説明

通信サービスのキャンペーン装置

【課題】通信サービスごとに、その利用状況やキャンペーンの効果を各通信サービスのトラヒック特性を考慮して推定し、この推定結果をキャンペーンに反映できる通信サービスのキャンペーン装置を提供する。
【解決手段】標準指数選別部202は、キャンペーン実施の判定対象となる通信サービスSxに対応した標準指数αrefxを前記モデル記憶部201から選別する。指数算出部203は、監視部1から通知される加入ユーザ数Nおよびトラヒック量Tが上式(1)を満足する指数αを算出する。比較部204は、指数αの算出結果と標準指数αrefxとを比較する。キャンペーン部205は、比較結果に基づいてキャンペーン実施の是非やキャンペーンの規模、内容を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信サービスのキャンペーン装置に係り、特に、通信サービスの加入ユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びが通信サービスの種別に依存することに着目して通信サービスの利用状況を正確に推定し、この推定結果に基づいてキャンペーン実施の是非やキャンペーン規模等の要項を決定するキャンペーン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通信サービスを利用するユーザへのサービスの一環、および新規ユーザの獲得や既存ユーザのトラヒック量を増加させる目的で、時間帯や通信相手を限定した割引サービス、あるいは利用料金に応じたポイント付与、景品付与、クーポン付与などのキャンペーンを実施することが知られている。
【0003】
特許文献1には、広告効果測定装置・サーバを用いてインターネット広告の効果を容易かつ高精度で測定する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、顧客の広告閲覧情報と来店情報や購入情報を照合して自動的に優遇ポイントを計算し、付与することにより、顧客が事前に情報収集を行ったという広告閲覧行動から、顧客が実際に企業や店舗に来店して商品やサービスを購入したいという消費行動までの流れを円滑に連動させることで、実際に広告に反応して購買顧客となりうる場合にのみ優遇措置を実施可能となる、ポイントシステムが開示されている。
【0005】
特許文献3には、ユーザ識別子によってユーザを識別し、かつユーザが閲覧中のHP情報も利用し、設定された戦略・ポリシーに基づいて当該ユーザ向けの広告コンテンツを自動的に作成し、開示することで効率的な広告キャンペーンを実施する方式が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−49553号公報
【特許文献2】特開2003−288521号公報
【特許文献3】特開2006−99775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
キャンペーン等の実施には多額の費用が生じるため、利用状況が退勢している通信サービスには大規模なキャンペーンを実施して加入ユーザ数を増やしたりユーザ当たりの利用機会を増やしたりする一方、利用状況が既に活況を呈している通信サービスにはキャンペーンの実施を見送ったり、既に実施中のキャンペーンを中止あるいは縮小したりする必要がある。
【0008】
通信サービスの利用状況は当該通信サービスにより生じるトラヒック量で判別できるが、例えば、Webサービスとメールサービスとを比較すると、Webサービスではユーザ間に通信トラヒックが生じないので、加入ユーザ数が増加すると、その増加数に比例してトラヒック量が伸びると予測できるものの、メールサービスでは、ユーザ一人当たりの通信トラヒック量が当該サービスに加入しているユーザ同士の繋がりや人的ネットワークと関係するので、加入ユーザ数が増加すると、その増加数に対してベキ関数的にトラヒック量が伸びると予測できる。したがって、通信サービスの利用状況を加入ユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びだけで推定しようとすると大きな誤差が生じてしまう。
【0009】
このように、通信サービスの利用状況やキャンペーンの効果は、通信サービスごとにそのトラヒック特性を考慮して判定する必要があるにもかかわらず、上記した従来技術ではいずれも、通信サービスの利用状況をデータ量だけで比較できないことが認識されておらず、さらには加入ユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びが通信サービスに固有であることが考慮されていなかった。
【0010】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、通信サービスの利用状況やキャンペーンの効果を各通信サービスのトラヒック特性を考慮して推定できる通信サービスのキャンペーン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するために、本発明は、通信サービスごとにキャンペーン要項を決定するキャンペーン装置において、通信サービスごとにユーザ数およびトラヒック量を計測する監視手段と、通信サービスおよびその利用状況ごとに、ユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びをモデル化した複数のモデルを記憶するモデル記憶手段と、通信サービスに基づいて前記モデルを選別する選別手段と、計測されたユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びと前記選別された各モデルとを比較して通信サービスの利用状況を推定する手段と、この推定結果に基づいてキャンペーン要項を決定するキャンペーン手段とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、通信サービスの利用状況やキャンペーンの効果を、加入ユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びで推定する際に、通信サービスごとにそのトラヒック特性が考慮されるので、通信サービスの種別にかかわらず、その利用状況やキャンペーンの効果を正確に推定してキャンペーンに反映させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が適用される通信ネットワークの主要部の構成を示したブロック図である。
【図2】キャンペーン装置の主要部の構成を示したブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図5】一の通信サービスにおけるユーザ数Nとトラヒック量Tの関係を示した図である。
【図6】一の通信サービスにおけるユーザ数N(対数)とトラヒック量T(対数)の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の最良の実施形態について詳細に説明する。ここでは始めに、本発明の基本的な考え方について説明し、次いで、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
【0015】
発明者等によるトラヒック解析の結果によれば、一の通信サービスが活況であるか否かは、当該通信サービスにおけるユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びで判断できる。図5は、ユーザ数Nとトラヒック量Tとの関係の一例を示した図であり、図6は、ユーザ数Nの横軸およびトラヒック量Tの縦軸をlog10の対数軸とした図である。
【0016】
図5,6に示したように、多くの通信サービスでは、加入ユーザ数Nの増加とトラヒック量Tの伸びとの間には実線Aの関係が成立し、当該通信サービスが活況であれば実線Bのような関係が成立し、退勢であれば実線Cのような関係が成立する。すなわち、トラヒック量Tとユーザ数Nとの間には次式(1)で示した比例関係が成立し、指数αで通信サービスの利用状況を推定できる。
【0017】
T∝Nα … (1)
【0018】
一方、通信サービスの利用状況を代表する前記指数αは通信サービスの種別に依存し、発明者等の分析結果によれば、通信サービスの利用状況が標準的な場合の指数αは、大きく以下の2値を取り得る。
【0019】
(1)一の通信サービスにおけるユーザ一人当たりの通信トラヒック量が、当該通信サービスに加入しているユーザ同士の繋がりや人的ネットワークと無関係な通信サービスでは、通信トラヒック量がユーザ数の「1乗」に比例して増える(つまり、α=1)。このような通信サービスには、ユーザ間に通信トラヒックが生じないWebサービスがある。
【0020】
(2)一の通信サービスにおけるユーザ一人当たりの通信トラヒック量が、当該サービスに加入しているユーザの繋がりや人的ネットワークと関係ある通信サービスでは、通信トラヒック量がユーザ数の「5/3乗」に比例して増える(つまり、α=5/3)。このような通信サービスにはメールサービス、TV電話サービスあるいは音声通話サービスがある。
【0021】
すなわち、通信サービスがWebサービスであれば、トラヒックを監視して得られたユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びが、上式(1)においてα≧1で成立すれば活況と判断でき、α<1で成立すれば退勢と判断できる。同様に、通信サービスがメールサービス、TV電話サービスあるいは音声通話サービスであれば、上式(1)がα≧5/3で成立すれば活況と判断でき、α<5/3で成立すれば退勢と判断できる。
【0022】
そこで、本発明では提供する通信サービス毎にネットワークを監視してユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びを求め、上式(1)を満足する指数αの値に基づいて通信サービスの現況やキャンペーンの効果を推定し、この推定結果に基づいて、通信サービスごとにキャンペーン実施の是非やキャンペーンの規模などの要項を決定するようにしている。
【0023】
次いで、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明が適用される通信ネットワークの主要部の構成を示したブロック図であり、ここでは、本発明の説明に不要な構成は図示が省略されている。
【0024】
ユーザA,B,C…の携帯電話やPDAは携帯電話網あるいはインターネット等のIPネットワークNWを介して相互に接続され、当該IPネットワークNWにはさらに、通信サービスごとにトラヒック量Tおよび加入ユーザ数Nを計測する監視装置1が接続されている。前記監視装置1には、ユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びに基づいて各通信サービスの現況やキャンペーンの効果を推定すると共に、この推定結果に基づいてキャンペーン実施の是非やキャンペーンの規模、内容を決定し、さらには決定されたキャンペーンを実施することもできるキャンペーン装置2が接続されている。
【0025】
図2は、前記キャンペーン装置2の主要部の構成を示したブロック図である。モデル記憶部201には、ユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びに関して、通信サービスの現況を活況と推定できる境界条件を表す数学モデルが通信サービスSごとに記憶されている。本実施形態では、上式(1)を満足する境界条件の指数αが、通信サービスS1,S2,S3…ごとに標準指数αref1,αref2,αref3…として記憶されている。
【0026】
標準指数選別部202は、キャンペーン実施の判定対象となる通信サービスSxに対応した標準指数αrefxを前記モデル記憶部201から選別する。指数算出部203は、前記監視装置1から通知される加入ユーザ数Nおよびトラヒック量Tが上式(1)を満足する指数αを算出する。比較部204は、指数αの算出結果と前記標準指数αrefxとを比較する。キャンペーン部205は、前記比較結果に基づいてキャンペーン実施の是非やキャンペーンの規模、内容を決定する。
【実施例1】
【0027】
図3は、本発明の第1実施形態の動作を示したフローチャートである。ステップS1では、キャンペーン実施の判定対象となる通信サービスSxとして、Webサービス、メールサービスあるいはTV電話サービス等の通信サービスが指定される。ステップS2では、指定された通信サービスSxに固有の標準指数αrefxが、前記標準指数選別部202により前記モデル記憶部201から選別される。
【0028】
本実施形態では、指定された通信サービスがWebサービスであればαref=1が選別され、メールサービスもしくはTV電話サービスであればαref=5/3が選別される。ステップS3では、前記指定された通信サービスSxの加入ユーザ数Nおよび発生トラヒック量Tが前記監視装置1により計測される。この計測は、ステップS4で監視期間が完了したと判定されるまで継続される。
【0029】
監視期間が完了するとステップS5へ進み、上式(1)において前記加入ユーザ数Nおよび発生トラヒック量Tの計測結果を満足する指数αが前記指数算出部203により算出される。ステップS6では、前記指数αと標準指数αrefとが前記比較部204で比較される。α<αrefであれば、当該通信サービスの利用状況が退勢と推定されてステップS7へ進み、前記キャンペーン部205により大規模キャンペーンの実施、あるいは実施中のキャンペーンの強化が推奨される。これに対してα≧αrefであれば、当該通信サービスの利用状況が活況と推定されてステップS8へ進み、前記キャンペーン部205によりキャンペーンの不実施、あるいは実施中のキャンペーンの縮小、中止が推奨される。
【実施例2】
【0030】
次いで、本発明の第2実施形態について説明する。上記の第1実施形態では、上式(1)を満足する指数αがα≧αrefであるか否かに基づいて通信サービスが「活況」および「退勢」のいずれであるかが判定されるものとして説明したが、特に、メールサービス、TV電話サービスあるいは音声通話サービスのように、標準指数αrefが「1」よりも大きい通信サービスに関しては、α<αrefでも必ずしも通信サービスが退勢であるとは限らず、所定の基準値αxに関してαx(≒1)≦α<αrefであれば、活況ではないものの退勢でもない状況にあることが実験的に確認されている。
【0031】
そこで、本発明の第2実施形態では、標準指数αrefが「1」よりも大きい通信サービスに関しては、上式(1)を満足する指数αに基づいて現況を3つの状況に分類し、状況ごとに好適な通信サービスが推奨されるようにしている。
【0032】
図4は、本発明の第2実施形態の動作を示したフローチャートであり、上記図3と同一の符号を付したステップでは前記と同一または同等の処理が実行されるので、その説明は省略する。
【0033】
本実施形態では、ステップS5において、加入ユーザ数Nおよび発生トラヒック量Tの計測結果に基づいて、上式(1)を満足する指数αが前記指数算出部203により算出されると、ステップS6では、前記指数αと標準指数αrefとが前記比較部204で比較される。α≧αrefであれば、当該通信サービスの利用状況が活況と判断されるのでステップS11へ進み、前記キャンペーン部205によりキャンペーンの不実施または実施中のキャンペーンの中止が推奨される。
【0034】
これに対して、α<αrefであれば更にステップS12へ進み、指数αが基準値αx(本実施形態では、αx=1)と比較される。α<αxであれば、ユーザ一人当たりの通信トラヒック量が減少しており、当該通信サービスの利用状況が退勢と判断されるのでステップS14へ進み、前記キャンペーン部205により、大規模キャンペーンの実施、あるいは既にキャンペーンを実施中であれば当該キャンペーンの強化が推奨される。
【0035】
一方、αx≦α<αrefであれば、ユーザ一人当たりの通信トラヒック量は減少していないものの、活況と判断できるαrefよりは小さいので、当該通信サービスの利用状況が活況でも退勢でもないと判断されてステップS13へ進み、前記キャンペーン部205により、小規模キャンペーンの実施、あるいは既にキャンペーンを実施中であれば当該キャンペーンの継続が推奨される。
【符号の説明】
【0036】
1…監視装置,2…キャンペーン装置,201…モデル記憶部,202…標準指数選別部,203…指数算出部,204…比較部,205…キャンペーン部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信サービスごとにキャンペーン要項を決定するキャンペーン装置において、
通信サービスごとにユーザ数およびトラヒック量を計測する監視手段と、
通信サービスごとに、ユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びをモデル化したモデルを記憶するモデル記憶手段と、
通信サービスに基づいて前記モデルを選別する選別手段と、
前記計測されたユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びと前記選別された各モデルとを比較して通信サービスの利用状況を推定する比較手段と、
前記推定結果に基づいてキャンペーン要項を決定するキャンペーン手段とを具備したことを特徴とする通信サービスのキャンペーン装置。
【請求項2】
前記各モデルは、ユーザ数Nおよびトラヒック量Tの比例式T∝Nα で与えられ、指数αが各通信サービスに固有であることを特徴とする請求項1に記載の通信サービスのキャンペーン装置。
【請求項3】
前記比較手段は、計測されたユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びが前記比例式T∝Nα を満足する際の指数αが所定の標準指数αref以上であると、通信サービスの利用状況を活況と推定することを特徴とする請求項2に記載の通信サービスのキャンペーン装置。
【請求項4】
前記比較手段は、計測されたユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びが前記比例式T∝Nα を満足する際の指数αが所定の標準指数αref未満であると、通信サービスの利用状況を退勢と推定することを特徴とする請求項2または3に記載の通信サービスのキャンペーン装置。
【請求項5】
通信サービスにおけるユーザ一人当たりの通信トラヒック量が、当該通信サービスに加入しているユーザ同士の繋がりや人的ネットワークと無関係であるとき、当該通信サービスに固有の標準指数αrefが略「1」であることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の通信サービスのキャンペーン装置。
【請求項6】
前記通信サービスがWebサービスであることを特徴とする請求項5に記載の通信サービスのキャンペーン装置。
【請求項7】
通信サービスにおけるユーザ一人当たりの通信トラヒック量が、当該通信サービスに加入しているユーザ同士の繋がりや人的ネットワークと関係があるとき、当該通信サービスに固有の標準指数αrefが略「1」よりも大きいことを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の通信サービスのキャンペーン装置。
【請求項8】
前記標準指数αrefが略「5/3」であることを特徴とする請求項7に記載の通信サービスのキャンペーン装置。
【請求項9】
前記通信サービスがメールサービスであることを特徴とする請求項7または8に記載の通信サービスのキャンペーン装置。
【請求項10】
前記通信サービスがTV電話サービスであることを特徴とする請求項7または8に記載の通信サービスのキャンペーン装置。
【請求項11】
前記通信サービスが音声通話サービスであることを特徴とする請求項7または8に記載の通信サービスのキャンペーン装置。
【請求項12】
前記比較手段は、計測されたユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びが前記比例式T∝Nα を満足する際の指数αが略「1」未満であると、通信サービスの利用状況を退勢と推定し、指数αが略「1」以上かつ前記標準指数αref未満であると、退勢および活況のいずれでも無いと推定することを特徴とする請求項7ないし11のいずれかに記載の通信サービスのキャンペーン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−191541(P2010−191541A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33113(P2009−33113)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)