説明

通信トラヒック量予測装置を有する移動通信システム

【課題】交通トラヒック等の様々な要因によって変化する通信トラヒック量をより正確に予測する移動通信システムを提供することを目的とする。
【解決手段】移動通信システムは、交通トラヒックモニタが検知する交通トラヒック量から、時系列予測モデルを用いて、車両種別又はエリア別毎の未来の交通トラヒック量を予測する交通トラヒック量予測手段と、車両種別又はエリア別毎の現在以前の交通トラヒック量と、車両種別又はエリア別毎の現在以前の通信トラヒック量との関係に基づき、車両種別又はエリア別毎の現在以前の交通トラヒック量と、車両種別又はエリア別毎の未来の交通トラヒック量から、未来の通信トラヒック量を導き出す通信トラヒック量予測手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通トラヒックによって発生する通信トラヒック量を予測する通信トラヒック量予測装置を有する移動通信システムに関する。この通信トラヒック量予測装置の予測情報は、無線リソースを制御する無線リソース管理システムにとって非常に有益である。特に、本発明は高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport System)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動体通信の普及に伴い、移動体通信サービスに必要な通信トラヒックが急激に増大している。従来のセルラーシステム又はPHSシステム等が提供するサービスは、音声又は文字サービスが主流であった。これは、サービス提供を受ける移動体端末が、ハンディ型端末であるということに起因している。
【0003】
しかし、ITS又はIMT-2000等の次世代移動体通信システムでは、更に画像サービス等を含めたより多様なサービスが提供される。特にITSでは、自動車の車載端末の画面を大きくすることができるために、既存のナビゲーション情報を含めた多様な画像サービスの提供が行われる。また、ITSでは、自動車の自動走行制御情報のような高信頼性を要求される通信トラヒック、通信サービスに必要な制御用の通信トラヒック、更には一般の画像・音声情報の通信トラヒックのような、極めて多様なトラヒックが発生する。更に、渋滞状況、道路状況(カーブ、トンネル、勾配等)又は天候状況等によって必要な通信トラヒック量も変化する。その通信情報としては、自動走行制御情報及びナビゲーション情報等がある。
【0004】
ITSでは、既存のセルラーシステム、PHSシステム又はIMT-2000システムにおける二次元的なセル配置構成とは異なり、道路沿いに一次元的にセルが配置され、それぞれのセルに設置されたアンテナ基地局と自動車の車載端末との間で通信を行う。但し、その路車間通信システムの1つであるDSRC(Dedicated Short-Range Communications)では、各セル基地局間の距離がセルラーシステムのセル基地局間距離に比べてかなり狭い。一般に、1つの基地局のサービス提供領域が広いほど、その基地局の通信トラヒック量が多くなり、大群化効果が得られるため、厳密な通信トラヒック量の予測は必ずしも必要とされない。しかし、ITSの場合、セル基地局間が狭いために、きめ細かな通信トラヒック量の予測を行う必要がある。これは、通信品質サービスが向上し、余分な無線リソースを与えないので無線リソースを効率的に利用できる。更に、適切な通信トラヒックの予測ができるので、使用すべき無線リソースが的確であることから、無線リソース制御システムの負荷を軽減することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、通信サービス提供者が見積もるべき各セル毎の未来の通信トラヒック量は、過去の通信トラヒック量のみから予測するものであった。従って、交通トラヒック等の様々な要因によって変化する通信トラヒック量を、より正確に予測することはできなかった。
【0006】
そこで、本発明は、交通トラヒック等の様々な要因によって変化する通信トラヒック量をより正確に予測するために、通信トラヒック予測装置を有する移動通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における移動通信システムによれば、
車両に搭載された移動局と、移動局の通信情報を交換するものであって、移動局が搭載された車両の車両種別又はエリア別毎の通信トラヒック量を検知する交換機と、車両の車両種別又はエリア別毎の交通トラヒック量を検知する交通トラヒックモニタと、未来の通信トラヒック量を導出する通信トラヒック量予測装置とを有しており、通信トラヒック量予測装置は、交通トラヒックモニタが検知する交通トラヒック量から、時系列予測モデルを用いて、車両種別又はエリア別毎の未来の交通トラヒック量を予測する交通トラヒック量予測手段と、車両種別又はエリア別毎の現在以前の交通トラヒック量と、車両種別又はエリア別毎の現在以前の通信トラヒック量との関係に基づき、車両種別又はエリア別毎の現在以前の交通トラヒック量と、車両種別又はエリア別毎の未来の交通トラヒック量から、未来の通信トラヒック量を導き出す通信トラヒック量予測手段とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明の移動通信システムにおける他の実施形態によれば、
通信トラヒック量予測手段は、未来の通信トラヒック量の導出に時系列予測モデルを用いることも好ましい。
【0009】
また、本発明の移動通信システムにおける他の実施形態によれば、
交通トラヒック量予測手段及び通信トラヒック量予測手段が使用する時系列予測モデルは、カルマンフィルタ方程式を用いたARIMAモデル、時変係数ARモデル又はFARIMAモデルであることも好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の通信トラヒック予測装置を有する移動通信システムは、交通トラヒック等の様々な要因によって変化する通信トラヒック量をより正確に予測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するための最良の実施形態について、以下では図面を用いて詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明による移動通信システムの第1の実施形態の構成図である。該システムは、複数の車両と、車両を検知するセンサ2と、車両内端末と通信するアンテナ3と、車両の交通トラヒックを検知する交通トラヒックモニタ4と、車両内端末の通信情報を交換する交換機5と、通信トラヒック量予測装置1とを有する。この場合、交通トラヒックモニタ4は、車両種別及びエリア別毎の交通トラヒックを検知するものである。従って、交通トラヒックモニタから通知される交通トラヒック量は、車両種別及びエリア毎の交通トラヒック量となる。
【0013】
図1は、交換機が、車両種別、エリア別及び通信サービス種別毎の通信トラヒック量(入呼量:Offered Traffic)を検知する場合に適用される。従って、交換機から通知される通信トラヒック量は、車両種別、エリア別及び通信サービス種別毎の通信トラヒック量となる。これは、交換機に記録される各入呼情報に、発呼端末が搭載される車両種別、エリア別及び通信サービス種別の情報を格納することにより実現する。これにより、各情報種別毎の交通トラヒック量と通信トラヒック量との関係付けをすることが可能となる。
【0014】
通信トラヒック量予測装置1は、交通トラヒック取得機能11と、通信トラヒック量取得機能12と、交通トラヒック量予測機能17と、多変量解析機能19と、通信トラヒック量予測機能15とを有する。交通トラヒック取得機能11は交通トラヒックモニタ4から時系列データとして交通トラヒック量を受信し、通信トラヒック取得機能12は交換機5から時系列データとして通信トラヒック量を受信する。交通トラヒック量予測機能17は、現在以前の交通トラヒック量から未来の交通トラヒック量を予測する。多変量解析機能19は、通信トラヒック量から多変量解析結果によって得られた要素毎の通信トラヒック量を、通信トラヒック量予測手段へ通知する。通信トラヒック量予測機能15は、要素毎の現在以前の交通トラヒック量の項及び要素毎の現在以前の通信トラヒック量の項から得られた関係式と、交通トラヒック量予測機能17からの要素毎の未来の交通トラヒック量とから、未来の通信トラヒック量を導き出す。
【0015】
多変量解析手段19は、車両種別、エリア別及び通信サービス種別毎の通信トラヒック量について、主成分分析、因子分析又はクラスタ分析等を行うものであり、それぞれ主成分、因子又はクラスタ等が得られる。これにより、車両種別等毎の通信トラヒック量ではなく、要素毎の通信トラヒック量が得られるので、予測に十分な情報量が得られる。これは、予測精度の信頼性向上につながる。
【0016】
通信トラヒック量予測機能15は、例えば、次の重回帰式を求め、それを利用することによって、未来時刻t+1での通信トラヒック総量Y(t+1)を求めることができる。
【0017】
Y(t):時刻tでの通信トラヒック総量
i(t):時刻tでの種別i(又は要素i)の通信トラヒック量
X(t):時刻tでの交通トラヒック総量
i(t):時刻tでの種別i(又は要素i)の交通トラヒック量
j(t):時刻tでの天候状況情報又は道路状況情報(情報種別j)
K:定数値
【0018】
【数1】

として、
【0019】
【数2】

により求める。
【0020】
また、交通トラヒック量予測機能17及び通信トラヒック量予測機能15は、時系列予測手法を用いる。ここでは、カルマンフィルタ方程式を用いたARIMA(Auto-Regression Integrated Moving Average)モデル、時変係数ARモデル又はFARIMA(Fractional ARIMA)モデル等を利用する。
【0021】
図1には、更に、交通トラヒック量予測機能17で用いられる予測モデル更新機能18と、通信トラヒック量予測機能15で用いられる予測モデル更新機能16とを有する。これらは、実際に必要となった交通トラヒック量又は通信トラヒック量に基づいて予測モデル(即ち、前述の関係式)を更新するものである。
【0022】
図1には、更に、過去の交通トラヒック量の変動情報を記録した交通トラヒックデータベース13と、過去の通信トラヒック量の変動情報を記録した通信トラヒックデータベース14とを有する。これにより、通信トラヒック量予測機能15は、変動情報を考慮した未来の通信トラヒック量を予測することができる。変動情報としては、例えば曜日による変動がある。休日では、車両種別としては自家用車等が多く且つ通信情報としては娯楽情報等が多いが、通常日では車両種別としては作業用車両等が多く且つ通信情報としては交通迂回情報等が多い。
【0023】
図1には、更に、道路状況情報を記録した道路情報取得手段101と、天候状況情報を記録した天候情報取得手段102とを有する。これにより、通信トラヒック量予測機能15は、道路状況及び天候状況に基づいて未来の通信トラヒック量を予測することができる。例えば、道路状況としてはカーブ、トンネル、勾配又は事故等の情報があり、天候状況として晴れ又は雨等の情報がある。これらの状況によっては、その場所での通信トラヒックが急増することになる。尚、通信トラヒック量予測機能15は、渋滞状況も検知し、これも考慮するものである。
【0024】
図2は、本発明による移動通信システムの第2の実施形態の構成図である。図2には、図1と比較して多変量解析機能19が設けられていない。この場合の通信トラヒック量予測機能15は、車両種別、エリア別及び通信サービス種別毎の未来の通信トラヒック量を導き出すことになる。これは、車両種別等毎の通信トラヒック量しか得られないので、予測に十分な情報量は得られないけれども、多変量解析機能19を設けないために実現が容易である。
【0025】
また、図2は、通信のための無線インタフェースに種別情報を格納することができない、又は交換機自体が種別毎の通信トラヒックを検知しない場合にも適用できる。この場合の通信トラヒック量予測機能15は、車両種別毎の現在以前の交通トラヒック量の項及び車両種別毎の現在以前の通信トラヒック量の項から得られた関係式と、交通トラヒック量予測機能17からの車両種別毎の未来の交通トラヒック量とから、未来の通信トラヒック量を導き出す。
【0026】
更に、図2は、交通トラヒックモニタ4も車両種別毎の通信トラヒックを検知しない場合にも適用できる。
【0027】
第1の場合として、交通トラヒックモニタ4は車両種別等の交通トラヒックを検知するが、交換機5は車両種別等の通信トラヒックを検知しない場合、通信トラヒック量予測機能15は、次の重回帰式によって、未来時刻t+1での通信トラヒック総量Y(t+1)を求めることができる。交通トラヒック量予測機能17は、目的の時刻t+1の交通トラヒック総量Xを求めることできる。
【0028】
【数3】

第2の場合として、交通トラヒックモニタ4も交換機5も車両種別等のトラヒックを検知しない場合、通信トラヒック量予測機能15は、次の重回帰式によって、未来時刻t+1での通信トラヒック総量Y(t+1)を求めることができる。
【0029】
【数4】

図3は、本発明による移動通信システムの第3の実施形態の構成図である。図3には、図2と比較して交通トラヒック量予測機能17及び予測モデル更新機能18が設けられていない。この場合の通信トラヒック量予測機能15は、過去の交通トラヒック量の項及び現在以前の通信トラヒック量の項から得られた関係式から、未来の通信トラヒック量を導き出す。
【0030】
第1の場合として、交通トラヒックモニタ4は車両種別等の交通トラヒックを検知するが、交換機5は車両種別等の通信トラヒックを検知しない場合、通信トラヒック量予測機能15は、次の重回帰式によって、未来時刻tでの通信トラヒック総量Y(t)を求めることができる。
【0031】
【数5】

第2の場合として、交通トラヒックモニタ4も交換機5も車両種別等のトラヒックを検知しない場合、通信トラヒック量予測機能15は、次の重回帰式によって、未来時刻tでの通信トラヒック総量Y(t)を求めることができる。
【0032】
【数6】

図3の通信トラヒック量予測機能15では、MARMAX(Multiple ARMAX)等の手法によって、各車種別の交通トラヒック量を用いて所要通信トラヒック量を求めることもできる。MARMAXを用いる場合、交通トラヒック量予測機能、交通トラヒック日変動データベースは不要となる。
【0033】
MARMAXとは、求めるべき変数(出力変数y)と、使用可能な変数(入力変数x)とが異なる場合に、その変数間の関係を外因(雑音e)を含めて求めるモデルをいう。
【0034】
前述した本発明の通信トラヒック予測装置を有する移動通信システムの種々の実施形態は、道路上の車両内端末における移動通信システムについて説明したが、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。移動局が道路上の車両内端末に限られることなく、例えば歩行中の人が持つ携帯端末にも応用することは可能である。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【0035】
以上、詳細に説明したように、本発明の通信トラヒック予測装置を有する移動通信システムは、交通トラヒック等の様々な要因によって変化する通信トラヒック量をより正確に予測することができる。
【0036】
また、交通トラヒック量を用いて、未来の通信トラヒック量の予測をするために、より正確な通信トラヒック量の需要予測が可能となる。
【0037】
更に、多変量解析機能19を用いることによって、要素毎の通信トラヒック量から予測することにより、予測に十分な情報量が得られ、予測精度の信頼性を向上させることができる。
【0038】
更に、本発明では、実現を容易にするために、多変量解析機能19を用いる必要のない構成についても開示している。また、通信のための無線インタフェースに種別情報を格納することができない、又は交換機自体が種別毎の通信トラヒックを検知しない場合にも、本発明を適用できる。
【0039】
従って、本発明によれば、多様な通信サービス等毎に通信トラヒック量が予測できる。正確な通信トラヒック量の予測は、適切な無線リソースの配分につながるので、周波数帯域の有効利用に貢献することが可能となる。これは、使用すべき無線リソースが的確であるために、無線リソース制御システムの負荷を軽減することができる。また、きめ細かな通信トラヒック量の予測を行う必要がある、ITSのような次世代通信システムにおいても、通信品質サービスをより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明による通信トラヒック予測装置を有する移動通信システムの第1の実施形態の構成図である。
【図2】本発明による通信トラヒック予測装置を有する移動通信システムの第2の実施形態の構成図である。
【図3】本発明による通信トラヒック予測装置を有する移動通信システムの第3の実施形態の構成図である。
【符号の説明】
【0041】
1 通信トラヒック予測装置
11 交通トラヒック量取得機能
12 通信トラヒック量取得機能
13 交通トラヒックデータベース
14 通信トラヒックデータベース
15 通信トラヒック量予測機能
16 予測モデル更新機能
17 交通トラヒック量予測機能
18 予測モデル更新機能
19 多変量解析機能
101 道路情報取得機能
102 天候情報取得機能

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された移動局と、
移動局の通信情報を交換するものであって、移動局が搭載された車両の車両種別又はエリア別毎の通信トラヒック量を検知する交換機と、
車両の車両種別又はエリア別毎の交通トラヒック量を検知する交通トラヒックモニタと、
未来の通信トラヒック量を導出する通信トラヒック量予測装置と、
を有しており、
通信トラヒック量予測装置は、
交通トラヒックモニタが検知する交通トラヒック量から、時系列予測モデルを用いて、車両種別又はエリア別毎の未来の交通トラヒック量を予測する交通トラヒック量予測手段と、
車両種別又はエリア別毎の現在以前の交通トラヒック量と、車両種別又はエリア別毎の現在以前の通信トラヒック量との関係に基づき、車両種別又はエリア別毎の現在以前の交通トラヒック量と、車両種別又はエリア別毎の未来の交通トラヒック量から、未来の通信トラヒック量を導き出す通信トラヒック量予測手段と、
を有することを特徴とする移動通信システム。
【請求項2】
通信トラヒック量予測手段は、未来の通信トラヒック量の導出に時系列予測モデルを用いること、
を特徴とする請求項1に記載の移動通信システム。
【請求項3】
交通トラヒック量予測手段及び通信トラヒック量予測手段が使用する時系列予測モデルは、カルマンフィルタ方程式を用いたARIMAモデル、時変係数ARモデル又はFARIMAモデルであること、
を特徴とする請求項2に記載の移動通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−12086(P2007−12086A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235446(P2006−235446)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【分割の表示】特願平11−288052の分割
【原出願日】平成11年10月8日(1999.10.8)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】