説明

透過性反応壁による地下水浄化構造

【課題】グラウトによる浄化性能の低下がない透過性反応壁による地下水浄化構造を提供する。
【解決手段】地中に設けられた透過性反応壁5及び該透過性反応壁に連なる遮水壁7を備え、該遮水壁と透過性反応壁とがグラウト6によって接続されている透過性反応壁による地下水浄化構造において、該グラウト6は、透過性反応壁の反応阻害物質の不溶出性又は低溶出性を有していることを特徴とする。好ましくは、グラウトは、シリカ系グラウトであり、その硬化剤が重硫酸ナトリウム、蟻酸及び硫酸の少なくとも1種を主成分とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過性反応壁による汚染地下水の浄化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
汚染地下水を浄化する場合、処理対象に応じた浄化材に必要に応じて砂利などの透水性材料と混合して汚染地下水の下流側の帯水層に埋設することにより汚染地下水を浄化材と接触させて浄化する、いわゆる透過性反応壁(PRB;Permeable Reactive Barriers)が広く知られている(特許文献1〜4)。浄化材として、各種有機物を分解するためには鉄粉や活性炭を、フッ素を吸着・不溶化するには火山灰土壌や酸化マグネシウムを用いることが知られている。
【0003】
透過性反応壁を地中に設置するときに、広範囲の汚染地下水が透過性反応壁に集約されるように、透過性反応壁の両端に接続された遮水壁を設けることがある。このときショートパスを防ぐために、透過性反応壁と遮水壁とを接続する際に、グラウト材料を充填後に硬化剤を混合することにより固結させてグラウトとして一体化する。同様に、透過性反応壁を岩場や構造物の間など施工しづらい場所に施工するケースにおいても、透過性反応壁と岩場や構造物の隙間を埋めるためにグラウト材料によるグラウトが使われる。遮水壁それ自体をグラウトで構成することもある。その他にも不透水層の一部が薄くなったときの修復材としてもグラウト材料によるグラウトを用いることがある。
【0004】
なお、透過性反応壁に適用するためには、長期的に化学的安定性を維持できるグラウトを形成する必要があるので、例えばシリカ系グラウトなどを使用する。この際のグラウト材料としては、シリカを主成分とするスラリー状のシリカグラウト材料を用い、これに対応する硬化剤としては主成分としてリン酸、硫酸とリン酸の混合剤、五酸化二リンを含有するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平5−501520
【特許文献2】特表平6−506631
【特許文献3】特開2005−815
【特許文献4】特開2007−203248
【特許文献5】特開平10−277532
【特許文献6】特開2001−347280
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グラウトを構築した後に、透過性反応壁の浄化性能が徐々に低下することが分かってきた。この原因を解明するため、透過性反応壁を構成する浄化材からの溶出物質と浄化材への吸着物質を分析した。この結果、グラウトの硬化材として添加したHPOが浄化材によって処理されてしまうため、本来の浄化対象物質の浄化量が低下することが判明した。さらには、CaやMgといった硬度成分もスケールを生成して浄化材表面に付着することにより浄化能力を低下させることも判明した。
【0007】
グラウト材料の硬化剤としてリン酸を用いる場合、鉄粉の表面に下式のようにして難溶性塩FeHPO等が生成して、鉄粉が不活性化する。
Fe2++HPO→FeHPO
Fe3++HPO→FePO
【0008】
また、CaやMgといった硬度成分も、鉄粉表面近傍のアルカリ性の影響で地下水中の炭酸イオンと反応してスケール(CaCO、MgCO)を生成して鉄粉表面に付着し、阻害物質として作用する。
【0009】
火山灰土壌は、リン酸が存在すると、フッ素よりも優先的に、反応活性部位がリン酸と反応してしまい、フッ素の除去能力が低下してしまう。
【0010】
また、CaやMgといった硬度成分が多量に存在すると、下式のように、フッ素の反応部位と反応して、同様にフッ素の吸着を阻害する。
R−Fe−O−H+Ca2+→R−Fe−O−Ca
【0011】
酸化マグネシウムは、リン酸が存在すると、フッ素よりも優先的に、酸化マグネシウム表面にて、難溶性の塩(MgPO)を生成して、フッ素の除去を阻害する。なお、酸化マグネシウムについては、CaやMg等の硬度成分による阻害はない。
【0012】
活性炭周囲に、リン酸が存在する場合、活性炭粒子内のアルカリ性の影響で、地下水中のカルシウムやマグネシウムとリン酸が不溶性のCa(POやMg(POを活性炭内部で生成して、揮発性有機化合物の吸着サイトを消費してしまう。
【0013】
また、CaやMgといった硬度成分のみでもその活性炭粒子内のアルカリ性の影響で、スケール(CaCOやMgCO)を生成し、揮発性有機化合物の吸着サイトを消費してしまう。
【0014】
本発明は、グラウトによる浄化性能の低下がない透過性反応壁による地下水浄化構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明(請求項1)の透過性反応壁による地下水浄化構造は、地中に設けられた透過性反応壁及び該透過性反応壁に隣接する遮水壁を備え、該遮水壁と透過性反応壁とがグラウトによって接続されている透過性反応壁による地下水浄化構造において、該グラウトは、透過性反応壁の反応阻害物質の不溶出性又は低溶出性を有していることを特徴とするものである。
【0016】
本発明(請求項2)の透過性反応壁による地下水浄化構造は、地中に設けられ、地盤又は構造物に隣接する透過性反応壁を備え、該地盤又は構造物と透過性反応壁とがグラウトによって接続されている透過性反応壁による地下水浄化構造において、該グラウトは、透過性反応壁の反応阻害物質の不溶出性又は低溶出性を有していることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の一態様では、このグラウトは、シリカ系グラウトであり、その硬化剤が重硫酸ナトリウム、蟻酸及び硫酸の少なくとも1種を主成分とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、グラウトからP、Ca、Mgなどの浄化材の反応阻害物質が溶出することがないため、透過性反応壁の浄化性能を低下させることなく浄化性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の説明図である。
【図2】透過性反応壁及び遮水壁の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を参照して本発明の実施の形態に係る透過性反応壁による地下水浄化構造を詳細に説明する。
【0021】
第1図は、本発明の透過性反応壁による地下水浄化構造を示す模式図であって、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のB−B線に沿う断面図である。第2図は透過性反応壁及び遮水壁の斜視図である。
【0022】
第1図(b)の通り、地表1から所定深さに不透水層3あるいは難透水層が存在し、その上側に帯水層2が存在する。4は地下水位である。
【0023】
地下水の流れW、Wを横断するように透過性反応壁5を設けると共に、この透過性反応壁5の両端にグラウト6を介して連なるようにして遮水壁7,7を設け、上流側からの地下水が確実に透過性反応壁5を通過するようにする。
【0024】
透過性反応壁5の施工手順は以下の通りである。口径100〜300cm特に80〜200cm程度にボウリングする。このボウリング孔内を浄化材を含む充填材で埋め戻すことにより柱状の第1の浄化体を作成する。次いでこの柱状の第1の浄化体と部分的に重なるようにボウリングして同様に浄化材を含む充填材で埋め戻すことにより柱状の第2の浄化体を作成する。以下、同様の作業を繰り返して柱状の浄化体を並列して作成することにより、壁状の浄化体よりなる透過性反応壁を作成する。なお、浄化材及び充填材の材料の好適例については後述する。この透過性反応壁5の両端に隣接するようにH型鋼と鉄矢板を打ち込んで遮水壁7を構築する。最後に透過性反応壁5と遮水壁7との間にボウリングしてグラウト材料(スラリー状)を透過性反応壁の上端(地表面)から下端(不透水層)まで圧入すると共にグラウト材料の注入箇所の近傍に硬化剤を同時注入する。これにより、土壌中に浸透させつつ固結させてグラウト6を壁状に形成して透過性反応壁5と遮水壁7との隙間を埋める。なお、透過性反応壁5と遮水壁7の施工順序は特にどちらが先でも構わない。このグラウト6(グラウト材料を固結させて形成した壁状体)を、透過性反応壁5の反応阻害物質を全く又は殆ど溶出しない材料にて構成する。
【0025】
<透過性反応壁5の材料>
透過性反応壁5は、浄化材と充填材とで構成される。浄化材としては、鉄粉、火山灰土壌、酸化マグネシウム、活性炭などを用いることができる。
【0026】
鉄粉としては、炭素を0.29重量%〜5重量%含有し、平均粒径0.1mm以上(例えば0.1〜2mm)かつ比表面積0.5m/g以上(例えば0.5〜2m/g)である鉄粉を用いるのが好ましい。この鉄粉は、トリクロロエチレン(TCE)などの有機塩素化合物を分解する機能を有する。鉄粉によるTCEの分解反応は次式で示される。
3Fe+CHCl+3HO→C+3Fe3++3Cl+3OH
【0027】
火山灰土壌としては、噴出源より遠く離れた非火山地域をも広く覆い、細粒の火山灰が褐色に風化したいわゆるローム層を母材とするアンドソルが特に好ましい。
【0028】
火山灰土壌はフッ素の吸着・不溶化作用を有する。このフッ素の吸着・不溶化は、次式のように火山灰粒子表面の反応活性部位で起こる。
R−Fe−O−H+F→R−Fe−O−H
R−Al−O−H+F→R−Al−O−HF(R:火山灰を構成する鉱物成分(例えばアルミノシリケート)の基本骨格)
【0029】
酸化マグネシウムはフッ素の吸着・不溶化作用を有する。このフッ素の吸着・不溶化反応は、次式で示される。
MgO+F+HO→Mg(F)(OH)+OH
【0030】
活性炭は、地下水に溶解したTCEなどの揮発性有機化合物を物理的にその表面に吸着して、地下水中から除去する吸着材である。
【0031】
鉄粉以外の浄化材の粒度は0.01〜4mm、特に0.1〜2mm程度であることが好ましい。なお、細かい粉体状物質を適当な粒子径に造粒して使用することもできる。
【0032】
浄化材と併用する充填材としては、比較的粒径の大きな砂、砕石等を用いることができる。なお、この充填材は用いなくてもよい。充填材を用いる場合、浄化材と充填材との使用割合又は混合比は、地下水の流速等を考慮して、適宜決定される。
【0033】
<グラウト材料及び硬化剤>
グラウトとしては、シリカ系グラウト、及び微粒子スラグ系グラウトがあるが、透過性反応壁に適用する場合はシリカ系グラウトが好適である。
【0034】
シリカ系グラウトとしては、水ガラスそのものを主成分としたグラウト、酸性シリカゾルを主成分としたグラウト、コロイダルシリカを主成分としたグラウト、水ガラスを陽イオン交換樹脂またはイオン交換膜で処理して得られる活性珪酸を主成分とした中性シリカゾル系グラウト、活性珪酸とコロイダルシリカの混合物を中性乃至酸性に調整されたグラウト等が知られている。
本発明では、これらの各種のグラウトのうち、長期的に化学的安定を維持できるグラウトを形成できるものであれば問題なく使用することができるが、中でも、水ガラス希釈液をイオン交換樹脂に通して脱アルカリした後、これを加熱等により分子量数万あるいはそれ以上に縮合安定化し、次いでSiO含量20〜30%に濃縮した、直径10μm程度の超微粒のコロイダルシリカの水溶液をグラウト材料として用いる中性シリカゾル系グラウトが好適である。
【0035】
一般的にP、Ca、Mgを溶出するようなグラウト材料は透過性反応壁には使用しないのでグラウト材料についてはP、Ca、Mgの溶出について考慮しなくてよい。いずれのグラウト材料を用いる場合でも、グラウト材料の硬化剤としてP、Ca、Mgを全く又は殆ど溶出しないものを用いることが必要になる。シリカグラウト材料を固結する硬化剤であってP、Ca、Mgを溶出しないものとしては重硫酸ナトリウム、蟻酸、又は硫酸が挙げられる。
【0036】
重硫酸ナトリウムから溶出する硫酸イオンや、蟻酸は、鉄粉表面に難溶性塩を生成しないため、浄化材の消費により活性が低下するといった浄化の阻害を起こさない。これは鉄粉に限らず、火山灰土壌、活性炭、酸化マグネシウムについても同様である。
【0037】
以下、透過性反応壁を構成する浄化材に対する各種のグラウト硬化剤の影響を評価する試験結果について説明する。
【0038】
なお、用いた硬化剤は次の通りである。
リン系:75%リン酸
硫酸系:硫酸水素ナトリウム(1水和物)(試薬特級)
蟻酸系:蟻酸(試薬特級)
【0039】
[試験1](比較例1、実施例1,2)
透過性反応壁の浄化材として火山灰土壌を使用するときのフッ素吸着能に与えるグラウト硬化剤の影響を評価するために、回分式吸着試験を実施した。
【0040】
<実験条件>
フッ化ナトリウムを添加してフッ素濃度を20mg/Lに調整した溶液に、上記の硬化剤を10mg/Lとなるように添加し、さらにフッ素吸着剤として火山灰土壌を1g/Lの濃度となるように添加し、200回転毎分の振盪速度で24時間振盪し、振盪後に濾過して検液を得た。検液中のフッ素濃度を測定し、振盪前後のフッ素濃度の差から、フッ素吸着量を求めた。結果を表1に示す。
【0041】
<結果>
表1に示す様に、リン系硬化剤を含む比較例1では、フッ素吸着量が著しく低下した。
【0042】
【表1】

【0043】
[試験2](比較例2、実施例3,4)
透過性反応壁の浄化材として鉄粉を使用するときの砒素除去能に与えるグラウト硬化剤の影響を評価するために、回分試験を実施した。
【0044】
<実験条件>
亜ヒ酸ナトリウムを添加して砒素濃度を0.5mg/Lに調整した溶液に、上記の硬化剤を10mg/Lとなるように添加し、さらに砒素除去剤として鉄粉を0.5g/Lの濃度となるように添加し、200回転毎分の振盪速度で24時間振盪し、振盪後に濾過して検液を得た。検液中の砒素濃度を測定し、振盪前後の砒素濃度の差から、砒素の除去量を求めた。
【0045】
<結果>
表2に示す様に、リン系硬化剤を含む比較例2では、砒素の除去量が著しく低下した。
【0046】
【表2】

【0047】
[試験3](比較例3、実施例5,6)
透過性反応壁の浄化材として鉄粉を使用するときのトリクロロエチレン(TCE)の分解速度に与えるグラウト硬化剤の影響を評価するために、回分試験を実施した。
【0048】
<実験条件>
TCEを添加してTCE濃度を1mg/Lに調整した溶液に、上記の硬化剤を10mg/Lとなるように添加し、これを50mLガラス瓶に充填し、さらに鉄粉を50g/Lの濃度となるように添加し、密閉した(同複数試料を準備)。15℃に保温した状態で、ガラス瓶を緩やかに回転振盪(20rpm)し、所定期間ごとに水溶液中のTCE濃度の測定を行い、得られた濃度減少曲線から分解速度定数(一次反応速度定数)を求めた。
【0049】
<結果>
表3に示す様に、リン系硬化剤を含む比較例3では、TCEの分解速度が著しく低下した。
【0050】
【表3】

【0051】
これらの試験1〜3より、グラウト硬化剤として硫酸系、蟻酸系などを用いることにより、透過性反応壁の汚染物質除去能の低下が防止されることが示された。
【符号の説明】
【0052】
5 透過性反応壁
6 グラウト
7 遮水壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に設けられた透過性反応壁及び該透過性反応壁に隣接する遮水壁を備え、
該遮水壁と透過性反応壁とがグラウトによって接続されている透過性反応壁による地下水浄化構造において、
該グラウトは、透過性反応壁の反応阻害物質の不溶出性又は低溶出性を有していることを特徴とする透過性反応壁による地下水浄化構造。
【請求項2】
地中に設けられ、地盤又は構造物に隣接する透過性反応壁を備え、
該地盤又は構造物と透過性反応壁とがグラウトによって接続されている透過性反応壁による地下水浄化構造において、
該グラウトは、透過性反応壁の反応阻害物質の不溶出性又は低溶出性を有していることを特徴とする透過性反応壁による地下水浄化構造。
【請求項3】
請求項1又は2において、グラウトは、シリカ系グラウトであり、その硬化剤が重硫酸ナトリウム、蟻酸及び硫酸の少なくとも1種を主成分とするものであることを特徴とする透過性反応壁による地下水浄化構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−200755(P2011−200755A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68294(P2010−68294)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】