透過型電子顕微鏡用のマイクロリアクタおよび加熱要素とその製造方法
第1および第2の被覆層(13)を備え、これらの被覆層は、両方とも電子顕微鏡の電子ビーム(14)に対して少なくとも一部が透明性であり、さらに相互から一定の相互距離を置いて相互に隣接して延び、これらの被覆層間にチャンバ(15)が取り囲まれている、顕微鏡で使用するマイクロリアクタであって、入口(4)および出口(5)が、流体をチャンバに通して供給するために設けられ、さらに加熱手段(8)が、チャンバおよび/またはこのチャンバの中に存在する要素を加熱するために設けられるマイクロリアクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡用のマイクロリアクタ(microreactor)に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡は、高分解能、例えば、0.2nmを凌ぎ、さらに特定的には0.12nmを凌ぐ高い分解能で試料を精査するために使用される。この目的のために、試料が内在している試料保持器が電子顕微鏡の電子ビームの中に置かれ、他方で、このビームによって生成された画像が、例えば、蛍光画面上に表示されるか、またはカメラを用いて捕捉される。これらの試料の精査は、通常、真空中および室温で行われる。
【0003】
米国特許第5406087号が電子顕微鏡用の試料保持器を説明するが、この明細書では、試料保持器が、電気伝導性を獲得するために、黒鉛が被覆された2枚の薄いプラスチック膜によって作製される。これらの膜は、支持用の金属線の格子上で支持され、かつこれらの膜の外縁が、Oリングを用いて相互に対接した状態で封止されている。試料は水と一緒に内封され得るが、その後で、試料は、試料保持器を用いて電子顕微鏡の中に配置され得る。
【0004】
このような知られた試料保持器は、2枚の膜を一定の間隔に維持するために、使用保持器のチャンバに液体と試料とが満たされる必要があるという欠点を有する。さらには、試料および/またはチャンバの変形が発生することなく、圧力がチャンバの中に印加されることは不可能であり、そのような変形は電子顕微鏡の画像を著しく乱す。このような知られた試料保持器のさらなる欠点は、試料および/またはチャンバの温度制御が、保持器内部でそれほど適切に可能であるわけではないことである。
【0005】
このような試料保持器のさらなる欠点は、電子ビームに平行に測定されたチャンバの壁間の距離が相対的に大きく、したがってさらなる画像の乱れが生じることである。さらには、膜が非常に厚いので、これらの膜を使用してHREM(高分解能電子顕微鏡法)は不可能である。さらには、液体が電子ビームの望ましくない拡散を引き起こし、それはHREMの使用を無能にする。
【0006】
米国特許5406087号は、試料チャンバに相対的に剛性の壁が設けられる試料保持器を最新技術として説明する。これらの壁は、相対的に大きな距離に維持され、他方で、電子ビームを試料チャンバの直上および直下に合焦するために、磁気レンズが設けられる。このような試料チャンバはまた、このチャンバを使用して、特に、小さい試料では、十分に鮮明な画像が得られないという欠点を有する。
【0007】
これらの知られた試料保持器は、すべて応用分野が限定されており、場合によっては、それらを使用して十分に鮮明な画像が得られない。さらには、この保持器内部の温度制御が不可能である。
【0008】
流体環境中の試料を精査することが可能であり、他方で、好ましくは試料の周囲温度が制御されることが可能である必要性が存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術からの問題の少なくとも一部を回避するマイクロリアクタを提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、簡素な構造体を有しかつ使用し易いようなマイクロリアクタを提供することを目的とする。
【0011】
本発明はさらに、圧力および温度が制御されることが可能であり、かつ相対的に小さい試料が検査されることが可能である一方で、少なくとも相対的に高い分解能で、相対的に鮮明な画像が得られるマイクロリアクタを提供することを目的とする。
【0012】
本発明はさらに、試料が、気体または液体環境中を含む様々な条件の中で検査されることが可能であるマイクロリアクタを提供することを目的とする。
【0013】
本発明はさらに、マイクロリアクタと、その内部で使用するための加熱要素とを作製する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これらおよび他の目的の少なくとも幾つかが、本発明に係るマイクロリアクタによって本発明に従って実現される。本発明に係るマイクロリアクタは、請求項1に従う方策によって特徴付けられる。
【0015】
本発明に係るマイクロリアクタは、電子顕微鏡の電子ビームに対して少なくとも一部が透明性の2つの被覆層を含み、これらの被覆層は、相互から相対的に小さい相互距離に維持される。試料チャンバが、これらの被覆層の間に取り囲まれており、このチャンバには、流体および/または試料がチャンバの中へおよび/またはこのチャンバを通って送出され得るように、入口と出口とが設けられている。マイクロリアクタには、チャンバの中に存在する流体および/または試料のようなチャンバの中に存在する要素を加熱する加熱手段がさらに設けられる。
【0016】
本明細書で、透明性とは、透過型電子顕微鏡の電子ビームによって、約0.2nmを凌ぎ、さらに特定的には0.12nmを凌ぐ高い分解能が実現され得るような層を意味することが少なくとも理解されている。
【0017】
加熱要素がマイクロリアクタに設けられているので、例えば、マイクロリアクタの中では、特定の反応が開始準備され得るか、維持され得るか、または逆に防止され得るように、例えば、流体を加熱することによって間接的に、そのマイクロリアクタの中に存在する試料が、望ましい温度にされかつ/または維持され得る。さらには、こうして試料は、最適の画像を獲得するための望ましい状態にされかつ/または維持され得る。この場合に、入口および出口は、圧力もチャンバの環境に対してチャンバ内部で制御され得るように、流体がチャンバの中へおよび/またはこのチャンバを通って流れることを可能とする。
【0018】
本発明に係るマイクロリアクタでは、被覆層間の相互距離は、好ましくは相対的に小さく、例えば、平均して50マイクロメートル未満であり、さらに特定的には20マイクロメートル未満であり、好ましくは10マイクロメートル未満である。電子ビームの方向に対して直角に測定されたチャンバの露出表面は、相対的に小さいことが好ましい。この表面は、例えば、20mm2未満であり、さらに特定的には10マイクロメートル未満である。したがって、圧力の変化と全く同様に、温度制御が相対的に簡単かつ容易に可能であるように、相対的に小さい容積を有するチャンバが得られる。
【0019】
好ましくは、被覆層が、枠形状の支持要素によって支持されており、各支持要素の内側に、被覆層の露出部分によって被覆される凹所が設けられるようになっている。この露出部分は、相対的に小さく、例えば、5mm2未満、さらに特定的には0と4mm2の間、例えば、約1mm2の表面を有することが好ましい。それぞれの被覆層は、好ましくは実質的に平坦であり、かつ通常使用時に実質的に変形が発生しないように相対的に剛性である。
【0020】
特に有利な実施形態では、被覆層の少なくとも一方には、好ましくは被覆層のそれぞれには、電子ビームに対して透明性の、特に、他の被覆層よりも透明性の1つまたは複数の窓が設けられる。この目的のために、被覆層は局所的に薄くされていてもよく、それによって凹所を形成し、その底が電子ビームに対して透明性の窓によって形成されている。この場合に、それぞれの窓は、チャンバの表面全体に比べて特に小さく、例えば、数平方マイクロメートルの表面を有する。試料は、1マイクロメートルまたはたとえナノメートル台であっても、依然としてより適切な画像が獲得され得るように、このような窓の上に配置され得る。
【0021】
本発明に係る試料チャンバの中では、均一な熱分布がその表面にわたって、その結果としてチャンバの中において実現されるように、実質的にチャンバの表面にわたって、本明細書で説明されているようにチャンバの少なくとも露出された部分にわたって分布される1つまたは複数の加熱要素の形態で、加熱手段が、被覆層上に、特に、その少なくとも一方の中に設けられているのが好ましい。介在する被覆層の部分を有する別体の加熱部分の中に該またはそれぞれの加熱要素を設計することによって、画像は、加熱要素によって被覆されることから防止される。これは、その場合に、該またはそれぞれの試料が、少なくとも加熱要素間で観察され得るからである。
【0022】
特に有利な実施形態では、加熱要素が、加熱体コイルの形態で使用される。好ましくは、本発明に係る加熱要素は、例えば、特に小さい厚さ、例えば、500ナノメートル未満、さらに特定的には、例えば、300ナノメートル以下の帯および/または板の形態で、窒化チタンから製造される。したがって、加熱要素は、形状に関してチャンバが望ましくない影響を受けることなく、とりわけ容易に、被覆層の中に含まれ得るかまたは被覆層の中に形成され得る。
【0023】
本発明に係るマイクロリアクタは、チップ技術、特にリソグラフィが利用される、本発明に係る方法で製造されることが好ましい。それによって、チップが、異なる層から構築されることが可能であり、他方で、例えば、窓が、窒化シリコンの1つまたは複数の被覆層が上に設けられている酸化シリコンによって両側が被覆されるシリコンから製造され得る。知られた対応では、被覆層の適切な支持体が実現され、正確な寸法決めが特に小さい寸法で維持されることが可能であり、さらには、望ましい特性が獲得されることが可能であるように、被覆層の一部、介在層、および支持体が、温存されるべき被覆層まで凹所を形成するために、除去されること、特にエッチングされることが可能である。言及された材料は、例として言及されているに過ぎない。
【0024】
外側仕上げ層(チャンバに面する被覆層の仕上げ層)を施す前に、加熱要素が、例えば、知られている、スパッタリング技法、蒸着技法、エッチング技法、または他の任意適切な対応によって設けられ得る。同時に、接続電極ばかりでなく、例えば、入口および出口も設けられ得る。チャンバの側壁が容易に得られるように、スペーサ手段が、例えば、酸化シリコンから製造された被覆層の上に設けられ得る。
【0025】
このように形成された2つのチップが相互の上に容易に設けられることが可能であり、他方で、被覆層が、スペーサによって相互から一定の距離に維持される。
【0026】
本発明はさらに、本発明に係るマイクロリアクタが設けられた試料保持器に関し、この試料保持器は電子顕微鏡の試料チャンバの中に配置するのに適切であり、他方では、インサイチューで、試料保持器を介して、流体が試料チャンバの中へまたはこのチャンバを通って送出され得るように、マイクロリアクタの入口および出口とそれぞれに連結しているかまたは連結され得る供給および排出導管が、試料保持器を貫通して延びる。
【0027】
本発明を例示することによって、本発明に係るマイクロリアクタ、方法、および試料保持器、ならびにそのための加熱要素の典型的な実施形態が、図面を参照してさらに詳細に説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以降の説明では、同じまたは対応する部分が、同じまたは対応する参照数字によって指定されている。これらの典型的な実施形態は、本発明の例示として図示されているに過ぎず、いずれの場合も限定的であると解釈されるべきではない。
【0029】
本明細書では、実質的に2つの構築部品から構築されるマイクロリアクタが図示されかつ説明される。これらの構築部品は、それらが実質的にチップ技術を利用して製造されるので、「チップ」と呼ばれる。しかし、これらの構築部品は、異なる対応でも作製され得る。
【0030】
図1は、第1のチップ2と第2のチップ3とを備える本発明に係るマイクロリアクタ1を断面斜視図で示す。図1では、第1のチップ2が、下部側に配置され、入口4および出口5と中心凹所6とを備える。中心凹所6の反対側に、上部チップ3が同様の凹所7を備える。チップ2、3は、凹所6、7の周囲に枠形状の支持部分50を形成し、かつ対向する側に周方向環状スペーサ9を形成する。スペーサ9は、例えば、接着、締付け、または適切な他の技法によって相互に対接して固定される。凹所6、7には加熱体コイル8が見えているが、それはさらに詳細に説明される。
【0031】
図2は、図1に従うマイクロリアクタを断面立面図で拡大して示すが、その断面は尺度に合わせて示されてはいない。明解にする理由のために、幾つかの寸法が他の寸法に対して相対的に拡大されて示されている。
【0032】
図2では、下部チップ2および上部チップ3が、例えば、中心開口を有する板状部分によって形成されたスペーサ9によって一定の相互距離に維持されているのが明白に分かる。
【0033】
図示された典型的な実施形態では、それぞれのチップが、一連の層から組み立てられているが、それは例示として本明細書で論じられるものであり、限定的であると解釈されるべきではない。図示された典型的な実施形態では、2つのチップ2、3の構造体は実質的に同一である。チップ2、3は、シリコンから製造された中心の第1の層10を備える。この第1層の両側に、例えば、酸化シリコン(ウェットエッチングされたSiO2(wet SiO2))から製造された第2の層11が存在する。この第2の層11の上には、両側に、層12aおよび12bと指定された窒化シリコン(低圧化学蒸着されたSiN(lpcvd SiN))の2つの実質的に同一の層から構築された第3の層12が設けられている。第1および第2のチップ2、3の対面側には、第2の層11と第3の層12との間に、例えば、窒化シリコンから製造された介在層13が設けられている。
【0034】
例示として、層の厚さの幾つかの寸法が示されるが、それらは、いずれの場合も限定的であると解釈されるべきではない。第1の層10は、例えば、約525μmであり、それぞれの第2の層は約0.75μmである。2つの第3の層12a、12bはそれぞれ5μmの厚さであり、他方で、介在層13は約10ナノメートルの厚さである。2つのスペーサ9はそれぞれが、例えば、約1μmの厚さを有する。
【0035】
知られたチップ技術、特に、リソグラフィを用いて、凹所6、7が、第1のチップ2および第2のチップ3のそれぞれの中に、図2のチップ2、3の両側からそれぞれの介在層13まで設けられている。図示された典型的な実施形態では、凹所6、7の相互から遠隔にある端部が、相互に対面する側におけるよりも広いように、凹所6、7は、第1の層10の中に傾斜壁を有する。
【0036】
2つのチップ2、3の第3の層12は、介在層13と共に、窒化シリコンから製造された被覆層を形成する。これらの被覆層は、少なくとも凹所6、7の中では、図2で矢印によって模式的に示されているように、電子顕微鏡の電子ビーム14に対して僅かに透明性である。第1のチップ2の中には、入口4が、凹所6の第1の側に設けられ、他方で、出口5が、凹所6の対向する側に設けられる。凹所6と全く同様に、入口4および出口5は、チップ技術、特に、リソグラフィで製造されおり、被覆層12を貫通する。スペーサ9および被覆層12は反応チャンバを取り囲み、このチャンバの中に入口4および出口5が開く。したがって、気体または液体のような流体は、反応チャンバの中の流量および圧力が簡単に制御および/または測定され得るように、入口4から反応チャンバ15を通って出口5に作用的に流れ得る。
【0037】
凹所6に関して中心に位置する、第1のチップ2の被覆層12の中には、コイルの形態にある加熱手段8が、層12aと12bとの間に設けられている。第1のチップ2は、図3の上面図で模式的に示されており、他方では、このような加熱要素の実施形態が、図4および図10で拡大して示されている。図示された実施形態では、加熱体コイル8は、2つの第1の電極15と2つの第2の電極16とに接続された窒化チタンの細い線から構築されている。加熱体コイル8は、一続きの直線的な加熱部分17から成り、二重巻きコイルが創出されるように、すべてが相互に対してほぼ直角を成して食い違うように配置されている。使用では、抵抗の結果として、正確に制御可能な加熱が実現されるように、このコイルに電圧が印加される。窒化チタンが、例えば、トリコン・シグマ(Trikon Sigma)DCマイクロ波反応器で反応スパッタリングによって設けられてもよい。
【0038】
相互に平行に延びる加熱部分17の間に、図示された実施形態では、凹所19が、ほぼ円形の断面を有する窓を形成するために設けられている。図2から明白であるように、これらの凹所は、それらが被覆層12を貫通して介在層13に達するように設計されている。この介在層13は、電子線が、結像に対して悪影響を及ぼすことなく、このような層を容易に通過し得るようになっている。
【0039】
例示として、加熱要素および窓の幾つかの寸法が与えられるが、それらはいずれの場合も限定的であると解釈されるべきではない。例えば、加熱部分17は、約20ナノメートルの厚みと約18μmの幅とを有してもよい。相互に平行に延びる2つの部分17の間に、約12μm幅の帯が設けられており、その中には、2行の窓19が相互に隣接して設けられて、それぞれの窓が、例えば、約2μmの直径(図4)を有してもよいし、場合によっては、僅かにより大きな直径を有する1行の窓19(図10)を有してもよい。使用に際して、試料が凹所19にまたがって延びてもよいし、または、使用に際して、特に、小さい直径の試料では、要素が凹所19の中に延びて介在層13の上に位置してもよい。好ましくは、それぞれの被覆層12には、このような凹所19が設けられ、特に、場合によっては、相互に直に対向して凹所19の対が設けられる。
【0040】
図3で明白に分かるように、電極15、16が、下部、すなわち、第1のチップ2の側面に近づくように延びており、このチップでは、図2に示されているように、電気接点20がチップ2のそれぞれの表面の中に露出されて、電気接触が形成され得るようになっている。加熱体コイル8は、両側が層12a、12bの一方によって被覆されているので、加熱部分17は適切に保護されており、さらに一層均一な熱分布がチャンバ15の中で実現される。
【0041】
図11は、以上に論じられた加熱手段8の4つの実施形態を模式的に示す。左上から時計回りに、一列に並んだ開口を備えるコイル、好ましくは部分17間に底を有しない完全な開口19を備えるコイル、平行で非常に細い帯17Bから構築されて開口19の上方で支持された部分17を備えるコイル、開口19を間に有する部分17を備える一方で部分17と連結された細い突起17Aが開口の中に延びるコイルが、薄い膜、例えばSiNの上に支持されている。
【0042】
図5は、本発明に係る試料保持器21の長手断面を模式的に示す。本明細書でさらに詳細に論じられない限り、本発明に係る試料保持器21は、特に、電子顕微鏡の中に懸架しかつ試料保持器を制御する手段に関して、知られた試料保持器、例えば、国際出願PCT/NL95/00444に説明された試料保持器として設計される。
【0043】
このような試料保持器21は、試料保持器を制御するために電子顕微鏡の外側に作用的に延びる第1の端部22と、電子顕微鏡の真空空間(図示せず)の中に作用的に延びる対向する第2の端部または先端23とを有する。先端23では、試料が、電子ビームの中に配置されるように受け入れられ得る。図5に示されているように、本発明に係る試料保持器21では、本発明に係るマイクロリアクタ1は、図1および2で示されたように、凹所6、7が前端23の中の通路24中に延びて、それぞれの凹所6、7の中に延びる被覆層12の一部25が、凹所の中で見えるように受け入れられる。図5は、電子ビーム14を示す光軸26を断続線として示す。
【0044】
開口24の第1の側に入口4を有し、気体供給源29を連結する気体供給導管28が、試料保持器21を通って、その長手軸27にほぼ平行に延びる。この開口の対向する側に、チャンバ15の出口5が気体排出導管30と連結されており、その導管の小部分のみが出口5の下方に示されている。この気体出口導管は、気体排出物に連結するために、先端23から、気体供給導管28にほぼ平行に第1の端部22の中へ延びる。さらには、電気配線31が、第1の端部22から、マイクロリアクタ1に隣接するチャンバ32の中へ延びており、このチャンバ32の中で、電気配線31は、接点33を介して第1のチップ2の上の4つの接点20と接続される。
【0045】
図5に従う試料保持器は、マイクロリアクタ1に対する電圧および気体または別の流体の供給と放出が、すべて試料保持器21の軸部34に通して行われることが可能であり、その結果として、電子顕微鏡の外側から制御されることが可能であるという利点を有する。さらには、軸部34は長手軸27回りに回転されることが可能であり、それによって試料保持器の動作が乱されることはない。これは、チャンバ15の中の試料が、光軸26に対して長手軸27回りに回転され得ることを意味する。
【0046】
気体流または液体流のような、チャンバ15を通過する流体の流れが、入口導管28および排出導管30を介して実現され得るが、その流れによって、チャンバ15の中の圧力も、このチャンバ中で流れが生成されることなく制御され得ることが明白であろう。さらには、加熱手段8を用いて、チャンバの中の温度が、正確に制御されかつ監視され得る。また、加熱体コイル8は、例えば、チャンバ15の中で生じる反応の結果として、このチャンバ15の中の温度変化を検出するためにも使用され得る。
【0047】
図8は、試料保持器21の先端23の一部を模式的に示すが、その図では、同じ部分が同じ参照数字を有する。単純化として、図5から9では、加熱手段8および窓19が必ずしも示されてはいない。
【0048】
図8に示されているように、マイクロリアクタ1は、軸部34に対して、これらの間に設けられたガスケット35、特に、Oリングによって気密固定される。図8は、第2のチップ3に対接する、上部側のガスケット35のみを示すが、同じように、封止体35が、第1のチップ2に対接して下部側に設けられているか、または設けられ得る。ガスケット35は、開口24の周囲に延びるチャンバ36の中に延在する。これは、電子顕微鏡の真空チャンバ中の真空が容易に維持され得ることを保証する。図8は、チャンバ32の中に、電気配線31の電線37の端部をさらに示すが、この図では、配線37と接続された一方の側と、マイクロリアクタ1の電気接点20に当接する他方の側とに、弾性要素38が明確に示されている。この実施形態では、入口4がチャンバ32と直接連結され、出口5がマイクロリアクタの対向する側でチャンバ39と連結されている。図5に示された対応と同様の対応で、チャンバ32および39は、チャンバ15の中の流体を供給しかつ排出し、および/または圧力を制御するために、それぞれに入口導管28および出口導管30(図8には図示されていない)と連結される。
【0049】
図6および7は、試料保持器21の先端23の代替的な実施形態を示すが、図7は、図6に従って先端の線VII−VIIに従う断面を模式的に示す。この実施形態では、マイクロリアクタ1は、試料保持器21の長手軸27に対して直角を成して延びる軸41回りに回転する回転本体40の中に収容される。このような試料保持器21の中の回転本体40用の動作手段は、常法から一般に十分に知られており、本明細書ではさらに詳細に論じられることはない。
【0050】
図6および7に示された実施形態では、マイクロリアクタ1が、図8に示された対応と同じ対応で回転本体40の中に収容されており、他方で、図7では、第1のチャンバ32がマイクロリアクタ1の左側に延び、かつ第2のチャンバ39がその右側に延びる。この場合では、回転軸41が第1の回転軸41Aと第2の回転軸41Bとから構築されて、両方が先端23の中に固定して設けられた中空管として設計されている。ガスケット42が、回転本体40の中で回転軸41A、41Bを封止する。外側に位置する、管41A、41Bの端部43A、43Bが、図5と同様の対応で、試料保持器21を通って供給導管28および排出導管30の中にそれぞれ開き、他方で、管41A、41Bの対向側端部44A、44Bが、第1のチャンバ32および第2のチャンバ39の中にそれぞれ開く。したがって、この場合も、流体は、試料保持器21の第1の端部22からチャンバ15の中に供給されかつ排出されることが可能であり、および/またはチャンバ15の中の圧力が制御されることが可能である。それ自体が知られた手段を使用して、回転本体40は、チャンバ15、したがってその内部に提供された試料が、光軸26に対して相互に別々の2つの方向へ回転されるように、回転軸41を中心にして管41A、41Bの第2の端部44A、44B回りに回転され得る。
【0051】
図7に示された実施形態では、回転本体40が、管41A、41Bおよび蓋46から懸架された下部部分45から構築されている。下部部分45には空間が設けられており、その中に、ガスケット35を備えるマイクロリアクタ1が配置され、その後で、このマイクロリアクタが蓋46を用いて固定され得る。これは、マイクロリアクタの配置を容易に可能とする。このような構造体はまた、当然のことであるが、本発明に係る試料保持器21の他の実施形態で使用されてもよい。
【0052】
チップ2、3は、例えば、チップ技術を用いて次のように作製されてもよい。
【0053】
第1の層10の上に、第2の層11が両側に設けられ、次いで、この第2の層は第3の層12の第1の層12Aによって被覆されており、他方で、少なくとも一方の側では、介在層13が第2の層11と第3の層12との間に設けられる。次いで、第1のチップ2を製造するために、加熱体コイル8が、チップ2の側面上に、例えば、スパッタリングおよび後段のエッチングによって設けられる。窒化チタン層が、チタンの非常に薄い層によって固着され得る。次いで、それぞれの被覆層12の第2の層12Bが設けられる。酸化シリコンの層が、少なくとも一方の側にスペーサ9用に設けられる。
【0054】
それ自体が知られており、かつ本明細書で詳細には説明されないチップ技術、特に、リソグラフィおよびエッチング工程から知られた方法で、凹所4、5、6、および7が、第1および第2のチップの中にそれぞれ設けられ、他方では、さらに、酸化シリコンの層の一部が、窓形状のスペーサ9を形成するために除去される。後段では、窓を実現するために、凹所19が形成される。さらには、層12Bが接点20から除去される。
【0055】
それに引き続いて、第1のチップ2および第2のチップ3が相互の上に付着され、それによってチャンバ15を形成する。
【0056】
以上では、それぞれの場合に、実質的に密閉されたチャンバ15が、入口4および出口5を備えて形成されている。当然のことであるが、同様の対応で、完全に密閉されたチャンバ15が実現され得る。代替的に、凹所19も、それらが、例えば、相対的に大きな試料で使用され、および/またはチャンバ15と環境との間の圧力差が重要ではないかまたは重要性がより低い状況では、環境との開放連結部を形成するように設けられてもよい。
【0057】
代替的に、本発明に係るチップ、特に、加熱要素8を含むチップが、個々に加熱板として使用され得る。このようなチップ2Aが、図9に模式的に示されており、図5に示されかつそれを参照して説明された保持器と同様であるが、ガス供給導管28およびガス排出導管30を含まない試料保持器21の先端23の中に収容されている。チップ2Aは、図1および2に示されかつそれを参照して説明されたチップ2と実質的に同一であるが、入口4および出口5が割愛されている。特に、このような実施形態では、凹所19が、連続穴の形態で被覆層12の厚さ全体を貫通し得る。しかし、これらは封止されてもよい。電気供給配線31が、この場合でもチップ2Aの接続点20に接続される。
【0058】
使用に際して、試料が加熱要素8の上に配置され、それによってオプションとして幾つかの加熱部分17と、それらの間の凹所19を覆う。加熱要素を使用して、試料は、相対的に少ない供給エネルギーで、特に適切でかつ厳密な対応で加熱され得る。例示として、約500℃の温度を得るために、電子顕微鏡用の従来の加熱要素による約1ワットの仕事率ではなく、約20mWの仕事率で済むことになる。これらの値は、当然のことであるが、例示として言及されているに過ぎず、いずれの場合も限定であると解釈されるべきではない。相対的に低い供給エネルギーの結果として、チップの膨張が相対的に小さく、それによってドリフトを最小限にするという利点が実現される。これは、望ましくない画像のずれが防止されることを意味し、それは、試料の適切で十分に明確な画像の獲得を大幅により容易にする。
【0059】
さらなる代替的な実施形態では、本発明に係るマイクロリアクタ1が、特に、電子顕微鏡で生物組織を精査するために、気候セル(climate cell)(従来から環境セル、ウェット・セル、または水化チャンバとも呼ばれる)として使用され得る。この目的のために、マイクロリアクタではおよび/または試料保持器21では、余分のチャンバが設けられており、そのチャンバの中には加熱手段が設けられる。使用に際して、このような余分のチャンバ、例えば、図7または8のチャンバ32または39の中に、余分の加熱手段によってチャンバ15の中の温度と実質的に等しい温度にされる液体、特に水が供給される。使用に際して、生物組織の形態にある試料が、凝縮が防止されるような対応で、飽和水蒸気によって包囲されてチャンバ15の中に導入される。この目的のために、余分なチャンバの中の水が望ましい温度まで加熱され、他方では、さらに、飽和水蒸気が常に維持されるようにチャンバの中の圧力が制御される。このような本発明に係るセルは、従来技術から知られているセルにまさって、加熱手段ならびに/または入口および出口の結果として、試料の損傷がより適切に防止され得るように、さらに、この試料のより適切な画像が獲得され得るように、非常に適切な気候制御がチャンバの内部で可能であるという利点を提供する。さらなる利点は、チップ技術を利用することによって、その製造が大幅に簡素化されたことである。
【0060】
凹所6、7の少なくとも一方はまた、幅方向および長手方向を有する細長い細溝として設計されてもよい。この場合に、電子ビームが、相対的に大きな傾斜角によって、凹所6、7の周囲の材料によって妨害されることが防止されるように、また凹所、すなわち、被覆層の少なくとも露出部分が相互に関して完全には位置合わせされていなければ、長手方向は、保持器の当該または任意の回転軸、特に、マイクロリアクタを傾斜させるための回転軸に対してほぼ横方向に延びることが好ましい。
【0061】
場合によっては、窓は、特に、使用される気体が顕微鏡に悪影響を及ぼしていなければ、ある程度までまたは完全に気体に対して透過性であってもよい。窓の特に小さい表面の結果として、その場合には、圧力が依然として十分に制御され得る。
【0062】
本発明は、導入部および説明において提示された実施形態に決して限定されるものではない。これらの実施形態の数多くの変形が本発明の構想の範囲内で可能である。よって、材料および寸法は例示として言及されているに過ぎず、したがって限定的であると解釈されるべきではない。特に、図示されかつ説明された実施形態の部分の組合せも本明細書で実施されかつ説明されているものとして理解されるべきである。特に、第1および第2のチップ2、3は、マイクロリアクタとして、すなわち、少なくともそのように設計された加熱板として個々に使用されてもよい。
【0063】
これらおよび数多くの同様な変形は、特許請求の範囲の中に記載された本発明の構想の範囲内にあるものと理解されている。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係るマイクロリアクタを示す断面斜視図である。
【図2】本発明に係るマイクロリアクタの、拡大されているが尺度に合わせて示されていない断面側面図である。
【図3】本発明に係るマイクロリアクタを形成するために使用するチップを模式的に示す上面図である。
【図4】本発明に係るチップの被覆層の一部をさらに拡大して模式的に示す図である。
【図5】本発明に係る試料保持器を模式的に示す図である。
【図6】本発明に係る試料保持器の先端を模式的に示す斜視図である。
【図7】図6で言及された先端を示す、線VII−VIIに従う断面斜視図である。
【図8】本発明に係るマイクロリアクタを有する、本発明に係る試料保持器の先端の一部を模式的に示す断面側面図である。
【図9】本発明に係る試料保持器の代替的な実施形態を示す図である。
【図10】本発明に係る加熱要素を示す上面図である。
【図11】本発明に係る加熱要素の4つの代替的な実施形態を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡用のマイクロリアクタ(microreactor)に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡は、高分解能、例えば、0.2nmを凌ぎ、さらに特定的には0.12nmを凌ぐ高い分解能で試料を精査するために使用される。この目的のために、試料が内在している試料保持器が電子顕微鏡の電子ビームの中に置かれ、他方で、このビームによって生成された画像が、例えば、蛍光画面上に表示されるか、またはカメラを用いて捕捉される。これらの試料の精査は、通常、真空中および室温で行われる。
【0003】
米国特許第5406087号が電子顕微鏡用の試料保持器を説明するが、この明細書では、試料保持器が、電気伝導性を獲得するために、黒鉛が被覆された2枚の薄いプラスチック膜によって作製される。これらの膜は、支持用の金属線の格子上で支持され、かつこれらの膜の外縁が、Oリングを用いて相互に対接した状態で封止されている。試料は水と一緒に内封され得るが、その後で、試料は、試料保持器を用いて電子顕微鏡の中に配置され得る。
【0004】
このような知られた試料保持器は、2枚の膜を一定の間隔に維持するために、使用保持器のチャンバに液体と試料とが満たされる必要があるという欠点を有する。さらには、試料および/またはチャンバの変形が発生することなく、圧力がチャンバの中に印加されることは不可能であり、そのような変形は電子顕微鏡の画像を著しく乱す。このような知られた試料保持器のさらなる欠点は、試料および/またはチャンバの温度制御が、保持器内部でそれほど適切に可能であるわけではないことである。
【0005】
このような試料保持器のさらなる欠点は、電子ビームに平行に測定されたチャンバの壁間の距離が相対的に大きく、したがってさらなる画像の乱れが生じることである。さらには、膜が非常に厚いので、これらの膜を使用してHREM(高分解能電子顕微鏡法)は不可能である。さらには、液体が電子ビームの望ましくない拡散を引き起こし、それはHREMの使用を無能にする。
【0006】
米国特許5406087号は、試料チャンバに相対的に剛性の壁が設けられる試料保持器を最新技術として説明する。これらの壁は、相対的に大きな距離に維持され、他方で、電子ビームを試料チャンバの直上および直下に合焦するために、磁気レンズが設けられる。このような試料チャンバはまた、このチャンバを使用して、特に、小さい試料では、十分に鮮明な画像が得られないという欠点を有する。
【0007】
これらの知られた試料保持器は、すべて応用分野が限定されており、場合によっては、それらを使用して十分に鮮明な画像が得られない。さらには、この保持器内部の温度制御が不可能である。
【0008】
流体環境中の試料を精査することが可能であり、他方で、好ましくは試料の周囲温度が制御されることが可能である必要性が存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術からの問題の少なくとも一部を回避するマイクロリアクタを提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、簡素な構造体を有しかつ使用し易いようなマイクロリアクタを提供することを目的とする。
【0011】
本発明はさらに、圧力および温度が制御されることが可能であり、かつ相対的に小さい試料が検査されることが可能である一方で、少なくとも相対的に高い分解能で、相対的に鮮明な画像が得られるマイクロリアクタを提供することを目的とする。
【0012】
本発明はさらに、試料が、気体または液体環境中を含む様々な条件の中で検査されることが可能であるマイクロリアクタを提供することを目的とする。
【0013】
本発明はさらに、マイクロリアクタと、その内部で使用するための加熱要素とを作製する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これらおよび他の目的の少なくとも幾つかが、本発明に係るマイクロリアクタによって本発明に従って実現される。本発明に係るマイクロリアクタは、請求項1に従う方策によって特徴付けられる。
【0015】
本発明に係るマイクロリアクタは、電子顕微鏡の電子ビームに対して少なくとも一部が透明性の2つの被覆層を含み、これらの被覆層は、相互から相対的に小さい相互距離に維持される。試料チャンバが、これらの被覆層の間に取り囲まれており、このチャンバには、流体および/または試料がチャンバの中へおよび/またはこのチャンバを通って送出され得るように、入口と出口とが設けられている。マイクロリアクタには、チャンバの中に存在する流体および/または試料のようなチャンバの中に存在する要素を加熱する加熱手段がさらに設けられる。
【0016】
本明細書で、透明性とは、透過型電子顕微鏡の電子ビームによって、約0.2nmを凌ぎ、さらに特定的には0.12nmを凌ぐ高い分解能が実現され得るような層を意味することが少なくとも理解されている。
【0017】
加熱要素がマイクロリアクタに設けられているので、例えば、マイクロリアクタの中では、特定の反応が開始準備され得るか、維持され得るか、または逆に防止され得るように、例えば、流体を加熱することによって間接的に、そのマイクロリアクタの中に存在する試料が、望ましい温度にされかつ/または維持され得る。さらには、こうして試料は、最適の画像を獲得するための望ましい状態にされかつ/または維持され得る。この場合に、入口および出口は、圧力もチャンバの環境に対してチャンバ内部で制御され得るように、流体がチャンバの中へおよび/またはこのチャンバを通って流れることを可能とする。
【0018】
本発明に係るマイクロリアクタでは、被覆層間の相互距離は、好ましくは相対的に小さく、例えば、平均して50マイクロメートル未満であり、さらに特定的には20マイクロメートル未満であり、好ましくは10マイクロメートル未満である。電子ビームの方向に対して直角に測定されたチャンバの露出表面は、相対的に小さいことが好ましい。この表面は、例えば、20mm2未満であり、さらに特定的には10マイクロメートル未満である。したがって、圧力の変化と全く同様に、温度制御が相対的に簡単かつ容易に可能であるように、相対的に小さい容積を有するチャンバが得られる。
【0019】
好ましくは、被覆層が、枠形状の支持要素によって支持されており、各支持要素の内側に、被覆層の露出部分によって被覆される凹所が設けられるようになっている。この露出部分は、相対的に小さく、例えば、5mm2未満、さらに特定的には0と4mm2の間、例えば、約1mm2の表面を有することが好ましい。それぞれの被覆層は、好ましくは実質的に平坦であり、かつ通常使用時に実質的に変形が発生しないように相対的に剛性である。
【0020】
特に有利な実施形態では、被覆層の少なくとも一方には、好ましくは被覆層のそれぞれには、電子ビームに対して透明性の、特に、他の被覆層よりも透明性の1つまたは複数の窓が設けられる。この目的のために、被覆層は局所的に薄くされていてもよく、それによって凹所を形成し、その底が電子ビームに対して透明性の窓によって形成されている。この場合に、それぞれの窓は、チャンバの表面全体に比べて特に小さく、例えば、数平方マイクロメートルの表面を有する。試料は、1マイクロメートルまたはたとえナノメートル台であっても、依然としてより適切な画像が獲得され得るように、このような窓の上に配置され得る。
【0021】
本発明に係る試料チャンバの中では、均一な熱分布がその表面にわたって、その結果としてチャンバの中において実現されるように、実質的にチャンバの表面にわたって、本明細書で説明されているようにチャンバの少なくとも露出された部分にわたって分布される1つまたは複数の加熱要素の形態で、加熱手段が、被覆層上に、特に、その少なくとも一方の中に設けられているのが好ましい。介在する被覆層の部分を有する別体の加熱部分の中に該またはそれぞれの加熱要素を設計することによって、画像は、加熱要素によって被覆されることから防止される。これは、その場合に、該またはそれぞれの試料が、少なくとも加熱要素間で観察され得るからである。
【0022】
特に有利な実施形態では、加熱要素が、加熱体コイルの形態で使用される。好ましくは、本発明に係る加熱要素は、例えば、特に小さい厚さ、例えば、500ナノメートル未満、さらに特定的には、例えば、300ナノメートル以下の帯および/または板の形態で、窒化チタンから製造される。したがって、加熱要素は、形状に関してチャンバが望ましくない影響を受けることなく、とりわけ容易に、被覆層の中に含まれ得るかまたは被覆層の中に形成され得る。
【0023】
本発明に係るマイクロリアクタは、チップ技術、特にリソグラフィが利用される、本発明に係る方法で製造されることが好ましい。それによって、チップが、異なる層から構築されることが可能であり、他方で、例えば、窓が、窒化シリコンの1つまたは複数の被覆層が上に設けられている酸化シリコンによって両側が被覆されるシリコンから製造され得る。知られた対応では、被覆層の適切な支持体が実現され、正確な寸法決めが特に小さい寸法で維持されることが可能であり、さらには、望ましい特性が獲得されることが可能であるように、被覆層の一部、介在層、および支持体が、温存されるべき被覆層まで凹所を形成するために、除去されること、特にエッチングされることが可能である。言及された材料は、例として言及されているに過ぎない。
【0024】
外側仕上げ層(チャンバに面する被覆層の仕上げ層)を施す前に、加熱要素が、例えば、知られている、スパッタリング技法、蒸着技法、エッチング技法、または他の任意適切な対応によって設けられ得る。同時に、接続電極ばかりでなく、例えば、入口および出口も設けられ得る。チャンバの側壁が容易に得られるように、スペーサ手段が、例えば、酸化シリコンから製造された被覆層の上に設けられ得る。
【0025】
このように形成された2つのチップが相互の上に容易に設けられることが可能であり、他方で、被覆層が、スペーサによって相互から一定の距離に維持される。
【0026】
本発明はさらに、本発明に係るマイクロリアクタが設けられた試料保持器に関し、この試料保持器は電子顕微鏡の試料チャンバの中に配置するのに適切であり、他方では、インサイチューで、試料保持器を介して、流体が試料チャンバの中へまたはこのチャンバを通って送出され得るように、マイクロリアクタの入口および出口とそれぞれに連結しているかまたは連結され得る供給および排出導管が、試料保持器を貫通して延びる。
【0027】
本発明を例示することによって、本発明に係るマイクロリアクタ、方法、および試料保持器、ならびにそのための加熱要素の典型的な実施形態が、図面を参照してさらに詳細に説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以降の説明では、同じまたは対応する部分が、同じまたは対応する参照数字によって指定されている。これらの典型的な実施形態は、本発明の例示として図示されているに過ぎず、いずれの場合も限定的であると解釈されるべきではない。
【0029】
本明細書では、実質的に2つの構築部品から構築されるマイクロリアクタが図示されかつ説明される。これらの構築部品は、それらが実質的にチップ技術を利用して製造されるので、「チップ」と呼ばれる。しかし、これらの構築部品は、異なる対応でも作製され得る。
【0030】
図1は、第1のチップ2と第2のチップ3とを備える本発明に係るマイクロリアクタ1を断面斜視図で示す。図1では、第1のチップ2が、下部側に配置され、入口4および出口5と中心凹所6とを備える。中心凹所6の反対側に、上部チップ3が同様の凹所7を備える。チップ2、3は、凹所6、7の周囲に枠形状の支持部分50を形成し、かつ対向する側に周方向環状スペーサ9を形成する。スペーサ9は、例えば、接着、締付け、または適切な他の技法によって相互に対接して固定される。凹所6、7には加熱体コイル8が見えているが、それはさらに詳細に説明される。
【0031】
図2は、図1に従うマイクロリアクタを断面立面図で拡大して示すが、その断面は尺度に合わせて示されてはいない。明解にする理由のために、幾つかの寸法が他の寸法に対して相対的に拡大されて示されている。
【0032】
図2では、下部チップ2および上部チップ3が、例えば、中心開口を有する板状部分によって形成されたスペーサ9によって一定の相互距離に維持されているのが明白に分かる。
【0033】
図示された典型的な実施形態では、それぞれのチップが、一連の層から組み立てられているが、それは例示として本明細書で論じられるものであり、限定的であると解釈されるべきではない。図示された典型的な実施形態では、2つのチップ2、3の構造体は実質的に同一である。チップ2、3は、シリコンから製造された中心の第1の層10を備える。この第1層の両側に、例えば、酸化シリコン(ウェットエッチングされたSiO2(wet SiO2))から製造された第2の層11が存在する。この第2の層11の上には、両側に、層12aおよび12bと指定された窒化シリコン(低圧化学蒸着されたSiN(lpcvd SiN))の2つの実質的に同一の層から構築された第3の層12が設けられている。第1および第2のチップ2、3の対面側には、第2の層11と第3の層12との間に、例えば、窒化シリコンから製造された介在層13が設けられている。
【0034】
例示として、層の厚さの幾つかの寸法が示されるが、それらは、いずれの場合も限定的であると解釈されるべきではない。第1の層10は、例えば、約525μmであり、それぞれの第2の層は約0.75μmである。2つの第3の層12a、12bはそれぞれ5μmの厚さであり、他方で、介在層13は約10ナノメートルの厚さである。2つのスペーサ9はそれぞれが、例えば、約1μmの厚さを有する。
【0035】
知られたチップ技術、特に、リソグラフィを用いて、凹所6、7が、第1のチップ2および第2のチップ3のそれぞれの中に、図2のチップ2、3の両側からそれぞれの介在層13まで設けられている。図示された典型的な実施形態では、凹所6、7の相互から遠隔にある端部が、相互に対面する側におけるよりも広いように、凹所6、7は、第1の層10の中に傾斜壁を有する。
【0036】
2つのチップ2、3の第3の層12は、介在層13と共に、窒化シリコンから製造された被覆層を形成する。これらの被覆層は、少なくとも凹所6、7の中では、図2で矢印によって模式的に示されているように、電子顕微鏡の電子ビーム14に対して僅かに透明性である。第1のチップ2の中には、入口4が、凹所6の第1の側に設けられ、他方で、出口5が、凹所6の対向する側に設けられる。凹所6と全く同様に、入口4および出口5は、チップ技術、特に、リソグラフィで製造されおり、被覆層12を貫通する。スペーサ9および被覆層12は反応チャンバを取り囲み、このチャンバの中に入口4および出口5が開く。したがって、気体または液体のような流体は、反応チャンバの中の流量および圧力が簡単に制御および/または測定され得るように、入口4から反応チャンバ15を通って出口5に作用的に流れ得る。
【0037】
凹所6に関して中心に位置する、第1のチップ2の被覆層12の中には、コイルの形態にある加熱手段8が、層12aと12bとの間に設けられている。第1のチップ2は、図3の上面図で模式的に示されており、他方では、このような加熱要素の実施形態が、図4および図10で拡大して示されている。図示された実施形態では、加熱体コイル8は、2つの第1の電極15と2つの第2の電極16とに接続された窒化チタンの細い線から構築されている。加熱体コイル8は、一続きの直線的な加熱部分17から成り、二重巻きコイルが創出されるように、すべてが相互に対してほぼ直角を成して食い違うように配置されている。使用では、抵抗の結果として、正確に制御可能な加熱が実現されるように、このコイルに電圧が印加される。窒化チタンが、例えば、トリコン・シグマ(Trikon Sigma)DCマイクロ波反応器で反応スパッタリングによって設けられてもよい。
【0038】
相互に平行に延びる加熱部分17の間に、図示された実施形態では、凹所19が、ほぼ円形の断面を有する窓を形成するために設けられている。図2から明白であるように、これらの凹所は、それらが被覆層12を貫通して介在層13に達するように設計されている。この介在層13は、電子線が、結像に対して悪影響を及ぼすことなく、このような層を容易に通過し得るようになっている。
【0039】
例示として、加熱要素および窓の幾つかの寸法が与えられるが、それらはいずれの場合も限定的であると解釈されるべきではない。例えば、加熱部分17は、約20ナノメートルの厚みと約18μmの幅とを有してもよい。相互に平行に延びる2つの部分17の間に、約12μm幅の帯が設けられており、その中には、2行の窓19が相互に隣接して設けられて、それぞれの窓が、例えば、約2μmの直径(図4)を有してもよいし、場合によっては、僅かにより大きな直径を有する1行の窓19(図10)を有してもよい。使用に際して、試料が凹所19にまたがって延びてもよいし、または、使用に際して、特に、小さい直径の試料では、要素が凹所19の中に延びて介在層13の上に位置してもよい。好ましくは、それぞれの被覆層12には、このような凹所19が設けられ、特に、場合によっては、相互に直に対向して凹所19の対が設けられる。
【0040】
図3で明白に分かるように、電極15、16が、下部、すなわち、第1のチップ2の側面に近づくように延びており、このチップでは、図2に示されているように、電気接点20がチップ2のそれぞれの表面の中に露出されて、電気接触が形成され得るようになっている。加熱体コイル8は、両側が層12a、12bの一方によって被覆されているので、加熱部分17は適切に保護されており、さらに一層均一な熱分布がチャンバ15の中で実現される。
【0041】
図11は、以上に論じられた加熱手段8の4つの実施形態を模式的に示す。左上から時計回りに、一列に並んだ開口を備えるコイル、好ましくは部分17間に底を有しない完全な開口19を備えるコイル、平行で非常に細い帯17Bから構築されて開口19の上方で支持された部分17を備えるコイル、開口19を間に有する部分17を備える一方で部分17と連結された細い突起17Aが開口の中に延びるコイルが、薄い膜、例えばSiNの上に支持されている。
【0042】
図5は、本発明に係る試料保持器21の長手断面を模式的に示す。本明細書でさらに詳細に論じられない限り、本発明に係る試料保持器21は、特に、電子顕微鏡の中に懸架しかつ試料保持器を制御する手段に関して、知られた試料保持器、例えば、国際出願PCT/NL95/00444に説明された試料保持器として設計される。
【0043】
このような試料保持器21は、試料保持器を制御するために電子顕微鏡の外側に作用的に延びる第1の端部22と、電子顕微鏡の真空空間(図示せず)の中に作用的に延びる対向する第2の端部または先端23とを有する。先端23では、試料が、電子ビームの中に配置されるように受け入れられ得る。図5に示されているように、本発明に係る試料保持器21では、本発明に係るマイクロリアクタ1は、図1および2で示されたように、凹所6、7が前端23の中の通路24中に延びて、それぞれの凹所6、7の中に延びる被覆層12の一部25が、凹所の中で見えるように受け入れられる。図5は、電子ビーム14を示す光軸26を断続線として示す。
【0044】
開口24の第1の側に入口4を有し、気体供給源29を連結する気体供給導管28が、試料保持器21を通って、その長手軸27にほぼ平行に延びる。この開口の対向する側に、チャンバ15の出口5が気体排出導管30と連結されており、その導管の小部分のみが出口5の下方に示されている。この気体出口導管は、気体排出物に連結するために、先端23から、気体供給導管28にほぼ平行に第1の端部22の中へ延びる。さらには、電気配線31が、第1の端部22から、マイクロリアクタ1に隣接するチャンバ32の中へ延びており、このチャンバ32の中で、電気配線31は、接点33を介して第1のチップ2の上の4つの接点20と接続される。
【0045】
図5に従う試料保持器は、マイクロリアクタ1に対する電圧および気体または別の流体の供給と放出が、すべて試料保持器21の軸部34に通して行われることが可能であり、その結果として、電子顕微鏡の外側から制御されることが可能であるという利点を有する。さらには、軸部34は長手軸27回りに回転されることが可能であり、それによって試料保持器の動作が乱されることはない。これは、チャンバ15の中の試料が、光軸26に対して長手軸27回りに回転され得ることを意味する。
【0046】
気体流または液体流のような、チャンバ15を通過する流体の流れが、入口導管28および排出導管30を介して実現され得るが、その流れによって、チャンバ15の中の圧力も、このチャンバ中で流れが生成されることなく制御され得ることが明白であろう。さらには、加熱手段8を用いて、チャンバの中の温度が、正確に制御されかつ監視され得る。また、加熱体コイル8は、例えば、チャンバ15の中で生じる反応の結果として、このチャンバ15の中の温度変化を検出するためにも使用され得る。
【0047】
図8は、試料保持器21の先端23の一部を模式的に示すが、その図では、同じ部分が同じ参照数字を有する。単純化として、図5から9では、加熱手段8および窓19が必ずしも示されてはいない。
【0048】
図8に示されているように、マイクロリアクタ1は、軸部34に対して、これらの間に設けられたガスケット35、特に、Oリングによって気密固定される。図8は、第2のチップ3に対接する、上部側のガスケット35のみを示すが、同じように、封止体35が、第1のチップ2に対接して下部側に設けられているか、または設けられ得る。ガスケット35は、開口24の周囲に延びるチャンバ36の中に延在する。これは、電子顕微鏡の真空チャンバ中の真空が容易に維持され得ることを保証する。図8は、チャンバ32の中に、電気配線31の電線37の端部をさらに示すが、この図では、配線37と接続された一方の側と、マイクロリアクタ1の電気接点20に当接する他方の側とに、弾性要素38が明確に示されている。この実施形態では、入口4がチャンバ32と直接連結され、出口5がマイクロリアクタの対向する側でチャンバ39と連結されている。図5に示された対応と同様の対応で、チャンバ32および39は、チャンバ15の中の流体を供給しかつ排出し、および/または圧力を制御するために、それぞれに入口導管28および出口導管30(図8には図示されていない)と連結される。
【0049】
図6および7は、試料保持器21の先端23の代替的な実施形態を示すが、図7は、図6に従って先端の線VII−VIIに従う断面を模式的に示す。この実施形態では、マイクロリアクタ1は、試料保持器21の長手軸27に対して直角を成して延びる軸41回りに回転する回転本体40の中に収容される。このような試料保持器21の中の回転本体40用の動作手段は、常法から一般に十分に知られており、本明細書ではさらに詳細に論じられることはない。
【0050】
図6および7に示された実施形態では、マイクロリアクタ1が、図8に示された対応と同じ対応で回転本体40の中に収容されており、他方で、図7では、第1のチャンバ32がマイクロリアクタ1の左側に延び、かつ第2のチャンバ39がその右側に延びる。この場合では、回転軸41が第1の回転軸41Aと第2の回転軸41Bとから構築されて、両方が先端23の中に固定して設けられた中空管として設計されている。ガスケット42が、回転本体40の中で回転軸41A、41Bを封止する。外側に位置する、管41A、41Bの端部43A、43Bが、図5と同様の対応で、試料保持器21を通って供給導管28および排出導管30の中にそれぞれ開き、他方で、管41A、41Bの対向側端部44A、44Bが、第1のチャンバ32および第2のチャンバ39の中にそれぞれ開く。したがって、この場合も、流体は、試料保持器21の第1の端部22からチャンバ15の中に供給されかつ排出されることが可能であり、および/またはチャンバ15の中の圧力が制御されることが可能である。それ自体が知られた手段を使用して、回転本体40は、チャンバ15、したがってその内部に提供された試料が、光軸26に対して相互に別々の2つの方向へ回転されるように、回転軸41を中心にして管41A、41Bの第2の端部44A、44B回りに回転され得る。
【0051】
図7に示された実施形態では、回転本体40が、管41A、41Bおよび蓋46から懸架された下部部分45から構築されている。下部部分45には空間が設けられており、その中に、ガスケット35を備えるマイクロリアクタ1が配置され、その後で、このマイクロリアクタが蓋46を用いて固定され得る。これは、マイクロリアクタの配置を容易に可能とする。このような構造体はまた、当然のことであるが、本発明に係る試料保持器21の他の実施形態で使用されてもよい。
【0052】
チップ2、3は、例えば、チップ技術を用いて次のように作製されてもよい。
【0053】
第1の層10の上に、第2の層11が両側に設けられ、次いで、この第2の層は第3の層12の第1の層12Aによって被覆されており、他方で、少なくとも一方の側では、介在層13が第2の層11と第3の層12との間に設けられる。次いで、第1のチップ2を製造するために、加熱体コイル8が、チップ2の側面上に、例えば、スパッタリングおよび後段のエッチングによって設けられる。窒化チタン層が、チタンの非常に薄い層によって固着され得る。次いで、それぞれの被覆層12の第2の層12Bが設けられる。酸化シリコンの層が、少なくとも一方の側にスペーサ9用に設けられる。
【0054】
それ自体が知られており、かつ本明細書で詳細には説明されないチップ技術、特に、リソグラフィおよびエッチング工程から知られた方法で、凹所4、5、6、および7が、第1および第2のチップの中にそれぞれ設けられ、他方では、さらに、酸化シリコンの層の一部が、窓形状のスペーサ9を形成するために除去される。後段では、窓を実現するために、凹所19が形成される。さらには、層12Bが接点20から除去される。
【0055】
それに引き続いて、第1のチップ2および第2のチップ3が相互の上に付着され、それによってチャンバ15を形成する。
【0056】
以上では、それぞれの場合に、実質的に密閉されたチャンバ15が、入口4および出口5を備えて形成されている。当然のことであるが、同様の対応で、完全に密閉されたチャンバ15が実現され得る。代替的に、凹所19も、それらが、例えば、相対的に大きな試料で使用され、および/またはチャンバ15と環境との間の圧力差が重要ではないかまたは重要性がより低い状況では、環境との開放連結部を形成するように設けられてもよい。
【0057】
代替的に、本発明に係るチップ、特に、加熱要素8を含むチップが、個々に加熱板として使用され得る。このようなチップ2Aが、図9に模式的に示されており、図5に示されかつそれを参照して説明された保持器と同様であるが、ガス供給導管28およびガス排出導管30を含まない試料保持器21の先端23の中に収容されている。チップ2Aは、図1および2に示されかつそれを参照して説明されたチップ2と実質的に同一であるが、入口4および出口5が割愛されている。特に、このような実施形態では、凹所19が、連続穴の形態で被覆層12の厚さ全体を貫通し得る。しかし、これらは封止されてもよい。電気供給配線31が、この場合でもチップ2Aの接続点20に接続される。
【0058】
使用に際して、試料が加熱要素8の上に配置され、それによってオプションとして幾つかの加熱部分17と、それらの間の凹所19を覆う。加熱要素を使用して、試料は、相対的に少ない供給エネルギーで、特に適切でかつ厳密な対応で加熱され得る。例示として、約500℃の温度を得るために、電子顕微鏡用の従来の加熱要素による約1ワットの仕事率ではなく、約20mWの仕事率で済むことになる。これらの値は、当然のことであるが、例示として言及されているに過ぎず、いずれの場合も限定であると解釈されるべきではない。相対的に低い供給エネルギーの結果として、チップの膨張が相対的に小さく、それによってドリフトを最小限にするという利点が実現される。これは、望ましくない画像のずれが防止されることを意味し、それは、試料の適切で十分に明確な画像の獲得を大幅により容易にする。
【0059】
さらなる代替的な実施形態では、本発明に係るマイクロリアクタ1が、特に、電子顕微鏡で生物組織を精査するために、気候セル(climate cell)(従来から環境セル、ウェット・セル、または水化チャンバとも呼ばれる)として使用され得る。この目的のために、マイクロリアクタではおよび/または試料保持器21では、余分のチャンバが設けられており、そのチャンバの中には加熱手段が設けられる。使用に際して、このような余分のチャンバ、例えば、図7または8のチャンバ32または39の中に、余分の加熱手段によってチャンバ15の中の温度と実質的に等しい温度にされる液体、特に水が供給される。使用に際して、生物組織の形態にある試料が、凝縮が防止されるような対応で、飽和水蒸気によって包囲されてチャンバ15の中に導入される。この目的のために、余分なチャンバの中の水が望ましい温度まで加熱され、他方では、さらに、飽和水蒸気が常に維持されるようにチャンバの中の圧力が制御される。このような本発明に係るセルは、従来技術から知られているセルにまさって、加熱手段ならびに/または入口および出口の結果として、試料の損傷がより適切に防止され得るように、さらに、この試料のより適切な画像が獲得され得るように、非常に適切な気候制御がチャンバの内部で可能であるという利点を提供する。さらなる利点は、チップ技術を利用することによって、その製造が大幅に簡素化されたことである。
【0060】
凹所6、7の少なくとも一方はまた、幅方向および長手方向を有する細長い細溝として設計されてもよい。この場合に、電子ビームが、相対的に大きな傾斜角によって、凹所6、7の周囲の材料によって妨害されることが防止されるように、また凹所、すなわち、被覆層の少なくとも露出部分が相互に関して完全には位置合わせされていなければ、長手方向は、保持器の当該または任意の回転軸、特に、マイクロリアクタを傾斜させるための回転軸に対してほぼ横方向に延びることが好ましい。
【0061】
場合によっては、窓は、特に、使用される気体が顕微鏡に悪影響を及ぼしていなければ、ある程度までまたは完全に気体に対して透過性であってもよい。窓の特に小さい表面の結果として、その場合には、圧力が依然として十分に制御され得る。
【0062】
本発明は、導入部および説明において提示された実施形態に決して限定されるものではない。これらの実施形態の数多くの変形が本発明の構想の範囲内で可能である。よって、材料および寸法は例示として言及されているに過ぎず、したがって限定的であると解釈されるべきではない。特に、図示されかつ説明された実施形態の部分の組合せも本明細書で実施されかつ説明されているものとして理解されるべきである。特に、第1および第2のチップ2、3は、マイクロリアクタとして、すなわち、少なくともそのように設計された加熱板として個々に使用されてもよい。
【0063】
これらおよび数多くの同様な変形は、特許請求の範囲の中に記載された本発明の構想の範囲内にあるものと理解されている。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係るマイクロリアクタを示す断面斜視図である。
【図2】本発明に係るマイクロリアクタの、拡大されているが尺度に合わせて示されていない断面側面図である。
【図3】本発明に係るマイクロリアクタを形成するために使用するチップを模式的に示す上面図である。
【図4】本発明に係るチップの被覆層の一部をさらに拡大して模式的に示す図である。
【図5】本発明に係る試料保持器を模式的に示す図である。
【図6】本発明に係る試料保持器の先端を模式的に示す斜視図である。
【図7】図6で言及された先端を示す、線VII−VIIに従う断面斜視図である。
【図8】本発明に係るマイクロリアクタを有する、本発明に係る試料保持器の先端の一部を模式的に示す断面側面図である。
【図9】本発明に係る試料保持器の代替的な実施形態を示す図である。
【図10】本発明に係る加熱要素を示す上面図である。
【図11】本発明に係る加熱要素の4つの代替的な実施形態を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2の被覆層を備え、前記被覆層は、両方とも電子顕微鏡の電子ビームに対して少なくとも一部が透明性であり、さらに相互から一定の相互距離を置いて相互に隣接して延び、前記被覆層間にチャンバが取り囲まれている、顕微鏡で使用するマイクロリアクタであって、入口および出口が、流体を前記チャンバに通して供給するために設けられ、さらに加熱手段が、前記チャンバおよび/または前記チャンバの中に存在する要素を加熱するために設けられるマイクロリアクタ。
【請求項2】
前記電子ビームに対して透明性である前記被覆層の少なくとも前記一部は、平均して100マイクロメートル未満、さらに特定的には20マイクロメートル未満、好ましくは10マイクロメートル未満の相互距離にある、請求項1に記載のマイクロリアクタ。
【請求項3】
前記相互距離は数マイクロメートルであり、前記被覆層の前記一部の間に取り囲まれた前記チャンバは、前記被覆層の前記一部にほぼ平行に測定された露出表面を有し、前記露出表面は、20mm2未満、特定的には10mm2未満、さらに特定的には5mm2未満、好ましくは1mm2ほどの大きさである、請求項2に記載のマイクロリアクタ。
【請求項4】
前記被覆層は気密および液密である、前記請求項のいずれか一項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項5】
前記被覆層の中に、前記電子ビームに対して透明性である窓が設けられ、第1の被覆層の中の少なくとも1つの窓が、対向する第2の被覆層の中の窓に対向して配置される、前記請求項のいずれか一項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項6】
少なくとも1つの被覆層の中の前記窓は、前記チャンバの中の凹所として形成される、請求項5に記載のマイクロリアクタ。
【請求項7】
前記加熱手段は、加熱要素、特に加熱体コイルを含み、前記加熱要素は被覆層の中にまたは前記被覆層の上に収容される、前記請求項のいずれか一項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項8】
前記またはそれぞれの加熱要素は、前記加熱要素が前記チャンバの中で実質的に均一な熱分布を作用的に保証するように設けられる、請求項7に記載のマイクロリアクタ。
【請求項9】
前記被覆層の少なくとも1つの中で、一定の相互距離を置いて配置された加熱部分を含む加熱要素が収容され、前記加熱部分の少なくとも幾つかの間に、電子顕微鏡の前記電子ビームに対して透明性である前記またはそれぞれの個々の被覆層の部分が設けられる、前記請求項のいずれか一項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項10】
前記マイクロリアクタは、チップ技術、特にリソグラフィの利用によって少なくとも一部が製造される、前記請求項のいずれか一項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項11】
それぞれの被覆層は本体の一部であり、前記本体は、前記マイクロリアクタを形成するために相互に連結される、前記請求項のいずれか一項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項12】
被覆層を備え、前記被覆層の少なくとも一部が、特に透過型の電子顕微鏡の電子ビームに対して透明性である、電子顕微鏡で使用するマイクロリアクタであって、加熱要素が前記被覆層の中にまたは前記被覆層の上に収容され、前記透明性部分は、少なくとも一部が前記加熱要素の加熱部分間に延びるマイクロリアクタ。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載のマイクロリアクタにおける、請求項12に記載のマイクロリアクタの使用。
【請求項14】
前記請求項のいずれか一項に記載のマイクロリアクタで使用する加熱要素であって、前記加熱要素が、500nm未満、さらに特定的には300nm未満の厚さを有する帯および/または板の形態にあるTiNから製造される加熱要素を含む、加熱要素。
【請求項15】
電子顕微鏡で使用するマイクロリアクタを製造する方法であって、リソグラフィ技法を用いて、凹所を有する少なくとも1つのチップが製造され、前記凹所は被覆層によって封止され、前記被覆層は、少なくとも一部が電子顕微鏡の電子ビームに対して透明性である方法。
【請求項16】
スペーサを用いて、第2の被覆層が、第1の被覆層の上方に、これらの間にチャンバが取り囲まれるように前記第1の被覆層から一定の距離を置いて設けられる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1および前記第2の被覆層は、リソグラフィ技法を用いて2つの別体のチップとして製造され、前記チップは相互の上に設けられ、それによって前記チャンバを形成する、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも一方の被覆層、好ましくはそれぞれの被覆層の中に、少なくとも1つの窓が、底を有する凹所の形態で設けられ、前記底は前記電子ビームに対して透明性である、請求項15から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
加熱要素が、前記被覆層の少なくとも一方の上に設けられ、前記加熱要素は前記チャンバに面する側が被覆される、請求項15から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記チャンバのための入口および出口が設けられる、請求項15から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
相互から離間された加熱要素を有する加熱要素が設けられたチップであって、前記加熱部分の少なくとも幾つかの間に、電子顕微鏡の電子ビームに対して透明性である窓を形成するために凹所が設けられるチップ。
【請求項1】
第1および第2の被覆層を備え、前記被覆層は、両方とも電子顕微鏡の電子ビームに対して少なくとも一部が透明性であり、さらに相互から一定の相互距離を置いて相互に隣接して延び、前記被覆層間にチャンバが取り囲まれている、顕微鏡で使用するマイクロリアクタであって、入口および出口が、流体を前記チャンバに通して供給するために設けられ、さらに加熱手段が、前記チャンバおよび/または前記チャンバの中に存在する要素を加熱するために設けられるマイクロリアクタ。
【請求項2】
前記電子ビームに対して透明性である前記被覆層の少なくとも前記一部は、平均して100マイクロメートル未満、さらに特定的には20マイクロメートル未満、好ましくは10マイクロメートル未満の相互距離にある、請求項1に記載のマイクロリアクタ。
【請求項3】
前記相互距離は数マイクロメートルであり、前記被覆層の前記一部の間に取り囲まれた前記チャンバは、前記被覆層の前記一部にほぼ平行に測定された露出表面を有し、前記露出表面は、20mm2未満、特定的には10mm2未満、さらに特定的には5mm2未満、好ましくは1mm2ほどの大きさである、請求項2に記載のマイクロリアクタ。
【請求項4】
前記被覆層は気密および液密である、前記請求項のいずれか一項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項5】
前記被覆層の中に、前記電子ビームに対して透明性である窓が設けられ、第1の被覆層の中の少なくとも1つの窓が、対向する第2の被覆層の中の窓に対向して配置される、前記請求項のいずれか一項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項6】
少なくとも1つの被覆層の中の前記窓は、前記チャンバの中の凹所として形成される、請求項5に記載のマイクロリアクタ。
【請求項7】
前記加熱手段は、加熱要素、特に加熱体コイルを含み、前記加熱要素は被覆層の中にまたは前記被覆層の上に収容される、前記請求項のいずれか一項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項8】
前記またはそれぞれの加熱要素は、前記加熱要素が前記チャンバの中で実質的に均一な熱分布を作用的に保証するように設けられる、請求項7に記載のマイクロリアクタ。
【請求項9】
前記被覆層の少なくとも1つの中で、一定の相互距離を置いて配置された加熱部分を含む加熱要素が収容され、前記加熱部分の少なくとも幾つかの間に、電子顕微鏡の前記電子ビームに対して透明性である前記またはそれぞれの個々の被覆層の部分が設けられる、前記請求項のいずれか一項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項10】
前記マイクロリアクタは、チップ技術、特にリソグラフィの利用によって少なくとも一部が製造される、前記請求項のいずれか一項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項11】
それぞれの被覆層は本体の一部であり、前記本体は、前記マイクロリアクタを形成するために相互に連結される、前記請求項のいずれか一項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項12】
被覆層を備え、前記被覆層の少なくとも一部が、特に透過型の電子顕微鏡の電子ビームに対して透明性である、電子顕微鏡で使用するマイクロリアクタであって、加熱要素が前記被覆層の中にまたは前記被覆層の上に収容され、前記透明性部分は、少なくとも一部が前記加熱要素の加熱部分間に延びるマイクロリアクタ。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載のマイクロリアクタにおける、請求項12に記載のマイクロリアクタの使用。
【請求項14】
前記請求項のいずれか一項に記載のマイクロリアクタで使用する加熱要素であって、前記加熱要素が、500nm未満、さらに特定的には300nm未満の厚さを有する帯および/または板の形態にあるTiNから製造される加熱要素を含む、加熱要素。
【請求項15】
電子顕微鏡で使用するマイクロリアクタを製造する方法であって、リソグラフィ技法を用いて、凹所を有する少なくとも1つのチップが製造され、前記凹所は被覆層によって封止され、前記被覆層は、少なくとも一部が電子顕微鏡の電子ビームに対して透明性である方法。
【請求項16】
スペーサを用いて、第2の被覆層が、第1の被覆層の上方に、これらの間にチャンバが取り囲まれるように前記第1の被覆層から一定の距離を置いて設けられる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1および前記第2の被覆層は、リソグラフィ技法を用いて2つの別体のチップとして製造され、前記チップは相互の上に設けられ、それによって前記チャンバを形成する、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも一方の被覆層、好ましくはそれぞれの被覆層の中に、少なくとも1つの窓が、底を有する凹所の形態で設けられ、前記底は前記電子ビームに対して透明性である、請求項15から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
加熱要素が、前記被覆層の少なくとも一方の上に設けられ、前記加熱要素は前記チャンバに面する側が被覆される、請求項15から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記チャンバのための入口および出口が設けられる、請求項15から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
相互から離間された加熱要素を有する加熱要素が設けられたチップであって、前記加熱部分の少なくとも幾つかの間に、電子顕微鏡の電子ビームに対して透明性である窓を形成するために凹所が設けられるチップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2008−512841(P2008−512841A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531097(P2007−531097)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000662
【国際公開番号】WO2006/031104
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(503216801)テヒニシェ、ユニベルシテイト、デルフト (1)
【氏名又は名称原語表記】TECHNISCHE UNIVERSITEIT DELFT
【出願人】(507081119)
【氏名又は名称原語表記】STICHTING VOOR DE TECHNISCHE WETENSCHAPPEN
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000662
【国際公開番号】WO2006/031104
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(503216801)テヒニシェ、ユニベルシテイト、デルフト (1)
【氏名又は名称原語表記】TECHNISCHE UNIVERSITEIT DELFT
【出願人】(507081119)
【氏名又は名称原語表記】STICHTING VOOR DE TECHNISCHE WETENSCHAPPEN
【Fターム(参考)】
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