説明

通信装置および通信方法

【課題】交通流の変化があった場合にも通信品質を維持することを課題とする。
【解決手段】夫々異なる指向性を有する所定数までのビームを同時に出力可能な通信装置を交差点近傍に設置し、取得された交通流に応じて、同時に出力可能なビームのうち、第一の道路側に出力するビームの数と、第二の道路側に出力するビームの数とを決定し、第一の道路および第二の道路に対して、決定されたビーム数の通信用ビームを出力することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナを用いる通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アレーアンテナにおいて、車両の位置に応じて異なる垂直面内指向性を用いた情報提供を行うための技術がある(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−99070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、アンテナを有し路側に設置される路側機(通信装置)と、走行中の車両に搭載された車載情報処理装置との間で情報を送受信することで、安全運転や走行中の情報取得等を支援するための通信技術が研究されている。また、このような通信において、複数アンテナからの出力を制御することで、指向性を有するビームを合成し、通信対象に対する通信品質を向上させることが出来る。
【0005】
しかし、合成可能なビームパタンの上限数は、物理的なアンテナの数によって制限される。これに対して、交通流は時間に応じて変動するため、固定されたビームパタンを用いて車載情報処理装置と通信を行う通信装置では、通信品質を維持することが困難であった。
【0006】
本発明は、上記した問題に鑑み、交通流の変化があった場合にも通信品質を維持することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、交差点に設置される通信装置において、アンテナを複数の方路で共用し、変動する交通流に応じて方路毎に割り振られるビームの数を動的に更新することで、交通流の変化があった場合にも通信品質を維持することを可能とした。
【0008】
詳細には、本発明は、複数のアンテナ素子を用いて、夫々異なる指向性を有する複数のビームを、所定数まで同時に出力可能な通信装置であって、前記ビームを介した通信の対象となる車載情報処理装置を搭載した車両が走行する第一の道路と第二の道路との交差点近傍に設置され、前記第一の道路における交通流および前記第二の道路における交通流を取得する交通流取得手段と、前記交通流取得手段によって取得された交通流に応じて、前記所定数まで同時に出力可能な前記複数のビームのうち、前記第一の道路側に出力するビームの数と、前記第二の道路側に出力するビームの数とを決定する出力数決定手段と、前記第一の道路および前記第二の道路に対して、前記出力数決定手段によって決定されたビーム数の通信用ビームを出力するビーム出力手段と、を備える通信装置である。
【0009】
本発明に係る通信装置は、車載情報処理装置との通信機能を備え、道路の所定の範囲を通過する車両に搭載された車載情報処理装置と通信可能なように、交差点近傍に設置される。ここで、交差点は、少なくとも2以上の道路が交わるポイントであり、例えば、第一の道路と第二の道路とが直交または斜めに交差する十字路や丁字路である。また、第一の道路と第二の道路とは、同規模の道路であってもよいし、互いに規模(道幅や車線数等)
が異なる道路であってもよい。また、第一の道路と第二の道路とは、一方が幹線道路であるなど、優先道路と一般道路との関係を有していてもよい。
【0010】
本発明では、第一の道路および第二の道路における交通流が取得される。ここで、交通流を取得する方法には、様々な方法が採用されてよい。例えば、後述する、道路を通行する車両の車載情報処理装置から情報を直接収集して交通流を取得する方法が採用されてもよいし、道路を監視する何らかのシステムによって取得された交通流情報を取得する方法が採用されてもよい。
【0011】
出力数決定手段によるビーム数の決定は、交差点で交差する道路のうち、交通流の多い方の道路により多くのビームが振り分けられるように決定される。より具体的には、第一の道路を走行する車両の数と第二の道路を走行する車両の数との比率に基づいて決定されてもよいし、第一の道路または第二の道路における車両数に差がある状態が継続する毎に、振り分けるビーム数を増減させる方法で決定されてもよい。
【0012】
本発明によれば、交通流の変化があった場合にも、各方路に振り分けられるビーム数を複数の方路間で調整し、通信品質を維持することが可能となる。また、従来の固定ビームパタンを用いた通信では、交通流のピークに合わせたアンテナ数を用意する必要があったが、本発明では、複数の方路でアンテナを共有し、交通流に応じてビーム数を調整するため、設置および運用におけるコストやスペース上、有利である。
【0013】
また、本発明に係る通信装置は、車載情報処理装置から送信された、該車載情報処理装置の搭載車両が前記第一の道路と前記第二の道路との何れを走行しているかを判別可能な位置情報を取得する位置情報取得手段を更に備え、前記交通流取得手段は、前記位置情報取得手段によって取得された位置情報に基づいて、送信元の車載情報処理装置が搭載されていた車両が前記第一の道路および前記第二の道路の何れを走行しているかを判別し、前記第一の道路における交通流および前記第二の道路における交通流を取得してもよい。
【0014】
ここで、車載情報処理装置から取得される位置情報は、車載情報処理装置が搭載された車両が走行している道路が第一の道路であるか第二の道路であるかを判別可能な情報であれば、どのような種類の情報であってもよい。例えば、位置情報は、車載GPSによって取得された緯度経度情報であってもよいし、走行中の道路の識別情報であってもよい。交通流取得手段は、取得された位置情報が緯度経度情報である場合には、予め保持している第一の道路および第二の道路の緯度経度情報と比較することで、車両が何れの道路を走行しているか判別出来るし、取得された位置情報が道路の識別情報である場合には、識別情報を参照するのみで、車両が何れの道路を走行しているか判別出来る。
【0015】
また、本発明に係る通信装置は、前記通信装置からのビームを受信した車載情報処理装置から送信された、該車載情報処理装置におけるビーム毎の受信電力情報を取得する受信電力情報取得手段と、前記受信電力情報取得手段によって複数の車載情報処理装置から取得された受信電力情報が示す受信電力が高いビームを、優先度の高いビームとして指定する優先ビーム指定手段と、を更に備え、前記ビーム出力手段は、前記優先ビーム指定手段によって高い優先度が設定されたビームを優先的に用いて、前記通信用ビームを出力してもよい。
【0016】
変動する交通流に応じて通信に使用するビームパタンを動的に更新することで、交通流の変化に合わせて動的に通信品質を維持することが可能となる。即ち、本発明では、時間によって交通流が変動することで、通信装置から送信された情報を受け取る車載情報処理装置において高い受信電力を示す(換言すると、通信状態が良好である)ビームパタンが変化することに着目し、車載情報処理装置から、ビームを受信した時の受信電力を取得し
、受信電力が高いビームを優先的に用いることで、通信品質を維持することとした。なお、受信電力の高低は、受信された個々の受信電力を比較することで判断されてもよいし、ビーム毎の平均受信電力を比較することで判断されてもよい。また、この優先度は、第一の道路および第二の道路の夫々に対応するビームパタン毎に、設定されることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る通信装置は、前記第一の道路方向に開口した第一のアンテナ筐体と、前記第二の道路方向に開口した第二のアンテナ筐体と、を更に備え、前記アンテナ素子は、前記第一のアンテナ筐体および前記第二のアンテナ筐体に分けられて収容されてもよい。
【0018】
本発明によれば、アンテナ筐体の開口向きがビームの指向方向と同一または近くなるため、ビームの発射において高利得を得ることが出来る。このため、交通流の変化に応じて通信用のビームパタンを変化させる場合にも、通信品質を維持し易い。また、高利得を得易いため、送信電力を下げることが出来、通信装置の設置、運用においてコスト上有利である。
【0019】
更に、本発明は、通信装置が実行する方法、又は通信装置を制御するコンピュータに実行させるプログラムとしても把握することが可能である。また、本発明は、そのようなプログラムをコンピュータその他の装置、機械等が読み取り可能な記録媒体に記録したものでもよい。ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。
【0020】
例えば、本発明は、複数のアンテナ素子を用いて、夫々異なる指向性を有する複数のビームを、所定数まで同時に出力可能な通信装置であって、前記ビームを介した通信の対象となる車載情報処理装置を搭載した車両が走行する第一の道路と第二の道路との交差点近傍に設置された通信装置が、前記第一の道路における交通流および前記第二の道路における交通流を取得する交通流取得ステップと、前記交通流取得ステップで取得された交通流に応じて、前記所定数まで同時に出力可能な前記複数のビームのうち、前記第一の道路側に出力するビームの数と、前記第二の道路側に出力するビームの数とを決定する出力数決定ステップと、前記第一の道路および前記第二の道路に対して、前記出力数決定ステップで決定されたビーム数の通信用ビームを出力するビーム出力ステップと、を実行する通信方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、交通流の変化があった場合にも通信品質を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態に係る路側機(通信装置)の構成を示す図である。
【図2】実施形態に係る路側機本体の構成を示す図である。
【図3】実施形態に係る路側機によって形成可能な、予め設定されたビームパタンを示す図である。
【図4】実施形態に係る路側機の設置態様を示す図である。
【図5】実施形態に係る路側機における処理の流れを示すフローチャート(1)である。
【図6】実施形態に係る路側機における処理の流れを示すフローチャート(2)である。
【図7】実施形態に係る路側機における処理の流れを示すフローチャート(3)である。
【図8】実施形態に係る路側機における処理の流れを示すフローチャート(4)である。
【図9】実施形態に係るビームパタンの順位付け結果(空間多元接続数SがS=3である場合)を示す図である。
【図10】実施形態に係るビームパタンの順位付け結果(空間多元接続数SがS=2である場合)を示す図である。
【図11】実施形態において、生成された送信データが、多元接続に係る各ビームへ実際に割り当てられる様子(空間多元接続数SがS=3である場合)を示す図である。
【図12】実施形態において、生成された送信データが、多元接続に係る各ビームへ実際に割り当てられる様子(空間多元接続数SがS=2である場合)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<構成>
以下、本発明に係る通信装置および通信方法の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る路側機(通信装置)の構成を示す図である。本実施形態における路側機1は、路側機本体10および2台のアンテナ筐体21、22を備え、2台のアンテナ筐体21、22の夫々には、2つのアンテナ素子が設けられている。即ち、本実施形態に係る路側機1は、1台につき4つのアンテナ素子21a、21b、22a、22bを備え、同時に4つのビームを送出することが可能な路側機1である。なお、これらの4つのアンテナ素子21a、21b、22a、22bは、隣接するアンテナ素子との間隔がλ/4程度となるように設置されている。
【0025】
図2は、本実施形態に係る路側機本体10の構成を示す図である。路側機本体10は、記憶装置(図示は省略する)から読み出された路側機制御プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)11によって制御される。また、路側機本体10は、選択されたビームパタンのビームを形成するための変調を行うビーム形成変調部12を有し、更に、アンテナ素子21a、21b、22a、22bの数と同数の、ベースバンド部13a、13b、13c、13d、アナログ/デジタル変換部14a、14b、14c、14d、中間周波数変換部15a、15b、15c、15d、および高周波回路部16a、16b、16c、16dを有する。また、路側機本体10は、アレーアンテナの精度を高めるために、装置内の温度変化および湿度変化に起因する各系統の振幅・位相変動の補正値情報を取得してCPU11に提供する、キャリブレーション回路部17を有する。但し、上記説明した構成は、本発明を適用可能なアレーアンテナの構成の一例を示すものであり、本発明を実施するに際しては、必ずしも上記説明した構成のアレーアンテナ筐体が用いられなくともよい。例えば、キャリブレーション回路部17は省略されてもよいし、他の部分についても、同等の機能を有するもので代替されてよい。
【0026】
本実施形態に係る路側機1は、路側機制御プログラムを実行するCPU11によって制御されることで、本発明に係る交通流取得手段、出力数決定手段、ビーム出力手段、位置情報取得手段、受信電力情報取得手段および優先ビーム指定手段を備える路側機1として機能する。なお、本実施形態では、これら各手段は、プログラムを実行する汎用のCPU11を用いて実現されるが、汎用のCPU11を用いる方法に代えて、これら各手段のうち一以上の手段を実現するための機能を備えた専用のプロセッサが用いられてもよい。
【0027】
図3は、本実施形態に係る路側機1によって形成可能な、予め設定されたビームパタンを示す図である。アンテナ筐体21、22に備えられた複数のアンテナ素子21a、21b、22a、22bは同一水平面内に並べられており、アンテナ筐体21、22から送出
されるビームは水平面内指向性を有する。本実施形態では、アンテナ素子間隔がλ/4程度に設定されており、4つのアンテナ素子21a、21b、22a、22bが互いに連係する合成技術を用いてビームを形成することで、一方のアンテナ筐体21が向けられた方向(後述する優先道路方向)に4パタン、他方のアンテナ筐体22が向けられた方向(後述する一般道路方向)に4パタンの計8パタンのビームを形成するように設定されている。
【0028】
但し、物理的なアンテナ素子の数は1の路側機1につき4素子であるため、同時に送出可能なビームは、複数のビームパタン(本実施形態では、8のビームパタン)から選択された4つのビームである。また、個々のビームを形成するにあたっては、ビーム間の干渉を防止するために、他のビームの指向方向にnullが設定される。本実施形態では、夫々のビームは半値角15度程度の水平面内指向性を有し、2ビームで約45度程度の範囲をカバーすることとしている。
【0029】
なお、ビームパタンには夫々識別子としてのビームパタンIDが付されており、本実施形態では、優先道路方向へのビームパタンにID1からID4が、一般道路方向へのビームパタンにID5からID8が付されている。また、本実施形態における優先道路および一般道路は、本発明の第一の道路および第二の道路に相当する。
【0030】
図4は、本実施形態に係る路側機1の設置態様を示す図である。本実施形態では、路側機1は優先道路と一般道路とが交差する交差点に設置され、優先道路と一般道路のアンテナ設置用の柱を共用する。上記説明した通り、本実施形態に係る路側機1は、各方路に夫々向けられる2台のアンテナ筐体21、22を備え、交差点に設置されることで、交差する2方路をカバーする。このため、本実施形態に係る路側機1によれば、交差点の一角に1台の路側機1を設置し、対角に他の1台の路側機1を設置することで、交差点における4方路を全てカバーすることが出来る。
【0031】
なお、合成技術を用いて形成されるビームの指向方向はある程度柔軟に設定可能であるため、アンテナ筐体21、22は必ずしもビームが向けられる道路の方向に向けられる必要はない。但し、本実施形態では、2台のアンテナ筐体21、22の夫々を、アンテナ筐体の開口(または、アンテナのボアサイト軸)が交差点の各方路に向くように設置することで、ビームの発射において高利得を得ることを可能としている。また、2台のアンテナ筐体21、22の夫々を交差点の各方路に向けて設置することで、ビーム発射において高利得を得ることが可能であるため、送信に必要な電力を節約することが出来る。
【0032】
また、2台のアンテナ筐体21、22間の角度であるアンテナ筐体角θ(図1を参照)は、設置される交差点の角度や、路側機1によって形成されるビームの指向性等に応じて調整されることが好ましい。また、アンテナ筐体角θを可変とすることで、様々な交差角度や路幅を有する交差点に対して、本実施形態に係る路側機1を容易に設置することが可能となる。
【0033】
なお、路側機が設置される方向は、2台のアンテナ筐体21、22の夫々が向けられる通信対象領域の境界となる方向(図3の矢印方向。本実施形態では、「アンテナ境界方向」と称する)を、交差点の何れの方向に向けるかによって決定されてよい。例えば、本実施形態では、図4に矢印で示すように、アンテナ境界方向を、対向車線側において区画境界線が交差する交点の方向としている。ここで、区画境界線とは、道路と道路以外の領域との境界を示す線である。
【0034】
<処理の流れ>
図5から図8は、本実施形態に係る路側機1における処理の流れを示すフローチャート
である。本フローチャートに示された処理は、路側機1の起動に伴って開始される。なお、本フローチャートに示された処理の内容および順序は、本発明を実施するための一例であり、処理の具体的な内容および順序は、適宜、実施の形態に応じた内容および順序が採用されることが好ましい。
【0035】
ステップS101からステップS103では、初期設定が行われる。CPU11は、予め定められた8パタンのビームパタン(図3を参照)を形成するためのパラメータを記憶装置から読み出し、後述する切替を伴うデータ送信で用いられるビームパタンの初期値として設定する(ステップS101)。また、CPU11は、後述するステップS118からの単純切替送信処理が行われる間隔を決定するための忘却係数Fを設定する(ステップS102)。なお、本実施形態では忘却係数FとしてF=5が設定される。
【0036】
更に、CPU11は、本実施形態に係る路側機1が同時に形成可能な4つのビームのうち、優先道路側に割り振られるビーム数を示す、優先道路空間多元接続数SをS=2に設定する(ステップS103)。なお、優先道路空間多元接続数Sの値は、路側機1が同時に形成可能なビーム数(空間多元接続の上限数)に応じて決定される。本実施形態では、路側機1が同時に形成可能なビームが4つであるため、初期値として、優先道路と一般道路に割り当てられるビーム数が同数となるように、S=2が設定される。その後、処理はステップS104へ進む。
【0037】
ステップS104からステップS106では、一定周期の単純切替を伴うデータ通信が行われることで、交差点を通過する車両との通信状態を示す情報が蓄積される。CPU11は、ビーム形成変調部12を制御することによって、ビームパタン1、3、5、7の組み合わせとビームパタン2、4、6、8の組み合わせとをnミリ秒単位(本実施形態では、100ミリ秒単位)で切り替えながら、優先道路および一般道路を走行する車両に対してパイロット信号を送信する(ステップS104)。本実施形態では、このようなビームパタン組み合わせの単純切替を伴うパイロット信号送信処理を、単純切替送信処理(または、ミクロ制御)と称する。なお、送信されるパイロット信号には、パイロット信号が搬送されるビームパタンのIDを識別可能な情報が含まれており、パイロット信号を受信した車載情報処理装置は、この情報を参照することで、受信したパイロット信号がどのビームパタンを用いて送信されたのかを把握することが出来る。
【0038】
車載情報処理装置は、パイロット信号を受信すると、所定時間(本実施形態では、5秒間)の間に受信したパイロット信号の平均受信電力5secAvePrを算出する。そして、車載情報処理装置は、平均受信電力5secAvePrを、GPS等を用いて計測した自車の位置情報、および受信したパイロット信号が搬送されたビームのビームパタンIDと共に路側機1へ送信する。そして、路側機1は、車載情報処理装置から送信された、車載情報処理装置が搭載された車両の位置情報、この車両における平均受信電力5secAvePr、およびこの平均受信電力5secAvePrに係るビームパタンIDを受信する(ステップS105)。なお、路側機1は、車載情報処理装置から送信された情報を、アンテナ21a、21b、22a、22bの少なくとも何れかを時分割で切り替えて受信アンテナとして用いることで受信してもよいし、別途設けられた受信用アンテナ(図示は省略する)を用いて受信してもよい。路側機1は、車載情報処理装置から受信した平均受信電力等の情報を記憶装置に保存する。
【0039】
なお、CPU11は、ステップS104からの単純切替送信処理が開始されると、時間カウントを開始し、定期的に単純切替送信処理の開始からの経過時間と所定時間m(本実施形態では、2.5分)とを比較する。単純切替送信処理の開始からの経過時間が所定時間mを越えている場合、処理はステップS107へ進む。単純切替送信処理の開始からの経過時間が所定時間mを越えていない場合、処理はステップS104へ進む。即ち、ステ
ップS104からステップS106に示された単純切替送信処理は、所定時間mが経過するまで繰り返される(ステップS106)。
【0040】
ステップS107からステップS109では、実際のデータ通信に用いられるビームパタンを決定するための情報が生成される。CPU11は、所定時間m内に受信された、平均受信電力5secAvePrをビームパタンID毎に集計することで、ビームパタン毎の平均受信電力AvePrを算出する(ステップS107)。そして、CPU11は、ビームパタンを、優先道路側のビームパタンID毎、および一般道路側のビームパタンID毎に、平均受信電力AvePrが高い順に順位付けする(ステップS108)。本実施形態では、優先道路方向へのビームパタンにID1からID4が、一般道路方向へのビームパタンにID5からID8が付されているため、ID1からID4が平均受信電力AvePrの高い順に順位付けされ、また、ID5からID8が平均受信電力AvePrの高い順に順位付けされる。
【0041】
図9および図10は、本実施形態に係るビームパタンの順位付け結果を示す図である。図9および図10に示された順位付け結果の例によれば、ビームパタンが、優先道路側のビームパタンID毎、および一般道路側のビームパタンID毎に、平均受信電力AvePrが高い順に順位付けされていることが分かる。
【0042】
また、CPU11は、ステップS105において受信された位置情報に基づいて、所定時間m内に受信した情報の発信元である車両が、優先道路および一般道路の何れを走行していた車両であるかを判断し、所定時間m内における情報の受信数(以下、「報告数」と称する)を、優先道路および一般道路毎に算出する(ステップS109)。発信元である車両が優先道路および一般道路の何れを走行していたかの判断は、予め記憶装置等に保持する優先道路および一般道路の位置情報(緯度経度情報等)と、車両の位置情報とを比較し、車両の位置情報が何れかの道路を走行していると判断してよい所定の範囲内にあるか否かを判定することで行われる。ここで、優先道路からの報告数は、所定時間m内に優先道路を走行していた車両の数を表し、一般道路からの報告数は、所定時間m内に一般道路を走行していた車両の数を表すため、路側機1は、優先道路と一般道路との車両走行数の関係(何れか一方の道路の方が多くの車両が走行しているか、または両方の道路において同程度の数の車両が走行しているか、等)を把握することが出来る。その後、処理はステップS110へ進む。
【0043】
ステップS110からステップS114では、優先道路の空間多元接続数Sが決定される。CPU11は、ステップ109で算出された、優先道路からの報告数と、一般道路からの報告数とを比較する(ステップS110)。比較の結果、優先道路からの報告数が一般道路からの報告数に比べて多い場合、CPU11は、優先道路に既に上限となる空間多元接続数が割り当てられているか否かを判定して(ステップS111)、上限に達していない場合、優先道路に割り当てる空間多元接続数Sをインクリメント(S=S+1)する(ステップS112)。一方、比較の結果、優先道路からの報告数が一般道路からの報告数に比べて多くない場合、CPU11は、優先道路に既に下限となる空間多元接続数が割り当てられているか否かを判定して(ステップS113)、下限に達していない場合、優先道路に割り当てる空間多元接続数Sをデクリメント(S=S−1)する(ステップS114)。その後、処理はステップS115へ進む。
【0044】
ステップS115では、データ送信用のビームパタンが決定される。CPU11は、ステップS108で行われた、ビームパタンIDの順位付けの結果を参照して、データ送信用のビームパタンを決定する。具体的には、CPU11は、ID1からID4が付された優先道路用ビームパタンのうち、順位付けの結果で上位S個のビームパタンを、優先道路側へのデータ送信に用いるビームパタンとして決定する。同様に、CPU11は、ID5
からID8が付された一般道路用ビームパタンのうち、順位付けの結果で上位(4−S)個のビームパタンを、一般道路側へのデータ送信に用いるビームパタンとして決定する(ステップS115)。
【0045】
例えば、優先道路に割り当てる空間多元接続数SがS=3である場合、ID1からID4が付された優先道路用ビームパタンのうち、平均受信電力AvePrが上位3位までのビームパタンが、優先道路側へのデータ送信に用いるビームパタンとして決定され、ID5からID8が付された一般道路用ビームパタンのうち、平均受信電力AvePrが最も高い(1位の)ビームパタンが、一般道路側へのデータ送信に用いるビームパタンとして決定される。図9に示された順位付け結果の例によれば、ID2、ID3、ID1が付されたビームパタンが優先道路側へのデータ送信に用いるビームパタンとして決定され、ID6が付されたビームパタンが一般道路側へのデータ送信に用いるビームパタンとして決定される。
【0046】
また、優先道路に割り当てる空間多元接続数SがS=2である場合、ID1からID4が付された優先道路用ビームパタンのうち、平均受信電力AvePrが上位2位までのビームパタンが、優先道路側へのデータ送信に用いるビームパタンとして決定され、ID5からID8が付された一般道路用ビームパタンのうち、平均受信電力AvePrが上位2位までのビームパタンが、一般道路側へのデータ送信に用いるビームパタンとして決定される。図10に示された順位付け結果の例によれば、ID2、ID3が付されたビームパタンが優先道路側へのデータ送信に用いるビームパタンとして決定され、ID6、ID5が付されたビームパタンが一般道路側へのデータ送信に用いるビームパタンとして決定される。
【0047】
ステップS116およびステップS117では、決定されたビームパタンの切替を伴う、実際のデータ通信が行われる。なお、実際のデータ通信では、信号情報、事故情報、交差点を曲がる際に留意すべき情報(例えば、車両が左側通行である場合の右折時に留意すべき情報)等が、路側機1から車載情報処理装置に対してブロードキャスト配信される。CPU11は、ビーム形成変調部12を制御することによって、ステップS115で決定されたビームパタンをnミリ秒単位(本実施形態では、100ミリ秒単位)で切り替えながら、優先道路および一般道路を走行する車両に対するデータ送信を行う。(ステップS116)。本実施形態では、決定されたビームパタンの切替を伴うデータ送信処理を、優先切替送信処理(または、マクロ制御)と称する。
【0048】
このようにして、一の道路に対して複数ビームを形成することで、一の道路を走行する車載情報処理装置に対する多元接続が可能となる。例えば、空間多元接続数S=3であれば、本実施形態では、優先道路に対して3重の接続が可能である。本実施形態では、このようにして得られた多元接続を用いて冗長通信を行うことで、データ通信の信頼性を向上させることとしている。即ち、本実施形態では、更新後の空間多元接続数Sによって決定した複数のビームパタンを用いて通信データを繰り返し送信する(異なるビームに、送信スロットをずらしながら同一宛先の同一情報を乗せて送信する)ことで、通信成功率を高める。例えば、同一データを、優先道路方向へのS個のビームに乗せて別々に送信することで、同一データをS回送信する冗長性を持たせた通信を行うことが出来る。
【0049】
図11および図12は、本実施形態において、生成された送信データが、多元接続に係る各ビームへ実際に割り当てられる様子を示す図である。図11には、空間多元接続数S=3の場合の送信データ割り当ての様子が示され、図12には、空間多元接続数S=2の場合の送信データ割り当ての様子が示されている。図11によれば、生成された送信データa、b、c、d、e、fが、優先道路に向けられた優先度の高いID2、ID3、ID1のS=3つのビームにおいて、タイミングをずらしながらS=3回送信されていること
が分かる。これによって、一般道路に比べて優先道路の交通流が多い場合にも、優先道路に対する通信に冗長性を持たせ、通信の信頼性を高めることが出来る。即ち、本実施形態では、繰り返し送信数を空間多元接続数Sと同一とすることで、通信エリアにおける受信車両の台数が多くなった場合にも、通信品質を確保することを可能としている。
【0050】
なお、本実施形態では、複数ビームによる多元接続を用いてデータ通信に冗長性を持たせ、通信の信頼性を高めることとしているが、このような方法に代えて、複数ビームによる多元接続を用いてデータ通信の通信容量を高めることとしてもよい。
【0051】
また、CPU11は、ステップS116に示された優先切替送信処理が開始されると、時間カウントを開始し、定期的に優先切替送信処理の開始からの経過時間と所定時間m(本実施形態では、2.5分)とを比較する。優先切替送信処理の開始からの経過時間が所定時間mを越えている場合、処理はステップS118へ進む。優先切替送信処理の開始からの経過時間が所定時間mを越えていない場合、処理はステップS116へ進む。即ち、ステップS116に示された優先切替送信処理は、所定時間mが経過するまで繰り返される(ステップS117)。
【0052】
ステップS118からステップS120では、空間多元接続数Sおよびビームパタンの優先順位を更新するために、再び単純切替送信処理が行われ、交差点を通過する車両との通信状態を示す情報が蓄積される。ここで、ステップS118およびステップS119において実行される単純切替送信処理は、ステップS104およびステップS105で説明した処理内容と概略同様であるため、説明を省略する。また、CPU11は、ステップS118からの単純切替送信処理が開始されると、時間カウントを開始し、ステップS118からステップS120に示された処理は、更新時間m/Fが経過するまで繰り返される(ステップS120)。なお、本実施形態では、所定時間m=2.5分、忘却係数F=5であるため、m/F=0.5分である。
【0053】
ステップS121からステップS123では、実際のデータ通信に用いられるビームパタンを決定するための情報が更新される。CPU11は、更新時間m/F内に受信された最新のm/F分間分の平均受信電力と、記憶装置に蓄積されたm(F−1)/F分間分の平均受信電力と、をマージしてビームパタンID毎に集計することで、ビームパタン毎の平均受信電力AvePrを算出する(ステップS121)。そして、CPU11は、ビームパタンを、優先道路側のビームパタンID毎、および一般道路側のビームパタンID毎に、平均受信電力AvePrが高い順に順位付けし、順位を更新する(ステップS122)。順位付け処理の詳細な内容は、ステップS108において説明したものと概略同様であるため、説明を省略する。また、CPU11は、更新時間m/F内に受信された位置情報に基づいて、優先道路からの報告数と一般道路からの報告数とを算出する(ステップS123)。報告数の算出処理の詳細な内容は、ステップS109において説明したものと概略同様であるため、説明を省略する。その後、処理はステップS110へ進む。
【0054】
上記説明したステップS121からステップS123の処理によって、ビームパタンの順位および道路毎の報告数が更新されると、ステップS110からステップS114の処理が再び実行されて、優先道路の空間多元接続数Sが更新される。本実施形態に係る路側機1では、以降、上記説明した、実際のデータ通信に用いるビームパタンを決定するための単純切替送信処理と、優先度の高いビームパタンが道路の交通流に応じて割り振られて実際のデータ通信が行われる優先切替送信処理と、が交互に繰り返し実行される。
【0055】
本実施形態に示した路側機1および通信方法によれば、上記説明したように、定期的に単純切替送信処理を行って情報を更新し、更新された情報に基づいて優先道路の空間多元接続数Sを更新することで、フィードバック情報の遣り取りを増大させることなく、交通
流の時間変動に対応したビームパタンの更新を行うことが可能となる。更には、本実施形態に係る路側機1および通信方法によれば、交通流の時間変動を考慮した通信エリアの受信電力を向上させること、および空間分割多元接続を利用した連続送信による通信品質を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0056】
1 路側機
10 路側機本体
11 CPU
12 ビーム形成変調部
21、22 アンテナ筐体
21a、21b、22a、22b アンテナ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子を用いて、夫々異なる指向性を有する複数のビームを、所定数まで同時に出力可能な通信装置であって、
前記ビームを介した通信の対象となる車載情報処理装置を搭載した車両が走行する第一の道路と第二の道路との交差点近傍に設置され、
前記第一の道路における交通流および前記第二の道路における交通流を取得する交通流取得手段と、
前記交通流取得手段によって取得された交通流に応じて、前記所定数まで同時に出力可能な前記複数のビームのうち、前記第一の道路側に出力するビームの数と、前記第二の道路側に出力するビームの数とを決定する出力数決定手段と、
前記第一の道路および前記第二の道路に対して、前記出力数決定手段によって決定されたビーム数の通信用ビームを出力するビーム出力手段と、
を備える通信装置。
【請求項2】
車載情報処理装置から送信された、該車載情報処理装置の搭載車両が前記第一の道路と前記第二の道路との何れを走行しているかを判別可能な位置情報を取得する位置情報取得手段を更に備え、
前記交通流取得手段は、前記位置情報取得手段によって取得された位置情報に基づいて、送信元の車載情報処理装置が搭載されていた車両が前記第一の道路および前記第二の道路の何れを走行しているかを判別し、前記第一の道路における交通流および前記第二の道路における交通流を取得する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記通信装置からのビームを受信した車載情報処理装置から送信された、該車載情報処理装置におけるビーム毎の受信電力情報を取得する受信電力情報取得手段と、
前記受信電力情報取得手段によって複数の車載情報処理装置から取得された受信電力情報が示す受信電力が高いビームを、優先度の高いビームとして指定する優先ビーム指定手段と、を更に備え、
前記ビーム出力手段は、前記優先ビーム指定手段によって高い優先度が設定されたビームを優先的に用いて、前記通信用ビームを出力する、
請求項1または2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記第一の道路方向に開口した第一のアンテナ筐体と、
前記第二の道路方向に開口した第二のアンテナ筐体と、を更に備え、
前記アンテナ素子は、前記第一のアンテナ筐体および前記第二のアンテナ筐体に分けられて収容される、
請求項1から3の何れか一項に記載の通信装置。
【請求項5】
複数のアンテナ素子を用いて、夫々異なる指向性を有する複数のビームを、所定数まで同時に出力可能な通信装置であって、前記ビームを介した通信の対象となる車載情報処理装置を搭載した車両が走行する第一の道路と第二の道路との交差点近傍に設置された通信装置が、
前記第一の道路における交通流および前記第二の道路における交通流を取得する交通流取得ステップと、
前記交通流取得ステップで取得された交通流に応じて、前記所定数まで同時に出力可能な前記複数のビームのうち、前記第一の道路側に出力するビームの数と、前記第二の道路側に出力するビームの数とを決定する出力数決定ステップと、
前記第一の道路および前記第二の道路に対して、前記出力数決定ステップで決定されたビーム数の通信用ビームを出力するビーム出力ステップと、
を実行する通信方法。
【請求項6】
前記通信装置が、
車載情報処理装置から送信された、該車載情報処理装置の搭載車両が前記第一の道路と前記第二の道路との何れを走行しているかを判別可能な位置情報を取得する位置情報取得ステップを更に実行し、
前記交通流取得ステップでは、前記位置情報取得ステップで取得された位置情報に基づいて、送信元の車載情報処理装置が搭載されていた車両が前記第一の道路および前記第二の道路の何れを走行しているかが判別され、前記第一の道路における交通流および前記第二の道路における交通流が取得される、
請求項5に記載の通信方法。
【請求項7】
前記通信装置が、
前記通信装置からのビームを受信した車載情報処理装置から送信された、該車載情報処理装置におけるビーム毎の受信電力情報を取得する受信電力情報取得ステップと、
前記受信電力情報取得ステップで複数の車載情報処理装置から取得された受信電力情報が示す受信電力が高いビームを、優先度の高いビームとして指定する優先ビーム指定ステップと、を更に実行し、
前記ビーム出力ステップでは、前記優先ビーム指定ステップで高い優先度が設定されたビームを優先的に用いて、前記通信用ビームが出力される、
請求項5または6に記載の通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−271848(P2010−271848A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122192(P2009−122192)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】