説明

通気性板状体の均一加熱方法

【課題】通気性樹脂層と繊維層とが積層された通気性板状体を、従来よりも短時間で中間層まで均一加熱することができる通気性板状体の均一加熱方法を提供する。
【解決手段】裏面の通気性樹脂層1と表面の繊維層2とが積層された通気性板状体Wを加熱炉内で搬送しながら、上方から熱風を供給するとともに下方で吸引することによって通気性板状体Wの内部に熱風を強制的に透過させて熱風加熱する。これと同時に下方から赤外線ヒータ9による輻射加熱を行い、内部まで均一加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気性樹脂層と繊維層とが積層された通気性板状体を、加熱炉内で均一加熱する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用内装材の製造工程においては、中間製品である通気性樹脂層と繊維層とが積層されたカーペット状の通気性板状体を加熱し、含有される有機性物質を蒸発させるとともに樹脂層を軟化させたうえでプレス成形し、所望形状の内装品を製造している。品質良好なプレス成形品を得るためには、通気性板状体の表層部のみならず内部の中間層まで、均一に加熱することが望まれる。なお本明細書に置いて中間層とは特定の層を意味するものではなく、通気性板状体の厚さ方向の中心部分を意味するものとする。
【0003】
板状体の加熱方法として一般的であるのは、特許文献1に示すように炉内において上下の両面から赤外線ヒータで輻射加熱する方法である。しかしこの輻射加熱方法を上記のような通気性板状体に適用すると、表層は短時間で昇温するものの繊維層は熱伝導性が悪いので中間層はなかなか昇温せず、中間層が目標温度に到達するまでに表層が過度に昇温して繊維層が熱収縮したり、樹脂層が溶融し始めたりするという問題があった。これらの問題を避けるためには赤外線ヒータの表面温度を低くし、時間を掛けて加熱しなければならない。
【0004】
また板状体の加熱方法として熱風を吹き付けて昇温させる熱風加熱方法も知られている。この方法は加熱対象物が通気性板状体である場合には、熱風を中間層にまで到達させることができるので、表層と中間層との温度差を小さくしたまま昇温することができる。しかし熱風の温度を繊維層が熱収縮しない温度に抑制しなければならないので、上記の輻射加熱に比較してさらに長時間をかけないと、中間層を目標温度にまで昇温させることができないという問題があった。
【0005】
上記のように、従来の加熱方法では通気性樹脂層と繊維層とが積層された通気性板状体を中間層まで均一加熱するには時間がかかり、そのために生産性が低下したり、生産性を高めるためには大型の加熱炉を必要とするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−27955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、通気性樹脂層と繊維層とが積層された通気性板状体を、従来よりも短時間で中間層まで均一加熱することができる通気性板状体の均一加熱方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、裏面の通気性樹脂層と表面の繊維層とが積層された通気性板状体を、裏面を下にして加熱炉の内部で搬送しながら、上方から熱風を供給するとともに下方で吸引することによって通気性板状体の内部に熱風を強制的に透過させて熱風加熱し、またこれと同時に下方から赤外線ヒータによる輻射加熱を行うことを特徴とするものである。
【0009】
なお、熱風の温度を繊維層が熱収縮しない温度とすることが好ましく、赤外線ヒータの表面温度を、通気性樹脂層の溶融温度よりも高温とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、通気性板状体の上方から熱風を供給するとともに下方で吸引することによって通気性板状体の内部に熱風を強制的に透過させて熱風加熱し、またこれと同時に下方から赤外線ヒータによる輻射加熱を行う。通気性板状体は加熱開始時には通気性を備えているので熱風は表面から裏面にまで透過し、表層のみならず中間層を昇温させることができる。また昇温が進行するに連れて樹脂層の軟化・溶融により通気性細孔が閉塞されて通気性が低下して行くが、表裏両面からの熱伝導によって中間層の昇温が継続され、従来の半分程度の短時間で中間層まで均一加熱することが可能である。
【0011】
このため、従来の加熱方法に比較して生産性を向上させることができ、また加熱炉を小型化することができる。しかも繊維層の熱収縮もなく、次工程においてプレス成形した際の品質も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の加熱対象物である通気性板状体の模式的な拡大断面図である。
【図2】本発明の実施形態を示す加熱炉の断面図である。
【図3】本発明の実施形態を示す加熱炉の炉幅方向の断面図である。
【図4】実施例における熱風加熱方法の昇温状態を示すグラフである。
【図5】実施例における輻射加熱方法の昇温状態を示すグラフである。
【図6】実施例における本発明方法の昇温状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態を示す。
図1は通気性板状体の模式的な拡大断面図であり、この図に示すように通気性板状体Wは裏面の通気性樹脂層1と表面の繊維層2とが積層されたカーペット状の中間製品である。通気性樹脂層1は熱可塑性樹脂からなり、無数の通気性細孔が形成されている。また繊維層2は例えばポリエステルの長繊維からなる。その厚さは5〜10mm程度であり、この実施形態では通気性樹脂層1の厚さが約2mm、繊維層2の厚さが約5mmであり、全体で7mmの厚さとなっている。この中間製品は次工程でプレス成形されるが、それに先立って内部の有機性溶剤等を蒸発・除去するとともに、樹脂をプレス成形に適した温度に昇温するために、均一加熱が必要となる。
【0014】
図2と図3は本発明の加熱方法を実施するために用いられる加熱炉の構造を示す断面図であり、3は炉体、4は炉室の内部を水平に貫通しているコンベヤである。コンベヤ4の種類は特に限定されるものではないが、熱風を通過させることができるメッシュコンベヤであることが好ましく、この実施形態ではスラットバーを備えたネットコンベヤが用いられている。通気性板状体Wは裏面の通気性樹脂層1を下側としてこのコンベヤ4上に載せられ、炉室内を搬送される間に所望温度にまで均一加熱される。なお搬送方式は連続送りであっても、間欠送りであっても差し支えない。
【0015】
炉室の天井部には熱風供給ボックス5が設置されている。この熱風供給ボックス5は下面に多数の熱風噴出口を備えており、熱風発生器7から供給される熱風を通気性板状体Wの上面に均一に吹き付ける。またコンベヤ4の下方には吸引ボックス6が設置されており、その上面に形成された吸引孔から熱風をほぼ均一に吸引し、耐熱性の送風機8によって熱風発生器7に循環させている。熱風の温度は繊維層が熱収縮しない温度とし、例えば250℃に設定しておく。
【0016】
またコンベヤ4と吸引ボックス6との間には、多数の赤外線ヒータ9が配置されている。この実施形態では赤外線ヒータ9として出願人会社製の面状セラミックヒータを使用しているが、これに限定されるものではない。なお赤外線ヒータ9はコンベヤ4上を搬送される通気性板状体Wとの間に所定の間隔を設けて設置されており、この実施形態ではその間隔は150mmに設定されているが、通気性板状体Wの種類に応じて間隔調整ができるようにしておけば更に好ましい。また各赤外線ヒータ9は相互間にスペースを持たせて設置し、熱風が通過できるようにしておく必要がある。赤外線ヒータ9は通気性板状体Wとの間に間隔を持たせて配置されているから表面温度を通気性樹脂層1の溶融温度よりも高温とすることができ、例えば750℃に設定しておく。
【0017】
このような加熱炉に通気性板状体Wを送り込んで上面からの熱風加熱と下面からの輻射加熱とを行うと、加熱初期の通気性板状体Wの通気性が高い状態においては熱風が通気性板状体Wを透過して流れるので、表層のみならず中間層も昇温して行く。しかし昇温に伴って次第に通気性樹脂層1の通気性細孔が閉塞して通気性板状体Wの通気性が低下するが、その後は表裏両面からの熱伝導によって中間層の昇温は継続し、次の実施例のデータに示すように、従来よりも半分以下の短時間で中間層まで均一に昇温させることができる。
【0018】
このため、従来法よりも生産性を向上させることができ、あるいは加熱炉の小型化を図ることができる。また繊維層2が熱収縮することもないうえ、内部まで均一加熱されているので、次工程においてプレス成形を行った場合の成形品質も良好となる。
【実施例】
【0019】
本発明の効果を確認するため、熱風のみによる加熱方法と、赤外線ヒータのみによる加熱方法と、本発明の加熱方法とによって通気性板状体Wの加熱試験を行い、表面、中間層、裏面の温度を熱電対温度計によって計測した。使用した通気性板状体Wは実施形態で説明した厚さが7mmの平板である。熱風温度は250℃に設定し、赤外線ヒータの表面温度は750℃として通気性板状体Wから150mm下方にセットした。
【0020】
図4は熱風のみによる加熱方法の昇温状態を示すグラフであり、中間層と表層との温度差は比較的小さいが昇温に時間がかかり、昇温指標として設定した中間層が150℃に到達するまでの時間は約75秒である。図5は赤外線ヒータのみによる加熱方法の昇温状態を示すグラフであり、表裏両面の表層は急速に昇温するが、中間層は伝熱によって徐々に昇温するだけであるからなかなか昇温せず、中間層が150℃に到達するまでの時間は約90秒である。これに対して本発明方法によれば、図6に示すように中間層は表層との温度差が小さいまま順調に昇温し、約30秒で150℃に到達する。このように、本発明によれば従来の半分以下の短時間で中間層まで均一に昇温できることが確認された。
【符号の説明】
【0021】
W 通気性板状体
1 通気性樹脂層
2 繊維層
3 炉体
4 コンベヤ
5 熱風供給ボックス
6 熱風噴出口
7 熱風発生器
8 送風機
9 赤外線ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面の通気性樹脂層と表面の繊維層とが積層された通気性板状体を、裏面を下にして加熱炉の内部で搬送しながら、上方から熱風を供給するとともに下方で吸引することによって通気性板状体の内部に熱風を強制的に透過させて熱風加熱し、またこれと同時に下方から赤外線ヒータによる輻射加熱を行うことを特徴とする通気性板状体の均一加熱方法。
【請求項2】
熱風の温度を、繊維層が熱収縮しない温度とすることを特徴とする請求項1記載の通気性板状体の均一加熱方法。
【請求項3】
赤外線ヒータの表面温度を、通気性樹脂層の溶融温度よりも高温とすることを特徴とする請求項1記載の通気性板状体の均一加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−216056(P2010−216056A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67741(P2009−67741)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(591076109)エヌジーケイ・キルンテック株式会社 (11)
【Fターム(参考)】