説明

通信ネットワーク

【解決手段】 (例えばVoIP通話用の)時間重視のパケットのための経路を維持するために、データ・パケットのダミー・フローが、ホーム・ハブ・ルータ20とIPネットワークへの最初のゲートウェイである広帯域遠隔アクセス・サーバ25との間に確立される。電話23から通話がなされると、ダミー・フローは通話の間、VoIP通話のために生成されたパケットによって置換される。ダミー・フローは、許容できる遅延を持つ最小帯域が利用可能であることを保証するために送信されるデータ・パケットの数を増減することによって調整される。ダミー・フローは、時間重視でないもの(すなわちP2Pデータ・パケット・フロー)を退かせることによって機能し、ネットワーク内に組み込まれているルータ等に対して何の変更も必要ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクションレス通信ネットワークに関し、特に帯域が複数の使用者によって共用されるそのようなネットワークに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネット・プロトコル・ネットワーク(IPパケット・ネットワーク)の使用者に影響を与える最も重大な問題は、サービスの質(QoS)が補償されないことである。この結果、例えばVoIP通話を行なうことが可能である一方で、パケット遅延によって通話の質が粗末なものになる。
【0003】
ファイル共有が、VoIP通話の最初に確立する際に遅延を起こし得るというさらなる問題がある。その理由は、ピア・ツー・ピア・ファイル共有ネットワークは、ファイル転送速度を上げるために、その優先順位が比較的低いにも関わらず、利用可能な帯域の全てを使用するからである。
【0004】
したがって、ネットワーク上での輻輳は、遅れたり失われたりしたパケットが、約300msec(音声)の有用時間(time-useful)ウィンドウしか有さないゆえに再送され得ないため、特に双方向VoIPまたは動画通話にとって特に問題である。したがって、バックボーンまたはMボーンを外れたネットワークの使用が増加し、またホーム・ルータ上での局所無線ネットワーク機構「ピギーバック」ゆえに、高優先度または時間重視の(タイムクリティカルな(time-critical))送信は保護される必要がある。
【0005】
時間重視の送信に対する保護を導入する試みがなされてきたが、それらの多くはルータおよび他のネットワーク共用設備に対して複雑な変更を施すことを含んでいる。この1つの例は、EP0706297に見られる。EP0706297は、ATM切り替えで輻輳を制御する方法を記述している。この方法は、UDP、TCPに対しては実際には効果を持たないとともにピア・ツー・ピア・トラフィックが多い場合にはあっさりと輻輳が最大になる硬直的な輻輳制御機構をもたらす。
【0006】
既知の別の仕組みは、US2004/0172464に開示されている。これは、2つのサイト(現実には、おそらく2つの接続されたビジネス上の位置)の間に2つのQoSクラスを定める。この仕組みは、2つの場所の間のパイプの両端において、リアル・タイムのトラフィックのためにこのパイプの一部を確保しておく(事実上、仮想的な賃貸されたライン)受け入れ制御アルゴリズムを有することによって実現されている。厳格なQoS割り当てを課すことに対する要求があり、また、両端においてゲートウェイまたはルータを変更する必要があり得る。
【0007】
IPネットワーク上でスピードが重視されるパケットが優先されるようにする問題に対する別の解決策が提案されている。これには、ATMまたはMPLSのような下層のネットワーク構成要素を用いること、詳細なパケット検査技術を用いること、サービスに優先順位をつけること、終端対終端輻輳通知機構、極端なものにはネットワークをさらに提供すること、が含まれる。
【0008】
これらの解決策は、全て、用いられているルータに対する変更やプロトコルの変更が必要になることに関連する著しい費用または複雑な問題を有しており、この問題をIPレイヤー9から移動することになってIPを用いる利点が減少したり、トラフィックのフローが上がると高価になる。詳細パケット検査法は、パケットが暗号化されていると機能しないというさらなる欠点を有している。
【0009】
公共のIPネットワークにおけるQoSの問題のほとんどは、フローは利用可能な帯域とは無関係にネットワーク容量を埋め尽くすピア・ツー・ピア・トラフィックに起因しているので、運用者は、QoS機構を導入することなく音声または動画サービスを提供することが困難となる。P2Pトラフィックは、これらのサービスを、これらのサービスからは特に悪影響を受けることなく、悪影響を与えるからである。
【特許文献1】欧州特許第0706297号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0172464号明細書
【発明の開示】
【0010】
本発明によれば、共用通信ネットワーク内で帯域を確保する方法であって、
前記ネットワークの第1ノードと第2ノードとの間で予め定められたレートでダミー・データ・パケットのストリームを送信する工程と、
前記第2ノードから前記第1ノードに送信された対応するダミー・データ・パケットのストリームを受信する工程と、
前記第1、第2ノードの間の遅延および(または)パケット紛失を割り出す工程と、
前記パケットの遅延および(または)紛失を、それ以下では後続の時間重視の(time critical)トラフィックについてのサービスの質が不十分となる閾値と比較する工程と、
前記サービスの質が不十分な場合に前記第1、第2ノードの間のダミー・データ・パケットの送信レートを上げる工程と、
を備える方法が提供される。
【0011】
前記第1、第2ノードの間で前記ダミー・データ・パケットを送信することは、トラフィックの輻輳が高まることが予想される予め定められた時点に生じ得るか、時間重視のトラフィックが前記第1、第2ノードの一方で開始する時点に先立つ予め設定された時点に生じ得る。
【0012】
本発明の特徴によれば、通信システムであって、前記システムは前記システムの1つのノードにおける制御手段が前記システムの少なくとも1つの別のノードへの保障された経路を前記少なくとも1つの別のノードにダミー・データ・パケットのストリームを送信することによって確立するとともに前記別のノードから対応するダミー・データ・パケットのストリームを受け取る共用通信ネットワークを備え、前記制御手段が、前記送信の際の遅延および(または)パケット紛失を割り出し、サービスの質が時間重視のデータ・パケットを満足に送信するための予め定められた閾値を下回っている場合に前記ダミー・データ・パケットの送信レートを上げる、通信システムが提供される。
【0013】
前記第1、第2ノードの間で前記ダミー・データ・パケットを送信することは、トラフィックの輻輳が高まることが予想される予め定められた時点に生じ得るか、時間重視のトラフィックが前記第1、第2ノードの一方で開始する時点に先立つ予め設定された時点に生じ得る。
【0014】
前記1つのノードで開始する時間重視のデータ・パケット・ストリームの開始を検出した際に、前記制御手段は時間重視のパケットを前記ダミー・データ・パケットと置き換え得、また、前記時間重視のデータ・ストリームの送信の完了の際に、前記制御手段は前記ダミー・データ・パケットを送信することを再開し得る。
【0015】
本発明の特徴に従った通信ネットワークおよび本発明の方法の使用法が、添付の図面をあくまで例として参照しながら、次に説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、回路エミュレーション機構であるIETF IntServシステムと時に呼ばれる、従来技術の解決策を引き続き考察するべきである。この機構は、パケットがあらゆる個数の異なる経路を介して流れるはずである通常の原理とは対照的に、パケットに対して特定の経路を設ける。続いて図4を参照すると、データ経路1上にある各ルータは、フローのために特定の帯域を確保していなければならない。フローの仕様は、RSVPプロトコルを用いてネットワークを介して知らされ、また各ルータは(ルータの変更を要求する)特定のソフトウェア上で動作することが必要になっているとともに付加的な理およびルータのメモリを必要とする多数のキューを生成する。この機構は大きなネットワーク内では管理することが困難であり、また、ルータが1つでも帯域外で動作すると、上記の確保しようとする試みが失敗する。
【0017】
帯域について協調する複雑なシステムが必要であり、また、確保を行なう際の遅れは非常に長くなることがあり、次の、例えばVoIP通話上でのユーザの番号をかける動作が遅れる結果となる。この機構をより大きなネットワークへと広げようとすると、深刻な問題も生じる。
【0018】
次に、図1を参照すると、本発明は、最低限のパケット遅延を有る程度保証する必要がある場合にユーザが帯域を利用できることを確実にするという課題に対する簡単な解決策を提供する。多数(簡略化のために2個のみが図示されている)のルータ3を備えるIPネットワーク2は、例えば別のネットワーク・ユーザ4、5によって引き起こされるP2Pトラフィックに起因する輻輳にさらされ得る。
【0019】
第1ユーザ端末6が第2ユーザ端末7への保証された経路を必要としているとすると、端末6はデータ・パケットの連なりを送信し始める。時間とともに、このデータ・パケットのフローは、輻輳が生じた結果、優先度のより低いデータ・パケットを退ける。これが起こるのには、保証されたフローの要求に先立ってダミー・データ・パケットのフローを確立することによってスピードが重視されるデータ・パケットの送信の要求に先立って端末6、7間で経路が確立されるようにするために、ある程度の時間がかかる。したがって、端末6のユーザが保証されたフローを要求する際に、スピードが重視されるパケットはダミー・データ・パケットのフローに置換される。これは、スピードが重視されるデータ・パケットのためのフローを、輻輳しているネットワーク内で要求があったときに確立しようとするよりもずっと旨く機能する。
【0020】
したがって、ダミー・フローがP2Pトラフィックを制限し(このような制限がないと、P2Pトラフィックによって利用可能な帯域の全てが使い尽くされる)、P2Pトラフィックが退くまで待っている間に著しい遅延をもたらすことなしに、音声または映像通話を確立することが可能である。
【0021】
図1は、本発明の概念を最も簡単な形態で示している。これが、標準的なTCP/IPスタック上に位置している特別なネットワーク・ソフトウェアを動かす端末ノード6、7に基づいているので、ルータまたは他のネットワーク構成部品に対する変更は全く必要ない。
【0022】
したがって、図2を参照すると、本発明を実行するのに唯一求められている調整は、その間にダミー・フローが確立される予定の端末点を変更することである。ダミー・フロー・アプリケーション8は、最大100msの遅延で64kb/secのフローを監視するとともにこのフロー・レートが維持されるようにパケット送信を調整する標準的なパケット・フローと同様に、RCP/UDPを用いるTCP/IPスタック上に位置している。これは、リアルタイム・フローについては普通であるようにRTCPフィードバックを用いて行なわれ、またRTP/RTCP層9の動作に対して何の変更も必要ない。
【0023】
したがって、UDP層10、IP層11、および物理層は、本発明を実行することによって何も変更しない。また、RTCPレスポンスを監視することによって、P2Pトラフィックを輻輳している経路から退けるとともにダミー・フロー層8とアプリケーション・インターフェース(例えばVoIP12)との間のインターフェースが輻輳を引き起こしている他のトラフィック・フローが停止するのを待つことなくすぐに確立された経路を用いることができるようにダミー・フロー・アプリケーションが必要に応じて64kBits/sec以上へと送信レートを増やすことができる。
【0024】
本発明の利点の例を検討するために、次に、図3を参照する。図3は、別のいわゆる広帯域トラフィックと共用されているVoIPネットワークの一部を示している。ルータまたはDSLモデム20(これは、時に「ホーム・ハブ(Home Hub)」と呼ばれる)は、多くのコンピュータ21、22、および例えば家庭電話23によって共用されているかもしれない。家庭用ビデオ・レコーダー(図示せず)のような別の装置も、時間重視でないダウンロードするのに家庭用ハブを用いているかもしれず、また、非常警報器のような装置が時間重視でない通信モードで非常事態サービスに接続するためにホーム・ハブを用いているかも知れない
多くのDSL広帯域接続において、アップリンク帯域は、ダウンリンク帯域よりも著しく狭い。ADSLにおける典型的な違いは、256kBit/sのアップリンクと2MBit/sのダウンリンクである。したがって、家庭におけるユーザの誰かが(例えば映画を後で観るためにレコーダーにダウンロードするために)時間重視でない通信のために全アップリンクまたは全ダウンリンクを使用している場合、同じDSLリンクを用いて電話23から音声通話を行なおうとしても、みな失敗するであろう。
【0025】
そこで、ルータ20と例えば広帯域遠隔アクセス・サーバ(B−RAS)25との間にディジタル加入者線アプリケーション・マルチプレクサ(DSLAM)24を用いてダミー・フローを確立することによって(DSLAM24は、これを実施することによって影響を受けず、本発明を実行するための変更は全く必要ない)、時間重視のパケットのための保証された経路が利用可能になるとともにPSTNのPOTSの側面の一部として受け入れられることになった「インスタント・テレフォニー(instant telephony)」の類のものを、電話または広帯域アプリケーションのための別のラインを必要とすることなく引き続き提供することができる。
【0026】
B−RAS24への経路(これは顧客とIPネットワークとの間の最初のゲートウェイである)が保証されることによって、通話や動画通話を即座に構成する際の遅延を回避することができる。この結果、電話23と電話26との間の通話は、ルータ20とB−RAS25との間の別のIPトラフィックによって悪影響を受けない。
【0027】
本発明は、ダミー・フロー・トラフィックの具体的な値を参照して記述されたが、予測されるトラフィックの種類に応じて、トラフィックのより高いまたは低い保証されたフローが提供されてもよい。同様に、保証されたパケット・フローがアプリケーション層12によって引き継がれるのと同時に、1つ目のフローが用いられていながらさらなるリアルタイム・アプリケーションの開始に備えてスピードが重要でないパケットを退けるために新たなダミー・フローが開始されてもよい。
【0028】
ダミー・フロー・アプリケーションは、トラフィック量が多いときのみ、またはホーム・ハブ20が輻輳することが予想される予め定められたときに動作し得る。したがって、ダミー・フロー・アプリケーション8は、事前設定された時間帯のみ動作し得る。この事前設定された時間帯は、1日における時刻/1週間における時刻によって、またはホーム・ハブ20において輻輳が起こりそうな時間を突き止めることを含めることによって、変えることができる。
【0029】
本方法は、家庭用(ホーム・ハブ)アプリケーションに適用されるだけでなく、あらゆる種類のLAN、無線ネットワーク等においても同様に実施され得る。特に、無線ネットワークが共同体で共用される場合、無線ルータの所有者は、自身の時間重視のパケット・フローのために保証された通信フローを要求するとともに例えば営業時間の間P2Pトラフィックを退ける必要があるかもしれない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】IPネットワーク内で、簡略化された形での実施の概要を示している。
【図2】用いられているネットワーク層を概略的に示している。
【図3】DSLまたはADSL通信環境で本発明を用いることを示す概略的なブロック図である。
【図4】従来技術の仕組みの概略的なブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共用通信ネットワーク内で帯域を確保する方法であって、
前記ネットワークの第1ノードと第2ノードとの間で予め定められたレートでダミー・データ・パケットのストリームを送信する工程と、
前記第2ノードから前記第1ノードに送信された対応するダミー・データ・パケットのストリームを受信する工程と、
前記第1、第2ノードの間の遅延および(または)パケット紛失を割り出す工程と、
前記パケットの遅延および(または)紛失を、それ以下では後続の時間重視の(time critical)トラフィックについてのサービスの質が不十分となる閾値と比較する工程と、
前記サービスの質が不十分な場合に前記第1、第2ノードの間のダミー・データ・パケットの送信レートを上げる工程と、
を備える方法。
【請求項2】
前記第1、第2ノードの間で前記ダミー・データ・パケットを送信することが、トラフィックの輻輳が高まることが予想される予め定められた時点に生じる、請求項1の方法。
【請求項3】
前記第1、第2ノードの間で前記ダミー・データ・パケットを送信することが、時間重視のトラフィックが前記第1、第2ノードの一方で開始する時点に先立つ予め設定された時点に生じる、請求項1または2の方法。
【請求項4】
通信システムであって、前記システムは前記システムの1つのノードにおける制御手段が前記システムの少なくとも1つの別のノードへの保障された経路を前記少なくとも1つの別のノードにダミー・データ・パケットのストリームを送信することによって確立するとともに前記別のノードから対応するダミー・データ・パケットのストリームを受け取る共用通信ネットワークを備え、
前記制御手段が、前記送信の際の遅延および(または)パケット紛失を割り出し、サービスの質が時間重視のデータ・パケットを満足に送信するための予め定められた閾値を下回っている場合に前記ダミー・データ・パケットの送信レートを上げる、
通信システム。
【請求項5】
前記制御手段が、選択されたノード相互間の輻輳が高いことが予想される予め定められた時点に前記ダミー・データ・パケットの送信を行なう、請求項1の通信システム。
【請求項6】
時間重視のトラフィックが前記ノードの1つにおいて開始することが予想される時点に先立つ予め定められた時点に前記ダミー・データ・パケットの送信を行なう、請求項4の通信システム。
【請求項7】
前記1つのノードで開始する時間重視のデータ・パケット・ストリームの開始を検出した際に、前記制御手段が時間重視のパケットを前記ダミー・データ・パケットと置き換える、請求項4、5、6のいずれか1項の通信システム。
【請求項8】
前記時間重視のデータ・ストリームの送信の完了の際に、前記制御手段が前記ダミー・データ・パケットを送信することを再開する、請求項7の通信システム。
【請求項9】
前記ノードの1つが共用家庭内ルータであって、前記制御手段が前記家庭内ルータに取り付けられている端末内に位置する、請求項4乃至8のいずれか1項の通信システム。
【請求項10】
前記共用家庭内ルータが無線ハブである、請求項9の通信システム。
【請求項11】
前記無線ハブがVoIP通話を送信する、請求項10の通信システム。
【請求項12】
前記ノードの1つが広帯域遠隔アクセス・サーバである、請求項4乃至11のいずれか1項の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−531912(P2009−531912A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−502178(P2009−502178)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000696
【国際公開番号】WO2007/113460
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(390028587)ブリティッシュ・テレコミュニケーションズ・パブリック・リミテッド・カンパニー (104)
【氏名又は名称原語表記】BRITISH TELECOMMUNICATIONS PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】