説明

通線用呼び線

【課題】十分な強度や耐久性を維持しつつ、且つ従来のものよりも通線性および視認性が優れた、電気配線及び通信ケーブルなどの通線用呼び線を提供する。
【解決手段】線状物を配管内に配線するに際して使用する呼び線であって、異形断面合成樹脂モノフィラメント単線の外周長手方向の少なくとも一部に、母材部2とは色調の異なる彩色部3を形成し、この異形断面合成樹脂モノフィラメント単線の長手方向に捻り加工を付与することにより、モノフィラメント外周面に螺旋状凹凸5および縞模様6を形成してなる通線用呼び線1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状物を配管内に配線するに際して使用する通線用呼び線の改良に関し、さらに詳しくは、通線性および視認性が均衡に優れた通線用呼び線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、オフィス、商店、住宅および工場などにおける配線工事では、建物の内装工事が完了した段階で、予め敷設した配管内へ電気配線や通信ケーブル類などの線状物を通線する方法が採用されており、具体的には、まずリード線と呼ばれる呼び線を予め敷設した配管内に通線し、このリード線の一端側に電気配線や通信ケーブル類などを連結した後、リード線の他端側からこれを配管外へ引き抜くことにより、所望の線状物を配管内に配線している。
【0003】
従来、これらの通線作業においては、スチール製のリード線が主に使用されてきたが、スチール製のリード線は高重量であり、腰が強いため取り扱いにくく、また、通電性を持つために、配線作業中に感電するなどの危険性があった。
【0004】
そこで、近年では、スチール製のリード線に代わり、軽量かつ絶縁性のプラスチックを素材に使用したリード線が注目されており、例えば、合成樹脂製モノフィラメントを複数本引き揃えて加熱しながら撚り回転を与え、外面に螺旋状綾線を形成したリード線(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
【0005】
このリード線は、配線作業中に感電する心配もなく、従来のスチール製リード線と同等の強度を持つなどの特徴を有しているが、外径が太くなりやすいために配管内へスムーズに通線しにくく、使い勝手が悪いなどの問題を残しており、さらなる改善が必要とされていた。
【0006】
また、断面形状が多角形の合成樹脂製モノフィラメントに撚り回転を与え、外面に螺旋状綾線を形成したリード線(例えば、特許文献2参照)が提案されている。このリード線は、前記特許文献1に記載されるリード線に比較して、同等の強度を小径にて得ることが可能であるため、通線性が改善されたものではあるが、1本の異形断面モノフィラメントに撚りをかけた構造のため、外観が単色となっており、背景が近似色である場合などには視認しにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公昭61−22424号公報
【特許文献2】実公平4−16566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、通線性および視認性が均衡に優れた通線用呼び線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、線状物を配管内に配線するに際して使用する呼び線であって、異形断面合成樹脂モノフィラメント単線の外周長手方向の少なくとも一部に、母材部とは色調の異なる彩色部を形成し、この異形断面合成樹脂モノフィラメント単線の長手方向に捻り加工を付与することにより、モノフィラメント外周面に螺旋状凹凸および縞模様を形成してなることを特徴とする通線用呼び線が提供される。
【0011】
なお、本発明の通線用呼び線においては、
前記異形断面合成樹脂モノフィラメントの彩色部が、前記母材部とは色調の異なる同一の樹脂からなり、この彩色部と母材部とが複合紡糸により接合されていること、
前記異形断面合成樹脂モノフィラメントの断面において、前記彩色部の占める割合が10〜90%であること、
前記異形断面合成樹脂モノフィラメントの捻り回数が20〜60ターン/mであること、
前記異形断面合成樹脂モノフィラメントの外接円直径が2.5〜7.5mmであること、
が、いずれもより好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、単線構造でありながら螺旋状凹凸および縞模様を有しており、通線性通線性および視認性が均衡に優れた通線用呼び線を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の通線用呼び線の第1実施例における断面図。
【図2】本発明の通線用呼び線の第2実施例における断面図。
【図3】図2の側面図。
【図4】実施例において通線性を評価するために使用した配管の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明をさらに詳細に説明する。
【0015】
図1〜3に示すとおり、本発明の通線用呼び線は、線状物を配管内に配線するに際して使用する通線用呼び線1であって、外周長手方向の少なくとも一部に母材部2とは色調の異なる彩色部3を形成した異形断面合成樹脂モノフィラメントの長手方向に捻り加工を付与することにより、外周面に螺旋状凹凸5および縞模様6を形成してなることを特徴とするものである。
【0016】
ここで、図1に示した通線用呼び線を形成する異形断面合成樹脂モノフィラメントは略三角形断面糸であり、また図2に示した通線用呼び線を形成する異形断面合成樹脂モノフィラメントはクローバー形断面糸である。
【0017】
そして、これら異形断面合成樹脂モノフィラメントは、その断面において、母材部2と
この母材部2とは色調の異なる彩色部3が形成されており、これら彩色部3と母材部2は複合紡糸により接合されていることが好ましい。
【0018】
このように、本発明の通線用呼び線1においては、異形断面モノフィラメント単線に捻り加工を加えることにより、外周面に螺旋状凹凸5および縞模様6を有しているため、通線性の低下が抑制され、また母材部2と彩色部3との色調が異なっていることから、視認性に優れるという特性を発揮する。
【0019】
なお、本発明の通線用呼び線1を構成する異形断面合成樹脂モノフィラメントの断面形状は、真円以外であれば特に限定されず、楕円、三角形、四角形、五角形などの多角形、星形、多葉形などの異形断面形状を挙げることができ、その中でも図1で挙げた略三角形断面が、通線性および強度が良好であることから特に好ましい。
【0020】
また、異形断面合成樹脂モノフィラメントの捻り回数については、通線用呼び線1の使用目的に応じて適宜選定することができ、特に限定されないが、配管内の壁面との接触が面接触から点接触となり、摩擦抵抗が低減して通線性が向上する傾向にあるとの理由から、20〜60ターン/mであることが好ましく、さらには30〜50ターン/mであることがより好ましい。
【0021】
ここで、本発明の通線用呼び線1を構成する素材については特に制限はなく、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン、6/66共重合などのポリアミド樹脂またはその共重合体、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリエステル類またはその重合体、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・フッ化ビニリデン共重合体などのフッ素樹脂類、ポリカーボネート類、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、非晶ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアリルエーテルニトリル、液晶ポリエステルなどが挙げられる。
【0022】
これらの樹脂の中でも、PETを用いることが、通線性と強度が良好なため特に好ましい。
【0023】
また、本発明の通線用呼び線1を構成する異形断面合成樹脂モノフィラメントの断面における母材部2と彩色部3は、同一の樹脂を用い複合紡糸により接合されていることが好ましい。彩色部3を塗装により形成し、通線用呼び線1の表面のみにしか存在しない場合には、繰り返しの使用しているうちに彩色部3が脱落しやすいため好ましくなく、また母材部2と彩色部3とに異種の樹脂を用いた場合には、母材部2と彩色部3が剥離しやすいため好ましくない。
【0024】
また、本発明の通線用呼び線1は、その長さ方向に対して垂直に切断した断面において、母材部2の断面積と彩色部3の断面積の比が10:90〜90:10の範囲にあることが好ましく、さらには20:80〜80:20の範囲からなることがより好ましい。
【0025】
これは、彩色部3の比率が上記の範囲を下まわると、十分な視認性が得られにくくなり、彩色部3の比率が上記範囲を上まわると、母材部2が少なくなりすぎるため、逆に十分な視認性が得られにくくなるからである。
【0026】
本発明の通線用呼び線1の外接円4の直径は、一般に配管径の10〜40%程度のものが好ましく使用されるが、近年では配管径が小経化の傾向にあるため、呼び線も細くする必要がある。
【0027】
しかし、細すぎると呼び線の曲げ硬さが小さくなるばかりか、呼び線を配管内に押し込む際の力も伝わりにくくなるため、通線がしにくくなる場合があり、逆に、太すぎると呼び線が硬くなるため、配管のコーナー部分において、通線がしにくくなる場合がある。
【0028】
したがって、本発明の通線用呼び線1の外接円4の直径は、2.5〜7.0mmの範囲にあることが好ましく、さらには3.2〜6.0mmの範囲にあることがより好ましい。
【0029】
なお、通線用呼び線を予め敷設した配管内に通線し、この呼び線の端末に電気配線や通信ケーブル類を連結した後、呼び線を配管外へ引き抜く際に、呼び線には大きな張力が掛かるため、呼び線にはこの張力に耐えうる強度を有することが好ましい。
【0030】
次に、本発明の通線用呼び線1の製造方法の一例について説明する。
【0031】
まず、母材部に用いるPETペレットと黒の顔料を含むPBTマスターバッチとの混合物と、彩色部に用いるPETペレットと黄色の顔料を含むPBTマスターバッチとの混合物を、それぞれ2基のエクストルーダー型複合紡糸機に供し、280℃の温度で溶融混練した後、所望の複合重量比で異形複合口金孔から押し出す。そして、押し出された未延伸糸を冷却水槽の表面を動揺させながら60〜90℃で冷却固化した後、合成樹脂組成物のガラス転移以上の熱媒温度で4.0〜8.5倍に1段または2段に延伸し、次いで0.85〜1.0倍に弛緩ないし定長熱処理することにより、まず異形断面複合合成樹脂モノフィラメントを得る。
【0032】
こうして得られた異形断面複合合成樹脂モノフィラメントは、合成樹脂のガラス転移点以上の温度でS撚り、またはZ撚りすること、つまり捻り加工することにより、本発明の通線用呼び線1を得ることができる。
【0033】
こうして得られた本発明の通線用呼び線1は、電気配線や通信ケーブル類などの線状物を配管内に通線するに際して、十分な強度や耐久性を維持しつつ、且つ従来のものよりも通線性および視認性に優れたものであるため、その実用性が極めて高いものである。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を基に本発明の通線用呼び線をさらに詳しく説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
また、実施例中の%および部は、特に断らない限り重量%および重量部を意味するものである。
【0036】
なお、通線用呼び線の各種特性値は以下の方法に従って測定したものである。
[母材部と彩色部の面積比]
呼び線を長さ方向に対し垂直方向に切り出した断面観察サンプルをKEYENCE製デジタルマイクロスコープVHX−100Fにて観察し、本デジタルマイクロスコープの面積測定ツールを用いて、母材部の断面積および彩色部の断面積を計測し、その面積比を百分率で求めた。
[視認性]
呼び線を15cmに切断し、コンクリート片およびベニヤ材の上に置き、それを光度50ルクスにおいて10m先から実際に確認してもらい、次の基準で判定した。
【0037】
○…どちらの状況においても十分視認可能であった。
【0038】
×…どちらか片方の状況においてはっきり視認することができなかった。
[通線テスト]
内径22.2mmの配管(市販品)を図4に示すように形設し、AからBへと呼び線を通線作業した場合の呼び線の通線性について次の3段階で評価した。また、AからBまでの呼び線の通線所要時間についても測定した。
【0039】
○:AからBまで、途中引っ掛かることなくスムーズに通線することができた、
△:AからBまでの半分以上の所までスムーズに通線することができたが、それ以降は途中で引っ掛かる所があった、
×:AからBまでの半分も行かないところで引っ掛かった。
【0040】
なお、各コーナーにおける配管は、電気配管用エルボ(市販品)を使用し、各直線部分a〜fの長さは次の通りとした。
【0041】
a:1.0m
b:1.0m
c:3.7m
d:11.0m
e:3.7m
f:5.0m
[実施例1]
母材部としてIVが1.18のPETチップ(東レ(株)製T701T)99重量%と黒の顔料を含むPBTマスターバッチ(大日精化工業社製 PESM4800)1重量%との混合物、彩色部としてPETチップ(東レ(株)製T701T)95重量%と黄色の顔料を含むPBTマスターバッチ(大日精化工業社製 PESM21136)5重量%との混合物を、それぞれ2基のエクストルーダーを有する複合紡糸機に供給し、溶融混練をした後に、280℃の温度で溶融複合紡糸し、断面形状が図1となるよう異形複合口金孔から押し出した。
【0042】
その後紡出された溶融物は70℃の湯浴中で冷却固化されて未延伸糸となり、この未延伸糸を引き続きトータル5.25倍に延伸し、さらに熱セットを施して、母材部:彩色部の面積比が70:30の異形断面複合合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0043】
次に、異形断面複合合成樹脂モノフィラメントをZ撚りに34ターン/mに捻りを加えた後、乾熱浴中で熱固定し、外接円直径が3.5mmの呼び線を得た。
[実施例2]
母材部と彩色部の断面比率を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で呼び線を得た。
[実施例3]
断面形状が図2となるように変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で呼び線を得た。
[実施例4]
呼び線の外接円直径を5.2mmに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で呼び線を得た。
[比較例1]
彩色部を設けず、黒単色の呼び線としたこと以外は、実施例1と同じ条件で呼び線を得た。
[比較例2]
彩色部を設けず、黄単色の呼び線としたこと以外は、実施例1と同じ条件で呼び線を得た。
[比較例3]
直径2.4mmの黒色合成樹脂モノフィラメントを2本、直径2.4mmの黄色合成樹脂モノフィラメントを1本引き揃え、Z撚りに34ターン/mに撚り合わせた後、乾熱浴中で熱固定し、外接円直径が6.4mmの呼び線を製造したこと以外は、実施例1と同じ条件で呼び線を得た。
【0044】
以上、実施例1〜4、比較例1〜3で得られた呼び線の視認性、通線性の評価結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の結果から明らかなように、本発明の通線用呼び線(実施例1〜4)は、視認性は良好な結果を示し、通線性も良好であった。
【0047】
これに対して、本発明の条件を満たさない通線用呼び線(比較例1〜2)は、視認性に劣る呼び線となりやすく、複数本の合成樹脂を撚り合わせた通線用呼び線(比較例3)は、通線性に劣る呼び線となりやすい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の通線用呼び線は、十分な強度や耐久性を維持し、且つ通線性および視認性が均衡に優れているため、配管内に電気配線および通信ケーブルを配線する際に、安全かつ効率よく作業することができる。
【0049】
また、本発明の通線用呼び線には、必要に応じてその端末に電気接続用端子を接着、融着またはかしめて使用することができ、さらには呼び線以外の用途として、プルコードなどにも使用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 通線用呼び線
2 母材部
3 彩色部
4 外接円
5 螺旋状凹凸
6 縞模様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状物を配管内に配線するに際して使用する呼び線であって、異形断面合成樹脂モノフィラメント単線の外周長手方向の少なくとも一部に、母材部とは色調の異なる彩色部を形成し、この異形断面合成樹脂モノフィラメント単線の長手方向に捻り加工を付与することにより、モノフィラメント外周面に螺旋状凹凸および縞模様を形成してなることを特徴とする通線用呼び線。
【請求項2】
前記異形断面合成樹脂モノフィラメントの彩色部が、前記母材部とは色調の異なる同一の樹脂からなり、この彩色部と母材部とが複合紡糸により接合されていることを特徴とする請求項1に記載の通線用呼び線。
【請求項3】
前記異形断面合成樹脂モノフィラメントの断面において、前記彩色部の占める割合が10〜90%であることを特徴とする請求項1または2に記載の通線用呼び線。
【請求項4】
前記異形断面合成樹脂モノフィラメントの捻り回数が20〜60ターン/mであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の通線用呼び線。
【請求項5】
前記異形断面合成樹脂モノフィラメントの外接円直径が2.5〜7.5mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の通線用呼び線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−93977(P2013−93977A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234633(P2011−234633)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)