説明

通信方法および無線端末

【課題】アドホック無線ネットワークにおいて効率的かつ有効な通信を行う手段を提供する。
【解決手段】アドホック無線通信ネットワークにおける通信方法であって、互いに異なるマーカIDを付された複数のマーカが道路に設置されており、中継端末は、最寄りのマーカからマーカIDを取得し、パケットを受信した際に、パケットに格納されているマーカIDと、最寄りのマーカから所得したマーカIDとを比較して、パケットを中継するか否かを決定する。マーカの設置間隔は、その場所における電波到達距離に応じて調整されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1又は複数の中継端末を介して無線端末間で無線通信をするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線端末が1又は複数の中継端末を介して他の無線端末と通信を行う、いわゆるアドホック無線ネットワークでは、パケットを目的の無線端末に届けるためにどのように中継するかが重要となる。
【0003】
最も簡単な方法としては、パケットを受信した全ての無線端末が隣接する無線端末に対してパケットを中継送信する方法がある。このように隣接する無線端末に中継送信を繰り返すことで、ネットワーク内の全ての無線端末に情報を配信することができる。この方法は、フラッディング法と呼ばれている。この方法では、パケットを受信した無線端末の全てが中継送信を行うため、過剰な中継により無線帯域が消費されてしまう。また、隣接する無線端末同士で電波の衝突が起こりやすい。
【0004】
中継回数を減らす中継端末決定方法として、特許文献1,2に記載の技術が知られている。すなわち、各無線端末が経路制御情報(ルーティングテーブル)を保持しており、この経路制御情報に基づいて中継を行う無線端末を決定する方法である。
【0005】
また、経路制御情報を利用せずに中継端末を決定する方法として、GPS(Global Positioning System)を利用する方法が知られている。この方法では、中継端末が自端末と送信端末との相対位置(距離)をGPSにより把握し、この相対位置に基づいてパケットを中継するか否かを決定する。
【特許文献1】特開2003−8591号公報
【特許文献2】特開2001−358641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような従来技術では、下記のような問題が生じていた。
【0007】
経路制御情報を用いる方法では、データパケットの通信を開始する前に、経路制御情報を作成するための余計なトラフィックが発生する。特に、移動端末(例えば車載端末)間のネットワークのように、ネットワークトポロジーが頻繁に変化する場合には、その都度経路制御情報を更新しなければならないため非効率である。
【0008】
GPSを用いる方法では、経路制御情報は必要ない。しかしながら、この方法は、電波の到達距離が場所に依らず一定であるという仮定に基づいているため、見通しの悪い曲線道路や遮蔽物の多い市街地などの電波の到達可能な距離が短くなる場所では有効ではない。
【0009】
本発明は上記実情を鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、アドホック無線ネットワークにおける効率的かつ有効な通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明では、道路に設置されたマーカを利用する。マーカは、一意のID(マーカID)を有しており、このマーカIDを端末に通知する手段を有す
る。この手段は、マーカから電波や光や音波などを放射して通知する能動的(アクティブ)な方法であっても良く、端末から放射された電波や光や音波などを反射することで通知する受動的(パッシブ)な方法であっても良い。
【0011】
このようなマーカを道路に設置することは、道路を分割し各区間にIDを付したことと等価である。すなわち、マーカIDはマーカに対する識別子であると同時に、道路の区間に対する識別子でもある。このようにマーカを設置したことにより、端末は最寄りのマーカからマーカIDを取得するだけで自端末の位置する区間を認識することができる。
【0012】
具体的なマーカの構成は、アクティブな方法を用いる例として、道路や路側に埋設されたRF−ID(Radio Frequency Identification)や磁石など、または電波や光や音波を放射する路側機などがある。またパッシブな方法を用いるマーカの構成としては、例えば、道路や路側に埋設されたミリ波反射板などがある。
【0013】
本発明の第1の態様は、送信端末と他の無線端末とが無線パケット通信を行う際に、中継端末がパケットの中継を行う通信方法である。ここで中継端末は、最寄りのマーカからマーカIDを取得し、パケットを受信した際に、前記パケットに格納されているマーカIDと、前記最寄りのマーカから取得したマーカIDとを比較して、パケットを中継するか否かを決定する。
【0014】
マーカIDに基づいた決定を行うため、経路制御情報は不要である。したがって、経路制御情報を作成するための通信を行う必要もなく、効率的な通信が可能となる。
【0015】
また、前述したようにマーカIDは道路の区間を特定するものであるので、マーカIDの比較により道路上の区間距離に応じた中継が可能となる。これは、電波の到達距離が2地点間の直線距離では判断できない状況で有効である。
【0016】
ここで、マーカの設置間隔は、その設置場所における電波到達距離に応じて調整されることが好ましい。例えば、隣接するマーカ間の設置間隔あるいは一定数離れたマーカ間の設置間隔が、その設置場所における電波到達距離と等しくなるように各マーカを設置する。具体的には、曲線道路におけるマーカの設置間隔を、直線道路におけるマーカの設置間隔よりも短くすることなどが考えられる。一般に、電波到達距離は、直線道路よりも曲線道路においてのほうが短いからである。これにより、中継端末は実際の電波到達距離に基づいて中継判断を行うことが可能となる。
【0017】
最も効率的な中継方法は、電波到達範囲の端部付近にある中継端末が中継送信することである。マーカの設置間隔を上記のように調整すれば、中継端末が電波到達範囲の端部に位置するかを容易に判断することができるので、効率的な中継判断を行うことが可能となる。
【0018】
本発明の第1の態様における中継端末決定方法は、以下の処理により行われても良い。すなわち、送信端末は、最寄りのマーカからマーカIDを取得し、このマーカIDから中継位置のマーカIDを算出し、算出された中継位置のマーカIDをパケットに格納して送信する。そして、このパケットを受信した中継端末は、自端末が最寄りのマーカから取得したマーカIDと、パケットに格納されている中継位置のマーカIDとが一致する場合に、パケットを中継する。
【0019】
また、本発明の第1の態様における中継端末決定方法は、以下の処理により行われても良い。すなわち、送信端末は、最寄りのマーカからマーカIDを取得し、このマーカIDをパケットに格納して送信する。このパケットを受信した中継端末は、パケットに格納さ
れているマーカIDから中継位置を算出し、算出された中継位置のマーカIDと、自端末が最寄りのマーカから取得したマーカIDとが一致する場合に、パケットを中継する。
【0020】
これらの中継端末決定方法において、送信端末のマーカIDから中継位置のマーカIDを決定する処理は、例えば以下の方法によって行われる。中継位置は、電波到達範囲内にあって送信端末からもっとも遠いマーカのマーカIDとして算出されることが好ましい。また例えば、送信元のマーカIDと中継位置のマーカIDとを対応付けたテーブルをあらかじめ保持しており、このテーブルを用いて決定するようにしても良い。なお、算出される中継位置のマーカIDは、一つである必要はなく、複数であっても良い。この場合、最寄りのマーカから取得したマーカIDが中継位置のマーカIDに一致するとは、最寄りのマーカから取得したマーカIDが、複数ある中継位置のマーカIDの少なくとも一つと一致することを意味する。
【0021】
本発明の第2の態様は、送信端末と他の無線端末とが通信する際に、パケットを中継するために用いる無線端末であって、マーカID取得手段と無線通信手段とを含む。
【0022】
マーカID取得手段は、道路に設置されたマーカから、マーカに付されたマーカIDを取得する。無線通信手段は、受信したパケットに格納されているマーカIDと、マーカID取得手段により取得した最寄りのマーカのマーカIDとを比較して、パケットを中継するか否かを決定する。
【0023】
このようにマーカIDに基づいた決定を行うため、経路制御情報が不要となる。したがって、経路制御情報を作成するための通信を行う必要がなく、効率的な通信が可能となる。
【0024】
また、マーカIDの比較をすることで、道路上の区間距離に応じた中継が可能となる。これは、電波の到達距離が2地点間の直線距離では判断できない状況で有効である。
【0025】
本発明の第2の態様における無線通信手段は、以下のように構成されても良い。すなわち、無線通信手段は、送信端末が中継位置としてパケットに格納したマーカIDと、マーカID取得手段により取得したマーカIDとが一致する場合に、パケットを中継する。
【0026】
また、本発明の第2の態様における無線通信手段は、以下のように構成されても良い。すなわち、無線通信手段は、送信端末が最寄りのマーカから取得しパケットに格納したマーカIDを取得する。そして、無線通信手段は、このマーカIDから中継位置のマーカIDを算出する。そして、無線通信手段は、この算出された中継位置のマーカIDと、マーカID取得手段により取得した最寄りのマーカのマーカIDとが一致する場合に、パケットを中継する。
【0027】
また本発明は、第2の態様における無線端末を備える車両として構成されても良い。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、アドホック無線ネットワークにおいて効率的かつ有効な通信を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、本発明の実施形態を、添付図面を用いて説明する。
【0030】
(第1の実施形態)
<システム構成>
[無線端末]
本実施形態にかかるアドホック無線ネットワークでは、ネットワークを構成する無線端末は移動端末である。具体例として、車両に設けられた車載端末(移動端末)が車車間アドホック無線通信を行う例を挙げる。この車車間アドホック無線ネットワークでは、渋滞情報や事故情報を配信したり、エアバックの起動や急ブレーキに合わせて警告情報を配信したりすることで、円滑な交通の実現を支援する。
【0031】
図1は、本実施形態における無線端末を搭載した車両の構成を示す図である。車両1は、マーカID取得部2、マーカID記憶部3、アンテナ4、通信処理部5を有する。
【0032】
マーカID取得部2は、道路や路側に埋設もしくは路側に設置されるマーカ6からマーカIDを取得し、マーカID記憶部3に記憶する。マーカID記憶部3は、メモリとして構成される。マーカID取得部2の構成は、マーカ6の構成の説明の際に合わせて説明する。
【0033】
アンテナ4は、前方と後方に指向性を有している。これは、車両は通常道路上で直線状に並ぶため、左右に対しては電波を放射する必要がないからである。また、車両の左右には壁や建物などの障害物があることが多く、反射波により電波の干渉が起きてしまうことを防ぐためでもある。本実施形態では無線通信方式として、IEEE802.11xなどの無線LAN(Local Area Network)や、IEEE802.16やIEEE802.20などを想定しているが、他の方式を採用しても良い。
【0034】
通信処理部5は、マーカID記憶部3に格納されているマーカIDを利用して、アンテナ4により受信したパケットを中継するか否かの判断などを行う。なお、本実施形態では、アンテナ4と通信処理部5とが、無線通信手段を構成する。通信処理部5は、メモリなどに格納されたプログラムを実行するCPU(中央演算処理装置)などを有している。
【0035】
[マーカ]
マーカ6は、道路や路側に埋め込まれたRF−IDやミリ波反射板などとして、または電波や光や音波などを放射する路側機として構成される。
【0036】
マーカ6が道路又は路側に埋設されたRF−IDの場合は、マーカID取得部2はRF−IDリーダとして構成される。この場合、車両1はRF−IDリーダからRFエネルギーを放射しつつ移動する。RF−IDは、RFエネルギーによって電力の供給を受けると、マーカIDを搬送波に乗せて発信する。RF−IDリーダがこれを受信してマーカIDを取得する。
【0037】
マーカ6が道路又は路側に埋設されたミリ波反射板の場合は、マーカID取得部2はミリ波レーダとして構成される。この場合、車両1はミリ波レーダからミリ波を放射しつつ移動する。ミリ波レーダは、ミリ波反射板によって反射された反射波を受信して、その反射波からマーカIDを取得する。
【0038】
マーカ6が路側に設置された電波を放射する路側機の場合は、マーカID取得部2は無線受信機として構成される。また、マーカ6は電波ではなく、光や音波を放射する路側機として構成されても良い。この場合、マーカID取得部2には、それぞれ光や音波の受信機として構成される。マーカ6は、マーカIDを電波などに乗せて放射を続けていて、通信範囲内を通行する車両がマーカID取得部2によりその電波などを受信してマーカIDを取得する。
【0039】
[マーカの設置間隔]
図2には、路側に設置されたマーカ10乃至マーカ16が示されている。各マーカの設置間隔は、その位置における電波の到達距離に応じて調整されている。すなわち、隣接するマーカ間の設置間隔は、所定の基準出力の電波が到達する距離として決定されている。ここで、電波が到達する距離(電波到達距離)とは、その電波を使用して安定した通信を行える最大距離のことである。
【0040】
本実施形態においては前後方向に指向性の強いアンテナを用いているので、曲線道路においては前後の車両がボアサイト(主ビーム方向)から角度的に離れてしまう。このため、直線道路と比べると、電波の届く車間距離は短くなる。また曲線道路においては、道路沿いの構造物で車両間が遮蔽される場合も多々あり、これも直線道路と比べて電波の届く車間距離が短くなる原因となる。したがって、曲線道路におけるマーカ10乃至14の設置間隔は、直線道路におけるマーカ14乃至16の設置間隔よりも短くなっている。
【0041】
車両は、道路上のいずれの場所でもマーカIDを取得できることが好ましいが、マーカの設置間隔がマーカの交信距離より長い場合には、マーカIDを取得できない場所が存在することになる。この場合は、道路上のいずれの場所においてもマーカと交信できるようするために、補助のマーカを設置しそのマーカには隣接するマーカと同一のマーカIDを付すことが考えられる。また、補助のマーカは使用せず、車両はマーカ通過時にマーカIDを取得しマーカID記憶部3に格納して、次のマーカIDを取得するまではそのマーカIDを用いる方法も考えられる。このようにすることで、各車両は常に自車の位置をマーカIDにより把握することが可能となる。
【0042】
マーカの設置間隔は、基準出力の電波の電波到達距離で規格化されているので、各車両は、自車の電波出力に照らして、安定して電波が届く範囲が何個先のマーカまでかをあらかじめわかっている。以下、このマーカの個数を送信能力と呼ぶ。
【0043】
マーカには、所定のルールを用いてマーカIDが付されていることが好ましい。具体的には、あるマーカの位置から無線端末が送信した電波の到達位置が、送信元の位置のマーカIDと、その無線端末の送信能力とによって求められることが好ましい。図2では、道路上に並んだマーカに連番のマーカIDを付しており、マーカID10乃至16には、マーカIDとして1000乃至1006が付されている。このようにマーカに連番のマーカIDを付すことで、送信位置のマーカIDから、無線端末の送信能力を加算又は減算することで電波の到達位置が求まる。例えば、図2の車両22の送信能力が2であるとする。そうすると、車両22が送信する電波は最寄りのマーカのマーカIDである「1004」から送信能力の2を加算および減算したマーカID「1006」および「1002」まで到達することが分かる。
【0044】
このように、所定のルールを用いてマーカにマーカIDを付すことで、車両の場所に依らず常に同一の計算式を用いて電波の到達位置を求めることが可能となる。
【0045】
図2には、車両20乃至24が示されている。以下では、各車両の送信能力は全て2であるとして説明する。
【0046】
<パケット構造>
図3を用いて、本実施形態で使用するパケットの構造について説明する。パケットは、パケット識別番号31、宛先32、中継位置マーカID33、データ部34から構成される。パケット識別番号31には、パケットを識別する番号が格納される。宛先32には、宛先端末を特定する値や、全ての端末を宛先とするブロードキャストパケットであることを示す値などが格納される。中継位置マーカID33には、中継位置として指定されるマーカIDが格納される。中継位置マーカID33には、複数のマーカIDが格納されても
良い。データ部34には、伝送する情報データが格納される。
【0047】
<通信方法>
図2の車両22が、通信可能な全ての車両に対してブロードキャスト通信を行うときの処理について説明する。
【0048】
まず、送信端末である車両22の処理について、図4のフローチャートをもとに説明する。
【0049】
車両22のマーカID記憶部3には、最寄りのマーカ14のマーカID「1004」が格納されている。
【0050】
ステップS41で、通信処理部5は、マーカID記憶部3に格納されているマーカID「1004」を用いて中継位置のマーカIDを算出する。車両22の送信能力は2であるので、車両22が送信する電波は、マーカID「1002」〜「1006」の範囲に到達する。通信処理部5は、電波到達範囲の端部を中継位置とするために、マーカID「1002」とマーカID「1006」を中継位置として算出する。
【0051】
ステップS42で、通信処理部5は、送信するパケットのパケット識別番号31にパケットを識別する番号を格納し、宛先32にブロードキャストであることを示す値を格納し、中継位置マーカID33に算出した中継位置のマーカID「1002」とマーカID「1006」を格納し、データ部34に伝送する情報データを格納する。
【0052】
そしてステップS43で、通信処理部5は、アンテナ4からこのパケットを送信する。
【0053】
このパケットは、電波到達範囲内にある、車両21,23,24によって受信される。ブロードキャストパケットを受信した端末の処理について、図5のフローチャートをもとに説明する。
【0054】
ブロードキャストパケットを受信した車両は、ステップS51でパケット識別番号31を取得して、ステップS52ですでに受け取ったパケットであるか否かを判断する。このパケットがすでに受け取ったパケットであればステップS56に進み、通信処理部5はこのパケットを破棄する。このパケットがまだ受け取っていないパケットであれば、このパケットの処理を行う。
【0055】
パケットを受信した車両23は、このパケットをまだ受け取っていないので処理を行う。このパケットは、ブロードキャストパケットであり車両23も宛先に含まれるので、通信処理部5はデータ部34に格納された情報データを取得し処理する。そして、中継を行うか否かを判断する。
【0056】
車両21,24についても同様に、このパケットはまだ受け取っていないパケットであるため、通信処理部5がこのパケットの処理を行う。
【0057】
そして次に、ステップS53で、パケットに格納されている中継位置マーカID33を取得する。そして、ステップS54で、中継位置マーカID33と、マーカID記憶部3に格納されている最寄りのマーカIDとを比較する。これらが一致すればステップS55でパケットの中継送信を行う。一致しない場合は、処理を終了する。
【0058】
車両23の場合は、受信したパケットの中継位置マーカID33には、マーカID「1002」とマーカID「1006」が格納されている。一方、マーカID記憶部3には、
最寄りのマーカ14のマーカID「1004」が格納されている。マーカID「1004」が中継位置マーカID33に含まれていないので、中継送信を行わず処理を終了する。
【0059】
車両24の場合は、マーカID記憶部3に最寄りのマーカ16のマーカID「1006」が格納されている。マーカID「1006」は受信したパケットの中継位置マーカID33に格納されているので、車両24はこのパケットの中継送信を行う。中継送信を行う際、車両24の通信処理部5は、自車のマーカID「1006」をもとに次の中継位置マーカID「1008」およびマーカID「1004」を算出して、パケットに格納してから、アンテナ4により中継送信する。
【0060】
車両21の場合も、マーカID記憶部3には最寄りのマーカ12のマーカID「1002」が格納されている。マーカID「1002」は受信したパケットの中継位置マーカID33に格納されているので、車両21はこのパケットの中継送信を行う。中継送信を行う際、車両21の通信処理部5は、自車のマーカID「1002」をもとに次の中継位置マーカID「1000」およびマーカID「1004」を算出して、パケットに格納してから、アンテナ4により中継送信する。
【0061】
車両21が中継送信したパケットは、電波到達範囲内にある、車両20および車両22によって受信される。以下、車両20および車両22が行う処理について説明する。
【0062】
車両22は、受信したパケットのパケット識別番号31を取得し(ステップS51)、すでに処理したパケットであるかを判断する(ステップS52)。このパケットは、車両22が送信したものであるため、通信処理部5はこのパケットを破棄し(ステップS56)、処理を終了する。
【0063】
車両20も同様に、受信したパケットのパケット識別番号31を取得し(ステップS51)、すでに処理したパケットであるかを判断する(ステップS52)。車両20は、まだこのパケットを処理していないので、通信処理部5はこのパケットの処理を行う。通信処理部5は、パケットの宛先32からブロードキャストパケットであることがわかり、データ部34に格納された情報データの処理を行う。そして通信処理部5は、中継位置マーカID33に格納されたマーカID「1000」およびマーカID「1004」と、マーカID記憶部3に格納されているマーカIDとの比較を行う(ステップS54)。マーカID記憶部3には、最寄りのマーカ10のマーカID「1000」が格納されていることから、通信処理部5はこのパケットの中継送信を行う(ステップS55)。
【0064】
このように、中継送信を繰り返すことで、アドホック無線ネットワーク内の全ての車両に対してブロードキャストパケットが配信される。この際、経路制御情報を用いることなく中継判断を行っているため、余計な通信が発生せず効率的な通信が可能である。また、マーカを利用して電波の到達範囲内であって送信端末からもっとも遠い位置を中継位置として指定しているため、電波が到達しない位置を中継位置に指定して中継が途切れることが起きない。例えば、GPSを利用して端末間の相対位置(距離)に基づいて中継端末を決定する場合には、車両22が送信したパケットの中継端末は車両20および車両24と指定される。車両24にはパケットが届くが、車両20には構造物による遮蔽の影響や主ビームから外れた影響で電波が届きにくくなり、良好な疎通が得られず中継が途切れてしまう。本実施形態では、このような問題点を回避して、ネットワーク内の全ての車両に対してパケットが配信される。
【0065】
また、以上の説明では、ネットワーク内の全ての車両に対して情報を配信するブロードキャストについて説明したが、自車より前方または後方にいる車両にのみ情報を配信する際にも利用できる。この場合には、パケットを送信する車両は、宛先32に前方または後
方車両に対する通信であることを示す値を格納し、中継位置マーカID33に最寄りのマーカのマーカIDから送信能力を減算したマーカIDを格納して送信すればよい。また、特定の車両を宛先として情報を配信する際にも利用できる。
【0066】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態は、基本的に第1の実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0067】
本実施形態で使用するパケットの構造を、図6を用いて説明する。パケット識別番号31、宛先32、データ部34については第1の実施形態と同様である。送信元マーカID35には、このパケットを送信あるいは中継送信する車両の最寄りのマーカのマーカIDが格納される。送信能力36には、送信あるいは中継送信を行う車両の送信能力が格納される。前述したように、送信能力は、その車両が発信する電波が何個先のマーカまで到達するかを示す値である。
【0068】
図2の車両22が、通信可能な全ての車両に対してブロードキャスト通信を行うときの処理について説明する。
【0069】
まず、送信端末である車両22の処理について、図7のフローチャートをもとに説明する。ステップS61で、車両22の通信処理部5は、送信するパケットのパケット識別番号31にパケットを識別する番号を格納し、宛先32にブロードキャストであることを示す値を格納し、送信元マーカID35にマーカID記憶部3に格納されている最寄りのマーカのマーカID「1004」を格納し、送信能力36に自車の送信能力である「2」を格納し、データ部34に伝送する情報データを格納する。そしてステップS62で、通信処理部5は、アンテナ4からこのパケットを送信する。
【0070】
このパケットは、電波到達範囲内にある、車両21,23,24によって受信される。ブロードキャストパケットを受信した端末の処理について、図8のフローチャートをもとに説明する。
【0071】
ステップS71、S72,S76については、第1の実施形態における図5のフローチャートのステップS51、S52,S56と同様であるため、説明は省略する。以下では、受信したパケットを中継するか否かを判断する処理についてのみ説明する。
【0072】
ブロードキャストパケットを受信した車両は、ステップS73で、受信したパケットに格納されている送信元マーカID35と送信能力36とから、中継位置をマーカIDとして算出する。本実施形態では、送信元マーカID35から送信能力36を加算又は減算することで、中継位置のマーカIDを算出することができる。そして、ステップS74で、算出された中継位置のマーカIDと、マーカID記憶部3に格納されている最寄りのマーカのマーカIDが一致するかを判断する。これらが一致すればステップS75でパケットの中継送信を行う。一致しない場合には、処理を終了する。
【0073】
車両22が送信するブロードキャストパケットは、送信元マーカID35にはマーカID「1004」が格納されており、送信能力36には「2」が格納されている。したがって、ステップS73で算出される中継位置のマーカIDは、全ての受信端末でマーカID「1006」およびマーカID「1002」となる。
【0074】
車両23のマーカID記憶部3には、最寄りのマーカ15のマーカID「1005」が格納されており、算出した中継位置のマーカIDと一致しないため、中継送信を行わない。
【0075】
車両21のマーカID記憶部3には、最寄りのマーカ12のマーカID「1002」が格納されており、算出した中継位置のマーカIDと一致するため、中継送信を行う。中継送信を行う際、車両21に通信処理部5は、自車のマーカID「1002」を送信元マーカID35に、自車の送信能力値「2」を送信能力36に格納してから、アンテナ4により中継送信する。
【0076】
車両24のマーカID記憶部3には、最寄りのマーカ16のマーカID「1006」が格納されており、算出した中継位置のマーカIDと一致するため、中継送信を行う。中継送信を行う際、車両24に通信処理部5は、自車のマーカID「1006」を送信元マーカID35に、自車の送信能力値「2」を送信能力36に格納してから、アンテナ4により中継送信する。
【0077】
車両21が中継送信したパケットは、電波到達範囲内にある、車両20および車両22によって受信される。以下、車両20および車両22が行う処理について説明する。
【0078】
車両22は、このパケットを発信しているので破棄する(ステップS72,S76)。
【0079】
車両20はこのパケットをまだ処理していないので、通信処理部5はこのパケットの処理を行う。パケットに格納された送信元マーカID35と送信能力36とから中継位置のマーカIDを算出する(ステップS73)。この場合は、マーカID「1002」と送信能力値「2」とから、中継位置のマーカIDは「1004」と「1000」と算出される。マーカID記憶部3には、最寄りのマーカ10のマーカID「1000」が格納されており、算出した中継位置のマーカIDと一致する(ステップS74)。したがって、通信処理部5は、このパケットの中継送信を行う(ステップS75)。
【0080】
このように、中継送信を繰り返すことで、アドホック無線ネットワーク内の全ての車両に対してブロードキャストパケットが配信される。また、第1の実施例と同様に、マーカのマーカIDに基づいて中継端末を決定しているので、効率的かつ有効なブロードキャスト通信が行える。
【0081】
また、全ての車両が同一出力の電波を使用する場合には、パケットに送信能力を格納せずにブロードキャスト通信を行っても良い。
【0082】
なお、上記の実施形態ではいずれも、前方および後方に指向性の強いアンテナを用いているが、本発明はアンテナの指向性によらず有効であり、無指向性のアンテナを用いても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】無線端末を搭載した車両を示す図である。
【図2】マーカおよび車両の構成例を示す図である。
【図3】第1の実施形態で使用するパケットの構造を示す図である。
【図4】第1の実施形態における送信端末の処理を示すフローチャートである。
【図5】第1の実施形態における受信端末の処理を示すフローチャートである。
【図6】第2の実施形態で使用するパケットの構造を示す図である。
【図7】第2の実施形態における送信端末の処理を示すフローチャートである。
【図8】第2の実施形態における受信端末の処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0084】
1 車両
2 マーカID取得部
3 マーカID記憶部
4 アンテナ
5 通信処理部
6,10,11,12,13,14,15,16 マーカ
20,21,22,23,24 車両
31 パケット識別番号
32 宛先
33 中継位置マーカID
34 データ部
35 送信元マーカID
36 送信能力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信端末と他の無線端末とが無線パケット通信を行う際に、中継端末がパケットの中継を行う通信方法であって、
互いに異なるマーカIDを付された複数のマーカが、道路に設置されており、
中継端末は、最寄りのマーカからマーカIDを取得し、パケットを受信した際に、前記パケットに格納されているマーカIDと、前記最寄りのマーカから取得したマーカIDとを比較して、前記パケットを中継するか否かを決定する、
ことを特徴とする通信方法。
【請求項2】
マーカの設置間隔が、その設置場所における電波到達距離に応じて調整されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信方法。
【請求項3】
曲線道路におけるマーカの設置間隔が、直線道路におけるマーカの設置間隔よりも短い、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の通信方法。
【請求項4】
送信端末は、最寄りのマーカからマーカIDを取得し、このマーカIDから中継位置のマーカIDを算出し、算出された中継位置のマーカIDをパケットに格納して送信し、
中継端末は、前記最寄りのマーカから取得したマーカIDと前記パケットに格納されている中継位置のマーカIDとが一致する場合に、前記パケットを中継する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の通信方法。
【請求項5】
送信端末は、最寄りのマーカからマーカIDを取得し、このマーカIDをパケットに格納して送信し、
中継端末は、パケットに格納されているマーカIDから中継位置を算出し、算出された中継位置のマーカIDと、前記最寄りのマーカから取得したマーカIDとが一致する場合に、前記パケットを中継する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の通信方法。
【請求項6】
送信端末と他の無線端末とが通信する際に、パケットを中継するために用いる無線端末であって、
道路に設置されたマーカから、マーカに付されたマーカIDを取得するマーカID取得手段と、
受信したパケットに格納されているマーカIDと、マーカID取得手段により取得したマーカIDとを比較して、パケットを中継するか否かを決定する無線通信手段と、
を有することを特徴とする無線端末。
【請求項7】
無線通信手段は、送信端末が中継位置としてパケットに格納したマーカIDと、マーカID取得手段により取得した最寄りのマーカのマーカIDとが一致する場合に、パケットを中継する、
ことを特徴とする請求項6に記載の無線端末。
【請求項8】
無線通信手段は、送信端末が最寄りのマーカから取得しパケットに格納したマーカIDを取得し、前記パケットに格納された前記マーカIDから中継位置のマーカIDを算出し、前記中継位置のマーカIDとマーカID取得手段により取得した最寄りのマーカのマーカIDとが一致する場合に、パケットを中継する、
ことを特徴とする請求項6に記載の無線端末。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の無線端末を備えた車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−295325(P2006−295325A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110104(P2005−110104)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】