説明

通気性複合シートの製造方法

【課題】本発明は、透湿防水性や耐熱性、耐薬品性といったPTFE本来の特性に加え、機械的強度と共に耐圧縮性にも優れる通気性の複合シートを製造するための方法、および当該方法で得られた複合シートを構成材料として含むフィルタ等を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る通気性複合シートの製造方法は、多孔質PTFEシートの空孔に硬化性材料溶液を充填する工程;硬化性材料溶液が充填された多孔質PTFEシートを硬化または半硬化する工程;および、硬化または半硬化された多孔質PTFEシートを延伸する工程;を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気性の複合シートを製造するための方法、および当該通気性複合シートを含むフィルタ等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質PTFEシートは、水蒸気などの気体は通す一方で水は透過させないという特異な性質を有することから、雨天時やスポーツ時などにおいても内部の湿度を低く維持できるという透湿防水性に優れたファブリクス材料として、靴やウェアなどに幅広く使用されている。また、多孔質PTFEは耐熱性や耐薬品性にも優れ、空孔のサイズを調整できることから、様々なフィルタの材料としても広く用いられている。
【0003】
その一方で多孔質PTFEシートは、フッ素樹脂であることや多孔質であるという構造上の問題から、耐圧縮性や機械的強度、耐擦傷性に関しては十分ではない。そこで、多孔質PTFEシートの強度を高めるための技術が検討されている。
【0004】
例えば特許文献1〜9には、空孔に充填材を存在せしめた多孔質PTFEシートやその製法が開示されている。
【0005】
しかしこれら特許文献に記載の多孔質PTFEシートは、PTFE粉末と充填材粉末を混合して予備成形した上で延伸することにより製造されている。よって当該シートは、多孔質PTFEシートの空孔に充填材粉末が付着している構造をとるため、多孔質PTFEシート本来の欠点が十分に改善されたものであるとはいい難い。
【0006】
その他、耐摩耗性の多孔質シートとして超高分子量ポリエチレンからなるシートが知られている。しかし、当該シートは焼結体を切削することにより製造することから薄くし難く、また、ポリエチレン製であることから耐圧縮性や耐熱性に乏しいという問題がある。
【0007】
さらに特許文献10には、熱可塑性樹脂繊維を加熱下に圧縮して多孔質体とした後、当該多孔質体を他の熱可塑性樹脂の溶液に含浸し、冷却することにより製造する複合材料が開示されている。当該材料は耐摩耗性等に優れ、高強度で耐熱性にも優れるとされているが、空孔が樹脂により埋められてしまうため、多孔質PTFEシート本来の特性である透湿防水性は明らかに有さない。
【0008】
特許文献11には、透湿性と耐摩耗性の両方が向上されたシートが開示されている。しかしこのシートは、基材上にポリウレタンからなる多孔質の主層を形成した後、当該主層の上に表層を形成するという煩雑な工程により製造されている。その上、かかる製造工程においては、透湿性が維持されるように条件を制御することが難しい。また、かかるシートでは、多孔質層の空孔がそのまま維持されていることから、圧縮性と耐熱性の改善は望めない。
【特許文献1】特開平1−225652号公報
【特許文献2】特開平4−214787号公報
【特許文献3】特開平5−78645号公報
【特許文献4】特開2004−323717号公報
【特許文献5】特開2007−253519号公報
【特許文献6】特開2007−296756号公報
【特許文献7】特開2008−7607号公報
【特許文献8】特開2008−13654号公報
【特許文献9】特開2008−13715号公報
【特許文献10】特開2001−278997号公報
【特許文献11】特開2007−196184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、これまでにも多孔質PTFEシートを改善するための技術は種々開発されていた。しかし、透湿防水性や耐熱性、耐薬品性といったPTFE特有の利点を損なうことなく、機械的強度と共に耐圧縮性も有するシートはなかった。
【0010】
そこで本発明が解決すべき課題は、透湿防水性や耐熱性、耐薬品性といったPTFE本来の特性に加え、機械的強度と共に耐圧縮性にも優れる通気性の複合シートを製造するための方法、および当該方法で得られた複合シートを構成材料として含むフィルタ等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた。その結果、多孔質PTFEシートの空孔に硬化性材料溶液を充填した上で硬化または半硬化させた後、さらに延伸することにより得られる複合シートは、PTFEが一部露出しており且つ連通孔を有することから透湿防水性といった多孔質PTFEシート本来の特性を有する上に、硬化性材料により機械的強度、耐圧縮性および耐擦傷性が改善されていることを見出して、本発明を完成した。
【0012】
本発明に係る通気性複合シートの製造方法は、多孔質PTFEシートの空孔に硬化性材料溶液を充填する工程;硬化性材料溶液が充填された多孔質PTFEシートを硬化または半硬化する工程;および、硬化または半硬化された多孔質PTFEシートを延伸する工程;を含むことを特徴とする。
【0013】
上記方法においては、硬化性材料溶液が充填された多孔質PTFEシートを硬化および半硬化した場合共に、延伸された多孔質PTFEシートを再硬化する工程をさらに実施することが好ましい。当該工程によって、本発明シートの耐圧縮性や機械的強度、耐擦傷性をより一層高めることが可能になる。
【0014】
硬化または半硬化された多孔質PTFEシートを延伸する工程における延伸倍率としては、1.1倍以上、20倍以下が好ましい。当該延伸倍率が1.1倍未満であるとシートが十分に多孔質とならず、透湿防水性を維持できないおそれがあり得る。一方、当該延伸倍率が20倍を超えると断裂やネッキングといった不具合が生じ、良好な複合シートが得られないおそれがあり得る。
【0015】
本発明方法においては、硬化性材料としてケイ素アルコキシド化合物を用いることが好ましい。ケイ素アルコキシド化合物の重合体は化学的に安定であり、耐熱性や耐候性などに優れるので、本発明シートのこれら特性をより一層高めることが可能になる。
【0016】
本発明に係るフィルタは、上記本発明方法により製造された通気性複合シートを構成材料として含むことを特徴とし、本発明に係るファブリクス材料は、当該通気性複合シートからなることを特徴とする。これらフィルタ等は、本発明に係る通気性複合シートが享有する特性、即ち、透湿防水性、機械的強度、耐圧縮性および耐擦傷性などに優れるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る通気性複合シートは、透湿防水性や耐熱性、耐薬品性といったPTFE本来の特性に加え、機械的強度と共に耐圧縮性にも優れる。本発明方法によれば、このように優れた特性を有する通気性複合シートを簡便に製造することができる。よって本発明は、フィルタ材料やファブリクス材料などとして有用なシートに関するものであり、産業上非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る通気性複合シートの製造方法は、多孔質PTFEシートの空孔に硬化性材料溶液を充填する工程;硬化性材料溶液が充填された多孔質PTFEシートを硬化または半硬化する工程;および、硬化または半硬化された多孔質PTFEシートを延伸する工程;を含むことを特徴とする。
【0019】
(1) 充填工程
本発明方法では、先ず原料多孔質PTFEシートの空孔に硬化性材料溶液を充填する。
【0020】
本発明で用いる原料多孔質PTFEシートは、ポリテトラフルオロエチレンのファインパウダーを成形助剤と混合することにより得られるペーストの成形体から、成形助剤を除去した後または除去せずに延伸し、必要に応じて焼成することにより得られる。一軸延伸の場合、フィブリルが延伸方向に配向すると共に、フィブリル間が空孔となった繊維質構造となる。また、二軸延伸の場合、フィブリルが放射状に広がり、ノードとフィブリルで画された空孔が多数存在するクモの巣状の繊維質構造となる。
【0021】
多孔質PTFEシートは、耐熱性や耐候性などの特性を有することから、その製造において高温が要求される部材の材料や、長時間にわたる屋外での使用が必要となる部材の材料として非常に有用である。
【0022】
多孔質PTFEシートの空孔率は、溶液を含浸できるものであれば特に限定されないが、含浸性を確保するために、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらにより好ましくは70%以上とする。なお、多孔質PTFEの空孔率は、JIS K6885で定義されている見掛け密度の測定方法に準拠して測定した見掛け密度ρより、下記式から算出することができる。
空孔率(%)=[(2.2−ρ)/2.2]×100
【0023】
原料多孔質PTFEシートの厚さは特に制限されず、用途により適宜決定すればよいが、好ましくは1μm以上、1000μm以下とする。1μm未満ではシート強度が不足して取扱いが難しくなる場合があり得る一方で、1000μmを超えると、硬化性材料溶液を含浸した後の再延伸が難しくなる場合があり得る。当該シートの厚さとしては、10μm以上、500μm以下がより好ましく、20μm以上、200μm以下がさらに好ましい。また、当該厚さは、Roll to rollなどの効率的な製造を可能にするために、ロール状に巻ける程度に調整することが好ましい。一般的に薄いシートはフィルムといわれることがあり、薄い多孔質PTFEシートは多孔質PTFEフィルムとして取り扱われていることがあるが、本発明ではシートとフィルムは特に区別せず、主にシートの語を用いる。
【0024】
原料多孔質PTFEシートとしては、化学修飾または物理修飾によって、その機能性を高めたものを用いてもよい。化学修飾および物理修飾の方法は特に限定されないが、化学修飾としては、アセチル化、イソシアネート化、アセタール化などによりフィブリル表面に官能基を付加させる方法や、化学反応により有機物や無機物をフィブリル表面に被覆する方法などが挙げられる。物理修飾としては、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングなどの物理蒸着法、化学蒸着法、無電解メッキや電解メッキなどのメッキ法などが挙げられる。これらの修飾方法は単独で用いてもよく、また複数を併用してもよい。
【0025】
本発明方法で用いる原料多孔質PTFEシートは、単層であっても複層であってもよい。複数の原料多孔質PTFEシートを積層した場合には、硬化性材料が接着剤としての役目も果たし、複層の通気性複合シートが得られる。
【0026】
本発明で用いる硬化性材料は、それぞれに適した条件により硬化されるものであれば特に制限されないが、例えば、ゾルゲル硬化性材料、熱硬化性材料、紫外線硬化性材料を用いることができる。耐熱性や機械的強度の観点からは、ゾルゲル硬化性材料が好適である。
【0027】
ゾルゲル硬化性材料とは、可溶性であり比較的低分子であるモノマーやオリゴマーを含み、重合反応により重合して硬化する材料をいう。かかるゾルゲル硬化性材料としては、金属アルコキシド化合物を挙げることができる。
【0028】
金属アルコキシド化合物を構成する金属元素としては、Si、Ti、Al、Sn、Zn、Mgなどを挙げることができる。また、金属アルコキシド化合物を構成するアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、sec−ブトキシ、t−ブトキシなどのC1-6アルコキシ基を挙げることができる。また、金属アルコキシド化合物は、化学修飾または物理修飾によって、その機能性を高めたものを用いてもよい。修飾する有機基としては、C1-20アルキル基およびその置換体;炭素数C6-20アリール基およびその置換体;C7-20アラルキル基およびその置換体;−C−O−、−C=O、−COO−、−COOH、−CON=、−CN、−NH2、−NH−、エポキシ基などの極性を有する有機基;>C=CH−などの不飽和炭素結合を有する有機基などが挙げられる。
【0029】
金属アルコキシド化合物としては、ケイ素アルコキシド化合物が好適である。ケイ素アルコキシド化合物の溶液を含浸させた上で硬化させた本発明シートは、耐圧縮性や機械的強度に優れる。さらに、ケイ素アルコキシド化合物の重合体は化学的に安定であり、耐熱性や耐候性などに優れるので、高温プロセスや屋外での使用にも耐え得る。
【0030】
ケイ素アルコキシド化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジメトキシメチルシラン、フェニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、およびこれらのオリゴマーなどが挙げられる。
【0031】
熱硬化性材料とは、加熱により重合反応が開始され、分子間で三次元架橋構造が形成されることで不可逆的に硬化する材料をいう。例えば、熱硬化型エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを挙げることができる。
【0032】
紫外線硬化性材料とは、紫外線の照射により重合反応や架橋反応が開始され、硬化する材料をいう。例えば、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレートなどを挙げることができる。
【0033】
溶液における硬化性材料の割合は、適宜調整すればよい。例えば、本発明シートにおける最終的な硬化性材料の含有量は、使用する原料多孔質PTFEシートの空孔率の他、硬化性材料溶液の濃度にも依存する。よって、本発明シートに求められる耐圧縮性や機械的強度に応じて、硬化性材料溶液の濃度を調整することができる。当該濃度は、一般的には20wt%以上、95wt%以下程度とすることが好ましい。
【0034】
本発明方法で用いる硬化性材料溶液を構成する溶媒は、使用する硬化性材料を溶解できるものから適宜選択すればよい。例えば、ゾルゲル硬化性材料として金属アルコキシド化合物を用いる場合には、アルコールが好ましい。アルコールは金属アルコキシド化合物の溶解能に優れる上に、重合反応後は容易に留去することができる。また、ゾルゲル反応を効率的に進行させる目的で、溶液中に0.2モル/L以上、50モル/L以下程度の水を添加してもよい。
【0035】
上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノールなどが挙げられ、それらを単独で使用しても若しくは複数を併用してもよく、任意に混合しても構わない。好適には、金属アルコキシド化合物を構成するアルコキシ基に対応するアルコールを用いる。また、金属アルコキシド溶液には、金属アルコキシド化合物の重合反応の触媒として酸や塩基を加えてもよい。かかる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、弗化水素酸などの酸を挙げることができ、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの塩基が挙げられる。
【0036】
本発明方法で用いる硬化性材料溶液へは、さらに金属酸化物微粒子を添加してもよい。添加される金属酸化物微粒子由来の特性を、本発明の複合シートに付与することができる。例えば、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、チタン、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、亜鉛、インジウム、スズ、バリウム、マグネシウムおよびリチウムから選択される1または2以上の金属の酸化物からなる微粒子を添加することにより、これら金属酸化物微粒子の特性を本発明シートに付与することが可能となる。例えば、線熱膨張係数や熱収縮率を低減することができる。
【0037】
金属酸化物微粒子の平均粒子径は特に制限されないが、大き過ぎると複合シートから脱落するおそれがある。よって、当該平均粒子径としては200nm以下が好ましく、より好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下とする。当該平均粒子径の下限は特に制限されないが、例えば1nm以上とする。また、その粒度分布は狭いほどよく、200nm超の微粒子が無いことが望ましい。金属酸化物微粒子の形状は特に限定されないが、球状、棒状、不定形状などであり、これらの微粒子を単独もしくは複数を併用しても構わない。また異なる金属酸化物微粒子を2種類以上混合してもよい。
【0038】
金属酸化物微粒子の配合量は特に限定されないが、一般的には硬化性材料溶液に対して10質量%以上、90質量%以下が好ましい。10質量%未満では、添加した金属酸化物微粒子の効果が十分に発揮されないおそれがある。一方、90質量%を超えると、金属アルコキシド化合物の重合反応が十分に進行しない可能性があり得る。当該配合量は、より好ましくは20質量%以上、80質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上、60質量%以下である。
【0039】
その他、硬化性材料溶液には、紫外線吸収剤、抗菌剤、帯電防止剤、光触媒、上記以外の硬化触媒、可塑剤、増粘剤、消泡剤、カーボンブラック、顔料や染料などの着色剤など、有機系または無機系の各種添加剤を添加することができる。
【0040】
硬化性材料溶液を多孔質PTFEシートに充填させる方法は特に制限されず、常法を用いることができる。例えば、真空加圧含浸、真空含浸、噴霧、蒸発乾固、メタリングバー方式、ダイコート方式、グラビア方式、リバースロール方式、ドクターブレード方式などいずれの方式であってもよい。なお、多孔質PTFEシートへ溶液を塗布するのみであっても、溶液は空隙を満たす。即ち、本発明における「充填」は、多孔質PTFEシートの空隙が溶液で満たされればよく、そのための手段として塗布等も含む概念である。
【0041】
多孔質PTFEシートの厚さが薄い場合、一回の含浸のみで、多孔質PTFEシートの空孔は溶液で満たされる。一方、多孔質PTFEシートの厚さが厚い場合、一回の含浸のみでは空隙を溶液で完全に満たすことができないことがある。その場合には、溶液を複数回含浸させ、空隙が完全に満たされるようにする。
【0042】
塗布方法は特に限定されないが、例えば、メタリングバー方式、ダイコート方式、グラビア方式、リバースロール方式、ドクターブレード方式などいずれの方式であってもよい。
【0043】
上記溶液の塗布を行う場合は、多孔質PTFEシートの塗布面の溶媒が極力取り除かれた状態で行うことが好ましい。多孔質PTFEシートの表面に溶媒が付着した状態で塗布を行うと塗布斑が生じやすく、金属アルコキシド化合物の重合物の単独層の均一性や厚みに悪影響を及ぼす可能性がある。また、多孔質PTFEシートと重合物層との密着性を高めるために、多孔質PTFEシートの表面にコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、アルカリ処理などの表面活性化処理を施すこともできる。
【0044】
(2) 硬化工程
次に、硬化性材料溶液が充填された多孔質PTFEシートを硬化または半硬化する。
【0045】
硬化または半硬化は、使用した硬化性材料に応じた硬化手段により行う。例えば、ゾルゲル硬化性材料を用いた場合にはゾルゲル反応を行い、熱硬化性材料または紫外線硬化性材料を用いた場合には、それぞれ加熱または紫外線照射を行う。なお、半硬化とは完全に硬化させないことをいい、例えば、ゾルゲル反応においては十分に溶媒の除去や加熱を行わなかったり、その他の硬化手段においては、加熱温度や紫外線照射量を低減したり、加熱時間や紫外線照射時間を短くすることにより、硬化度合いを調整すればよい。
【0046】
ゾルゲル反応について詳しく説明すると、例えばケイ素のアルコキシド化合物を用いた場合には、Si−O結合によるオリゴマー化、さらにはポリマー化されたシロキサン結合が生成されるゾルゲル反応を進行せしめる。硬化方法としては、重合反応が進行すれば特に限定されないが、加熱処理の他、紫外線、X線、電子線、赤外線、マイクロ波などを照射することによりエネルギーを付与する方法がある。簡便であることから、好ましくは加熱処理を行う。
【0047】
ゾルゲル硬化性材料の硬化のための加熱処理の温度は適宜調整すればよいが、一般的には20〜320℃程度とする。20℃未満であると硬化反応が進行し難い場合がある一方で、320℃を超えるとクラックなどが発生しやすくなり、良好な複合シートを取得し難くなる場合がある。より好ましくは100〜300℃、さらに好ましくは200〜300℃である。また、加熱時間も適宜調整すればよいが、一般的には10〜360分間程度である。エネルギー光線を照射する場合、その種類や強度も適宜選択することができる。
【0048】
比較的低温で重合反応を進めた場合には、残留した溶媒を留去するために、好ましくは減圧下でさらに加熱すればよい。
【0049】
(3) 延伸工程
次に、硬化または半硬化された多孔質PTFEシートを延伸する。当該工程によって、表面が断続的に硬化性材料で被覆されたノードとフィブリルからなる多孔質PTFEシートが得られる。
【0050】
延伸倍率は適宜調整すればよいが、1.1倍以上、20倍以下にすることが好ましい。延伸倍率が1.1倍未満であるとシートが十分に多孔質とならず、透湿防水性を維持できないおそれがあり得る。一方、延伸倍率が20倍を超えると断裂やネッキングといった不具合が生じ、良好な複合シートが得られないおそれがあり得る。当該延伸倍率としては、2倍以上、10倍以下とすることがより好ましい。
【0051】
延伸手段は常法を用いればよく、例えば、硬化または半硬化された多孔質PTFEシートを速度の異なるロール間に通す方法をとることができる。また、延伸は一軸延伸であっても二軸延伸であってもよく、適宜選択すればよい。
【0052】
当該工程によって、硬化性材料が空孔に充填された多孔質PTFEシートには、表面と裏面とを通じる連通孔が再び生じる。また、かかる空孔の表面には部分的に硬化性材料が存在し、その他の部分ではPTFEが露出している。その結果、透湿防水性など多孔質PTFEシート本来の特性が維持されている一方で、耐圧縮性などが改善されている。なお、本発明シートにおける連通孔の有無は、透気度試験機などで容易に確認することができる。
【0053】
本発明に係る複合シートにおける硬化性材料の含有割合は10質量%以上、90質量%以下程度が好ましい。硬化性材料の当該割合が10質量%未満であると、耐圧縮性や機械的強度が十分に改善されないおそれがあり得る。一方、当該割合が90質量%を超えると、硬化性材料に対するPTFEの強度が相対的に不足してしまって十分に延伸される前にシートが断裂するおそれがあり、また、PTFEの露出度が過剰に減って透湿防水性などPTFE本来の特性が維持されないおそれがあり得る。当該含有割合は、30質量%以上、80質量%以下程度がより好ましい。
【0054】
(4) 再硬化工程
延伸された複合シートは、さらに硬化性材料を硬化させるためや半硬化された硬化性材料を硬化させるために、再硬化してもよい。再硬化することによって、複合シートの耐熱性や機械的強度などのより一層の向上が期待でき、さらなる高温環境下や高圧条件下での使用が可能となり得る。かかる再硬化は、加熱により行うことができる。
【0055】
上記方法で製造される本発明の通気性複合シートは、耐薬品性や耐熱性、透湿防水性といった多孔質PTFEシート本来の特性に加えて、耐圧縮性や機械的強度、耐擦傷性が改善されている。よって、特にフィルタ材料やファブリクス材料として有用である。
【0056】
本発明の複合シートは単層シートでも、積層シートでもよい。例えば、本発明に係る単層の複合シートに、本発明に係る単層の複合シート、またはその他の樹脂層や無機層を積層し、これら層が交互に配された積層シートとしてもよい。
【0057】
これら各層の層数や厚さなどは、目的にあわせて調整することが可能である。上記樹脂層としては、例えばフッ素系樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース、ポリビニルアルコールなどからなるものが好ましい。また、無機層としても特に限定されないが、例えばSi、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce、Ta等の1種以上を含む酸化物、窒化物または酸化窒化物などを用いることができる。樹脂層および無機層の形成方法は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でもよいが、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法などの物理蒸着法や、熱エネルギーや光エネルギーなどを利用した化学反応で製膜する塗布法、化学蒸着法などを適用することができる。
【0058】
従来の多孔質PTFEシートを各種フィルタ材料として用いる場合、かかるフィルタは耐薬品性や耐熱性などには優れるものの、流体の圧力や異物の衝突により空孔がつぶれたり損傷するなどして、決して満足できる性能のフィルタが得られるものではなかった。しかし本発明に係る通気性複合シートを構成材料として含むフィルタは、耐圧縮性や耐擦傷性にも優れる。よって、従来の多孔質PTFE製フィルタでは表面に付着したゴミや埃をブラシで直接除去するといったことは不可能であったが、本発明に係るフィルタは非常に傷付き難く且つ空孔が潰れ難いことから、このようなメンテナンスが可能である。
【0059】
従来の多孔質PTFEシートをファブリクス材料として用いる場合、多孔質PTFEは耐擦傷性に劣ることから、例えば雨具などに使用する場合には特別の工夫が必要であった。しかし本発明に係る通気性複合シートは耐擦傷性や機械的強度に優れることから、本発明シートからなるファブリクス材料は、透湿防水性に加えて耐擦傷性や機械的強度にも優れる。なお、本発明においてファブリクス材料とは、繊維、織物、布などの繊維製品をいうものとする。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0061】
実施例1
多孔質PTFEシート(厚さ:60μm,空孔率:70%)を25cm×30cmに切り出し、シリカ溶液(日興社製,製品名「ヒートレスグラスGS−600−1」)へ十分に含浸した後、70℃で5分間加熱することによりコート剤の粘性が無くなるまで溶剤を留去した。次いで、当該シートを4倍に一軸延伸した。さらに100℃で3時間加熱して再硬化することにより、通気性複合シートを作製した。得られた通気性複合シートに水を滴下したところ、膜に浸透することなく弾いた。
【0062】
実施例2
多孔質PTFEシート(厚さ:165μm,空孔率:70%)を25cm×30cmに切り出し、シリカ溶液(日興社製,製品名「ヒートレスグラスGS−600−1」)へ十分に含浸した後、70℃で5分間加熱することによりコート剤の粘性が無くなるまで溶剤を留去した。次いで、当該シートを4倍に一軸延伸した。さらに100℃で3時間加熱して再硬化することにより、通気性複合シートを作製した。得られた通気性複合シートに水を滴下したところ、膜に浸透することなく弾いた。
【0063】
実施例3
多孔質PTFEシート(厚さ:100μm,空孔率:70%)を25cm×30cmに切り出し、シリカ溶液(日興社製,製品名「ヒートレスグラスGS−600−1」)へ十分に含浸した後、70℃で5分間加熱することによりコート剤の粘性が無くなるまで溶剤を留去した。次いで、当該シートを1.5倍に一軸延伸した。さらに100℃で3時間加熱して再硬化することにより、通気性複合シートを作製した。得られた通気性複合シートに水を滴下したところ、膜に浸透することなく弾いた。
【0064】
試験例1 透気性試験
王研式透気度試験機(旭精工社製,製品名「KG1S」)を用い、JIS P8117の方法に準拠して、上記実施例1および2で作製した通気性複合シートのガーレーナンバーを測定した。また、上記実施例1および2で原料として用いた多孔質PTFEシートをそれぞれ比較例1および2として、同様にガーレーナンバーを測定した。なお、ガーレーナンバーは、100cm3の空気が1.29kPaの圧力で、6.45cm2の面積の試料を垂直方向に通過する時間(秒)をいう。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1の結果のとおり、本発明に係る通気性複合シートは、硬化性材料としてシリカゲルを含むものの、延伸されていることから十分な透気性を有し、その透気性は原料多孔質PTFEシートよりもかえって高いものであった。
【0067】
試験例2 耐圧縮性試験
上記実施例1および3で作製した通気性複合シートと、それらの原料多孔質PTFEシート(比較例1および3)を、小型プレス機により圧縮し、それぞれの圧縮率を測定した。
【0068】
詳しくは、先ず、小型プレス機の上盤を表2に示す各温度に加熱し、プレス圧:40kgf/cm2で各シートを10秒間加圧した。また、常温でも同様の処理を行った。加圧処理後、加圧する前の各シートの厚さを100とした場合に対する加圧後の厚さ減少率(%)を、耐圧縮性の判断基準として下記式により算出した。結果を表2に示す。
厚さ減少率(%)=100−[(加圧後厚さ/加圧前厚さ)×100]
【0069】
【表2】

【0070】
また、上盤を加熱せず、表3に示すプレス圧力で各シートを10秒間加圧した場合における各シートの厚さ減少率(%)を、上記と同様に算出した。結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
上記結果のとおり、従来の多孔質PTFEシートは耐圧縮性が十分でなく、加圧した場合には厚さが元に戻り難い。それに対して本発明に係る通気性複合シートは、高温および高圧力で加圧したときでさえ厚さの減少率は約5%以下に低減されており、耐圧縮性が飛躍的に向上していることが分かる。よって本発明に係る通気性複合シートは、耐圧縮性が必要とされるフィルタ材料やファブリクス材料として、非常に有用であると考えられる。
【0073】
試験例3 機械的強度試験
引張試験機(ORIENTEC製 RTC−1210A)を用いて、上記実施例3で作製した通気性複合シートと、その原料多孔質PTFEシート(比較例3)の機械的強度を、試料幅5mm、速度50mm/minの条件で測定した。結果を表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
上記結果のとおり、本発明に係る通気性複合シートは、その原料である多孔質PTFEシートに比して2倍以上の強度を有していることを確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性の複合シートを製造するための方法であって、
多孔質PTFEシートの空孔に硬化性材料溶液を充填する工程;
硬化性材料溶液が充填された多孔質PTFEシートを硬化または半硬化する工程;および
硬化または半硬化された多孔質PTFEシートを延伸する工程;
を含むことを特徴とする通気性複合シートの製造方法。
【請求項2】
さらに、延伸された多孔質PTFEシートを再硬化する工程を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
硬化または半硬化された多孔質PTFEシートを延伸する工程における延伸倍率を1.1倍以上、20倍以下にする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
硬化性材料としてケイ素アルコキシド化合物を用いる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法により製造された通気性複合シートを構成材料として含むことを特徴とするフィルタ。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法により製造された通気性複合シートからなることを特徴とするファブリクス材料。

【公開番号】特開2010−95658(P2010−95658A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268846(P2008−268846)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】