説明

通信ケーブル用テンションメンバおよびその製造方法

【課題】他の部材との接着性が高く引き抜き強度が優れ、十分な強力を備えると共に低コストで製造可能な通信ケーブル用テンションメンバおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステル系樹脂モノフィラメントを構成素材とし、通信ケーブルの内部補強部材として使用されるテンションメンバ1であって、前記ポリエステル系モノフィラメントは、その長手方向に沿って変形断面部2と非変形断面部3とが交互に連続しており、かつ前記変形断面部2の長径aと短径bとの比a/bが1.2〜4.0の範囲にあると共に、前記非変形断面部3の外接円直径が0.2〜5.0mmの範囲にある凹凸状外形を呈していることを特徴とする通信ケーブル用テンションメンバ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信ケーブルの内部補強部材として使用される通信ケーブル用テンションメンバの改良に関するものであり、さらに詳しくは、他の部材との接着性が高く引き抜き強度が優れ、十分な強力を備えると共に低コストで製造可能な通信ケーブル用テンションメンバおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
FTTH(fiber to the home)に使用される通信ケーブルには、近年増加する莫大な情報量と情報伝達の高速化に伴い、光ファイバーケーブルが主に使用されている。
【0003】
光ファイバーケーブルには、これを電柱から宅内に引き込むために抗張力体またはテンションメンバと呼ばれる内部補強部材が使用されており、従来、その素材には鋼線が使用されていた。
【0004】
しかし、雷などの発生により、電圧誘引が電柱から光ファイバーケーブルを伝わると、宅内のルーターやパソコンなどの家庭電化製品の故障や破損の原因となるため、抗張力体などの内部補強部材を構成する素材を、鋼線に代えて絶縁体に互換する要請が高まっている。
【0005】
この要請を満たすものとしては、繊維強化プラスチックやポリエステルモノフィラメントを使用した内部補強部材が知られている。しかし、光ファイバーケーブルを製造する際に、これらの内部補強部材はシースと呼ばれる絶縁体で溶融被覆されるが、このシースとの接着性が低いために内部補強部材がケーブルから抜けやすく、ケーブルの長さ方向に力が掛かった場合には、本来の抗張力体としての役割を果たすことが出来ず、通信部材に負担がかかり、情報伝達特性の低下や、通信部材の破断などを招くという問題があった。
【0006】
この問題解決のための対策としては、ポリエステルモノフィラメントの断面を異形にしたケーブル補強部材(例えば、特許文献1参照)が知られている。この技術はモノフィラメント断面を異形にすることにより、内部補強部材とシースとの接着面積を増加させ、接着性を向上させたものであるが、内部補強部材とシースとの摩擦力のみに頼っていることから、満足する接着性が得られたとは言い難いものであった。
【0007】
また、抗張力体とシース材の接着性を改善する方法としては、線条抗張力体の外周に接着層を介して熱可塑性樹被覆層を設けたテンションメンバ構造体(例えば、特許文献2参照)や、強化プラスチックを主体とするロットに被覆されたテンションメンバであってそのテンションメンバの周面に形成された螺旋状の溝の底面に微細な凹凸が分布したテンションメンバ(例えば、特許文献3参照)が提案されている。これら技術は接着性の改善という面ではある程度の改善効果は見られるものの、テンションメンバ構造体を作成するために多くの工程、材料が必要となり、結果としてコストアップに繋がり実用性に掛けるという問題があった。
【0008】
このように、従来の通信ケーブル用テンションメンバは、ケーブル用内部補強部材として十分な機能を発揮するものではなかったため、現状のものよりも実用性の高い通信ケーブル用テンションメンバの開発が強く要求されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−200073号公報
【特許文献2】特開平07−333477号公報
【特許文献3】特許3005871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の従来技術における問題点を課題として検討した結果、達成されたのである。すなわち、本発明の目的は、他の部材との接着性が高く引き抜き強度が優れ、十分な強力を備えると共に低コストで製造可能な通信ケーブル用テンションメンバおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の問題を解決するために、本発明によれば、ポリエステル系樹脂モノフィラメントを構成素材とし、通信ケーブルの内部補強部材として使用されるテンションメンバであって、前記ポリエステル系モノフィラメントは、その長手方向に沿って変形断面部と非変形断面部とが交互に連続しており、かつ前記変形断面部の長径aと短径bとの比a/bが1.2〜4.0の範囲にあると共に、前記非変形断面部の外接円直径が0.2〜5.0mmの範囲にある凹凸状外形を呈していることを特徴とする通信ケーブル用テンションメンバが提供される。
【0012】
なお、本発明の通信ケーブル用テンションメンバにおいては、
前記ポリエステル系樹脂モノフィラメントの変形断面部および非変形断面部の長さが、それぞれ0.1〜100mmの範囲にあること、
前記ポリエステル系樹脂モノフィラメントの、JIS L1013−1999 8.10に準じて測定したヤング率が5000N/mm以上、30000N/mm以下、JIS L1013−1999 8.18.2のB法に準じて測定した140℃における乾熱収縮率が5.0%以下であること、および
前記ポリエステル系樹脂がエチレン−2,6−ナフタレート単位を80モル%以上含有するポリエステル系樹脂であること、
がさらに好ましい条件として挙げられ、これらの条件を満たすことでさらに優れた効果が得られる。
【0013】
また、上記通信ケーブル用テンションメンバの製造方法は、ポリエステル系樹脂モノフィラメントをそのガラス転移温度以上、融点未満の温度に加熱しながら、このモノフィラメントを長さ方向に間隔をおいて押しつぶすことにより変形断面部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下に説明するとおり、電気資材、特に光ファイバーケーブルなどの内部補強部材に使用した場合に、他の部材との接着性が高く引き抜き強度が優れ、十分な強力を備えた通信ケーブル用テンションメンバを低コストで得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の通信ケーブル用テンションメンバの一例を示す側面図である。
【図2】上記通信ケーブル用テンションメンバを構成するモノフィラメントの断面図である。
【図3】本発明の通信ケーブル用テンションメンバの変形断面部の加工方法の一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の抗張力体用モノフィラメントについて、図面に従って詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の通信ケーブル用テンションメンバの一例を示した側面図であり、1は通信ケーブル用テンションメンバ、2は変形断面部、3は非変形断面部をそれぞれ示している。
【0018】
また、図2の(イ)および(ロ)は、それぞれ図1の通信ケーブル用テンションメンバ1の線I−Iおよび線J−Jにおける断面図の一例を表したものである。ここで、図2(イ)のaおよびbは、それぞれ変形断面部2における断面形状の長径および短径を示している。
【0019】
また、図2(ロ)のcは、非変形断面部3の断面形状に外接する外接円(点線)の直径を示している。
【0020】
図1および図2から分かるように、本発明の通信ケーブル用テンションメンバ1は、モノフィラメントの長さ方向に沿って変形断面部2と非変形断面部3とを交互に連続して有し、変形断面部2における断面形状の長径aと短径bの比a/bの値が1.2〜4.0の範囲にあるとともに、非変形断面部3の断面形状に外接する外接円の直径cが0.2〜5.0mmの範囲にある凹凸状外形を呈していることを特徴としている。
【0021】
つまり、本発明の通信ケーブル用テンションメンバ1は、これを構成するポリエステル系樹脂モノフィラメントの長さ方向に沿って変形断面部2と非変形断面部3とを交互に連続して有する凹凸状外形を呈していることにより、アンカー効果を発揮して結果的にシースとの接着力が向上し引き抜き強度が改善されるため、通信ケーブルの長手方向に力が掛かってもこのテンションメンバによりケーブルの形態変化を抑制できることから、光ファイバケーブルの情報伝達特性の低下や、通信部材の破断などの問題を効果的に解決することができる。
【0022】
ただし、変形断面部2における断面形状の長径aと短径bの比a/bの値が1.2〜4.0の範囲であることが必要であり、さらには、a/bの値が1.4〜3.0の範囲となることが好ましい。
【0023】
これは、変形断面部2の長径aと短径bの比a/bの値が上記範囲を下回る場合は、アンカー効果が十分に得られなくなり、シースとの接着性が悪くなり、逆に上記範囲を上回る場合は、シースとの接着性は満足するものの、モノフィラメントの強度が低下し、光芯線を守ることが出来なくなるため好ましくないからである。
【0024】
また、非変形断面部3の断面形状に外接する外接円の直径cは0.2〜5.0mmの範囲であることが必要である。
【0025】
これは外接円直径cが上記範囲を下回る場合は、モノフィラメントの強力が低くなりすぎて抗張力体として使用しても光芯線を守ることが出来なくなり、逆に上記範囲を上回る場合は、ケーブル自体が太くなりすぎるためケーブル作製のコストが上がってしまうばかりか、可撓性の欠けた通信ケーブルとなるため好ましくないからである。
【0026】
ここで、本発明の通信ケーブル用テンションメンバ1を構成するポリエステル系樹脂は、特に限定はされないが、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートまたはその2種類以上の共重合またはブレンドなどのポリエステル等が挙げられる。なかでも、高延伸倍率により高強力が得られやすいとの理由から、エチレン−2,6−ナフタレート単位を80モル%以上含有するポリエステル系樹脂の使用が好ましい。
【0027】
また、本発明の通信ケーブル用テンションメンバ1は、変形断面部2の長さが0.1〜100mm、さらには1〜30mmの範囲にあることがより好ましく、非変形断面部3の長さについても0.1〜100mm、さらには1〜30mmの範囲にあることがより好ましい。
【0028】
変形断面部2と非変形断面部3の長さが上記範囲を下回る場合、抗張力体に形成された溝にシースが入り込みにくく、アンカー効果が発揮されず満足する接着性が得られなくなる傾向が招かれ、逆に上記範囲を上回る場合は、アンカー効果を発揮する箇所が少なすぎて満足する接着性が得られない傾向が招かれることがある。
【0029】
さらに、本発明の通信ケーブル用テンションメンバ1のヤング率は5000N/mm以上、30000N/mm以下であることが好ましく、さらには6000N/mm以上、28000N/mm以下であることがより好ましい。
【0030】
ヤング率が上記範囲を下回る場合は、強力に欠けたモノフィラメントとなり、抗張力体として使用した場合、光ファイバーが破断しやすくなる傾向が招かれる。逆に、ヤング率が上記範囲を上回る場合は、柔軟性に欠けたモノフィラメントとなり、抗張力体として使用した場合、可撓性に欠けた光ファイバーケーブルとなる傾向が招かれる。
【0031】
また、本発明の通信ケーブル用テンションメンバ1の140℃における乾熱収縮率が5.0%以下であることが好ましく、さらには3.0%以下であることがより好ましい条件である。
【0032】
乾熱収縮率が上記範囲を上回るとケーブル加工時にシース材の熱により抗張力体が縮んでしまい、ケーブル内で蛇行しやすくなり、品質に欠けたケーブルが得られやすい傾向となるからである。
【0033】
また、本発明で使用するポリエステル樹脂には、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分およびジオール成分を含有することができ、例えば、ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、シクロヘキサンジカルボン酸およびデカリンジカルボン酸などが挙げられ、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族グリコール、o−キシリレングリコール、p−キシリレングリコール、m−キシリレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、1,2−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,2−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ジフェニルスルホンなどの芳香族グリコール、およびヒドロキノン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、レゾルシン、カテコール、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシジフェニルスルホンなどのジフェノール類などが挙げられるが、これらの中から2種以上を選択して適宜使用することもできる。
【0034】
さらに、本発明で使用するポリエステル系樹脂には、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、燐酸バリウム、燐酸リチウム、燐酸カルシウム、燐酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニア、フッ化リチウム、カオリン、タルク等の無機粒子、耐熱剤、耐候剤、耐光剤、耐加水分解剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、平滑剤、ワックス類、シリコーンオイル、界面活性剤、染料、顔料などの公知の添加剤成分を必要に応じて任意に添加することができる。
【0035】
さらに、本発明で使用するポリエステル系樹脂には異素材のポリマーも添加でき、例えば、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6・12、ナイロン12、ナイロン6・10、ナイロン10またはその2種類以上の共重合体またはブレンドなどのポリアミド、ポリプロピレン、低密度および高密度ポリエチレン、シンジオタクチックまたはアタクチックまたはイソタクチックポリスチレンなどのポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイドなどのポリサルファイド、ポリスチレン・ポリブタジエン・ポリスチレンブロックコポリマー、ポリスチレン・ポリイソプレン・ポリスチレンブロックコポリマーなどのスチレン系熱可塑性エラストマー、エチレン・プロピレン・ジエチレンコポリマーなどのオレフィン系ゴムとポリプロピレンまたはエチレンなどのポリオレフィンとのブレンドなどのポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー、ポリエーテルエステル、ポリウレタン、ポリカボネート、ポリアリレート、エチレンテトラフロロエチレン、ポリビニリデンフロライドなどのフッ素樹脂、およびシリコン樹脂などの他の熱可塑性樹脂やガラス繊維や炭素繊維などの補強繊維を、必要に応じてブレンドして使用することもできる。
【0036】
なお、本発明の通信ケーブル用テンションメンバ1を構成するポリエステル系樹脂モノフィラメントの非変形断面部3の断面形状は、上記の外接円直径を満たしていれば特に限定はされず、例えば、丸形、楕円形、中空形、三角・四角・六角などの多角形、またはこれらの形状に突起を有する形状のほか、星型、十・Y・H型、2葉・5葉・6葉・8葉等の花びら型、帽子型などの異型断面などを挙げることができる。
【0037】
次に、本発明の通信ケーブル用テンションメンバ1の製造方法について説明する。
【0038】
まず、原料となるポリエステルチップを公知の溶融紡糸機に供給した後、所望の断面形状を有する紡糸口金孔からポリエステル樹脂の溶融物を押し出し、冷却固化、熱延伸および熱セットを施してポリエステルモノフィラメントを製糸する。
【0039】
その後、得られたポリエステルモノフィラメントをガラス転移温度以上、融点未満の温度に加熱し、図3に示す通り、供給ローラー5を使用して上下一対からなる歯車6の隙間に供給し、ポリエステルモノフィラメント4の長さ方向に沿って交互に変形断面部2および非変形断面部3を形成する。
【0040】
そして、変形断面部2および非変形断面部3が形成されたポリエステルモノフィラメント4は、引き取りローラー7を使用して引き取られて巻き取られる。
【0041】
この際、上下歯車6の隙間はポリエステルモノフィラメント4の太さよりも狭く設定する必要があるが、その幅は、本発明の通信ケーブル用テンションメンバ1の変形断面部2の短径bに相当する大きさに設定すると良い。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明の通信ケーブル用テンションメンバをさらに詳しく説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお上記および下記のポリエステルモノフィラメントの各種特性値は以下の方法に従って測定したものである。
【0043】
[変形断面部の長径および短径]
モノフィラメントの変形断面部をミクロトームで厚さ15μmに輪切りにし、その切片の断面を(株)KEYENCE製デジタルマイクロスコープVHX−500Fを使用して観察し、長径a(mm)および短径b(mm)をそれぞれ5回測定し、その平均値を評価値(mm)とした。
【0044】
[非変形断面部の外接円直径]
モノフィラメントの非変形断面部をミクロトームで厚さ15μmに輪切りにし、その切片の断面を(株)KEYENCE製デジタルマイクロスコープVHX−500Fを使用して観察し、外接円直径を5回測定し、その平均値を評価値(mm)とした。
【0045】
[ヤング率]
JIS L1013−1999の8.10に準じ、(株)オリエンテック社製“テンシロン”UTM−4−100型引張試験機を使用して、モノフィラメントの荷重−伸度曲線を得た。その後、得られた荷重−伸度曲線からヤング率(N/mm)を求めた。なお、引張速度は300mm/分で行い、5回の平均値で評価した。
【0046】
[140℃における乾熱収縮率]
JIS L1013−1999の8.18.2に準じ、モノフィラメントを500mmに切断し、140℃のギア・オーブン内で30分間放置した。その後、再びモノフィラメントの長さを測定し、収縮率(%)を算出した。なお、測定は5回行い、その平均値で評価した。
【0047】
[シースとの接着性(引き抜き強度)]
得られたモノフィラメント試料の表面に、ポリエチレン樹脂(ユニチカ製、9739)を厚さ2mmに溶融被覆した後、片側のシースを取り除き、モノフィラメントをシースから引き抜いた。この引き抜きの際に働く強力(N)をテンシロンで測定し、単位長さ(cm)当たりに換算し、その値を接着性の評価値(N/cm)とした。この強力値が大きいほど引き抜き強度に優れていることを示す。
【0048】
[実施例1]
エチレン−2,6−ナフタレート単位を92モル%含有する共重合ポリエステル系樹脂(東洋紡(株)製 PN640、以下、PENと称す)をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給して溶融混練した後、PENの溶融物を丸形状の孔を有するノズルから押し出し、温度70℃で温水冷却した。そして、冷却固化した未延伸糸を温度180℃の乾熱熱風浴中と温度240℃の乾熱熱風浴中で7.5倍の加熱延伸し、260℃で0.95倍に熱処理して巻取ることにより、外接円直径が約0.65mmのポリエステルモノフィラメントを製造した。
【0049】
次いで、このポリエステルモノフィラメントを200℃に加温しながら上下一対からなる歯車の隙間に導き、表1に示すような変形断面部と非変形断面部とをその長さ方向に沿って交互に有する通信ケーブル用テンションメンバを得た。
【0050】
[実施例2]
上下歯車の隙間を変え、変形断面部の長径と短径の比を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で通信ケーブル用テンションメンバを作成した。
【0051】
[実施例3]
外接円直径を約2.0mmに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で通信ケーブル用テンションメンバを作成した。
【0052】
[実施例4]
上下歯車の歯の間隔を変えて、変形断面部および非変形断面部の長さを表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で通信ケーブル用テンションメンバを作成した。
【0053】
[実施例5]
ポリエチレンテレフタレート樹脂(東レ(株)製 T701T、以下、PETと称す)をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給して溶融混練した後、PETの溶融物を丸形状の孔を有するノズルから押し出し、温度70℃で温水冷却した。そして、冷却固化した未延伸糸を温度93℃の温水浴中と温度180℃の乾熱熱風浴中で5.5倍の加熱延伸し、260℃で0.92倍に熱処理して巻取ることにより、外接円直径が約0.65mmのポリエステルモノフィラメントを製造したこと以外は、実施例1と同じ条件で通信ケーブル用テンションメンバを作成した。
【0054】
[比較例1]
製糸した丸断面モノフィラメントに変形断面部および非変形断面部を形成しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で通信ケーブル用テンションメンバを作成した。
【0055】
[比較例2]
上下歯車の隙間を変え、変形断面部の長径と短径の比を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で通信ケーブル用テンションメンバを作成した。
【0056】
[比較例3]
外接円直径を約0.15mmに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で通信ケーブル用テンションメンバを作成した。
【0057】
[比較例4]
外接円直径を約6.0mmに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で通信ケーブル用テンションメンバを作成した。
【0058】
【表1】

【0059】
表1の結果から明らかなように、本発明の条件を満たした通信ケーブル用テンションメンバ(実施例1〜5)は、シースとの接着性に優れ、さらには十分な強力を兼ね備えていることが分かる。
【0060】
これに対して、本発明の条件を満たさない通信ケーブル用テンションメンバ(比較例1〜4)は、本発明の効果を十分に発揮することができず、例えば、変形断面部および非変形断面部を形成しなかった通信ケーブル用テンションメンバ(比較例1)は、シースとの接着性に欠けたケーブルとなりやすく、変形断面部における断面形状の長径aと短径bの比a/bの値が大きい通信ケーブル用テンションメンバ(比較例2)および外接円直径が小さい通信ケーブル用テンションメンバ(比較例3)は、強度に欠けたケーブルとなりやすく、外接円直径が大きい通信ケーブル用テンションメンバ(比較例4)は、可撓性に欠けたケーブルとなりやすい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上、説明したとおり、本発明の通信ケーブル用テンションメンバは、他の部材との接着性が高く引き抜き強度が優れ、十分な強力を兼ね備えると共に、安価に製造できることから、ケーブル部材を代表とする電気資材、特に光ファイバーケーブルの光心線を補強する抗張力体やテンションメンバに使用した場合、その実用性は極めて有効である。
【0062】
また、本発明の通信ケーブル用テンションメンバは、上記の用途のほか、光ファイバーケーブルの隙間を埋める介在線、通信ケーブルの外層被覆を剥離する引き裂き線、さらには電気部品結束材料などにも展開できるものである。
【符号の説明】
【0063】
1 通信ケーブル用テンションメンバ
2 変形断面部
3 非変形断面部
4 ポリエステルモノフィラメント
5 供給ローラー
6 歯車
7 引き取りローラー
a 長径
b 短径
c 外接円半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂モノフィラメントを構成素材とし、通信ケーブルの内部補強部材として使用されるテンションメンバであって、前記ポリエステル系モノフィラメントは、その長手方向に沿って変形断面部と非変形断面部とが交互に連続しており、かつ前記変形断面部の長径aと短径bとの比a/bが1.2〜4.0の範囲にあると共に、前記非変形断面部の外接円直径が0.2〜5.0mmの範囲にある凹凸状外形を呈していることを特徴とする通信ケーブル用テンションメンバ。
【請求項2】
前記ポリエステル系樹脂モノフィラメントの変形断面部および非変形断面部の長さが、それぞれ0.1〜100mmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の通信ケーブル用テンションメンバ。
【請求項3】
前記ポリエステル系樹脂モノフィラメントの、JIS L1013−1999 8.10に準じて測定したヤング率が5000N/mm以上、30000N/mm以下、JIS L1013−1999 8.18.2のB法に準じて測定した140℃における乾熱収縮率が5.0%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の通信ケーブル用テンションメンバ。
【請求項4】
前記ポリエステル系樹脂がエチレン−2,6−ナフタレート単位を80モル%以上含有するポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の通信ケーブル用テンションメンバ。
【請求項5】
ポリエステル系モノフィラメントをそのガラス転移温度以上、融点未満の温度に加熱しながら、このモノフィラメントを長さ方向に間隔をおいて押しつぶすことにより変形断面部を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の通信ケーブル用テンションメンバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−243882(P2010−243882A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93792(P2009−93792)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】