説明

逐次インピーダンス計測方法、計測装置および燃料電池システム

【課題】通常の電池出力の変動に近い信号を印加しながら、比較的精度の高く、かつ広範囲な周波数域における計測を短時間で行い、併せて異なる周波数域で現れる現象を同時に計測する逐次インピーダンス計測装置と計測方法を提供する。
【解決手段】制御演算部の電力指示値によって、燃料電池が制御される制御系統の燃料電池のインピーダンスを逐次計測する逐次インピーダンス計測装置であって、白色性を有するM系列信号を発生するM系列信号発生部と、重畳信号を発生する重畳信号発生部と、M系列信号と重畳信号を出力する信号処理部と、制御演算部の電力指示値に信号処理部の出力信号を重畳印加する信号付加部と、燃料電池の電流および電圧を取り込む電流電圧計測部と、電流電圧計測値に基づいて燃料電池のインピーダンスを演算するインピーダンス演算部と、を備え、インピーダンス演算部の演算結果によって、前記制御演算部が燃料電池の制御方法を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の逐次インピーダンス計測方法、計測装置および燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対策、および化石燃料消費量低減のために燃料電池電気自動車(FCEV:Fuel Cell Electric Vehicle)が注目をあびている。
燃料電池電気自動車(以下「車両」または「燃料電池車両」という)においては、搭載する燃料電池のインピーダンス特性は、車両の走行特性において重要な要素であり、逐次、把握しておく必要がある。
しかしながら燃料電池は発電環境(温度、圧力、相対湿度など)や運転条件(停止、起動、高速走行、高地走行、登坂など)の違いでインピーダンスは異なる。また一定の発電環境、運転条件においてもインピーダンスは周波数により異なる値を示す。燃料電池の電解質膜抵抗などは高周波領域で計測され、化学反応の容易さなどは中周波数域で観測される。濃度過電圧と呼ばれる燃料や酸素などの拡散に伴う現象は低周波数域で観測される。したがってフラッディング[滞留水によるガス流路閉塞]が発生すると濃度過電圧が増加する。以上のように燃料電池の反応は時間的かつ周波数的にマルチスケール反応であり、インピーダンスの周波数特性には差があるので、所定の周波数領域における周波数特性として把握する必要がある。そのため、広い周波数域でのインピーダンスの同時計測が望ましい。
【0003】
従来において、燃料電池のインピーダンス測定の方法としては、所定の周波数の正弦波を加えて測定し、周波数を変えながら繰り返し測定を行うFRA(Frequency Response Analyzer)法が知られている(特許文献1〜特許文献3)。
また、FRA法以外のインピーダンス計測としては、擬似白色信号を入力した後にFFT(Fast Fourier Transform)法を用いる方法がある。例えば、非特許文献1〜非特許文献3などでは、正弦波の合成信号で同定する手法を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−285614号公報
【特許文献2】特開2008−16275号公報
【特許文献3】特開2010−267472号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】農研報21:87−91,1994
【非特許文献2】日本機械学会論文集(B編)71巻701号(2005−1)
【非特許文献3】日本機械学会論文集(B編)72巻714号(2006−1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜特許文献3にみられるFRA法は、一定の周波数の正弦波を入力して測定する手法であるため、その周波数一点でのインピーダンスしか測定できない。広範囲な周波数のインピーダンス特性を取得するためには、異なる周波数の正弦波を逐次、入力する必要があり、多大な計測時間を要する。
したがって、急速な現象で、その影響が低周波域に現れるような事象の即時解析は困難である。
また、異なる周波数の信号を同時に印加できないので、例えば、膜抵抗測定時には前記したフラッディングで発生する濃度過電圧を同時に計測、解析することはできない。
また、正確な正弦波を印加するための付加装置によるコスト上昇や、正弦波印加時は通常運転とは異なる電流波形となるため、任意のタイミングで計測できない場合が多い。
【0007】
また、非特許文献1の手法では、信号処理において印加信号に複数回LPF(Low Pass Filter)を適用する必要があり、かつ解析段階においてもLPFを適用する必要など処理が煩雑であった。またノイズ分布によっては誤差が大きく信頼性に欠ける手法であった。
また、非特許文献2においては、入力信号の白色性が明確ではなく、正確な測定が保証されていない。さらに入力信号の印加機器が高コストとなる。
また、非特許文献3において、同定回路が正しくない場合は誤差が大きく、また同定計算に多大な時間を要する。
【0008】
そこで、本発明は前記した問題を解決するためになされたものであり、燃料電池のインピーダンスを適切に計測することのできる逐次インピーダンス計測装置と逐次インピーダンス計測方法、および燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、各発明を以下のような構成にした。
すなわち、本発明の逐次インピーダンス計測装置は、燃料電池と蓄電池を備えて負荷に電力を供給する燃料電池システムへの出力指示値と負荷の出力値を基に制御演算部が算出する電力指示値あるいは電流指示値によって、燃料電池と蓄電池が制御される制御系統における前記燃料電池のインピーダンスを逐次計測する逐次インピーダンス計測装置であって、パワースペクトルが白色性を有する2値以上のM系列信号を発生するM系列信号発生部と、前記M系列信号に重畳する重畳信号を発生する重畳信号発生部と、前記M系列信号と前記重畳信号を併せて、あるいは個別に出力する信号合成部と、前記制御演算部の電力指示値あるいは電流指示値に前記信号合成部の出力信号を重畳して印加する第1の信号付加部と、前記制御演算部の電力指示値あるいは電流指示値に前記信号合成部の出力信号の反転信号を重畳して印加する第2の信号付加部と、前記第1の信号付加部の信号によって制御される前記燃料電池の電流および電圧を計測して取り込む電流電圧計測部と、前記電流電圧計測部の電流電圧計測値に基づいて前記燃料電池のインピーダンスを演算するインピーダンス演算部と、を備え、前記第2の信号付加部における前記印加後の信号を前記蓄電池の制御用に出力し、前記インピーダンス演算部の演算結果を計測結果として出力することを特徴とする。
また、本発明の逐次インピーダンス計測方法は、燃料電池の逐次インピーダンス計測において、パワースペクトルが白色性を有する2値以上のM系列データのM系列信号と、前記M系列データの周期より充分に長い周期の所定の時系列データからなる重畳信号と、を燃料電池の電流の入力信号へ重畳させて入力時系列データを取得し、併せて燃料電池の電圧として出力される出力信号によって出力時系列データを取得し、前記入力時系列データと前記出力時系列データとをそれぞれFFT法で演算処理し、演算処理された2つのデータによってインピーダンスを算出することを特徴とする。
また、本発明の燃料電池システムは、燃料電池と蓄電池を備えて負荷に電力を供給する燃料電池システムにおいて、燃料電池への出力指示値と負荷の出力値を基に制御演算部が算出する電力指示値あるいは電流指示値によって、燃料電池と蓄電池が制御される燃料電池システムであって、パワースペクトルが白色性を有する2値以上のM系列信号を発生するM系列信号発生部と、前記M系列信号に重畳する重畳信号を発生する重畳信号発生部と、前記M系列信号と前記重畳信号を併せて、あるいは個別に出力する信号合成部と、前記制御演算部の電力指示値あるいは電流指示値に前記信号合成部の出力信号を重畳して印加する第1の信号付加部と、前記制御演算部の電力指示値あるいは電流指示値に前記信号合成部の出力信号の反転信号を重畳して印加する第2の信号付加部と、前記第1の信号付加部の信号によって制御される前記燃料電池の電流および電圧を計測して取り込む電流電圧計測部と、前記電流電圧計測部の電流電圧計測値に基づいて前記燃料電池のインピーダンスを演算するインピーダンス演算部と、を備える逐次インピーダンス計測装置を有し、前記第2の信号付加部における前記印加後の信号を前記蓄電池の制御用に出力し、前記インピーダンス演算部の演算結果によって、前記制御演算部の燃料電池、および電池の制御方法を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、燃料電池のインピーダンスを適切に計測することのできる逐次インピーダンス計測装置と逐次インピーダンス計測方法および燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の逐次インピーダンス計測装置の第1実施形態を燃料電池車両に組み込んだ場合の第1の構成を示す図である。
【図2】本発明の逐次インピーダンス計測装置の第2実施形態を燃料電池車両に組み込んだ場合の第2の構成を示す図である。
【図3】本発明のFFTによるインピーダンス計測の機器構成と、計測の概要について説明するための図である。
【図4】本発明のFFTによるインピーダンス計測の手順を示したフローチャートである。
【図5】M系列信号の特徴を示す図であり、(a)はM系列信号を−1と1とのデータで一部を表記したものであり、(b)はM系列信号を時間軸と電圧軸の関係で表記したものであり、(c)はM系列信号のパワースペクトルを周波数軸とゲイン軸の関係で表記した一例である。
【図6】周波数(計算間隔)に適したM系列信号のパターンの選定について説明するための図であり、(a)は高周波用のパターン、(b)は低周波用のパターン、(c)は全周波数用のパターンの一例を示すものである。
【図7】M系列信号のみの場合と、M系列信号にさらにステップ状の信号を重畳させて燃料電池に印加する場合とを比較して示した特性図であり、(a1)、(a2)、(a3)は、それぞれM系列信号のみの場合の電流入力特性図、電圧出力特性図、コールコールプロットの一例であり、(b1)、(b2)、(b3)は、それぞれM系列信号にさらにステップ状の信号を重畳させた場合の電流入力特性図、電圧出力特性図、コールコールプロットの一例である。
【図8】入出力時系列データの平均値の差異によって、インピーダンス低域解析感度が異なることを示す図であり、(a1)、(a2)、(a3)はそれぞれ計測値そのままの電流入力特性図、電圧出力特性図、インピーダンス特性図の一例であり、(b1)、(b2)、(b3)はそれぞれ計測値の平均値を略0に整形したときの入力電流特性図、出力電圧特性図、インピーダンス特性図の一例である。
【図9A】M系列信号に重畳する各種信号を比較して示す図であり、(a1)はM系列信号のみ、(b1)はM系列信号にステップ状信号を重畳、(c1)は(b1)に更に単調増加信号を重畳し、その効果を(a3、b3、c3)にまとめて示したものである。
【図9B】M系列信号に重畳する各種の信号例のさらなる例を示す図であり、(d1)は(b1)信号に更に周波数0.1ラジアン/秒の正弦波を重畳し、(e1)は(b1)信号に更に0.5ラジアン/秒の正弦波を重畳し、(f1)は(b1)信号に単調増加信号と0.1ラジアン/秒の正弦波、更に0.5ラジアン/秒の正弦波を重畳し、これらの波形の効果を(d3)、(e3)、(f3)に示すものである。
【図10】M系列信号にステップ信号を合成した入力時系列データとその出力時系列データに対して、それぞれ三角窓を乗ずる場合についての特性の一例を示した図である。
【図11】FFT変換され出力されたインピーダンス周波数特性に1と0からなる矩形窓関数を乗じて高周波域のノイズをカットする方法を説明する図であり、(a)はレジスタンスの周波数特性の一例を示す図であり、(b)はリアクタンスの周波数特性の一例を示す図である。
【図12A】矩形窓関数の適用後のインピーダンス特性を示す図であり、(a)はレジスタンス特性の一例であり、(b)はリアクタンス特性の一例である。
【図12B】統計処理適用後のインピーダンス特性を示すボード線図であり、(a)がゲインのボード線図の一例であり、(b)が位相のボード線図の一例である。
【図13】インピーダンス特性を基に作成したコールコールプロットの一例である。
【図14A】M系列信号の連続印加時のインピーダンスの計算と、画像表示と関係を示すタイムチャートの一例である。
【図14B】インピーダンス算出間隔を短縮する方法を示すタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態は、通常の電池出力の変動に近い信号を印加しながら、比較的精度の高く、かつ広範囲な周波数域における計測を短時間で行い、併せて異なる周波数域で現れる現象を同時に計測することのできる逐次インピーダンス計測装置と逐次インピーダンス計測方法を提供するものである。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態:逐次インピーダンス計測装置)
図1は本発明の逐次インピーダンス計測装置の第1実施形態を燃料電池車両に組み込んだ場合の第1の構成を示す図である。
図1において、本発明の第1実施形態である逐次インピーダンス計測装置101は、FFTインピーダンス計測用信号発生部102と、第1の信号付加部103と、第2の信号付加部104と、信号反転部105と、インピーダンス演算部(「Imp演算部」と図1では表記)106と、電流電圧計測部107とを備えて構成されている。
また、前記のFFTインピーダンス計測用信号発生部102は、M系列信号発生部111と、重畳信号発生部112と、信号合成部113とを備えて構成されている。
【0014】
燃料電池車両(不図示)は、車両を駆動するエネルギー源である燃料電池13と、燃料電池13を補完する役目の蓄電池14と、車両を駆動するモータ16と、燃料電池13と蓄電池14が出力する電力を指示する制御演算部12と、制御演算部12にモータの情報信号を送る偏差信号部11と、燃料電池13と蓄電池14の出力電力を合成する駆動電力合算部15とを備えている。
【0015】
モータ出力指示値(目標電流値)11Sと、モータ16の駆動出力を反映したモータ出力値(実電流値、モータ出力)16Mと、が偏差信号部11にそれぞれ入力し、その偏差が偏差信号部11から偏差信号11Dとして出力され、制御演算部12に入力される。制御演算部12は、偏差信号11Dと、後記するインピーダンス演算部106のインピーダンス値信号106Sとを参照して、電力指示値12S(もしくは電流指示値12S)を逐次インピーダンス計測装置101へ送る。なお、電力指示値12Sは、御演算部12が電力値を指示する場合のものであって、御演算部12が電流値を指示する場合には「電流指示値12S」となる。
逐次インピーダンス計測装置101に入力した電力指示値12Sは、第1の信号付加部103と第2の信号付加部104へ入力する。
第1の信号付加部103は、電力指示値12Sが印加され、さらにFFTインピーダンス計測用信号発生部102からの重畳合成信号102Sが印加され重畳される。そして、第1の信号付加部103からは、燃料電池指示信号103Sが燃料電池13に送られる。燃料電池13は、燃料電池出力電力13Pを駆動電力合算部15へ送る。
【0016】
また、第2の信号付加部104は、電力指示値12Sが印加され、さらにFFTインピーダンス計測用信号発生部102から信号反転部105を経た反転重畳合成信号102Hが印加され重畳される。そして、第2の信号付加部104からは、蓄電池指示信号104Sが蓄電池14に送られる。蓄電池14は、蓄電池出力電力14Pを駆動電力合算部15へ送る。
駆動電力合算部15において、燃料電池出力電力13Pと蓄電池出力電力14Pは、合算されてモータ駆動電力15Pとしてモータ16に送られて、その電力で駆動する。
なお、燃料電池13、蓄電池14、駆動電力合算部15、モータ16の間には図示しないチョッパやインバータが備えられている。また燃料電池13の出力は、モータ以外にも、図示しない補機でも消費される。
また、燃料電池指示信号103Sは、燃料電池13の図示しない制御回路に対して出力される。
モータ16は駆動されるとともに、その駆動出力を反映したモータ出力値16Mを前記したように、偏差信号部11に送る。
【0017】
また、燃料電池13の電流値と電圧値は、電流電圧計測部107によって計測され、電流電圧計測値107Sとして、インピーダンス演算部106に入力される。インピーダンス演算部106は、詳細は後記するようなFFT演算や窓関数処理の演算を実施し、所定の周波数帯域におけるインピーダンスを演算し、前記したように制御演算部12にインピーダンス値信号106Sを送る。インピーダンス演算部106の演算結果を送るインピーダンス値信号106Sによって、制御演算部12の燃料電池13、および蓄電池14の制御方法を変更する。
【0018】
なお、FFTインピーダンス計測用信号発生部102について、補足説明をする。FFTインピーダンス計測用信号発生部102は、M系列信号発生部111と、重畳信号発生部112と、信号合成部113を具備している。
M系列信号発生部111においては、パワースペクトルに白色性を有するM系列信号を発生する。
重畳信号発生部112においては、ステップ状信号などの後記する所定の重畳信号を発生する。
また、信号合成部113において、前記したM系列信号と所定の重畳信号を合成している。そして、信号合成部113の出力信号(102S)をFFTインピーダンス計測用信号発生部102の出力としている。
なお、M系列信号発生部111、重畳信号発生部112、信号合成部113はソフトウェアによる構成である。
また、前記のM系列信号と所定の重畳信号についての詳細は後記する。
【0019】
また、信号反転部105について、補足説明をする。
前記したように、FFTインピーダンス計測用信号発生部102からは、M系列信号と所定の重畳信号を合成した信号(重畳合成信号102S)が出力され、第1の信号付加部103を経て、電力指示値12Sとともに加算されて燃料電池13に印加され、燃料電池13の出力電力(燃料電池出力電力13P)が駆動電力合算部15を経てモータ駆動電力15Pとして、モータ16に加わっている。
したがって、前記の経路そのままでは、モータ駆動電力15PにM系列信号や所定の重畳信号に由来する電力が含まれてしまう。M系列信号や所定の重畳信号は、逐次のインピーダンス解析には有効であるが、モータ16にとっては、不要のものであり好ましくないものである。
【0020】
このM系列信号や所定の重畳信号のモータ16における影響を取り除くために設けたのが信号反転部105を含む経路である。まず、FFTインピーダンス計測用信号発生部102からのM系列信号と所定の重畳信号(102S)は、信号反転部105によって反転されて反転重畳合成信号102Hとなり、第2の信号付加部104を経て、電力指示値12Sとともに蓄電池指示信号104Sとなって蓄電池14に印加され、蓄電池14の出力電力が駆動電力合算部15に加わっている。
したがって、駆動電力合算部15においては、燃料電池13を経たM系列信号と所定の重畳信号と、蓄電池14を経たM系列信号と所定の重畳信号の反転信号とが合算されるので、M系列信号と所定の重畳信号は駆動電力合算部15において相殺(キャンセル)される。この結果、モータ16にとっては、不要のものであり好ましくないM系列信号と所定の重畳信号がモータ16に到達することが低減される。
以上のために信号反転部105とその経路が設けられたものである。
【0021】
(第2実施形態:逐次インピーダンス計測装置)
図2は、本発明の逐次インピーダンス計測装置の第2実施形態を燃料電池車両に組み込んだ場合の第2の構成を示す図である。
図2において、図1と異なるのは、逐次インピーダンス計測装置201において、第2の電流電圧計測部108をさらに備え、蓄電池14の電流値と電圧値を計測し、電流電圧計測値108Sとして、インピーダンス演算部206に入力されていることである。
インピーダンス演算部206は、燃料電池13のインピーダンスの演算処理のみならず、蓄電池14のインピーダンスの演算処理を行う。そして、燃料電池13と蓄電池14のインピーダンス値信号206Sを制御演算部12に送り、制御演算部12は、燃料電池13と蓄電池14のインピーダンス値を参照して電力指示値12Sの制御を行う。
【0022】
以上の構成においては、前記したように燃料電池13のインピーダンス計測と、併せて、蓄電池14のインピーダンス計測ができるので、より車両の状態に適した燃料電池13と蓄電池14の制御ができる。
また、このときの蓄電池14のインピーダンス計測は、M系列信号を用いて行われるので、周波数特性を含めて高い精度の蓄電池14のインピーダンス特性が把握できる。したがって、燃料電池13のみならず、蓄電池14の精密制御が可能となる。
なお、以上に述べた以外の構成要素、および機能、動作は図1と同じであるので、重複する説明は省略する。
【0023】
(FFTによるインピーダンス計測の機器構成)
次に、本発明の逐次インピーダンス計測装置におけるFFTによるインピーダンス計測について説明する。
図3は、FFTによるインピーダンス計測の機器構成と、計測の概要について説明するための図である。
FFTインピーダンス計測用信号発生部(FFTインピーダンス計測用信号発生装置)302は、M系列信号発生部311と、重畳信号発生部312と、信号合成部313を備えている。M系列信号発生部311が発生するM系列信号と、重畳信号発生部312が発生する重畳信号を信号合成部313で合成し、重畳合成信号302Sを形成して定電流負荷状態における燃料電池13に電流変化として印加する。この結果、燃料電池13に生じた電圧変化の電圧計測値307Sを解析演算部(解析演算器)306に入力する。また、解析演算部306には、重畳合成信号302Sも入力している。
【0024】
解析演算部306は、燃料電池13の電流変化に相当する重畳合成信号302Sと、燃料電池13に生じた電圧変化の電圧計測値307Sとを用いて、所定の周波数域のインピーダンスを解析・演算する。
なお、解析演算部306は、解析精度を高めるための統計処理をする演算器(ソフトウェア)や、ボード線図やコールコールプロット(コールコール図)を作成するための様々な演算器(ソフトウェア)がさらに搭載されている。
解析演算部306は、前記したように、インピーダンス特性やそれに関連する様々な特性や図表に関する演算を行い、解析演算信号306Sを出力し、モニタ画像制御部309(モニタ画像制御器)において、インピーダンス特性をボード線図やコールコールプロットなどの形態で表示する。
【0025】
なお、解析演算部306は、概ねインピーダンス演算部106(図1)と同等の機能を有しているが、車両に搭載することを前提とした図1のインピーダンス演算部106と備える演算器(ソフトウェア)に差異があることもある。
また、M系列信号発生部311の機能構成は、M系列信号発生部111(図1、図2)に概ね等しい。また、重畳信号発生部312の機能構成は、重畳信号発生部112(図1、図2)に概ね等しい。また、信号合成部313の機能構成は、信号合成部113(図1、図2)に概ね等しい。
また、モニタ画像制御部309は、図1および図2に示した燃料電池車両に搭載された逐次インピーダンス計測装置には具備されていないこともある。
また、図3において、燃料電池13は、計測の際には、実際の燃料電池が用いられるが、ソフトウェアによるシミュレーションを行う場合には、燃料電池をモデル化した等価回路となる。
【0026】
(第3実施形態:逐次インピーダンス計測方法)
次に、本発明のもうひとつの形態である逐次インピーダンス計測方法を第3実施形態として以下に説明する。
【0027】
(FFTによるインピーダンス計測のフロー)
次に、逐次インピーダンス計測方法におけるFFTによるインピーダンス計測の手順について説明する。
図4は、FFTによるインピーダンス計測の手順を示したフローチャートである。フローチャートにおける各ステップについて順に説明する。
【0028】
《ステップS401》
まず、M系列信号を設定する。M系列には、パターンの短いものや長いものが各種、存在するが、計算時間(計算速度)やこの演算に係る精度の条件にかなったM系列信号を選択して設定する。
なお、図3においては、FFTインピーダンス計測用信号発生部302におけるM系列信号発生部311でM系列信号が設定される。
なお、図4においては、ステップS401を「M系列信号の設定」と表記している。
また、M系列信号の詳細については後記する。
【0029】
《ステップS402》
次に、M系列信号とステップ信号などの重畳信号を合成する。
図3においては、FFTインピーダンス計測用信号発生部302における信号合成部313において、M系列信号発生部311の発生するM系列信号と、重畳信号発生部312の発生するステップ信号などの重畳信号を合成する。
なお、図4においては、ステップS402を「M系列信号と重畳信号を合成」と表記している。
また、重畳信号の詳細については後記する。
【0030】
《ステップS403》
次に、定電流負荷状態の燃料電池13(図3)にM系列信号と重畳信号の合成信号を印加する。
これは、M系列信号によって広い帯域の周波数応答を計測し、ステップ信号などの重畳信号によって低周波域の計算精度の向上を図りながら計測するための信号印加である。
なお、この信号の印加によって電流変化を燃料電池13に与えていることになる。
また、図4においては、ステップS403を「定電流負荷状態の燃料電池に合成信号を印加」と表記している。
【0031】
《ステップS404》
次に、前記の合成信号を印加された燃料電池13の入力電流と出力電圧値の時系列データを計測する。M系列信号やステップ信号などの重畳信号は時系列の信号であるので、出力電圧値も時系列のデータである。図3においては、解析演算部(器)306に電流変化の信号302Sと電圧変化の信号307Sを計測している。なお、図3においては、入力電流値と出力電圧を計測する機器については図示していない。
また、図4においては、ステップS404を「入力電流値と出力電圧の時系列データを計測」と表記している。
【0032】
《ステップS405》
次に、入力電流値と出力電圧値の各々から平均値を減ずる統計処理を行う。
これは、入力電流値と出力電圧値の時系列データの平均値が0に近い方が演算の精度が高まるためである。
より具体的には、入力電流値と出力電圧の入出力時系列データの各々の平均値をゼロ(0)かゼロに近い(入力電流値と出力電圧値のそれぞれの変化幅の±50%以下が望ましい)値に前処理をする。この前処理を行った以降にFFT演算処理を行う。なお、この前処理とFFT演算処理との間に、次に述べるステップS406の窓関数処理が入ることがある。
また、この平均値をゼロかゼロに近い値に前処理する過程は、図3の解析演算部(器)306で実施される。または、図1、図2のインピーダンス演算部106、206のなかで実施される。
また、図4においては、ステップS405を「入力、出力データから各々平均値を減ずる」と表記している。
また、この平均値をゼロかゼロに近い値に前処理する過程のさらに詳しい説明については後記する。
【0033】
《ステップS406》
次に、入力電流値と出力電圧値の各々に窓関数を乗じる。
これは、解析、演算過程の精度を高めるために行う。また、この処理はソフトウェアで行われる。なお、この過程は、図3の解析演算部(器)306のなかで実施される。
また、図4においては、ステップS406を「入出力に窓関数を乗じる」と表記している。
また、この窓関数の詳細については、後記する。
【0034】
《ステップS407》
次に、入力電流値と出力電圧値に対してFFTの演算を行う。
これは、入力電流値はM系列信号が印加されているので、データとしては時間領域に無数の周波数特性が混濁したデータのままであって、周波数特性によって表記されるデータとはなっていない。周波数特性によるインピーダンスデータを得るために、それぞれをFFTにより、フーリエ変換を行う。
このFFTの演算によって、時系列データである入力電流値と出力電圧値は、周波数特性で表記される入力電流値と出力電圧値へ変換される。
なお、この過程は、図3の解析演算部(器)306のなかで実施される。
また、図4においては、ステップS407を「入出力のFFT」と表記している。
【0035】
《ステップS408》
次に、FFTの演算を実施するステップS407で得られた周波数特性で表記される入力電流値と出力電圧値のデータを用いて、周波数特性で表記されるインピーダンスを算出する。
なお、この過程は、図3の解析演算部(器)306のなかで実施される。
また、図4においては、ステップS408を「入力、出力のFFTからインピーダンスを算出」と表記している。
【0036】
《ステップS409》
次に、ステップS408で得られたインピーダンスに統計処理と、矩形窓関数を乗じる処理を行う。これらの2つの処理は、単独、あるいは併せて行われる。
なお、この過程は、図3の解析演算部(器)306のなかで実施される。
また、図4においては、ステップS409を「インピーダンスに統計処理と矩形窓関数を乗じる処理を行う」と表記している。
また、インピーダンスに統計処理、および矩形窓関数を乗じる処理の詳細については、後記する。なお、「矩形窓関数を乗じる処理」を適宜、「矩形窓処理」とも表記する。
【0037】
《ステップS410》
次に、ステップS408とステップS409とによって得られた周波数特性で表記されるインピーダンスによって、インピーダンスのボード線図を描画する。
なお、この過程は、図3のモニタ画像制御部309で実施される。
また、図4においては、ステップS410を「インピーダンスのボード線図を描画」と表記している。
また、インピーダンスのボード線図を描画することの詳細については、後記する。
【0038】
《ステップS411》
次に、ステップS408とステップS409とによって得られた周波数特性で表記されるインピーダンスによって、インピーダンスのコールコールプロット(コールコール図)を描画する。
なお、この過程は、図3のモニタ画像制御部309で実施される。
また、図4においては、ステップS411を「インピーダンスのコールコール図を描画」と表記している。
また、インピーダンスのコールコールプロットを描画することの詳細については、後記する。
【0039】
以上の図4に示したFFTによるインピーダンス計測の手順を示したフローチャートは一例である。後記する各種の演算処理や測定の過程におけるサブルーチンを図4のフローチャートに追加することもある。
【0040】
≪M系列信号の特徴≫
M系列信号の特徴について説明する。
図5は、M系列信号の特徴を示す図であり、(a)はM系列信号を−1と1とのデータで一部を表記したものであり、(b)はM系列信号を時間軸と電圧軸の関係で表記したものであり、(c)はM系列信号のパワースペクトルを周波数軸とゲイン軸の関係で表記した一例である。
ものである。
【0041】
図5(a)においては、−1と1のデータ列が連続したり、また変化したりしてデータ系列(2の階乗個)が形成されている例である。M系列信号のパターンは有限で一定個数後は同じパターンを繰り返す。このデータ系列は、M系列信号と呼ばれる所定の回路やルールの関数などによって発生するデータ系列である。−1と1とが一見してランダムに変化(実際には完全なランダムではない)した信号となるので、広範囲な周波数成分を含み、白色信号の代用として用いられることが多い。なお、あらゆる周波数帯域でパワースペクトルが一定な完全な白色信号は存在しないので、M系列信号を白色信号として代用するものである。
なお、図5(a)のM系列の例として、はじめの部分から−1が連続しているが、この−1で表記した1個が時系列の最小単位となっている。そして、この最小単位がM系列最小周期となる。M系列最小周期を小さくする場合には信号の周波数を高くする。また、M系列最小周期を大きくする場合には信号の周波数を低くする。
【0042】
図5(b)においては、M系列信号を時間軸(横軸)と電圧軸(縦軸)の関係でグラフ化して表記したものである。横軸は時間(sec、秒)であり、縦時は電圧値を示し、時間の流れとともに、0.5Vを中心として下は0.49V(1に相当)、上は0.51V(−1に相当)の2値の間を変化している。変化する時間の最小単位、つまり最小周期は10−4秒(sec)の場合を図示している。
図5(a)では、データ系列として1と−1で表記されているが、実際のM系列信号として用いる場合には、図5(b)のように、所定の振幅(電圧変化幅)で所定のバイアス(電圧値)の間を変化する。この振幅とバイアスは様々な形態で用いられる。
また、図5(b)では縦時は電圧値を示すとしたが、電流にも適用できて、電流変化のM系列信号も用いられる。
【0043】
図5(c)においては、図5(b)で示したM系列信号のパワースペクトルを周波数軸とゲイン軸の関係で表記したものである。理想的な白色信号であればあらゆる周波数に対してパワースペクトル(ゲイン、gain)は一定であるが、白色信号の代用であるM系列信号は、図5(c)に見られるとおりパワースペクトルは一定ではない。
ただし、図5(c)においては、低周波域(5Hz以下)と高周波域500Hzを除けば、白色信号の代用として用いることも可能である。したがって擬似白色パワースペクトルを有する再現が容易なものとして、M系列信号を用いる。M系列信号のデータ長や周期によってパワースペクトルも変化するので、目的(計算時間、精度、周波数帯域など)に応じたM系列信号を選択、設定する。
【0044】
≪M系列信号のパターンの選定≫
次に、M系列信号のパターンの選定について述べる。なお、M系列信号のパターンの選定は、図4のFFTによるインピーダンス計測のフローチャートにおけるステップS401に相当する。
図6は、周波数(計算間隔)に適したM系列信号のパターンの選定について説明するための図であり、(a)は高周波用のパターン、(b)は低周波用のパターン、(c)は全周波数用のパターンの一例を示すものである。
【0045】
図6(a)においては、インピーダンス計算において高周波域のインピーダンスを計算するのに適したM系列信号のM系列パターンの例を示すものである。短いM系列パターンを繰り返して印加、計算をする。インピーダンス算出頻度が多くなれば精度は向上する。
短いM系列パターンは、低周波成分は少ないが、高周波を比較的多く含むので、高周波域のインピーダンスを計算するには精度的に支障がない。かつ、パターンが短いので計算間隔が短く、短時間で多くのサンプルデータを収集できるので計算時間が短くてすむ。したかって、高周波用のパターンといえる。
燃料電池車両の燃料電池13において、膜抵抗の測定には応答の速い領域のデータが必要となる。すなわち高周波域に適した図6(a)の高周波用のパターンのようなM系列最小周期が短いものを採用する。
【0046】
図6(b)は、インピーダンス計算において低周波域のインピーダンスを計算するのに適したM系列信号のM系列パターンの例を示すものである。比較的にデータ系列の長いM系列パターンを用いて、同一パターンを繰り返して印加、計算をする。
低周波域のインピーダンス計算においては、所定の精度を得るために、低周波を含むM系列信号が必要である。そのために、相対的にデータ系列の長いM系列パターンが必要である。データ系列の長いM系列パターンを用いる結果、計算間隔が長く、全体としての計算時間も長くなる。
燃料電池車両の燃料電池13において、濃度過電圧のような応答の遅い領域の測定には図6(b)の低周波用のパターンのようなM系列最小周期を長いものを採用する。
【0047】
図6(c)は、インピーダンス計算において低周波域から高周波域を含む全周波数の領域のインピーダンスを計算するのに適したM系列信号のM系列パターンの例を示すものである。
全周波数の領域の場合には、データ系列の長さの異なるM系列パターンを組み合わせて用いる。データ系列の長いM系列パターンを含むことで、低周波域のインピーダンス計算の精度を確保しつつ、データ系列の短いM系列パターンを併せて含むことで、計算間隔をできるかぎり短くするものである。
なお、計算間隔は、低周波用の長いM系列パターンが支配的であり、それに高周波用の短いM系列パターンやその中間のM系列パターンの計算時間(α)を足したものとなる。
なお、短いM系列データ取得後、ただちに高周波域のインピーダンスを算出すれば、高周波域から順に適宜、インピーダンスを表示できる。
【0048】
なお、以上のM系列信号のパターンの選定において、M系列信号の個数の長さを変更することによって、M系列の低周波領域ゲインを変える方法がある。
また、2値(例えば1、−1)だけでなく3値(1、0、−1)や5値のM系列を用いることも可能である。
これらの手法を様々に組み合わせることで、対象とする測定に適切なM系列信号のパターンの選定が可能である。
【0049】
燃料電池車両の燃料電池13において、低負荷域や高負荷域に応じて、M系列最小周期を任意に設定可能であることが望ましい。したがって、燃料電池車両の制御に必要な燃料電池のインピーダンスを適宜、迅速に提供するために、図1、図2の逐次インピーダンス計測装置101、201は、入力するM系列信号が切り換えられる構成となっている。
例えば、M系列信号の最小周期が短く、データ系列の長さも短いものを用いるのは、膜抵抗のみが必要な場合や、停止時、掃気時、起動時、低温起動時、高地走行時、高温登坂時などである。
また、アイオノマー(ionomer)抵抗を算出する場合も、M系列信号の最小周期が短く、データ系列の長さも短いものを用いる。
また、M系列信号の最小周期が長いものを用いるのは、フラッディングを監視したい場合や、長時間のアイドル時、低温起動から完全暖機に移行した際の判断時などである。
このように逐次インピーダンス計測装置101、201は、入力するM系列信号の最小周期が異なるM系列データに切り換え可能となっている。
また、後記する低域インピーダンスのばらつきが所定値(例えば略1〜5mΩ)以上の場合には、前記M系列信号の最小周期を長くする。
【0050】
≪印加するM系列信号の電流(電圧)変化幅≫
次に、印加するM系列信号の電流変化幅(電圧変化幅)について述べる。
M系列信号の電流変化幅(電圧変化幅)は、あらかじめ計測した電流(電圧)ノイズ幅の略半分以上であることが望ましい。ただし、このノイズ幅との条件を満たしていれば、できるだけ小さい変化幅のものとする。
また、M系列信号の電流変化(電圧変化)を印加したときの出力である電圧(電流)の応答電圧変化幅(応答電流変化幅)も電圧ノイズ(電流ノイズ)の略半分以上であることが望ましい。
また、M系列信号を印加する直前に、入力電流、出力電圧のノイズを観測(計測)し、印加するM系列信号の変化幅を決定してもよい。
また、M系列信号を印加しているときに観測されるノイズを測定し、ノイズが増加したことにより、M系列信号の振幅(変化幅)がノイズ幅の略半分未満になった場合は、M系列信号の印加を中断し、M系列信号の振幅(変化幅)をノイズ幅の略半分以上のできるだけ小さい変化幅までに増加させ、前述したM系列信号の印加を再開する方法をとってもよい。
【0051】
また、以上のM系列信号を適切に制御するために、入力電流、出力電圧(入出力)のノイズ振幅を電流電圧計測部107とインピーダンス演算部106、206とで、あるいは解析演算部306で、常時監視する。
また、前記M系列信号の印加中に前記ノイズ幅を計測し、M系列信号の変化幅がノイズ幅の半分未満になった場合は、M系列信号の印加中を中断し、M系列振幅(M系列信号の振幅)をノイズ幅の略半分程度を超すように増加させ、その後にM系列信号の印加を再開する方法もある。
【0052】
≪電流電圧データのサンプリング周期とM系列最小周期の関係≫
次に、電流電圧データのサンプリング周期とM系列最小周期の関係について述べる。これは図4のFFTによるインピーダンス計測のフローチャートにおけるステップS404に相当する。
インピーダンスの算出に必要な電流電圧データのサンプリング周期は、M系列最小周期の最低2倍以上必要であるが、特にM系列最小周期以上の高周波域を高精度で測定する場合は、最小周期の略20倍以上の高いサンプリング周期が望ましい。
また、M系列最小周期の略100倍以上でサンプリングした場合は、取得したデータを一旦統計処理(平均値、中央値、最頻値か、あるいはローパスフィルタを適用)してノイズを低減した後にインピーダンス演算部106、206に送信することもできる。なお、このノイズを低減した後にインピーダンス演算部106、206に送信する際には、M系列最小周期よりも略20倍以上高い周期で転送することが望ましい。
インピーダンス演算部106、206が前記条件で転送されたデータを演算することで、M系列最小周期以上の高周波域のインピーダンス計測精度を高めることが可能となる。
【0053】
≪重畳信号印加・ステップ信号≫
次に、M系列信号にさらにステップ状の信号を重畳させて燃料電池13に印加する場合について説明する。なお、M系列信号に重畳信号を合成するのは、図4のFFTによるインピーダンス計測のフローチャートにおけるステップS402に相当する。
図7は、M系列信号のみの場合と、M系列信号にさらにステップ状の信号を重畳させて燃料電池に印加する場合とを比較して示した特性図であり、(a1)、(a2)、(a3)は、それぞれM系列信号のみの場合の電流入力特性図、電圧出力特性図、コールコールプロットの一例であり、(b1)、(b2)、(b3)は、それぞれM系列信号にさらにステップ状の信号を重畳させた場合の電流入力特性図、電圧出力特性図、コールコールプロットの一例である。コールコールプロット算出に際しては図4のステップS409処理のうちの統計処理は用いずに、矩形窓関数処理のみを適用し、ノイズが多い高周波域をカットした。
なお、図7(a1)、(a2)、(b1)、(b2)において、M系列信号はステップ状の信号に比較して周波数が非常に高いので、M系列信号が載った部分については黒い帯状の表記となっている。
また、コールコールプロットの詳細については後記する。
【0054】
図7(a1)、(a2)、(a3)は前記したように、それぞれM系列信号のみの場合の電流入力特性図、電圧出力特性図、コールコールプロットであって、図7(a1)、(a2)の電流入力特性図、電圧出力特性図は、M系列信号が印加された状態、あるいはその影響を受けた状態を表している。
図7(a1)、(a2)において、横軸は時間(time、sec)であり、縦軸はそれぞれ電流値(A)、電圧値(V)を示している。
また、図7(a3)は、(a1)、(a2)の結果を演算処理して、インピーダンスの周波数特性を算出し、その実数部(レジスタンス、横軸)と虚数部(リアクタンス、縦軸)によって作成したコールコールプロットである。
【0055】
また、図7(b1)、(b2)、(b3)は前記したように、それぞれM系列信号にさらにステップ状の信号を重畳された場合の電流入力特性図、電圧出力特性図、コールコールプロットであって、図7(b1)、(b2)の電流入力特性図、電圧出力特性図は、M系列信号にさらにステップ状の信号を重畳された信号が印加された状態、あるいはその影響を受けた状態を表している。
図7(b1)、(b2)において、横軸は時間(time、sec)であり、縦軸はそれぞれ電流値(A)、電圧値(V)を示している。
また、図7(b3)は、(b1)、(b2)の結果を演算処理して、インピーダンスの周波数特性を算出し、その実数部(レジスタンス、横軸)と虚数部(リアクタンス、縦軸)によって作成したコールコールプロットである。
【0056】
図7の(a3)と(b3)に示したコールコールプロットにおいて、M系列信号のみの場合の低周波域におけるインピーダンス特性7a3(丸で囲った領域)と、M系列信号にさらにステップ状の信号を重畳された信号が印加された場合の低周波域におけるインピーダンス特性7b3(丸で囲った領域)とを比較すると、インピーダンス特性7b3の方がデータのばらつきが少なく、分布が鮮明であり、インピーダンス精度が高い。
これは、M系列信号にさらにステップ状の信号を重畳した効果である。ステップ状の信号は、M系列信号に比較すると信号の変化が緩やかである。つまり、ステップ状の信号は、M系列信号に比較して低周波成分を多く含む。M系列信号のみではデータ解析に不足していた低周波成分を、ステップ状の信号を重畳することにより、低周波域でのデータ解析を補うものである。
【0057】
この効果は、インピーダンス特性7b3でみられるように低周波域で特に顕著である。
なお、入力するM系列信号に対して、重畳するステップ信号の振幅は、M系列振幅の略等倍から2倍以上であり、かつ重畳するステップ信号のステップ間隔は、mが1以上の整数でM系列信号の長さ(情報量)が2のm乗−1のときは、M系列信号の最小周期の(m+1)倍以上であることが望ましい。
なお、印加するM系列データの前後で電流が一定の状態であれば、その一定の状態のデータを含めて、インピーダンス解析(演算)に用いる方法も有効である。
【0058】
以上の方法によって、通常の電池出力の変動に近い信号を印加しながら、比較的精度の高いインピーダンス測定(計測)が可能となる。特にインピーダンス計測のために特別な計測モードを設ける必要がなくなる。
また、広範囲な周波数域におけるインピーダンス計測時間が短縮可能となり、併せて異なる周波数域で現れる現象を同時に計測可能となる。
また、以上の方法によって、低域のインピーダンス精度が向上したため、測定に供するM系列パターンを長さの短いものに変更することで、計測時間が短縮可能となる。
【0059】
また、従来においては迅速な計測や、その結果の表示が不可能であった低周波域に現れる現象、例えば燃料電池におけるガス濃度の低下に起因する濃度過電圧を、前記の本願の実施形態によって、逐次インピーダンス算出データの変化として捉えることが可能となる。
また、前記したように、M系列信号を入力する方法により比較的広範囲の周波数域を一度に計測可能なので、例えば含水率(電解質膜の含水率)計測用の高周波域M系列信号を入力することにより、コールコールプロットの実軸の交点(含水率、あるいは膜抵抗)算出が容易になり、含水率制御性能が向上する。
【0060】
≪入出力計測値の平均値のゼロ化≫
次に、入出力(入力電流値、出力電圧値)時系列データのそれぞれの平均値を0に近づけることによって、インピーダンス低域解析感度を向上させる手法について説明する。なお、この方法は、図4のFFTによるインピーダンス計測のフローチャートにおけるステップS405に相当する。また、ステップS409においては矩形窓処理のみ適用した。
図8は、入出力時系列データの平均値の差異によって、インピーダンス低域解析感度が異なることを示す図であり、(a1)、(a2)、(a3)はそれぞれ計測値そのままの電流入力特性図、電圧出力特性図、インピーダンス特性図の一例であり、(b1)、(b2)、(b3)はそれぞれ計測値の平均値を略0に整形(補正)したときの入力電流特性図、出力電圧特性図、インピーダンス特性図の一例である。
【0061】
図8の(a1)の入力電流値の平均と、(a2)の出力電圧値の平均は、ともに0でない。このときの(a1)の入力電流値と(a2)の出力電圧値とによって算出した(a3)のインピーダンス特性のデータは、インピーダンス特性8a3にみられるように、ばらついていて、低周波域におけるインピーダンス精度(インピーダンス低域解析感度)は高くない。
【0062】
また、図8の(b1)の入力電流値の平均と、(b2)の出力電圧値の平均は、もともとの平均値に基づいて補正し、平均値を略0としている。このとき算出した(b3)のインピーダンス特性のデータは、インピーダンス特性8b3にみられるように、前記したインピーダンス特性8a3に比較して、ばらつきが少なくなり、低周波域におけるインピーダンス精度(インピーダンス低域解析感度)は高くなっている。
このような演算処理(統計処理)を行うことによって、インピーダンス低域解析感度を高めることが可能である。
なお、前記平均値が略0となる値は、厳密に0でなくともよいが、前記入出力時系列データのそれぞれの変化幅の±50%以下であることが望ましい。
【0063】
≪重畳信号印加・各種重畳信号≫
次に、M系列信号に重畳する各種の信号例について述べる。
図9Aと図9Bに、M系列信号に重畳する各種の信号例とその効果について示す。
図9AはM系列信号に重畳する各種信号を比較して示す図であり、(a1)はM系列信号のみ、(b1)はM系列信号にステップ状信号を重畳、(c1)は(b1)に更に単調増加信号を重畳し、その効果を(a3、b3、c3)にまとめて示したものである。
また、図9Bは、M系列信号に重畳する各種の信号例のさらなる例を示す図であり、(d1)は(b1)信号に更に周波数0.1ラジアン/秒の正弦波を重畳し、(e1)は(b1)信号に更に0.5ラジアン/秒の正弦波を重畳し、(f1)は(b1)信号に単調増加信号と0.1ラジアン/秒の正弦波、更に0.5ラジアン/秒の正弦波を重畳し、これらの波形の効果を(d3)、(e3)、(f3)に示すものである。
ただし、図9Aと図9Bの(a3)〜(f3)すべてにおいて、前記した≪入出力計測値の平均値のゼロ化≫処理を行った。
M系列信号に重畳する各種の信号例の効果としての(b3)、(c3)、(d3)、(e3)、(f3)については、M系列信号のみの場合の(a3)に比較すると、低周波域でのばらつきが少なく、インピーダンス精度が高いことが解る。
これらの効果を生み出すのは、(b1)で重畳したステップ状信号が、M系列信号には少ない低周波を含むことに起因する。
【0064】
なお、M系列信号に重畳する信号において、インピーダンス精度を高める効果がある信号(時系列データ)の条件についての一例は、次のとおりである。
ある時系列データで、この時系列データの第1区間においては、一定の第1の値であり、前記第1の区間に時間的に続く第2の区間においては、前記第1の値から増加あるいは減少して前記第1の値とは異なる第2の値に到達し、前記第2の区間に時間的に続く第3の区間においては、一定の前記第2の値となる。前記第1の区間および前記第3の区間は、前記M系列信号のM系列最小周期より充分に長く、かつ前記第2の区間は、前記第1の区間および前記第3の区間に比較して充分に短いものとする。
【0065】
以上の条件は、図9Aの(b1)に当てはまるものであり、前記の第1区間とは、(b1)において、時間軸(横軸)の(0、100)であり、第3の区間とは、時間軸(横軸)の(100、200)を示し、第2の区間とは、第1区間と第2の区間の境界(間)の信号の立ち上がりの区間であって、時間軸(横軸)の(略100)を示している。また、第1の値とは、図9Aの(b1)においては、電流軸(縦軸)の略0.5であり、第2の値とは、(b1)では略0.6である。
【0066】
なお、図9Aの(b1)のようにM系列信号に低域のインピーダンス精度を高める効果がある信号(時系列データ)を重畳しておけば、単調増加/単調減少信号、各種振幅や周波数の正弦波やランダム矩形波が複雑に重畳しても低域のインピーダンスの精度向上効果が維持できることが、図9Aの(c3)、図9Bの(d3)、(e3)、(f3)の結果からわかる。
つまり実際の燃料電池車両の運転信号のような複雑でランダムな信号に図9Aの(b1)で示した信号を印加し、その出力を解析することで低域のインピーダンスを精度良く算出できるとなる。
【0067】
≪入力、出力に乗ずる滑らかな窓関数≫
次に、入出力時系列データ(入力電流値、出力電圧値)に滑らかな窓関数を乗じて、ノイズを低減する方法について説明する。なお、この方法は、図4のFFTによるインピーダンス計測のフローチャートにおけるステップS406に相当する。
図10は、M系列信号にステップ信号(重畳信号)を合成した入力時系列データとその出力時系列データに対して、それぞれ三角窓を乗ずる場合についての特性の一例を示した図である。
【0068】
図10の(a1)と(a2)は、それぞれステップS405の処理を行った後の入力電流値と出力電圧値の時系列データを示した図である。(a1)と(a2)の横軸は時間(time)であり、縦軸はそれぞれ入力電流値(A)と出力電圧値(V)である。
(a1)において時間軸の(0〜100)の区間においては、電流は−0.05Aを中心として、細かく変動し、時間軸100において、ステップ状に中心の電流値が0.05Aに変化し、時間軸(100〜200)の区間においては、電流は0.05Aを中心として、細かく変動している。
このときの時間軸の(0〜100)の区間の中心値と、時間軸の(100〜200)の区間の中心値がステップ状の重畳信号である。また、時間軸の(0〜100)の区間と時間軸の(100〜200)の区間において、細かく変動している電流成分がM系列信号である。
また、(a2)は、(a1)に示した電流の信号を燃料電池13(図3)に流したときの電圧波形を示したものである。(a1)は入力の電流波形であり、(a2)は出力の電圧波形であるので縦軸の値は異なるが、(a2)の出力の電圧波形においても、ステップ状の重畳信号の影響と、M系列信号の細かい変動が現れている。
【0069】
また、図10の(b1)と(b2)は、それぞれ時間に対して滑らかに係数が変化し、時間に対して係数が三角形状である三角窓をそれぞれ入力電流値(A)と出力電圧値(V)に対して乗じたものである。縦軸と横軸の関係はそれぞれ(a1)と(a2)と同一である。
このとき、(b1)と(b2)においては、時間軸の100(time)におけるステップ状の重畳信号とM系列信号の細かい変動の値に対して、時間軸の0(time)と200(time)においてはともに略0の値となっている。また、前記の間の区間では、ステップ状の重畳信号とM系列信号の細かい変動の値は、ほぼ直線状に近い割合で滑らかに変化している。これは(a2)、(a1)に対してそれぞれ三角窓関数を乗じた結果、それぞれ(b1)と(b2)の特性図となったものである。
この手法によって、高周波成分のノイズの発生を低減する。
なお、三角窓、バートレット窓(Bartlett window)、あるいはFlat Top窓は、サンプル数に対し、直線的に強度(係数)が増減するのが特徴であり、インピーダンスの低域精度向上に効果がある。Flat Top窓にも同様な効果がある。
また三角窓、Barthann窓、Gauss窓、Blackmanharris窓、Taylor窓、Parzen窓、Hamming窓、Rectangular窓は、M系列最小周期以上の高周波数域におけるインピーダンス精度向上に効果がある。
【0070】
≪FFTについて≫
M系列信号を印加された入力電流と、その結果として出力される燃料電池13の出力電圧は、連続した無数(複数)の周波数に係る応答をして、それらの周波数特性に関するデータは内在するものの、データとしては時間領域の混濁したデータのままである。つまり、周波数特性によって変化する入力電流や出力電圧としての特性データとはなっていない。
したがって、FFTによる高速のフーリエ変換の演算をすることによって、周波数領域に変換し、周波数特性によって表現される入力電流や出力電圧の特性を得る。
なお、この方法は、図4のFFTによるインピーダンス計測のフローチャートにおけるステップS407に相当する。
【0071】
≪FFTからのインピーダンス算出≫
前記のFFTによって、周波数領域に変換され、周波数特性によって表現された入力電流や出力電圧の特性データを基に、周波数特性で表現されたインピーダンス(電圧/電流)が算出される。
なお、この方法は、図4のFFTによるインピーダンス計測のフローチャートにおけるステップS408に相当する。
【0072】
≪インピーダンスに乗じる矩形窓関数≫
次に、矩形窓関数について述べる。インピーダンス算出時に低域のみのデータが必要な場合は、統計処理のされていないインピーダンス生データに高周波域がゼロ(0)となる矩形窓関数を乗じて、高域ノイズ成分をカット(削除、低減)する方法もある。
ちなみに、カットする高周波域は、カット周波数がM系列最小周期の略1/2以下とする。または、周波数変動幅を周波数に沿って計算し、変動幅が所定の値を超えた部位はカットする。
【0073】
以下に、FFT変換され出力されたインピーダンス周波数特性(レジスタンス周波数特性、リアクタンス周波数特性)に係数1と係数0からなる矩形窓関数を乗じて高周波域のノイズをカットする方法について詳しく説明する。なお、この方法は、図4のFFTによるインピーダンス計測のフローチャートにおけるステップS409に相当する。
図11は、FFT変換され出力されたインピーダンス周波数特性(レジスタンス周波数特性、リアクタンス周波数特性)に係数1と係数0からなる矩形窓関数を乗じて高周波域のノイズをカット(削除、低減)する方法を説明する図であり、(a)はレジスタンスの周波数特性の一例を示す図であり、(b)はリアクタンスの周波数特性の一例を示す図である。
【0074】
図11において、図11(a)はレジスタンスの周波数特性を示す図であって、横軸は周波数(Frequency、(Hz))であり、縦軸はレジスタンス[Ω]を示している。また、図11(b)は、リアクタンスの周波数特性を示す図であって、横軸は周波数(Frequency、(Hz))であり、縦軸はリアクタンス[Ω]を示している。
なお、インピーダンスの実部、虚部は、それぞれレジスタンスとリアクタンスに相当する。
図11(a)、(b)において、高周波域においては、レジスタンスおよびリアクタンスは、ともにデータがばらつき、かつ大きく変動している。これは、高周波域の観測ノイズがのった状態を示している。これは実際の装置では必ず発生する現象であり、このままではインピーダンスの算出は非常に誤差の大きい結果として現れ、実用的にはならない。
【0075】
図11(a)、(b)において矩形窓関数510は、特性線511と特性線512を併せた特性線で表記されている。すなわち、矩形窓関数510は、5Hz未満においては係数1(特性線511)であり、5Hz以上は係数0(特性線512)の関数である。また、5Hzにおいては係数1から係数0に一挙に変化する特性を示している。
なお、図11(a)、(b)においては、矩形窓関数510を便宜的にレジスタンス特性とリアクタンス特性の上にわかりやすく重ねて表記しているに過ぎない。したがって、矩形窓関数510の係数1と係数0の値が、縦軸のレジスタンス値やリアクタンス値と一致させて表記しているわけではない。
【0076】
ただし、乗じる係数が1か0であるので、レジスタンス値やリアクタンス値がそのままであるか、0になるかであるので、図11(a)、(b)の表記の仕方で充分理解されるものとして、表記している。
ちなみに、この矩形窓関数510を基のレジスタンスおよびリアクタンスにそれぞれ乗じると、高周波成分がすべて削除され、それにともないノイズ成分も削除、低減される。
なお、矩形窓関数カット周波数である5Hzは、M系列信号の最小周期10Hzの1/2に相当する。
また、矩形窓関数510を乗じたレジスタンスおよびリアクタンスを図12Aに示す。
【0077】
図12Aは、矩形窓関数510(図11)の適用後のインピーダンス(レジスタンスとリアクタンス)特性を示す図であり、図12A(a)はレジスタンス特性の一例であり、図12A(b)はリアクタンス特性の一例である。
図11(a)、(b)に示したインピーダンス(レジスタンスとリアクタンス)特性の高周波成分を削除したので、インピーダンス(レジスタンスとリアクタンス)特性は安定したものとなっている。なお、図12A(a)、(b)のそれぞれの縦軸に表した目盛は、図11(a)、(b)のそれぞれの縦軸に表した目盛より桁違いに小さな値となっている。これはノイズが大幅に減少したために、精度のよい表記が可能となったためである。
また、図11(a)、(b)においてカット周波数5Hzの矩形窓関数510を適用したために、図12A(a)、(b)の横軸の周波数は略5Hzまでしか表示されていないが、精度が高くなったので、5Hz以上の周波数域の特性も外挿することによって、特性が推定できる。
【0078】
≪データの統計処理≫
次に、ステップS408(図4)で算出したインピーダンスのデータを統計処理して精度を高める方法について述べる。なお、このインピーダンスのデータを統計処理する方法は、図4のFFTによるインピーダンス計測のフローチャートにおけるステップS409に相当する。
まず、<統計処理の概略>について述べ、次に<統計処理の詳細>を説明する。
【0079】
<統計処理の概略>
統計処理はすべての周波数領域のインピーダンスのデータを一括して行うのではなく、所定の区間(周波数範囲)を設定し、この区間の単位で統計処理を実施する。そして、この所定の区間を低周波から高周波の方向に順に移動させて行き、対象とする全周波数領域の統計処理を完了する。
【0080】
<統計処理の詳細>
まず、統計処理をする所定の区間の周波数領域の高周波側と低周波側にそれぞれ測定対象の所定の個数を設定する。
次に、前記所定の個数のデータを用いて、設定した区間(周波数範囲)内のレジスタンスとリアクタンスのそれぞれの中央値(median値)を算出する。
このとき、統計処理する周波数の高域だけで統計処理をしてもよいし、また低域だけで統計処理をしてもよい。
なお、統計処理の方法は「平均値」を含めて様々にあるが、データに著しい偏りがある場合には、「平均値」よりも「中央値」の方が実情に適した統計処理結果が得られる。
また、レジスタンス(Rr)とリアクタンス(Ri)からインピーダンス(Imp)を算出する際は、
Imp=Rr+Ri×i
とする。なお、iは虚数を示す。
【0081】
そして、統計処理をする区間(周波数範囲)を逐次移動させながら、その区間において前記した中央値を算出する処理(median処理)を行う。ただし、統計処理において用いるデータ数は、統計処理をする区間の周波数が低周波から高周波に移動するにつれ、高周波の方のデータ数が多くなるように選定する。
すなわち、統計処理に用いるデータの周波数範囲が高周波数ほど広くなるように選定する。ただしデータの周波数間隔は通常一定なのでlogスケールで処理結果を取得する場合は、高周波領域においては処理時間が増大してしまう。
つまり、処理するデータが1Hz間隔で存在する場合、10Hzから100Hzまでの周波数範囲には90個データがある一方、100Hzから1kHzには900個のデータが存在する。したがって高周波領域においては、処理データが膨大になり処理時間が増大する。
【0082】
これを回避するには高周波数領域においては、統計処理を1Hz毎に実施せず、例えば10Hz間隔で実施するようにする。これにより処理数が減少し処理時間が短縮する。
なお、統計処理間隔を広げても処理毎に扱うデータの個数や周波数範囲は、1Hz毎に処理した場合と同じであるため、処理結果の精度は低下しない。周波数軸における処理結果取得間隔が広くなるだけである.
また、前記した中央値は、統計処理をする区間(周波数範囲)を逐次移動させながら算出していくので移動median値(移動中央値、移動統計処理値)とも称する。
【0083】
なお、レジスタンスとリアクタンスの統計処理において、それぞれの統計処理に用いるデータ数が異なってもよい。また、前記した高周波になるにつれて増加させるデータ数の増加方法が異なってもよい。
また、レジスタンスとリアクタンスの統計処理において、それぞれの統計処理に用いるデータが、高周波になるにしたがって、周波数範囲の増加方法が異なってもよい。
また、レジスタンスとリアクタンスの統計処理において、それぞれの統計処理に用いるデータが、高周波になるにしたがって、統計処理を行う間隔を広くしてもよい。
また、レジスタンスとリアクタンスの統計処理において、それぞれの統計処理に用いるデータが、一つ以上の所定の周波数より高周波になると前記統計処理の間隔を順に広くしてもよい。
【0084】
また、前記の統計処理で算出したレジスタンスの移動median値(移動統計処理値)は、M系列最小周期より高周波領域において、低周波側から高周波側に向かうにつれ、強制的に単調減少か、一定になるようにしてもよい。
つまり、統計処理したある周波数の区間Aと、区間Aの高周波側に隣接する区間(A+1)のレジスタンスを比較し、区間(A+1)におけるレジスタンスの移動median値であるレジスタンス(A+1)が区間(A)におけるレジスタンスの移動median値であるレジスタンス(A)より大きい場合は、レジスタンス(A+1)の値としてレジスタンス(A)の値を採用する。
【0085】
また、リアクタンスの移動median値(移動統計処理値)は、低周波から高周波に向かうにつれ増加しても減少してもよい。ただし、上下変化(増加、減少)に際しては、レート(変化率)制限(変化割合制限)を設けてもよい。
その場合、区間(A+1)におけるリアクタンスの移動median値であるリアクタンス(A+1)がリアクタンス(A)+ΔAより大きい場合には、リアクタンス(A+1)の値として、リアクタンス(A)+ΔAを採用する。
またリアクタンス(A+1)がリアクタンス(A)−ΔAよりも小さい場合は、リアクタンス(A+1)の値として、リアクタンス(A)−ΔAを採用する。
なお、ΔAは、リアクタンス(A+1)とリアクタンス(A)の差である。
【0086】
以上がデータの統計処理の方法であるが、このデータの統計処理の過程において、低域インピーダンスのばらつきが所定値以上、例えば、1〜5[mΩ]以上であれば、M系列信号の最小周期を長くするか、またはM系列個数を長くする。これによって、低域インピーダンスのばらつきを少なくすることも可能である。
また、mが1以上の整数であるとして、M系列信号の長さ(情報量)は2のm乗−1で表わせる。
【0087】
≪ボード線図≫
次に、インピーダンスのボード線図の描画について述べる。なお、このインピーダンスのボード線図を描画することについては、図4のFFTによるインピーダンス計測のフローチャートにおけるステップS410に相当する。
図4のステップS409までの過程を経て、インピーダンスの周波数特性が得られた際には、インピーダンスのゲインと位相から、周波数とゲインの関係とを示したボード線図と、周波数と位相の関係を示したボード線図がそれぞれ作成できる。
図12Bは、統計処理適用後のインピーダンス特性を示すボード線図であり、(a)がゲインのボード線図の一例であり、(b)が位相のボード線図の一例である。ステップS409の統計処理によりノイズの影響が大幅に低減した。
また、(a)、(b)の横軸は周波数(Frequency(Hz))であり、(a)の縦軸はゲイン[−]であり、(b)の縦軸は度(degree)である。なお、ゲインは無次元であるので[−]と表記するものとする。
また、図3におけるモニタ画像制御部309によって、ボード線図を画像表示することができる。
【0088】
≪コールコールプロット≫
次に、インピーダンスのコールコールプロット(コールコール図)の描画について述べる。なお、このインピーダンスのコールコールプロットを描画することについては、図4のFFTによるインピーダンス計測のフローチャートにおけるステップS411に相当する。
図4のステップS409までの過程を経て、インピーダンスの周波数特性が得られた際には、インピーダンスのレジスタンス成分とリアクタンス成分から、コールコールプロットが作成できる。
図13は、図12(a)、(b)のインピーダンス(レジスタンスとリアクタンス)特性を基に作成したコールコールプロット(コールコール図)の一例である。図13の横軸はレジスタンス値であり、縦軸はリアクタンス値である。
また、図3におけるモニタ画像制御部309によって、コールコールプロットを画像表示することができる。
【0089】
図13のコールコールプロットは、図4におけるステップS401からステップS408のすべての処理とステップS409の統計処理をほどこして得られた計算結果である。また、比較として、FRA法で算出したインピーダンスを等価回路で同定した結果を矢印(FRA)で示す。なお、図13において、FRAのリアクタンス値が正の値となる70Hz未満の特性線は、矢印(本手法)で示した本手法の特性線とほぼ重なっている。
FRA法を用いた場合、計測時間は約20分以上を要した。一方、本手法の場合3分25秒の測定時間でFRA法とほぼ同様のインピーダンスが算出できた。
ステップS409の矩形窓関数を乗じる方法による算出結果(図9Aのb3)と本手法(ステップS409の統計処理)を比較すると、極低域では略同等であるが、それ以外の周波数領域においては本手法の法が算出データのバラつきの観点で遥かに優れている。
また矩形窓関数の場合は、M系列最小周期である10Hzの半分の5Hzまでしかインピーダンスを算出できなかったが本手法ではM系列最小周期10Hzの7倍の70Hzまでほぼ正しいインピーダンスが算出可能となった。
【0090】
(その他の実施形態:逐次インピーダンス計測方法・逐次インピーダンス計測装置)
次に、逐次インピーダンス計測方法や逐次インピーダンス計測装置のその他の実施形態について、説明する。
まず、図4のFFTによるインピーダンスの計測のフローチャートには表れなかった実施形態について説明する。
【0091】
≪M系列信号の連続印加と任意タイミングでのインピーダンス計算≫
M系列データのM系列信号を連続して印加して、データを蓄積し、当該データを任意のタイミングで計算する方法について述べる。
図14Aは、M系列信号の連続印加時のインピーダンスの計算(演算)と、画像表示と関係を示すタイムチャートの一例である。
図14Aにおいて、横軸は、時間の経過を表している。また、「インピーダンス(Imp)計算使用データ」、「インピーダンス(Imp)計算開始」、「インピーダンス(Imp)計算終了と表示」に係る項目が表記されている。なお、図14Aにおいて表記上の都合により、インピーダンスを「Imp」と簡略化して表記している。
図3に示したFFTによるインピーダンスの計測の機器構成において、M系列信号は連続的に燃料電池13に印加される。このとき、解析演算部306には、インピーダンス計算に必要なデータ(入力電流値、出力電圧値)が入力する。
【0092】
図14Aにおける「インピーダンス計算使用データ」は、この連続してインピーダンス計算に必要なデータが入力している状態を示している。
符号600から符号601の時点までに入力するインピーダンス計算使用データは、符号602のほぼ同時点で解析演算部(器)306(図3)によって、インピーダンス計算が開始される。そして符号603の時点でインピーダンス計算が終了し、モニタ画像制御部(器)309(図3)に表示される。解析演算部306の演算は短時間で行われるので、符号601と符号603との間の時間は、インピーダンス計算使用データの入力に要する時間よりは充分に短い。
【0093】
符号611の時点と符号621の時点の間の符号620の時点で燃料電池13に関連する環境(車両の運転状況など)が変化し、符号621の時点で新たな状態のインピーダンス計算使用データが入力する。
そして符号622の時点で解析演算部306によって、新たな状態のインピーダンス計算が開始され、符号623の時点で新たな状態のインピーダンス計算が終了し、モニタ画像制御部309に表示される。モニタ画像制御部309は、符号613の時点と符号623の時点との間で表示に変化がある。
符号631の時点で引き続き新たな状態のインピーダンス計算使用データが入力し、
符号632の時点でインピーダンス計算が開始され、符号633の時点で引き続いた新たな状態のインピーダンス計算が終了し、モニタ画像制御部309に表示される。符号633の時点においては、表示が完全に新たな状態を反映している。
【0094】
以上において、インピーダンス計算使用データの入力に要する時間(M系列信号の1パターンが完了)に比較して、解析演算部306によるインピーダンス計算時間が充分に短いので、再計算することも可能である。殊に、M系列信号のパターンの途中でデータを計算に用いると、M系列信号の自己相関のピーク誤差が発生するため、M系列のパターン毎に再計算をすることが望ましい。前記したように、本願の前記実施形態においては、解析演算部306によるインピーダンス計算時間が充分に短いので、再計算が可能であり、精度を充分に保つことが可能である。
【0095】
図14Bは、インピーダンス算出時間を短縮する方法を示すタイムチャートの一例である。
図14Bにおいて、所定のM系列パターン終了後、所定のM系列パターンを基にインピーダンスを算出する。つぎに入力するM系列については再び同じ“所定のM系列パターン”を入力するのではなく、M系列パターンのうち“区間14b1”だけを入力し、図14Bに“計算に供するパターン“と示したデータを基にインピーダンスを算出する。
“計算に供するパターン“は“区間14b1”と“区間14b2”で構成(合成パターン)され、これは”所定のM系列パターン”と配列が逆であるが同じ要素で構成されるため、所定のM系列信号の途中でインピーダンスを算出した際に発生する自己相関関数の誤差の影響を受けずに正確なインピーダンスが算出可能である。更に”区間14b2”の時間だけインピーダンス算出間隔を短縮することが可能となる。
【0096】
また、M系列信号の連続印加をしている際に入力値変動幅が変化することがあるが、高周波域の含水率については、測定時間が比較的短いため、入力値変動幅によらず算出しても所定の誤差範囲で算出可能である。
また、低周波域のインピーダンス算出時においては、入力値変動幅が所定値を超して変化した場合には、測定対象の非線形性を考慮して測定値の周波数領域における利用可能範囲を制限する。
【0097】
≪M系列信号の連続印加・異なるM系列≫
図14においては単一のM系列信号を連続印加する例を示したが、異なるM系列を連続して印加する方法もある。異なるM系列を連続して印加することにより、より広い周波数のM系列の印加が可能となり、所定の精度のインピーダンスが、より広い周波数域で得られる。
なお、異なるM系列を連続して印加する方法について説明したが、必ずしも連続でなくともよい。すなわち異なるM系列を独立に印加する方法もある。この場合にも、単一のM系列信号を印加するよりは、所定の精度のインピーダンスが広い周波数域で得られる。
【0098】
≪他の白色性信号≫
以上においては、M系列信号を印加するものとして説明したが、M系列信号を印加するのは、無数の周波数成分を有し、白色性のパワースペクトルの信号として選択したものである。したがって、必ずしもM系列信号でなくとも、他の白色性の信号を用いてもよい。
【0099】
≪第1、第2の電力指示値≫
また、図1に示した第1実施形態、および図2に示した第2実施形態において、制御演算部12の出力である電力指示値12Sは、燃料電池13に燃料電池指示信号103Sを送る第1の信号付加部103と、蓄電池14に蓄電池指示信号104Sを送る第2の信号付加部104とに、ともに入力していたが、電力指示値を2種、用いてもよい。
つまり、制御演算部12から燃料電池用の第1の電力指示値と、蓄電池用の第2の電力指示値とを出力し、第1の電力指示値は第1の信号付加部103に印加し、第2の電力指示値は第2の信号付加部104に印加する。
このように、燃料電池用の電力指示値と蓄電池用の電力指示値とを別々に送ることにより、燃料電池と蓄電池との特性の違いに応じた、より適切な制御が可能となる。
【0100】
≪窓関数≫
図10においては、低周波域精度向上のために、入出力時系列データ(入力電流値、出力電圧値)にサンプル数に対し、直線的に強度が増減することが特徴である三角窓(バートレット窓)やFlat Top窓を窓関数として乗ずる場合について述べ、また高周波域精度向上のために三角窓、Barthann窓、Gauss窓、Blackmanharris窓、Taylor窓、Parzen窓、Hamming窓、Rectangular窓を乗ずる場合について述べたが、窓関数として前記したように滑らかな窓関数であればノイズ低減に有効であるので、これらに限定されない。
ハン窓(Hann window)、ブラックマン窓(Blackman window)、カイザー窓(Kaiser window)、バートレット−ハン窓(Bartlett-Hann window)などの他の窓関数を用いてもよい。
【0101】
≪矩形窓関数≫
図11においては、所定の周波数を境に係数1と係数0を乗ずる矩形窓関数510について、説明したがこのように低周波域と高周波域で分ける矩形窓関数には限らない。
ノイズが特定部位に分布する場合は、ノイズ部位のみが係数0であり他の部位には係数1を乗ずる矩形窓関数を用いてもよい。
また、ノイズのパワースペクトルを計測し、ノイズがおおよそ白色の場合には、サンプル周波数をM系列最小周期より充分に高くし、図11に示した所定の周波数を境に係数1と係数0を乗ずる矩形窓関数510で高周波をカットする。そして、ノイズのパワースペクトルを計測し、ノイズがM系列最小周期以下の領域の狭い周波数領域で重なる場合には、この狭い周波数領域で係数が0となる矩形窓関数を乗ずる。このようにノイズのパワースペクトルによって矩形窓関数を選択する方法もある。
【0102】
≪統計処理≫
図4のFFTによるインピーダンス計測のフローチャートにおけるステップS409の統計処理については中央値をとる場合について説明したが、中央値の処理のみとは限らない。平均値や最頻値による統計処理や、正規分布などの確率分布関数でのフッティング値や、最尤推定値が有効な場合もある。
【0103】
≪逐次インピーダンス計測装置の構成≫
また、図3におけるモニタ画像制御部309が、図1、図2の逐次インピーダンス計測装置101、201に備えられてもよい。
また、図1、図2における信号反転部105は、FFTインピーダンス計測用信号発生部のなかに備えられていてもよい。
【0104】
≪パラメータの影響をマップデータとして記憶≫
また、定常時や非定常時を仮定したときの燃料電池のインピーダンスを事前計測して算出し、その算出結果をパラメータとともにマップ(Map)手段にマップ化して記憶させておき、実際の計測において、解析結果やパラメータが想定内から外れた場合は、前記マップを読みに行く方法もある。
また、実際の計測において、前記マップが所有するデータとは異なる温度、圧力、相対湿度の条件で計測した場合には、これらの条件のパラメータの影響をマップデータとして追加して記憶させることもできる。
これらの学習機能でマップに蓄積されたデータは、未知領域における補正値として利用することもできる。
なお、マップ手段は、図3におけるモニタ画像制御部309のなかに備えられる。
【0105】
≪逐次インピーダンス計測装置による他の計測方法≫
また、図3における逐次インピーダンス計測装置によるインピーダンスの計測においては、まず電流変化を燃料電池に与え、それによる燃料電池の出力の電圧変化を取得し、これらの電流変化と電圧変化を解析演算部306によって解析演算することにより、インピーダンスを計測、算出している。
しかし、まず電圧変化を燃料電池に与え、それによる燃料電池の出力の電流変化を取得し、これらの電圧変化と電流変化を解析演算部306によって解析演算することにより、インピーダンスを計測、算出する計測方法もある。
【0106】
なお、以上の説明は逐次インピーダンス計測装置と逐次インピーダンス計測方法の説明であったが、燃料電池システムの説明も兼ねている。
【0107】
(本願発明と実施形態の補足)
<M系列信号とFFT演算を用いる方法について>
前記したように、従来のFRA法による燃料電池のインピーダンス計測においては、単一周波数の正弦波によるインピーダンス計測を行い、そして周波数を変えて、同じインピーダンス計測を必要な周波数帯域において、繰り返し行う手法であるので、多大な時間を要するために、短時間の現象における過渡的なインピーダンス特性の変化は計測できなかった。
本願発明では、M系列信号を燃料電池の入力電流に印加し、入力電流値と出力電圧値の時系列データを計測し、それらのデータにFFTを施し、入出力のFFT結果からインピーダンスを算出する方法をとっている。M系列信号はパワースペクタルが白色性を備えており、M系列信号を燃料電池の入力電流に印加することは、連続した無数(複数)の周波数を印加することを意味するので、従来のFRA法では繰り返し行っていた測定を一挙に行ってしまうことに相当する。したがって、計測は非常に短時間で行われる。
【0108】
ただし、前記手法は連続した無数(複数)の周波数を印加するものの、データとしては時間領域の無数(複数)の周波数特性が混濁したデータのままであって、周波数特性によって変化するインピーダンスデータとしての特性データとなっていない。
したがって、例えばFFTによる高速のフーリエ変換の演算によって、周波数領域に変換する。この変換によって、周波数特性によって表現されるインピーダンスデータが得られる。
これらの周波数を一括して印加する方法(M系列信号)と高速のFFT演算によって、広い周波数帯域の燃料電池のインピーダンス測定を極めて短時間に行える。したがって、逐次インピーダンス測定が可能となり、短時間の現象のインピーダンス変化を把握することができる方法となっている。
また、本願発明の実施形態において、重畳信号を印加したり、窓関数をかけたりする方法を採用することによって、さらに高い精度の計測が可能となる。
【符号の説明】
【0109】
11 偏差信号部
11D 偏差信号
11S モータ出力指示値
12 制御演算部
12S 電力指示値(電流指示値)
13 燃料電池
13P 燃料電池出力電力
14 蓄電池
14P 蓄電池出力電力
15 駆動電力合算部
15P モータ駆動電力
16 モータ(負荷)
16M モータ出力(モータ出力値、出力値)
101、201 逐次インピーダンス計測装置
102、302 FFTインピーダンス計測用信号発生部(FFTインピーダンス計測用信号発生装置)
102S、302S 信号、重畳合成信号(電流変化)
102H 反転重畳合成信号
103 第1の信号付加部(信号付加部)
103S 燃料電池指示信号
104 第2の信号付加部(信号付加部)
104S 蓄電池指示信号
105 信号反転部
106、206 インピーダンス演算部(Imp演算部)
106S、206S インピーダンス値信号
107 電流電圧計測部
108 電流電圧計測部(第2の電流電圧計測部)
107S、108S 電流電圧計測値
111、311 M系列信号発生部
112、312 重畳信号発生部
113、313 信号合成部
14b1、14b2 区間
306 解析演算部(解析演算器)
306S 解析演算信号
307S 信号、電圧計測値(電圧変化)
309 モニタ画像制御部(モニタ画像制御器)
510 矩形窓関数
511 係数1の特性線
512 係数0の特性線
600、601、602、603、611、612、613、620、621、622、623、631、632、633 時点を表す符号
7a3、7b3、8a3、8b3 低周波域におけるインピーダンス特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と蓄電池を備えて負荷に電力を供給する燃料電池システムへの出力指示値と負荷の出力値を基に制御演算部が算出する電力指示値あるいは電流指示値によって、燃料電池と蓄電池が制御される制御系統における前記燃料電池のインピーダンスを逐次計測する逐次インピーダンス計測装置であって、
パワースペクトルが白色性を有する2値以上のM系列信号を発生するM系列信号発生部と、
前記M系列信号に重畳する重畳信号を発生する重畳信号発生部と、
前記M系列信号と前記重畳信号を併せて、あるいは個別に出力する信号合成部と、
前記制御演算部の電力指示値あるいは電流指示値に前記信号合成部の出力信号を重畳して印加する第1の信号付加部と、
前記制御演算部の電力指示値あるいは電流指示値に前記信号合成部の出力信号の反転信号を重畳して印加する第2の信号付加部と、
前記第1の信号付加部の信号によって制御される前記燃料電池の電流および電圧を計測して取り込む電流電圧計測部と、
前記電流電圧計測部の電流電圧計測値に基づいて前記燃料電池のインピーダンスを演算するインピーダンス演算部と、
を備え、
前記第2の信号付加部における前記印加後の信号を前記蓄電池の制御用に出力し、
前記インピーダンス演算部の演算結果を計測結果として出力することを特徴とする逐次インピーダンス計測装置。
【請求項2】
さらに、
前記第2の信号付加部における前記印加後の信号によって制御される蓄電池の電流および電圧を計測して取り込む第2の電流電圧計測部を備え、
前記インピーダンス演算部は、前記電流電圧計測部の電流電圧計測値と、前記第2の電流電圧計測部の電流電圧計測値とを入力し、前記燃料電池のインピーダンスと前記蓄電池のインピーダンスを演算し、当該演算結果を出力することを特徴とする逐次インピーダンス計測装置。
【請求項3】
さらに、
前記インピーダンス演算部の演算結果を修飾し表示するモニタ画像制御部を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の逐次インピーダンス計測装置。
【請求項4】
前記重畳信号発生部の重畳信号は所定の時系列データであって、
前記時系列データの第1区間においては一定の第1の値であり、
前記第1の区間に時間的に続く第2の区間においては、前記第1の値から増加あるいは減少して前記第1の値とは異なる第2の値に到達し、
前記第2の区間に時間的に続く第3の区間においては、一定の前記第2の値となり、
前記第1の区間および前記第3の区間は、前記M系列信号のM系列最小周期より充分に長く、かつ前記第2の区間は、前記第1の区間および前記第3の区間に比較して充分に短い
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の逐次インピーダンス計測装置。
【請求項5】
前記重畳信号の時系列データは、ステップ信号状のデータであることを特徴とする請求項4に記載の逐次インピーダンス計測装置。
【請求項6】
前記ステップ信号状のデータにさらに所定の波形のデータを重畳して、低域を含めたインピーダンスの計測の精度を向上させることを特徴とする請求項5に記載の逐次インピーダンス計測装置。
【請求項7】
前記逐次インピーダンス計測装置が前記燃料電池のインピーダンスを逐次計測する際の電流電圧計測器のデータサンプリング周期は、前記M系列信号のM系列最小周期よりも略20倍以上高くして、前記M系列最小周期以上の高周波域のインピーダンス計測精度を高めることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の逐次インピーダンス計測装置。
【請求項8】
前記逐次インピーダンス計測装置が前記燃料電池のインピーダンスを逐次計測する際において、電流電圧計測器のデータサンプリング周期を、前記M系列信号のM系列最小周期よりも略100倍以上高くしてサンプリングした場合は、取得したデータを統計処理し、M系列最小周期よりも略20倍以上高い周期で前記インピーダンス演算部へ転送し、前記インピーダンス演算部がこのデータを演算することで、前記M系列最小周期以上の高周波域のインピーダンス計測精度を高めることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の逐次インピーダンス計測装置。
【請求項9】
前記統計処理は、平均値、中央値、最頻値のいずれかの処理、もしくはローパスフィルタによる処理であることを特徴とする請求項8に記載の逐次インピーダンス計測装置。
【請求項10】
燃料電池の逐次インピーダンス計測において、
パワースペクトルが白色性を有する2値以上のM系列データのM系列信号と、
前記M系列データの周期より充分に長い周期の所定の時系列データからなる重畳信号と、
を燃料電池の電流の入力信号へ重畳させて入力時系列データを取得し、
併せて燃料電池の電圧として出力される出力信号によって出力時系列データを取得し、
前記入力時系列データと前記出力時系列データとをそれぞれFFT法で演算処理し、
演算処理された2つのデータによってインピーダンスを算出することを特徴とする逐次インピーダンス計測方法。
【請求項11】
前記FFT法で演算処理をする前に、前記入力時系列データと前記出力時系列データとを、それぞれの平均値が略0となる前処理をすることで、インピーダンスの低域精度を向上させることを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項12】
前記平均値が略0となる値は、前記入力時系列データと前記出力時系列データのそれぞれの変化幅の±50%以下であることを特徴とする請求項11に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項13】
前記所定の時系列データからなる重畳信号の振幅は、前記M系列データのM系列信号の振幅の等倍から2倍以上であり、
かつ、前記重畳信号の繰り返し周期は、mが1以上の整数でM系列信号の個数が2のm乗−1の時は、前記M系列信号の最小周期の(m+1)倍以上であることを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項14】
前記M系列信号の最小周期は、任意に設定可能であることを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項15】
前記M系列信号は、最小周期が異なるM系列データに切り換え可能であることを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項16】
低域インピーダンスのばらつきが所定値以上の場合には、前記M系列信号の最小周期を長くすることを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項17】
低域インピーダンスのばらつきが所定値以上の場合には、前記M系列信号の個数を長くすることを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項18】
前記所定値が略1〜5[mΩ]であることを特徴とする請求項16または請求項17に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項19】
前記M系列信号の振幅は、可変であることを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項20】
前記M系列信号の電流変化幅は、予め計測した電流ノイズ幅の略半分以上であり、かつ出力である電圧の応答変化幅も電圧ノイズ幅の略半分以上であることを特徴とする請求項19に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項21】
前記M系列信号の電圧変化幅は、予め計測した電圧ノイズ幅の略半分以上であり、かつ出力である電流の応答変化幅も電流ノイズ幅の略半分以上であることを特徴とする請求項19に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項22】
前記M系列信号の変化幅は、前記M系列信号の印加直前に前記ノイズ幅を計測して決定することを特徴とする請求項19乃至請求項21のいずれか一項に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項23】
前記M系列信号の変化幅は、前記M系列信号の印加中に前記ノイズ幅を計測し、前記M系列信号の変化幅が前記ノイズ幅の半分未満になった場合は、M系列信号の印加を中断し、M系列信号の変化幅をノイズ幅の略半分程度を超すように増加させ、その後にM系列信号の印加を行うことを特徴とする請求項19乃至請求項21のいずれか一項に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項24】
前記入力時系列データと前記出力時系列データとをそれぞれFFT法で演算処理する前に、前記入力時系列データと前記出力時系列データにそれぞれ窓関数を乗ずる処理を施すことを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項25】
前記窓関数は、前記出力データのサンプル数に対して直線的に強度が増減して、インピーダンス精度を向上させることを特徴とする請求項24に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項26】
前記窓関数は、三角窓、バートレット窓、あるいはFlat Top窓のいずれかとして、インピーダンス低域精度を向上させることを特徴とする請求項25に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項27】
前記窓関数は、三角窓、Barthann窓、Gauss窓、Blackmanharris窓、Taylor窓、Parzen窓、Hamming窓、Rectangular窓のいずれかとして、インピーダンス高域精度を向上させることを特徴とする請求項24に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項28】
前記逐次インピーダンス計測方法は、ゲイン算出手段、位相算出手段、およびレジスタンス算出手段、リアクタンス算出手段を備え、
前記ゲイン算出手段、前記位相算出手段、およびレジスタンス算出手段、リアクタンス算出手段は、それぞれ別の或いは同一の統計処理アルゴリズムを有することを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項29】
前記逐次インピーダンス計測方法は、前記レジスタンス算出手段によって算出されたインピーダンスの実部であるレジスタンス成分と、前記リアクタンス算出手段によって算出されたインピーダンスの虚部であるリアクタンス成分とを、前記それぞれ別の或いは同一の統計処理アルゴリズムで統計処理し、当該統計処理の終了後にレジスタンス成分と、虚部であるリアクタンス成分を合成することにより、前記インピーダンスを算出することを特徴とする請求項28に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項30】
前記逐次インピーダンス計測方法は、低周波域から高周波域へ統計処理する周波数を逐次移動させて統計処理を実施する際に、統計処理する周波数の高周波側と低周波側にそれぞれ所定の統計処理するデータ数を設定し、設定した区間内のレジスタンスとリアクタンスのそれぞれの統計処理値を算出し、高周波側だけで統計処理を行うか、低周波側だけで統計処理を行うか、もしくは高周波側と低周波側でそれぞれ統計処理を行うことを特徴とする請求項28に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項31】
前記統計処理する周波数を逐次移動させて統計処理を実施する際に、前記統計処理に用いるデータ数は低周波より高周波の方が多くなるように選定することを特徴とする請求項30に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項32】
前記統計処理する周波数を逐次移動させて統計処理を実施する際に、前記統計処理に用いるデータは低周波より高周波の方が周波数範囲が広範囲になるように選定することを特徴とする請求項30に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項33】
前記レジスタンスとリアクタンスの統計処理において、それぞれの前記統計処理に用いるデータ数が、高周波になるにしたがって増加されるデータ数増加方法が異なることを特徴とする請求項30または請求項31に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項34】
前記レジスタンスとリアクタンスの統計処理において、それぞれの前記統計処理に用いるデータが、高周波になるにしたがって周波数範囲の増加方法が異なることを特徴とする請求項30または請求項31に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項35】
前記レジスタンスとリアクタンスの統計処理において、それぞれ前記統計処理に用いるデータが高周波になるにしたがって、前記統計処理を行う間隔を広くすることを特徴とする請求項30または請求項31に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項36】
前記レジスタンスとリアクタンスの統計処理において、それぞれ前記統計処理に用いるデータが一つ以上の所定の周波数より高周波になると前記統計処理の間隔を順に広くすることを特徴とする請求項30または請求項31に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項37】
前記逐次インピーダンス計測方法は、周波数毎にデータを区切り統計処理を実施する統計処理手段を備え、前記統計処理を実施した結果をコールコールプロット作成に係るデータを逐次算出することを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項38】
前記統計処理手段の統計処理方法は、前記周波数の高低のそれぞれの範囲を設定し、当該範囲内のデータの中央値か正規分布などの確率分布関数でのフッティング値か、最尤推定値のいずれか、あるいは、これらのいくつか、或いは全てについての所定の割合での混合平均値をインピーダンスと設定し、
その後、前記周波数の周波数軸を低周波数域から高周波数域へ移動しながら複数の前記インピーダンスを統計処理することを特徴とする請求項37に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項39】
前記統計処理方法により低周波域から高周波域に移動しながら算出する移動統計処理値を用いてインピーダンスを算出する際に、前記インピーダンスの実数部に相当するレジスタンスが、低周波から高周波に向かうにつれ単調減少か一定になるように移動統計処理値に最大値制限を設け、
かつ、前記インピーダンスの虚数部に相当するリアクタンスの算出時には、低周波から高周波に向かうにつれ移動統計処理値の上下変化に変化割合制限を設けることを特徴とする請求項38に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項40】
前記インピーダンスがM系列最小周期の2倍以上の高周波領域で算出されることを特徴とする請求項28乃至請求項39のいずれか一項に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項41】
前記逐次インピーダンス計測方法は、ボード線図(ゲイン、位相)作成手段、レジスタンス算出手段、リアクタンス算出手段と、高周波域が0となる矩形窓関数手段を備え、
前記レジスタンス算出手段と前記リアクタンス算出手段によって取得されたインピーダンスのデータに前記高周波域が0となる矩形窓関数手段を乗じて高周波域のノイズ成分をカットすることを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項42】
前記矩形窓関数手段によってカットする前記高周波域は、カット周波数が前記M系列最小周期の略1/2以下とすることを特徴とする請求項41に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項43】
前記矩形窓関数手段によってカットする前記高周波域は、周波数変動幅を周波数に沿って計算し、変動幅が所定値を超えた部位をカットすることを特徴とする請求項41に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項44】
前記逐次インピーダンス計測方法は、ボード線図(ゲイン、位相)作成手段、レジスタンス算出手段、リアクタンス算出手段と、所定周波数部位が0となる窓関数手段を備え、
前記レジスタンス算出手段と前記リアクタンス算出手段によって取得されたインピーダンスのデータにノイズ部位のみが0となる前記窓関数手段を乗じてノイズ成分をカットすることを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項45】
M系列データのM系列信号の入力直後は高周波域のインピーダンスを算出し、データ数が増加するにしたがって、低周波域までのインピーダンスを算出し、コールコールプロットに係るデータを逐次算出することを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項46】
前記M系列データのM系列信号を連続して印加して、データを蓄積し、当該データを任意のタイミングで計算することを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項47】
前記M系列データの所定のM系列パターンのある一部の区間に入力されるパターンと、既に印加済みの区間のパターンとを合わせた合成パターンの構成要素と長さとが、前記所定のM系列パターンの構成要素と長さと等しくし、当該合成パターンを前記インピーダンスの算出過程に用いて、インピーダンス算出間隔を低減することを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項48】
前記逐次インピーダンス計測方法であって、
さらに、仮定された定常時や非定常時のインピーダンスを事前計測して算出したデータを計測時のパラメータとともに記憶するマップ手段を備え、
さらに、所有する前記マップのデータとは異なる環境条件で計測した際のデータを当該環境条件のパラメータとともに前記マップ手段に追加して記憶し、
あらたな計測時において、解析結果が想定内から外れた際に、前記マップ手段のデータが参照可能なことを特徴とする請求項10に記載の逐次インピーダンス計測方法。
【請求項49】
燃料電池と蓄電池を備えて負荷に電力を供給する燃料電池システムにおいて、
燃料電池への出力指示値と負荷の出力値を基に制御演算部が算出する電力指示値あるいは電流指示値によって、燃料電池と蓄電池が制御される燃料電池システムであって、
パワースペクトルが白色性を有する2値以上のM系列信号を発生するM系列信号発生部と、
前記M系列信号に重畳する重畳信号を発生する重畳信号発生部と、
前記M系列信号と前記重畳信号を併せて、あるいは個別に出力する信号合成部と、
前記制御演算部の電力指示値あるいは電流指示値に前記信号合成部の出力信号を重畳して印加する第1の信号付加部と、
前記制御演算部の電力指示値あるいは電流指示値に前記信号合成部の出力信号の反転信号を重畳して印加する第2の信号付加部と、
前記第1の信号付加部の信号によって制御される前記燃料電池の電流および電圧を計測して取り込む電流電圧計測部と、
前記電流電圧計測部の電流電圧計測値に基づいて前記燃料電池のインピーダンスを演算するインピーダンス演算部と、
を備える逐次インピーダンス計測装置を有し、
前記第2の信号付加部における前記印加後の信号を前記蓄電池の制御用に出力し、
前記インピーダンス演算部の演算結果によって、前記制御演算部の燃料電池、および蓄電池の制御方法を変更することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項50】
さらに、前記逐次インピーダンス計測装置は、前記第2の信号付加部の信号によって制御される前記蓄電池の電流および電圧を計測して取り込む第2の電流電圧計測部を備え、
前記インピーダンス演算部は、前記電流電圧計測部の電流電圧計測値と、前記第2の電流電圧計測部の電流電圧計測値とを入力し、前記燃料電池のインピーダンスと前記蓄電池のインピーダンスを演算し、当該演算結果によって、前記制御演算部の燃料電池、および蓄電池の制御方法を変更することを特徴とする請求項49に記載の燃料電池システム。
【請求項51】
さらに、前記逐次インピーダンス計測装置は、前記インピーダンス演算部の演算結果を修飾し表示するモニタ画像制御部を備えたことを特徴とする請求項49または請求項50に記載の燃料電池システム。
【請求項52】
前記重畳信号発生部の重畳信号は所定の時系列データであって、
前記時系列データの第1区間においては一定の第1の値であり、
前記第1の区間に時間的に続く第2の区間においては、前記第1の値から増加あるいは減少して前記第1の値とは異なる第2の値に到達し、
前記第2の区間に時間的に続く第3の区間においては、一定の前記第2の値となり、
前記第1の区間および前記第3の区間は、前記M系列信号のM系列最小周期より充分に長く、かつ前記第2の区間は、前記第1の区間および前記第3の区間に比較して充分に短い
ことを特徴とする請求項49乃至請求項51のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項53】
前記重畳信号の時系列データは、ステップ信号状のデータであることを特徴とする請求項52に記載の燃料電池システム。
【請求項54】
前記燃料電池システムが前記燃料電池のインピーダンスを逐次計測する際のデータのサンプリング周期は、前記M系列信号のM系列最小周期よりも略20倍以上高くして、M系列最小周期以上の高周波域のインピーダンス計測精度を高めることを特徴とする請求項49乃至請求項52のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項55】
前記燃料電池システムが前記燃料電池のインピーダンスを逐次計測する際において、電流電圧計測器のデータサンプリング周期を、前記M系列信号のM系列最小周期よりも略100倍以上高くしてサンプリングした場合は、取得したデータを統計処理し、M系列最小周期よりも略20倍以上高い周期で前記インピーダンス演算部へ転送し、前記インピーダンス演算部がこのデータを演算することで、前記M系列最小周期以上の高周波域のインピーダンス計測精度を高めることを特徴とする請求項49乃至請求項52のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項56】
前記統計処理は、平均値、中央値、最頻値のいずれかの処理、もしくはローパスフィルタによる処理であることを特徴とする請求項55に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12B】
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【図12A】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【公開番号】特開2013−93120(P2013−93120A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232832(P2011−232832)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】