説明

通線ロッド用制動装置

【課題】リールから通線ロッドを繰り出して使用するときの監視員を不要とすることができるのは勿論のこと、部品の摩耗や疲労をほとんどなくして耐久性を高め、常に安定した制動力を得るとともに、空のリールに通線ロッドを巻き取るときなどの操作力を軽減する。
【解決手段】強い弾性によって真っ直ぐな状態に復帰しようとする性状の通線ロッド20が、その弾性に抗してリールに巻かれた状態で収納され、この収納状態から繰り出す際の通線ロッド20が、その弾性によってリールを回転させながら自然に送り出されるのを規制するための通線ロッド用制動装置であって、リールを回転自在に支持しているリール支持体に対し、通線ロッド20を挿通させることが可能な制動部材30が設けられている。この制動部材にリールから繰り出された通線ロッド20を挿通させたとき、通線ロッド20に対して強制的な曲げを生じさせるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドロップ光ファイバーなどの追加ケーブルの架線工事において、既設ケーブルに設けられたケーブルハンガーに追加ケーブルを通すために使用される通線ロッド用の制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、追加ケーブルの架線工事に際しては、最初に通線ロッドをケーブルハンガーに通し、この通線ロッドを、その終端部に追加ケーブルを結合して巻き取ることで、追加ケーブルをハンガーに通している。このように通線ロッドは、その役割からして直進性が要求されるため、常に真っ直ぐな状態に復帰しようとする強い弾性をもった素材(例えばFRP)が使用されている。また、運搬時などにおける通線ロッドは、その弾性に抗してリールに巻き取られた状態で収納されている。なお、通線ロッドを用いた架線工法に関しては、特許文献1に開示された技術が公知である。
【特許文献1】特開2002−17013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
通線ロッドをリールに巻かれた収納状態から繰り出して使用するとき、通線ロッドが真っ直ぐな状態に復帰しようとする弾性によってリールを回転させながら自然に送り出されてしまう。そこで、リールの傍らに専従の監視員をおき、通線ロッドの弾性によるリールの回転に対して適当な手段で制動力を加えている。このため、少なくとも1名の作業員を余分に必要とし、架線工事の作業効率がわるい。
【0004】
そこで、リールを回転自在に支持しているリール支持体の一部に、ゴムなどの弾性片を固定し、この弾性片を回転するリールのフレームなどに干渉させて制動力をかける手段が提案されている。しかし、この手段では、弾性片の摩耗や疲労が激しく、安定した制動力を得るには頻繁なメンテナンスを要する。また、空になったリールに通線ロッドを巻き取る際にも、常にリールの回転に制動力がかかっているため、操作が重くなる。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、リールから通線ロッドを繰り出して使用するときの監視員を不要とするのは勿論のこと、部品の摩耗や疲労をほとんどなくして耐久性を高め、常に安定した制動力を得るとともに、空のリールに通線ロッドを巻き取るときなどの操作力を軽減することである。
ことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
請求項1に記載の発明は、強い弾性によって真っ直ぐな状態に復帰しようとする性状の通線ロッドが、その弾性に抗してリールに巻かれた状態で収納され、この収納状態から繰り出す際の通線ロッドが、その弾性によってリールを回転させながら自然に送り出されるのを規制するための通線ロッド用制動装置であって、リールを回転自在に支持しているリール支持体に対し、通線ロッドを挿通させることが可能な制動部材が設けられている。この制動部材にリールから繰り出された通線ロッドを挿通させたとき、通線ロッドに対して強制的な曲げを生じさせるように設定されている。
【0007】
この構成によれば、制動部材に挿通させた通線ロッドに曲げを生じさせることにより、真っ直ぐな状態に復帰しようとする弾性を有する通線ロッドが制動部材の内部に押し付けられ、通線ロッドが自然に送り出されるのに対して制動力がかけられる。したがって、リールの傍らに専従の監視員をおくことが不要となる。また、通線ロッドの弾性を利用して制動力を発揮させているので、例えばリールの回転に制動力を加えるのと異なり、部品の摩耗や疲労がほとんどなく、耐久性にすぐれ、常に安定した制動力を得ることが可能となる。さらに、空のリールに通線ロッドを巻き取るときなどは、通線ロッドを制動部材に挿通させないことにより、通線ロッドに制動力をかけることなく、軽い操作力で巻き取り作業を行うことができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載された通線ロッド用制動装置であって、制動部材は、その内部に対する通線ロッドの挿通方向と、リールから通線ロッドが繰り出される方向とが所定の角度を有するようにリール支持体に設けられている。
【0009】
この場合、リール支持体に対する制動部材の角度に基づき、結果として通線ロッドの送り出しに対する制動力を得ているので、制動部材自体が耐久性にすぐれているのは勿論のこと、ゴムなどの弾性片をリールのフレームなどに干渉させるのと異なり、リールフレームの変形などに影響を受けることなく、安定した制動力を発揮できる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載された通線ロッド用制動装置であって、リール支持体に対する制動部材の角度は、この制動部材から通線ロッドを引き出す方向が、この制動部材に挿通させた通線ロッドが真っ直ぐな状態に復帰しようとする弾性に逆らう方向となるように設定されている。
【0011】
これにより、制動部材から通線ロッドを引き出すときは、制動部材の内部に対する通線ロッドの接触面積が少なくなって制動力が軽減され、作業性が向上する。また、リールに巻かれている通線ロッドの残り長さが少なくなると、通線ロッドがその弾性によってリールから自然に送り出される力も減少してくるが、このような現象に対しても制動部材から通線ロッドを引き出すときの制動力を軽減することによって対応することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載された通線ロッド用制動装置であって、制動部材は、リール支持体に対して脱着可能なクランプを備えている。
これにより、制動部材を既存のリールに取り付けて使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を用いて説明する。
図1は通線ロッド収納用リールを表した正面図である。図2は図1の側面図である。図3は図1の平面図である。これらの図面で示すように、ケージ状をしたリール10は、リール支持体12に対して回転自在に支持されている。リール10のフレーム構造は、外周および表裏両面に配置された複数のリング10aが、同じく表裏両面にわたって放射状に配置された複数のアーム10bによって結合されている。また、リール10は、その中心部において各アーム10bの端部で支えられたハブ10cを備えている。このように各リング10aと各アーム10bとで構成されたフレーム構造の内側に、通線ロッド20が巻き取られて収納される。なお、リール10の外周に配置されたリング10aの一部には、通線ロッド20の端部20b(巻き取り時の先端部)を差し込んで保持するための保持筒10dが固定されている。
【0014】
リール支持体12は、1本の垂直な支柱13を左右一対の脚部14で支持した構造で、支柱13の下端部には、主軸15が図2,3の右方向へほぼ水平に突き出した状態で固定されている。この主軸15に対してリール10のハブ10cが自在に回転できるように支持されている。また、支柱13の上部は、主軸15と同方向に曲げられてハンドル16が構成されている。
【0015】
主軸15の先端には、この主軸15からリール10の外周方向へ延びるアーム状のガイド17の基端部が固定されている。つまり、ガイド17の基端部には円筒形状の結合部17aがあり、この結合部17a内にリール10のハブ10cを貫通した主軸15の端部が挿入され、互いにボルトで固定されている。ガイド17の先端部は、通線ロッド20を挿通させて円滑に案内することができる案内部17bとなっている(図3)。
【0016】
通線ロッド20は、曲げ方向の外力に対する剛性が高く、真っ直ぐな状態に復帰しようとする強い弾性をもった素材(例えばFRP)が使用されている。そして、通線ロッド20は、架線工事に必要な長さ(例えば50m)を有するため、リール10に巻かれた状態で収納されている。この収納状態での通線ロッド20は、ケージ状のリール10内において、強い弾性(剛性)に抗してリング状に撓められている。なお、通線ロッド20をリール10に巻き取る際は、既に述べたように通線ロッド20の端部20bをリール10の保持筒10dに差し込んでリール10側に止めておく。
【0017】
リール支持体12のハンドル16には、リール10から繰り出される通線ロッド20に制動力を与えるための制動部材30が、そのクランプ34によって取り付けられている。この制動部材30は筒状で、その中に通線ロッド20を挿通させることにより、この通線ロッド20に対して強制的な曲げを生じさせることができる。クランプ34は、制動部材30をリール支持体12のハンドル16に対して取り外し可能に締め付けて固定することができる。なお、制動部材30には、例えば金属製チューブが使用されているが、線材が螺旋状に巻かれたコイルスプリング状のものに代えることも可能である。
【0018】
図4は制動部材30をクランプ34と共に表した平面図である。図5は図4の右側面図である。図6は制動部材30をクランプ34と共に表した斜視図である。これらの図面から明らかなように、制動部材30両端の開口31は、それぞれの外周が外方へ開いた形状になっている。これにより、両開口31の周面は滑らかな円弧面になっていて、ここを通過する通線ロッド20が損傷するのを防止することができる。また、制動部材30には、その軸線に対して角度αの軸線上において支持軸32が固定されている(図4)。
【0019】
クランプ34は、Uボルト35の両端部35a,35bをボルトプレート36の二つの挿通孔36aに個別に挿通させた構成である。このUボルト35における一方の端部35aに、支持軸32の端部が固定され、他方の端部35bが雄ネジになっている。クランプ34をリール支持体12のハンドル16に固定するには、Uボルト35とボルトプレート36との間にハンドル16を位置させ、ボルトプレート36の反対側から端部35bの雄ネジにナット38を締め付ける。なお、ボルトプレート36とナット38との間には、スプリングワッシャ37を介在させる。
【0020】
本実施の形態においては、制動部材30と支持軸32との軸線間の角度αが約120°に設定されている。また、支持軸32の軸線とUボルト35の両端部35a,35bを結ぶ直線L(図4)とは、ほぼ直角に設定されている。このため、制動部材30の軸線と直線Lとの間の角度は、約30°となる。図3の平面視において、直線Lはリール10の端面とほぼ平行であるから、制動部材30はリール10の端面に対して約30°の角度をもって取り付けられることになる。そして、リール10に対する制動部材30の仰角(図1,2)は、リール支持体12のハンドル16に対するクランプ34の締め付け位置を調整することで、任意に設定することができる。
【0021】
図7は、通線ロッド20の使用イメージを表した概要図である。複数本の電柱40,41,42間に架けられた既設ケーブル44には、螺旋状のケーブルハンガー46が設けられている。このケーブルハンガー46に、ドロップ光ファイバーなどの追加ケーブル(図示省略)を通す架線工事に際しては、最初に通線ロッド20をケーブルハンガー46に通す。この作業にあたっては、電柱40近くの地面に置いたリール10から通線ロッド20を繰り出しながら、作業用車両48のバケットに乗った作業員により、まず電柱40,41間のケーブルハンガー46に通線ロッド20を通す。このとき、通線ロッド20の先端側の端部20aに案内金具22が結合され、この端部20aがケーブルハンガー46内から外に逃げ出さないようにしている。
【0022】
案内金具22が電柱41の手前付近に到達したら、作業用車両48を移動させ、引き続いて電柱41,42間のケーブルハンガー46に通線ロッド20を通す。この作業を繰り返すことにより、通線ロッド20がリール10からほとんど繰り出されたら、その終端側の端部20bに追加ケーブルの端部を結合する。この後、通線ロッド20の端部20aから案内金具22を外し、この通線ロッド20を空のリール10に巻き取っていくことにより、ケーブルハンガー46に追加ケーブルが通される。
【0023】
既に述べたように、通線ロッド20は曲げに対する剛性が高く、真っ直ぐな状態に復帰しようとする強い弾性を有するため、リール10に巻かれた状態から繰り出すときに、弾性力によってリール10を回転させながら自然に送り出される。そこで、リール10から通線ロッド20を繰り出すときに先端側となる端部20aを、ガイド17の案内部17bに通した後、ハンドル16に取り付けられた制動部材30に挿通させる(図1〜4)。この制動部材30の軸線は、リール10の端面に対して約30°の角度をもってハンドル16に取り付けられている。これに対し、ガイド17の案内部17bを通過した部分の通線ロッド20は、リール10の端面から外側へ大きく広がる方向へ弾性が働いている。このため、制動部材30に挿通させた通線ロッド20は、その弾性に抗して強制的に曲げられた状態となる。これにより、図4の仮想線で示すように通線ロッド20の一部が制動部材30の内部に押し付けられる。
【0024】
この通線ロッド20と制動部材30との間に生じる摩擦により、通線ロッド20がリール10から自然に送り出されることに対して制動力がかけられる。したがって、例えば図7で示す位置に設置されたリール10を監視する必要がなく、その分、作業員を少なくできる。この制動力は、通線ロッド20がもっている弾性を利用しているので、リール10のフレームに弾性片などを干渉させて回転に制動力をかけるのと異なり、部品の摩耗や疲労がほとんどなく、耐久性にすぐれている。また、制動部材30は、リール10におけるフレームの変形などに影響を受けることなく、安定した制動力を発揮できるとともに、クランプ34によって既存のリール10(リール支持体12)に取り付けて使用することができる。
【0025】
制動部材30から引き出された通線ロッド20をケーブルハンガー46に通すとき、作業者によって引っ張られた通線ロッド20は、図4の矢印A方向へ撓められる。これにより、制動部材30に対する通線ロッド20の接触面積が減少して制動力が軽減される。したがって、リール10から通線ロッド20を繰り出すときの操作力は軽くなる。なお、リール10に巻かれている通線ロッド20が残り少なくなると、その弾性力によってリール10を回転させる力も僅かに低減する。この状態において、通線ロッド20に対する制動力が一定の場合、リール10から通線ロッド20を繰り出す操作が重くなるが、このような現象に対しても対応することができる。
【0026】
また、空になったリール10に通線ロッド20を巻き取るときは、その通線ロッド20を制動部材30に挿通させることなく、その端部をリール10の保持筒10dに差し込んで巻き取っていく。このとき、通線ロッド20には制動力がかかっていないので、軽い操作力で巻き取り作業を行うことができる。
【0027】
図8は、他の実施の形態を表した斜視図である。この実施の形態では、筒状の制動部材30に代えて、リングを利用した制動部材50が用いられている。この制動部材50は、一本のリテーナ51の両端部にリング52,53がそれぞれ固定され、このリテーナ51に支持軸32が固定されている。支持軸32は、先の実施例と同様にクランプ34におけるUボルト35の一端部に固定されている。
【0028】
制動部材50の両リング52,53に通線ロッド20を挿通させることにより、制動部材30の場合と同様に、通線ロッド20がその弾性に抗して強制的に曲げられ、通線ロッド20の一部が送り出し側のリング53内周に押し付けられる。このため、通線ロッド20と制動部材50(リング53)との間に摩擦が生じ、通線ロッド20に制動力がかけられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】通線ロッド収納用リールを表した正面図
【図2】図1の側面図
【図3】図1の平面図
【図4】制動部材をクランプと共に表した平面図
【図5】図4の右側面図
【図6】制動部材をクランプと共に表した斜視図
【図7】通線ロッドの使用イメージを表した概要図
【図8】他の実施の形態における制動部材をクランプと共に表した斜視図
【符号の説明】
【0030】
10 リール
12 リール支持体
20 通線ロッド
30,50 制動部材
34 クランプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
強い弾性によって真っ直ぐな状態に復帰しようとする性状の通線ロッドが、その弾性に抗してリールに巻かれた状態で収納され、この収納状態から繰り出す際の通線ロッドが、その弾性によってリールを回転させながら自然に送り出されるのを規制するための通線ロッド用制動装置であって、
リールを回転自在に支持しているリール支持体に対し、通線ロッドを挿通させることが可能な制動部材が設けられ、この制動部材にリールから繰り出された通線ロッドを挿通させたとき、通線ロッドに対して強制的な曲げを生じさせるように設定されている通線ロッド用制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載された通線ロッド用制動装置であって、
制動部材は、その内部に対する通線ロッドの挿通方向と、リールから通線ロッドが繰り出される方向とが所定の角度を有するようにリール支持体に設けられている通線ロッド用制動装置。
【請求項3】
請求項2に記載された通線ロッド用制動装置であって、
リール支持体に対する制動部材の角度は、この制動部材から通線ロッドを引き出す方向が、この制動部材に挿通させた通線ロッドが真っ直ぐな状態に復帰しようとする弾性に逆らう方向となるように設定されている通線ロッド用制動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載された通線ロッド用制動装置であって、
制動部材は、リール支持体に対して脱着可能なクランプを備えている通線ロッド用制動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−311683(P2006−311683A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129704(P2005−129704)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000232494)日本電話施設株式会社 (12)
【Fターム(参考)】