(明視野像322)と散乱(回折)電子線のみを用いた観察像(暗視野像324)の同時観察も可能となる。図20に照射角度の和θR+θLが3/2θの時の実施例を示す。ここでθは回折角であり、図中のgR、gLは回折電子線を表している。光軸上でかつ試料3と第2の電子線バイプリズム92の間に配置された対物絞り55の孔径を、透過波oRと回折波−gLが透過する様に、絞り孔のサイズと設置位置を選べば、明視野像322と暗視野像324の同時観察が可能となる。
【0089】
本発明はさらに、図には記載しないが、対物絞り55の位置を選べば、2つの異なる回折波(例えば、図20で対物絞りを光軸2に対称に挿入した場合には、−gLとgRの2つの暗視野像)の観察が可能となる。
【0090】
本発明は、回折波に対してだけでなく、散乱角度の小さな電子線による暗視野像についても可能である。この場合、第1の電子線バイプリズムによる陰の領域が小さくなるが、第2の電子線バイプリズム92を挿入する位置や、第2の電子線バイプリズムの中央極細線電極のサイズを適正に選部ことにより実施可能である。図20では第2の電子線バイプリズム92を挿入し、明視野像322と暗視野像324が観察記録面89で空間的に完全に分離されることを模式的に示している。結晶性試料を観察する場合には、照射角度の和θR+θLは、回折角θとしたとき、θ<θR+θL<2θの範囲で実施可能である。但し、対物絞りに2孔のものを用いる場合や、円形孔でない絞りを用いる場合は、この限りではない。
【符号の説明】
【0091】
1…電子源もしくは電子銃、10…分離された光源の実像もしくは虚像、15…照射絞り、17…照射絞りの制御ユニット、18…真空容器、19…電子源の制御ユニット、2…光軸、20…電子線の照射領域、21…右視野電子線、22…陰の空間、23…左視野電子線、25…試料ホルダーの傾斜軸、27…電子線の軌道、3…試料、31…対物レンズにより結像された試料の像、311…試料の下向き磁区像、312…試料の上向き磁区像、313…試料の右向き磁区像、314…試料の左向き磁区像、321…試料の右視野像、322…明視野像、323…試料の左視野像、324…暗視野像、33…トモグラフィー用試料ホルダー、356…制限視野絞りの像、39…試料の制御ユニット、4…照射レンズ、40…加速管、41…第1照射レンズ、42…第2照射レンズ、47…第2照射レンズの制御ユニット、48…第1照射レンズの制御ユニット、49…加速管の制御ユニット、5…対物レンズ、51…制御系コンピュータ、52…制御系コンピュータのモニタ、53…制御系コンピュータのユーザインタフェース、55…対物絞り、56…制限視野絞り、59…対物レンズの制御ユニット、6…結像レンズ、61…第1結像レンズ、62…第2結像レンズ、63…第3結像レンズ、64…第4結像レンズ、66…第4結像レンズの制御ユニット、67…第3結像レンズの制御ユニット、68…第2結像レンズの制御ユニット、69…第1結像レンズの制御ユニット、76…画像表示装置、77…画像記録・演算処理装置、78…撮像部の制御ユニット、79…撮像部、8…干渉縞、89…観察・記録面、9…電子線バイプリズム中央極細線電極、91…第1の電子線バイプリズムの中央極細線電極、92…第2の電子線バイプリズムの中央極細線電極、93…第3の電子線バイプリズムの中央極細線電極、94…第4の電子線バイプリズムの中央極細線電極、95…照射光学系に配置された電子線四角錐形プリズムの中央極細線電極、96…第1の電子線バイプリズムの制御ユニット、97…第2の電子線バイプリズムの制御ユニット、98…第3の電子線バイプリズムの制御ユニット、99…平行平板接地電極。
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡およびそれを用いた試料像の観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線は物質との相互作用が大きく、プローブとして用いるには高電圧で加速し、真空中を伝播させなければならない。そのため、レーザー光学系の様に、光学ベンチ上に3次元空間を利用して光学系を構成することは不可能で、光源(電子源)、レンズ、試料、観察装置が1つの真空容器(鏡体)内に1次元状に列を成して構成される。この様な構成から、従来の電子顕微鏡では試料を同時に2方向から観察することは大変に困難であり、2つの電子線を必要とする干渉型電子顕微鏡においても、1次元状に構成された光学系の範囲内での取り扱いであり、干渉の結果記録される干渉像も一時に1画像である。
【0003】
このような電子顕微鏡における3次元観察法、立体観察法としては、トモグラフィー、ステレオ法、共焦点走査法などが用いられている。ステレオ法は、最も古くから実施されている観察法で、電子線に対して試料をプラスマイナスのそれぞれの方向に数度傾斜させた2枚の画像(もしくは試料像)を取得し、ステレオビュアーなどを用いて立体的に観察する方法であり、例えば、非特許文献1に開示されている。ステレオ法では、傾斜角度の異なる2枚の画像が、右視野像、左視野像に該当し、2枚の画像の角度差が視差角となる。
【0004】
トモグラフィーは、近年のコンピュータを用いた画像処理技術の発達、試料位置/角度のコンピュータ制御の発達を受けて、同一視野内において試料傾斜角を例えば±70°の範囲で数度ずつ変更しながら複数枚(数十枚)の画像を取得し、得られた画像を計算機処理することによって試料の所定の視野領域の3次元構造を計算機内に再構築し、任意の方位からの立体観察を可能成らしめる方法である。トモグラフィーは、例えば、非特許文献2に開示されており、これはステレオ法を高精度に発展させたものと考えることができる。
【0005】
以上の方法は、画像の取得方法には依らないため、透過型電子顕微鏡において実施されているだけでなく走査透過型電子顕微鏡においても実施可能である。また、ステレオ法については、試料の表面形状を主な観察対象とする走査型電子顕微鏡においても実施されており、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1では、偏向器等を用いて電子線を偏向させ垂直照射電子線と斜め照射電子線とに切替えて、これら2つのビームを交互に試料に照射することで試料を異なった角度から観察できるようにしている。同様に、透過型電子顕微鏡を用いた試料の立体観察法が、特許文献3にも開示されている。特許文献3には、電子線源から発せられた電子線から、電子線台形プリズムに印加される電圧の極性の切替えによって異なる角度に偏向された第1の電子線と第2の電子線とを交互に形成し、これらの第1、第2の電子線を試料に交互に照射することにより第1の像、第2の像を撮像し、立体形状を再構築してモニタに表示する方法が開示されている。
【0006】
共焦点走査法は、走査透過型電子顕微鏡法の一種であるが、照射角度の大きな電子線を用いて電子線の光軸方向の収斂部を小さくするとともに結像系に小径絞りを用いて被写界深度の浅い2次元画像を作り出し、観察面を光軸方向に変化させた複数枚の画像から試料の3次元構造を得る方法である。共焦点走査法は例えば、特許文献2に開示されている。
【0007】
一方、上段の電子線バイプリズムが試料の下流側に配置され、下段の電子線バイプリズムが、上段の電子線バイプリズムの陰の空間に配される構造の2段バイプリズムを備えた干渉計が、特許文献4に開示されている。
【0008】
また、照射光学系に四角錐型電子線プリズムを用いた干渉装置の例が、特許文献5の図15に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−310070号公報
【特許文献2】特開2008−270056号公報
【特許文献3】特開2004−171922号公報
【特許文献4】特開2005−197165号公報
【特許文献5】特開2006−313069号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】桐谷道雄 『電子顕微鏡』Vol. 16, (1981) P71-P81
【非特許文献2】K. Kimura et al., J. Electron Microsc. Vol. 54 (4), (2005) P373-P377
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の電子顕微鏡において、複数の方向からの試料の観察を一度に実施することは困難であった。そのため、例えば、試料の3次元形状を求めるには、試料を様々な角度に傾斜させ、得られた各々の画像から3次元形状を再構築するトモグラフィー法、右視野像、左視野像に該当する2枚の画像を試料の傾斜もしくは電子線の照射角度の変化によって作り出し、立体観察を可能成らしめるステレオ法、走査型共焦点光学系においては、電子線の照射スポット(収斂部)と試料との位置関係を相対的に光軸方向に変化させて得られる複数の走査画像から試料の3次元形状を求める方法などがある。
【0012】
しかし、上記各方法は、いずれも複数枚の画像を順次取得するため、画像取得の所要時間が大きく、動的観察、実時間観察には不適当な方法である。すなわち、いずれの方法も複数枚の画像を得るには画像枚数回分の画像取得作業を必要としており、時間分解能が低く、動的観察、実時間観察には至っていない。
【0013】
その欠点を補うために、ステレオ法においては、試料を傾斜させる代わりに、電子線の照射角度を変化させることによって2枚の画像を短時間で取得する方法が考案されており、例えば、上記特許文献3に開示されている。
しかし、特許文献3の方法でも、印加電圧の極性を交互に切替えて電子線を偏向させて第1、第2の電子線を形成し、試料に交互に照射することで、第1の像と第2の像を順次取得している。そのため、第1の像、第2の像すなわち右視野像、左視野像の取得においてそれぞれ照射光学系の変更・調整と検出系との同期操作が必要であり、それらの所要時間内において動的観察を可能成らしめるもので、右視野像、左視野像の同時取得には至っていない。
【0014】
本発明の主たる目的は、2種類の観察像の同時取得によるデータ量の倍増、及びそれによるデータ精度、信頼度の向上などを実現する透過型電子顕微鏡およびそれを用いた試料像の観察方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の代表的なものの一例を示せば以下の通りである。即ち、本発明の透過型電子顕微鏡は、電子線の光源と、前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持手段と、前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、前記結像レンズ系による前記試料の像を取得するための少なくとも1つの検出手段とを備えた透過型電子顕微鏡であって、前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の上流側に配置された第1の電子線バイプリズムと、前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の下流側で、前記第1の電子線バイプリズムによって作り出される前記電子線の陰の空間に配置された第2の電子線バイプリズムとを有し、前記第1の電子線バイプリズムにより、前記光源から放出された電子線を偏向させて、前記試料の所定の領域を異なる角度から照射する第1の電子線と第2の電子線とに分離し、前記第2の電子線バイプリズムにより、前記試料を透過した前記第1の電子線および前記第2の電子線を偏向させて、前記第1の電子線により作られる前記試料の第1の像と前記第2の電子線により作られる前記試料の第2の像とを空間的に分離して形成し、前記第1の像と前記第2の像とを前記検出手段で取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、試料の同一領域の複数の観察像が同時に得られる様になり、取得情報量が倍増し、観察者にとっては観察効率が向上する。すなわち、同時に取得される右視野像、左視野像に該当する2枚の画像は、試料を全く同時刻に透過した2つの電子線の結像によるものであり、同時観察が厳密に実現されている。そのため、試料像の検出系の時間分解能に制約されるのみで、通常の電子顕微鏡観察と同様の動的観察、実時間観察が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】電子線バイプリズムの構成とこの電子線バイプリズムを利用した本発明による電子線の偏向を示す模式図である。
【図1B】図1Aの電子線バイプリズムの透過前後の各位置における、電子線の断面形状を示す模式図である。
【図2】照射光学系の電子線バイプリズムを照射レンズの主面に配置した、本発明の原理を示す光学系の模式図である。
【図3】図2の光学系とは、右視野像と左視野像を入れ替えた状態で結像させる、本発明を適用した他の光学系の模式図である。
【図4】照射光学系の電子線バイプリズムを照射レンズの上方に配置した、本発明を適用した他の光学系の模式図である。
【図5】照射光学系の電子線バイプリズムを照射レンズの下方に配置した、本発明を適用した他の光学系の模式図である。
【図6】本発明を適用し、照射光学系の電子線バイプリズムを照射レンズの下方で、光源の像のさらに下方に配置した場合の光学系の模式図である。
【図7】本発明を適用し、照射光学系の電子線バイプリズムを照射絞りと併用した場合の光学系の模式図である。
【図8】本発明を適用し、照射光学系の電子線バイプリズムを照射絞りの上方で併用した場合の光学系の模式図である。
【図9】本発明を適用し、照射光学系に2つの電子線バイプリズムを用いた場合の光学系の模式図である。
【図10】本発明において干渉顕微鏡像を得るための原理を示す光学系の模式図である。
【図11】本発明を適用し、照射光学系の電子線バイプリズムを、照射絞りの下方で併用した場合の光学系の模式図である。
【図12】本発明の第1の実施例になる電子顕微鏡の構成例を示す模式図である。
【図13】第1の実施例における光学系の調整法を示したフローチャートである。
【図14】本発明の第2の実施例になる電子顕微鏡の構成例を示す模式図である。
【図15】本発明の第3の実施例になる電子顕微鏡の構成例を示す模式図である。
【図16】本発明の第4の実施例になるトモグラフィーへの応用例を示す模式図である。
【図17】本発明の第5の実施例になるトモグラフィーへの応用例を示す模式図である。
【図18】本発明の第6の実施例(2電子線による同時フーコー法)になる模式図である。
【図19】本発明の第7の実施例(4電子線による同時フーコー法)になる模式図である。
【図20】本発明の第8の実施例(明視野像/暗視野像の同時観察)になる模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
最初に、本発明の概要を説明する。
本発明は、透過型電子顕微鏡において複数の方向からの試料の観察を可能成らしめるとともに、立体観察法において、動的観察、実時間観察を実施するためになされたもので、右視野像、左視野像に該当する2枚の画像の実時間、同時取得を特徴とする。
【0019】
前提として、透過型電子顕微鏡の光学系は、光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、電子線が照射した試料の像を観察領域に結像するための対物レンズおよび複数のレンズから構成される結像光学系(結像レンズ系もしくは拡大結像系とも言う)とを備えている。
【0020】
本発明の一形態では、照射光学系中に第1の電子線バイプリズムを設置して角度の異なる2つの電子線を作り出し、試料の所定の観察領域に異なる角度から同時に照射する。この全く同時に試料を透過した2つの電子線を結像光学系に配置した第2の電子線バイプリズムにより空間的に分離し、検出面(観察記録面)にそれぞれ個別に結像させることにより、同時に右視野像、左視野像に該当する照射角度の異なる2つの電子顕微鏡像を得る。なお、この2つの電子顕微鏡像を検出手段により検出する検出面を、以下、便宜的に観察記録面と称するが、この観察記録面では試料像の検出と記録を行う場合のみならず、試料像の検出のみが行われる場合もあることは言うまでもない。
【0021】
これにより、同一領域の複数の観察像が同時に得られる様になり、取得情報量が倍増し、実験効率が向上する。具体的には、以下の通りである。
上述した構成により取得される右視野像、左視野像に該当する2枚の画像は、全く同時刻に試料を透過した2つの電子線の結像によるものであり、同時観察が厳密に実現されている。そのため、試料像の検出系の時間分解能に制約されるのみで、通常の電子顕微鏡観察と同様の動的観察、実時間観察が可能となる。また、2種類の試料像の同時取得によるデータ量の倍増、もしくは、時間的画像精度の向上、2枚の画像に対する拡大結像条件が全く同じであるためデータ精度、信頼度の向上などを実現できる。
【0022】
さらに、右視野像、左視野像に該当する2枚の試料像取得に際して、新たな光学系の変更、再調整は必要なく、照射系、結像系を通じて全く同じレンズ、偏向器が用いられるため、誘導磁場やレンズ電流の揺らぎなど、取得される2枚の試料像に加わるノイズ等の外乱は同じものであり、画像解析時のアーティファクトを生じ難い。以上のことから、本発明によれば、試料の3次元形状・立体観察において、高精度、高分解能で、かつ高時間分解の動的、実時間観察が可能となる。
【0023】
また、試料を多方向から実時間観察できるため、経時変化するような試料(例えば生物試料等)のリアルタイム多面観察が可能となる。また、細胞内部や生体内の微細構造を含む、比較的厚みを有する生物試料に対しても同様に、高精度且つ高時間分解の動的、実時間観察が可能となることはいうまでもない。
【0024】
磁区構造を観察するローレンツ顕微鏡法(フーコー法)においても、磁化状態により異なる2方向に偏向された電子線を同時、個別に結像できるため、より高精度な磁区構造観察が可能となる。
【0025】
以下、本発明の構成要素である電子線バイプリズム及び光学系、さらには干渉光学系について説明する。
<電子線バイプリズム>
電子線の伝播方向や位置を分離・重複させるために、照射光学系と、結像光学系において各々少なくとも1つずつの電子線バイプリズムを必要とする。先ず、この電子線バイプリズムについて、図1A、図1Bを参照しながら説明する。
【0026】
電子線バイプリズムは、光学におけるフレネルの複プリズムと同じ作用をする電子光学系における装置で、電界型と磁界型の二種類がある。このうち、広く普及しているものは図1Aに示す電界型電子線バイプリズムであり、これは、中央部の極細線電極9と、その電極を挟む形で平行に保持され接地された一対の平行平板型接地電極99とで構成される。例えば、図1Aに示したごとく、光軸2上の中央極細線電極9に正電圧Vfを印加すると、中央極細線電極9の近傍を通過する電子線e−は、この中央極細線電極9の電位により互いに向き合う方向に偏向される(電子線の軌道27参照)。
もちろん、光学系の構成によっては、電子線バイプリズムの中央極細線電極9に負電圧を印加する場合もあり、このときは、中央極細線電極9の近傍を通過する電子線e−が互いに離れる方向に偏向される。
【0027】
照射光学系に設置される電子線バイプリズムは、電子線を2つの領域(第1の電子線21と第2の電子線23)に分離する機能を有する。
【0028】
図1Bに、電子線の進行方向の各位置での電子線の断面形状を示している。図1Bの(a)−(c)は、各々、図1Aにおける電子線の断面A−A’、B−B’、C−C’の各位置での電子線(電子線の断面もしくは照射領域、以下、単に電子線)の形状を示している。光源から放出された電子線20の断面(A−A’)を円形とした場合、これが、断面(B−B’)に示すように、電子線バイプリズムの中央極細線電極9により該中央極細線電極の軸を中心にして左右対称な2つの半円形の領域(第1の電子線21と第2の電子線23)に分離され、かつ、これら2つの領域の電子線が互いに向き合う方向に偏向されることにより、断面(C−C’)に示すように、これら2つの半円形の領域(第1の電子線21と第2の電子線23)が全く同時刻に試料面上の同一観察領域に重畳して照射される。
【0029】
本発明において、結像光学系に設置される電子線バイプリズムは、2つの領域の電子線21、23を、互いに離れた干渉を生じない位置に空間的に分離する機能を有する。試料の観察記録面上で得られる2つの電子線(右視野電子線21、左視野電子線23)は、全く同時に試料を透過した2つの電子線、すなわち同時に試料面上の同一観察領域に重畳して照射された2つの電子線によって得られた試料透過像である。
【0030】
以下、電子線バイプリズムとして電界型電子線バイプリズムを用いて説明を行う。しかし、本発明は電子線バイプリズムとして電界型、磁界型に依らず構成可能であり、以下の説明で用いる電界型電子線バイプリズムに限定するものではない。
【0031】
なお、中央極細線電極9から離れるほど電子線に作用する電位は小さくなるが、電位が作用している空間範囲が長くなるため、結果的に電子線の偏向角度は入射位置に依らず極細線電極への印加電圧に比例する。すなわち、αを電子線バイプリズムによる電子線の偏向角度とすると、中央極細線電極9への印加電圧Vfと偏向係数kを用いてα=kVfで表わされる簡単な関係を持つ。偏向係数kは中央極細線電極9と接地電極99との距離など装置の形状に依存するが、一般に加速電圧が100kVから300kVの電子顕微鏡においては k=2×10-6 rad/V 程度であり、中央極細線電極への印加電圧が500Vのときに、結晶によるブラッグ角1°の1/10程度の値(0.1°(0.001 rad))となる。この角度は、照射光学系により拡大、縮小が可能で、±5°(±0.5 rad)の照射角度差を作りだせる。
<光学系>
本発明は、1つの鏡体からなる電子顕微鏡の1つの光軸のみをもつ電子光学系において、照射角度の異なる2つの電子線(第1の電子線と第2の電子線)を作り出し、試料を透過後、それぞれの電子線を異なる試料像として個別に結像、記録することを特徴とする。
【0032】
図2に、本発明を適用した代表的な光学系の例を示す。電子の光源1から放出された電子線は、照射光学系(照射レンズ4)により試料への照射に際して適切な電子密度、照射領域と成るよう調整される。このとき同時に、照射光学系に配置された第1の電子線バイプリズム91により照射電子線は2つの電子線(第1の電子線21と第2の電子線23)に分離される。ここでは、第1の電子線21の領域をドットで表示し、第2の電子線23の領域と区別している。
試料3の所定の領域を異なる角度から照射した2つの電子線21、23は、それぞれ拡大結像系にて結像される。31は対物レンズ5により結像された試料の像を示している。2つの電子線21、23は、さらに、例えば、結像レンズ6による光源の像(光源の実像)10の近傍に配置された第2の電子線バイプリズム92により空間的に分離され、観察記録面89の空間的に離れた位置にそれぞれ個別に像(試料の右視野像321、試料の左視野像323)を結ぶ。
【0033】
図2の光学系においては、簡単のため、電子線の加速管など照射光学系に至るまでの装置(電子源もしくは電子銃)を、省略して電子の光源1として表すとともに、照射光学系も1段のレンズ4で代表して示している。拡大結象系においても、本発明の概念をより判り易く説明するため、対物レンズ5と拡大レンズ6の各1段のみを描いている。
【0034】
さらに、2つの電子線バイプリズム91、92に関しては、中央極細線電極をその断面形状を示す円でのみ表し、接地電極は省略している。
また、電子線バイプリズムについて、光学系の中で厳密に中央極細線電極を示す場合は『電子線バイプリズムの中央極細線電極』と表記し、電子線の偏向器として慣用する場合には『電子線バイプリズム』とのみ表記するが、符号に関しては同じものを用いる。以上は、図2以降の図、説明においても同様である。
【0035】
図2の光学系において、照射光学系に配置される第1の電子線バイプリズム91は、試料直上(電子線の進行方向の上流側)の照射レンズ4の主面に配置した場合を図示しているが、その設置位置は照射レンズ4の上下に複数の場合が考えられる。利用する照射レンズとしては、上流側の第1照射レンズ、その下流側の第2照射レンズのどちらでも可能である。照射絞りとの併用、下流側第2照射レンズによる拡大、もしくは縮小の可能性から、上流側の第1照射レンズを利用する方が合理的と推定される。しかし、この構成の限りではないことはもちろんである。
【0036】
一方、拡大結像系に配置される第2の電子線バイプリズム92は、照射光学系に配置された電子線バイプリズムの陰の空間22に配置すればよく、電子顕微鏡の機械的位置構成などを勘案して具体的な設置位置が定められれば良い。このように下流側の電子線バイプリズムが、上流側の電子線バイプリズムの陰の空間に配される点は、特許文献4に開示された2段バイプリズム干渉計と同様の構成である。しかし、特許文献4の下流側の電子線バイプリズムは、観察面に干渉像を生成するように電子線を偏向させる機能を有する点で、本発明の電子線バイプリズム92とは異なる。
【0037】
なお、第2の電子線バイプリズム92が配置される位置は、対物レンズ5の下流側でも良く、対物レンズ5と第1拡大レンズ、第1拡大レンズと第2拡大レンズ、第2拡大レンズと第3拡大レンズの間などが想定される。いずれの位置においても、機械的、空間的に第2の電子線バイプリズム92を設置可能な電子顕微鏡の装置上のスペースがあることと、第1の電子線バイプリズムの陰の空間22内に収まる中央極細線電極の太さであることが必要である。
【0038】
まとめると、第1の電子線バイプリズムが配置される位置は、電子線の光軸2上で試料の配置される位置より電子線の上流側の照射光学系であれば良く、これには照射光学系を構成するレンズと試料の間の位置も含まれる。さらに、第2の電子線バイプリズムが配置される位置は、電子線の光軸上で試料の配置される位置より電子線の下流側で、第1の電子線バイプリズムによって作り出される電子線の陰の空間であれば良く、これには結像レンズ系を構成するレンズと、試料との間や観察面との間も含まれる。
【0039】
なお、第2の電子線バイプリズムは、観察領域において重畳された2つの領域の電子線21、23を、互いに空間的に分離する機能を有するものであれば良く、中央極細線電極9に印加電圧の極性は負電圧に限定されるものではない。
【0040】
図3の光学系は、第2の電子線バイプリズム92への印加電圧Vfの正負を図2の光学系の場合と逆転させた例を示す。右視野電子線21と左視野電子線23を大きく偏向させることによって、図2の場合とは互いに逆の検出系へ、右視野像321、左視野像323を記録することができる。
【0041】
図3の光学系の構成で立体視を行った場合には、図2の光学系と比較して凹凸の逆転した試料像が得られる。このように、本発明における第2の電子線バイプリズム92の利用の仕方は、従来の電子線ホログラフィーなどで用いられる電子線バイプリズムの使い方とは本質的に異なり、2つの試料像をそれぞれ個別に結像し、検出手段により取得するために、2つの電子線を空間的に分離させるために使用することを特徴とする。
【0042】
また、広範囲を入射電子線が照射した場合には、第2の電子線バイプリズム92による、偏向だけでは2つの試料像を分離しきれず、右視野像へ左視野像が、左視野像へ右視野像が、互い重畳されて観察される可能性がある。この場合には、観察記録面89の直前での視野制限を行い2試料像の重畳を防げばよい。但し、この場合には、2孔の視野制限が必要となる。そのため、図3に示したごとく、制限視野絞り56を用いて、結像の初期に視野制限を実施することが合理的である。これにより、制限視野絞りの像356が試料の像(右視野像321、左視野像323)に重畳される。
【0043】
既に述べた通り、第1の電子線バイプリズムが配置される位置は、電子線の光軸上で試料の配置される位置より電子線の上流側の照射光学系であれば良い。図4、図5、図6に、それぞれ第1の電子線バイプリズム91の位置を電子線の進行方向において変えた場合の光学系の例を示す。図4の光学系は、第1の電子線バイプリズム91を試料3の直上の照射レンズ4のさらに電子線の進行方向の上流側に配置した例である。図5の光学系は、第1の電子線バイプリズム91を試料3の直上の照射レンズ4の電子線の進行方向の下流側で、該照射レンズ4による光源の像10の上流側に配置した例である。図6の光学系は、第1の電子線バイプリズム91を試料3の直上の照射レンズ4の下流側で、かつ該照射レンズ4による光源の像10のさらに下流側で、試料3の位置より上流側に配置した例である。このように第1の電子線バイプリズム91の位置を電子線の進行方向において変えることで、試料への照射角度が異なり、ひいては観察記録面で得られる試料像のもつ情報が異なったものになる。
【0044】
図2、図3、図4、図5の各光学系における第1の電子線バイプリズム91への印加電圧Vfは負、図6の光学系における第1の電子線バイプリズム91への印加電圧Vfは正であり異なっているが、これは第1の電子線バイプリズム91と照射レンズ4と光源の像10の位置とによって定まるもので、これらの光学系の試料上の所定の領域を第1の電子線21と第2の電子線23により2方向から照射する作用に対しては同等である。
【0045】
電子線の試料3に対する照射角度を分離、複数化する第1の電子線バイプリズム91は、照射角度、照射電子線量を制御する際に用いられる照射絞り15と併用が可能である。図7に、照射絞り15と、第1の電子線バイプリズム91の併用の例を示す。この例では、照射絞り孔(1孔)の中央部に第1の電子線バイプリズムの中央極細線電極91が配置され、これらが照射レンズ4の主面近傍に配置されている。
【0046】
図8の光学系は、照射絞り15に2孔のものを用いるとともに、照射絞り15と第1の電子線バイプリズム91の位置を一致させない場合の例である。すなわち、照射絞り15を照射レンズ4の主面近傍に配置し、第1の電子線バイプリズム91を照射絞り15の上流側に配置している。
図8の光学系に示した様に、照射絞りを2孔に分けた場合、照射レンズ4の励磁(焦点距離)によっては、第1の電子線バイプリズム91による電子線の偏向作用が無くても、試料への2つの照射角度を作り出すことは可能であるが、照射光学系に求められる制御性を考慮すると、第1の電子線バイプリズムを備えることが好適である。
<干渉光学系への適用>
上述の光学系においては、電子線の干渉性については特に考慮しなかった。照射絞り、および第1の電子線バイプリズムの中央極細線電極から発生するフレネル回折電子線は、主電子線21、23とともに試料に重畳して照射され、フレネル縞を発生させるが、熱電子源を光源とする場合には、電子線の可干渉性が低くフレネル縞の発生領域は試料照射領域の周辺部に限られるため問題とならない。これは熱電子型電子顕微鏡において、照射絞りの発生させるフレネル縞が観察像に影響を与えないことから明らかである。しかし、電子線源を例えば電界放出型とした場合には、フレネル縞の影響は照射領域の広範囲に及び、観察像へも影響を与える可能性がある。
【0047】
図9の光学系は、干渉型電子顕微鏡において、本発明を実施する場合の、光学系について示したものである。照射光学系に電子線バイプリズムを2つ用いる点を特徴としている。第1の電子線バイプリズム91、および照射絞り15を、照射レンズ4の物面に設置し、試料3上に第1の電子線バイプリズム91と照射絞り15の像を結像させることによりフレネル縞の発生を抑止するものである。2つの電子線21、23が試料3の同じ所定の領域を照射するために、照射光学系内において、第3の電子線バイプリズム93が第1の電子線バイプリズム91の陰の空間22に配置され、2つの電子線21、23を偏向させている。この配置をとることにより、第3の電子線バイプリズム93によるフレネル回折は発生しない。従ってこの照射光学系を採る際には、干渉型電子顕微鏡であっても、フレネル縞の影響なく、同一視野の2つの試料像を観察記録することができる。
【0048】
図10の光学系は、図9の干渉型電子顕微鏡において、さらに電子線ホログラフィーを行うために第4の電子線バイプリズム94を追加した一例である。すなわち、干渉像を得るための第4の電子線バイプリズム94が、対物レンズ5の電子線の下流側で、かつ対物レンズの像31の上流側に配置されている。この第4の電子線バイプリズム中央極細線電極94の方位は、図10の紙面内でかつ光軸2と直交しており、第1の電子線バイプリズム91の方位とは『ねじれの位置関係』にある。すなわち、電子光学上の右視野電子線21、左視野電子線23ともに、物体波と参照波は、第4の電子線バイプリズム94により紙面の上下に分離されている。右視野電子線21、左視野電子線23の各々の物体波、参照波が各々、観察記録面89上に試料の像(321と323)と干渉縞8を描く様子を図10の下部に描いている。電子線ホログラフィーを行うための光学系は、従来の電子線干渉顕微鏡とまったく同様に構築することが可能で、図10のごとく、干渉のための電子線バイプリズムを1段利用するものに限らず、特許文献4に開示された2段電子線バイプリズム干渉光学系も、従来法と同様に構築可能である。すなわち、本発明による2視野を同時に得るための光学系は、干渉光学系の構築とそれによる干渉像の観察を妨げるものではない。
【0049】
図10の光学系に関し、第4の電子線バイプリズム94に電圧を印加しない状態で使用すれば、図9の光学系と同じものとなる。従って、同じ装置において、第4の電子線バイプリズム94に電圧の印加状態を変えることによって、同一視野の2つの試料像を観察記録する処理と、同一視野の2つの試料像の干渉像を観察記録する処理とを使い分けることも出来る。
【0050】
図11は、図8の光学系と同様に2孔の照射絞り15を用いた場合の、干渉型電子顕微鏡のための照射光学系の例である。照射絞り15を照射レンズ4の物面とし、試料位置をその像面とすることによりフレネル縞の発生を抑止する。そして、試料上の同一視野を2つの角度の電子線で照射するために、照射絞りの孔間の陰の空間に第3の電子線バイプリズム93を配置した例である。照射絞り15の電子光学系上の位置が、照射レンズ4の物面と定められたこと以外は、図8の光学系の例と概念は同じである。なお、図11は2孔の照射絞り15を採用した場合には、第1の電子線バイプリズム91を省略し、第3の電子線バイプリズム93のみにより、試料への2つの照射角度を作り出すことが出来ることを示している。
【0051】
以上説明してきた本発明の各光学系は、照射光学系に設置した1つもしくは2つの電子線バイプリズムを用いて照射角度の異なる2つの電子線を作り出し、試料を照射・透過後、それぞれの電子線を再度拡大結像光学系の電子線バイプリズムにより空間的に分離し、それぞれ異なる試料像として個別に結像、記録することを特徴としている。
【0052】
なお、これら干渉型電子顕微鏡においては、照射電子線の安定度は電子線の可干渉性に直接関係しており、電子顕微鏡への設置においては、第1電子線バイプリズムでの帯電効果や電圧印加のための導入線などが、誘導磁場によるノイズの源とならないような配慮、工夫が成されるのは当然のことである。
以下,図面を参照しながら,本発明を具体的に適用した透過型電子顕微鏡の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0053】
本発明の実施例1として、図4に示した光学系を搭載した透過型電子顕微鏡の例を、図12に示す。図12において、電子光学系は、電子源(もしくは電子銃)1、加速管40、照射光学系(第1照射レンズ41、第2照射レンズ42)、及び結像光学系(対物レンズ5、第1結像レンズ61、第2結像レンズ62、第3結像レンズ63、第4結像レンズ64)を備えている。この電子光学系は真空容器18中に組み立てられ、真空ポンプにて継続的に排気されている。
【0054】
また、19は電子源の制御ユニット、49は加速管の制御ユニット、48は第1照射レンズの制御ユニット、96は第1の電子線バイプリズムの制御ユニット、47は第2照射レンズの制御ユニット、39は試料ホルダー(図示略)を介して試料3を制御する試料の制御ユニットである。59は対物レンズの制御ユニット、69は第1結像レンズの制御ユニット、68は第2結像レンズの制御ユニット、97は第2の電子線バイプリズムの制御ユニット、67は第3結像レンズの制御ユニット、66は第4結像レンズの制御ユニット、51は制御系コンピュータを示している。第1の電子線バイプリズムの制御ユニット96や第2の電子線バイプリズムの制御ユニット97は、α=kVfの関係に基き、第1、第2の電子線バイプリズムの各中央極細線電極9への印加電圧Vfを制御する。
【0055】
制御系コンピュータ51は演算処理部及び所定の情報を格納するための記憶部やデータストレージを備えており、さらにモニタ52や電子顕微鏡本体とオペレータとのマン・マシンインタフェースとなるユーザインタフェース53及び画像記録・演算処理装置77が接続されている。79は試料の観察記録面上で得られる2つの電子線(右視野電子線21、左視野電子線23)の像を検出する検出手段としての撮像部、78は撮像部79の制御ユニットである。
【0056】
制御系コンピュータ51の記憶部には、図13で説明するフローチャートを実行するためのプログラムを含む、上記各制御ユニットを制御して試料の記録・観察を実行するためのプログラムが記憶されており、制御系コンピュータ51は、これらのプログラムに従って、上記各制御ユニットを制御する。ユーザインタフェース53は、例えば、キーボードやマウス、GUI機能などの情報入力手段を備えている。画像記録・演算処理装置77(以下、画像処理装置、演算処理装置ともいう)は、撮像部79で取得した複数の試料像の情報を記録するとともに、該記録された画像情報を処理して新たな情報を持つ画像を生成し、画像表示装置76に表示する機能を有している。
【0057】
なお、検出手段を構成する撮像部79は、例えば、試料像の検出機能と記録機能と有するものであっても良く、あるいは、光センサーのように単に観察記録面の試料像の検出機能のみを有し、その結果を遂次画像記録・演算処理装置77に送信するものであっても良い。例えばTVカメラやCCDカメラでは、試料像を検知しA/D変換して記録媒体に一時的に記録し、画像記録・演算処理装置77などに送信する。光センサーの場合は、フォトダイオード等の光電変換素子と、光電変換素子からのアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器とを備え、試料像の光を検出しその情報を光電変換、A/D変換したデジタルデータが画像記録・演算処理装置77や制御系コンピュータ51に送信される。
【0058】
なお、画像記録・演算処理装置77に代えて、画像記録・演算処理装置77の機能を有する画像演算プログラムを制御コンピュータ51やネットワークを介して接続された上位のコンピュータ内に組み込み、右視野像と左視野像を利用した異なる情報を含む2つの画像、もしくは右視野像と左視野像の視差等を利用して3次元形状を構築し、モニタ52に表示し、さらにプリンタなどの出力装置に出力することもできる。
【0059】
また、撮像部79で取得した複数の試料像情報やそれらの画像処理の結果を、各制御ユニットにより与えられる試料の測定条件、測定時刻などの情報と共に、制御コンピュータ51や上位のコンピュータのデータストレージに記録し、別途実験者や他の者が利用できるようにしても良い。
【0060】
本実施例において、試料3よりも電子線の進行方向上流側の第1の電子線バイプリズム91は、照射光学系の第2照射レンズ42の主面近傍に配置されている。そして、角度の異なる2方向から試料3に照射され、透過した2つの電子線(21,23)は、結像光学系の対物レンズ5、第1、第2拡大レンズ61、62で拡大された後、電子線の進行方向下流側に位置する第2電子線バイプリズム92で空間的に分離され、さらに2段の拡大レンズ63、64を経た後、観察記録面89で2つの像321、323を結ぶ。図12には、2つの像321、323がそれぞれ、感度を調整した個別の撮像部79で検出、記録され、演算処理装置77に送られて、1つの画像データ760として表示装置76に出力される様子を示している。演算処理装置77の処理データは、制御系コンピュータ51のデータストレージにも格納され、試料面の観察や解析などに利用される。
【0061】
図12は、従来型の100kVから300kVタイプの電子顕微鏡を想定して、2つの電子線バイプリズムや、拡大結像系のレンズを描いているが、これらの電子顕微鏡光学系の構成要素は、この図に限られるものではない。さらに、実際の装置ではこの図12に示した構成要素以外に、電子線の進行方向を変化させる偏向系、電子線の透過領域を制限する絞り機構などが存在する。しかし、これらの装置は、本発明には直接的な関係が無いので、この図では省略している。さらに、真空排気系についても、本発明とは直接の関係が無いため省略する。以下の図においても、同様である。
【0062】
ここで、検出系の2つの撮像部79の調整方法の一例について述べる。
(1)感度の調整:
同種同型の記録媒体を用いても、左右2視野の試料像が自然な形で立体視されるには、2つの試料像の明るさ、コントラストが同じである必要がある。そこで、第1、第2の電子線バイプリズム91と92を光軸2上に挿入しない状態で観察記録面89を広く均一に電子線照射し、このとき検出系の2つの検出・記録媒体である撮像部79において同じ明るさが入力データとなるように感度調整を行う。この入力データが出力されるモニタなどの表示装置76の調整も同時に行う。
(2)照射電子線の調整:
上記(1)の調整の後、第1、第2の電子線バイプリズム91と92を光軸2上に挿入し、しかるべく電子線を偏向して左右2視野の試料像を得る。このとき、左右の入力画像に明るさの差がないように第1の電子線バイプリズム91の位置を調整する。もしくは、電子線の照射位置を調整する。
【0063】
このように電子線バイプリズムにおいては、光軸2上への挿入、引出が簡便に行われる方が操作上便利が良い。また、各々の電子線バイプリズムの位置の微調整も出来なければならない。但し、その精度は、現行の電子線バイプリズムの性能の程度で十分である。
【0064】
撮像部79の調整は随時可とし、何らかの事情による左右2視野像の明るさの差を、電子光学系ではなく、画像処理装置側で補正可能としておくことは実使用に際しての利点と成る。このときの初期の調整値(同じ感度値)をデフォルトとして保全するとともに、いつでも復帰可としておくことは当然である。
【0065】
ここで検出系の感度調整を含めて、上記光学系の調整法について、図13のフローチャートを参照しながら説明する。
【0066】
ステップ01 通常の立ち上げ作業を行い、電子線を発生させる。(この時点では、試料、両電子線バイプリズムは光軸外にある。)
ステップ02 観察記録面89を広く均一に電子線照射する。
ステップ03 両検出系78が同じ入力データとなるよう、検出系のカメラ79の感度を補正する。
ステップ04 両検出系の画像出力装置76が、同じ明るさの画像を出力するように画像出力装置を調整する。
ステップ05 第1の電子線バイプリズム91を光軸上に挿入する。
ステップ06 第1の電子線バイプリズムに電圧を印加し、電子線の重畳照射領域を作り出す。重畳照射領域の観察は、図12に図示はしないが、観察記録面全体を視野に納めるカメラ、もしくは観察記録面全視野をビューポートなどから目視により実現できる。
ステップ07 照射レンズ系により、観察を想定している試料の大きさ、サイズに合わせて重畳照射領域を調整するとともに、第1の電子線バイプリズムにより、左右両試料像の視差角と重畳領域を定める。
ステップ08 第2の電子線バイプリズム92を光軸上に挿入する。第1の電子線バイプリズム91の陰の空間22(第2の電子線バイプリズム92が観察されない空間)に位置調整する。
ステップ09 第2の電子線バイプリズム92に電圧を印加して照射領域を分離し、両検出系79上へ合わせる。このとき、両照射領域が分離仕切れない場合には、照射系を再調整して照射領域を小さくするか、もしくは、制限視野絞り56を用いて視野を制限してもよい。
ステップ10 両照射領域に明るさの差がある場合や、照射領域の大きさに差がある場合は、第1の電子線バイプリズム91の位置を再調整し、上記差が最小となるようにする。
ステップ11 第2の電子線バイプリズムへの印加電圧をゼロとし電子線の重畳照射領域を作り出す。すなわち、この段階では、観察記録面89の中央付近に1つの重畳照射領域が得られるように調整する。
ステップ12 試料を光軸上に挿入し、観察領域を光軸上の電子線の重畳照射領域に定める。すなわち、観察記録面89の中央付近で試料像が得られるように調整する。
ステップ13 観察倍率を所定の倍率に定めるとともに、必要に応じて照射光学系により照射領域の大きさ、明るさなどを再調整する。
ステップ14 試料像のフォーカスや非点収差補正などを行う。
ステップ15 第2の電子線バイプリズム92に電圧を再び印加し、右視野像321、左視野像323をそれぞれの検出系に個別に結像させる。すなわち、右視野像321、左視野像323を、2つの離れた位置の撮像部79に対応する各位置において、観察記録面に結像させる。
ステップ16 観察・記録を実施する。すなわち、TVカメラやCCDカメラなどの撮像部79により観察記録面に結像された右視野像321、左視野像323を検出、記録し、それらを演算処理装置77に送り、画像処理された結果を画像表示装置76のモニタ画面で観察する。観察に際しては、実験者の選択により、所定の画像が画像表示装置76に表示される。
ステップ17 観察の結果、画像が不適切で再調整が必要と判断された場合には、例えばステップ10に戻って、再調整を行う。このとき、試料はすでに光軸上に挿入されているので、試料の存在が不適当な場合は試料を抜き出す。試料を挿入したままの調整作業が可能な場合は、ステップ12の試料挿入操作が省略される。いずれのステップに戻って、再調整を行うかは、状況に応じて実験者が適宜決めればよい。
【0067】
ステップ18 観察の条件を変更して試料の観察を継続する場合は、例えばステップ12に戻る。観察条件の変更には、試料の観察領域の変更、倍率の変更、試料の温度の変更などが含まれる。いずれのステップに戻って、観察を継続するかは、状況に応じて実験者が適宜決めればよい。
【0068】
以上により、右視野像321、左視野像323を同時に観察・記録することが可能となる。なお、試料像の観察記録部分の処理と、記録された試料像の演算処理を行い出力する部分の処理は独立して行われる。すなわち、ステップ16で得られた画像データをどう処理するかは、実験者の自由である。以後の実施例にも示すが、立体像観察に限らず、異なる情報を有する2つの像の同時観察法も含めた、様々な応用が考えられる。
【0069】
このように、本実施例によれば、照射光学系において電子線が2つに分離され、その各々が試料の所定の領域を照射、透過し、拡大結像される様に調整された後には、光学系に対する操作は無い。従って、試料の観察領域の時間的変化をそのまま実時間で記録可能である。そのため、従来の立体観察法が原則として出来なかった、動的かつ実時間での立体像観察が可能となる。
【実施例2】
【0070】
図14は、図8に示した光学系を搭載した透過型電子顕微鏡の例である。照射絞り15を第2照射レンズ42の主面近傍に配置し、第1の電子線バイプリズム91を照射絞り15の上流側に配置している。17は照射絞り15を制御する照射絞りの制御ユニットである。他は図12と同様な構成であるが、撮像部79が1つとなっている。すなわち、2つの独立した試料像321、323を記録するに十分な記録面積のある1つの撮像部79を想定している。このシステムの場合、記録計が1つであるため、実施例1とは異なり、撮像部相互の感度調整(図13のステップ3、ステップ4)は不要となる。出力装置76は2つの画像761、762を個別に描画するタイプを例示している。
【0071】
本実施例によれば、実施例1と同様に、試料の観察面の時間的変化をそのまま実時間で記録可能である。そのため、従来の立体観察法が原則として出来なかった、動的かつ実時間での立体像観察が可能となる。
【実施例3】
【0072】
図15は、図9に示した、照射光学系に電子線バイプリズムを2つ使用する、干渉型電子顕微鏡を想定した実施例である。照射光学系内において、第3の電子線バイプリズム93が第1の電子線バイプリズム91の陰の空間22に配置され、2つの電子線21、23を偏向させて試料3の同じ所定の領域を照射する。98は第3の電子線バイプリズムの制御ユニットである。光学系の調整法に関しては、図13のフローにおいて、ステップ5〜10における第1の電子線バイプリズム91に関する処理に加えて、第3の電子線バイプリズム93に関する処理が追加される。
【0073】
この構成により、第3の電子線バイプリズム93によるフレネル回折波は発生しない。その他の詳細は、先の実施例1,2と同様である。画像出力装置76には、例えば偏光タイプなどのステレオビュアーを用いた立体視モニタを想定しており、図15では左右の視野像が重なった像763を描いている。
【0074】
本実施例によれば、実施例1と同様に、試料の観察面の時間的変化をそのまま実時間で記録し、立体画像を表示可能である。そのため、従来の立体観察法が原則として出来なかった、動的かつ実時間での立体像観察が可能となる。
【0075】
以上、実施例1〜3では、2つに分離された電子線が作るそれぞれの像を用いて試料の3次元像を得ることを主たる目的としていた。照射光学系において電子線が2つに分離され、その各々が試料の所定の領域を照射、透過し、拡大結像される様に調整された後には、光学系に対する操作は無い。従って、試料の時間的変化をそのまま実時間で記録可能である。そのため、本発明に依れば、従来の立体観察法が原則として出来なかった、動的かつ実時間での立体像観察が可能となる。
【0076】
さらに、実施例1〜3で明らかな様に、電子顕微鏡に関連した、画像の観察記録部分と演算処理を行い出力する部分に関しては独立であり、それらの組み合わせは自由である。そのため、同時取得された2つの画像を用いた立体視という概念から離れ、2種類の試料像の同時取得によるデータ量の倍増、もしくは、時間的画像精度の向上、2枚の試料像に対する拡大結像条件が全く同じであるためデータ精度、信頼度の向上など、別の利点、実施例が挙げられる。
【0077】
なお、図3、図5〜図7、図10、図11に示した各光学系についても、上記実施例1〜3と同様に、透過型電子顕微鏡に搭載し、同様な効果を得ることが出来ることは言うまでもない。例えば、図10に示した光学系の調整法に関しては、図13のフローにおいて、ステップ5〜11における第1の電子線バイプリズム91、第2の電子線バイプリズム92の調整に関する処理に加えて、第3の電子線バイプリズム93、第4の電子線バイプリズム94の調整に関する処理が追加される。
【実施例4】
【0078】
<トモグラフィーへの応用1>
電子線によるトモグラフィーでは、光軸と垂直な軸を中心に試料を傾斜させ、各々の角度での試料像を演算装置に取り込み、観察領域に存在する所定の領域の3次元情報を再構築する。このとき、試料の回転軸の方向に伸びた針状の試料で無い限り試料の回転角度には、観察不可能な角度域が発生する。それを補うために、光軸を軸として試料を水平面内で回転(アジムス回転)させ、再び試料を傾斜観察させ、得られた2通りのデータからより高精度の3次元情報を再構築する手法が用いられる。すなわち都合2度の実験を行っている。
【0079】
図16は、本発明の第4の実施例になるトモグラフィーへの応用例を示す模式図である。33はトモグラフィー用の試料ホルダーであり、試料を連続的に傾斜させて撮影した多数の投影像(例えば1度毎に±75度まで傾斜させて撮影した151枚の像)を演算処理装置77で画像処理し、3次元的構造を再構成する。
【0080】
光学系の調整法に関しては、図13のフローにおいて、試料ホルダーの傾斜角の制御と各角度毎の試料像データの取得の繰り返しに関連した処理が追加される。例えば、光軸2と試料ホルダー33の傾斜軸25が成す平面内を2つの電子線21、23が伝播するように、試料上方の電子線バイプリズムの方位角を合わせ、2つの電子線21、23が図16に示すごとく2方向(照射角:θRとθL)から試料3を照射し、観察記録面89に2つの像321、323を結像させる。この光学系条件とトモグラフィー実験における試料の傾斜は、全く独立であるため、この条件にてトモグラフィー観察を実施する。そして、取得される2種類のその各々の試料像データを元に、3次元情報の再構築を実施する。画像再構築の手法は、電子線の照射角度を考慮する点を除けば、従来のトモグラフィーと同じである。先述の試料のアジムス回転と異なり、試料の傾斜角度は、2通りの試料像データ間で全く同じであるため、より高精度の3次元情報の再構築が実現できる。
【0081】
なお、図16では簡単のため、すべての電子レンズを省略し、試料3とそれに入射する2つの電子線21、23とその電子線の元となる2つの光源の像10、および観察される象321、323を模式的に表している。この省略は、2つの電子線の角度が異なり、それに伴って試料を透過する2つの電子線の角度が異なれば、それぞれの電子線を個別の像として観察記録できる本発明の原理に基づいている。光学系としては図4、装置の構成としては図12などと同様である。以下の図においても同様の省略を行っている。
【実施例5】
【0082】
<トモグラフィーへの応用2>
図17に、本発明の第5の実施例になるトモグラフィーへの応用例を示す。図17は、試料ホルダー33の傾斜軸25が実施例4と90°異なる場合の模式図である。この場合には、実施例4の様に異なる照射方位角の2種類のデータを得ることにはならないが、試料3の傾斜角度に加えて電子線の照射角度(θRまたはθL)だけ、大きな角度でのトモグラフィー実験が実施可能となる。
【0083】
さらに、照射角度の和θR+θLが傾斜角の変化量の半分となる条件にて実施すれば(一例を挙げれば、θR=…、−8、−4、0、4、8、12、…とθL=…、−6、−2、2、6、10、14、…)、となるように照射角、傾斜角の変化の関係を選べば、従来法の半分の時間で従来法と同数の試料像が得られる。すなわち、実験効率が向上し、実験系における経時変化に対して影響を受け難い観察が可能となる。
【0084】
一方、左右の照射角度が一致するような傾斜角度の変化を選んだ場合には、試料ホルダー33の傾斜角度の範囲内においては、同照射角度の試料像を2枚ずつ取得することなり、実験の再現性の確認、もしくは、データ積分によるランダムノイズの低減に効果が望める。
【実施例6】
【0085】
<ローレンツ法への応用1>
磁性体の磁化状態を観察するローレンツ顕微鏡法への適用も実施可能である。図18は、ローレンツ法のうち、磁化による電子線の偏向成分を対物絞り55によって選択し、磁区構造を観察するフーコー法への適用例である。観察する磁性薄膜3が図中BUPとBDounで示した180°反転磁区構造をとっているとき、磁化方向と垂直方向に2つの電子線を分離するように、試料上方の電子線バイプリズムの方位角を選ぶ。各々の電子線は、試料を透過した後、磁区構造を反映した2つの電子線(gBUPとgBDoun)にそれぞれ分離される。従来のフーコー法によるローレンツ像観察では、その分離された電子線の片側を対物絞りで選択し拡大結象することにより、磁区の磁化方向を反映した白黒のストライプ状の像を観察する。黒いコントラストの領域は対物絞りで遮蔽された電子線が情報を担っていた磁区を示し、磁化情報の欠落が磁化情報の源である。そのため、試料中の結晶欠陥や析出物など磁化以外の情報を得るためには、再度対物絞りを調整しなおし、逆コントラストのローレンツ像(フーコー法)を観察するか、通常の電子顕微鏡像観察を実施しなければならなかった。
【0086】
本発明によれば、図18に示したごとく、その分離された電子線の片側ずつ(図18では、光軸に近い角度の電子線(gBUPとgBDoun))を対物絞り55で選択し、拡大結象する。従来法では対物絞りを調整し直して得られていた2種類のフーコー法のローレンツ像321、323が、同時に、かつ個別に観察されるため、試料3中の結晶欠陥や析出物などの情報を実時間でより正確に得ることができる。なお、対物絞り55には所定の電子線を透過させる2孔のものを用いてもよい。
【実施例7】
【0087】
<ローレンツ法への応用2>
本発明において、観察領域に同時に照射される電子線は、第1の電子線と第2の電子線に限定されるものではない。実施例6をさらに発展させ、同様に、4つの電子線を用いて任意の方位をとる磁区構造を4方位それぞれ個別に観察することが可能である。図19に、その原理を示す光学系の模式図を示す。本実施例においては、照射光学系に配置された四角錐型電子線プリズムの中央極細線電極95を用いる。四角錐型電子線プリズム95の詳細は、たとえば特許文献5の図15に開示されている。この四角錐型電子線プリズム95は、図19のとおり、光軸2に垂直な同一平面内で中央極細線電極が直交するように配置されたものでも良いし、光軸上別の2平面に分けて直交するよう構成された2つの電子線バイプリズムから構成されてもよい。いずれにしても、光源から放出された電子線が四角錐型電子線プリズム95により偏向されて入射角度の異なる4つの電子線となり、これらを試料3の同一領域を同時に照射できる構成である。試料を透過し、磁区によって伝播方向に偏向を受けたそれぞれの電子線は、孔径サイズ、形状を適切に設定された対物絞り55により、それぞれ異なる磁化方向の磁区情報を持った電子線を個別に透過させることが可能である。そして、結像系に適切に設置された四角錐型電子線プリズムにより、それぞれ異なる磁区情報を反映した試料像(図19上の、試料の下向き磁区画像311、試料の上向き磁区画像312、試料の右向き磁区画像313、試料の左向き磁区画像314)を、観察記録面89に結像することができる。すなわち、磁性体試料の磁化情報を、全方位漏れなく同時観察可能とできる。
【実施例8】
【0088】
<明視野像、暗視野像の同時観察>
本発明は、透過電子線のみを用いた観察像(明視野像322)と散乱(回折)電子線のみを用いた観察像(暗視野像324)の同時観察も可能となる。図20に照射角度の和θR+θLが3/2θの時の実施例を示す。ここでθは回折角であり、図中のgR、gLは回折電子線を表している。光軸上でかつ試料3と第2の電子線バイプリズム92の間に配置された対物絞り55の孔径を、透過波oRと回折波−gLが透過する様に、絞り孔のサイズと設置位置を選べば、明視野像322と暗視野像324の同時観察が可能となる。
【0089】
本発明はさらに、図には記載しないが、対物絞り55の位置を選べば、2つの異なる回折波(例えば、図20で対物絞りを光軸2に対称に挿入した場合には、−gLとgRの2つの暗視野像)の観察が可能となる。
【0090】
本発明は、回折波に対してだけでなく、散乱角度の小さな電子線による暗視野像についても可能である。この場合、第1の電子線バイプリズムによる陰の領域が小さくなるが、第2の電子線バイプリズム92を挿入する位置や、第2の電子線バイプリズムの中央極細線電極のサイズを適正に選部ことにより実施可能である。図20では第2の電子線バイプリズム92を挿入し、明視野像322と暗視野像324が観察記録面89で空間的に完全に分離されることを模式的に示している。結晶性試料を観察する場合には、照射角度の和θR+θLは、回折角θとしたとき、θ<θR+θL<2θの範囲で実施可能である。但し、対物絞りに2孔のものを用いる場合や、円形孔でない絞りを用いる場合は、この限りではない。
【符号の説明】
【0091】
1…電子源もしくは電子銃、10…分離された光源の実像もしくは虚像、15…照射絞り、17…照射絞りの制御ユニット、18…真空容器、19…電子源の制御ユニット、2…光軸、20…電子線の照射領域、21…右視野電子線、22…陰の空間、23…左視野電子線、25…試料ホルダーの傾斜軸、27…電子線の軌道、3…試料、31…対物レンズにより結像された試料の像、311…試料の下向き磁区像、312…試料の上向き磁区像、313…試料の右向き磁区像、314…試料の左向き磁区像、321…試料の右視野像、322…明視野像、323…試料の左視野像、324…暗視野像、33…トモグラフィー用試料ホルダー、356…制限視野絞りの像、39…試料の制御ユニット、4…照射レンズ、40…加速管、41…第1照射レンズ、42…第2照射レンズ、47…第2照射レンズの制御ユニット、48…第1照射レンズの制御ユニット、49…加速管の制御ユニット、5…対物レンズ、51…制御系コンピュータ、52…制御系コンピュータのモニタ、53…制御系コンピュータのユーザインタフェース、55…対物絞り、56…制限視野絞り、59…対物レンズの制御ユニット、6…結像レンズ、61…第1結像レンズ、62…第2結像レンズ、63…第3結像レンズ、64…第4結像レンズ、66…第4結像レンズの制御ユニット、67…第3結像レンズの制御ユニット、68…第2結像レンズの制御ユニット、69…第1結像レンズの制御ユニット、76…画像表示装置、77…画像記録・演算処理装置、78…撮像部の制御ユニット、79…撮像部、8…干渉縞、89…観察・記録面、9…電子線バイプリズム中央極細線電極、91…第1の電子線バイプリズムの中央極細線電極、92…第2の電子線バイプリズムの中央極細線電極、93…第3の電子線バイプリズムの中央極細線電極、94…第4の電子線バイプリズムの中央極細線電極、95…照射光学系に配置された電子線四角錐形プリズムの中央極細線電極、96…第1の電子線バイプリズムの制御ユニット、97…第2の電子線バイプリズムの制御ユニット、98…第3の電子線バイプリズムの制御ユニット、99…平行平板接地電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線の光源と、前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持手段と、前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、前記結像レンズ系による前記試料の像を取得するための少なくとも1つの検出手段とを備えた透過型電子顕微鏡であって、
前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の上流側に配置された第1の電子線バイプリズムと、
前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の下流側で、前記第1の電子線バイプリズムによって作り出される前記電子線の陰の空間に配置された第2の電子線バイプリズムとを有し、
前記第1の電子線バイプリズムにより、前記光源から放出された電子線を偏向させて、前記試料の所定の領域を異なる角度から照射する第1の電子線と第2の電子線とに分離し、
前記第2の電子線バイプリズムにより、前記試料を透過した前記第1の電子線および前記第2の電子線を偏向させて、前記第1の電子線により作られる前記試料の第1の像と前記第2の電子線により作られる前記試料の第2の像とを空間的に分離して形成し、
前記第1の像と前記第2の像とを前記検出手段で取得する
ことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記検出手段で取得された試料像から前記試料の形状を求めるための演算装置と、前記演算装置により求められた前記試料の形状を表示するための表示装置とを備えていることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項2において、
前記演算装置は、前記試料の右視野像、左視野像に該当する前記第1、前記第2の像から前記試料の3次元形状を求める機能を有しており、
前記表示装置に、前記演算装置により求められた前記試料の3次元形状を表示することを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1において、
前記第1の電子線バイプリズムの中央極細線電極に正電圧が印加され、前記第2の電子線バイプリズムに負電圧が印加されることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1において、
前記第1の電子線バイプリズムの中央極細線電極に印加される印加電圧をVf、偏向係数をkとし、αを電子線バイプリズムによる電子線の偏向角度としたとき、α=kVfの関係に基き、前記光源から放出された電子線を偏向させて前記第1の電子線と前記第2の電子線とに分離する第1の電子線バイプリズムの制御ユニットを有していることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1において、
前記第2の電子線バイプリズムの中央極細線電極に印加される印加電圧をVf、偏向係数をkとし、αを電子線バイプリズムによる電子線の偏向角度としたとき、α=kVfの関係に基き、前記試料を透過した前記第1の電子線および前記第2の電子線を偏向させて空間的に分離して形成する第2の電子線バイプリズムの制御ユニットを有していることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1において、
前記第1の電子線バイプリズムを、前記電子線の進行方向において前記照射光学系の照射レンズの主面に配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項1において、
前記第1の電子線バイプリズムを、前記電子線の進行方向において前記照射光学系の照射レンズの上流側に配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項1において、
前記第1の電子線バイプリズムを、前記電子線の進行方向において前記照射光学系の照射レンズの下流側に配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項10】
請求項7において、
前記照射光学系の照射レンズの主面に照射絞りを配置し、該照射絞りの絞り孔の中央部に前記第1の電子線バイプリズムの中央細線電極を配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項11】
請求項3において、
前記試料保持手段がトモグラフィー用試料ホルダーであり、
前記試料を連続的に傾斜させて撮影した撮影した複数の投影像を前記演算処理装置で画像処理し、3次元的構造を再構成し、前記表示装置に表示することを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項12】
電子線の光源と、前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持手段と、前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、前記結像レンズ系による前記試料の像を取得するための少なくとも1つの検出手段とを有する透過型電子顕微鏡であって、
前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の上流側に配置された第1の電子線バイプリズムと、
前記電子線の光軸上で前記照射光学系に属する1つもしくは複数のレンズを介して前記第1の電子線バイプリズムよりも前記電子線の進行方向の下流側で、かつ前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の上流側で、前記第1の電子線バイプリズムによって作り出される前記電子線の陰の空間に配置された第3の電子線バイプリズムと、
前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の下流側で、前記第1の電子線バイプリズムによって作り出される前記電子線の陰の空間に配置された第2の電子線バイプリズムとを有し、
前記第1の電子線バイプリズムおよび前記第3の電子線バイプリズムにより前記光源から放出される電子線を偏向させて互いに異なる方向に伝播するように偏向された第1の電子線と第2の電子線とを、前記試料の所定の領域を異なる角度から照射し、
前記第2の電子線バイプリズムによって、前記試料を透過した前記第1の電子線および前記第2の電子線を偏向させることにより、前記第1の電子線により作られる前記試料の第1の像と前記第2の電子線により作られる前記試料の第2の像とを分離して形成し、
前記第1の像と前記第2の像とを前記検出手段で取得する
ことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項13】
請求項12において、
複数の試料像から試料の形状を求めるための演算装置と、前記演算装置により求められた前記試料の形状を表示するための表示装置とを備えたことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項14】
請求項12において、
複数の試料像から試料の3次元形状を求めるための演算装置と、前記演算装置により求められた前記試料の3次元形状を表示するための表示装置とを備え、
前記3次元形状を求めるための前記複数の画像が、前記試料の右視野像、左視野像に該当する前記試料の第1の像と第2の像であることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項15】
請求項12において、
前記結像光学系を構成する対物レンズの電子線の下流側でかつ該対物レンズによる像の上流側に、干渉像を得るための第4の電子線バイプリズムを備えたことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項16】
電子線の光源と、前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、
前記電子線が照射する前記試料を保持するための試料保持手段と、前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、前記結像レンズ系による前記試料の像を取得するための少なくとも1つの検出手段と、複数の試料像から試料の形状を求めるための演算装置と、表示装置とを有する透過型電子顕微鏡を用いた試料像の観察方法であって、
前記光源から電子線を発生させ、
前記照射光学系中に設置された第1の電子線バイプリズムにより前記電子線を偏向させて角度の異なる2つの電子線に分離し、前記試料の所定の観察領域に異なる角度から同時に照射し、
該試料を同時に透過した前記照射角度の異なる前記2つの電子線を前記結像レンズ系に配置された第2の電子線バイプリズムにより空間的に分離してそれぞれ個別に結像させて、2つの試料像を前記検出手段で取得し、
前記2つの試料像を処理した画像を前記表示装置に表示することを特徴とする透過型電子顕微鏡を用いた試料像の観察方法。
【請求項17】
請求項16において、
前記照射角度の異なる2つの試料像から前記試料の3次元形状を再構築し、前記表示装置に表示することを特徴とする透過型電子顕微鏡を用いた試料像の観察方法。
【請求項18】
請求項16において、
前記照射角度の異なる2つの試料像を生成し、前記表示装置の異なる位置に表示することを特徴とする透過型電子顕微鏡を用いた試料像の観察方法。
【請求項19】
請求項16において、
前記透過型電子顕微鏡は、前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の下流側に配置された対物絞りを有しており、
透過電子線のみを用いた前記試料の明視野像と散乱電子線もしくは回折電子線のみを用いた前記試料の暗視野像とに基く2つの画像を生成し、前記表示装置に表示することを特徴とする透過型電子顕微鏡を用いた試料像の観察方法。
【請求項20】
請求項16において、
前記第1の電子線バイプリズムは、前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の上流側に配置され、
前記第2の電子線バイプリズムは、前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の下流側で、前記第1の電子線バイプリズムによって作り出される前記電子線の陰の空間に配置されており、
前記光源から放出される電子線を前記第1の電子線バイプリズムにより偏向させて第1の電子線と第2の電子線とに分離し前記試料の所定の領域を異なる角度から同時に照射し、
前記試料を透過した前記第1の電子線および前記第2の電子線を前記第2の電子線バイプリズムにより偏向させて、前記第1の電子線により作られる前記試料の第1の像と前記第2の電子線により作られる前記試料の第2の像とを空間的に分離して形成し、
前記試料の右視野像、左視野像に該当する前記第1の像と前記第2の像とを前記検出手段で取得し、
前記試料の第1の像と第2の像とを処理した画像を前記表示装置に表示することを特徴とする透過型電子顕微鏡を用いた試料像の観察方法。
【請求項1】
電子線の光源と、前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持手段と、前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、前記結像レンズ系による前記試料の像を取得するための少なくとも1つの検出手段とを備えた透過型電子顕微鏡であって、
前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の上流側に配置された第1の電子線バイプリズムと、
前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の下流側で、前記第1の電子線バイプリズムによって作り出される前記電子線の陰の空間に配置された第2の電子線バイプリズムとを有し、
前記第1の電子線バイプリズムにより、前記光源から放出された電子線を偏向させて、前記試料の所定の領域を異なる角度から照射する第1の電子線と第2の電子線とに分離し、
前記第2の電子線バイプリズムにより、前記試料を透過した前記第1の電子線および前記第2の電子線を偏向させて、前記第1の電子線により作られる前記試料の第1の像と前記第2の電子線により作られる前記試料の第2の像とを空間的に分離して形成し、
前記第1の像と前記第2の像とを前記検出手段で取得する
ことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記検出手段で取得された試料像から前記試料の形状を求めるための演算装置と、前記演算装置により求められた前記試料の形状を表示するための表示装置とを備えていることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項2において、
前記演算装置は、前記試料の右視野像、左視野像に該当する前記第1、前記第2の像から前記試料の3次元形状を求める機能を有しており、
前記表示装置に、前記演算装置により求められた前記試料の3次元形状を表示することを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1において、
前記第1の電子線バイプリズムの中央極細線電極に正電圧が印加され、前記第2の電子線バイプリズムに負電圧が印加されることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1において、
前記第1の電子線バイプリズムの中央極細線電極に印加される印加電圧をVf、偏向係数をkとし、αを電子線バイプリズムによる電子線の偏向角度としたとき、α=kVfの関係に基き、前記光源から放出された電子線を偏向させて前記第1の電子線と前記第2の電子線とに分離する第1の電子線バイプリズムの制御ユニットを有していることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1において、
前記第2の電子線バイプリズムの中央極細線電極に印加される印加電圧をVf、偏向係数をkとし、αを電子線バイプリズムによる電子線の偏向角度としたとき、α=kVfの関係に基き、前記試料を透過した前記第1の電子線および前記第2の電子線を偏向させて空間的に分離して形成する第2の電子線バイプリズムの制御ユニットを有していることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1において、
前記第1の電子線バイプリズムを、前記電子線の進行方向において前記照射光学系の照射レンズの主面に配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項1において、
前記第1の電子線バイプリズムを、前記電子線の進行方向において前記照射光学系の照射レンズの上流側に配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項1において、
前記第1の電子線バイプリズムを、前記電子線の進行方向において前記照射光学系の照射レンズの下流側に配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項10】
請求項7において、
前記照射光学系の照射レンズの主面に照射絞りを配置し、該照射絞りの絞り孔の中央部に前記第1の電子線バイプリズムの中央細線電極を配置したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項11】
請求項3において、
前記試料保持手段がトモグラフィー用試料ホルダーであり、
前記試料を連続的に傾斜させて撮影した撮影した複数の投影像を前記演算処理装置で画像処理し、3次元的構造を再構成し、前記表示装置に表示することを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項12】
電子線の光源と、前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持手段と、前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、前記結像レンズ系による前記試料の像を取得するための少なくとも1つの検出手段とを有する透過型電子顕微鏡であって、
前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の上流側に配置された第1の電子線バイプリズムと、
前記電子線の光軸上で前記照射光学系に属する1つもしくは複数のレンズを介して前記第1の電子線バイプリズムよりも前記電子線の進行方向の下流側で、かつ前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の上流側で、前記第1の電子線バイプリズムによって作り出される前記電子線の陰の空間に配置された第3の電子線バイプリズムと、
前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の下流側で、前記第1の電子線バイプリズムによって作り出される前記電子線の陰の空間に配置された第2の電子線バイプリズムとを有し、
前記第1の電子線バイプリズムおよび前記第3の電子線バイプリズムにより前記光源から放出される電子線を偏向させて互いに異なる方向に伝播するように偏向された第1の電子線と第2の電子線とを、前記試料の所定の領域を異なる角度から照射し、
前記第2の電子線バイプリズムによって、前記試料を透過した前記第1の電子線および前記第2の電子線を偏向させることにより、前記第1の電子線により作られる前記試料の第1の像と前記第2の電子線により作られる前記試料の第2の像とを分離して形成し、
前記第1の像と前記第2の像とを前記検出手段で取得する
ことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項13】
請求項12において、
複数の試料像から試料の形状を求めるための演算装置と、前記演算装置により求められた前記試料の形状を表示するための表示装置とを備えたことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項14】
請求項12において、
複数の試料像から試料の3次元形状を求めるための演算装置と、前記演算装置により求められた前記試料の3次元形状を表示するための表示装置とを備え、
前記3次元形状を求めるための前記複数の画像が、前記試料の右視野像、左視野像に該当する前記試料の第1の像と第2の像であることを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項15】
請求項12において、
前記結像光学系を構成する対物レンズの電子線の下流側でかつ該対物レンズによる像の上流側に、干渉像を得るための第4の電子線バイプリズムを備えたことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項16】
電子線の光源と、前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、
前記電子線が照射する前記試料を保持するための試料保持手段と、前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、前記結像レンズ系による前記試料の像を取得するための少なくとも1つの検出手段と、複数の試料像から試料の形状を求めるための演算装置と、表示装置とを有する透過型電子顕微鏡を用いた試料像の観察方法であって、
前記光源から電子線を発生させ、
前記照射光学系中に設置された第1の電子線バイプリズムにより前記電子線を偏向させて角度の異なる2つの電子線に分離し、前記試料の所定の観察領域に異なる角度から同時に照射し、
該試料を同時に透過した前記照射角度の異なる前記2つの電子線を前記結像レンズ系に配置された第2の電子線バイプリズムにより空間的に分離してそれぞれ個別に結像させて、2つの試料像を前記検出手段で取得し、
前記2つの試料像を処理した画像を前記表示装置に表示することを特徴とする透過型電子顕微鏡を用いた試料像の観察方法。
【請求項17】
請求項16において、
前記照射角度の異なる2つの試料像から前記試料の3次元形状を再構築し、前記表示装置に表示することを特徴とする透過型電子顕微鏡を用いた試料像の観察方法。
【請求項18】
請求項16において、
前記照射角度の異なる2つの試料像を生成し、前記表示装置の異なる位置に表示することを特徴とする透過型電子顕微鏡を用いた試料像の観察方法。
【請求項19】
請求項16において、
前記透過型電子顕微鏡は、前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の下流側に配置された対物絞りを有しており、
透過電子線のみを用いた前記試料の明視野像と散乱電子線もしくは回折電子線のみを用いた前記試料の暗視野像とに基く2つの画像を生成し、前記表示装置に表示することを特徴とする透過型電子顕微鏡を用いた試料像の観察方法。
【請求項20】
請求項16において、
前記第1の電子線バイプリズムは、前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の上流側に配置され、
前記第2の電子線バイプリズムは、前記電子線の光軸上で前記試料の配置される位置より前記電子線の進行方向の下流側で、前記第1の電子線バイプリズムによって作り出される前記電子線の陰の空間に配置されており、
前記光源から放出される電子線を前記第1の電子線バイプリズムにより偏向させて第1の電子線と第2の電子線とに分離し前記試料の所定の領域を異なる角度から同時に照射し、
前記試料を透過した前記第1の電子線および前記第2の電子線を前記第2の電子線バイプリズムにより偏向させて、前記第1の電子線により作られる前記試料の第1の像と前記第2の電子線により作られる前記試料の第2の像とを空間的に分離して形成し、
前記試料の右視野像、左視野像に該当する前記第1の像と前記第2の像とを前記検出手段で取得し、
前記試料の第1の像と第2の像とを処理した画像を前記表示装置に表示することを特徴とする透過型電子顕微鏡を用いた試料像の観察方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図13】
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【図15】
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【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−40217(P2011−40217A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184998(P2009−184998)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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