説明

通信サービスのキャンペーン評価方法およびシステム

【課題】通信サービスへの口コミ効果を利用した新規加入キャンペーンの効果を正確に評価できるキャンペーン評価方法およびシステムを提供する。
【解決手段】監視部31は、キャンペーン実施後のユーザ数Nおよびトラヒック量Tの推移を計測する。モデル記憶部32には、ユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びをモデル化した関数が記憶されている。キャンペーン評価部33は、計測されたユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びが前記モデルに適合するか否かに基づいてキャンペーンの効果を評価する。キャンペーン見直部34は、この評価結果に基づいて、前記キャンペーンサーバ2に対してキャンペーンの見直しを要求する。本実施形態では、効果的と評価されたキャンペーンは自動延長または強化される一方、効果的ではない評価されたキャンペーンは自動延長、縮小または中止されるように見直しを要求する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信サービスのキャンペーン評価方法およびシステムに係り、特に、通信サービスに関する新規ユーザの紹介キャンペーンの評価に好適なキャンペーン評価方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
通信サービスを利用するユーザへのサービスの一環、および新規ユーザの獲得や既存ユーザのトラヒック量を増加させる目的で、時間帯や通信相手を限定した割引サービス、あるいは利用料金に応じたポイント付与、景品付与、クーポン付与などのキャンペーンを実施することが知られている。
【0003】
特許文献1には、広告効果測定装置・サーバを用いてインターネット広告の効果を容易かつ高精度で測定する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、顧客の広告閲覧情報と来店情報や購入情報を照合して自動的に優遇ポイントを計算し、付与することにより、顧客が事前に情報収集を行ったという広告閲覧行動から、顧客が実際に企業や店舗に来店して商品やサービスを購入したいという消費行動までの流れを円滑に連動させることで、実際に広告に反応して購買顧客となりうる場合にのみ優遇措置を実施可能となる、ポイントシステムが開示されている。
【0005】
特許文献3には、ユーザ識別子によってユーザを識別し、かつユーザが閲覧中のHP情報も利用し、設定された戦略・ポリシーに基づいて当該ユーザ向けの広告コンテンツを自動的に作成し、開示することで効率的な広告キャンペーンを実施する方式が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−49553号公報
【特許文献2】特開2003−288521号公報
【特許文献3】特開2006−99775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通信サービスへの新規ユーザの加入を促進する目的で、既存ユーザに知人を新規ユーザ候補として紹介してもらうような口コミ効果を利用した「紹介キャンペーン」を行った場合、従来技術では、キャンペーン実施後の新規ユーザ数が目標値を上回ればキャンペーンが成功と評価され、目標値を下回れば不成功と評価される。
【0008】
しかしながら、紹介キャンペーンの期間中であっても、キャンペーンに依存した既存ユーザからの勧誘や紹介といった「口コミ」のみならず、キャンペーンとは無関係な他の動機付けを契機に自らの意志で「ランダム」に新規加入するユーザも少なからず存在する。そして、何らかの原因で、このような他の動機付けを契機とする新規加入者が増加していると、たとえキャンペーン実施後の新規ユーザ数が目標値を上回ったとしても、これでキャンペーンを成功と評価するのは誤りである。
【0009】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、通信サービスへの新規加入キャンペーンの効果を正確に評価できるキャンペーン評価方法およびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、通信サービスの新規ユーザを獲得する紹介キャンペーンの効果を評価するキャンペーン評価システムにおいて、キャンペーン実施後のユーザ数およびトラヒック量の推移を計測する監視手段と、ユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びをモデル化した関数を記憶する手段と、計測されたユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びが前記関数に適合するか否かに基づいてキャンペーンの効果を評価する手段とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
ユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びは、通信サービスへの新規ユーザの加入契機が紹介キャンペーンであるか否かに依存する。したがって、ユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びが、新規加入の契機が紹介キャンペーンである場合に固有のモデルを用意しておけば、計測されたユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びが前記モデルに適合するか否かに基づいて、新規ユーザの増加が口コミ効果を利用した新規加入促進キャンペーンの効果であるか否かを推定できる。すなわち、キャンペーンの効果を評価できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が適用される通信ネットワークの構成を示したブロック図である。
【図2】キャンペーン評価装置の構成を示したブロック図である。
【図3】本発明の動作を示したフローチャートである。
【図4】通信サービスのユーザ数Nとトラヒック量Tの関係を線形軸で示した図である。
【図5】通信サービスのユーザ数Nとトラヒック量Tの関係を対数軸で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の最良の実施形態について詳細に説明する。ここでは始めに、本発明の基本的な考え方について説明し、次いで、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
【0014】
発明者等によるトラヒック解析の結果によれば、通信サービスにおける新規ユーザ数Nの増加とトラヒック量Tの伸びとの間には次式(1)の比例関係が成立し、指数αは新規ユーザが加入契機後に利用する通信サービスの種類や利用状況に依存する。
【0015】
T∝Nα … (1)
【0016】
図4は、上式(1)におけるユーザ数Nの増加とトラヒック量Tの伸びとの関係を線形軸で表した図であり、図5は対数軸で表した図である。発明者等によるトラヒック解析の結果によれば、通信サービスにおけるユーザ一人当たりの通信トラヒック量が、当該サービスに加入しているユーザ同士の繋がりや人的ネットワークと関係があれば、通信トラヒック量Tは上式(1)においてユーザ数Nの「5/3乗」に比例して増える。 これに対して、通信サービスにおけるユーザ一人当たりの通信トラヒック量が、当該通信サービスに加入しているユーザ同士の繋がりや人的ネットワークと無関係であれば、通信トラヒック量Tは上式(1)においてユーザ数Nの「2乗」に比例して増える。
【0017】
したがって、口コミ効果を利用した新規ユーザ加入促進キャンペーン実施後の新規ユーザ数の増加と、これに伴うトラヒック量の増加とが上式(1)において指数α=5/3の関係にあれば、新規ユーザは人的ネットワークと関係ある通信サービスを主に利用しており、指数α=2の関係にあれば、新規ユーザは人的ネットワークと無関係な通信サービスを主に利用していると推定される。
【0018】
一方、発明者等によるトラヒック解析の結果によれば、既存ユーザからの口コミで新規加入したユーザ、すなわちキャンペーンを契機に加入した新規ユーザは、紹介元のユーザが対象通信サービスに既に加入・利用していることなどから、人的ネットワークが密であることが多い。そのため、当該新規ユーザが加入後に主に利用する通信サービスのトラヒック量は人的ネットワークと密接に関係することが多い。
【0019】
これに対して、キャンペーンとは無関係な他の動機付けを契機に「ランダム」に加入した新規ユーザは、既存の知人が当該通信サービスに既加入か否かとは関係なく加入しているため、人的ネットワークが疎であることが多い。そのため、当該新規ユーザが加入後に主に利用する通信サービスのトラヒック量は人的ネットワークと無関係である場合が多い。
【0020】
このように、新規ユーザ数の増加とこれに伴う通信サービスの利用状況及び通信トラヒック量の増加とは、当該新規ユーザの加入契機が口コミ効果を利用したキャンペーンであるか否かに依存するので、キャンペーン実施後の通信サービスの利用状況を監視すれば、新規ユーザがキャンペーンを契機に加入したか否かを推定できる。
【0021】
そこで、本発明ではキャンペーンの実施後にユーザ数Nの伸びに対するトラヒック量Tの伸びを求め、これが上式(1)を満足するときの指数αの値に基づいてキャンペーンの効果を評価するようにしている。
【0022】
次いで、本発明の一実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明が適用される通信ネットワークの主要部の構成を示したブロック図であり、ここでは、本発明の説明に不要な構成は図示が省略されている。
【0023】
ユーザA,B,C…の携帯電話やPDAは携帯電話網あるいはインターネット等のIPネットワークNWを介して相互に接続され、当該IPネットワークNWにはさらに、トラヒック量Tおよび加入ユーザ数Nを計測する計測装置1と、既存ユーザを対象に新規ユーザの紹介キャンペーンを実施するキャンペーンサーバ2と、ユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びに基づいて紹介キャンペーンの効果を評価するキャンペーン評価装置3とが接続されている。
【0024】
図2は、前記キャンペーン評価装置2の主要部の構成を示したブロック図である。監視部31は、キャンペーン実施後のユーザ数Nおよびトラヒック量Tの推移を監視する。モデル記憶部32には、ユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びをモデル化した上式(1)の関数が記憶されている。キャンペーン評価部33は、計測されたユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びが前記モデルに適合するか否かに基づいてキャンペーンの効果を評価する。
【0025】
キャンペーン見直部34は、この評価結果に基づいて、前記キャンペーンサーバ2に対してキャンペーンの見直しを要求する。本実施形態では、効果的と評価されたキャンペーンは自動延長または強化される一方、効果的ではない評価されたキャンペーンは自動延長、縮小または中止される。
【0026】
図3は、本発明の一実施形態の動作を示したフローチャートである。ステップS101においてキャンペーンの開始が検知されると、ステップS102では、前記監視部31によりユーザ数Nおよびトラヒック量Tの収集が開始され、収集された情報が時系列で記憶される。ステップS103において、所定の監視期間が終了したと判定されるとステップS104へ進み、ユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びが、上式(1)の指数αを「2」としたモデルと適合するか否かが判定される。
【0027】
適合していると判定されるとステップS108へ進み、今回の紹介キャンペーンが効果的ではなかった旨の評価が下される。ステップS109では、前記キャンペーンサーバ2に対して、キャンペーンを延長、縮小または中止するように見直しを要求する。
【0028】
一方、前記ステップS105において、ユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びが、上式(1)の指数αを「2」としたモデルと適合していないと判定されるとステップS105へ進む。ステップS105では、ユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びが、今度は上式(1)の指数αを「5/3」としたモデルと適合するか否かが判定される。
【0029】
適合していると判定されるとステップS106へ進み、今回の紹介キャンペーンが効果的であった旨の評価が下される。ステップS107では、前記キャンペーンサーバ2に対して、キャンペーンを延長または強化するように見直しを要求する。なお、適合していないと判定されると前記ステップS109へ進み、キャンペーンの見直しが要求される。
【符号の説明】
【0030】
1…計測装置,2…キャンペーンサーバ,3…キャンペーン評価装置,31…監視部,32…モデル記憶部,33…キャンペーン評価部,34…キャンペーン見直部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信サービスの新規ユーザを獲得する紹介キャンペーンの効果を評価するキャンペーン評価システムにおいて、
キャンペーン実施後のユーザ数およびトラヒック量の推移を計測する監視手段と、
ユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びをモデル化した関数を記憶する手段と、
計測されたユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びが前記関数に適合するか否かに基づいてキャンペーンの効果を評価する手段とを具備したことを特徴とするキャンペーン評価システム。
【請求項2】
前記関数が、ユーザ数Nおよびトラヒック量Tの比例式T∝Nα で与えられることを特徴とする請求項1に記載の通信サービスのキャンペーン評価システム。
【請求項3】
ユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びが、前記指数α≒2の関数に適合する紹介キャンペーンを効果的ではないキャンペーンと評価することを特徴とする請求項2に記載のキャンペーン評価システム。
【請求項4】
ユーザ数Nの増加に対するトラヒック量Tの伸びが、前記指数α≒5/3の関数に適合する紹介キャンペーンを効果的なキャンペーンと評価することを特徴とする請求項2に記載のキャンペーン評価システム。
【請求項5】
前記評価結果に基づいてキャンペーンを見直す手段を具備したことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のキャンペーン評価システム。
【請求項6】
前記キャンペーンを見直す手段は、前記効果的と評価されたキャンペーンを自動延長または強化することを特徴とする請求項5に記載のキャンペーン評価システム。
【請求項7】
前記キャンペーンを見直す手段は、前記効果的ではない評価されたキャンペーンを自動延長、縮小または中止することを特徴とする請求項5に記載のキャンペーン評価システム。
【請求項8】
通信サービスの新規ユーザを獲得する紹介キャンペーンの効果を評価するキャンペーン評価方法において、
キャンペーン実施後のユーザ数およびトラヒック量の推移を計測する手順と、
計測されたユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びが、ユーザ数の増加に対するトラヒック量の伸びをモデル化した関数に適合するか否かに基づいてキャンペーンの効果を評価する手順とを具備したことを特徴とするキャンペーン評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−257379(P2010−257379A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109141(P2009−109141)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)