説明

通気性に優れた皮革様シート及びその皮革様シートの製造方法

【課題】通気性に優れた皮革様シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】皮革様シートは、極細長繊維束の絡合不織布と絡合不織布の内部に付与された第一の高分子弾性体とを含み、表層に第一の高分子弾性体が偏在しており、表層の外表面に、カゼイン粒子と、カゼイン粒子を被着する厚み50μm以下の第二の高分子弾性体からなる膜を含む表皮層と、を備える皮革様シートを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気性に優れた皮革様シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然皮革に似せた皮革様シートが種々提案されている。具体的には、例えば、ポリウレタン樹脂が含浸付与された、極細繊維からなる絡合不織布の表面に、数100μmの厚みの、いわゆる銀面調の表皮層を形成した皮革様シートが知られている。このような銀面調の表皮層は、例えば、ポリウレタン樹脂を含浸付与した絡合不織布の表面に、ポリウレタン溶液を塗布及び湿式凝固させて形成されたり、ポリウレタン樹脂を含浸付与した絡合不織布の表面に、離型紙上に予め形成されたポリウレタンフィルムを接着剤層を介して貼り合わせて形成されている(例えば特許文献1〜3)。
【0003】
上述したような銀面調の表皮層を有する皮革様シートは、充分な通気性が得られないという欠点があった。従来の銀面調の表皮層または表皮層を接着する接着剤層は、膜厚が厚い連続膜であったために、絡合不織布の空隙を塞ぐためである。このような欠点を解決すべく、特許文献4は、柔軟性、風合い、通気性、透湿性等に優れた皮革様シートとして、基材の少なくとも片側にミクロジョイント構造からなる被覆層を有する皮革様シートを開示している。このようなミクロジョイント構造からなる被覆層は予め基材の少なくとも片面に従来と同様の方法により表皮層を形成した後、形成された表皮層を機械的及び/又は化学的に微小に分割することにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−5518号公報
【特許文献2】特開平4−185777号公報
【特許文献3】特許3187357号
【特許文献4】特開平9−188975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の塗布または接着剤層により貼り合わされたフィルムにより形成された皮革様シートの表皮層は、絡合不織布の空隙を塞ぐために、通気性、吸水性、透湿性に乏しかった。さらに、特許文献4に開示されたような皮革様シートも、その表皮層である連続膜を割ることにより絡合不織布の内部の空隙を外界に露出させているものの、連続膜が存在する部分の通気性は不充分であった。
【0006】
また、塗布または接着剤層により貼り合わされたフィルムにより形成された表皮層の場合、基材と塗膜や接着剤層との間に界面ができる。このような構造の皮革様シートは、繰り返し折り曲げたときに基材と塗膜や接着剤層との間の界面の存在により、表皮層に容易に亀裂が入るという問題もあった。耐屈曲性を向上させるため、表面に形成された表皮層の硬度を低下させたり、タック性を高めたりする方法もあるが、その場合には表面の風合いにべたついた感が残るために、表面に汚れがつきやすいという問題もあった。
【0007】
本発明は、通気性及び耐屈曲性に優れた皮革様シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る皮革様シートは、表層と表層に隣接する中底層とからなるシート基材と、表層の外表面に被着された表皮層とを含み、シート基材は、極細長繊維束の絡合不織布と絡合不織布の内部に付与された第一の高分子弾性体とを含み、第一の高分子弾性体が表層に偏在しており、中底層が加脂剤を含有し、表皮層は、カゼイン粒子と前記カゼイン粒子を被着する厚み50μm以下の第二の高分子弾性体からなる膜を含む。このような皮革様シートは、シート基材の表層に偏在させた第一の高分子弾性体が、厚い表皮層の代わりに、表面の機械的強度等を維持する。また、硬く且つタック性の低いカゼイン粒子を第二の高分子弾性体で表層の外表面に被着させることにより、外表面のべたつきが抑えられる。なお、カゼイン粒子を被着した第二の高分子弾性体の厚みは極めて薄いために、カゼイン粒子の周囲やカゼイン粒子が抜け落ちた部分に空隙ができるために、気体を容易に通過させる。そのために、絡合不織布の外表面に積層された従来の厚い表皮層を積層した場合のように通気性を阻害することがない。また、中底層が、加脂剤を含有することにより、柔らかな風合いを維持する点から好ましい。
【0009】
また、表層の厚みは、シート基材の総厚みに対して50%の厚みであること、または、500〜800μmの厚みであることが、絡合不織布の表面の高い表面強度を充分に確保できる点から好ましい。
【0010】
また、表層に、第一の高分子弾性体全量の60質量%以上が存在することが、表面強度に優れる点から好ましい。
【0011】
また、カゼイン粒子の含有割合は、第二の高分子弾性体100質量部に対し、0.5〜50質量部であることが、表面のべたつきを充分に抑える点から好ましい。
【0012】
また、エンボス型で転写された凹凸形状の表面を有する場合には、凹凸形状の全表面にカゼイン粒子が存在することが、汚れの残りやすい凹部に汚れがつきにくくなる点から好ましい。
【0013】
また、本発明に係る皮革様シートの製造方法は、(1)海島型繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程と、(2)長繊維ウェブに絡合処理を施すことにより絡合ウェブを製造する工程と、(3)絡合ウェブ中の海島型繊維を極細繊維に変換することにより、極細繊維からなる絡合不織布を製造する工程と、(4)絡合不織布に第一の高分子弾性体を形成するための水系樹脂液を付与した後、絡合不織布の表面から加熱することにより第一の高分子弾性体が表層に偏在するように樹脂液を乾燥させる工程と、(5)第(4)工程の後、絡合不織布に、加脂剤を含有する水分散体またはエマルジョンを含浸させた後、乾燥する工程と、(6)カゼイン粒子及び第二の高分子弾性体を含む水性樹脂液を絡合不織布の表面に塗布した後、乾燥することにより、カゼイン粒子を被着した厚み50μm以下の表皮層を形成する工程と、(7)第(6)工程の後、絡合不織布をその表層の極細繊維束を形成する極細繊維を融着させる条件で加熱プレスする工程と、を備える。このような製造方法によれば、上述したような通気性に優れた皮革様シートが得られる。とくに、工程(6)により、絡合不織布の表面にカゼイン粒子及び第二の高分子弾性体を含む表皮層を形成した後、加熱プレスする工程によれば、脱落しやすいカゼイン粒子を絡合不織布の表面に高い拘束力で保持することができる。また、エンボス型で転写された凹凸形状の表面を有する場合等においても、汚れの残りやすい凹部に脱落しやすいカゼイン粒子を保持させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、通気性及び耐屈曲性に優れ、さらに、表面のべたつきのない皮革様シートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本実施形態の皮革様シート10の断面の様子を説明するための模式縦断面図ある。
【図2】図2は実施例1で得られた皮革様シートAの断面のSEMによる画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る皮革様シートの一実施形態である皮革様シート10について詳しく説明する。図1の模式縦断面図に示すように、皮革様シート10は、表層Sと表層Sに厚み方向に隣接する中底層Bとからなるシート基材と、表層Sの外表面に被着された表皮層Lとを含む。そして、シート基材は、極細繊維1aの繊維束からなる絡合不織布1と絡合不織布1の内部に付与された第一の高分子弾性体2aとを含む。複数本の各極細繊維1aは原料の海島型繊維に由来する繊維束を形成している。
【0017】
第一の高分子弾性体2aは絡合不織布1の表層Sに偏在しており、極細繊維1aからなる繊維束を拘束している。そして、表層Sの外表面には、カゼイン粒子3を被着した第二の高分子弾性体2bの膜を含む表皮層Lが形成されている。表皮層Lのカゼイン粒子3の少なくとも一部分は表面に露出している。
【0018】
また、表層Sに厚み方向に隣接する中底層Bの極細繊維1aは第一の高分子弾性体2aに拘束されていないか、ごく一部分が拘束されているのみである。そして、中底層Bは多数の空隙vを含み、その空隙vや繊維束の内部に部分的に加脂剤4を含む。繊維束の周囲にも加脂剤4が付着している。加脂剤は従来から知られた皮革に柔軟性を付与する薬剤である。このような加脂剤の具体例としては、例えば、動物油および/またはヒマワリ油のような植物油を基礎にして合成された、ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテル、ソルビタンモノオレエート、トリグリセライド(牛脚油)等が挙げられる。
【0019】
表層Sの極細繊維1aからなる繊維束の内部には第一の高分子弾性体2aが充填されており、また、繊維束の外周の大部分は高分子弾性体2aで覆われ、繊維束間の一部も高分子弾性体2aによって、充填されていることが好ましい。さらに、表層Sの極細繊維1a同士は部分的に融着されて繊維銀面を形成していてもよい。一方、中底層Bが第一の高分子弾性体2aを含む場合には、繊維束同士は第一の高分子弾性体2aにより部分的にごく一部の表面が覆われているだけであることが好ましく、表層Sの表面に存在する開口が中低層Bまで連通した構造である空隙部分を有することが好ましい。
【0020】
このような皮革様シート10が、通気性及び耐屈曲性に優れ、さらに、表面のべたつきが少ない理由を説明する。
図1に示すように、皮革様シート10は、極細繊維1aの繊維束からなる絡合不織布1の表層Sに第一の高分子弾性体2aが偏在した構造のシート基材を有する。表層Sに存在する第一の高分子弾性体2aは絡合不織布1を形成する繊維束との間に一部空隙を有した状態で充填される。この空隙はシート基材の表面側から裏面側に連通して、高い通気性を付与するものと考えられる。従来、広く知られていた皮革様シートにおいては、シート基材の表面に比較的厚い連続膜の表皮層が形成されて、絡合不織布の表面の空隙が塞がれるために、通気性が遮断されていた。一方、本実施形態の皮革様シート10においては、シート基材の表面に厚い連続膜の表皮層を形成させていないために、通気性が維持されている。また、絡合不織布1の表層と第一の高分子弾性体2aとを一体化させたような表層Sにより、従来の表皮層と同等の表面強度が維持される。さらに、従来の厚い表皮層の界面が形成されないために、折り曲げたときに挫屈シワが生じにくい。
【0021】
さらに、表層Sの外表面には、カゼイン粒子3を被着した厚み50μm以下の第二の高分子弾性体2bからなる膜を含む表皮層Lが形成されている。また、カゼイン粒子3は、硬度が高く、タック性も低いために、皮革様シート10の表面のべたつきを抑えて、防汚性を向上させる。
【0022】
次に皮革様シート10の構成についてさらに詳しく説明する。
皮革様シート10のシート基材に含まれる絡合不織布1は長繊維の極細繊維1aからなる繊維束の絡合シートである。
極細繊維1aを形成するポリマーは極細繊維を形成しうるポリマーであれば特に限定されない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリトリメチレンテレフタレート(PTT),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエステル弾性体等のポリエステル系樹脂またはそれらのイソフタル酸等による変性物;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,ポリアミド12,芳香族ポリアミド,半芳香族ポリアミド,ポリアミド弾性体等のポリアミド系樹脂またはそれらの変性物;ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系ポリウレタンなどのポリウレタン系樹脂等が挙げられる。これらの中では、PET,PTT,PBT,これらの変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂は、熱処理により収縮しやすいために皮革様シートに充実感のある風合いを付与することができる。また、ポリアミド6,ポリアミド66等のポリアミド系樹脂はポリエステル系樹脂に比べて吸湿性があってしなやかな極細長繊維が得られるために、膨らみ感のある柔らかな風合いを有する皮革様シートが得られる点から好ましい。
【0023】
極細繊維1aの平均繊度は0.001〜2dtex、さらには0.002〜0.2dtexの範囲であることが好ましい。また、繊維束の平均繊度は0.5〜10dtex、さらには0.7〜5dtexの範囲であることが好ましい。なお、繊維束中の極細繊維の本数は特に限定されないが、工業的な生産性の観点からは5〜1000本、さらには、10〜300本程度の範囲であることが好ましい。
【0024】
極細繊維1aは、意図的に切断されていない長繊維(フィラメント)である。すなわち、意図的に切断されたステープルと異なる。長繊維の繊維長は100mm以上であることが好ましく、製造可能である限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。
【0025】
絡合不織布1の目付としては、140〜3000g/m2、さらには200〜2000g/m2であることが好ましい。
【0026】
極細繊維1aは、皮革様シート10に対して、実質的に面方向に配向していることが好ましい。また、面方向に配向した極細繊維1aの向きは、一方向に配向していることがさらに好ましい。具体的には、例えば、厚み方向に切断した断面において、配向比が1.5〜50、さらには1.5〜20の範囲であることが好ましい。ここで、配向比とは、互いに直交する2方向で切断した場合の断面において観察される極細繊維1aの断面の数の比を意味する。具体的には、例えば、皮革様シート10の互いに直行する断面(例えば、全巾方向(XMD方向)とXMD方向と直交するマシン方向(MD方向))を観察した場合、一方の断面における極細繊維1aの断面の数(X)と他方の断面における極細繊維1aの断面の数(Y)との比(X/Y、但しX>Y)を意味する配向比が上述したような範囲の場合には、極細繊維1aが面方向の一方向に高く配向しているといえる。一方向への配向性が高い場合には、均一で平滑な表面が得られる。
【0027】
なお、断面における極細繊維1aの断面の数は、厚み方向に切断された皮革様シートの切断面をSEMにより撮影することにより計数できる。なお、試験片の作成方法は、例えば、皮革様シートの表面を所定の条件で熱プレス処理した後、表面付近の毛羽配向を固定したのち、方刃カミソリを使用し、繊維配向が崩れないように表面から一気に切断する。撮影範囲は、表面から20μm程度の深さ付近が好ましい。
【0028】
絡合不織布1の表層Sには、第一の高分子弾性体2aが偏在している。第一の高分子弾性体2aの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル系高分子弾性体、ポリウレタン系弾性体、アクリロニトリル系高分子弾性体、ポリオレフィン系高分子弾性体、ポリエステル系弾性体、などが挙げられる。これらの中では、(メタ)アクリル系高分子弾性体、及び、ポリウレタン系弾性体がとくに好ましい。
【0029】
第一の高分子弾性体2aの含有割合としては、絡合不織布1の質量に対して、0.1〜60質量%、さらには0.5〜60質量%、とくには1〜50質量%であることが好ましい。第一の高分子弾性体の含有割合が高すぎる場合には通気性が低下する傾向があり、少なすぎる場合には形態安定性が低下する傾向がある。
【0030】
また、皮革様シート10のシート基材に含まれる第一の高分子弾性体2aの全量の60質量%、さらには75質量%が表層Sに存在することが好ましい。このように第一の高分子弾性体2aを表層Sに偏在させることにより、中底層Bに存在する極細繊維1aを拘束しすぎることなく、形態安定性を保持することができる。それにより柔らかい風合いの皮革様シート10が得られる。
【0031】
また、表層Sの外表面に形成される表皮層Lは、カゼイン粒子3を被着した第二の高分子弾性体2bからなる膜を含む。第二の高分子弾性体2bは、第一の高分子弾性体2aと同じ種類のものでも、異なる種類のものであってもよい。
【0032】
カゼイン粒子3は粒状であり、第二の高分子弾性体2bからなる膜から少なくとも一部が表面に露出していることが好ましい。カゼイン粒子の平均粒子径としては1〜250μm、さらには、5〜100μmであることが好ましい。
【0033】
カゼイン粒子の含有割合としては、第二の高分子弾性体 100質量部に対して0.5〜50質量部、さらには1〜30質量部であることが表面のべたつきを充分に抑え、充分な耐防汚性を付与することができる点から好ましい。
【0034】
第一の高分子弾性体2aが偏在している表層Sの厚みは、シート基材の総厚みに対して50%の厚み、さらには、30〜50%の範囲の厚みであることが好ましい。また、表層Sの厚みは、300〜800μm、さらには、400〜700μmであることが好ましい。表層Sの厚みが厚すぎる場合には、皮革様シート10の風合いが硬くなり、薄すぎる場合には、形態安定性が乏しくなる傾向がある。
【0035】
また、カゼイン粒子3を被着する表皮層Lの第二の高分子弾性体からなる膜の厚みは、50μm以下であり、好ましくは、0.5〜50μm、さらには、1〜30μmの範囲であることが通気性と耐防汚性等の表面特性とのバランスに優れる点から好ましい。
【0036】
表層Sの空隙率としては0.1〜20%、さらには0.5〜10%であることが通気性と表面強度とのバランスに優れる点から好ましい。また、中底層Bの空隙率に対する表層Sの空隙率の割合は、80%以下、さらには50%以下であることが、皮革様シートの柔軟な風合いと優れた通気性とのバランスに優れる点から好ましい。
【0037】
また、シート基材の厚みとしては0.1〜6mm、さらには、0.3〜4mmであることが好ましい。
【0038】
皮革様シート10の表面は平滑であっても、例えばエンボス型で転写されたような、凹凸形状の表面を有していてもよい。凹凸形状の表面を有する場合、凹部にもカゼイン粒子3を含有する表皮層Lが形成されていることが好ましい。このような場合には、汚れの残りやすい凹部にも防汚性を付与することができる。
【0039】
次に、本実施形態の皮革様シートの製造方法の一例について詳しく説明する。
本実施形態の皮革様シートの製造方法においては、はじめに海島型繊維からなる長繊維ウェブを製造する(工程(1))。
【0040】
海島型繊維は少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維であり、海成分ポリマーからなるマトリクス中に島成分ポリマーが分散した断面を有する。海島型繊維は、海成分ポリマーを溶剤または分解剤により抽出除去または分解除去することにより、島成分ポリマーからなる極細繊維が複数本集まった繊維束に変換される。島成分ポリマーは海成分ポリマーとは非相溶であり、また、抽出除去性または分解除去性が異なる。
【0041】
島成分ポリマーの具体例としては、前述したポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂およびポリウレタン系樹脂、またはこれらの変性樹脂等が好ましく用いられる。なお、これらの中では、表面物性、風合い、および極細繊維の融着性に優れる点から、変性ポリエステル系樹脂が、とくに、イソフタル酸変性ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0042】
島成分ポリマーは、160℃以上、さらには、180〜330℃の範囲に融点ピークを有する結晶性ポリマーであることが好ましい。なお、融点ピークは、示差走査熱量計(DSC)ではじめにポリマーを融解及び固化させた後、さらに定速で昇温させて融解させたときに測定される吸熱ピークのトップ温度である。
【0043】
また、島成分ポリマーから形成される極細繊維は、DSCではじめに定速で昇温させてポリマーを融解させたときに現れる、融点ピークよりも低い吸熱ピーク(以下、副吸熱ピークとも称する)を有することがさらに好ましい。副吸熱ピークを有する場合には、島成分ポリマーの融点ピーク温度よりも低い副吸熱ピーク温度以上に昇温することにより、極細繊維が軟化する。従って、後述する絡合不織布の表層を加熱プレスする工程(工程(5))において、表面を構成する極細繊維同士のみを部分的に融着することにより島成分ポリマーに由来する繊維銀面を形成させることができる。それにより、平滑な表面を容易に形成することができる。このような島成分ポリマーから形成される極細繊維としては、変性ポリエステル系樹脂からなる部分配向糸(Partially oriented yarn, POY)であることが後述する副吸熱ピークを維持し易い点からとくに好ましい。
【0044】
島成分ポリマーの副吸熱ピーク温度は、融点ピーク温度よりも30℃以上、さらには50℃以上低いことが、風合いを損なうことなく極細繊維同士を融着処理しやすい点から好ましい。副吸熱ピーク温度の下限は特に限定されず、例えば、融点よりも160℃以上低くてもよい。
【0045】
海成分ポリマーとしては、溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が島成分ポリマーよりも大きいポリマーが選ばれる。また、島成分ポリマーとの親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分ポリマーより小さいポリマーが海島型繊維の紡糸安定性に優れている点から好ましい。このような条件を満たす海成分ポリマーの具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン系共重合体、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、スチレン−エチレン系共重合体、スチレン−アクリル系共重合体、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。これらの中では、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂(水溶性PVA)が有機溶剤を用いることなく水系媒体により溶解除去が可能であるために環境負荷が低い点から好ましい。本実施形態においては、代表的に、水溶性PVAを用いた場合について詳しく説明する。
【0046】
水溶性PVAのケン化度は90〜99.99モル%、さらには93〜99.98モル%、とくには94〜99.97モル%、ことには96〜99.96モル%であることが好ましい。ケン化度が90モル%以上である場合には、熱分解やゲル化を抑制した溶融紡糸が可能であり、また、水溶性や生分解性にも優れている。また、ケン化度が99.99モル%よりも大きい水溶性PVAは工業的な生産性に劣る傾向がある。
【0047】
海島型繊維の平均断面積はとくに限定されないが、30〜800μm2の範囲であることが好ましい。また、海島型繊維の断面における、海成分ポリマーと島成分ポリマーとの平均面積比は5/95〜70/30、さらには10/90〜30/70であることが好ましい。
【0048】
このような海島型繊維は海成分ポリマーと島成分ポリマーとを複合紡糸用口金から溶融押出する溶融紡糸により製造することができる。複合紡糸用口金の口金温度は海島型繊維を構成するポリマーのそれぞれの融点よりも高い溶融紡糸可能な温度であれば特に限定されないが、通常、180〜350℃の範囲が選ばれる。
【0049】
口金から吐出された溶融状態の海島型繊維は、冷却装置により冷却され、さらに、エアジェットノズルなどの吸引装置により目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引取速度に相当する速度の高速気流により牽引細化される。そして牽引細化された長繊維を移動式ネットなどの捕集面上に堆積させることにより実質的に無延伸の長繊維ウェブが得られる。なお、必要に応じて、形態を安定化させるために長繊維ウェブをさらにプレスすること等により部分的に圧着してもよい。このようにして得られる長繊維ウェブの目付はとくに限定されないが、例えば、10〜1000g/m2の範囲であることが好ましい。
【0050】
本実施形態の皮革様シート10の製造方法においては、次に、工程(1)で得られた長繊維ウェブに絡合処理を施すことにより絡合ウェブを製造する(工程(2))。
【0051】
長繊維ウェブの絡合処理の具体例としては、例えば、工程(1)で得られた長繊維ウェブをクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする。
【0052】
パンチング密度は、300〜5000パンチ/cm2、さらには500〜3500パンチ/cm2の範囲であることが好ましい。このようなパンチング密度の場合には、充分な絡合が得られ、また、ニードルによる海島型繊維の損傷を抑制することができる。
【0053】
また、長繊維ウェブには海島型繊維の紡糸工程から絡合処理までのいずれかの段階において、油剤や帯電防止剤を付与してもよい。さらに、必要に応じて、長繊維ウェブを70〜150℃程度の温水に浸漬する収縮処理を行うことにより、長繊維ウェブの絡合状態を予め緻密にしておいてもよい。また、ニードルパンチの後、熱プレス処理することによりさらに繊維密度を緻密にして形態安定性を付与してもよい。ただし、後述するように、本実施形態においては、極細繊維を形成する島成分ポリマーの副吸熱ピーク以上の温度で且つ融点ピーク未満の温度で熱プレスすることにより繊維銀面を形成させることが好ましいために、副吸熱ピークが消失しないような低温で熱プレスすることが好ましい。
【0054】
このような海島型繊維の長繊維同士を三次元的に絡合する絡合処理により、絡合ウェブが得られる。このような絡合ウェブの目付としては100〜2000g/m2程度の範囲であることが好ましい。また、繊維密度としては、絡合ウェブの厚さ方向に平行な断面において、海島型繊維の横断面が平均600〜4000個/mm2程度の範囲で存在することが好ましい。
【0055】
本実施形態の皮革様シートの製造方法においては、次に、工程(2)で得られた絡合ウェブ中の海島型繊維を極細繊維に変換することにより、極細繊維からなる絡合不織布を製造する(工程(3))。具体的には、例えば、絡合ウェブ中の海島型繊維から海成分ポリマーを除去することにより、極細繊維の繊維束からなる絡合不織布を製造する。
【0056】
絡合ウェブ中の海島型繊維から海成分ポリマーを除去する方法としては、海成分ポリマーのみを選択的に除去しうる溶剤または分解剤で絡合ウェブを処理するような従来から知られた極細繊維の形成方法が特に限定なく用いられうる。
具体的には、例えば、海成分ポリマーとして水溶性PVAを用いる場合には溶剤として熱水が用いられ、海成分ポリマーとして易アルカリ分解性の変性ポリエステルを用いる場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が用いられる。
【0057】
海成分ポリマーとして水溶性PVAを用いる場合においては、85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理することにより、水溶性PVAの除去率が95〜100質量%程度になるまで抽出除去することが好ましい。なお、ディップニップ処理を繰り返すことにより、効率的に抽出除去できる。水溶性PVAを用いた場合には、有機溶媒を用いずに海成分ポリマーを選択的に除去することができるために、環境負荷が低く、また、VOCの発生を抑制できる点から好ましい。
【0058】
絡合ウェブ中の海島型繊維を極細繊維に変換する前後、または極細繊維に変換する際には、繊維密度を高めるために湿熱収縮処理を行ってもよい。このような湿熱収縮処理により形態保持性が向上し、また、機械的特性も向上する。
【0059】
湿熱収縮処理を行う場合、絡合ウェブを次のような条件で処理することが好ましい。具体的には、例えば、絡合ウェブに海成分ポリマーの量に対して30〜200質量%程度の水分を付与した後、相対湿度が70%以上、好ましくは90%以上であり、60〜130℃の加熱水蒸気雰囲気下で60〜600秒間加熱処理する。このような条件で湿熱収縮処理することにより、島成分ポリマーからなる長繊維の収縮力で変形して水蒸気で可塑化された海成分ポリマーが圧搾されるために容易に緻密化する。そして、引き続き、収縮処理された絡合ウェブを85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理することにより海成分ポリマーが溶解除去される。なお、必要に応じて、海成分ポリマーの除去率を上げるために、さらに、80〜98℃の温水で、水流速度2〜100m/分、処理時間1〜20分の条件で水流抽出処理してもよい。
【0060】
極細繊維に変換する際に湿熱収縮処理を行う場合、絡合ウェブを次のような条件で処理することが好ましい。具体的には、例えば、絡合ウェブを65〜90℃の熱水中に3〜300秒間浸漬する。このような処理により、海島型繊維が収縮することにより海成分ポリマーが圧搾される。そして、引き続き、85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理する。このような処理により、圧搾された海成分ポリマーが繊維からさらに溶出する。海成分ポリマーの除去及び収縮により、より緻密化された絡合不織布が得られる。
【0061】
上述したような湿熱収縮処理により、収縮処理前の面積に対する面積収縮率が25%以上、さらには30〜75%になるように高密度化される。なお、面積収縮率は、下記式:
[(湿熱収縮処理前の面積−湿熱収縮処理後の面積)/湿熱収縮処理前の面積]×100
により計算される。
【0062】
このようにして得られる極細繊維からなる絡合不織布の目付としては、140〜3000g/m2、さらには200〜2000g/m2であることが好ましい。
【0063】
このような絡合不織布の湿潤時の剥離強力としては、4kg/25mm以上、さらには、4〜15kg/25mmであることが好ましい。剥離強力がこのような範囲である場合には耐摩耗性、形態保持性及び充実感に優れた皮革様シートが得られる。
【0064】
本実施形態の皮革様シートの製造方法においては、絡合不織布に第一の高分子弾性体を形成するための樹脂液を付与した後、絡合不織布の表面から加熱することにより第一の高分子弾性体が表層に偏在するように樹脂液を乾燥させる(工程(4))。
【0065】
本工程は、高分子弾性体を形成するための水溶液、水分散体またはエマルジョン等の樹脂液を絡合不織布に含浸させた後、表面から加熱することにより高分子弾性体を表層にマイグレーションさせながら凝固させる工程である。高分子弾性体を形成するための樹脂液を絡合不織布に含浸させる方法は特に限定されない。具体的には、例えば、絡合不織布を樹脂液に浸漬して樹脂液を含浸させる方法や、絡合不織布の表面及び/又は裏面から樹脂液を塗布する方法等が挙げられる。樹脂液中の高分子弾性体の濃度は0.1〜50質量%程度であることが好ましい。
【0066】
高分子弾性体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル系高分子弾性体、ポリウレタン弾性体、アクリロニトリル系高分子弾性体、オレフィン系高分子弾性体、ポリエステル弾性体、などが挙げられる。これらの中では、(メタ)アクリル系高分子弾性体、及び、ポリウレタン弾性体がとくに好ましい。
【0067】
また、樹脂液中には、本発明の効果を損なわない範囲で、染料、顔料などの着色剤、抗菌剤、防臭剤、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥油剤、増粘剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、を配合してもよい。
【0068】
絡合不織布に含浸された樹脂液から高分子弾性体を凝固させる方法としては、樹脂液が含浸された絡合不織布の表面から、例えば、好ましくは100〜150℃、さらに好ましくは110〜150℃で、0.5〜30分間加熱する方法が挙げられる。このような方法により樹脂液中の溶媒が絡合不織布の表面から徐々に蒸発するのに伴い、中底層の樹脂液が表層に移行(マイグレーション)することにより表層で凝固する。このような加熱は、乾燥装置中などにおいて熱風を表面に吹き付けることにより行うことが好ましい。なお、乾燥される表面は、片面のみでも両面であってもよい。このようにして、中底層の樹脂液を表層に移行させながら高分子弾性体を凝固させることにより、表層に高分子弾性体を偏在させ、中底層には高分子弾性体を疎に存在させ、または全く存在させないことができる。なお、両面から加熱した場合には、両表面の表層に高分子弾性体がマイグレーションにより偏在することになる。このような場合には、後述する加熱プレスする工程(5)の後に厚み方向に2枚に分割(スライス処理)することにより表層に高分子弾性体を偏在した、2枚の皮革様シートが得られる。
【0069】
次に、絡合不織布に、加脂剤を含有する水分散体またはエマルジョンを含浸させた後、乾燥する(工程(5))。
加脂剤は従来から知られた天然皮革に柔軟性を付与する薬剤である。このような加脂剤の具体例としては、例えば、動物油および/またはヒマワリ油のような植物油を基礎にして合成された、ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテル、ソルビタンモノオレエート、トリグリセライド(牛脚油)等が挙げられる。
本工程においては、加脂剤の水分散体またはエマルジョンに絡合不織布をディップニップすることにより、絡合不織布を形成する極細繊維束の内部及びその周囲の空隙に加脂剤を含浸させた後、乾燥する。このような工程により、絡合不織布に柔軟性や充実感ある風合いと体屈曲性が向上する。
加脂剤の水分散体またはエマルジョンを含浸させた絡合不織布の乾燥条件は特に限定されないが、具体的には、例えば、100〜150℃、さらに好ましくは110〜150℃で、0.5〜30分間加熱する方法が挙げられる。加脂剤の含有量としては、絡合不織布100質量部に対し、5〜50質量部程度であることが好ましい。
【0070】
次に、工程(4)の後、カゼイン粒子及び第二の高分子弾性体を含む水性樹脂液を絡合不織布の表面に塗布した後、乾燥する(工程(6))。
本工程においては、加脂剤を含浸させた絡合不織布の表面に、絡合不織布の表面の孔を塞がない程度の50μm以下の薄い厚みの膜を形成するように、カゼイン粒子を含む樹脂液を塗布した後、乾燥する。カゼイン粒子を含む樹脂液に含まれる樹脂成分は特に限定されないが、上述した高分子弾性体と同様の樹脂が挙げられる。また、樹脂成分としては、第一の高分子弾性体と同様あるいは同系統の樹脂を用いることが接着性の点から好ましい。
【0071】
加脂剤を含浸させた絡合不織布の表面に、カゼイン粒子を含む樹脂液を塗布する方法としては、薄い塗膜を正確に形成できる点から、グラビアロールを用いた塗工が好ましく用いられる。このようにして形成された塗膜の乾燥後の厚みとしては、0.5〜50μm、さらには1〜20μm程度であることが好ましい。このようにして、表皮層が形成される。
【0072】
次に、工程(6)の後、絡合不織布をその表層の極細繊維束を形成する極細繊維を融着させる条件で加熱プレスする(工程(7))。
本工程においては、表層の極細繊維を融着させる条件で加熱プレスすることにより、表層の極細繊維同士が融着し、いわゆる、繊維銀面が形成される。また、カゼイン粒子を含む高分子弾性体からなる塗膜が表層の極細繊維に押圧されることにより、カゼイン粒子を含む塗膜が絡合不織布の表層と一体化して、剥離しにくくなる。
【0073】
表層の極細繊維を融着させる条件で加熱プレスする方法としては、例えば、極細繊維が副吸熱ピークを有するポリエステル系繊維である場合には、副吸熱ピーク温度以上の温度で、融点未満の温度で熱プレスを行う。このような条件で熱プレスを行うことにより、表層の極細繊維のみを軟化させて融着させることができる。なお、極細繊維の配向比が高ければ高いほど、極細繊維同士が融着して平滑な繊維銀面が形成されやすくなるために好ましい。
【0074】
なお、加熱プレスに用いられる金型の表面は平滑な表面であっても、シボ状の模様等の凹凸の表面を有するようなエンボス型であってもよい。なお、カゼイン粒子を含む高分子弾性体からなる塗膜を形成した後に、加熱プレスすることにより、形成される凹凸表面の凹部にもカゼイン粒子を存在させることができる点から好ましい。
【0075】
このようにして本実施形態の皮革様シートが得られる。なお、本実施形態の皮革様シートには、さらに風合いを調整するためにもみ加工等の後加工を施してもよい。このようなもみ加工を施すことにより、高分子弾性体を含む表層により高い通気性を付与することができる。
【0076】
高分子弾性体を含む表層にもみ加工等の後加工を施す方法の具体例としては、例えば、機械もみ処理装置や温水もみ処理装置を用いたもみ加工があげられる。これらの中では、温水を使用しない、ロープ状または拡布状で行う染色機を利用した機械もみ処理装置で処理することが好ましい。
【0077】
以上のようにして、本実施形態の皮革様シートが得られる。
次に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例の内容により、何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0078】
[実施例1]
海成分ポリマーである水溶性PVA(変性PVAともよぶ)と島成分ポリマーである変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−トとを、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように260℃の溶融複合紡糸用口金(島数:25島/繊維)から吐出した。そして、紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度2.1デシテックスの海島型繊維をネット上に堆積したスパンボンドシートを得た。
次に、表面温度42℃の金属ロールでネット上のスパンボンドシートを軽く押さえることにより表面の毛羽立ちを抑えた。そしてスパンボンドシートをネットから剥離した。次に、表面温度55℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間で200N/mmの線圧でスパンボンドシートを熱プレスすることにより、表層の海島型繊維が格子状に仮融着された目付31g/m2の長繊維ウェブを得た。そして、得られた長繊維ウェブに油剤および帯電防止剤を付与した。
【0079】
次に、得られた長繊維ウェブをクロスラッピングにより12枚重ねて総目付が372g/m2の重ね合わせウェブを作製し、さらに針折れ防止油剤をスプレーした。そして、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、重ね合わせウェブを針深度8.3mmで両面から交互に3300パンチ/cm2でニードルパンチすることにより絡合ウェブを得た。なお、ニードルパンチ処理による面積収縮率は68%であった。また、得られた絡合ウェブの目付は530g/m2であった。
【0080】
次に、絡合ウェブを70℃の熱水中に28秒間浸漬することによる収縮処理を行った。そして、95℃の熱水中でディップニップ処理を繰り返すことにより海成分ポリマーである変性PVAを溶解除去した。変性PVAを溶解除去することにより、平均繊度0.2デシテックスの25本の極細繊維からなる繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布を得た。
なお、収縮処理による面積収縮率は52%であった。また、絡合不織布の目付は760g/m2、見掛け密度は0.602g/cm3、剥離強力は13.3kg/25mmであった。
【0081】
次に、バフィングにより絡合不織布の厚みを1.25mmに調整した。そして、得られた絡合不織布に対して、固形分濃度60質量%の水系アクリルエマルジョン300質量部、及び顔料(御国色素製のSAホワイトA1131C及びSAブルーA1137)90質量部を含む分散液を、パッターを用いて、ライン速度 6m/分で2回のディップニップにより含浸させた。なお、分散液中の、アクリル樹脂の固形分濃度は180g/Lであり、顔料の固形分濃度は90g/Lであった。そして、表面側から120℃の熱風を吹き付けて乾燥させることによりアイスグレー色のアクリル系弾性体を表層にマイグレーションさせて凝固させた。
【0082】
そして、加脂剤を含浸させた絡合不織布の表面に、カゼイン粒子を含む樹脂液を2段のグラビアロール(110メッシュ)でライン速度 5m/分の条件で塗布し、表面側から120℃の熱風を吹き付けて乾燥させた。なお、カゼイン粒子を含む樹脂液としては、カゼイン粒子分散液(固形分4質量%)、水系アクリル樹脂(固形分24質量%)、水系ウレタン樹脂(固形分12%)を、カゼイン粒子/水系アクリル樹脂/水系ウレタン樹脂=10/60/30(固形分割合)で混合した水性樹脂液(バインダー772、豊島化学)を用いた。
【0083】
そして、乾燥された絡合不織布の表面をライン速度 2m/分、172℃、9Kg/cm2の条件で表面に凹凸を有するエンボスロールを用いて熱プレス処理した。得られた塗膜中の高分子弾性体100質量部に対するカゼイン粒子の割合は10質量部であった。
【0084】
そして、得られた人工皮革用基材の表面に60℃の温度をかけながら機械的なもみ加工を施した。このようにして厚み1.20mmの皮革様シートAを得た。皮革様シートAの断面を走査型顕微鏡(SEM)で撮影したときの画像を図2に示す。
【0085】
高分子弾性体は皮革様シートAの断面の表層から厚み約600μmまでの領域、特に、約500μmまでの領域に高密度に偏在していた。また、表皮層は、カゼイン粒子を被着した厚み約10μmの膜であった。カゼイン粒子は表面に露出していた。なお、エンボス型で転写された凹凸形状の凹部表面にもカゼイン粒子が存在していた。また、絡合不織布の全量に対する高分子弾性体の割合は20質量%であった。
【0086】
そして、得られた皮革様シートについて、通気度、表面タック性、及び耐屈曲性を次のようにして評価した。
[通気度]
JIS L1096Bに準拠して、ガーレ式デンソメーター(空気通過面積=6.42cm2)を用いて、通気度を測定した。
【0087】
[表面タック性]
ASTM D 1894に準じて、得られた皮革様シートの表面の動静摩擦係数を測定した。皮革様シートからタテ260mm×ヨコ100mmの試験片を切り出した。そして、摩擦係数測定装置の試験片台が水平になるようにオートグラフヘッドに固定した。そして、試験片台に第一表層側の表面を上にして固定した。そして、試験片上の一端におもりを取り付けた摩擦子(6.5cm×6.0cm)を置き、重量及び伸びを無視できるひもをガイドローラー(滑車)に通してオートグラフの上部、チャック取り付けピンに接続した。そして、引張速度200mm/min、チャートスピード100mm/minで摩擦子を移動させた。そして、得られた応力−移動距離曲線から、初期最大応力と荷重から静摩擦係数を求めた。また、平均応力と荷重から動摩擦係数を求めた。
【0088】
[耐屈曲性]
得られた皮革様シートからタテ70m×ヨコ5mmの試験片を切り出した。そして、標準状態(20℃65%RH)で24時間以上放置した。そして、革の曲性試験方法(JIS Z 6545)に準じて、Bally Flexo meterを用いて、測定片の一端の表面を内側に、他端の表面を外側にして折り曲げ、クランプに測定片の両端をそれぞれ装着し、一方のクランプは固定し他方のクランプは往復運動により測定片を屈曲し、一定回数屈曲後の測定片に生じた損傷程度を観察した。測定温度は、常温(20℃65%RH)である。10万回経過後の屈曲割れ状態を、以下の表1の評価基準に従って判定した。
【0089】
【表1】

【0090】
結果を表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
[実施例2]
カゼイン粒子を含む樹脂液を塗布する工程において、カゼイン粒子を含む樹脂液を2段のグラビアロール(110メッシュ)で塗布する代わりに、1段のグラビアロール(110メッシュ)で塗布した以外は実施例1と同様にして皮革様シートBを得た。皮革様シートBの表皮層のカゼイン粒子を被着する膜の厚みは約5μmであった。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0093】
[実施例3]
カゼイン粒子を含む樹脂液を塗布する工程において、カゼイン粒子の固形分濃度の割合を10質量%から1質量%へ変えた以外は実施例1と同様にして皮革様シートCを得た。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0094】
[実施例4]
不織布に固形分濃度60質量%の水系アクリルエマルジョン300質量部の代わりに、100質量部を含む分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして皮革様シートDを得た。このとき、絡合不織布の全量に対する高分子弾性体の割合は7質量%であった。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0095】
[比較例1]
カゼイン粒子を含む樹脂液の調製において、カゼイン粒子分散液を配合しなかった以外は実施例1と同様にして皮革様シートEを得た。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0096】
[比較例2]
カゼイン粒子を含む樹脂液を塗布する工程において、リバースコートによる塗布する方法に変えた以外は実施例1と同様にして皮革様シートFを得た。皮革様シートFの、カゼイン粒子を被着した表皮の厚みは約55μmであり、表面に開口する孔は少なかった。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0097】
[比較例3]
加脂剤を含浸させなかった以外は実施例1と同様にして皮革様シートGを得た。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0098】
表2の結果から、次のことがわかる。
実施例1〜4の皮革様シートは、何れも高い通気性を維持しており、表面タック性も少なく、耐屈曲性にも優れていた。一方、カゼイン粒子を配合しない表皮層を形成した比較例1の皮革様シートEは、通気性が低く、また、表面タック性が高かった。この結果から、カゼイン粒子は表皮層に空隙を確保する作用を発揮していること、及び、タック性を低減させる作用をしていることがわかる。また、表皮の厚みが厚すぎる比較例2の皮革様シートFは、通気性が低く、また、耐屈曲性も低かった。また、加脂剤を含浸させなかった比較例3の皮革様シートGは、柔軟性に乏しく、耐屈曲性が低かった。
【符号の説明】
【0099】
1 絡合不織布
1a 極細繊維
2a 第一の高分子弾性体
2b 第二の高分子弾性体
3 カゼイン粒子
4 加脂剤
10 皮革様シート
S 絡合不織布1の表層
L 表皮層
B 絡合不織布1の中底層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層と前記表層に隣接する中底層とからなるシート基材と、前記表層の外表面に被着された表皮層とを含み、
前記シート基材は、極細長繊維束の絡合不織布と前記絡合不織布の内部に付与された第一の高分子弾性体とを含み、
前記第一の高分子弾性体が前記表層に偏在しており、前記中底層が、加脂剤を含有し、
前記表皮層は、カゼイン粒子と前記カゼイン粒子を被着する厚み50μm以下の第二の高分子弾性体からなる膜を含むことを特徴とする皮革様シート。
【請求項2】
前記表層の厚みは、前記シート基材の総厚みに対して50%の厚みである請求項1に記載の皮革様シート。
【請求項3】
前記表層の厚みは400〜800μmである請求項1または2に記載の皮革様シート。
【請求項4】
前記表層に、前記第一の高分子弾性体全量の60質量%以上が存在する請求項2または3に記載の皮革様シート。
【請求項5】
前記カゼイン粒子の含有割合が前記第二の高分子弾性体100質量部に対し、0.5〜50質量部である請求項1〜4の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項6】
エンボス型で転写された凹凸形状の表面を有し、前記凹凸形状の凹部及び凸部にカゼイン粒子が存在する請求項1〜5の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項7】
(1)海島型繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程と、
(2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施すことにより絡合ウェブを製造する工程と、
(3)前記絡合ウェブ中の海島型繊維を極細繊維に変換することにより、極細繊維からなる絡合不織布を製造する工程と、
(4)前記絡合不織布に第一の高分子弾性体を形成するための水系樹脂液を付与した後、前記絡合不織布の表面から加熱することにより前記第一の高分子弾性体が表層に偏在するように樹脂液を乾燥させる工程と、
(5)第(4)工程の後、前記絡合不織布に、加脂剤を含有する水分散体またはエマルジョンを含浸させた後、乾燥する工程と、
(6)カゼイン粒子及び第二の高分子弾性体を含む水性樹脂液を前記絡合不織布の表面に塗布した後、乾燥することにより、カゼイン粒子を被着した厚み50μm以下の表皮層を形成する工程と、
(7)第(6)工程の後、前記絡合不織布をその表層の前記極細繊維束を形成する極細繊維を融着させる条件で加熱プレスする工程と、
を備えることを特徴とする皮革様シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−117154(P2012−117154A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264778(P2010−264778)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】