説明

通信サービスのキャンペーン方法およびシステム

【課題】通信サービスに関して効率的なキャンペーンを簡単に実施できるキャンペーン方法およびシステムを提供する。
【解決手段】ステップS1では、キャンペーン対象の集合から複数のキャンペーン対象者x1,x2,x3が選抜される。ステップS2では、各キャンペーン対象者xiの知人数kiがデータベース3から抽出される。ステップS3では、2つの重み係数α,βが、キャンペーンの趣旨や目的に基づいて適宜に設定される。ステップS4では、式(2)の効用関数に各キャンペーン対象者xiの知人数kiが適用されて各キャンペーン対象者xiの重要度U(ki)が算出される。ステップS5では、各キャンペーン対象者xiの重要度U(ki)に基づいて、当該各キャンペーン対象者xiに提供される利益が決定される。ステップS6では、決定された利益が各キャンペーン対象者xiに対して提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信サービスのキャンペーン方法およびシステムに係り、特に、キャンペーン対象者の人的ネットワーク、特に知人数に基づいて、キャンペーン内容を決定する通信サービスのキャンペーン方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
通信サービスを利用するユーザへのサービスの一環、および新規ユーザの獲得や既存ユーザのトラヒック量を増加させる目的で、時間帯や通信相手を限定した割引サービス、あるいは利用料金に応じたポイント付与、景品付与、クーポン付与などのキャンペーンを実施することが知られている。
【0003】
特許文献1には、広告効果測定装置・サーバを用いてインターネット広告の効果を容易かつ高精度で測定する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、顧客の広告閲覧情報と来店情報や購入情報を照合して自動的に優遇ポイントを計算し、これを付与することにより、顧客が事前に情報収集を行ったという広告閲覧行動から、顧客が実際に企業や店舗に来店して商品やサービスを購入したいという消費行動までの流れを円滑に連動させることで、実際に広告に反応して購買顧客となりうる場合にのみ優遇措置を実施可能とするポイントシステムが開示されている。
【0005】
特許文献3には、ユーザ識別子によってユーザを識別し、かつユーザが閲覧中のHP情報も利用し、設定された戦略・ポリシーに基づいて当該ユーザ向けの広告コンテンツを自動的に作成し、開示することで、効率的な広告キャンペーンを実施する方式が開示されている。
【0006】
一方、最近になって様々なトポロジ解明の研究が盛んに行われており、人間の知人関係や情報交換のネットワークから、社会ネットワーク構造の次数分布がべき乗則を満たすことが、非特許文献1,2において報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−49553号公報
【特許文献2】特開2003−288521号公報
【特許文献3】特開2006−99775号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】会田,小頭,中村,高野," 情報ネットワークサービスのデータを利用した社会ネットワークの次数分布の分析と検証, " 信学技報 IN2008-59,Sep.2008
【非特許文献2】R. Albert and A. -L, Barabasi, "Statistical mechanics of complex networks," Rev. Mod. Phys., vol.74, no.47, 2002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
企業のマーケティング戦略等では、知人を多く持つ人を特定し、集中的にキャンペーンを行うことで、サービスを展開する時の口コミでの波及効果や広告コストの削減効果を狙うことが考えられている。しかしながら、実際の大規模な社会ネットワークでは、その構造を把握するために、全てのノードや次数のデータを得ることは、コスト的および時間的な制約から困難である。
【0010】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、通信サービスに関して効率的なキャンペーンを簡単に実施できるキャンペーン方法およびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、通信サービスの既存ユーザを対象にキャンペーンを実施するキャンペーンシステムにおいて、既存ユーザの中から複数のキャンペーン対象者を選抜する手段と、各キャンペーン対象者の知人数を取得する手段と、各キャンペーン対象者の知人数に基づいて、当該キャンペーン対象者にキャンペーンを実施したときの絶対的な価値の指標を出力する第1関数、および当該キャンペーン対象者の相対的な価値の指標を出力する第2関数、の関数である効用関数を記憶する手段と、複数のキャンペーン対象者の知人数を前記効用関数に適用して各キャンペーン対象者の重要度を算出する手段と、各キャンペーン対象者に提供する利益を当該各キャンペーン対象者の重要度に基づいて決定する手段とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、キャンペーンを効率よく行えるように、各キャンペーン対象者に対してポイント付与などの利益を提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が適用されるキャンペーンシステムの構成を示した図である。
【図2】本発明の第1実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図3】本発明の第2実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図4】ノード次数分布p(k)がべき指数γ≒4に従う例を示した図である。
【図5】効用関数の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について詳細に説明する。ここでは、始めに本発明の概要について説明し、次いで、その具体的な実施形態について説明する。
【0015】
社会ネットワーク構造は、人をノード、情報のやりとりを行う関係をリンクとしたネットワークトポロジであり、スケールフリー性を持つと考えられる。スケールフリー性とは、ごく一部のノードは数多くのリンク数を持つが大多数のノードはごく少数のリンクしか持たないという性質を指す。ノードのリンク数を表す次数をkとすれば、スケールフリーネットワークにおけるノードの次数分布p(k)は、べき指数γを用いて次式(1)の比例式で表わされる。
【0016】
【数1】

【0017】
現在、携帯電話のトラヒック量やSNS (Social Networking Service)ユーザ数のデータから、人間の情報交換関係に関する社会ネットワークのグラフ構造では、図4に示したように、上式(1)のノード次数分布p(k)が、べき指数γ≒4に従うことが知られている。
【0018】
知人を多く持つ人は、マーケティングの施策をする上で、口コミなどの波及効果や広告コストの削減などが狙えることから重要である。しかも、知人を多く持つ人は重要であるにもかかわらず集合全体の中で絶対数が少なく、希少性が高いので、その重要度は更に高くなると言える。本発明では、知人数がk人のユーザの重要度を評価する関数として、次式(2)の効用関数U(k)を定義する。
【0019】
【数2】

【0020】
但し、
【0021】
【数3】

【0022】
【数4】

【0023】
ここで、P(k)は上式(1)の累積確率分布 (CDF: Cumulative Distribution Function) を示す。f(k)は、知人数kに応じた情報伝達の効果を代表することから、ユーザの絶対的な価値の指標となり、知人数kに比例した値となる。すなわち、知人数の多いユーザほど重要度を高くするための関数である。
【0024】
g(k)は、知人数kに応じたユーザ人の希少性に基づく付加価値を代表することから、全体の中でのユーザの相対的な価値の指標となる。すなわち、希少性の高いユーザほど重要
度を高くするための関数である。
【0025】
なお、ユーザ効用に影響を与える知人数kの最大値はkmaxとしている。kmaxの値は、過去の商業分析を行い、ある一定以上の知人数になるとマーケティングへの影響度も一定になるような値を設定される。
【0026】
関数f(k),g(k)は、マーケティング施策における情報伝達の効果を絶対的な側面と相対的な側面からそれぞれ表わすことを目的としており、重み係数αおよびβで効用に与える影響度が調整可能である。
【0027】
このような効用関数U(k)を定義することにより、上式(1)で表されるトポロジ内の次数分布が与えられると、キャンペーン対象者の知人数のみから、その重要度を算出することが可能である。
【0028】
図5に前記f(k),g(k),U(k)のグラフを示す。f(k)の特徴として、知人数が増えるほど、それに比例して値が高くなることがあげられる。一方,g(k)も知人数の増加に従い値が高くなっているが、知人数が多い人の割合は少ないけれども重要であるという、次数分布の特徴を希少性で表現していることから、知人数が増えるに従って値が急激に増加する関数になっている。
【0029】
そして、このような効用関数U(k)を採用することにより、知人数が多いユーザの重要度をより高くできる一方、知人数が少ないユーザの重要度を相対的に低くできるので、キャンペーン資源の総量(付与ポイントの総数など)が同じであれば、重要度の低いユーザへのキャンペーン資源の配分率を下げる一方、重要度の高いユーザへの配分率を上げることができるので、効率の良いキャンペーンが可能になる。
【0030】
なお、本実施形態では効用関数U(k) を2つの関数f(k),g(k)の和としているが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、2つの関数f(k),g(k)を含む関数であれば、例えば2つの関数f(k),g(k)の積であっても良いし、さらに両者の和や積を補正係数や重み値で加減乗除する関数であっても良い。
【0031】
図1は、本発明が適用されるキャンペーンシステムのネットワーク構成を示した図であり、キャンペーン対象の社会ネットワークから一部のキャンペーン対象者xi(iはキャンペーン対象者の識別子)を選抜し、その知人数kiを上式(2)の効用関数に適用して当該キャンペーン対象者xiの重要度U(ki)を算出する重要度算出サーバ1と、各キャンペーン対象者xiに対して、その重要度U(ki)に応じた規模でキャンペーンを実施するキャンペーンサーバ2とを含んでいる。前記キャンペーンサーバ2は、例えばキャンペーン内容がポイント付与であれば、キャンペーン資源として用意されたポイントを、各キャンペーン対象者xiに対して、その重要度U(ki)に応じた割合で割り当てる。
【実施例1】
【0032】
次いで、図2のフローチャートを参照して、本発明の第1実施形態の動作を説明する。ここでは、例えば月に50通話しかしない一般ユーザ10人と、月に500通話するヘビーユーザ1人とを比較したとき、総通話量(のべ通話量)は同じであっても、管理コストなどを考慮すればヘビーユーザ1人の方が一般ユーザ50人よりも費用対効果が高いものの、このようなヘビーユーザは希少なので重要であるという観点から、希少なヘビーユーザを一般ユーザよりも優遇するキャンペーンを例にして説明する。
【0033】
ステップS1では、キャンペーン対象の集合から複数のキャンペーン対象者xiが、前記重要度算出サーバ1により選抜される。ここでは、3人のキャンペーン対象者x1,x2,x3が選抜されたものとして説明を続ける。ステップS2では、前記選抜された各キャンペーン対象者xiの知人数kiがデータベース3から抽出される。本実施形態では、知人数kiの多いユーザほど通話量が多い、あるいは知人数kiの多いユーザは現在の通話量にかかわらず今後の通話量増加を期待できるのでヘビーユーザになる可能性が高い、という経験則に基づいて、各ユーザの通話量を知人数kiで代表するようにしている。
【0034】
前記データベース3は、例えばキャンペーン対象の集合に属する全部または一部のユーザxiに対して、予めアンケート調査等を行って知人数kiを含む各種のプロファイルを取得し、これを通信ネットワークにおけるノードの次数分布としてデータベース3に蓄積すると共に、当該アンケート調査に回答を返したユーザの中からキャンペーン対象者を選抜するようにすれば良い。あるいは、キャンペーン対象のユーザを任意に選抜した場合には、当該ユーザが電子メールや電話を利用した際の通信ログを分析し、通信相手の人数を知人数kiとしても良い。
【0035】
ステップS3では、2つの重み係数α,βが、キャンペーンの趣旨や目的に基づいて適宜に設定される。例えば、各キャンペーン対象者xiの知人数kiに応じた重要度を重視したい場合にはα>βとし、各キャンペーン対象者xiの知人数kiの全体に対する希少性を重視したい場合にはα<βとすることが望ましい。
【0036】
ステップS4では、上式(2)の効用関数に前記各キャンペーン対象者xiの知人数kiが適用されて各キャンペーン対象者xiの重要度U(ki)が算出される。ステップS5では、前記各キャンペーン対象者xiの重要度U(ki)に基づいて、前記キャンペーンサーバ2により、当該各キャンペーン対象者xiに提供される利益が決定される。ステップS6では、前記決定された利益が各キャンペーン対象者xiに対して提供される。
【0037】
例えば、キャンペーンの内容がポイント付与であって、キャンペーンのために用意された総ポイント数が100ポイントであり、3人のキャンペーン対象者x1,x2,x3の重要度U(ki)が、それぞれ「0.3」,「0.5」,「0.2」であれば、各キャンペーン対象者x1,x2,x3に対して、30ポイント、50ポイント、20ポイントが付与される。
【実施例2】
【0038】
次いで、図3のフローチャートを参照して、本発明の第2実施形態の動作を説明する。本実施形態では、通信サービスの既存ユーザに対して新規ユーザの紹介を依頼し、新規ユーザを紹介した既存ユーザに対してポイントを付与する、紹介キャンペーンを例にして説明する。
【0039】
ステップS11では、新規ユーザを紹介した既存ユーザxiがキャンペーン対象者として抽出される。ステップS12では、前記抽出された各既存ユーザxiにより紹介された新規ユーザの知人数kiがデータベース3から抽出される。ステップS13では、2つの重み係数α,βが、キャンペーンの趣旨や目的に基づいて、前記と同様に適宜に設定される。
【0040】
ステップS14では、前記重要度算出サーバ1において、上式(2)の効用関数に前記各新規ユーザの知人数kiが適用されて当該新規ユーザの重要度U(ki)が算出される。すなわち、知人数kiの多い新規ユーザは、ヘビーユーザと成り得る希少かつ重要なユーザであり、これを評価することが望ましいので、上式(2)の効用関数に基づいて重要度U(ki)が算出される。
【0041】
ステップS15では、前記各新規ユーザの重要度U(ki)に所定のポイント係数Qが乗じられ、当該新規ユーザを紹介した既存ユーザxiに付与されるポイント数U(ki)・Qが算出される。ステップS16では、前記算出されたポイント数が既存ユーザxiに提供される。
【0042】
例えば、既存ユーザx1,x2により紹介された新規ユーザy1,y2の知人数が、それぞれk1,k2であれば、各新規ユーザの重要度はU(k1),U(k2)となる。したがって、既存ユーザx1にはU(k1)・Qのポイントが付与され、既存ユーザx2にはU(k2)・Qのポイントが付与される。
【0043】
なお、既存ユーザxiにより複数の新規ユーザyijが紹介されている場合には、新規ユーザyijごとにポイントが算出され、その総和が既存ユーザxiに付与される。
【符号の説明】
【0044】
1…重要度算出サーバ,2…キャンペーンサーバ,3…データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信サービスの既存ユーザを対象にキャンペーンを実施するキャンペーンシステムにおいて、
既存ユーザの中から複数のキャンペーン対象者を選抜する手段と、
前記各キャンペーン対象者の知人数を取得する手段と、
各キャンペーン対象者の知人数に基づいて、当該キャンペーン対象者にキャンペーンを実施したときの絶対的な価値の指標を出力する第1関数、および当該キャンペーン対象者の相対的な価値の指標を出力する第2関数、の関数である効用関数を記憶する手段と、
前記複数のキャンペーン対象者の知人数を前記効用関数に適用して各キャンペーン対象者の重要度を算出する手段と、
各キャンペーン対象者に提供する利益を当該各キャンペーン対象者の重要度に基づいて決定する手段とを具備したことを特徴とする通信サービスのキャンペーンシステム。
【請求項2】
前記第2関数は、キャンペーン対象者の希少性が高いほど相対的な価値の指標を高くすることを特徴とする請求項1に記載の通信サービスのキャンペーンシステム。
【請求項3】
前記効用関数が、前記第1関数と第1重み係数との積および前記第2関数と第2重み係数との積の関数であることを特徴とする請求項1または2に記載の通信サービスのキャンペーンシステム。
【請求項4】
ユーザ効用に影響を与える知人数kの最大値をkmaxとしたとき、前記第1関数f(k)が次式で表されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の通信サービスのキャンペーンシステム。
【数3】

【請求項5】
ユーザ効用に影響を与える知人数kの最大値をkmax、知人数kの分布関数p(k)の累積分布関数をP(k)としたとき、前記第2関数g(k)が次式で表されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の通信サービスのキャンペーンシステム。
【数4】

【請求項6】
前記知人数kの分布関数p(k)が次式で表されることを特徴とする請求項5に記載の通信サービスのキャンペーンシステム。
【数5】

【請求項7】
前記キャンペーンが、新規ユーザを紹介した既存ユーザに対して利益を提供する紹介キャンペーンであり、
前記各キャンペーン対象者の知人数を取得する手段は、紹介された新規ユーザの知人数で当該キャンペーン対象者の知人数を代表することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の通信サービスのキャンペーンシステム。
【請求項8】
通信サービスの既存ユーザを対象にキャンペーンを実施するキャンペーン方法において、
既存ユーザの中から複数のキャンペーン対象者を選抜する手順と、
前記各キャンペーン対象者の知人数を取得する手順と、
各キャンペーン対象者の知人数に基づいて、当該キャンペーン対象者にキャンペーンを実施したときの絶対的な価値の指標を出力する第1関数、および当該キャンペーン対象者の相対的な価値の指標を出力する第2関数、の関数である効用関数に、前記各キャンペーン対象者の知人数を適用して各キャンペーン対象者の重要度を算出する手順と、
各キャンペーン対象者に提供する利益を当該各キャンペーン対象者の重要度に基づいて決定する手順とを具備したことを特徴とする通信サービスのキャンペーン方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−204842(P2010−204842A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48271(P2009−48271)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)