説明

通信システム、通信システムの制御方法、及びアダプティブアレイ無線装置

【課題】高速移動する移動局に対し、移動局がビームから外れる可能性を低減することが可能なアンテナ指向性制御ができる通信システムを提供する。
【解決手段】複数のアンテナを備えるアレイアンテナ10と、移動局の移動速度情報を取得する移動速度情報取得部21と、前記移動速度情報に基づき前記移動局の移動速度が増加した場合、前記アレイアンテナ10において信号を伝送するアンテナ数を減少させる制御部22と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システム、通信システムの制御方法、及びアダプティブアレイ無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアダプティブアレイアンテナシステムを備えた無線装置(以下、「アダプティブアレイ無線装置」という。)を図11に示す。従来のアダプティブアレイ無線装置は、アレイアンテナ(アンテナ118a〜アンテナ118n)にて信号が受信され、それぞれのアンテナからの入力信号が各A/D変換器(A/D変換器119a〜A/D変換器119n)でデジタル信号に変換される。その後、各デジタル信号は、各乗算器(乗算器120a〜乗算器120n)、加算器122aを経由して加算器124において参照信号と比較され誤差信号を生成する。ウェイト制御部123は、該誤差信号を最小にするアルゴリズムに基づきウェイトを決定し、各乗算器(乗算器120a〜乗算器120n)においてウェイト制御部123から出力されたウェイトと各アンテナからの受信信号が乗算される。各アンテナで受信信号はそれぞれ乗算された後に、合成され復調・複合処理をされる(特許文献1)。
【0003】
ここでアダプティブアレイ無線装置と通信をする移動局の移動速度が上がった場合に、合成後の信号の通信品質が断続的に劣化することが発生する。従来技術においては、ウェイト演算における収束度を確認して、収束していない場合には通常動作に復帰するが、収束している場合には、補助ウェイト制御を動作させて、現在適用されているウェイトから所望ビーム方向を選定して、その方向のウェイトを補助ウェイトとして、入力信号とウェイトを第2の各乗算器(乗算器121a〜乗算器121n)において乗算して合成する。その後、通常ウェイトと補助ウェイトの通信品質を比較して、良好な方を選択する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−295736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、SNR(Signal to Noise Ratio)やBER(Bit Error Ratio)等の通信品質が断続的に劣化した状態を移動速度が上がったものとみなしている。ここで、通信品質の断続的な劣化を検知するためには時間を要する。また、通常ウェイトと補助ウェイトの双方を計算した後に通信品質を比較し良好な方を選択するため、演算量が膨大になる。さらに、従来技術では通信品質を基に移動速度が変化したとみなしているため、仮に妨害波の変動によりSNRが劣化した場合には、移動していなくても移動したとみなしてしまう問題がある。
【0006】
加えて、高速に移動するユーザに対しては、ある受信時において最適なアンテナ指向性(ウェイト)であっても、該受信時の経過後のある時点においては、必ずしも最適なアンテナ指向性になっているとはいえず、高速に移動するユーザに対して最適なアンテナ指向性制御を行うことは困難であった。またTDD方式のアダプティブアレイアンテナにおいて、受信時に設定したアンテナ指向性を送信時にも使用する場合、ある受信時において最適なアンテナ指向性であっても、送信時において最適なアンテナ指向性とは限らないため、高速に移動するユーザに対して最適なアンテナ指向性制御を行うことは困難であった。
【0007】
さらに、従来技術では、アダプティブアレイアンテナの妨害波除去性能を向上させるためにアンテナ数を増やしているが、アンテナ数の増加に伴いビームの指向性が鋭くなるため、移動局が高速で移動している場合には、該移動局がビームから外れる可能性が高くなる問題点があった。
【0008】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、高速移動する移動局に対し、演算量を増大させること無く移動局がビームから外れる可能性を低減することが可能なアンテナ指向性制御ができる通信システム、通信システムの制御方法、及びアダプティブアレイ無線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る通信システムは、
移動局と基地局とを備える通信システムであって、
前記基地局は、
複数のアンテナを備えるアレイアンテナと、
前記複数のアンテナに対応して設けられた複数のスイッチと、
前記移動局の移動速度情報を取得する移動速度情報取得部と、
前記移動速度情報に基づく前記移動局の移動速度が増加した場合、前記複数のスイッチを切り替え、前記アレイアンテナにおいて信号を伝送するアンテナ数を減少させる制御部と、
を有することを特徴とする。
【0010】
また本発明に係る通信システムはさらに、
前記基地局が、前記アレイアンテナが受信した受信信号の品質を判定する品質判定部を有し、
前記制御部は、前記移動速度情報及び前記受信信号の品質に基づき、前記移動局の移動速度が増加し、かつ、前記受信信号の品質が所定値以下の場合、前記複数のスイッチを切り替え、前記アレイアンテナにおいて信号を伝送するアンテナ数を減少させることを特徴とする。
【0011】
また本発明に係る通信システムは、前記移動速度情報取得部が、バースト信号の受信レベル変動に基づき推定した前記移動速度情報を取得することを特徴とする。
【0012】
また本発明に係る通信システムは、前記移動速度情報取得部が、バースト信号に組み込まれた所定信号の受信レベル変動に基づき推定した前記移動速度情報を取得することを特徴とする。
【0013】
また本発明に係る通信システムは、前記移動速度情報取得部が、前記移動局が受信したブロードキャスト信号の受信レベル変動に基づき推定した前記移動速度情報を、前記移動局から取得することを特徴とする。
【0014】
上述したように本発明の解決手段を装置として説明してきたが、本発明はこれらに実質的に相当する方法、プログラム、プログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものであり、本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。なお、方法やプログラムの各ステップは、データの処理においては必要に応じて、CPU、DSPなどの演算処理装置を使用するものであり、入力したデータや加工・生成したデータなどをHDD、メモリなどの記憶装置に格納するものである。
【0015】
例えば、本発明を方法として実現した通信システムの制御方法は、
移動局と基地局とを備える通信システムの制御方法であって、
移動局の移動速度情報を取得するステップと、
移動速度情報に基づき前記移動局の移動速度が増加した場合、前記複数のアンテナに対応して設けられた複数のスイッチを切り替え、前記アレイアンテナにおいて信号を受信するアンテナ数を減少させるアンテナ切替ステップと、
を含むことを特徴とする。
【0016】
また本発明に係る通信システムの制御方法はさらに、
前記アレイアンテナが受信した受信信号の品質を判定する品質判定ステップを含み、
前記アンテナ切替ステップは、前記移動速度情報及び前記受信信号の品質に基づき、前記移動局の移動速度が増加し、かつ、前記受信信号の品質が所定値以下の場合、前記アレイアンテナにおいて信号を受信するアンテナ数を減少させることを特徴とする。
【0017】
また本発明に係る通信システムの制御方法は、前記移動速度情報取得ステップが、バースト信号の受信レベル変動に基づき推定した前記移動速度情報を取得することを特徴とする。
【0018】
また本発明に係る通信システムの制御方法は、前記移動速度情報取得ステップが、バースト信号に組み込まれた所定信号の受信レベル変動に基づき推定した前記移動速度情報を取得することを特徴とする。
【0019】
また本発明に係る通信システムの制御方法は、前記移動速度情報取得ステップが、前記移動局が受信したブロードキャスト信号の受信レベル変動に基づき推定した前記移動速度情報を、前記移動局から取得することを特徴とする。
【0020】
また本発明に係るアダプティブアレイ無線装置は、
複数のアンテナを備えるアレイアンテナと、
前記複数のアンテナに対応して設けられた複数のスイッチと、
前記移動局の移動速度情報を取得する移動速度情報取得部と、
前記移動速度情報に基づく前記移動局の移動速度が増加した場合、前記複数のスイッチを切り替え、前記アレイアンテナにおいて信号を伝送するアンテナ数を減少させる制御部と、
を有することを特徴とする。
【0021】
また本発明に係るアダプティブアレイ無線装置は、
前記無線装置がさらに、
前記アレイアンテナが受信した受信信号の品質を判定する品質判定部を有し、
前記制御部は、前記移動速度情報及び前記受信信号の品質に基づき、前記移動局の移動速度が増加し、かつ、前記受信信号の品質が所定値以下の場合、前記複数のスイッチを切り替え、前記アレイアンテナにおいて信号を伝送するアンテナ数を減少させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明における通信システム、通信システムの制御方法、及びアダプティブアレイ無線装置によれば、高速移動する移動局に対し、演算量を増大させること無く移動局がビームから外れる可能性を低減することが可能なアンテナ指向性制御をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施の形態1に係るアダプティブアレイ基地局の構成を表すブロック図である。
【図2】アンテナ数とビームの関係を表す概念図である。
【図3】ブロードキャスト信号を利用した速度推定の概念図である。
【図4】移動局の受信回路の構成を表すブロック図である。
【図5】周波数同期部の構成を表すブロック図である。
【図6】スライディングDFTの出力波形を表す図である。
【図7】実施の形態1に係るアダプティブアレイ基地局の動作を示すフローチャートである。
【図8】アンテナ切替例を表す概念図である。
【図9】実施の形態2に係るアダプティブアレイ基地局の構成図である。
【図10】実施の形態に係るアダプティブアレイ基地局の動作を示すフローチャートである。
【図11】従来技術の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1に係るアダプティブアレイ無線装置の構成を表すブロック図である。なお本実施の形態1においては、アダプティブアレイ無線装置が基地局であるものとして(すなわちアダプティブアレイ基地局)として説明をする。本発明の実施の形態1に係るアダプティブアレイ基地局1は、アレイアンテナ10と、複数の送受信切替スイッチ(送受信切替スイッチ11a〜送受信切替スイッチ11n)と、複数のアナログデジタル変換器(ADC12a〜及びADC12n)と、複数のデジタルアナログ変換器(DAC13a〜及びDAC13n)と、複数の乗算器(乗算器14a〜乗算器14n、乗算器15a〜及び乗算器15n)と、複数のスイッチ(スイッチ16a〜スイッチ16n、スイッチ17a〜スイッチ17n)と、加算器18と、信号分岐装置(HYB)19と、ウェイト制御部20と、移動速度情報取得部21と、制御部22とを備える。
【0026】
アレイアンテナ10は、複数のアンテナ(アンテナ10a〜アンテナ10n)を備える。アンテナ10a〜アンテナ10nはそれぞれ信号を受信または送信する。各アンテナが受信する信号を受信ブランチ信号と呼び、送信する信号を送信ブランチ信号と呼ぶ。
【0027】
送受信切替スイッチ11a〜送受信切替スイッチ11nは、それぞれアンテナ10a〜アンテナ10nに接続され、受信ブランチ信号を受信するか、送信ブランチ信号を送信するかを切り替える。
【0028】
ADC12a〜ADC12nは、それぞれ送受信切替スイッチ11a〜送受信切替スイッチ11nに接続され、受信ブランチ信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。
【0029】
DAC13a〜DAC13nは、それぞれ送受信切替スイッチ11a〜送受信切替スイッチ11nに接続され、信号を送信する場合に、送信ブランチ信号をデジタル信号からアナログ信号に変換する。
【0030】
乗算器14a〜乗算器14nは、それぞれADC12a〜ADC12nに接続され、各アナログデジタル変換器から出力されたデジタル信号と、各ウェイト(W1〜Wn)とを乗算する。同様に乗算器15a〜乗算器15nは、それぞれDAC13a〜DAC13nに接続され、各デジタルアナログ変換器に入力するデジタル信号と、各ウェイト(W1〜Wn)とを乗算する。
【0031】
スイッチ16a〜スイッチ16nは、それぞれ乗算器14a〜乗算器14nに接続され、各乗算器から出力された信号を受信信号として使用するか否かを切り替える。当該切り替えは、後述する制御部22からのアンテナ切替信号に基づき行われる。同様にスイッチ17a〜スイッチ17nは、それぞれ乗算器15a〜乗算器15nに接続され、各乗算器に信号を入力するか否かを切り替える。すなわち、スイッチ16a〜スイッチ16n及びスイッチ17a〜17nを切り替えることにより、夫々のスイッチに対応するアンテナを送受信に用いるか否かを切り替えることができる。
【0032】
加算器18は、スイッチ16a〜スイッチ16nに接続され、各スイッチにおける受信ブランチ信号を加算(合成)し、受信信号を出力する。当該受信信号は、図示しない復調器において復調、復号される。
【0033】
信号分岐装置(HYB)19は、図示しない変調器において変調された送信信号を受取り、送信信号を分岐し、分岐したそれぞれの送信ブランチ信号を、スイッチ17a〜スイッチ17nに出力する。
【0034】
ウェイト制御部20は、受信ブランチ信号と既知の参照信号とに基づき、誤差信号を生成する。また当該誤差信号に基づき、誤差信号が最小になるようにウェイトを算出する。
【0035】
移動速度情報取得部21は、移動局の移動速度に係る情報(以下、移動速度情報という)を取得し、取得した移動速度情報を制御部22に出力する。なお、移動速度情報は、後述するように移動局から取得する。あるいはアダプティブアレイ基地局1が速度を推定するための回路を備えていてもよい。
【0036】
制御部22は、移動速度情報に基づき、スイッチ16a〜スイッチ16n、スイッチ17a〜スイッチ17nのスイッチの切り替えを制御し、使用するアンテナ数を増減する。具体的には制御部22は移動速度情報に基づき、移動速度が過去よりも増加している場合は、使用するアンテナ数を減少するようにアンテナ切替信号を各スイッチに送信する。移動速度が減少している場合には、使用するアンテナ数を増加するようにアンテナ切替信号を各スイッチに送信する。
【0037】
図2は、アダプティブアンテナにおけるアンテナ数とビームの関係を表す概念図である。ビーム31は、アンテナ数が12本の場合に形成されるビームである。ビーム32は、アンテナ数が6本の場合に形成されるビームである。ビーム33は、アンテナ数が3本の場合に形成されるビームである。このように、アダプティブアレイアンテナでのビームフォーミングは、アンテナ数が増加するとビームが鋭くなり、利得(ゲイン)が向上する。しかしビーム幅が狭いため、移動局の移動に合わせてビームを追従させる必要がある。もし、移動局の移動速度が増して急に移動局が移動した場合には、ビームを移動局に追従させることができず、受信レベルが劣化する。一方ビームを追従させるために頻繁にウェイト生成を行った場合には演算量が増大し、電力増加・アダプティブアレイ基地局のハード規模増加をする必要がある。本実施の形態によれば、移動速度が増した場合にアンテナ数を減らして、ビームをブロードにするため、利得は減少するがビームを追従する頻度を少なくすることが可能となり、高速移動時にも、安定した通信路を維持することができる。
【0038】
移動速度情報は、例えば、アダプティブアレイ無線装置1と通信している夫々の移動局が、同期用のブロードキャスト信号を利用し、移動局側で速度推定を行い推定される。
【0039】
図3は、ブロードキャスト信号を利用した速度推定の概念図である。一般的に、基地局から定期的に送信している同期用のブロードキャスト信号34は、単一信号(トーン信号)35を使用している。同期用のブロードキャスト信号34は、スーパーフレーム36毎に定期的に送信している。移動局は同期用のブロードキャスト信号34を用いて、周波数同期、時間同期を取る。
【0040】
ここで移動局は、同期用のブロードキャスト信号34を受信してレベル変動を検出し、移動速度情報を推定することができる。具体的には移動局は、当該ブロードキャスト信号34のレベル変動として受信レベル波形40を取得する。
【0041】
移動局は、受信レベル波形40の移動平均を算出し、平均受信レベル波形41を算出する。平均受信レベル波形41に基づき、平均受信レベルが高い場合には移動速度は低く、平均受信レベルが低い場合には移動速度は高いと推定する。すなわち平均受信レベル波形41の逆数が移動速度情報となる。
【0042】
このように移動速度情報を推定することにより、通話やデータ通信を開始する前にアダプティブアレイ基地局1が通信状況を把握できるため、予め通信に用いるスロット中に、トレーニングシンボルを多く入れて、通信相手の受信側で、より制度が高い速度検出ができるように、信号を送信することが可能である。
【0043】
したがって移動局が、同期用のブロードキャスト信号34をレベル変動検出に使用することにより、特に通話やデータ通信を行なっていない場合においても、移動局の移動速度情報を推定することができる。
【0044】
なお、移動速度情報の推定方法は上記方法に限られない。他にも、移動局が受信するバースト信号を受信している区間(以下、バースト区間という。)の受信レベル変動を検出することにより移動速度情報とすることができる。また、移動局が受信するバースト信号に組み込まれた既知の信号の変動を検知して移動速度情報とすることもできる。移動局が受信するバースト信号の受信レベル変動により移動速度情報を推定する例を図4〜図6に示す。
【0045】
移動局は、アダプティブアレイ基地局1との間で、初期設定のための同期フェーズと、データ通信を行う通信フェーズとを有する通信シーケンスにより通信を行う。すなわち、移動局は、同期フェーズにおいて、通信を開始する前に、アダプティブアレイ基地局1からの信号を受信して、基地局と周波数および時間の同期をとり、基地局が要求する周波数および時間でバースト通信路を確定し、その後、通信フェーズに移行して、データの通信を開始する。
【0046】
ここで、同期フェーズにおいては、一般に、アダプティブアレイ基地局1からブロードバンドチャネル(同報信号)を、前もって決められている周波数のトーン信号(F burst)で送信する。移動局では、受信したトーン信号の周波数を検知して、移動局自身が保有するローカル周波数の周波数を調整することにより、基地局側と周波数およびフレームタイミングを同期させる。この周波数同期を行うための回路を利用して、移動局自身の移動速度を推定することができる。
【0047】
図4は、移動局の受信回路の構成を表すブロック図である。受信回路は、アナログデジタル変換器(ADC)51と、Iチャネル用の局部発振器(NCO:Numerically Controlled Oscillator)52iと、Qチャネル用のNCO52qと、Iチャネル用の乗算器53iと、Qチャネル用の乗算器53qと、Iチャネル用のCIC(Cascade Integration−Comb)フィルタ54iと、Qチャネル用のCICフィルタ54qと、Iチャネル用のSRRC(Squire Root Raised Cosin)フィルタ55iと、Qチャネル用のCICフィルタ55qと、周波数同期回路56と、時間同期回路57とを備える。
【0048】
ADC51でデジタル信号に変換された入力信号は、IチャネルとQチャネルの2系統の信号に分けられ各々NCO52a及びNCO52bからの局部発信信号と乗算器53a及び乗算器53bにおいて乗算される。その後、各系統における入力信号は、CICフィルタ54a及びCICフィルタ54bを通過してデシメーションされ、SRRCフィルタ55a及びSRRCフィルタ55bにて帯域制限される。
【0049】
それぞれ出力された信号は、同期フェーズにおいては、周波数同期回路56に入力され、周波数と時間に関して同期するための周波数情報を出力する。さらに周波数同期回路56は、速度推定情報を出力する。
【0050】
また通信フェーズにおいては、時間同期回路57から受信データを得る。
【0051】
図5は、受信回路における周波数同期回路56の構成を表すブロック図である。周波数同期回路56は、CICフィルタ551と、スライディングウィンドウRSSI(SWRSSI)552と、スライディングウィンドウDFT(SWDFT)553と、周波数検出回路554を有する一般的な構成の他に、速度推定回路555を有する。
【0052】
図5において、図4に示したSRRCフィルタ55i,SRRCフィルタ55qからの信号は、CICフィルタ551でデシメーションして有効帯域を低下した後、SWRSSI552およびSWDFT553に供給する。SWRSSI552は、スライディングウィンドウで取り込まれた入力信号のRSSIレベルを、F burstのスロット長で移動平均することにより、F burstの受信タイミング(受信区間)を検出し、その検出したF burstの受信タイミングを、周波数検出回路554および速度推定回路555に供給する。また、SWDFT553は、入力信号に対してスライディングウィンドウDFT(Discrete Fourier Transform:離散フーリエ変換)処理を実施して、入力信号の周波数成分を検出して、周波数検出回路554および速度推定回路555に供給する。
【0053】
周波数検出回路554は、SWRSSI552で検出されたF burstの受信タイミングにおいて、SWDFT553で検出された入力信号の周波数成分に基づいて、F burstの周波数を検出して周波数情報を出力する。また、速度推定回路555は、SWRSSI552で検出されたF burstの受信タイミングにおいて、SWDFT553で検出された入力信号の周波数成分に基づいて、当該移動局の移動速度を推定して速度推定情報を出力する。
【0054】
ここで、同期フェーズにおいて、SWDFT553で検出されるF burst信号の周波数成分は、当該移動局の移動速度が遅い場合には、フェージング周波数が低いので、図6(a)に示すように、周波数変動は小さい。しかし、移動局が高速移動した場合には、フェージング周波数が高くなるため、図6(b)に示すように、周波数変動は大きくなる。なお、図6(a)は、フェージング周波数(Fm)が100Hzの場合のSWDFT553の出力信号波形を示しており、図6(b)は、Fmが1kHzの場合のSWDFT553の出力信号波形を示している。
【0055】
したがって、速度推定回路555において、F burst受信区間におけるSWDFT553の出力信号の周波数変動を観測することにより、フェージング周波数が高い場合には、移動速度が大きいと推定し、フェージング周波数が低い場合には、移動速度が小さいと推定することが可能となる。なお、SWDFT553は、入力信号がない場合には雑音の周波数成分を検出するため、速度推定回路555は、上述したように、SWRSSI552からのF burstの受信タイミング(受信区間)におけるSWDFT553の出力に基づいて移動速度を推定する。
【0056】
次に、本発明の実施の形態1に係るアダプティブアレイ基地局の動作について、図8に示すフローチャートによりその動作を説明する。
【0057】
はじめにアレイアンテナ10が信号を受信する(ステップS11)。次に加算器18でアレイアンテナ10の各アンテナ(アンテナ10a〜アンテナ10n)の出力信号と、既知の参照信号とに基づいて、誤差信号が生成される(ステップS12)。
【0058】
当該誤差信号をウェイト制御部20が受取ると、ウェイト制御部20は、誤差信号を最小にするアルゴリズムに基づいて所定のウェイトを算出する(ステップS13)。
【0059】
ウェイト制御部20は算出した所定のウェイトを、各乗算器(乗算器14a〜乗算器14n)に送り、各乗算器で合成されるウェイトの値が更新される(ステップS14)。
【0060】
続いて、移動速度情報取得部21が、移動速度情報を取得する(ステップS15)。移動速度情報は上述の通り各種推定方法があり、移動速度情報取得部21は、いずれかの方法により推定した移動速度情報を取得する。なお、移動速度の推定は、アダプティブアレイ基地局1において行われてもよく、または各移動局において行われてもよい。各移動局で行われる場合には、移動速度情報取得部21は、移動局と通信し、移動速度情報を受信する。
【0061】
次に、制御部22は、移動速度情報取得部21が取得した移動速度情報を受取り、移動速度が過去の移動速度情報と比較して変化したかどうかを判定する(ステップS16)。移動速度が過去の移動速度と比較して変化していなければ、受信した信号の復調処理を行う(ステップS17)。すなわちこの場合には、移動速度の変化に伴う指向性制御が必要ないことから、利用するアンテナ数を増減することなく、通常通り復調処理を行う。
【0062】
一方、移動速度が過去の移動速度と比較して変化している場合にはステップS18に進む。ここでは、制御部22は、移動速度が増加したか否かを判定する(ステップS18)。
【0063】
判定の結果、移動速度が増加していない場合、すなわち減少している場合、アンテナ数を増加させる(ステップS19)。具体的には、制御部22は、アンテナ切替信号を各スイッチ(スイッチ16a〜スイッチ16n、スイッチ17a〜スイッチ17n)に送信する。当該アンテナ切替信号を受信すると、各スイッチは、オンまたはオフを切替え、使用するアンテナ数を増加させる。その後ステップS17に進み、アレイアンテナにて受信した信号を復調する。
【0064】
判定の結果、移動速度が増加している場合、アンテナ数を増加させる(ステップS20)。具体的には、制御部22は、アンテナ切替信号を各スイッチ(スイッチ16a〜スイッチ16n、スイッチ17a〜スイッチ17n)に送信する。当該アンテナ切替信号を受信すると、各スイッチは、オンまたはオフを切替え、使用するアンテナ数を減少させる。その後ステップS17に進み、アレイアンテナにて受信した信号を復調する。
【0065】
このように実施の形態1に係るアダプティブアレイ基地局によれば、制御部22が移動速度の増減に応じて使用するアンテナ数を増減させるため、移動局が高速移動している場合であっても演算量を増大させること無くアンテナビームをブロードにすることができ、高速移動する移動局に対し、最適なアンテナ指向性制御を行うことができる。
【0066】
なお、本実施例ではアダプティブアレイアンテナが基地局に備えられている例を示したがこれに限られず、アダプティブアレイアンテナが移動局に設けられていてもよい。また基地局と移動局の両方がアダプティブアレイアンテナを備えていてもよい。
【0067】
なお、上述のフローチャートでは、ステップS18において移動速度が増加したか否かを判定したが、移動速度が所定の閾値以上か否かを判定するように構成してもよい。例えば所定の閾値を低速用と高速用の2つ設け、移動速度が低速用の閾値未満の場合には使用するアンテナ数を全アンテナ数(全てのアンテナを使用する)とし、また移動速度が低速用の閾値以上でかつ高速用の閾値未満の場合には、使用するアンテナ数を、全アンテナ数の半分とする。さらに高速用の閾値以上の場合には、使用するアンテナ数を、全アンテナ数の1/4とする。
【0068】
具体的なアンテナ切替例を図8に示す。制御部22では、受信した移動速度情報(速度クラス)に応じて、低速移動と判断した場合には、全てのアンテナを使用するように、スイッチを全てオンに設定する。中速移動と判断した場合には、使用するアンテナ数を仮に1/2の6本とし、アンテナをON/OFFの設定を交互に配置する。その時のウェイト生成部は、SWがONしているブランチに対して、ウェイトを決定する。それぞれのSWがONしているブランチはそのウェイトを使用して受信信号と乗算する。高速移動と判断したときは、ONしているブランチ数を更に1/2に設定して3本とし、等間隔になるように設定し、ウェイト生成部では、SWがONに設定されている3本のブランチに対してウェイトを生成する。
【0069】
なお、図8では速度クラスを3つ設ける例を説明したがこれに限られない。速度クラスは4つ以上設けることでき、また2つの速度クラスとしてもよい。
【0070】
(実施の形態2)
以下に、本発明の実施の形態2について説明をする。図9は本発明の実施の形態2のアダプティブアレイ無線装置の構成を示すブロック図である。なお本実施の形態2においては、アダプティブアレイ無線装置が基地局であるものとして(すなわちアダプティブアレイ基地局)として説明をする。実施の形態1と同一の構成については同一の符号を付し、説明は省略する。実施の形態2に係るアダプティブアレイ基地局2は、概略として、実施の形態1にかかる構成と比較して、品質判定部23を有する点が相違する。
【0071】
品質判定部23は、加算器18が出力した受信信号の品質を判定する。具体的には品質判定部23は、受信信号のSNRを算出し、受信信号の品質を判定し、当該受信品質を制御部21に出力する。
【0072】
制御部21は、移動速度情報及び受信品質に基づき、スイッチ16a〜スイッチ16n、スイッチ17a〜スイッチ17nのスイッチの切替を制御し、使用するアンテナ数を増減する。具体的には制御部22は移動速度情報に基づき、移動速度が過去よりも減少している場合は、使用するアンテナ数を増加するようにアンテナ切替信号を各スイッチに送信する。一方移動速度が増加し、かつ受信信号のSNRが所定値未満の場合には、使用するアンテナ数を増加するようにアンテナ切替信号を各スイッチに送信する。
【0073】
次に、本発明の実施の形態2に係るアダプティブアレイ基地局の動作について、図10に示すフローチャートによりその動作を説明する。実施の形態1と同一の動作については同一の符号を付し、説明は省略する。実施の形態2に係るアダプティブアレイ基地局は、概略として、実施の形態1にかかる動作と比較して、受信品質を判定するステップ(ステップS21)が挿入される点が相違する。
【0074】
ステップS18において移動速度が増加していると判定されると、続いて受信品質判定部は、受信信号のSNRが所定値以上か否かを判定する(ステップS21)。所定値以上の場合にはステップS17に進み受信信号を復調する。
【0075】
一方SNRが所定値未満の場合には、ステップS20に進み、制御部21は、使用するアンテナ数を減少させる。
【0076】
このように実施の形態2に係るアダプティブアレイ基地局によれば、受信品質が所定値以上であるか否かを判定して使用するアンテナ数を増減させるため、高速移動する移動局に対し、演算量を増大させること無く移動局がビームから外れる可能性を低減することが可能なアンテナ指向性を制御することができる。
【0077】
なお、本実施例ではアダプティブアレイアンテナが基地局に備えられている例を示したがこれに限られず、アダプティブアレイアンテナが移動局に設けられていてもよい。また基地局と移動局の両方がアダプティブアレイアンテナを備えていてもよい。
【0078】
なお、品質判定部23は、受信品質として受信信号のSNRを用いたがこれに限られない。他にもBERにより受信信号の品質を判定してもよい。
【0079】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各部材、各手段、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段やステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 アダプティブアレイ基地局
2 アダプティブアレイ基地局
10 アレイアンテナ
10a、10b、10n アンテナ
11a、11b、11n 送受信切替スイッチ
12a、12b、12n アナログデジタル変換器
13a、13b、13n デジタルアナログ変換器
14a、14b、14n、15a、15b、15n 乗算器
16a、16b、16n、17a、17b、17n スイッチ
18 加算器
19 HYB
20 ウェイト制御部
21 移動速度情報取得部
22 制御部
23 品質判定部
31、32、33 ビーム
34 同期用ブロードキャストスロット
35 同期用トーン信号
36 スーパーフレーム
40 受信レベル波形
41 平均受信レベル波形
51 アナログデジタル変換器
52i、52q NCO
53i、53q 乗算器
54i、54q CICフィルタ
55i、55q SRRCフィルタ
56 周波数同期回路
57 時間同期回路
551 CICフィルタ
552 SWRSSI
553 SWDFT
554 周波数検出回路
555 速度推定回路
118a、118b、118n アンテナ
119a、119b、119n アナログデジタル変換器
120a、120b、120n、121a、121b、121n 乗算器
122a、122b 加算器
123 ウェイト制御部
124 加算器
125 受信品質判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動局と基地局とを備える通信システムであって、
前記基地局は、
複数のアンテナを備えるアレイアンテナと、
前記複数のアンテナに対応して設けられた複数のスイッチと、
前記移動局の移動速度情報を取得する移動速度情報取得部と、
前記移動速度情報に基づく前記移動局の移動速度が増加した場合、前記複数のスイッチを切り替え、前記アレイアンテナにおいて信号を伝送するアンテナ数を減少させる制御部と、
を有することを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記通信システムはさらに、
前記基地局が、前記アレイアンテナが受信した受信信号の品質を判定する品質判定部を有し、
前記制御部は、前記移動速度情報及び前記受信信号の品質に基づき、前記移動局の移動速度が増加し、かつ、前記受信信号の品質が所定値以下の場合、前記複数のスイッチを切り替え、前記アレイアンテナにおいて信号を伝送するアンテナ数を減少させることを特徴とする請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記移動速度情報取得部は、バースト信号の受信レベル変動に基づき推定した前記移動速度情報を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記移動速度情報取得部は、バースト信号に組み込まれた所定信号の受信レベル変動に基づき推定した前記移動速度情報を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の通信システム。
【請求項5】
前記移動速度情報取得部は、前記移動局が受信したブロードキャスト信号の受信レベル変動に基づき推定した前記移動速度情報を、前記移動局から取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の通信システム。
【請求項6】
移動局と基地局とを備える通信システムの制御方法であって、
移動局の移動速度情報を取得するステップと、
移動速度情報に基づき前記移動局の移動速度が増加した場合、前記複数のアンテナに対応して設けられた複数のスイッチを切り替え、前記アレイアンテナにおいて信号を受信するアンテナ数を減少させるアンテナ切替ステップと、
を含むことを特徴とする通信システムの制御方法。
【請求項7】
前記通信システムの制御方法はさらに、
前記アレイアンテナが受信した受信信号の品質を判定する品質判定ステップを含み、
前記アンテナ切替ステップは、前記移動速度情報及び前記受信信号の品質に基づき、前記移動局の移動速度が増加し、かつ、前記受信信号の品質が所定値以下の場合、前記アレイアンテナにおいて信号を受信するアンテナ数を減少させることを特徴とする請求項6に記載の通信システムの制御方法。
【請求項8】
前記移動速度情報取得ステップは、バースト信号の受信レベル変動に基づき推定した前記移動速度情報を取得することを特徴とする請求項6又は7に記載の通信システムの制御方法。
【請求項9】
前記移動速度情報取得ステップは、バースト信号に組み込まれた所定信号の受信レベル変動に基づき推定した前記移動速度情報を取得することを特徴とする請求項6又は7に記載の通信システムの制御方法。
【請求項10】
前記移動速度情報取得ステップは、前記移動局が受信したブロードキャスト信号の受信レベル変動に基づき推定した前記移動速度情報を、前記移動局から取得することを特徴とする請求項6又は7に記載の通信システムの制御方法。
【請求項11】
複数のアンテナを備えるアレイアンテナと、
前記複数のアンテナに対応して設けられた複数のスイッチと、
前記移動局の移動速度情報を取得する移動速度情報取得部と、
前記移動速度情報に基づく前記移動局の移動速度が増加した場合、前記複数のスイッチを切り替え、前記アレイアンテナにおいて信号を伝送するアンテナ数を減少させる制御部と、
を有することを特徴とするアダプティブアレイ無線装置。
【請求項12】
前記無線装置はさらに、
前記アレイアンテナが受信した受信信号の品質を判定する品質判定部を有し、
前記制御部は、前記移動速度情報及び前記受信信号の品質に基づき、前記移動局の移動速度が増加し、かつ、前記受信信号の品質が所定値以下の場合、前記複数のスイッチを切り替え、前記アレイアンテナにおいて信号を伝送するアンテナ数を減少させることを特徴とする請求項11に記載のアダプティブアレイ無線装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−106270(P2013−106270A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249976(P2011−249976)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】