説明

通信システム

【課題】マルチユーザMIMO下りリレーリンク通信路において、IUI(Inter-User Interference)の干渉除去及び周波数利用率の向上を実現する通信システムを提供する。
【解決手段】基地局10、リレー局20及び複数のユーザ端末30−1〜30−Nとの間でマルチユーザMIMO下りリンクリレー伝送を行う通信システムである。各ユーザ端末30−1〜30−Nは複数の受信アンテナを備える。基地局10またはリレー局20は、各ユーザ端末30−1〜30−Nにおけるユーザ間干渉を抑圧するように送信ウェイトを乗算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
第4世代の移動通信システム等では、高速・大容量が要求され、下り回線のカバレッジの拡大や周波数利用率の向上が求められる。本発明は、次世代移動通信システムに対して、基地局に比べ安価なリレー局(Relay Station: RS)の導入を考える。リレー局では基地局からの信号受信後、信号を処理し、再送信する。よって、セルラー通信の下り回線において、ユーザ端末(User Destination:UD)での受信電力を強め、セルエッジでの誤り特性を大きく改善することが可能となる。
【背景技術】
【0002】
第1の従来技術として、マルチユーザMIMO下りリンク伝送方式に於いて、基地局とユーザ端末がそれぞれ複数本の送受信アンテナを持ち、同一時刻、同一周波数において、各ユーザへ向け異なる送信情報を伝送でき、伝送容量や周波数利用率の増加が計れる。しかし、各ユーザに対して所望の通信品質を満たせない場合がある。例えば、基地局からの距離が離れているセルエッジエリアにおけるユーザにおいて、距離減衰やシャドウイングなどの影響で受信電力が大幅に低下する場合や、同時に大勢のユーザ端末が通信を行う場合のチャンネル配分の非最適化の問題などである。
【0003】
第2の従来技術として(非特許文献1参照)、QR分解に基づくDPC伝送方式では、通信路容量の損失を避けることはできるが、ユーザ端末の受信アンテナ数が1本に制限される。しかしながら、次世代の携帯などの移動通信システムのユーザ端末では最大4本のアンテナが実装可能になると予想される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C. Li, Y. Iwanami, E. Okamoto, “Comparison study for Tomlinson-Harashima Precoding based on MMSE criteria in Multiuser MIMO downlink system”, IEEE TENCON 2009, 2009年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マルチユーザMIMO下り回線において、基地局からの距離が離れているセルエッジエリアでは、基地局からの信号が減衰して誤り率が増加するため、高速度通信の実現が困難になる。そこで基地局とユーザ間にリレー局を設置する。このとき、システムの周波数利用効率高めるために、基地局とリレー局において最適な送信ウェイトの設計と送信電力の配分が必要となる。
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、マルチユーザMIMO下りリンクリレー伝送において、IUI(Inter-User Interference)の干渉除去及び周波数利用率の向上を実現する通信システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基地局装置、リレー局装置及び複数の受信端末装置との間でマルチユーザMIMO下りリンクリレー伝送を行う通信システムであって、
前記各受信端末装置は複数の受信アンテナを備え、前記基地局装置または前記リレー局装置は、前記各受信端末におけるユーザ間干渉を抑圧するように送信ウェイトを乗算することを特徴とする。
【0008】
ここで、前記基地局装置は、前記各受信端末装置におけるユーザ間干渉を抑圧するような送信ウェイトを乗算することを特徴とする。
【0009】
また、前記基地局装置は、前記リレー局装置におけるユーザ間干渉を抑圧するような送信ウェイトを乗算し、前記リレー局装置は、前記各受信端末装置におけるユーザ間干渉を抑圧するような送信ウェイトを乗算することを特徴とする。
さらに前記リレー局装置は、ユーザ選択を行うことを特徴とする。
そして、前記リレー局装置は、前記選択したユーザの送信利得を最大化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マルチユーザMIMO下りリレー回線において、基地局装置またはリレー局装置が、複数のアンテナを備えた各受信端末におけるユーザ間干渉を抑圧するように送信ウェイトを乗算するので、ユーザ端末間のIUIを除去でき、各ユーザ端末に対するマルチストリーム送信を可能とする。また、リレー局ではユーザ選択することにより送信ユーザダイバーシティ効果を得ることができる。また、リレー局装置が前記選択したユーザの送信利得を最大化するので、基地局では送信電力の等配分を行い、リレー局では注水定理による送信電力配分行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】マルチユーザMIMO下りリンクリレー伝送モデルを示す図である。
【図2】ユーザ端末アンテナ間が無相関の場合における提案方式のシステムキャパシティーレート特性(Nd=2)の図である。
【図3】ユーザ端末アンテナ間が有相関の場合における提案方式のシステムキャパシティーレート特性(Nd=2)の図である。
【図4】異なる端末ユーザ数の場合における提案方式のシステムキャパシティーレート特性(Nd=2)の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0013】
まず本発明の概略を図1に示す。基地局10の送信アンテナ数をN、リレー局20のアンテナ数をN、ユーザ端末数をNとする。また、n(2,1)をk番目のユーザ端末30−kの受信アンテナ数とする。基地局10から、各々異なった各ユーザ向けの送信データを、同時刻に同一のキャリヤ周波数を用いて、空間多重して伝送する。基地局10からの送信は2つのタイムスロットに分けられ、第1のタイムスロットでは、基地局10からリレー局20へデータが送信される。第2のタイムスロットでは、リレー局20が基地局10から受信したデータを中継処理して各ユーザ端末30−1〜30−Nにブロードキャストする。基地局10とリレー局20との間の通信路行列をH、リレー局20からユーザ端末30−1〜30−Nとの間の通信路行列をH=[H2,1…H2,k…H2,Nd]とする。
【0014】
第1のタイムスロットにおいて、リレー局20の受信信号は次のようになる。
【数1】

【0015】
ここで、M∈CNs×Ns,X=[x…x…xNs]∈CNs×1 及び W∈CNr×1は、それぞれ基地局10の送信ウェイト行列、基地局10の送信信号及びリレー局20の受信ガウス雑音である。基地局10での送信電力制限はtr(MM)=Pと表せる。
【0016】
第2のタイムスロットにおいて、リレー局20で送信ウェイトF∈CNr×Nrを用いて受信信号Yを増幅し、ユーザ端末30−1〜30−Nに送信する。このとき、k番目ユーザ端末30−kの受信信号は(数2)になる。
【数2】

【0017】
ここで、w2,kはk番目のユーザにおける受信ガウス雑音である。リレー局20での送信電力制限はtr(FHMM)+tr(F)=Pと表せる。
【0018】
基地局10における送信ウェイトの設計法について説明する。
【0019】
まず、システム全体のチャネル行列Hを次のように定義する。
【数3】

【0020】
基地局10での送信ウェイトMとリレー局20での送信ウェイトFは(数4)になる。
【数4】

【0021】
ここで、Г=diag(p,…p,…pNd),M=[M,…,M,…,MNd]はそれぞれ電力配分行列とIUI(Inter-User Interference)除去行列である。k番目のユーザ端末30−kについて、kより前の(k−1)個のユーザに関するチャネルで構成された行列H^J,kに対し特異値分解(SVD)を行う。
【数5】

【0022】
ここで、Ns−sigmaj=1k−1(j)列のユニタリベクトルを持つ行列Vj,kはH^J,kのヌルスペースである。
j,kの列ベクトルをMの候補とする。Mは、H^J,1の固有ベクトルで作られる。
【0023】
マルチユーザMIMOリレー通信路の等価通信路行列は(数6)と表される。
【数6】

【0024】
ユーザ端末30−1〜30−Nにおいて、受信信号にデコーダーを掛け、他ユーザからの干渉を完全に除去する。ユーザ端末30−1〜30−Nにおけるデコーダー行列は次の様になる。
【数7】

【0025】
デコーダー行列Dをユーザ端末受信信号Yに乗算すると次式を得る。
【数8】

【0026】
ここで、(数7)のブロック三角行列Hの対角線上におけるh’kkにコレスキー分解を適用している。また、W’=DHFW+W,G=diag(R)(R−1である。ユーザkにおけるi番目の信号ストリームの実効SINR(Signal-to-Interference and Noise power Ratio)は次の様になる。
【数9】

【0027】
ここで、r(k)は(数8)にある三角行列Rの対角要素である。全リレーシステムのチャネルキャパシティレートは次式になる。
【数10】

【0028】
基地局10とリレー局20における送信ウェイトの分離設計法を説明する。
【0029】
まず、第1リンクのH1行列に特異値分解を行う。
【数11】

【0030】
ここで、∧=diag(λ(1),…,λ(k),…,λ(Nd)),λ1,i(k)∈λ(k)はHの特異値で構成される対角行列であり、U∈CNr×NrとV∈CNs×Nsはユニタリー行列である。基地局10での送信ウェイトMとリレー局20での送信ウェイトFは次式で表される。
【数12】

ここで、F=UГ1/2は第1リンクHに対して、F=[F1,2…F1,k…F1,Nd]は第2リンクHに対してユーザ間の干渉を除去する。同様に、ユーザkに対するリレー局20の送信ウェイトは次の操作で求められる。
【数13】

【0031】
ここで、ヌルスペースV2,kを用いてユーザk(k=2,…,N)の送信ウェイトF2、kを作り、H2,1の固有ベクトルをF2,1とする。リレーマルチユーザMIMO通信路の等価通信路行列を次式で表す。
【数14】

【0032】
デコーダー行列Dをユーザ端末受信信号Yに乗算すると次式を得る。
【数15】

【0033】
ユーザkにおけるi番目の信号ストリームの実効SINRは次のようになる。
【数16】

【0034】
リレーシステム全体のチャネルキャパシティレートは(数17)になる。
【数17】

【0035】
ここで、λ1,i(k)はHおけるユーザ端末k番目データストリームに対するチャネル利得である。
一つのセルにおける全ユーザの集合とし、UからN個のユーザを選択する。リレー局20における低計算量ユーザ選択アルゴリズムの提案を次に示す。
【数18】

【0036】
更に、リレー局はユーザの順序付けに加えて、各端末の送信利得の最大化を次のアルゴリズムにより行う。
【数19】

【実施例】
【0037】
マルチユーザMIMOリレー下り回線における準静的フラットレイリーフェージング通信路(Quasi-static Rayleigh fading channel)において、ユーザ毎に2ストリームを送信する。図1において、基地局10の送信アンテナ数が4本、リレー局20のアンテナ数が4本、ユーザ端末30の数が2或いは4、ユーザ当りの受信アンテナ数2とする。
【0038】
リレー局20における送信ユーザダイバーシティの増加を考えて基地局10では等電力配分し、リレー局20では注水定理による電力配分を用いる。ここで、同一セルにおいてユーザ端末数が多い場合に対し、周波数利用効率を確保する手法として、ユーザ端末30の組み合わせの選択が有効である。
【0039】
各ユーザ30に向け2ストリーム信号を送信する場合の、システムキャパシティーレート特性を図2に示す。図2により、分離設計方式では、リレー局20の送信ユーザダイバーシティを用いているため、統合設計方式と比べ、より優れたシステムキャパシティーレートが得られる。また、システムキャパシティーレートの上界はC(H)/2から得られる。図3に示すように、ユーザ端末30の受信アンテナ間に相関が存在する場合、キャパシティーレートの損失が生じる。相関係数Rcu=0.6,SNR=10(dB)の場合、無相関の場合と比べると0.9bit/s/Hzのキャパシティーレートの減少を生じる。図4に示すように、ユーザ端末数が多い場合、ユーザの選択を行うことで、送信ユーザダイバーシティ効果が得られるため、システムキャパシティーレートが上界値に近づくことが分かる。しかし、基地局における統合設計方式では、全ユーザの組み合わせを考えなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
マルチユーザMIMOリレー下り回線における送信ウェイトの設計と送信電力の配分に関する発明である。マルチユーザMIMO下りリンク技術では、複数ユーザ端末向けの信号が同一周波数を用い同時に送信され、多数のユーザアンテナが同時に利用される。基地局からの距離が遠いセルエッジエリアでは、基地局からの信号が減衰して誤り率が増加するため、高速度な通信の実現が困難になる。この場合、基地局とユーザ端末の間の適当な場所に基地局に比べ安価なリレー局を設置し、ユーザ端末での受信電力を強め、セルエッジでの誤り特性を大きく改善することが可能である。AF(Amplify & Forward)リレー伝送方式では、リレー局での復調処理の必要が無く、基地局から受信した信号を単に増幅してユーザ端末に再送信するので、回路構成が簡単で効果的な中継伝送方式である。本発明では、マルチユーザMIMO下りリンクAFリレー伝送方式に関し、各ユーザ端末での複数受信アンテナによる受信を可能とし、また各ユーザ端末に対するマルチストリーム送信を可能とした。優れた周波数利用効率を実現できる下りリンクディジタル無線通信方式としての利用可能性がある。
【符号の説明】
【0041】
10 基地局
20 リレー局
30−1〜30−N ユーザ端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局装置、リレー局装置及び複数の受信端末装置との間でマルチユーザMIMO下りリンクリレー伝送を行う通信システムであって、
前記各受信端末装置は複数の受信アンテナを備え、
前記基地局装置または前記リレー局装置は、前記各受信端末におけるユーザ間干渉を抑圧するように送信ウェイトを乗算することを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記基地局装置は、前記各受信端末装置におけるユーザ間干渉を抑圧するような送信ウェイトを乗算することを特徴とする請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記基地局装置は、前記リレー局装置におけるユーザ間干渉を抑圧するような送信ウェイトを乗算し、
前記リレー局装置は、前記各受信端末装置におけるユーザ間干渉を抑圧するような送信ウェイトを乗算することを特徴とする請求項1に記載の通信システム。
【請求項4】
前記リレー局装置は、ユーザ選択を行うことを特徴とする請求項3に記載の通信システム。
【請求項5】
前記リレー局装置は、前記選択したユーザの送信利得を最大化することを特徴とする請求項4に記載の通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−257190(P2012−257190A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252742(P2011−252742)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】