説明

通信システム、制御装置及び基地局装置

【課題】カバレッジに穴を発生させることなく、基地局装置のPCIを変更することが可能な通信システム、制御装置及び基地局装置を提供することにある。
【解決手段】本発明に係る通信システム101は、基地局装置103と、当該基地局装置に隣接する隣接基地局装置105とを含む通信システムにおいて、当該通信システムは、基地局装置103の識別番号が変更される場合、隣接基地局装置105に対して、隣接基地局装置105の通信エリアが基地局装置103の通信エリアを覆うまで隣接基地局装置105の送信電力を識別番号の変更前に上げるよう指示する送信電力制御部107を有し、隣接基地局装置105は、送信電力引き上げの指示によって、自局の送信電力を上げるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システム、制御装置及び基地局装置に関し、特に、通信システムにおける基地局装置の識別番号の変更に関連する通信システム、制御装置及び基地局装置に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の世界標準の無線通信方式として、LTE(Long Term Evolution)システムが3GPP(3rd Generation Partnership Project)で標準化されている。3GPP及びMGMN(Next Generation Mobile Networks)は、LTEシステムにおいて、オペレータの運用コスト削減やネットワークの自動最適化などを目的とするSON(Self Organizing Network)を協議している。SONの機能は、設計(Planning)、展開(Development)、最適化(Optimization)、運用(Maintenance)という4つのカテゴリに分類されるものである。SONの機能が、無線パラメータの最適化やネットワークパラメータの最適化、干渉制御、ネイバーセルリストの追加などのネットワークの効率的な運用・構築・計画に採用されることで、ネットワークの安定性の実現に期待が寄せられている。特に、従来オペレータが手作業で行っていた業務の自動化により、自己設定プロセスや自己最適化プロセスが実現されると、ネットワーク運用コストを最小限にすることが可能となる。自己設定プロセスは、新規に基地局装置eNB(evolved Node B)を設置する際に、システム運用のために必要となる基本的なパラメータを自動的に取得して設定するプロセスとして定義されるものである。この自己設定プロセスは、主に基地局装置が運用状態になる前に動作するプロセスとして考えられている。自己最適化プロセスとは、端末UE(User Equipment)や基地局装置からの統計データを基にネットワークの自動調整を実施するプロセスとして定義されるものである。この自己最適化プロセスは、RF装置の起動後に開始し、基地局装置が運用状態であるときに動作するプロセスとして考えられている。自己最適化プロセスの例としては、隣接基地局リストの最適化があげられる。
【0003】
SONのより具体的な考え方の一つには、基地局装置のセルに、セルの識別番号であるPCI(Physical Cell ID)を自動的に設定することがあげられる。PCIとは、セルに欠くことのできないパラメータであり、端末がセルと同期をとるために必要となる。LTEの仕様であるE−UTRAN(Evolved Universal Terrestrial Radio Access Network)では、固有なPCIの数は504個と限られているため、セルが504個を越えると、異なるセルで同じPCIを割り当てる必要がでてくる。しかし、同じPCIを有するセル同士が近い位置に存在すると、セル間で通信の干渉が生じてしまい、通話やハンドオーバが不可能になるおそれがある。そのため、各セルに割り当てられるセルは、(1)セルのPCIは、基地局装置に隣接する基地局装置のセルのPCIと同一でないこと、(2)セルのPCIは、基地局装置に隣接する基地局装置に更に隣接する基地局装置のセルのPCIと同一でないこと、の2つの条件を満たす必要がある。基地局装置は、隣接基地局装置のセルのPCIの情報を、各基地局装置が有する隣接基地局リスト(ネイバーセルリスト)から得ることができる。
【0004】
現在、新規に基地局装置を設置する際に、基地局装置が自律的に自セルのPCIを選択して自動設定するフレームワークが3GPPで提案されている(例えば、非特許文献1参照)。具体的には、基地局装置は、自セルのPCIを、Centralized PCI assignment algorithm(集中型PCI割り当てアルゴリズム)又はdistributed PCI assignment algorithm(分散型PCI割り当てアルゴリズム)によって選択することになる。Centralized PCI assignment algorithmでは、OAM(Operation Administration and Maintenance)により、固有のPCIが基地局装置へ知らされ、基地局装置はそのPCIを自セルのPCIとして設定する。一方、distributed PCI assignment algorithmでは、OAMにより、使用可能なPCIが羅列されているPCIリストが基地局装置へ知らされる。基地局装置は、そのリストの中から不適切なPCIを取り除き、リスト内の残ったPCIから任意に選択し、自セルのPCIとして設定する。
【0005】
また、上記のCentralized PCI assignment algorithm又はdistributed PCI assignment algorithmのように、新規基地局装置の起動前にPCIを設定する方法ではなく、新規基地局装置の起動後にPCIを設定する方法も提案されている(例えば、非特許文献2参照)。まず、新規基地局装置が、コンフィグレーションフェーズで504個のPCI候補から、任意に選択した値をtemporary PCIとして選択して起動する。その後、新規基地局装置は、ANR(Automatic Neighbor Relation Function)によって、端末から報告される隣接基地局装置の情報を得て、隣接基地局リストを作成する。新規基地局装置は、更に、隣接基地局装置から、隣接基地局装置が有する隣接基地局リストを取得する。そして、新規基地局装置は、作成した隣接基地局リストと取得した隣接基地局リストとから、上述の2つの条件(1)及び(2)を満足するPCIを再選択する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】3GPP TS 36.300 22.3.5 Framework for PCI Selection
【非特許文献2】3GPP R3-080376:SON Use Case: Cell Phy ID Automated Configuration
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1に記載されているCentralized PCI assignment algorithm又はdistributed PCI assignment algorithmでは、PCI自動設定方法のフレームワークが示されているに過ぎず、上記の条件(1)及び(2)を満たすPCIをどのように見つけ出すかについての詳細なアルゴリズムについては示されていない。そのため、条件(1)及び(2)を満たさないPCIが、新規基地局装置に割り当てられることがあり、この場合、PCIの再設定が必要となる。再設定するためには、基地局装置は再起動して、新たなPCIで無線チャネルを報知する必要がある。非特許文献2に記載の方法でも、Temporary PCIから条件(1)及び(2)を満たすPCIに変更する際に、基地局装置の再起動が必要となる。基地局装置が再起動する間は、リンク断が生じ、カバレッジ(通信エリア)に穴(通信不能エリア)が発生してしまうことになる。そのため、再起動中の基地局装置のセル内に存在する端末の通信エリアは限定されることになる。
【0008】
また、非特許文献1及び2の方法は、新規に基地局装置を設置する場合のPCIの設定に関するものであり、既に設定されているPCIを変更することまでは考慮されていない。しかし、上記の条件(1)及び(2)を満たすPCIが存在しない場所に新規基地局装置を設置しなければいけない場合は、既存の基地局装置のPCIの変更が必要となる。既存の基地局装置のPCIの変更が必要となるのは、例えば、端末の総数の増加により、基地局装置の数が不足した場合や、高層ビルの建設により、高層ビルの影が原因となり通信不能エリアが発生してしまった場合などである。このようなカバレッジの補完や拡張などのために、基地局装置は、自セルのPCIを自己最適化プロセスとして変更しなければならない場合がある。更に、マルチベンダ基地局装置の配置等が原因で発生する障害を理由に、既存の基地局装置の変更が必要となる場合もある。これらの場合も、基地局装置の再起動が必要となり、カバレッジに穴が発生することになる。
【0009】
従って、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、カバレッジに穴を発生させることなく、基地局装置のPCIを変更することが可能な通信システム、制御装置及び基地局装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した諸課題を解決すべく、第1の観点による通信システムは、
基地局装置と、当該基地局装置に隣接する隣接基地局装置とを含む通信システムにおいて、
当該通信システムは、前記基地局装置の識別番号が変更される場合、前記隣接基地局装置に対して、当該隣接基地局装置の通信エリアが前記基地局装置の通信エリアを覆うまで前記隣接基地局装置の送信電力を前記識別番号の変更前に上げるよう指示する送信電力制御部を有し、
前記隣接基地局装置は、前記指示によって、自局の送信電力を上げる
ものである。
【0011】
また、前記基地局装置は、自局の前記識別番号が変更されると運転を停止し、
前記送信電力制御部は、前記基地局装置の前記識別番号が変更された場合に、前記基地局装置に対して、運転を再開するよう指示し、かつ、前記隣接基地局装置に対して、前記隣接基地局装置の送信電力を元に戻すよう指示する
ことが望ましい。
【0012】
また、前記基地局装置及び前記隣接基地局装置とは異なる制御装置が前記送信電力制御部を有することが望ましい。
【0013】
また、前記基地局装置及び前記隣接基地局装置の双方、又はいずれか一方が前記送信電力制御部を有することが望ましい。
【0014】
上述した諸課題を解決すべく、第2の観点による通信システムは、
基地局装置と、当該基地局装置に隣接する隣接基地局装置を含む通信システムにおいて
当該通信システムは、前記基地局装置の識別番号が変更される場合、前記隣接基地局装置に対して、当該隣接基地局装置の通信エリアが前記基地局装置の通信エリアを覆うまで前記隣接基地局装置の送信電力を前記識別番号の変更前に上げるよう指示する送信電力制御手段を有し、
前記隣接基地局装置は、前記指示によって、自局の送信電力を上げる
ものである。
【0015】
また、前記基地局装置の前記識別番号が変更される場合には、
前記基地局装置は、自局の前記識別番号が変更されると、運転を停止し、
前記送信電力制御手段は、前記基地局装置の前記識別番号が変更された場合に、前記基地局装置に対して、運転を再開するよう指示し、かつ、前記隣接基地局装置に対して、前記隣接基地局装置の送信電力を元に戻すよう指示する
ことが望ましい。
【0016】
上述した諸課題を解決すべく、第3の観点による制御装置は、
基地局装置と当該基地局装置に隣接する隣接基地局装置とを制御する制御装置において、
前記基地局装置の識別番号が変更される場合、前記隣接基地局装置に対して、当該隣接基地局装置の通信エリアが前記基地局装置の通信エリアを覆うまで前記隣接基地局装置の送信電力を前記識別番号の変更前に上げるよう指示する
ものである。
【0017】
また、前記制御装置は、前記基地局装置の識別番号が変更され、前記基地局装置が運転を停止すると、
前記基地局装置に対して、運転を再開するよう指示し、かつ、前記隣接基地局装置に対して、前記隣接基地局装置の送信電力を元に戻すよう指示する
ことが望ましい。
【0018】
上述した諸課題を解決すべく、第4の観点による基地局装置は、
通信システムにおける基地局装置であって、
自局の識別番号が変更される場合、自局に隣接する隣接基地局装置に対して、当該隣接基地局装置の通信エリアが自局の通信エリアを覆うまで前記隣接基地局装置の送信電力を前記識別番号の変更前に上げるよう指示する送信電力制御部を有する基地局装置。
【発明の効果】
【0019】
上記のように構成された本発明にかかる通信システム、制御装置及び基地局装置によれば、基地局装置の識別番号の変更前に、送信電力制御部又は送信電力手段によって、隣接基地局装置の送信電力が、隣接基地局装置の通信エリアが基地局装置の通信エリアを覆うまで上がるので、カバレッジに穴を発生させることなく識別番号を変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る通信システムの全体像を示す概略構成図である。
【図2】図2は、基地局装置のPCIの変更方法を示すフローチャートである。
【図3】図3は、基地局装置のPCIの変更方法を示す説明図である。
【図4】図4は、PCIの変更が必要となる状況を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る通信システムの全体像を示す概略構成図である。本発明の通信システム101は、基地局装置103と、隣接基地局装置105と、外部制御装置107(請求項における送信電力制御部を有する制御装置)とを有する。
【0023】
基地局装置103及び隣接基地局装置105は、携帯電話端末(図示せず)と通信を行うもので、LTEシステムでは、eNBと称される。基地局装置103が携帯電話端末と通信できるエリア(請求項における通信エリア)を示すセルは、図1では基地局装置103を囲む六角形で表されている。隣接基地局装置105は、基地局装置103の周囲の基地局装置であり、各隣接基地局装置105のセル(各基地局装置105を囲む六角形で表される範囲)は、基地局装置103のセルに隣接している。基地局装置103のセル及び隣接基地局装置105のセルには、それぞれPCI(請求項における識別番号)が割り当てられている。このPCIにより、端末は、基地局装置を特定し、通信を行うことができる。基地局装置103は、隣接基地局装置105のセルにどのPCIが割り当てられているかを示す隣接基地局リストを有している。隣接基地局装置105は、当該隣接基地局装置105に隣接する隣接基地局装置(図示せず)のPCIに関する隣接基地局リストを有している。
【0024】
外部制御装置107は、基地局装置103及び隣接基地局装置105から構成される通信システム101全体を管理及び制御するものであり、例えば、EMS(Element Management System:エレメント管理システム)やNMS(Network Management System:ネットワーク管理システム)である。より詳細には、外部制御装置107は、隣接基地局装置105に対して、端末と通信を行うために送信する電波の送信電力を上げるよう指示したり、基地局装置103に対して、PCIの変更に伴う運転の停止又は開始を指示したりする。外部制御装置107は、隣接基地局装置105の送信電力を上げるタイミングや、基地局装置103が運転を停止又は開始するタイミングを制御することにより、PCIの変更前に、送信電力の引き上げによって、隣接基地局装置105のセルの範囲を拡大させることができる。隣接基地局装置105の拡大されたセルが、基地局装置103のセルに重なっていれば、基地局装置103がPCIの変更のために運転を停止したとしても、カバレッジに穴が発生することがない。
【0025】
図1の基地局装置103及び隣接基地局装置105が起動している状況で、通信システム101が、基地局装置103のPCIを変更する方法について、図2及び図3を参照して説明する。図2は、基地局装置のPCIの変更方法を示すフローチャートであり、図3は、基地局装置のPCIの変更方法を示す説明図である。
【0026】
外部制御装置107は、管理及び制御している基地局装置103及び隣接基地局装置105から、それぞれの隣接基地局リストと、各基地局装置が端末と通信を行うために送信する電波の送信電力の情報を含むPerformance Measurement(統計データ)とを受信する(ステップS101)。ステップS101は、PCIの変更が必要な基地局装置が存在しない間は(ステップS102No)、定期的に繰り返される。
【0027】
PCIの変更が必要な基地局装置が存在すると(ステップS102Yes)、外部制御装置107は、PCI変更処理を開始する。
【0028】
外部制御装置107は、PCIの変更処理が必要な基地局装置及び新たに割り当てるPCIを決定する(ステップS103及び図3(a)−1)。PCIの変更が必要な基地局装置が複数存在する場合は、PCIの変更が必要な基地局装置全てに対してPCIを決定して、更にPCIの変更を行う順番についても決定しておく。外部制御装置107は、運用サービスへの影響が少ないと思われる基地局装置から優先的にPCIを変更させることができ、例えば、送信電力の大きさや、基地局装置と通信を行っている端末の数などの情報を基に順番を決定することができる。新たに割り当てるPCIは、(1)新たに割り当てるPCIは、基地局装置に隣接する基地局装置のセルのPCIと同一でないこと、(2)新たに割り当てるPCIは、基地局装置に隣接する基地局装置に更に隣接する基地局装置のセルのPCIと同一でないこと、という2つの条件を満足する必要がある。PCIの変更が必要な基地局装置が基地局装置103であるとすると、新たに割り当てるPCIは、基地局装置103が有する隣接基地局リスト及び隣接基地局装置105が有する隣接基地局リストの双方に存在しない値であれば、上記の2つの条件を満たすことになる。
【0029】
外部制御装置107は、PCIが変更される基地局装置103に新たなPCIを通知し、予閉塞を指示する(ステップS104)。予閉塞とは、接続中の呼については強制切断せずに、回線切断を待ってから通信機能を停止させることである。
【0030】
続いて、外部制御装置107は、基地局装置103に隣接する隣接基地局装置105に対して、隣接基地局装置105のセルが基地局装置103のセルを覆うことができるまで送信電力を上げるよう指示する(ステップS105及び図3(a)−2〜7)。この間、基地局装置103では、予閉塞への移行が進んでいる(図3(a)から(b)への移行8)。
【0031】
隣接基地局装置105が、上述のように送信電力を上げることにより、基地局装置103が運転を停止しても、通信システム101におけるカバレッジが維持されることになる。なお、隣接基地局装置105は、ビームフォーミングを用いて基地局装置103のセルを覆うこともできる。ビームフォーミングとは、電波の指向性制御により特定の方向に送信電力を集中させる(特定の方向への送信電力を上げる)ことで、各基地局装置間の電波干渉を減らし、より柔軟なカバレッジエリアの構築を可能にする技術である。
【0032】
図3(b)−9に示されるように、外部制御装置107は、隣接基地局装置105の送信電力の引き上げ及び基地局装置103の予閉塞が完了したか否かを判断する(ステップS106)。
【0033】
予閉塞が完了した後(ステップS106のYes)、基地局装置103は、新たなPCIで再起動するための準備を行う(図3(b)から(c)への移行10)。基地局装置103は、PCIを新たなPCIに変更し、再起動の準備完了後、基地局装置103は、外部制御装置107に新たなPCIで再起動が可能な状態であることを通知する(ステップS107及び図3(c)−11)。
【0034】
外部制御装置107は、通知を受け取ると、基地局装置103に、新たなPCIで再起動するよう指示する(ステップS108及び図3(c)−11)。
【0035】
基地局装置103は、新たなPCIで再起動するよう指示を受けると、運転を停止し、再起動する(図3(c)から(d)への移行12)。再起動後、新たなPCIが基地局装置103のセルに割り当てられ、基地局装置103は、PCIの変更処理が完了したことを外部制御装置107に通知する(ステップS109及び図3(d)−13)。外部制御装置107は、基地局装置103に新たなPCIで運転を再開するよう指示し(ステップS110)、基地局装置103は、再び端末と通信することが可能となる。
【0036】
外部制御装置107は、隣接基地局装置105に送信電力を元に戻すよう指示する(ステップS111及び図3(d)−14〜19)。なお、隣接基地局装置105が送信電力を元に戻すタイミングは、外部制御装置107からの指示に限定されるわけではない。例えば、隣接基地局装置105が、タイマーを有し、再起動にかかる時間以上の時間がタイマーに設定されている場合は、隣接基地局装置105はタイマーが終了したタイミングで送信電力を元に戻すこともできる。各基地局装置の再起動にかかる時間を、Performance Measurementに含ませることにより、通信システム101内で、再起動にかかる時間の情報を共有することができる。
【0037】
外部制御装置107は、通信システム101内の基地局装置のなかで、PCIの変更が必要な基地局装置が他に存在しないか判断する(ステップS112)。存在する場合は(ステップS111のNo)、ステップS104〜ステップS110までの処理が繰り返される。PCIの変更が必要な基地局装置が存在しない場合は(ステップS111のYes)、PCIの変更処理が終了する。
【0038】
上記実施形態では、カバレッジに穴を発生させることなく、基地局装置のPCIを変更する方法について説明してきた。続いて、どのような状況でPCIの変更が必要になるかについて図4を用いて説明する。図4は、PCIの変更が必要となる状況を示す説明図である。
【0039】
図4(a)には、基地局装置のセルの配置例が記載されている。図4(a)に示されている36個の四角形がそれぞれ、基地局装置のセルを表している。セルごとに基地局装置が存在する。セル内に示されている数字は、セルに割り当てられたPCIである。LTEシステムのE−UTRANで使用できるPCIの総数は504個であるが、ここでは、説明の便宜上、使用可能なPCIの数は9個であるとする。1〜9までのPCIをそれぞれ有するセルで論理エリアを構成し、図4(a)には、例えば、太線で囲まれた4つの論理エリアが存在することになる。
【0040】
通話品質の安定等を目的として、図4(b)のように、中央に新たな基地局を建設する必要が生じたとする。新規基地局装置に割り当てられるPCIは、上記の(1)及び(2)の2つの条件を満たす必要があるが、新規基地局装置の隣接基地局装置のPCI(1、4、5、6)と隣接基地局装置の更なる隣接基地局装置のPCI(2、3、7、8、9)とに既に1〜9が割り当てられている。そのため、新規基地局装置に(1)及び(2)の2つの条件を満たすPCIを割り当てるためには、既に他のセルに割り当てられているPCIを変更する必要がある。
【0041】
ここで、一例として、図4(b)のA〜Hが付されたセルのPCIを変更することにする。具体的には、セルAとセルEとのPCIが入れ替わるように、セルAのPCIを9から5に変更し、セルEのPCIを5から9に変更する。同様にして、セルBとセルFとのPCIを、セルCとセルGとのPCIを、セルDとセルHとのPCIをそれぞれ入れ替える。A〜Hの各セルのPCIを変更する際には、再起動前に、変更するセルの隣接基地局装置は送信電力を上げておく。これにより、カバレッジに穴を発生させることなくPCIの変更が可能となる。A〜Hの各セルのPCIの変更後、新規基地局装置にPCI「9」を割り当てる。よって、各セルのPCIは図4(c)のようになる。新規基地局装置の設置に伴い、論理エリアは変更され、図4(c)のように4つの論理エリアが新規基地局装置を共有する形となっている。四隅に位置するセル(全てPCIは9)は、図4(c)の4つの論理エリアとは異なる論理エリアに属することになる。以上のように、新規基地局装置にPCIを割り当てる際に、(1)及び(2)の条件を満たすPCIが存在しない場合には、既存の基地局装置のPCIを変更する必要がでてくる。
【0042】
このように本実施形態では、通信システム101は、基地局装置103のPCI(識別番号)が変更される場合、隣接基地局装置105に対して、隣接基地局装置105の通信エリアが基地局装置103の通信エリアを覆うまで隣接基地局装置105の送信電力を前記識別番号の変更前に上げるよう指示する外部制御装置107(送信電力制御部を有する制御装置)を有し、隣接基地局装置105は、当該指示によって自局の送信電力を上げる。PCIを変更するために、基地局装置103が再起動すると、基地局装置103が受け持っていた通信エリアは、通信不可能になる。しかし、隣接基地局装置105がPCIの変更前に送信電力を上げ、隣接基地局装置105の通信エリアを基地局装置103の通信エリアまで拡大しておくことにより、基地局装置103の再起動に伴う通信不能エリアの発生を防ぐことができる。つまり、カバレッジに穴を発生させることなく、PCIの変更を行うことが可能である。
【0043】
また、本実施形態では、基地局装置103は、自局のPCIが変更されると運転を停止し、外部制御装置107は、基地局装置103のPCIが変更された場合に、基地局装置103に対して、運転を再開するよう指示し、かつ、隣接基地局装置105に対して、隣接基地局105の送信電力を元に戻すよう指示する。基地局装置103のPCIが変更され、基地局装置103の運転が再開された後に、隣接基地局105の送信電力が元に戻るので、カバレッジに穴が空くことなく、また隣接基地局105の送信電力を必要以上に消費することが避けられる。
【0044】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各部材、各手段、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段やステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0045】
上述した本発明の実施形態の説明では、基地局装置及び隣接基地局装置を制御する請求項記載の送信電力制御部を、基地局装置及び隣接基地局装置とは別個の外部制御装置の構成要素であるとして説明したが、送信電力制御部を基地局装置及び隣接基地局装置の双方、又はいずれか一方の内部に設けて、本発明を実現することもできる。この場合、PCIの変更が必要な基地局装置は、X2インターフェースを用いた基地局間通信により隣接基地局装置にPCIを変更する旨を通知するための情報を送信する。この情報を受けた隣接基地局装置は、それぞれ送信電力を上げ、送信電力の引き上げが完了すると、その旨を示す情報を基地局装置に送信する。基地局装置は、PCI変更のための再起動を行い、新たなPCIで運転を再開した後、隣接基地局装置に送信電力の引き下げを指示するための情報を送信する。
【0046】
また、上述した本発明の実施形態の説明では、外部制御装置(送信電力制御部)が、通信不能エリアを発生させることなくPCIを変更するための機能を備えているものとして記載したが、かかる機能は、所定の制御チャネル(送信電力制御手段)を用いた情報のやりとりにより実現される。
【符号の説明】
【0047】
101 通信システム
103 基地局装置
105 隣接基地局装置
107 外部制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局装置と、当該基地局装置に隣接する隣接基地局装置とを含む通信システムにおいて、
当該通信システムは、前記基地局装置の識別番号が変更される場合、前記隣接基地局装置に対して、当該隣接基地局装置の通信エリアが前記基地局装置の通信エリアを覆うまで前記隣接基地局装置の送信電力を前記識別番号の変更前に上げるよう指示する送信電力制御部を有し、
前記隣接基地局装置は、前記指示によって、自局の送信電力を上げる
通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の通信システムにおいて、
前記基地局装置は、自局の前記識別番号が変更されると運転を停止し、
前記送信電力制御部は、前記基地局装置の前記識別番号が変更された場合に、前記基地局装置に対して、運転を再開するよう指示し、かつ、前記隣接基地局装置に対して、前記隣接基地局装置の送信電力を元に戻すよう指示する
ことを特徴とする通信システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の通信システムにおいて、前記基地局装置及び前記隣接基地局装置とは異なる制御装置が前記送信電力制御部を有することを特徴する通信システム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の通信システムにおいて、前記基地局装置及び前記隣接基地局装置の双方、又はいずれか一方が前記送信電力制御部を有することを特徴とする通信システム。
【請求項5】
基地局装置と、当該基地局装置に隣接する隣接基地局装置を含む通信システムにおいて
当該通信システムは、前記基地局装置の識別番号が変更される場合、前記隣接基地局装置に対して、当該隣接基地局装置の通信エリアが前記基地局装置の通信エリアを覆うまで前記隣接基地局装置の送信電力を前記識別番号の変更前に上げるよう指示する送信電力制御手段を有し、
前記隣接基地局装置は、前記指示によって、自局の送信電力を上げる
通信システム。
【請求項6】
請求項5に記載の通信システムにおいて、
前記基地局装置は、自局の前記識別番号が変更されると、運転を停止し、
前記送信電力制御手段は、前記基地局装置の前記識別番号が変更された場合に、前記基地局装置に対して、運転を再開するよう指示し、かつ、前記隣接基地局装置に対して、前記隣接基地局装置の送信電力を元に戻すよう指示する
ことを特徴とする通信システム。
【請求項7】
基地局装置と当該基地局装置に隣接する隣接基地局装置とを制御する制御装置において、
前記基地局装置の識別番号が変更される場合、前記隣接基地局装置に対して、当該隣接基地局装置の通信エリアが前記基地局装置の通信エリアを覆うまで前記隣接基地局装置の送信電力を前記識別番号の変更前に上げるよう指示する
制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の制御装置において、前記基地局装置の識別番号が変更され、前記基地局装置が運転を停止すると、
前記基地局装置に対して、運転を再開するよう指示し、かつ、前記隣接基地局装置に対して、前記隣接基地局装置の送信電力を元に戻すよう指示する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項9】
通信システムにおける基地局装置であって、
自局の識別番号が変更される場合、自局に隣接する隣接基地局装置に対して、当該隣接基地局装置の通信エリアが自局の通信エリアを覆うまで前記隣接基地局装置の送信電力を前記識別番号の変更前に上げるよう指示する送信電力制御部を有する基地局装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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