説明

透過電子顕微鏡

【課題】試料作製及び試料観察を効率よく行う。
【解決手段】イオン銃11のイオンビーム照射口は試料表面に対向するように試料室5内部に設けられ、イオンビーム照射口から試料ホルダー4にセットされた試料表面に直接イオンビームを照射することができるので、大面積の薄片加工が可能となる。またイオン銃11は希ガスのイオンビームを試料表面に照射するので、試料の材質を問わずに安定的にドライエッチングを行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の薄片化機構を備える透過電子顕微鏡(TEM)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透過電子顕微鏡観察用の薄片試料は、透過電子顕微鏡外に設けられた加工装置を用いて作製されていたために、観察を行う前に大気に曝されることによって表面状態が変化することにより試料の真の状態を観察することができなかった。このような背景から、透過電子顕微鏡にガス供給系を設け、電子ビームアシストエッチング技術を利用して透過電子顕微鏡内部で薄片試料を作製可能にする技術が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−329876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、電子ビームアシストエッチング技術を利用して薄片試料を作製する場合には、試料の材質に応じてガスの種類を変える必要がある上にエッチング面積が小さい。このことから、上記従来技術によれば試料作製及び試料観察を効率よく行うことができない。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、試料作製及び試料観察を効率よく行うことが可能な透過電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る透過電子顕微鏡は、イオンビーム照射口が試料表面に対向するように試料室内部に設けられ、イオンビーム照射口から試料表面にイオンビームを照射することにより試料を薄片加工するイオン銃を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る透過電子顕微鏡によれば、試料にイオンビームを照射することによって透過電子顕微鏡内部で大面積の薄片試料を作製することができるので、試料作製及び試料観察を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態となる透過電子顕微鏡の構成について説明する。
【0008】
本発明の実施形態となる透過電子顕微鏡1は、図1に示すように、電子銃2と、電子銃2から引き出した電子線を試料に照射する照射系3と、後述する試料ホルダー4が挿入されるポールピース5aを有する試料室5と、試料からの電子を結像させる結像系6と、結像したTEM像を観察する観察室7と、結像したTEM像を撮影するカメラ室8と、バルブ9を介してガスボンベ10から供給される希ガスを利用してイオンビームを試料室5内部に載置された試料表面に照射するイオン銃11とを主な構成要素として備え、図示しない排気系により内部が真空状態に保持されるように構成されている。
【0009】
この透過電子顕微鏡1では、イオン銃11のイオンビーム照射口は試料表面に対向するように試料室5内部に設けられ、イオンビーム照射口から試料ホルダー4にセットされた試料表面に直接イオンビームを照射することができるので、大面積の薄片加工が可能となる。またイオン銃11は希ガスのイオンビームを試料表面に照射するので、試料の材質を問わずに安定的にドライエッチングを行うことができる。従って、このような透過電子顕微鏡1によれば、試料作製及び試料観察を効率よく行うことができる。
【0010】
なおこの透過電子顕微鏡1では、試料を支持する試料ホルダー4は図2(a)に示すようにイオン銃11のイオンビーム照射口と対向する面に切欠部21を備える。このような構成によれば、試料が試料ホルダー4の陰に隠れることによってイオン銃11から照射されたイオンビームが試料に直接照射されなくなることを防止できる。
【0011】
またこの試料ホルダー4には、図2(a)に示すように、試料のセット位置に形成された円形形状の孔部22と、後述する円盤形状の試料保持具26を面内方向に回転駆動するための回転駆動部23と、試料保持具26の回転方向及び回転量を規制する棒状の3本のガイド部材24と、後述する落下防止器具32を試料ホルダー4に固定するためのネジ孔25が形成されている。
【0012】
この試料ホルダー4に試料をセットする際は、始めに、図2(b)に示すような円盤形状の試料保持具26を試料ホルダー4にセットする。試料保持具26の中心部には試料がセットされる円形形状の孔部が形成されていると共に、試料保持具26の外周部には回転駆動部23の先端部のギアと噛合するギア形状が形成されている。
【0013】
試料保持具26の周部には後述する保持部材30を試料保持具26に固定するためのネジ穴28が形成されている。また試料保持具26の周方向には3つの開口溝27が形成されており、試料保持具26を試料ホルダー4にセットする際、各開口溝27にガイド部材24を挿入する。これにより、試料保持具26を回転させた際、開口溝27にガイド部材24が接触することにより試料保持具26の回転方向及び回転量が規制される。
【0014】
次に、図2(c)に示すように、試料保持具26の孔部上に試料29を配置し、試料29の上面にリング形状の保持部材30を載置し、保持部材30をネジ31によって試料保持具26に固定することにより試料保持具26に試料29を固定する。そして最後に、試料保持具26の上面に落下防止部材32を配置し、落下防止部材32をネジ33によって試料ホルダー4に固定する。このような試料ホルダー4の構成によれば、回転駆動部23によって試料保持具26を面内方向に回転させることにより試料29を面内方向に回転させることができるので、試料29全体にイオンビームを均一に照射させることができる。
【0015】
この電子顕微鏡1では、イオン銃11は、図3に示すような試料表面に対するイオンビームの照射角度を変化させるための傾斜機構を有する。図3に示す傾斜機構では、観察室の壁面に開口部が形成されており、Oリング41により開口部とイオン銃11間を気密封止させた状態で開口部11から観察室内部にイオン銃11を挿入,配置する。そして観察室外部においてイオン銃11の上下面にネジ42a,42bを当接させ、ネジ42a及びネジ42bの並進量を変化させることにより試料に対するイオン銃11の傾斜角度を変化させる。このような構成によれば、試料に対するイオンビームの照射角度を最適な角度に調整することができる。
【0016】
またこの透過電子顕微鏡1では、イオン銃11は、図4に示すような並進機構により試料ホルダー4近傍から出し入れ可能なように構成されている。図4に示す並進機構は、イオン銃11の先端領域に取り付けられた円筒形状のホルダー51を備える。このホルダーは、内部に窒素ガスを導入するためのバルブ52aと、内部に導入された窒素ガスを排気するためのバルブ52bと、イオン銃11とホルダー51の接触部位から窒素ガスがリークすることを防止するためのOリング53を備える。この並進機構では、通常時、図4(a)に示すように、イオン銃11の本体部分はイオンビーム照射口がホルダー51から突出した状態で自重によりホルダー51の内部壁面と接触している。そして、バルブ52aを介してホルダー51内部に窒素ガスが導入されるのに応じて、イオン銃11の本体部分は窒素ガス圧力によってイオンビーム照射口がホルダー51内部に収まる方向に移動する。また、バルブ52bを介してホルダー51内部の窒素ガスを排気することによりイオン銃11の本体部分は自重によって元の位置に戻る。このように構成によれば、イオン銃11が試料観察の妨げになることを防止できる。
【0017】
なお、上記試料ホルダー4は、図5(a),(b)に示すようにポールピース5aの内部に挿入され、イオン銃11はポールピース5aの内部に挿入された試料ホルダー4の試料に向けてイオンビームを照射する。また上述のように、イオン銃11は、試料ホルダー4に対して傾斜動作及び並進動作可能なように構成されている。
【0018】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。このように上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態となる透過電子顕微鏡の全体構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態となる試料ホルダーの構成を示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態となるイオン銃の傾斜機構を示す模式図である。
【図4】本発明の実施形態となるイオン銃の出し入れ機構を示す模式図である。
【図5】イオン銃と試料ホルダーの位置関係を示す模式図である。
【符号の説明】
【0020】
1:透過電子顕微鏡
2:電子銃
3:照射系
4:試料ホルダー
5:試料室
5a:ポールピース
6:結像系
7:観察室
8:カメラ室
9:バルブ
10:ガスボンベ
11:イオン銃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料表面に対向するようにイオンビーム照射口が試料室内部に設けられ、当該イオンビーム照射口から試料表面にイオンビームを照射することにより試料を薄片化加工するイオン銃を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の透過電子顕微鏡であって、前記イオン銃は、試料に対する本体部分の角度を変化させることにより、試料表面に対するイオンビームの照射角度を変化させる傾斜機構を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の透過電子顕微鏡であって、前記イオン銃は前記試料室から出し入れ可能なように構成されていることを特徴とする透過電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のうち、いずれか1項に記載の透過電子顕微鏡であって、試料は前記試料室内部で試料ホルダーにより保持され、当該試料ホルダーは試料を面内方向に回転させる回転機構を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のうち、いずれか1項に記載の透過電子顕微鏡であって、試料は前記試料室内部で試料ホルダーにより保持され、当該試料ホルダーはイオン銃のイオンビーム照射口と対向する面に切欠部を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のうち、いずれか1項に記載の透過電子顕微鏡であって、前記イオンビームは希ガスのイオンビームであることを特徴とする透過電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−135216(P2008−135216A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318577(P2006−318577)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】