説明

通信システム

【課題】 妨害信号が印加された信号対雑音比が低い送信信号を用いることにより、従来よりも秘匿性に優れた通信を行うことができる通信システムを提供する。
【解決手段】 本発明の通信システム1は、送信データS1をデジタル変調してなる送信信号S2を送信する送信機2と、送信された送信信号S2を受信し、その受信信号S3をデジタル復調して受信データS4を取り出す受信機3とを備えている。送信機2は、共通鍵に基づいて妨害信号S5を生成してこの妨害信号S5をデジタル変調後の送信信号S2に印加する妨害波生成部10を有する。また、受信機3は、共通鍵に基づいて妨害信号S5のレプリカ信号S6を生成してこのレプリカ信号S6をデジタル復調前の受信信号S3から取り除くレプリカ生成部16を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号対雑音比が低い送信信号を用いて秘匿性に優れた通信を行う通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、デジタル通信の技術分野では、有線及び無線を問わず、高速通信、低消費電力、高い通信品質(ビット誤り率)等の要求が望まれているが、特に近年は、これらに加えて通信の安全性の確保が望まれている。
これは、高速通信が実用化された場合、一瞬でも盗聴が成功すると、一気に大量のデータを覗けてしまうことに起因している。暗号化技術は、かかる要求を満足させるための技術の一つとして、無線及び有線通信等において幅広く利用されている。
【0003】
かかる暗号化技術を利用した無線通信システムとして、それぞれの無線局に、他の無線局に対して測定用信号を送信する送信手段と、他の無線局から送信されかつ無線局間で変化した測定用信号を受信する受信手段と、受信された測定用信号に基づいて秘密鍵を作成する鍵作成手段と、作成された秘密鍵を用いて信号を暗号化しかつこれを復号して通信を行う通信手段とを備えたものが知られている(特許文献1)。
【0004】
この従来の無線通信システムでは、無線局間の伝搬路特性によって変化する測定用信号を暗号鍵とする暗号化方式を採用しているので、簡易な方法で秘密鍵を生成することができる。
【特許文献1】特開2006−222817号公報(請求項1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の無線通信システムの暗号化方式は、電波の伝搬路特性が対応する無線局間の場所に依存することを利用したものであり、場所が変われば異なった信号の伝搬路特性となるため、異なる場所に居る盗聴者が無線局間の伝送路情報を容易に捕らえることはできない。
【0006】
しかしながら、かかる従来の暗号化方式では、無線局間の伝搬路特性によって変化する測定用信号を利用して暗号鍵を生成するので、盗聴者の無線局(例えば携帯端末)が正式な無線局の近傍に位置する場合には、盗聴者の無線局も正式な無線局とほぼ同じ伝送路特性となり、正式な無線局と同じ暗号鍵を取得できる可能性がある。このため、暗号鍵の配布後において通信中の信号を盗聴しうる点で、必ずしも常に高い秘匿性が確保できているとは言い難い。
【0007】
理想的には、例えば無線通信において1対1の通信を実現し、他の場所では何も受信できないようにすることが望ましいが、これにはアンテナサイズの大型化が必要であり、また仮に実現できたとしても、正規の受信者を追尾する仕組みが必要となり、非常に大型なシステムとなってしまう。
そして、この方式においては、送信者の信号強度は、通信路上で減衰を生じても正規の受信者へ信号が伝送されるように十分に大きく設定されるため,送信者の直下で盗聴されると、通信信号の漏洩を防ぐことは困難となる。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、妨害信号が印加された信号対雑音比が低い送信信号を用いることにより、従来よりも秘匿性に優れた通信を行うことができる通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の通信システム(請求項1)は、送信データをデジタル変調してなる送信信号を送信する送信機と、送信された前記送信信号を受信し、その受信信号をデジタル復調して受信データを取り出す受信機とを備えた通信システムであって、前記送信機は、共通鍵に基づいて妨害信号を生成してこの妨害信号をデジタル変調後の送信信号に印加する妨害波生成部を有し、前記受信機は、共通鍵に基づいて前記妨害信号のレプリカ信号を生成してこのレプリカ信号をデジタル復調前の前記受信信号から取り除くレプリカ生成部を有することを特徴とする。
【0010】
上記第一の通信システムによれば、送信機の妨害波生成部が、共通鍵に基づいて生成した妨害信号をデジタル変調後の送信信号に印加し、受信機のレプリカ生成部が、共通鍵に基づいて生成した妨害信号のレプリカ信号をデジタル復調前の受信信号から取り除くので、そのレプリカ生成部を有する正式な受信機の場合には、共通鍵を用いて送信データと同じ受信データを復元することができる。
【0011】
その一方で、送信機が外部に送信する送信信号には妨害波生成部によって生成した妨害信号がデジタル変調後に印加されているので、上記レプリカ生成部を有しない盗聴者の受信機の場合には、妨害信号で暗号化された送信信号を単なる妨害波としてしか認識することができない。
このように、本発明によれば、敢えて妨害信号が印加された信号対雑音比が低い送信信号を用いることにより、秘匿性に優れた通信システムを構築することができる。
【0012】
上記第一の通信システムにおいて、前記妨害波生成部及び前記レプリカ生成部は、具体的には、前記妨害信号及びそのレプリカ信号として、前記共通鍵に基づいて加法性の白色雑音をデジタル生成するものを採用することができる(請求項2)。
後の実施形態でも述べるが、かかる加法性の白色雑音は、例えば、2つの線形フィードバックシフトレジスタ(LFSR:Linear Feedback Shift Register)で得られた一様乱数をボックス・ミューラー法(Box-Muller Transform)で変換することによって生成することができる。
【0013】
この場合、上記のように生成した白色雑音を使用すると、妨害信号を印加した送信信号が周期性を示さなくなって盗聴者が受信信号に同期することも不可能になり、盗聴者による傍受が困難となる。
また、上記LFSRはハードウェアの実装が比較的容易な回路であるから、妨害波生成部及びレプリカ生成部の回路構成を簡易かつ安価に実現できるという利点もある。
【0014】
また、第一の通信システムにおいて、前記妨害波生成部は、前記妨害信号の印加後の信号対雑音比が0dB以下となるように当該妨害信号を前記送信信号に対して印加するものであることが好ましい(請求項6)。
この場合、妨害信号を印加した送信信号は、雑音成分が信号成分以上の煩雑な信号になるので、この信号を盗聴者が単なる雑音と認識する蓋然性がより増大し、送信データの漏洩をより確実に防止することができる。
【0015】
第一の通信システムでは、送信機の妨害波生成部と受信機のレプリカ生成部が、いずれも同じ共通鍵に基づいて妨害信号やこれに対応するレプリカ信号を生成するので、妨害信号を印加した秘匿通信を行う前に、その共通鍵やその他の認証情報のやり取りを個別に行う必要がある。
そこで、第一の通信システムでは、前記送信機は、前記送信信号に前記妨害信号を印加しないで当該送信信号を送信する認証送信モードを実行可能であり、前記受信機は、前記送信信号を受信し、その受信信号から前記レプリカ信号を取り除かないで当該受信信号をデジタル復調する認証受信モードを実行可能であることが好ましい(請求項3)。
【0016】
本発明の第二の通信システム(請求項4)は、送信データをエンコードした符号化データをデジタル変調してなる送信信号を送信する送信機と、送信された前記送信信号を受信し、その受信信号をデジタル変調及びデコードして受信データを取り出す受信機とを備えた通信システムであって、前記送信機は、デジタル変調後の送信信号に妨害信号を印加する妨害波生成部を有し、前記送信機のエンコーダは、誤り訂正のための生成行列を用いて前記符号化データを生成し、前記受信機のデコーダは、前記生成行列に対応する検査行列を用いてデジタル復調後の前記受信信号を復号して前記受信データを復元することを特徴とする。
【0017】
上記第二の通信システム(請求項4)が前記第一の通信システム(請求項1)と異なる点は、第一の通信システム(請求項1)では、受信機がレプリカ信号を用いて妨害信号を取り除いて受信データを取り出すのに対して、第二の通信システム(請求項4)では、誤り訂正のための検査行列を用いてデジタル復調後の受信信号を復号することにより、受信データを復元する点にある。
すなわち、第二の通信システムでは、妨害信号に対応するレプリカ信号を利用するのではなく、送信機側で妨害信号を印加することで低SNRとなった受信信号に対して誤り訂正復号を行って受信データを復元する。
【0018】
このように、第二の通信システムでは、受信機側で低SNRの受信信号を誤り訂正復号するため、送信機のエンコーダが、その誤り訂正のための生成行列を用いて送信データの符号化データを生成しておく必要があり、受信機のデコーダは、その生成行列に対応する検査行列を用いてデジタル復調後の受信信号を復号して受信データを復元する。
従って、第二の通信システムにおいては、妨害波生成部が生成する妨害信号は、受信機のデコーダが行う誤り訂正復号によって受信データが復元可能な程度の雑音である必要がある。
【0019】
もっとも、例えば、低密度バリティ検査(LDPC:Low-Density Parity-Check)符号やターボ(Turbo)符号といったシャノン限界に迫る強力な符号化/復号方式を採用すれば、妨害信号で低SNR化された受信信号であっても、受信データを正確に復元することができる。
このため、第二の通信システムにおいても、妨害波生成部として、前記妨害信号の印加後の信号対雑音比が0dB以下となるように当該妨害信号を前記送信信号に対して印加するものを採用することにより(請求項6)、受信信号に対する同期すら不可能にして、送信データの漏洩を確実に防止することができる。
【0020】
また、第二の通信システムにおいて、前記送信機は、前記生成行列を変更する送信側行列変更部を有し、前記受信機は、前記生成行列に対応して前記検査行列を変更する受信側行列変更部を有していることが好ましい(請求項5)。
この場合、送信機と受信機の共通鍵として機能する生成行列Gと検査行列Hを相互に変更することができるので、通信の秘匿性をより向上することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上の通り、本発明によれば、妨害信号が印加された信号対雑音比が低い送信信号を用い、その妨害信号のレプリカ信号を生成可能な受信機や、信号対雑音比が低い送信信号を誤り訂正復号可能な受信機でしか当該送信信号を認識できないようにしたので、秘匿性に優れた通信を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
〔第一実施形態〕
〔システム構成〕
図1は、本発明の第一実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す図である。
図1に示すように、この無線通信システム1は、所定ビット列のデジタルデータよりなる送信データS1をデジタル変調してなる送信信号S2を送信する送信機2と、送信された送信信号S2を受信して、その受信信号S3をデジタル復調して送信データS1と同じ受信データS4を取り出す受信機3とを備えている。
【0023】
上記送信機2及び受信機3は、例えば携帯電話システム等の移動体通信を想定した場合、ユーザが携帯して使用する携帯端末4と、多数の携帯端末4と相互に通信する基地局5(図4参照)の双方に設けられる。
送信機2は、デジタル変調部7と、DAコンバータ8と、送信部9と、妨害波生成部10とを備えている。
【0024】
この送信機2の構成要素のうち、デジタル変調部7は、デジタル信号である送信データ(シンボル)S1によって所定の搬送波を変調する変調回路よりなり、高周波の搬送波にベースバンド信号としての上記送信データS1を乗せて送信信号S2を出力する。
デジタル変調部7での変調方式としては、例えば、ASK(Amplitude Shift Keying)方式、FSK(Frequency Shift Keying)方式、PSK(Phase Shift Keying)方式、BPSK(Binary Phase Shift Keying)方式、QPSK(Quadrate Phase Shift Keying)方式及びOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式等を採用することができる。
【0025】
妨害波生成部10は、所定の共通鍵に基づいて、例えば加法性の白色雑音よりなる妨害信号S5をデジタル生成し、この妨害信号S5をDAコンバータ8の手前に配置された加算器11を介してデジタル変調後の送信信号S2に加算するものである。この妨害波生成部10の詳細については、後述する。
DAコンバータ8は、上記妨害信号S5を含む送信信号S2をアナログ信号に変換し、次の送信部9に送る。送信部9は、DAコンバータ8からのアナログ信号を外部に電波送出可能な電力に増幅する電力増幅回路を含み、この増幅回路で増幅されたアナログ信号はアンテナ12から外部に送信される。
【0026】
一方、受信機3は、デジタル復調部13と、ADコンバータ14と、受信部15と、レプリカ生成部16とを備えている。
この受信機3の構成要素のうち、受信部15は、アンテナ18から入力された入力信号を選択及び増幅する低雑音増幅器と、増幅された信号を復調可能な周波数に変換する周波数変換回路等を含んで構成され、この受信部15で受信されたアナログの受信信号S3はADコンバータ14によってデジタル信号に変換される。
【0027】
レプリカ生成部16は、送信機2側と同じ共通鍵に基づいて、前記妨害信号S5と対応するレプリカ信号S6をデジタル生成し、このレプリカ信号S6を、ADコンバータ8の後に配置された減算機17を介してデジタル復調前の受信信号S3から減算して取り除くものである。
このレプリカ生成部16は、妨害信号S5と同一のレプリカ信号S6を生成するものであるから、送信機2側の妨害波生成部10と同じ回路構成となるが、その詳細については後述する。
【0028】
デジタル復調部13は、レプリカ信号S6の減算後の受信信号S3から高周波の搬送波を分離する復調回路よりなり、デジタル信号である前記送信データS1と同じ受信データ(シンボル)S4を出力する。
【0029】
〔妨害波生成部及びレプリカ生成部〕
図2は、妨害波生成部とレプリカ生成部の機能ブロック図である。
図2に示すように、妨害波生成部10及びレプリカ生成部16は、一様乱数v1,v2の生成回路である2つの線形フィードバックシフトレジスタ(LFSR)19,20と、このレジスタ19,20が出力する一様乱数v1,v2に対してボックス・ミューラー法(Box-Muller Transform)による変換演算を行う演算回路21とを備えている。
【0030】
図3は、上記2つのLFSR19,20の回路構成の一例を示す図である。
図3に示すように、これらのLFSR19,20は、直列方向に接続されたビット数分の複数段のシフトレジスタ22をと、任意のシフトレジスタ22間に挿入された排他的論理和回路26とを備え、最終段のレジスタ22の出力を排他的論理和回路26と初段のレジスタ22にフィードバックする回路構成になっている。
すなわち、これらのLFSR19,20は、排他的論理和(ExOR)で帰還をかけた複数のシフトレジスタ22で構成されるカウンタであって、このレジスタ22の全個数をNとすると、オール0を除いた(2N−1)の個のパターン信号を、(2N−1)回のクロック印加で1回ずつ疑似ランダム的に発生させることができる。
【0031】
なお、図3(a)に示すLFSR19は、10段構成であるから最大10ビットの一様乱数を生成可能であり、図3(b)に示すLFSR20は、15段構成であるから最大15ビットの一様乱数を生成可能である。
LFSR19,20を構成する全シフトレジスタ22のうち、任意数のレジスタ22のビット出力が変換器27に並列入力されている。図例では、8つのレジスタ22のビット出力が変換器27に並列入力されており、従って、当該変換器27への入力値は10進数表現で0〜255までの値になっている。
【0032】
上記変換器27は、入力ビット数(図例ではn=8)の最大絶対値である「255」で一様乱数の入力値を除算し、これによって一様乱数の入力値を0〜1までの数値に変換して出力するようになっている。
図2に戻り、演算回路21は、2つのLFSR19,20と変換器27で逐次生成される0〜1までの一様乱数v1,v2を正規乱数に変換するため、まず、その一様乱数v1,v2のそれぞれが(0,1〕の範囲(0より大きく1以下の範囲、すなわち、0<v1,v2≦1)に入っているか否かを判定し(ステップSP1)、範囲外の場合にはその値を破棄する(ステップSP2)。
【0033】
逆に、一様乱数v1,v2のそれぞれが(0,1〕の範囲に入っている場合には、演算回路21は、ボックス・ミューラー法に基づく次の式(1)に一様乱数v1,v2を代入して、正規乱数y1,y2を演算する(ステップSP3)。なお、式(1)のlogは自然対数である。
【数1】

【0034】
このようにして演算回路21が演算する正規乱数y1,y2の値はいわゆる加法性の白色雑音であるが、この場合、LFSR19,20に入力する初期値(x0)が同じであれば、同じ雑音を生成することができる。
そこで、本実施形態では、LFSR19,20に入力する初期値(x0)を送受信機2,3双方の共通鍵として当該白色雑音をデジタル生成し、この白色雑音を前記妨害信号S5及びレプリカ信号S6として利用している。
【0035】
なお、図2に示すように、LFSR19,20と演算回路21とからなる一連の雑音生成用のロジック回路26を複数段設けることにより、妨害波生成部10又はレプリカ生成部16を構成することもでき、この場合には、ロジック回路26ごとに正規乱数y1,y2が生成されることになる。このように、雑音生成器としてのロジック回路26を複数並設すれば、送信した妨害波(雑音)からの共通鍵x0の逆算がより困難になり、安全性が向上する。
そして、前記した通り、妨害信号S5の場合は、送信機2において、加算器11によってデジタル変調後の送信信号S2に加算され、レプリカ信号S6の場合は、受信機3において、減算器17によってデジタル復調前の受信信号S3から減算されるようになっている。
【0036】
このように、本実施形態の無線通信システム1によれば、送信機2の妨害波生成部10が、共通鍵(初期値x0)に基づいて生成した妨害信号S5をデジタル変調後の送信信号S2に印加し、受信機3のレプリカ生成部16が、共通鍵(初期値x0)に基づいて生成した妨害信号S5のレプリカ信号S6をデジタル復調前の受信信号S3から減算するようになっているので、例えば図4に示すように、レプリカ生成部S6を有する正式な受信機3を搭載した携帯端末4の場合には、共通鍵を用いて送信データS1と同じ受信データS4を復元することにより、基地局5との通信を確立することができる。
【0037】
これに対して、送信機2が外部に送信する送信信号S2には妨害波生成部10によって生成した妨害信号S5がデジタル変調後に印加されているから、上記レプリカ生成部16を有しない受信機3を搭載した盗聴者の携帯端末4の場合には、妨害信号S5で暗号化された送信信号S2を単なる妨害波としてしか認識することができず、基地局5との通信が確立しない。
このように、本実施形態によれば、敢えて妨害信号S5が印加された信号対雑音比が低い送信信号S2を用いることにより、秘匿性に優れた無線通信システム1を構築することができる。
【0038】
また、本実施形態では、妨害信号S5として加法性の白色雑音を使用しているので、当該妨害信号S5を印加した送信信号S2が周期性を示さなくなって盗聴者が受信信号S3に同期することも不可能になり、盗聴者による傍受が困難となる。
更に、本実施形態では、加法性の白色雑音を、2つのLFSR19,21で得られた一様乱数をボックス・ミューラー法で変換してデジタル生成しているので、ハードウェアの実装が比較的容易であり、妨害波生成部10やレプリカ生成部16の回路構成を簡易かつ安価に実現することができる。
【0039】
本実施形態の無線通信システム1において、送信データS1の秘匿性をより向上させるには、妨害波生成部10において、妨害信号S5の印加後の信号対雑音比が0dB以下となるように当該妨害信号S5を送信信号S2に対して印加するようにすればよい。
この場合、妨害信号S5を印加した送信信号S2は、雑音成分が信号成分以上の煩雑な信号になるので、この信号を盗聴者が単なる雑音と認識する蓋然性がより増大し、送信データの漏洩をより確実に防止することができる。
【0040】
なお、本実施形態の無線通信システム1において、デジタル手法によらないで、白色雑音よりなる妨害信号S5やレプリカ信号S6を生成する妨害波生成部10やレプリカ生成部16を採用することもできる。この場合は、図1に二点鎖線で示すように、DAコンバータ8でアナログ信号に変換された送信信号S2に妨害信号S5を印加し、ADコンバータ14への入力前のアナログ信号よりなる受信信号S3からレプリカ信号S6を取り除くことになる。
【0041】
〔共通鍵の設定手続〕
ところで、本実施形態の無線通信システム1では、送信機2の妨害波生成部10と受信機3のレプリカ生成部16が、いずれも同じ共通鍵(初期値x0)に基づいて妨害信号S5やこれに対応するレプリカ信号S6を生成するので、当該通信システム1を例えば携帯電話システム等の移動体通に実装する場合、妨害信号S5を印加した秘匿通信を行う前に、その共通鍵やその他の認証情報のやり取りを個別に行う必要がある。
【0042】
そこで、本実施形態の通信システム1では、送信機2は、送信信号S2に妨害信号S5を印加しないで当該送信信号S2を送信する認証送信モードを実行可能であり、かつ、受信機3は、送信信号S2を受信し、その受信信号S3からレプリカ信号S6を減算しないで受信信号S3をデジタル復調する認証受信モードを実行可能になっている。
図5は、上記認証モードを有する送受信機2,3を搭載した、携帯端末4と基地局5が行う端末認証方法を示す概念図である。
【0043】
この場合、図5(a)に示すように、まず、事業者は、新規契約された携帯端末4の端末登録時に、その端末4のメモリに予め共通鍵x0を記録しておき、例えば基地局3に繋がる一般には非公開の端末登録ネットワーク23を通じて、その新規契約された携帯端末4の登録IDや共通鍵を基地局5のメモリに記録する。
次に、図5(b)に示すように、携帯端末4は、最初の通信を行う際に認証送信モードで自身の登録IDを含む端末情報を基地局5に送信し、基地局5は、その端末情報を認証受信モードで受信する。
【0044】
この場合、携帯端末4からの送信信号S2には、妨害信号S5が印加されていない。基地局5は、端末情報を受信すると、自身のメモリに記録されている登録ID等と照合し、認証を行う。
このようにして、基地局5での端末認証が完了すると、それ以降、携帯端末4と基地局5は自身の送信機2の認証送信モードを解除するとともに、自身の受信機3の認証受信モードを解除し、妨害信号S5を印加した秘匿通信を行う。
【0045】
〔第二実施形態〕
図6は、本発明の第二実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す図である。
本実施形態の無線通信システム1(図6)が第一実施形態の無線通信システム(図1)と異なる点は、第一実施形態では、受信機3がレプリカ信号S6を用いて妨害信号S5を取り除いて受信データS4を取り出すのに対して、第二実施形態では、誤り訂正のための検査行列Hを用いてデジタル復調後の受信信号S3を復号することにより、受信データS4を復元する点にある。
【0046】
すなわち、本実施形態の無線通信システム1では、妨害信号S5に対応するレプリカ信号S6を利用せず、送信機2側で妨害信号S5を印加することで低SNRとなった受信信号S3に対して、誤り訂正復号を行って受信データS3を復元する。
このため、図6に示すように、送信機2には、デジタル変調後の送信信号S2に妨害信号S5を印加する妨害波生成部S5が設けられているが、受信機3には、妨害信号S5に対応するレプリカ信号S6を減算するレプリカ生成部16が設けられていない。
【0047】
そして、本実施形態の無線通信システム1では、妨害信号S5が印加された低SNRの受信信号S3から受信データS4を正確に復元できるようにするため、送信機2におけるデジタル変調部7の前段に、誤り訂正のための生成行列Gを用いて符号化データを生成するエンコーダ24が設けられているとともに、受信機3におけるデジタル復調部13の後段に、上記生成行列Gに対応する検査行列Hを用いてデジタル復調後の受信信号S3を復号して受信データS4を復元するデコーダ25が設けられている。
【0048】
このように、本実施形態の無線通信システム1によれば、送信機2の妨害波生成部10がデジタル変調後の送信信号S2に妨害信号S5を印加するが、送信機2のエンコーダ24が、そのデジタル変調前に、誤り訂正のための生成行列Gを用いて符号化データを生成するとともに、受信機3のデコーダ25が、生成行列Gに対応する検査行列Hを用いてデジタル復調後の受信信号S3を復号して受信データS4を復元するので、例えば図7に示すように、当該検査行列Hを用いて誤り訂正を行うデコーダ25を有する正式な受信機3を搭載した携帯端末4の場合は、送信データS1と同じ受信データS4を復元することにより、基地局5との通信を確立することができる。
【0049】
これに対して、送信機2が外部に送信する送信信号S2には妨害波生成部10によって生成した妨害信号S5がデジタル変調後に印加されているから、上記検査行列Hを用いた誤り訂正機能を有しない受信機を搭載した盗聴者の携帯端末4の場合には、妨害信号S5で暗号化された送信信号S2を単なる妨害波としてしか認識することができず、基地局5との通信が確立しない。
このように、本実施形態においても、敢えて妨害信号S5が印加された信号対雑音比が低い送信信号S2を用いることにより、秘匿性に優れた無線通信システム1を構築することができる。
【0050】
また、本実施形態の無線通信システム1によれば、誤り訂正のための生成行列Gとこれに対応する検査行列Hが言わば共通鍵としての機能を果たしているので、図7に示すように、複数の携帯端末4に同じ検査行列Hを配付しておくことにより、複数の携帯端末4に対して同じ妨害信号S5を用いた秘匿通信を行うことができる。
このため、第一実施形態の場合のような、端末認証を利用した共通鍵の設定作業を行う必要がなく、秘匿性確保のためのユーザの作業手間を低減できるという利点がある。
【0051】
更に、本実施形態の無線通信システム1においても、送信データS1の秘匿性をより向上させるには、妨害波生成部10において、妨害信号S5の印加後の信号対雑音比が0dB以下となるように当該妨害信号S5を送信信号S2に対して印加することができる。
この場合、妨害信号S5を印加した送信信号S2は、雑音成分が信号成分以上の煩雑な信号になるので、この信号を盗聴者が単なる雑音と認識する蓋然性がより増大し、送信データの漏洩をより確実に防止することができる。
【0052】
なお、上記のような低SNRの信号であっても、低密度バリティ検査(LDPC:Low-Density Parity-Check)符号やターボ(Turbo)符号といったシャノン限界に迫る強力な符号化/復号方式を、送信機2のエンコーダ24と受信機3のデコーダ25に採用すれば、受信データS4を正確に復元することができる。
また、本実施形態の無線通信システム1においても、デジタル手法によらないで、白色雑音よりなる妨害信号S5を生成する妨害波生成部10を採用することもでき、この場合は、図6に二点鎖線で示すように、DAコンバータ8でアナログ信号に変換された送信信号S2に妨害信号S5が印加されることになる。
【0053】
ところで、上記生成行列Gや検査行列Hは、これらを変更するとデコーダ25での復号性能に影響するために、いったん設定した行列を変更しないのが通例であるが、本実施形態における生成行列Gと検査行列Hは共通鍵としての機能を有するから、出来れば送受信側双方において新たなものに更新するようにすることが好ましい。
【0054】
この点、例えば、LDPC符号においては、検査行列Hをいくつかのサブブロックに分割し、特定のサブブロックの非ゼロ要素(具体的には「1」)を、乱数を用いて再配置して他のサブブロックを生成するが(Gallagerの構成法)、サブブロックを再配置しても復号性能に余り影響しないことが判明している。
また、乱数をベースにしないで、所定の数列に基づいて良好な訂正能力を確保できる検査行列を生成する方法も、既に本願発明者が提示している(特願2007−321021号参照)。
【0055】
そこで、図6に仮想線で示すように、第二実施形態の無線通信システム1において、生成行列Gを変更する送信側行列変更部30を送信機2に設けるとともに、その生成行列Gに対応して検査行列Hを変更する受信側行列変更部31を受信機3に設けることにしてもよい。
受信側行列変更部31は、乱数をベースに検査行列Hを更新する場合には、乱数発生器の出力に従って検査行列Hの非ゼロ要素を配置し直すものを採用すればよく、所定の数列に基づいて検査行列Hを更新する場合には、その数列の定義パラメータを変更することによって検査行列Hの非ゼロ要素を配置し直すものを採用すればよい。
【0056】
一方、(n,k)符号よりなる長さnの符号語に関する生成行列Gと検査行列Hは、G・HT=0の関係を満たす。従って、送信側行列変更部30としては、受信側行列変更部31と同じ演算ロジックで検査行列Hを更新してから、この検査行列Hに対してG・HT=0を満たす生成行列Hを生成する演算回路を採用すればよい。
かかる行列変更部30,31を設けておけば、送信機2と受信機3の共通鍵として機能する生成行列Gと検査行列Hを相互に変更することができるので、通信の秘匿性をより向上することができる。
【0057】
これまで開示した実施形態はすべて例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の構成と均等の範囲内のすべての変更が本発明に含まれる。
例えば、本発明は、無線通信システム1だけでなく、PLC(Power Line Communication)システムその他の有線通信システムに採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】第一実施形態の無線通信システムの構成例を示す図である。
【図2】妨害波生成部とレプリカ生成部の機能ブロック図である。
【図3】線形フィードバックシフトレジスタの回路構成の一例を示す図である。
【図4】基地局(送信者)と携帯端末(受信者)の通信状態を示す概念図である。
【図5】認証モードを有する送受信機を搭載した、携帯端末と基地局が行う端末認証方法を示す概念図である。
【図6】第一実施形態の無線通信システムの構成例を示す図である。
【図7】基地局(送信者)と携帯端末(受信者)の通信状態を示す概念図である。
【符号の説明】
【0059】
1:無線通信システム 2:送信機 3:受信機 4:携帯端末 5:基地局 7:デジタル変調部 8:DAコンバータ 9:送信部 10:妨害波生成部
11:加算器 12:アンテナ 13:デジタル変調部 14:ADコンバータ
15:受信部 16:レプリカ生成部 17:減算器 18:アンテナ
19,20:線形フィードバックレジスタ 21:演算回路
22:端末登録ネットワーク 24:エンコーダ 25:デコーダ
26:ロジック回路 27:排他的論理和回路 28:変換器
30:送信側行列変更部 31:受信側行列変更部
S1:送信データ S2:送信信号 S3:受信信号 S4:受信データ
S5:妨害信号 S6:レプリカ信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信データをデジタル変調してなる送信信号を送信する送信機と、送信された前記送信信号を受信し、その受信信号をデジタル復調して受信データを取り出す受信機とを備えた通信システムであって、
前記送信機は、共通鍵に基づいて妨害信号を生成してこの妨害信号をデジタル変調後の前記送信信号に印加する妨害波生成部を有し、
前記受信機は、前記共通鍵に基づいて前記妨害信号のレプリカ信号を生成してこのレプリカ信号をデジタル復調前の前記受信信号から取り除くレプリカ生成部を有することを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記妨害波生成部及び前記レプリカ生成部は、前記妨害信号及びそのレプリカ信号として、前記共通鍵に基づいて加法性の白色雑音をデジタル生成するものである請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記送信機は、前記送信信号に前記妨害信号を印加しないで当該送信信号を送信する認証送信モードを実行可能であり、
前記受信機は、前記送信信号を受信し、その受信信号から前記レプリカ信号を取り除かないで当該受信信号をデジタル復調する認証受信モードを実行可能である請求項1又は2に記載の通信システム。
【請求項4】
送信データをエンコードした符号化データをデジタル変調してなる送信信号を送信する送信機と、送信された前記送信信号を受信し、その受信信号をデジタル変調及びデコードして受信データを取り出す受信機とを備えた通信システムであって、
前記送信機は、デジタル変調後の送信信号に妨害信号を印加する妨害波生成部を有し、
前記送信機のエンコーダは、誤り訂正のための生成行列を用いて前記符号化データを生成し、前記受信機のデコーダは、前記生成行列に対応する検査行列を用いてデジタル復調後の前記受信信号を復号して前記受信データを復元することを特徴とする通信システム。
【請求項5】
前記送信機は、前記生成行列を変更する送信側行列変更部を有し、前記受信機は、前記生成行列に対応して前記検査行列を変更する受信側行列変更部を有している請求項4に記載の通信システム。
【請求項6】
前記妨害波生成部は、前記妨害信号の印加後の信号対雑音比が0dB以下となるように当該妨害信号を前記送信信号に対して印加する請求項1〜5のいずれか1項に記載の通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−152838(P2009−152838A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328625(P2007−328625)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】