説明

通信装置

【課題】微弱UWBを利用した偏波のない近接無線転送を利用しつつ横方向に十分な通信可能範囲を確保することができる、優れた通信装置を提供する。
【解決手段】通信装置は、縦波の誘導電界の信号を放射する高周波結合器と、横波の放射電磁界若しくは電波信号を放射するアンテナを備え、横方向に広がりのある通信可能範囲を持つ。ターゲット・ポイント付近で通信が安定するというメリハリのある操作性、偏波(すなわち、アンテナの向きの依存性)のない使い勝手を実現すると同時に、横方向に広がりを持つ通信可能範囲によってターゲット・ポイントを目指した位置合わせの精度を緩和することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波の広帯域を用いる微弱UWB通信方式により近接距離で大容量データ伝送を行なう通信装置に係り、特に、電界結合を利用した微弱UWB通信を利用しつつ横方向に通信可能範囲を確保する通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触通信は、認証情報や電子マネーその他の価値情報のメディアとして広く利用されている。また、最近では、非接触通信システムのさらなるアプリケーションとして、動画像や音楽などのダウンロードやストリーミングといった大容量データ伝送を挙げることができる。大容量データ伝送も、単一のユーザー操作で済み、且つ、従来の認証・課金処理と同じアクセス時間の感覚で完結することが好ましく、それゆえ通信レートの高速化が必須となる。
【0003】
一般的なRFID規格は、13.56MHz帯を使い、電磁誘導を主原理とする近接型(0〜10cm以下:Proximity)の非接触双方向通信であり、その通信レートは106kbps〜424kbps程度に過ぎない。これに対し、高速通信に適用可能な近接無線転送技術として、微弱なUWB(Ultra Wide Band)信号を用いたTransferJet(例えば、特許文献1、非特許文献1を参照のこと)を挙げることができる。この近接無線転送技術(TransferJet)は、基本的に、電界結合作用を利用して信号を伝送する方式であり、その通信装置の高周波結合器は、高周波信号の処理を行なう通信回路部と、グランドに対しある程度の高さで離間して配置された結合用電極と、結合用電極に高周波信号を効率的に供給する共振部で構成される。
【0004】
微弱UWBを利用した近接無線転送は、結合用電極から発生する電界のうち放射電界の成分を含まない縦波ERを主に利用することを基本原理とし(後述)、2〜3cm程度の通信距離であり、偏波を持たず、高さ方向にも横方向にもほぼ同程度の広さしかなく、ほぼ半球ドーム状の通信可能範囲となる。このため、データ転送を行なう通信装置同士で、互いの結合用電極を適切に対向させ、十分な電界結合を作用させる必要がある。
【0005】
近接無線転送機能を小型に製作すれば、組み込み用途にも適し、例えばパーソナル・コンピューターや携帯電話機などの各種情報機器に搭載することができる。ところが、高周波結合器の結合用電極を小型化すると、とりわけ横方向の通信可能範囲を縮小してしまうという問題がある。例えば情報機器の筐体表面に、高周波結合器が埋め込まれた部位を示す、ターゲット・ポイントのマークを付しておけば、ユーザーはターゲット・ポイントを目指して位置合わせすればよい。しかしながら、横方向の通信可能範囲が狭いと、機器同士を近接させた際にターゲット・ポイントが陰に隠れ、中心位置から横方向にずれてタッチしてしまうことがある。
【0006】
近接無線転送機能の実用上の使い勝手を上げるには、横方向の通信可能範囲を広げることが必要である。ところが、単純に高周波結合器の結合用電極のサイズを大きくすると、結合用電極の表面上に定在波が立つ。そして、この定在波の振幅が逆向きとなる部分では異なる符号の電荷が分布することとなり、隣り合う異符号電荷同士で互いの電界を打ち消し合ってしまうため、電界強度の強い場所と弱い場所が生じる。電界強度の弱い場所は、通信相手の結合用電極を接近させても、良好な電界結合作用を得ることは困難な不感点(ヌル点)となる。
【0007】
他方、放射電界を利用した電波通信方式によれば、通信可能範囲を大幅に広げることができる。しかしながら、機器をターゲット・ポイントに近づけるという行為で通信相手を特定するといったメリハリのある操作性はない。また、伝送路上でハッキングの防止や秘匿性の確保を考慮する必要が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4345849号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】www.transferjet.org/en/index.html(平成22年3月2日現在)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、高周波の広帯域を用いる微弱UWB通信方式により近接距離で大容量データ伝送を行なうことができる、優れた通信装置を提供することにある。
【0011】
本発明のさらなる目的は、微弱UWBを利用した偏波のない近接無線転送を利用しつつ横方向に十分な通信可能範囲を確保することができる、優れた高周波結合器並びに通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願は、上記課題を参酌してなされたものであり、請求項1に記載の発明は、
データを伝送する高周波信号の処理を行なう通信回路部と、
前記通信回路部に接続される高周波信号の伝送路と、
前記高周波信号を入力して、縦波の誘導電界の信号を放射する高周波結合器と、
前記高周波信号を入力して、横波の放射電磁界若しくは電波信号を放射するアンテナと、
を具備する通信装置である。ここで言う高周波結合器は、請求項2に記載の発明によれば、前記伝送路の一端に接続され電荷を蓄える結合用電極と、前記結合用電極に対向して配置され前記電荷に対する鏡像電荷を蓄えるグランドと、前記高周波信号が供給された際に発生する定在波の電圧振幅が大きくなる部位に前記結合用電極を取り付けて前記結合用電極に流れ込む電流を大きくするための共振部と、前記結合用電極のほぼ中央の位置にて前記共振部に接続する金属線からなる支持部を有し、前記結合用電極に蓄えられた前記電荷の中心と前記グランドに蓄えられた鏡像電荷の中心を結ぶ線分からなる微小ダイポールを形成して、前記微小ダイポールの方向となす角θがほぼ0度となるように対向して配置された通信相手側の高周波結合器に向けて前記縦波の誘導電界の信号を出力するように構成されている。
【0013】
本願の請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の通信装置において、高周波結合器は、主に前記結合用電極の正面方向に前記縦波の誘導電界の信号を放射するが、他方のアンテナは、前記横波の放射電磁界若しくは電波信号が、前記高周波結合器が持つ通信可能範囲に対して横方向の広がりを与えるように配置される。
【0014】
本願の請求項4に記載の発明によれば、請求項1に記載の通信装置において、伝送路は、高周波結合器から放射される縦波の誘導電界の信号の経路と、アンテナから放射される横波の放射電磁界若しくは電波信号の経路の位相が一致するように、それぞれの経路の位相の信号総長が調整されている。
【0015】
本願の請求項5に記載の発明によれば、請求項1に記載の通信装置は、高周波信号の伝送路を前記高周波結合器又は前記アンテナのいずれか一方に選択的に接続するスイッチをさらに備え、前記高周波結合器又は前記アンテナのうち伝送状態のより良い方に接続して切り替えダイバーシティーを行なうことができる。
【0016】
本願の請求項6に記載の発明によれば、請求項1に記載の通信装置において、アンテナは、放射電磁界若しくは電波信号を放射する長さを有する前記支持部の金属線からなる。
【0017】
本願の請求項7に記載の発明によれば、請求項1に記載の通信装置において、アンテナは、前記結合用電極の誘導電界の放射方向に配設された金属片からなる。
【0018】
本願の請求項8に記載の発明によれば、請求項7に記載の通信装置において、金属片は、2分の1波長又は2分の1の整数倍の長さの線状に構成され、それ自身が単独でアンテナとして共振する。
【0019】
本願の請求項9に記載の発明によれば、請求項7に記載の通信装置において、金属片は、1波長又は波長の整数倍の長さのループ状に構成され、それ自身が単独でアンテナとして共振する。
【0020】
本願の請求項10に記載の発明によれば、請求項7に記載の通信装置において、金属片は、共振したときの電位の振幅が最大になる部位に前記結合用電極から放射される強い誘導電界が当たる場所に配設される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高周波の広帯域を用いる微弱UWB通信方式により近接距離で大容量データ伝送を行なうことができる、優れた通信装置を提供することができる。
【0022】
本発明によれば、微弱UWBを利用した偏波のない近接無線転送を利用しつつ横方向に十分な通信可能範囲を確保することができる、優れた通信装置を提供することができる。
【0023】
本願の請求項1乃至3に記載の発明によれば、縦波の誘導電界の信号を放射する高周波結合器と、横波の放射電磁界若しくは電波信号を放射するアンテナとを組み合わせて通信装置を構成することで、ユーザーがターゲット・ポイントを目指して位置合わせするのに好ましい、横方向に広がりを持つ通信可能範囲を得ることができる。本発明に係る通信装置は、ターゲット・ポイント付近で通信が安定するというメリハリのある操作性、偏波(すなわち、アンテナの向きの依存性)のない使い勝手を実現すると同時に、横方向に広がりを持つ通信可能範囲によってターゲット・ポイントを目指した位置合わせの精度を緩和して、使い勝手の良い近接無線転送を実現することができる。
【0024】
本願の請求項1乃至3に記載の発明によれば、遠方界のアンテナと組み合わせることによって、近傍界の高周波結合器の通信可能範囲を、主に結合用電極の中心位置から横方向に広げることで、例えば高周波結合器を組み込んだ情報機器同士を対向させるときに、ユーザーは位置合わせのためのターゲット・ポイントのマーク同士を厳密に近接させなくても、安定して通信を行なうことができる。
【0025】
本願の請求項4に記載の発明によれば、高周波結合器から放射される誘導電界の到達範囲と、アンテナから放射される放射電磁界の到達範囲が重なるエリアではそれぞれの信号が混じり合うが、それぞれの経路の位相の信号総長を調整しているので、互いに干渉して打ち消し合うことはない。
【0026】
本願の請求項5に記載の発明によれば、高周波結合器又はアンテナのうち伝送状態のより良い方に接続して切り替えダイバーシティーを行なうので、高周波結合器とアンテナのうちいずれか一方からしか同時に信号が放射されないから、互いの信号は混じり合うことはなく、干渉を回避することができる。
【0027】
本願の請求項6に記載の発明によれば、請求項1に記載の通信装置において、結合用電極を支持する金属線を放射電磁界若しくは電波信号を放射する長さにすることでアンテナを構成することができる。したがって、1つの高周波結合器に対し、縦波の誘導電界の信号を放射する機能の他に、横波の放射電磁界若しくは電波信号を放射する機能を兼ね備えさせ、遠方界用のアンテナと近傍界用の高周波結合器を実質的に一体化することができる。
【0028】
本願の請求項7乃至10に記載の発明によれば、請求項1に記載の通信装置において、結合用電極の誘導電界の放射方向に配設された金属片がアンテナになって動作するので、遠方界用のアンテナと近傍界用の高周波結合器を実質的に一体化して単一のモジュールとして構成することができる。結合用電極から放射される誘導電界を受けて電波を再放射することによって、結合強度を強くすることができる。
【0029】
本願の請求項8、9に記載の発明によれば、金属片が共振できるサイズであるから、金属片自身を単独でアンテナの放射エレメントとして動作(共振)させることができる。
【0030】
本願の請求項10に記載の発明によれば、金属片が共振したときの電位の振幅が最大になる部位に、結合用電極からの強い誘導電界が当たるので、金属片中に効率よく電流を励起させることができる。
【0031】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、微弱UWB通信方式による近接無線転送システムの構成を模式的に示した図である。
【図2】図2は、送信機10及び受信機20のそれぞれに配置される高周波結合器の基本構成を示した図である。
【図3】図3は、図2に示した高周波結合器の一実装例を示した図である。
【図4】図4は、微小ダイポールによる電界を表した図である。
【図5】図5は、図4に示した電界を結合用電極上にマッピングした図である。
【図6】図6は、容量装荷型アンテナの構成例を示した図である。
【図7】図7は、共振部に分布定数回路を用いた高周波結合器の構成例を示した図である。
【図8】図8は、図7に示した高周波結合器において、スタブ73上に定在波が発生している様子を示した図である。
【図9】図9は、ユーザーがターゲット・ポイントを目指して機器同士を近接させる様子を示した図である。
【図10】図10は、機器のターゲット・ポイント同士が十分に近接しない様子を示した図である。
【図11】図11は、機器のターゲット・ポイント同士が十分に近接しない様子を示した図である。
【図12】図12は、ユーザーがターゲット・ポイントを目指して位置合わせするのに好ましい通信可能範囲を示した図である。
【図13】図13は、結合用電極から発生する誘導電界の到達範囲を示した図である。
【図14】図14は、アンテナから発生する放射電磁界の到達範囲を示した図である。
【図15】図15は、高周波結合器1501とアンテナ1502を組み合わせた通信装置1500の構成例を示した図である。
【図16】図16は、高周波結合器1601から放射される信号の経路1601Aと、アンテナ1602から放射される信号の経路1602Aの位相が一致するように信号総長を調整した通信装置1600の構成例を示した図である。
【図17】図17は、高周波結合器1701とアンテナ1702とをRFスイッチ1703によって切り替えダイバーシティーにした通信装置1700の構成例を示した図である。
【図18】図18は、高周波結合器1800の結合用電極1801から正面方向に誘導電界の信号が放射するとともに、結合用電極1801を支持する金属線1802から横方向に放射電磁界若しくは電波信号を放射する様子を示した図である。
【図19】図19は、結合用電極1901の正面方向にアンテナの放射エレメントとして動作する金属片1902を配設した通信装置1900の構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0034】
図1には、電界結合作用を利用した微弱UWB通信方式による近接無線転送システムの構成を模式的に示している。同図において、送信機10及び受信機20がそれぞれ持つ送受信に用いられる結合用電極14及び24は、例えば3cm程度(若しくは使用周波数帯の2分の1波長程度)だけ離間して対向して配置され、電界結合が可能である。送信機側の送信回路部11は、上位アプリケーションから送信要求が生じると、送信データに基づいてUWB信号などの高周波送信信号を生成し、送信用電極14から受信用電極24へ電界信号として伝搬する。そして、受信機20側の受信回路部21は、受信した高周波の電界信号を復調及び復号処理して、再現したデータを上位アプリケーションへ渡す。
【0035】
近接無線転送においてUWBを使用すると、100Mbps程度の超高速データ伝送を実現することができる。また、近接無線転送では、後述するように放射電界ではなく静電界若しくは誘導電界の結合作用を利用する。その電界強度は距離の3乗若しくは2乗に反比例することから、無線設備から3メートルの距離での電界強度が所定レベル以下に抑制することで、近接無線転送システムは、無線局の免許が不要となる微弱無線とすることが可能であり、安価に構成することができる。また、近接無線転送では、電界結合方式によりデータ通信を行なうので、周辺に存在する反射物からの反射波が小さいため干渉の影響が少ない、伝送路上でハッキングの防止や秘匿性の確保を考慮する必要がない、といった利点がある。
【0036】
一方、無線通信では、波長に対する伝搬距離の大きさに応じて伝搬損が大きくなる。UWB信号のように高周波数の広帯域信号を利用した近接無線転送では、3cm程度の通信距離は約2分の1波長に相当する。すなわち、通信距離は近接といえども無視することはできない長さであり、伝搬損を十分低く抑える必要がある。とりわけ、高周波回路では、低周波回路に比べると特性インピーダンスの問題はより深刻であり、送受信機の電極間の結合点においてインピーダンス不整合による影響は顕在化する。
【0037】
例えば、図1に示した近接無線転送システムにおいて、送信回路部11と送信用電極14を結ぶ高周波電界信号の伝送路が例えば50Ωのインピーダンス整合がとられた同軸線路であったとしても、送信用電極14と受信用電極24間の結合部におけるインピーダンスが不整合であると、電界信号は反射して伝搬損を生じることから、通信効率が低下する。
【0038】
そこで、図2に示すように、送信機10及び受信機20のそれぞれに配置される高周波結合器を、平板状の電極14、24と、直列インダクタ12、22、並びに、並列インダクタ13、23からなる共振部を高周波信号伝送路に接続して構成している。ここで言う高周波信号伝送路とは、同軸ケーブル、マイクロストリップ線路、コプレーナ線路などで構成することができる。このような高周波結合器を向かい合わせて配置すると、準静電界が支配的な極近距離では結合部分がバンドパス・フィルタのように動作して、高周波信号を伝達することができる。また、誘導電界が支配的な、波長に対して無視できない距離であっても、結合用電極とグランドにそれぞれたまる電荷並びに鏡像電荷によって形成される微小ダイポール(後述)から発生する誘導電界を介して2つの高周波結合器の間で効率よく高周波信号を伝達することができる。
【0039】
ここで、送信機10と受信機20の電極間すなわち結合部分において、単にインピーダンス・マッチングを取り、反射波を抑えることだけを目的とするのであれば、各結合器を平板状の電極14、24と直列インダクタ12、22を高周波信号伝送路上に直列接続するという簡素な構造であっても、結合部分におけるインピーダンスが連続的となるように設計することは可能である。しかしながら、結合部分の前後における特性インピーダンスに変化はないので電流の大きさも変わらない。これに対し、並列インダクタ13、23を設けることによって、より大きな電荷を結合用電極14に送り込み、結合用電極14、24間で強い電界結合作用を生じさせることができる。また、結合用電極14の表面の近傍に大きな電界を誘起したとき、発生した電界は進行方向(微小ダイポールの方向:後述)に振動する縦波の電界信号として、結合用電極14の表面から伝搬する。この電界の波により、結合用電極14、24間の距離(位相長さ)が比較的大きな場合であっても電界信号を伝搬することが可能になる。
【0040】
以上を要約すると、微弱UWB通信方式による近接無線転送システムでは、高周波結合器として必須の条件は以下の通りとなる。
【0041】
(1)グランドに対向して高周波信号の波長に対して無視し得る高さだけ離間した位置に電界で結合するための結合用電極があること。
(2)より強い電界で結合させるための共振部があること。
(3)通信に使用する周波数帯において、結合用電極を向かい合わせに置いたときにインピーダンス・マッチングが取れるように、直列・並列インダクタ、及び、結合用電極によるコンデンサの定数、あるいはスタブの長さが設定されていること。
【0042】
なお、上記の条件(1)について補足すると、通常、高周波結合器のグランドから結合用電極までの高さは、20分の1波長以下で設計される。結合用電極の高さが高くなる、すなわち結合用電極と共振部を接続する金属線が長くなると金属線から水平方向に放射される電波が増加する。
【0043】
図1に示した近接無線転送システムにおいて、送信機10及び受信機20の各結合用電極14及び24が適当な距離を隔てて対向すると、2つの高周波結合器は、所望の高周波数帯の電界信号を通過するバンドパス・フィルタとして動作するとともに、単体の高周波結合器としては電流を増幅するインピーダンス変換回路として作用して、結合用電極には振幅の大きな電流が流入する。他方、高周波結合器が自由空間に単独で置かれるとき、高周波結合器の入力インピーダンスは高周波信号伝送路の特性インピーダンスと一致しないので、高周波信号伝送路に入った信号は高周波結合器内で反射され、外部に放射されないことから、近隣の他の通信システムへの影響はない。すなわち、送信機側では、通信相手が存在しないときには、旧来のアンテナのように電波を垂れ流すことはなく、通信相手が近づいたときのみインピーダンス整合がとれることによって高周波の電界信号の伝達が行なわれる。
【0044】
図3には、図2に示した高周波結合器の一実装例を示している。送信機10及び受信機20側のいずれの高周波結合器も同様に構成することができる。同図において、結合用電極14は誘電体からなるスペーサー15の上面に配設され、プリント基板17上の高周波信号伝送路とはこのスペーサー15内を貫挿するスルーホール16を通して電気的に接続されている。同図では、スペーサー15は略円柱状で、結合用電極14は略円形あるが、特定の形状に限定されるものではない。
【0045】
例えば、所望の高さを持つ誘電体にスルーホール16を形成した後、スルーホール16中に導体を充填させるとともに、この誘電体の上端面に結合用電極14となるべき導体パターンを、例えば鍍金技術により蒸着する。また、プリント基板17上には、高周波伝送線路となる配線パターンが形成されている。そして、プリント基板17上にこのスペーサー15をリフロー半田などにより実装することによって、高周波結合器を製作することができる。プリント基板17の回路実装面(若しくはグランド18)から結合用電極14までの高さ、すなわちスルーホール16の長さ(位相長さ)を使用波長に応じて適当に調整することで、スルーホール16がインダクタンスを持ち、図2に示した直列インダクタ12と代用することができる。また、高周波信号伝送路はチップ状の並列インダクタ13を介してグランド18に接続されている。
【0046】
ここで、送信機10側の結合用電極14において発生する電磁界について考察してみる。
【0047】
図1並びに図2に示すように、結合用電極14は、高周波信号の伝送路の一端に接続され、送信回路部11から出力される高周波信号が流れ込んで、電荷を蓄える。このとき、直列インダクタ12及び並列インダクタ13からなる共振部の共振作用によって、伝送路を介して結合用電極14に流れ込む電流は増幅され、より大きな電荷が蓄えられる。
【0048】
また、結合用電極14に対向するように、高周波信号の波長に対して無視し得る高さ(位相長さ)だけ離間して、グランド18が配置されている。そして、上述のように結合用電極14に電荷が蓄えられると、グランド18には鏡像電荷が蓄えられる。平面導体の外部に点電荷Qを置くと、平面導体内には(表面電荷分布を置き換えた仮想的な)鏡像電荷−Qが配置されるが、このことは、例えば溝口正著「電磁気学」(裳華房、第54頁乃至第57頁)にも記載されているように、当業界で周知である。
【0049】
上述のように点電荷Q及び鏡像電荷−Qが蓄えられた結果、結合用電極14に蓄えられた電荷の中心とグランド18に蓄えられた鏡像電荷の中心を結ぶ線分からなる微小ダイポールが形成される。厳密に言うと、電荷Qと鏡像電荷−Qは体積を持ち、微小ダイポールが電荷の中心と鏡像電荷の中心を結ぶように形成される。ここで言う「微小ダイポール」は、「電気ダイポールの電荷間の距離が非常に短いもの」を指す。例えば虫明康人著「アンテナ・電波伝搬」(コロナ社、16頁〜18頁)にも、「微小ダイポール」が記載されている。そして、微小ダイポールによって、電界の横波成分Eθ、電界の縦波成分ER、微小ダイポール回りの磁界Hφが発生する。
【0050】
図4には、微小ダイポールによる電界を表している。また、図5には、この電界を結合用電極上にマッピングした様子を示している。図示のように、電界の横波成分Eθは伝搬方向と垂直な方向に振動し、電界の縦波成分ERは伝搬方向と平行な向きに振動する。また、微小ダイポール回りには磁界Hφが発生する。下式(1)〜(3)は微小ダイポールによって生成される電磁界を表している。同式中、距離Rの3乗に反比例する成分は静電磁界、距離Rの2乗に反比例する成分は誘導電磁界、距離Rに反比例する成分は放射電磁界である。
【0051】
【数1】

【0052】
図1に示した近接無線転送システムにおいて、周辺システムへの妨害波を抑制するには、放射電界の成分を含む横波Eθを抑制しながら、放射電界の成分を含まない縦波ERを利用することが好ましいと考えられる。何故ならば、上式(1)、(2)から分かるように、電界の横波成分Eθは距離に反比例する(すなわち、距離減衰の小さい)放射電界を含むのに対して、縦波成分ERは放射電界を含まないからである。
【0053】
まず、電界の横波成分Eθを生じないようにするには、高周波結合器がアンテナとして動作しないようにする必要がある。図2に示した高周波結合器は、一見すると、アンテナ素子の先端に金属を取り付けて静電容量を持たせ、アンテナの高さを短縮させる「容量装荷型」のアンテナと構造が類似する。したがって、高周波結合器が容量装荷型アンテナとして動作しないようにする必要がある。図6には、容量装荷型アンテナの構成例を示しているが、同図中で矢印A方向に主に電界の縦波成分ERが発生するとともに、矢印B1、B2方向には電界の横波成分Eθが発生する。
【0054】
図3に示した結合用電極の構成例では、誘電体15とスルーホール16は、結合用電極14とグランド18との結合を回避する役割と、直列インダクタ12を形成する役割を兼ね備えている。プリント基板17の回路実装面から電極14まで十分な高さをとって直列インダクタ12を構成することによって、グランド18と電極14との電界結合を回避して、受信機側の高周波結合器との電界結合作用を確保する。但し、誘電体15の高さが大きい、すなわちプリント基板17の回路実装面から電極14までの距離が使用波長に対して無視できない長さになると、高周波結合器が容量装荷型アンテナとして作用してしまい、図6中の矢印B1、B2方向で示したような横波成分Eθが発生する。よって、誘電体15の高さは、電極14とグランド18との結合を回避して高周波結合器としての特性を得るとともに、インピーダンス・マッチング回路として作用するために必要な直列インダクタ12を構成するために十分な長さとし、直列インダクタ12に流れる電流による不要電波Eθの放射が大きくならない程度に短いことが条件となる。
【0055】
他方、上式(2)から、縦波ER成分は微小ダイポールの方向となす角θ=0度で極大となることが分かる。したがって、電界の縦波ERを効率的に利用して非接触通信を行なうには、微小ダイポールの方向となす角θがほぼ0度となるように対向して通信相手側の高周波結合器を配置して、高周波の電界信号を伝送することが好ましい。
【0056】
また、直列インダクタ12と並列インダクタ13からなる共振部によって、結合用電極14に流れ込む高周波信号の電流をより大きくすることができる。この結果、結合用電極14に蓄積される電荷とグランド側の鏡像電荷によって形成される微小ダイポールのモーメントを大きくすることができ、微小ダイポールの方向となす角θがほぼ0度となる伝搬方向に向かって、縦波ERからなる高周波の電界信号を効率的に放出することができる。
【0057】
図2に示した高周波結合器では、インピーダンス整合部は並列インダクタ及び直列インダクタの定数L1、L2により動作周波数f0が決定される。ところが、高周波回路では集中定数回路は分布定数回路よりも帯域が狭いことが知られており、また周波数が高いときインダクタの定数は小さくなるので、定数のばらつきによって共振周波数がずれるという問題がある。これに対し、インピーダンス整合部や共振部を集中定数回路から分布定数回路に代えて高周波結合器を構成することで、広帯域化を実現するという解決方法が考えられる。
【0058】
図7には、インピーダンス整合部や共振部に分布定数回路を用いた高周波結合器の構成例を示している。図示の例では、下面にグランド導体72が形成されるとともに、上面に印刷パターンが形成されたプリント基板上71に、高周波結合器が配設されている。高周波結合器のインピーダンス整合部並びに共振部として、並列インダクタと直列インダクタの代わりに、分布定数回路として作用するマイクロストリップライン又はコプレーナ導波路すなわちスタブ73が形成され、信号線パターン74を介して送受信回路モジュール75と結線している。スタブ73は、先端においてプリント基板71を貫挿するスルーホール76を介して下面のグランド72に接続してショートされる。また、スタブ73の中央付近において、細い金属線からなる1本の端子77を介して結合用電極78に接続される。
【0059】
なお、電子工学の技術分野で言う「スタブ(stub)」は、一端を接続、他端を未接続又はグランド接続した電線の総称であり、調整、測定、インピーダンス整合、フィルタなどの用途で回路の途中に設けられる。
【0060】
ここで、信号線を介して送受信回路から入力された信号は、スタブ73の先端部で反射し、スタブ73内には定在波が立つことになる。スタブ73の位相長さは高周波信号の2分の1波長(位相にして、180度)程度とし、信号線74とスタブ73はプリント基板71上のマイクロストリップ線路、コプレーナ線路などで形成される。図8に示すように、スタブ73の位相長さが2分の1波長で先端がショートしているときには、スタブ73内に発生する定在波の電圧振幅はスタブ73の先端で0となり、スタブ73の中央、すなわちスタブ73の先端から4分の1波長(90度)のところで最大となる。定在波の電圧振幅が最大となるスタブ73の中央付近に結合用電極78を1本の端子77で接続することで、伝搬効率の良い高周波結合器を作ることができる。
【0061】
図7中に示すスタブ73は、プリント基板71上のマイクロストリップライン又はコプレーナ導波路であり、その直流抵抗が小さいことから、高周波信号でも損失が少なく、高周波結合器間の伝搬損を小さくすることができる。また、分布定数回路を構成するスタブ73のサイズは高周波信号の2分の1波長程度と大きいことから、製造時の公差による寸法の誤差は全体の位相長さに比較すると微量であり、特性のバラツキが生じにくい。
【0062】
続いて、非接触通信システムにおいて、機器同士を近接させて通信状態を確保する操作について考察する。ここでは、各機器の表面にターゲット・ポイントのマークが付されていることを想定し、ユーザーがターゲット・ポイントのマークを目指して操作する。
【0063】
例えば、ユーザーが一方の機器を把持し、他方の機器の上に載せることで近接した状態を得ようとする場合、図9に示すように、ある程度近づけたときには、ユーザーが把持する機器若しくは機器を把持するユーザーの手によって他方の機器のターゲット・ポイントが隠れてしまい、その位置を目視で確認することはできなくなってしまう。
【0064】
ここで、ターゲット・ポイント同士が十分に近接しない状況として、図10に示すように、互いのターゲット・ポイント間が高さ方向に間隔があく場合と、図 11に示すように、横方向にずれて間隔があく場合が挙げられる。
【0065】
図10並びに図11に示したような状況を想定すると、機器の通信可能範囲は、図12に点線で示すように、ターゲット・ポイントに対し横方向に広がっていることが、ユーザーの使い勝手が良いと考えられる。また、図示の通信可能範囲は、ターゲット・ポイントの中心付近で高さ方向の通信可能範囲がピーク的に広がっていることから、ターゲット・ポイント付近で通信が安定するというメリハリのある操作性を併せて得ることができる。
【0066】
微弱UWBを利用した近接無線転送では、結合用電極から発生する電界の縦波ERを主に利用する。すなわち、結合用電極の表面の近傍に大きな電界を誘起したとき、発生した電界は進行方向(微小ダイポールの方向)に振動する縦波の電界信号として、結合用電極の表面から伝搬する。
【0067】
電界の縦波ER成分は、上式(2)のように表わされる。微小ダイポールの方向となす角をθとすると、電界の縦波ER成分は、cosθに比例し、角θ=0度で極大となる。結合用電極の正面に対し鉛直方向をθ=0度とすると、電界の縦波ER成分は、正面方向の電界が最も強く、角度θが大きくなるにつれて次第に弱くなり、真横方向すなわちθ=90度では0になってしまう。したがって、結合用電極から発生する誘導電界の到達範囲(すなわち、通信可能範囲)は、図13中において点線で示す通りである。
【0068】
他方、アンテナを利用した電波通信方式では、放射電界を含む電界の横波成分Eθを主に利用するものである。電界の横波成分Eθは、上式(1)のように表わされる。アンテナを電流が流れる方向となす角をθとすると、電界の横波成分Eθは、真横方向すなわちθ=90度で電界が最も強く、角度θが小さくなるにつれて次第に弱くなり、正面方向すなわちθ=0度では0になってしまう。したがって、アンテナから発生する放射電磁界の到達範囲(すなわち、通信可能範囲)は、図14中において点線で示す通りである。図示のように、電波を放射するアンテナは、水平面内にほぼ無指向性に、且つ、距離に対し減衰の少ない信号を比較的広範囲に伝達することができる。
【0069】
そこで、本発明者は、図12に示したような、ユーザーがターゲット・ポイントを目指して位置合わせするのに好ましい通信可能範囲を実現するために、図13に示したような結合用電極による通信可能範囲と、図14に示したようなアンテナによる通信可能範囲を組み合わせた通信装置を提案する。
【0070】
図15には、高周波結合器1501とアンテナ1502を組み合わせた通信装置1500の構成例を示している。アンテナ1502は、高周波結合器1501の結合用電極から所定の距離だけ離間して配置され、アンテナ1502を電流が流れる方向と高周波結合器1501の結合用電極の正面方向はほぼ平行である。また、アンテナ1502の背面には反射板1503を配設し、アンテナ1502から放射される電波が所望の方向、すなわち、結合用電極1501の方へ集中するようにしている。
【0071】
高周波結合器1501の結合用電極の正面に対し鉛直方向をθ=0度とすると、結合用電極1501から放射される電界の縦波ER成分は、正面方向の電界が最も強く、角度θが大きくなるにつれて次第に弱くなり、真横方向すなわちθ=90度では0になる。他方、アンテナ1502を電流が流れる方向となす角をθとすると、アンテナから放射される電界の横波成分Eθは、真横方向すなわちθ=90度で電界が最も強く、角度θが小さくなるにつれて次第に弱くなり、正面方向すなわちθ=0度では0になる。これらの電界を重ね合わせると、図12示したものに近い通信可能範囲を得ることができる。
【0072】
高周波結合器1501から放射される誘導電界の到達範囲と、アンテナ1502から放射される放射電磁界の到達範囲が重なるエリアでは、それぞれの信号が混じり合うことになるので、互いに干渉して打ち消し合わないようにする工夫が必要である。
【0073】
図16には、高周波結合器1601とアンテナ1602を組み合わせからなり、信号の干渉を回避した通信装置1600の一構成例を示している。高周波結合器1601とアンテナ1602の各々には、信号線1604を介して高周波信号が入力される。同図において、高周波結合器1601から放射される信号の経路1604Aと、アンテナ1602から放射される信号の経路1604Bの位相が一致するように、それぞれの経路の位相の信号総長を調整すれば、干渉を回避することができる。
【0074】
また、図17には、高周波結合器1701とアンテナ1702を組み合わせからなり、信号の干渉を回避した通信装置1700の他の構成例を示している。図17に示す通信装置1700は、高周波結合器1701とアンテナ1702の各々には、信号線1704を介して高周波信号が入力される。信号線1704の線路上には、RFスイッチ1705が挿入され、高周波結合器1701と、アンテナ1702とを、RFスイッチ1705よって切り替えダイバーシティーにしている。伝送状態のより良い経路を判断して、RFスイッチ1705に切り替え信号を入力し、高周波結合器1701とアンテナ1702のうちいずれかから信号が放射される。すなわち、高周波結合器1701とアンテナ1702のうちいずれか一方からしか同時に信号が放射されないから、互いの信号は混じり合うことはなく、干渉を回避することができる。伝送状態は、例えば、受信信号の強度や、パケット・エラー・レートなどから判断することができる。
【0075】
図15〜図17に示した通信装置において、放射電磁界若しくは電波信号を放射するアンテナを「遠方界用」、誘導電界の信号を放射する高周波結合器を「近傍界用」とそれぞれ位置付けることができる。図15〜図17に示した通信装置では、遠方界用のアンテナと近傍界用の高周波結合器はそれぞれ個別のモジュール部品として構成されている。これに対し、1つの高周波結合器に対し、縦波の誘導電界の信号を放射する機能の他に、横波の放射電磁界若しくは電波信号を放射する機能を兼ね備えさせ、遠方界用のアンテナと近傍界用の高周波結合器を実質的に一体化して単一のモジュールとして構成するという変形例も考えられる。
【0076】
例えば、高周波結合器が容量装荷型アンテナと構造が類似することは、図6を参照しながら既に述べた通りである。容量装荷型アンテナとしての作用を抑制するには、結合用電極を、グランドに対向して高周波信号の波長に対して無視し得る高さだけ離間した位置に配設する必要がある。これとは逆に、高周波結合器を遠方界用のアンテナとしても機能させるには、結合用電極を、グランドに対向して高周波信号の波長に対して無視できない高さまで離間して配置すればよい。このような場合、結合用電極を支持する金属線がアンテナとして動作し、放射電磁界若しくは電波信号を放射する。図18には、遠方界用のアンテナと近傍界用の高周波結合器を実質的に一体化して単一のモジュールとして構成した通信装置1800の一構成例を示している。高周波結合器1800の結合用電極1801から正面方向に誘導電界の信号が放射するとともに、結合用電極1801を支持する金属線1802から横方向に放射電磁界若しくは電波信号を放射する様子を示している。金属線1802は、放射電磁界若しくは電波信号を放射する長さを有するものとする。
【0077】
また、本発明者は、通信し合う高周波結合器の結合用電極間に、ある特定の形状の金属を挿入すると、結合強度が強くなることを確認した。これは、ある特定の形状の金属がアンテナになって、結合用電極から放射される誘導電界を受けて、電波を再放射する現象によるものと思料される。
【0078】
図19には、金属片による電波の再放射現象を利用して、遠方界用のアンテナと近傍界用の高周波結合器を実質的に一体化して単一のモジュールとして構成した通信装置1900の構成例を示している。結合用電極1901の正面方向(誘導電界の放射方向)にアンテナの放射エレメントとして動作する金属片1902を配設することで、遠方界用のアンテナと近傍界用の高周波結合器を実質的に一体化して構成した通信装置1900を示している。結合用電極1901から放射される誘導電界によって、金属片1902中に電流を励起する。この結果、金属片1902から間接的に電波を放射させることができる。
【0079】
ここで、金属片1902をそれ自身が単独でアンテナの放射エレメントとして動作(共振)させるためには、金属片1902が共振できるサイズである必要がある。具体的には、金属片1902を、2分の1波長の長さの線状、あるいは、1波長(又は波長の整数倍)の長さのループ状に構成すればよい。各構成によれば、金属片1902は、半波長ダイポール・アンテナ、ループ・アンテナとしてそれぞれ動作することができる。
【0080】
また、金属片1902の共振を励起できる位置に結合用電極1901を配設することが好ましい。金属片が共振したときの電位の振幅(貯まる電荷量の振幅)が最大になる部位に、結合用電極1901から放射される強い誘導電界が当たると、金属片1902中に効率よく電流を励起させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳細に説明してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0082】
本明細書では、UWB信号を電界結合によりケーブルレスでデータ伝送する通信システムに適用した実施形態を中心に説明してきたが、本発明の要旨はこれに限定されるものではない。例えば、UWB通信方式以外の高周波信号を使用する通信システムや、比較的低い周波数信号を用いて電界結合、あるいはその他の電気磁気的作用によりデータ伝送を行なう通信システムに対しても、同様に本発明を適用することができる。
【0083】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【符号の説明】
【0084】
10…送信機、
11…送信回路部
12、22…直列インダクタ
13、23…並列インダクタ
14…送信用電極
15…誘電体(スペーサー)
16…スルーホール
17…プリント基板
18…グランド
20…受信機
21…受信回路部
24…受信用電極
71…プリント基板
72…グランド導体
73…スタブ
74…信号線パターン
75…送受信回路モジュール
76…スルーホール
77…端子
78…結合用電極
1500、1600、1700、1800、1900…通信装置
1501、1601、1701、1801、1901…結合用電極
1502、1602、1702…アンテナ
1503…反射板
1604、1704…信号線
1604A、1604B…信号経路
1705…RFスイッチ
1802…金属線
1902…金属片


【特許請求の範囲】
【請求項1】
データを伝送する高周波信号の処理を行なう通信回路部と、
前記通信回路部に接続される高周波信号の伝送路と、
前記高周波信号を入力して、縦波の誘導電界の信号を放射する高周波結合器と、
前記高周波信号を入力して、横波の放射電磁界若しくは電波信号を放射するアンテナと、
を具備する通信装置。
【請求項2】
前記高周波結合器は、前記伝送路の一端に接続され電荷を蓄える結合用電極と、前記結合用電極に対向して配置され前記電荷に対する鏡像電荷を蓄えるグランドと、前記高周波信号が供給された際に発生する定在波の電圧振幅が大きくなる部位に前記結合用電極を取り付けて前記結合用電極に流れ込む電流を大きくするための共振部と、前記結合用電極のほぼ中央の位置にて前記共振部に接続する金属線からなる支持部を有し、前記結合用電極に蓄えられた前記電荷の中心と前記グランドに蓄えられた鏡像電荷の中心を結ぶ線分からなる微小ダイポールを形成して、前記微小ダイポールの方向となす角θがほぼ0度となるように対向して配置された通信相手側の高周波結合器に向けて前記縦波の誘導電界の信号を出力する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記高周波結合器は、主に前記結合用電極の正面方向に前記縦波の誘導電界の信号を放射し、
前記アンテナは、前記横波の放射電磁界若しくは電波信号が、前記高周波結合器が持つ通信可能範囲に対して横方向の広がりを与えるように配置される、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記伝送路は、前記高周波結合器から放射される前記縦波の誘導電界の信号の経路と、前記アンテナから放射される前記横波の放射電磁界若しくは電波信号の経路の位相が一致するように、それぞれの経路の位相の信号総長が調整されている、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項5】
前記高周波信号の伝送路を前記高周波結合器又は前記アンテナのいずれか一方に選択的に接続するスイッチをさらに備え、前記高周波結合器又は前記アンテナのうち伝送状態のより良い方に接続して切り替えダイバーシティーを行なう、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項6】
前記アンテナは、放射電磁界若しくは電波信号を放射する長さを有する前記支持部の金属線からなる、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項7】
前記アンテナは、前記結合用電極の誘導電界の放射方向に配設された金属片からなる、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項8】
前記金属片は、2分の1波長又は2分の1の整数倍の長さの線状に構成され、それ自身が単独でアンテナとして共振する、
請求項7に記載の通信装置。
【請求項9】
前記金属片は、1波長又は波長の整数倍の長さのループ状に構成され、それ自身が単独でアンテナとして共振する、
請求項7に記載の通信装置。
【請求項10】
前記金属片は、共振したときの電位の振幅が最大になる部位に前記結合用電極から放射される強い誘導電界が当たる場所に配設される、
請求項7に記載の通信装置。


【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−199510(P2011−199510A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63052(P2010−63052)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】