説明

透過膜の阻止率向上方法、阻止率向上透過膜、透過膜処理方法および装置

【課題】 透過流束の低下を最小限に抑えながら、有機物のような非イオン性物質、ならびにシリカなどの弱電解質を含む電解質に対する阻止率向上効果を高くして高い処理水水質を得ることができるとともに、阻止率向上効果を高い状態で維持し、長期間にわたって安定処理が可能な透過膜の阻止率向上方法および装置を得る。
【解決手段】 透過膜モジュール1の1次側3へ、カチオン性またはアニオン性の高分子を含む第1の修飾剤15を供給して透過膜に付着させ、さらに第1の修飾剤とは異なるイオン性の高分子を含む第2の修飾剤16を供給して付着させる修飾剤処理を交互に1回以上行った後、ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を含む阻止率向上剤15を供給して透過膜2に付着させ、透過膜2の阻止率を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜、ナノ濾過膜等の透過膜の阻止率を向上させる方法、これにより得られる阻止率を向上させた透過膜、およびこれを用いる透過膜処理方法、ならびにこれらに適した透過膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水処理に用いられる透過膜、特にナノ濾過膜、逆浸透膜(RO膜)などの選択性透過膜の無機電解質や水溶性有機物等の分離対象物に対する阻止率は、水中に存在する酸化性物質や還元性物質などの影響、その他の原因による素材高分子の劣化によって低下し、必要とされる処理水質が得られなくなる。この変化は、長期間使用しているうちに少しずつ起こることもあり、また事故によって突発的に起こることもある。このような阻止率が低下した透過膜の阻止率を、阻止率向上剤により向上させ、性能を回復する方法が提案されている。
【0003】
一般に高純度の純水を製造するための超純水製造システムには、逆浸透膜処理装置と、この逆浸透膜処理装置の透過水を高度処理する電気再生式脱イオン装置または他のイオン交換装置とが組み込まれている。一方、近年の半導体回路形成技術の進歩により、線幅65nm以下の回路を作成することが可能となってきている。それに伴い超純水に対する要求水質も高まっており、後段処理の負荷を軽減し、より高いレベルでの純水製造を実現する純水製造装置および純水製造方法の開発が望まれている。
【0004】
逆浸透膜処理装置は脱塩装置として発展したため、従来は食塩等の強電解質を含む電解質に対する阻止率が注目され、電解質に対する阻止率を向上させることが検討されてきた。その後、逆浸透膜処理装置は超純水製造システムにおける純水製造装置として用いられるようになったが、超純水製造システムでは強電解質を含む一般の電解質以外にも、低分子量の有機物のような非イオン性物質や、シリカ、ホウ素などの弱電解質の成分なども、デバイスヘの影響が懸念されており、これらを極力排除した超純水を得ることが要求されている。
【0005】
特許文献1(特開2007−289922号)には、このような超純水製造システムにおいても、逆浸透膜を阻止率向上剤で処理することが提案されており、阻止率向上剤として、重量平均分子量2000〜6000のポリアルキレングルコール、またはそれにアニオン性の官能基を導入したイオン性高分子を含有する阻止率向上剤で逆浸透膜を処理することが示されている。このようなポリアルキレングルコール鎖を有する阻止率向上剤は、有機物のような非イオン性物質に対する阻止率向上が期待できるが、透過流束の低下が比較的大きいことが示されている。
【0006】
特許文献2(特開2006−110520号)には、水処理に用いられる透過膜の阻止率を向上させるための阻止率向上剤として、重量平均分子量10万以上のイオン性高分子を含有する阻止率向上剤が示されている。このようなイオン性高分子としては、ポリビニルアミジンまたはその誘導体、複素環を有するカチオン性高分子等のカチオン性高分子、ならびにポリアクリル酸またはその誘導体、ポリスチレンスルホン酸またはその誘導体等のアニオン性高分子が示されている。しかし特許文献2では、食塩などの電解質に対する阻止率向上に優れることが示されているが、有機物のような非イオン性物質や、シリカなどの弱電解質に対する阻止率向上については示されていない。
【0007】
従来の透過膜の阻止率向上処理は、透過膜を取り付ける前の状態で、あるいは透過膜をモジュールに取り付けた状態で、上記の阻止率向上剤を供給して透過膜と接触させることにより、透過膜の表面または内部の構造材料に、阻止率向上剤の全体または一部分を付着、反応等により結合させて修飾処理を行い、透過膜の阻止率を向上させている。
【0008】
しかしいずれも有機物のような非イオン性物質や、シリカなどの弱電解質に対する阻止率向上については満足の行く性能が得られていない。特許文献3(特開2008−246448号)には、ポリアルキレングルコール鎖を有する阻止率向上剤で処理した後に、イオン性高分子を含有する処理剤を修飾剤として用いて処理を行い、阻止率向上剤の効果を長期間にわたって高く維持する試みもなされているが、これによっても上記の有機物、シリカなどの阻止率向上については十分とはいえなかった。
【特許文献1】特開2007−289922号
【特許文献2】特開2006−110520号
【特許文献3】特開2008−246448号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、前記のような従来の問題点を解決するため、透過流束の低下を最小限に抑えながら、有機物のような非イオン性物質、ならびにシリカなどの弱電解質を含む電解質に対する阻止率向上効果を高くして高い処理水水質を得ることができるとともに、阻止率向上効果を高い状態で維持し、長期間にわたって安定処理が可能な透過膜の阻止率向上方法、および阻止率を向上させた透過膜を用いる透過膜処理方法、ならびにこれらに適した透過膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は次の透過膜の阻止率向上方法、透過膜、透過膜処理方法および透過膜装置である。
(1) 透過膜をカチオン性またはアニオン性の高分子から選ばれるイオン性の高分子を含む第1の修飾剤と接触させ、その後第1の修飾剤とは異なるイオン性の高分子を含む第2の修飾剤と接触させる修飾剤処理を1回以上行った後、
ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を含む阻止率向上剤と接触させて阻止率向上剤処理を行う
ことを特徴とする透過膜の阻止率向上方法。
(2) ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物が非イオン性の化合物である上記(1)記載の方法。
(3) ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物がポリアルキレングリコールまたはその誘導体である上記(1)または(2)記載の方法。
(4) 第1の修飾剤がカチオン性であり、第2の修飾剤がアニオン性である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法により得られる透過膜。
(6) 上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法により得られる透過膜に被処理液を透過させて透過膜処理を行う透過膜処理方法。
(7) 上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法により得られる透過膜を用い、透過膜に被処理液を透過させて透過膜処理を行う透過膜処理装置。
(8) 1次側に被処理液を通液し、2次側から透過液を取り出す透過膜モジュールと、
モジュールの1次側に、イオン性の高分子を含む第1の修飾剤と、第1の修飾剤とは異なるイオン性の高分子を含む第2の修飾剤とを交互に1回以上通液して修飾剤処理を行う修飾剤処理装置と、
ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を含む阻止率向上剤を通液して、阻止率向上剤処理を行う阻止率向上剤処理装置と
を含む透過膜装置。
【0011】
本発明において阻止率向上剤処理の対象となる透過膜は、1次側に被処理液を通液して透過させ、2次側から透過液を取り出し膜分離を行う透過膜であるが、特に逆浸透膜、ナノ濾過膜等の無機電解質や水溶性有機物等を水から分離する選択性透過膜が対象として適している。逆浸透膜(RO膜)は膜を介する溶液間の浸透圧差以上の圧力を高濃度側にかけて、溶質を阻止し、溶媒を透過する液体分離膜である。
【0012】
透過膜、特にRO膜の膜構造としては、複合膜、相分離膜などの高分子膜などを挙げることができる。本発明に適用される透過膜、特にRO膜の素材としては、例えば、芳香族系ポリアミド、脂肪族系ポリアミド、これらの複合材などのポリアミド系素材などを挙げることができる。これらの中で、芳香族系ポリアミド透過膜、特にRO膜に本発明に係る阻止率向上剤処理を好適に適用することができる。このような阻止率向上剤処理の対象となる透過膜は、未使用の透過膜でも、使用により性能が低下した透過膜でもよい。
【0013】
本発明における修飾剤処理および阻止率向上剤処理は、このような透過膜を、膜分離装置のモジュールに装備された状態で、またはモジュールに装備されない状態の透過膜に対して行われる。RO膜モジュールの形式については特に制限はなく、例えば、管状膜モジュール、平面膜モジュール、スパイラル膜モジュール、中空糸膜モジュールなどを適用することができる。
【0014】
本発明の阻止率向上剤処理を行う際、未使用の透過膜の場合、あるいは使用により性能が低下した透過膜の場合とも、薬品洗浄を行った透過膜を修飾剤処理の対象とすることができるが、特に使用により性能が低下した透過膜の場合は薬品洗浄を行ったものが好ましい。薬品洗浄の目的は膜表面の汚染物質を除去することにより、修飾剤が膜自体に吸着されやすくすることである。洗浄薬品としては酸(塩酸、硝酸、シュウ酸、クエン酸など)、アルカリ(水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなど)、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウムなど)、酸化・還元剤(過酸化水素、過炭酸、過酢酸、重亜硫酸ナトリウムなど)等が用いられ、これら薬品の水溶液をモジュールに通液したり、透過膜を薬品に浸漬することにより洗浄を行う方法が一般的である。
【0015】
本発明における修飾剤処理は、処理対象となる透過膜を、カチオン性またはアニオン性の高分子から選ばれるイオン性の高分子を含む第1の修飾剤と接触させ、その後第1の修飾剤とは異なるイオン性の高分子を含む第2の修飾剤と接触させる修飾剤処理を1回以上行う処理である。
【0016】
第1および第2の修飾剤として用いることのできる修飾剤は、重量平均分子量が10,000〜10,000,000、好ましくは100,000〜10,000,000、より好ましくは300,000〜5,000,000、さらに好ましくは1,000,000〜5,000,000の水溶性のカチオン性またはアニオン性の高分子から選ばれるイオン性高分子である。イオン性高分子としては、カチオン性高分子とアニオン性高分子のいずれかを第1の修飾剤とし、これとは逆のイオン性の高分子を第2の修飾剤とし、第1および第2の修飾剤を交互に1回以上接触させて修飾剤処理を行う。
【0017】
本発明の修飾剤に用いるカチオン性高分子としては、例えばポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリアクリルアミド、キトサン、ポリスチレンに第一アミン基を付加したものなどの第一アミン化合物;ポリエチレンイミンなどの第二アミン化合物;ポリ(アクリル酸ジメチルアミノエチル)、ポリ(メタクリル酸ジメチルアミノエチル)などの第三アミン化合物;上記第三アミン化合物にメチルクロリド等の四級化剤で処理したもの、ポリスチレンに第四アンモニウム基を付加したものなどの第四アンモニウム化合物;ポリビニルアミジン、ポリビニルピリジン、ポリピロール、ポリビニルジアゾールなどの複素環を有する化合物などを挙げることができる。また、これらの構造を有する共重合高分子や、複数種の高分子を混合した組成物も用いることができる。
【0018】
これらの中で、複素環を有する化合物を好適に用いることができ、ポリビニルアミジンを特に好適に用いることができる。ポリビニルアミジンは、一般式[1]で表される構造単位を有するカチオン性高分子である。ただし、一般式[1]において、R〜Rは、水素またはメチル基等のアルキル基である。
【0019】
【化1】

【0020】
一般式[1]で表される構造単位を有するカチオン性高分子は、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルと、N−ビニルカルボン酸アミド、N−イソプロペニルカルボン酸アミド、N−ビニルカルボン酸イミドまたはN−イソプロペニルカルボン酸イミドとを共重合し、得られた共重合体高分子を加水分解し、アミジン化することにより製造することができる。このような方法により製造されたポリビニルアミジンは、一般式[1]で表される構造単位の他に、アクリロニトリルなどに由来するシアノ基、シアノ基の加水分解により生成するカルバモイル基、N−ビニルカルボン酸アミド単位などの加水分解により生成するアミノ基などを有する。市販製品として栗田工業(株)製カチオン系高分子凝集剤「クリフィックス(登録商標)CP111」をあげることができる。ポリビニルアミジンは、複素環の窒素原子と第一アミンの窒素原子がカチオン性を有するので、カチオン密度が高く、反応点が多いため、強固に安定化することが可能である。また、水中のカチオン種に対して高い阻止率向上効果が発現される。他の複素環を有する高分子の場合も、第一アミンなどのカチオン性の官能基を付与することによって、カチオン密度を高めることができる。
【0021】
本発明に用いられるアニオン性修飾剤としては、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などのカルボキシル基を有する水溶性高分子、ポリスチレンスルホン酸、デキストラン硫酸、ポリビニルスルホン酸などのスルホン酸基を有する水溶性高分子などを挙げることができ、これらの構造を複数種有する共重合体も用いることができる。ポリスチレンスルホン酸のスルホン酸基は、アニオン性が強いために、透過膜の膜表面に安定に吸着して、透過流束を大きく低下させることなく、強固に安定化することができる。
【0022】
本発明の修飾剤として用いられるイオン性高分子は、カチオン性修飾剤およびアニオン性修飾剤のいずれの場合も、対イオンを有する塩としても用いることができる。対イオンを有する塩としては、例えばポリビニルアミジン塩酸塩、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩などを挙げることができる。
【0023】
これらの修飾剤は、処理対象となる透過膜の材質、形態や、使用した阻止率向上剤等に応じて適したものが選ばれ、純水または被処理水等の溶媒に溶解して処理液として使用される。本発明で用いる修飾剤を含む処理液は、上記水溶性高分子の水溶液として用いられるが、この処理液中の水溶性高分子の濃度は、0.01〜50mg/L程度とされる。修飾剤を含む水溶液のより好ましい化合物濃度は、用いる化合物の種類によって異なるが、例えば重量平均分子量10万以上のカチオン性高分子、アニオン性高分子の場合は0.1〜50mg/Lが好ましい。濃度がこれより低いと修飾剤処理に長時間を要するおそれがある。濃度が50mg/Lを超えると、水溶液の粘度が高くなり、RO膜ヘの通水抵抗が大きくなるおそれがある。また濃度が50mg/Lを超えると、不必要に厚いコーティング層(吸着層)が形成されて、濃度分極により、かえって阻止率向上効果が弱くなるおそれがある。
【0024】
修飾剤処理は、処理対象となる透過膜に、イオン性の高分子を含む第1の修飾剤を接触させる第1の修飾処理と、第1の修飾剤とは異なるイオン性の高分子を含む第2の修飾剤を接触させる第2の修飾処理とを交互に1回以上行う。修飾剤処理は、修飾剤を通液して修飾剤処理を行うことができる。この場合、好ましくはモジュールの1次側に修飾剤を含む処理液を通水することにより実施される。このときの透過膜モジュールの1次側への修飾剤を含む水溶液供給時の操作圧力を0.3MPa以上とするとともに、透過水量/阻止率向上剤を含む水溶液の供給量が0.2以上とすることが好ましい。カチオン性修飾剤とアニオン性修飾剤で交互に処理するその回数に制限はなく、必要に応じて交互に処理を繰り返すことができる。
【0025】
第1の修飾剤としてカチオン性の高分子を含むもの、第2の修飾剤としてアニオン性の高分子を含むものを用い、交互に逆のイオン性の高分子で処理するのが好ましいが、逆でもよい。ポリアミド系の透過膜の修飾剤処理においては、第1の修飾剤としてカチオン性修飾剤で処理することにより、親和性の面から第1の修飾剤を強固に膜表面に結合させ、保持することが可能となる。その後に第2の修飾剤としてアニオン性修飾剤で処理することにより、さらに安定性が向上する。その後も交互にカチオン性修飾剤とアニオン性修飾剤で処理することにより、安定性を向上させることができる。特にカチオン性高分子としてポリビニルアミジン、アニオン性高分子としてポリスチレンスルホン酸を用いることにより、吸着層が安定化し、電解質の阻止率の向上効果を維持することができる。
【0026】
本発明においては、イオン性の高分子を含む第1の修飾剤と、第1の修飾剤とは異なるイオン性の高分子を含む第2の修飾剤とを交互に1回以上接触させて修飾剤処理を行った後、透過膜にポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を含む阻止率向上剤を接触させて透過膜の阻止率を向上させる阻止率向上剤処理を行う。ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物としては、非イオン性の化合物が好ましい。
【0027】
イオン性の高分子による吸着層は電解質の阻止率の向上には有効であるが、水溶性低分子有機物の阻止率の向上効果は小さい。これはイオン性の高分子による吸着層の隙間を低分子有機物が通過するためと考えられる。そこで次の阻止率向上剤によって、イオン性の高分子による吸着層の隙間を補完することにより、低分子有機物の阻止率を効果的に向上させることが可能となるものと推測される。この場合、上記の隙間を補完するために使用する高分子が荷電を有すると、イオン性の高分子のいずれかに吸着してしまい、隙間を補完する目的を達成することが難しいため、親水性が高く、極性は有するが荷電を有しない、水溶性の高分子化合物であるポリアルキレングリコール鎖を有する非イオン性の化合物を阻止率向上処理剤として用いることにより、低分子有機物の阻止率を効果的に向上させることが可能になる。
【0028】
本発明の阻止率向上処理剤は、ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を含む阻止率向上剤であり、透過膜による水溶性有機物や無機電解質等の溶解性物質の阻止率が向上するものであれば特に制限なく使用可能である。阻止率向上剤として用いられるポリアルキレングリコール鎖を有する化合物としては、ポリアルキレングリコール鎖を有する水溶性の高分子化合物であって、非イオン性高分子が好ましいが、イオン性高分子であってもよい。これらの化合物を阻止率向上剤として用いることにより、修飾剤処理を行った透過膜の阻止率を向上し、強電解質を含む一般的な電解質をはじめ、従来の処理では除去困難であった低分子量の有機物のような非イオン性物質や、シリカ、ホウ素などの弱電解質も効果的に除去することができるようになる。
【0029】
使用可能な阻止率向上剤としては、ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物としては公知のものが使用でき、前記特許文献1、2に記載のもの、ならびに他の阻止率向上能を有するものなどが使用できる。使用可能な阻止率向上剤としては、特許文献1に記載のポリエチレングリコール鎖を有する化合物などがあげられる。このようなポリアルキレングリコール鎖を有する化合物としては、ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール誘導体をあげることができる。
【0030】
本発明において重量平均分子量は、高分子やポリアルキレングリコール鎖を有する化合物などの化合物の水溶液をゲル浸透クロマトグラフィーにより分析し、得られたクロマトグラムからポリエチレンオキシド標準品の分子量に換算することにより求めることができる。ポリエチレンオキシド標準品が入手し得ない高分子量の領域においては、光散乱法、超遠心法などにより重量平均分子量を求めることができる。
【0031】
ポリアルキレングリコール鎖は、アルキレンオキシドの開環重合により製造することができる。本発明に用いる化合物が有するポリアルキレングリコール鎖としては、例えばポリエチレングリコール鎖、ポリプロピレングリコール鎖、ポリトリメチレングリコール鎖、ポリテトラメチレングリコール鎖などを挙げることができる。これらのグリコール鎖は、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、オキセタン、テトラヒドロフランなどの開環重合により形成することができる。ポリアルキレングリコール鎖はポリエチレングリコール鎖であることが好ましい。このポリエチレングリコール鎖を有する化合物は、水溶性が大きいので阻止率向上剤として取り扱いやすい。
【0032】
本発明においては、ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物として、ポリアルキレングリコール鎖の末端がヒドロキシル基のポリアルキレングリコールのほか、末端にエステル化、エーテル化等により非イオン性基、好ましくは炭素数8以上の疎水性基、特に炭素数8〜20のアルキル基またはアルキレン基からなる疎水性基が導入された化合物、すなわち非イオン性界面活性物質を単独で、または組合わせて用いるのが好ましい。組合わせて用いる場合、混合して処理を行ってもよく、また前後して処理を行ってもよい。
【0033】
上記の非イオン性界面活性物質としては、ポリオキシエチレンアルキル(またはアルケニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(またはアルケニル)フェニルエーテル、アルキル(またはアルケニル)グルコシド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどがあげられる。
【0034】
本発明においては、ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物の重量平均分子量は特に限定されないが、ポリアルキレングリコール鎖の末端がヒドロキシル基である場合、ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは2,000〜6,000、さらに好ましくは3,000〜5,000である。また末端にエステル化、エーテル化等により非イオン性となった場合、非イオン性界面活性物質の重量平均分子量は、好ましくは400〜3,000、より好ましくは500〜2,000、さらに好ましくは600〜1,500である。
【0035】
これらの阻止率向上剤は、処理対象となる透過膜の材質、形態等、ならびに前記第1および第2の修飾剤の種類、処理条件等に応じて適したものが選ばれ、純水または被処理水等の溶媒に溶解して使用される。阻止率向上剤の濃度はそれぞれの透過膜、モジュールの形式等により変わるが、一般的には0.01〜5mg/Lの濃度に調製して阻止率向上処理に供される。阻止率向上剤のポリアルキレングリコール鎖を有する化合物は、第1または第2の修飾剤のイオン性高分子よりも透過流束を低下させる効果が大きいため、添加量を多くすると透過流速の低下が大きくなり、実用的でないので、阻止率向上剤のポリアルキレングリコール鎖を有する化合物の濃度は、第1または第2の修飾剤のイオン性高分子の濃度よりも1/3〜1/20程度の濃度で用いることが好ましい。例えば、イオン性高分子の濃度が10mg/Lであれば、ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物の濃度は2mg/L程度が好ましい。阻止率向上剤は、複数のものを組合わせて用いることができ、この場合混合して通液してもよく、また別々に時間をずらせて通液することもできる。
【0036】
阻止率向上剤による阻止率向上処理は、修飾剤処理を行った処理対象モジュールの透過膜に阻止率向上剤を供給して接触させ、透過膜の阻止率を向上させる。この場合、透過膜を取り付けたモジュールの1次側に阻止率向上剤を供給し、阻止率向上剤を透過膜に付着させ、透過膜の阻止率を向上させる。この場合、モジュールの1次側への阻止率向上剤を含む水溶液供給時の操作圧力を0.3MPa以上とするとともに、透過水量/阻止率向上剤を含む水溶液の供給量が0.2以上とすることが好ましい。透過膜への吸着性の高い阻止率向上剤を用いる場合は、阻止率向上剤をモジュールに供給して透過膜と接触させた状態を保ち、あるいは低圧で流動させて吸着させることができるが、一般的には阻止率向上剤を高圧で供給して透過膜を透過させ、2次側から透過液を取り出すことにより、透過膜の内部まで阻止率向上剤を付着させるのが好ましい。
【0037】
阻止率向上剤を含む水溶液を通水する1回当りの時間は、1〜24時間であることが好ましい。水溶液中の阻止率向上剤濃度を高くすると、通水時間を短縮することができるが、透過流束の低下が大きくなるおそれがある。この阻止率向上剤を含む水溶液の通水時は、モジュールの透通水排出弁を閉じておくことも可能であるが、透過水を取出しながら処理すると、装置を休止することなく効率的に処理することができるとともに、阻止率向上剤を効率よく、かつ均一に透過膜面に吸着させることができる。この場合、モジュールの1次側へ阻止率向上剤を含む水溶液を供給する際の操作圧力を0.3MPa以上とするとともに、透過水量/阻止率向上剤を含む水溶液の供給量の比が0.2以上とすることが好ましい。これにより効果的に阻止率向上剤が透過膜表面に接触するため、阻止率向上剤を効率よく、かつ均一に膜面に吸着させることができる。
【0038】
修飾剤処理および阻止率向上剤処理において、透過膜に吸着する高分子の量は、高分子の種類によっても異なるが、一般的には0.005〜0.05mg/m程度である。従って処理する透過膜モジュールの本数に応じて、透過膜への吸着で減少する高分子の量を考慮して、高分子を追加添加し、全体の高分子の吸着量を均一にするように操作することが好ましい。
【0039】
本発明において、透過膜を修飾剤および阻止率向上剤で処理する場合、それぞれの処理液に荷電中和性物質として電解質を添加することにより処理後の阻止率向上効果を向上させることができる。イオン性を有する修飾剤はそのイオン性により相互に反発してしまい、緻密に修飾することができない場合には、電解質を添加し、阻止率向上剤の荷電を中和して反発を抑えることにより、無添加の状態よりも緻密に修飾することが可能となる。電解質としては塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウムなどの塩を使用することができるが、この限りではない。添加する電解質濃度は100〜5000mg/Lが好適である。電解質濃度が低いと阻止率向上効果が見られず、電解質濃度が高いとポリマーが凝集し、緻密に修飾することが出来ない。電解質を添加する場合、修飾剤処理する場合のみ添加しても良いし、その後の阻止率向上剤処理も継続して添加しても良い。
【0040】
本発明で用いる修飾剤および阻止率向上剤は、それぞれ無機電解質、水溶性有機化合物等の阻止率確認トレーサー物質を含有させることができる。修飾剤または阻止率向上剤の主成分とする化合物とともに、トレーサー物質を含有する水をナノろ過膜、逆浸透膜等の透過膜に通水することにより、透過膜の阻止率を経時的に確認して、処理の継続または停止を判断することができる。通水処理時間は、通常は1〜50時間であることが好ましく、2〜24時間であることがより好ましいが、透通水のトレーサー濃度が所定の値に達したとき、透過膜の阻止率は所定の値になったと判断し、阻止率向上剤処理または修飾剤処理を終了することができる。
【0041】
この方法によれば、修飾剤または阻止率向上剤の水溶液と透過膜との接触時間を必要十分な最小限の長さに制御することができ、透過膜の通常運転を直ちに開始することができる。また異なる阻止率向上剤または修飾剤を用いて複数回の修飾剤処理または阻止率向上剤処理を行う場合も、切り替えのタイミングを逸することなく、複数回の処理を効率的に行うことができる。
【0042】
トレーサー物質として用いる水溶性有機化合物としては、例えばイソプロピルアルコール、グルコース、尿素などを挙げることができるが、取扱い性の容易さからイソプロピルアルコールが好適である。また、トレーサー物質として用いる無機電解質としては、例えば塩化ナトリウムや硝酸ナトリウム、そして弱電解質のホウ酸などを挙げることができる。しかしながら電解質を添加し阻止率向上効果を増大させる場合は、伝導度で簡易に処理の終了を判断することはできないため、トレーサー物質としては、水溶性有機化合物が好適に使用される。
トレーサー物質の濃度は、塩化ナトリウムなどの無機強電解質の場合は、1〜500mg/Lであることが好ましく、10〜100mg/Lであることがより好ましい。その他のホウ酸などの無機弱電解質や、イソプロピルアルコールなどの水溶性有機物の場合は、1〜5000mg/Lであることが好ましく、5〜1000mg/Lであることがより好ましい。
【0043】
上記の阻止率向上方法により得られる透過膜は、修飾剤処理および阻止率向上剤処理による透過膜の阻止率の向上効果が高く、かつその高い状態を長く維持することができる。
本発明の透過膜は、上記の阻止率向上方法により得られる透過膜であり、修飾剤処理および阻止率向上剤処理による透過膜の阻止率の向上効果が高く、かつその高い状態を長く維持することができる。
【0044】
本発明の透過膜処理方法は、上記の阻止率向上方法により得られる透過膜に被処理液を透過させて透過膜処理を行う透過膜処理方法であり、修飾剤処理および阻止率向上剤処理による透過膜の阻止率の向上効果が高く、かつその高い状態を長く維持することができ、有機物除去効果が高く、長期間にわたって安定処理が可能である。
【0045】
本発明の透過膜処理装置は、上記の阻止率向上方法により得られる透過膜を用い、透過膜に被処理液を透過させて透過膜処理を行う透過膜処理装置であり、透過膜に被処理液を透過させて透過膜処理を行うことにより、修飾剤処理および阻止率向上剤処理による透過膜の阻止率の向上効果が高く、かつその高い状態を長く維持することができ、有機物除去効果が高く、長期間にわたって安定処理が可能である。
【0046】
本発明の好ましい透過膜処理装置は、1次側に被処理液を通液し、2次側から透過液を取り出す透過膜モジュールと、モジュールの1次側に、イオン性の高分子を含む第1の修飾剤と、第1の修飾剤とは異なるイオン性の高分子を含む第2の修飾剤とを交互に1回以上通液して修飾剤処理を行う修飾剤処理装置と、ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を含む阻止率向上剤を通液して、阻止率向上剤処理を行う阻止率向上剤処理装置とを含む透過膜装置である。
【0047】
上記の透過膜処理装置では、透過膜モジュールの1次側に被処理液を通液し、2次側から透過液を取り出して透過膜処理を行い、修飾剤処理装置によりモジュールの1次側に、イオン性の高分子を含む第1の修飾剤と、第1の修飾剤とは異なるイオン性の高分子を含む第2の修飾剤とを交互に1回以上通液して修飾剤処理を行い、阻止率向上剤処理装置によりモジュールの1次側に、ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を含む阻止率向上剤を通液して、阻止率向上剤処理を行うことにより、透過膜の阻止率を向上させることができる。
【0048】
本発明の阻止率向上透過膜、透過膜処理方法および装置による処理対象としての被処理水は特に限定されるものではないが、電解質、有機物含有水に好適に用いることができ、例えば電気伝導度(EC)=1〜500mS/m、TOC=0.01〜100mg/L、好ましくは(EC)=5〜100mS/m、TOC=0.1〜30mg/L程度の電解質、有機物含有水の処理に好適に用いられる。このような電解質、有機物含有水としては、一般工業用水、井水、電子デバイス製造工場排水、輸送機械製造工場排水、有機合成工場排水または印刷製版・塗装工場排水など、あるいはそれらの一次処理水を挙げることができる。
【0049】
本発明の透過膜処理装置および透過膜処理方法は、RO装置の目詰まりやファウリングを防止する目的で、前処理装置として活性炭塔、凝集沈殿装置、凝集加圧浮上装置、濾過装置あるいは脱炭酸装置を設けることが好ましい。濾過装置としては、砂濾過装置、限外濾過装置、精密濾過装置、小型濾過装置などを用いることができる。前処理装置としては更にプレフィルターを設けてもよい。また、RO膜は酸化劣化を受けやすいため、必要に応じて原水に含まれる酸化剤(酸化劣化誘発物質)を除去する装置を設けることが好ましい。このような酸化劣化誘発物質を除去する装置としては、活性炭塔や還元剤注入装置などを用いることができる。特に活性炭塔は有機物も除去することが可能であり、上述の通りファウリング防止手段として兼用することができる。原水のpHは特に制限されるものではない。
【0050】
またRO処理が適切に行われていることを監視する目的で、RO装置の後段に水質計を設けることが好ましい。水質計としては透過水中の電解質、および有機物濃度を測定するための電導度計(非抵抗計)、およびTOC計を好適に用いることができる。TOC計としてはTOC濃度0.001〜10mg/Lの範囲のオンライン測定が可能な湿式酸化式TOC測定装置を用いることができる。このような電導度計、TOC計を設けることで、RO膜の劣化による阻止率の低下を監視することが可能となり、適宜RO膜を交換することができる。
【0051】
RO装置は1段で用いても良いし、水質向上のために、2段以上の多段に設けても良い。また、RO装置を多段に設けた場合には、後述する阻止率向上剤で処理されたRO膜を全てのRO装置に用いても良いし、特定の段のみに用いてもよい。
【0052】
なお、本発明の水処理装置および水処理方法で超純水を製造する場合には、水質計の後段には、脱炭酸手段、イオン交換装置、電気再生式脱イオン装置、UV酸化装置、ミックス樹脂装置、限外濾過装置などを設けることができる。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、透過膜をイオン性の高分子を含む第1の修飾剤と接触させ、その後第1の修飾剤とは異なるイオン性の高分子を含む第2の修飾剤と接触させる修飾剤処理を1回以上行った後、ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を含む阻止率向上剤と接触させて阻止率向上剤処理を行うことにより、透過流束の低下を最小限に抑えながら、有機物のような非イオン性物質、ならびにシリカなどの弱電解質を含む電解質に対する阻止率向上効果を高くして、高い処理水水質を得ることができるとともに、阻止率向上効果を高い状態で維持し、長期間にわたって安定処理が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、本発明の実施の形態を図面により説明する。図1および図2は本発明の実施形態による透過膜処理方法および装置を示すフロー図である。
【0055】
図1および図2において、1はRO膜モジュールで、透過膜としてRO膜2により1次側3と2次側4に区画されている。11は被処理水タンク、12は処理水タンク、13はアルカリ性洗浄液タンク、14は酸性洗浄液タンク、15は第1修飾剤水溶液タンク、16は第2修飾剤水溶液タンク、17は阻止率向上剤水溶液タンク、18は電解質溶液タンク、P1は高圧ポンプ、P2は洗浄液用ポンプ、P3は第1修飾剤水溶液用ポンプ、P4は第2修飾剤水溶液用ポンプ、P5は阻止率向上剤水溶液用ポンプ、P6は電解質溶液用ポンプである。V1〜V35はバルブである。なお、図1および2においては主要な配管およびバルブを示してあり、その他のバルブ、ゲージ、配管類は図示を省略してある。
【0056】
図1、2において、被処理水をRO処理する場合には、バルブV1〜V5、およびV9を開、その他のバルブを閉とし、高圧ポンプP1を作動させて、被処理水タンク11内の被処理水をRO膜モジュール1の1次側3に供給してRO膜2により膜分離し、透過水を2次側から系外へ取り出す。濃縮水は1次側3から被処理水タンク11へ戻すとともに、一部をRO給水の濃縮を防止するために、バルブV3を通して系外へ排出する。またバルブV6、V7を開として、透過水を処理水タンク12に貯留する。場合によっては、バルブV11〜V15を開として、透過水をアルカリ性洗浄液タンク13、酸性洗浄液タンク14、第1修飾剤水溶液タンク15、第2修飾剤水溶液タンク16、阻止率向上剤水溶液タンク17に送給して、洗浄液や高分子水溶液の希釈、調整等に用いることができる。
【0057】
上記のようにしてRO処理を行うことにより、RO膜2の透過流束が低下した場合において、薬品洗浄を行う場合には、高圧ポンプP1を停止し、バルブV2、V4、V21、V31を開、その他のバルブを閉として、洗浄液用ポンプP2を作動させ、アルカリ性洗浄液タンク13内のアルカリ性洗浄液をRO膜モジュール1の1次側3に導入した後、再びアルカリ性洗浄液タンク13内に戻すように循環させる。このときバルブV5を開として、洗浄液の一部を膜透過させて系外へ排出してもよい。或いはバルブV6、V11を開として、膜透過させた洗浄液をアルカリ性洗浄液タンク13に戻しても良い。所定の時間アルカリ性洗浄液を循環させた後に、場合によっては洗浄液用ポンプP2を停止して一定時間薬液を静置保持してから、アルカリ性洗浄液をアルカリ性洗浄液タンク13に設けたドレイン管(図示せず)から系外へ排出する。
【0058】
次いでバルブV2、V4、V22、V32を開、その他のバルブを閉として酸洗浄液タンク14内の酸性洗浄液をRO膜モジュール1の1次側3に導入した後、再び酸性洗浄液タンク14に戻すように循環させる。このときバルブV5を開として、洗浄液の一部を膜透過させて系外へ排出しても良い。或いはバルブV6、V12を開として、膜透過させた洗浄液を酸性洗浄液タンク14に戻しても良い。所定の時間酸性洗浄液を循環させた後に、場合によっては洗浄液用ポンプP2を停止して一定時間薬液を静置保持してから、酸性洗浄液を酸性洗浄液タンク14に設けたドレイン管(図示せず)から系外へ排出する。
【0059】
次いで、バルブV2、V3、V8を開、その他のバルブを閉として、処理水タンク12内の処理水でRO膜モジュール1の1次側3を洗浄し、洗浄排液をバルブV3を通して系外へ排出する。この場合、バルブV3を閉とし、バルブV21またはV22とバルブV4を開として、洗浄排液は洗浄液タンク13、14に設けたドレイン管(図示せず)から排出してもよい。この処理水による洗浄(リンス)は、アルカリ性洗浄液による洗浄と、酸性洗浄液による洗浄との間に行うこともできる。またアルカリ性洗浄液による洗浄と、酸性洗浄液による洗浄とはどちらを先に行っても良く、交互に繰り返して2回以上行っても良い。
【0060】
図1において、2種類の修飾剤および阻止率向上剤を用いて修飾剤処理および阻止率向上剤処理を行う場合、第1修飾剤水溶液タンク15に第1修飾剤としてカチオン性高分子ポリビニルアミジン水溶液、第2修飾剤水溶液タンク16にアニオン性高分子ポリスチレンスルホン酸水溶液、阻止率向上剤水溶液タンク17に阻止率向上剤としてポリエチレングリコール鎖を有する化合物(以下「PEG」と記す)水溶液をそれぞれ満たし、まずバルブV2、V4、V23、V33を開、その他のバルブを閉として、洗浄用ポンプP2を作動させ、第1修飾剤水溶液タンク15内のカチオン性高分子ポリビニルアミジン水溶液をRO膜モジュール1の1次側3に導入した後、再び第1修飾剤水溶液タンク15内に戻すように循環させる。このときバルブV5を開として、水溶液の一部を膜透過させて系外へ排出しても良いが、バルブV6、V14を開として、膜透過させたカチオン性高分子水溶液を第1修飾剤水溶液タンク15内に戻すことが好ましい。所定の時間カチオン性高分子水溶液を循環させた後に、第1修飾剤水溶液タンク15に設けたドレイン管(図示せず)より、カチオン性高分子水溶液を系外へ排出する。
【0061】
次いで、バルブV2、V4、V24、V34を開、その他のバルブを閉として、第2修飾剤水溶液タンク16内のアニオン性高分子ポリスチレンスルホン酸水溶液をRO膜モジュール1の1次側3に導入した後、再び第2修飾剤水溶液タンク16内に戻すように、循環させる。このときバルブV5を開として、水溶液の一部を膜透過させて系外へ排出しても良いが、バルブV6、V15を開として、膜透過させたアニオン性高分子水溶液を第2修飾剤タンク16内に戻すことが好ましい。所定の時間、アニオン性高分子水溶液を循環させた後に、第2修飾剤水溶液タンク16に設けたドレイン管(図示せず)より、アニオン性高分子水溶液を系外へ排出する。
【0062】
次いで、バルブV2、V4、V25、V35を開、その他のバルブを閉として、阻止率向上剤水溶液タンク17内のPEG水溶液をRO膜モジュール1の1次側3に導入した後、再び阻止率向上剤タンク17内に戻すように、循環させる。このとき、バルブV5を開として、PEG水溶液の一部を膜透過させて系外へ排出しても良いが、バルブV6、V13を開として、膜透過させたPEG水溶液を阻止率向上剤タンク17内に戻すことが好ましい。所定の時間PEG水溶液を循環させた後に、阻止率向上剤水溶液タンク17に設けたドレイン管(図示せず)より、PEG水溶液を系外へ排出する。
【0063】
次いでバルブV2、V3、V6、V8を開、さらにバルブV13、V14、V15の少なくともいずれかを開とし、その他のバルブを閉として、処理水タンク12内の処理水でRO膜モジュール1の1次側3を洗浄し、洗浄排液の一部をバルブV3を介して系外へ、残部をタンク15、16、17のいずれかを経由して系外へ排出する。
【0064】
電解質を添加しながら修飾剤処理、あるいは阻止率向上剤処理を行う場合は、電解質溶液用ポンプP6を作動させ、バルブV16を開いて電解質溶液タンク18から電解質溶液を、所定の濃度になるように阻止率向上剤、第1修飾剤または第2修飾剤に添加して処理を実施する。処理水あるいは電解質添加処理水による洗浄(リンス)は阻止率向上剤による処理と、カチオン性修飾剤水溶液による処理、およびアニオン性修飾剤水溶液による処理の間に、それぞれ行うことが好ましい。
【0065】
図2は被処理水を通水してRO処理を行いながら、被処理水に第1修飾剤または第2修飾剤を添加して修飾剤処理を行い、その後阻止率向上剤を添加して阻止率向上剤処理を行う例を示す。図2において、カチオン性高分子、アニオン性高分子およびPEGを用いて修飾剤処理および阻止率向上剤処理を実施する場合には、例えば第1修飾剤水溶液タンク15、第2修飾剤水溶液タンク16、阻止率向上剤水溶液タンク17にそれぞれ、カチオン性高分子水溶液、アニオン性高分子水溶液、PEG水溶液を満たす。
【0066】
修飾剤処理を行うには、まずバルブV33を開として、ポンプP3を作動させ、第1修飾剤水溶液タンク15内のカチオン性高分子水溶液を被処理水タンク11に導入し、その後高圧ポンプP1を作動させ、バルブV1、V2、V4、V9を開、その他のバルブを閉として、被処理水タンク11内のカチオン性高分子水溶液をRO膜モジュール1の1次側3に導入した後、再びタンク11内に戻すように循環させる。このときバルブV3、V5を開として、カチオン性高分子水溶液の一部を膜透過させて処理水を得るとともに、高分子水溶液の一部を系外へ排出させることが好ましい。このようにすることでRO処理装置の運転を停止する時間を短縮することができる。所定の時間カチオン性高分子水溶液を循環させた後に、バルブV33を閉じるとともにポンプP3を停止し、カチオン性高分子水溶液の導入を停止する。
【0067】
次いでバルブV34を開としてポンプP4を作動させ、第2修飾剤水溶液タンク16内のアニオン性高分子水溶液を被処理水タンク11に導入し、その後高圧ポンプP1を作動させ、バルブV1、V2、V4、V9を開、その他のバルブを閉として、被処埋水タンク11内のアニオン性高分子水溶液をRO膜モジュール1の1次側3に導入した後、再びタンク11内に戻すように循環させる。このときバルブV3、V5を開として、高分子水溶液の一部を膜透過させて処理水を得るとともに、高分子水溶液の一部を系外へ排出させることが好ましい。このようにすることで、RO処理装置の運転を停止する時間を短縮することができる。所定の時間アニオン性高分子水溶液を循環させた後に、バルブV34を閉じるとともに、ポンプP4を停止し、アニオン性高分子水溶液の導入を停止する。
【0068】
次いでバルブV35を開として、ポンプP5を作動させ、阻止率向上剤水溶液タンク17内のPEG水溶液を被処理水タンク11に導入し、その後高圧ポンプP1を作動させ、バルブV1、V2、V4、V9を開、その他のバルブを閉として、被処理水タンク11内のPEG水溶液をRO膜モジュール1の1次側3に導入した後、再びタンク11に戻すように循環させる。このときバルブV3、V5を開として、PEG水溶液の一部を膜透過させて処理水を得るとともに、PEG水溶液の一部を系外へ排出させることが好ましい。このようにすることで、RO処理装置の運転を停止する時間を短縮することができる。所定の時間PEG水溶液を循環させた後に、バルブV35を閉じるとともにポンプP5を停止し、PEG水溶液の導入を停止する。
【0069】
上記各処理工程の間には、処理水あるいは電解質添加処理水による洗浄工程を実施することが望ましい。すなわち、バルブV2、V3、V8を開、その他のバルブを閉として、高圧ポンプP1を停止するとともに、ポンプP2を稼動して処理水タンク12内の処理水でRO膜モジュール1の1次側3を洗浄するとともに、水溶液をバルブV3を通して系外へ排出する。電解質を添加しながら阻止率向上剤処理、修飾剤処理または洗浄を実施する場合は、電解質溶液用ポンプP6を作動させ、バルブV16を開いて電解質溶液タンク18から電解質溶液を、所定の濃度になるように処理水に添加しながら阻止率向上剤処理、修飾剤処理または洗浄を実施する。
【0070】
また阻止率向上剤水溶液の導入を停止した後、被処理水のRO処理を所定時間(被処理水タンク11の滞留時間の3倍程度)実施することによりリンスを省略したり、リンス工程の時間を短縮したり、リンス水量を低減することができる。修飾剤処理はカチオン性高分子水溶液、アニオン性高分子水溶液による処理は交互に繰り返して2回以上行っても良いが、最後にアニオン性高分子水溶液による処理となることが好ましい。
【0071】
なお、上記実施の形態は、本発明のRO膜処理方法の処理手順の一例を示すものであって、本発明は何ら本実施の形態に限定されるものではなく、図1,2の各処理タンクは共用したり省略することもできる。また、RO膜処理工程、薬品洗浄工程、阻止率向上処理工程はそれぞれ別の場所で行ってもよい。すなわちRO膜モジュールまたはエレメントだけをベッセルから抜き取って、RO処理工程を行っている場所から別の場所(例えばRO膜再生工場など)に移動し、移動先において別途用意したベッセルに収容して薬品洗浄処理工程、阻止率向上処理工程等を実施してもよい。
【0072】
また図2の場合には、修飾剤または阻止率向上剤水溶液は、被処理水タンク11に供給されるが、被処埋水タンク11とRO膜モジュール1とを連結する配管に、これらの修飾剤または阻止率向上剤水溶液を直接ライン注入するようにしてもよい。さらに薬品洗浄工程において、酸洗浄とアルカリ洗浄のどちらか一方のみを行っても良く、また逆に酸洗浄の後にアルカリ洗浄を行っても良い。
【0073】
酸洗浄に使用する酸剤としては、塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸、またはクエン酸、シュウ酸などの有機酸を使用することができる。アルカリ洗浄に使用するアルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどを使用することができる。さらにこれらの洗浄剤に過酸化水素などの酸化剤、重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの界面活性剤などを添加することもできる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によりなんら限定されるものではない。
本実施例および比較例において使用した透過膜モジュールは、日東電工(株)製超低圧芳香族ポリアミド型RO膜「ES−20」の4インチ新品膜モジュールであり、濃縮水および透過水をともに給水タンクに戻す全循環処理により膜分離を行い、阻止率向上剤処理および効果の評価を行った。
【0075】
本実施例および比較例において、評価条件は評価水の入口圧力0.75MPa、ブライン水量15L/minである。
評価に用いた評価水は次の通りである。
(1)20mg−SiO/L、pH6.5のシリカ含有水。
(2)100mg−IPA/L、pH6.5のイソプロパノール含有水。
【0076】
本実施例および比較例において、シリカおよびイソプロパノール(IPA)の阻止率は以下の式によって算出した。
阻止率(%)=〔1−(溶質の透過液濃度×2)/(溶質の供給液濃度+溶質の濃縮液濃度)〕×100
【0077】
[実施例1]:
日東電工(株)製超低圧芳香族ポリアミド型RO膜「ES−20」の4インチ新品膜モジュールに、圧力0.75MPa、ブライン水量15L/minで、重量平均分子量300万のポリビニルアミジン10mg/L水溶液を2時間通水し、余剰高分子を純水でリンスした後に、重量平均分子量100万のポリスチレンスルホン酸10mg/L水溶液を2時間通水して修飾剤処理を行い、余剰高分子を純水でリンスした後に、重量平均分子量3,000のポリエチレングリコール2mg/L水溶液を1時間通水して阻止率向上剤処理を行い、純水でリンスした。
得られた処理モジュールに、前記評価水(1)、(2)を前記評価条件で通水し、透過流束、シリカ阻止率およびIPA阻止率を測定した結果を表1に示す。
【0078】
[実施例2]:
実施例1において、ポリエチレングリコール2mg/L水溶液を1時間通水し、純水でリンスした後、さらにポリオキシエチレン(50)ステアリルエーテル0.5mg/L水溶液を15分間通水し、純水でリンスした以外は同様に処理および評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例3]:
実施例1において、ポリエチレングリコール2mg/L水溶液を1時間通水する処理に替えて、ポリオキシエチレン(50)ステアリルエーテル0.5mg/L水溶液を15分間通水した以外は同様に処理および評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
[比較例1]:
日東電工(株)製超低圧芳香族ポリアミド型RO膜「ES−20」の4インチ新品膜モジュールについて、実施例の修飾剤処理および阻止率向上剤処理を行うことなく、前記評価水(1)、(2)を前記評価条件で通水し、透過流束、シリカ阻止率およびIPA阻止率を測定した結果を表1に示す。
【0081】
[比較例2]:
実施例1において、ポリビニルアミジン10mg/L水溶液を2時間通水し、余剰高分子を純水でリンスした後に、ポリスチレンスルホン酸10mg/L水溶液を2時間通水し、余剰高分子を純水でリンスする修飾剤処理を行い、その後の阻止率向上剤処理を行うことなく、同様に評価を行った結果を表1に示す。
【0082】
[比較例3]:
実施例1において、修飾剤処理を行うことなく、重量平均分子量3,000のポリエチレングリコール2mg/L水溶液を1時間通水して阻止率向上剤処理を行い、純水でリンスした後、同様に評価を行った結果を表1に示す。
【0083】
[比較例4]:
実施例1において、修飾剤処理と阻止率向上剤処理を逆にし、ポリエチレングリコール2mg/L水溶液を1時間通水して阻止率向上剤処理を行い、純水でリンスした後、ポリビニルアミジン10mg/L水溶液を2時間通水し、余剰高分子を純水でリンスした後に、ポリスチレンスルホン酸10mg/L水溶液を2時間通水し、余剰高分子を純水でリンスする修飾剤処理を行い、同様に評価を行った結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1の結果より、実施例1〜3の阻止率向上効果は、比較例1〜4よりも高く、シリカ阻止率およびIPA阻止率は高いことが分かる。これに対して、修飾剤処理のみを行い、その後の阻止率向上剤処理を行わない比較例2では、シリカ阻止率は比較的高いが、IPA阻止率は低い。修飾剤処理を行うことなく、阻止率向上剤処理のみを行った比較例3では、シリカ阻止率は低く、IPA阻止率も大きくは向上しない。そして修飾剤処理と阻止率向上剤処理を逆にした比較例3では、シリカ阻止率は低く、IPA阻止率も大きくは向上しておらず、最初に吸着しているポリエチレングリコールが荷電性高分子の吸着を抑制するものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、逆浸透膜、ナノ濾過膜等の透過膜の阻止率を向上させる方法、阻止率を向上させた透過膜、これを用いる透過膜処理方法、およびこれらに適した透過膜装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施形態による透過膜処理方法および装置を示すフロー図である。
【図2】本発明の別の実施形態による透過膜処理方法および装置を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0088】
1 RO膜モジュール
2 RO膜
3 1次側
4 2次側
11 被処理水タンク
12 処理水タンク
13 アルカリ性洗浄液タンク
14 酸性洗浄液タンク
15 第1修飾剤水溶液タンク
16 第2修飾剤水溶液タンク
17 阻止率向上剤水溶液タンク
18 電解質溶液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過膜をカチオン性またはアニオン性の高分子から選ばれるイオン性の高分子を含む第1の修飾剤と接触させ、その後第1の修飾剤とは異なるイオン性の高分子を含む第2の修飾剤と接触させる修飾剤処理を1回以上行った後、
ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を含む阻止率向上剤と接触させて阻止率向上剤処理を行う
ことを特徴とする透過膜の阻止率向上方法。
【請求項2】
ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物が非イオン性の化合物である請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物がポリアルキレングリコールまたはその誘導体である請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
第1の修飾剤がカチオン性であり、第2の修飾剤がアニオン性である請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の方法により得られる透過膜。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載の方法により得られる透過膜に被処理液を透過させて透過膜処理を行う透過膜処理方法。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれかに記載の方法により得られる透過膜を用い、透過膜に被処理液を透過させて透過膜処理を行う透過膜処理装置。
【請求項8】
1次側に被処理液を通液し、2次側から透過液を取り出す透過膜モジュールと、
モジュールの1次側に、イオン性の高分子を含む第1の修飾剤と、第1の修飾剤とは異なるイオン性の高分子を含む第2の修飾剤とを交互に1回以上通液して修飾剤処理を行う修飾剤処理装置と、
ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を含む阻止率向上剤を通液して、阻止率向上剤処理を行う阻止率向上剤処理装置と
を含む透過膜装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−104919(P2010−104919A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280079(P2008−280079)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】