説明

通電加熱式触媒装置

【課題】電極による通電加熱面積が担体の周方向に広がり、通電加熱を効果的に行え、かつ、電極の剥離が抑制された通電加熱式触媒装置を提供すること。
【解決手段】触媒が担持されたセラミックスからなる担体と、前記担体の外周面に互いに対向して形成された一対の電極と、前記電極へ外部から電力を供給する配線と、を備え、前記電極を通じて前記担体を通電加熱する通電加熱式触媒装置であって、前記電極は、前記担体の軸方向に延設され、かつ、前記担体の周方向から交互にスリットが入れられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通電加熱式触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等のエンジンから排出される排気ガスを浄化する排気浄化装置として通電加熱式触媒(EHC:Electrically Heated Catalyst)が注目されている。EHCでは、エンジンの始動直後などのように排気ガスの温度が低く、触媒が活性化し難い条件下であっても、通電加熱により強制的に触媒を活性化させ、排気ガスの浄化効率を高めることができる。
【0003】
特許文献1に開示されたEHCは、白金やパラジウム等の触媒が担持されたハニカム構造を有する円筒状の担体と、当該担体と電気的に接続され、かつ、当該担体の外周面に互いに対向配置された一対の電極と、を備えている。このEHCでは、一対の電極間において担体を通電加熱し、担体に担持された触媒を活性化する。これにより、担体を通過する排気ガス中の未燃焼HC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)、NOx(窒素酸化物)等の有害物質が触媒反応により浄化される。
【0004】
EHCは自動車等の排気経路上に設けられるため、上記電極の材料には、電気伝導度のみならず、耐熱性、高温下における耐酸化性、及び排気ガス雰囲気における耐腐食性等が要求される。そのため、特許文献1に開示されているように、Ni−Cr合金やMCrAlY合金(但し、MはFe、Co、Niのうち少なくとも一種)などの金属材料が用いられる。電極は溶射により担体上に形成される。他方、上記担体の材料としては、SiC(炭化珪素)などのセラミックス材料が用いられる。そのため、通電加熱時には、電極を構成する金属材料と、担体を構成するセラミックス材料との線膨張係数差による応力が発生する。
【0005】
特許文献2には、電界印加用電極に対して熱膨張変化吸収処置を施したことを特徴とした光応用電圧・電界センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−106308号公報
【特許文献2】特開平2−176476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者は以下の課題を見出した。
EHCの電極は、担体の周方向に所定の幅を持って軸方向に延設されている。この電極を流れる電流の経路が、電極を構成する溶射皮膜の状態に影響され、電極の通電加熱面積が担体の周方向に狭くなり、通電加熱時の担体の温度分布も大きくなるおそれがあった。
【0008】
また、電極を構成する溶射皮膜は、溶射時における凝固収縮に伴う残留応力や、上述の通電加熱時における線膨張係数差による応力に起因して、担体から剥離してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、上記を鑑みなされたものであって、電極による通電加熱面積が担体の周方向に広がり、通電加熱を効果的に行え、かつ、電極の剥離が抑制された通電加熱式触媒装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様に係る通電加熱式触媒装置は、
触媒が担持されたセラミックスからなる担体と、
前記担体の外周面に互いに対向して形成された一対の電極と、
前記電極へ外部から電力を供給する配線と、を備え、前記電極を通じて前記担体を通電加熱する通電加熱式触媒装置であって、
前記電極は、前記担体の軸方向に延設され、かつ、前記担体の周方向から交互にスリットが入れられていることを特徴とするものである。
電極による通電加熱面積が担体の周方向に広がり、通電加熱を効果的に行え、かつ、電極の剥離が抑制された通電加熱式触媒装置を提供することができる。
【0011】
本発明の第2の態様に係る通電加熱式触媒装置は、上記の第1の態様において、隣接する前記スリット同士の間隔が、前記電極において前記配線が接続された接続領域から遠ざかるにつれて、大きくなっていることを特徴とするものである。これにより、より均一に通電加熱を行うことができる通電加熱式触媒装置を提供することができる。
【0012】
本発明の第3の態様に係る通電加熱式触媒装置は、上記の第1又は2の態様において、前記スリットの長さが、前記接続領域から遠ざかるにつれて、短くなっていることを特徴とするものである。これにより、さらに均一に通電加熱を行うことができる通電加熱式触媒装置を提供することができる。
【0013】
本発明の第4の態様に係る通電加熱式触媒装置は、上記の第1〜3のいずれかの態様において、前記接続領域が、前記電極の長手方向の中央部に位置することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の第5の態様に係る通電加熱式触媒装置は、上記の第1〜4のいずれかの態様において、前記電極が、溶射により形成されることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の第6の態様に係る通電加熱式触媒装置は、上記の第1〜5のいずれかの態様において、前記セラミックスが、SiCを含むことを特徴とするものである。
【0016】
本発明の第7の態様に係る通電加熱式触媒装置は、上記の第1〜6のいずれかの態様において、前記電極が、Ni−Cr合金(但し、Cr含有量は20〜60質量%)又はMCrAlY合金(但し、MはFe、Co、Niのうち少なくとも一種)からなることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の第8の態様に係る通電加熱式触媒装置は、上記の第1〜7のいずれかの態様において、前記スリットの幅が、前記接続領域から遠ざかるにつれて、狭くなっていることを特徴とするものである。これにより、より確実に、電極による通電加熱面積が担体の周方向に広がり、通電加熱を効果的に行え、かつ、電極の剥離が抑制された通電加熱式触媒装置を提供することができる。
【0018】
本発明の第9の態様に係る通電加熱式触媒装置は、上記の第1〜8のいずれかの態様において、前記電極の膜厚が、前記接続領域から遠ざかるにつれて、厚くなっていることを特徴とするものである。これにより、より確実に、電極による通電加熱面積が担体の周方向に広がり、通電加熱を効果的に行え、かつ、電極の剥離が抑制された通電加熱式触媒装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、電極による通電加熱面積が担体の周方向に広がり、通電加熱を効果的に行え、かつ、電極の剥離が抑制された通電加熱式触媒装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態1に係る通電加熱式触媒装置100の斜視図である。
【図2】固定層33が形成された部位での断面図である。
【図3】電極31の平面図である。
【図4】図3におけるIV-IV切断線による断面図である。
【図5】電極31と配線32との固定層33による接続を示す平面図である。
【図6】他の実施の形態に係る電極31の平面図である。
【図7】他の実施の形態に係る電極31の平面図である。
【図8】他の実施の形態に係る電極31の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0022】
(実施の形態1)
まず、図1、図2を参照して、本実施の形態に係る通電加熱式触媒装置について説明する。図1は、実施の形態1に係る通電加熱式触媒装置100の斜視図である。通電加熱式触媒装置100は、例えば自動車等の排気経路上に設けられ、エンジンから排出される排気ガスを浄化する。図1に示すように、通電加熱式触媒装置100は、担体20、電極31、配線32、固定層33を備えている。
【0023】
担体20は、白金やパラジウム等の触媒を担持する多孔質部材である。また、担体20自体は、通電加熱されるため、導電性を有するセラミックス、具体的には例えばSiC(炭化珪素)からなる。図1に示すように、担体20は、外形が円筒形状であって、内部はハニカム構造を有している。矢印で示すように、排気ガスが担体20の内部を担体20の軸方向に通過する。
【0024】
電極31は、担体20に電流を流し、加熱するための一対の電極である。各電極30は、担体20の外周面において互いに対向配置されている。また、各電極31は、担体20の長手方向の略両端に亘り形成されている。各電極31は、配線32を介して、バッテリ等の電源(不図示)から電力の供給が可能となっている。なお、電極31の一方がプラス極、他方がマイナス極であるが、いずれの電極31がプラス極あるいはマイナス極になってもよい。つまり、担体20を流れる電流の向きは限定されない。
【0025】
ここで、図1に示すように、配線32は、固定層33により電極31に固定されている。また、図2は、固定層33が形成された部位での断面図である。
【0026】
図1に示すように、電極31は、担体20の外周面上に形成された溶射皮膜である。図2に示すように、電極31は、担体20と物理的に接触しているとともに電気的に接続されている。
【0027】
図2に示すように、配線32は、電極31上に配置されており、電極31と物理的に接触するとともに電気的に接続されたリボン状の金属箔である。また、図1に示すように、配線32は、電極31の形成領域の全体に亘って、担体20の周方向に延設されている。また、配線32は、各電極31上において、担体20の軸方向に沿って、所定の間隔で複数本ずつ配置されている。図1の例では、各電極31上の中央部に6本ずつの配線32が設けられている。当然のことながら、配線32の本数は6本に限定されるものではなく、適宜決定される。配線32は、例えばFe−Cr合金等の金属からなる薄板である。
【0028】
固定層33は、配線32を電極31に固定するために、配線32を覆うように形成されたボタン形状の溶射皮膜である。ここで、固定層33がボタン形状であるのは、金属をベースとする溶射皮膜である電極31及び固定層33と、セラミックスからなる担体20との線膨張係数差に基づく応力を緩和するためである。つまり、固定層33を極力小さい形状とすることにより、上記応力を緩和している。図2に示すように、固定層33は、配線32及び電極31と物理的に接触するとともに電気的に接続されている。また、図1に示すように、固定層33は、1本の配線32に対し、配線32の長手方向(担体20の周方向)に沿って、所定の間隔で複数設けられている。さらに、互いに隣接する配線32では、固定層33が配線32の長手方向において異なる位置となるように配置されている。
【0029】
電極31及び固定層33を構成する溶射皮膜は、配線32に通電するため、金属ベースである必要がある。溶射皮膜のマトリクスを構成する金属としては、高温下での使用に耐えるため、高温下での耐酸化性に優れたNi−Cr合金(但し、Cr含有量は20〜60質量%)、MCrAlY合金(但し、MはFe、Co、Niのうち少なくとも一種)が好ましい。ここで、上記NiCr合金、MCrAlY合金は、他の合金元素を含んでいてもよい。電極31及び固定層33を構成する溶射皮膜は、多孔質であってもよい。多孔質であることにより、応力を緩和する機能が高まる。
【0030】
上記構成により、通電加熱式触媒装置100では、一対の電極31間において担体20が通電加熱され、担体20に担持された触媒が活性化される。これにより、担体20を通過する排気ガス中の未燃焼HC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)、NOx(窒素酸化物)等の有害物質が触媒反応により浄化される。
【0031】
次に、図3、4を参照して、本実施の形態に係る電極31の形状の詳細について説明する。図3は、電極31の平面図である。また、図4は、図3におけるIV-IV切断線による断面図である。本実施の形態に係る電極31は担体20の軸方向に、矩形状に延設されている。ここで、矩形とは実質的に矩形であればよく、4角がR加工されていたり、面取り加工されていたりしてもよいことは、言うまでもない。そして、電極31には、長さL、幅wのスリットSが、間隔dで複数本、形成されている。スリットSは、電極31を溶射により形成する際に、スリット形成箇所をマスクすることにより形成される。スリットSは、矩形の対向する長辺から交互に内側に向かって延設されている。このような複数本のスリットにより、このような複数本のスリットにより、矩形状の電極31が、全体として蛇行した1本の電流経路を構成することになる。従って、電極による通電加熱面積を担体の周方向に広げることができ、通電加熱を効果的に行うことができる。なお、十分な通電量を確保するため、図4に示すように、電極31は150μm以上とすることが好ましい。
【0032】
ここで、スリットSの長さLは、配線32が接続される接続領域31aにおいて長く、接続領域31aから遠ざかるに従って短くなるように形成されていることが好ましい。一方、スリットSの間隔dは、配線32が配置される接続領域31aにおいて短く、接続領域31aから遠ざかるに従って長くなるように形成されていることが好ましい。このような構成により、配線32が配置され、外部から電流が流入する接続領域31aにおいて、上述の蛇行する電流経路の幅が狭く、接続領域31aから遠ざかるに従って、電流経路の幅が広くなるように形成されている。なお、本実施の形態では、接続領域31aは、電極31の長手方向の中央部に形成されているが、これに限定されるものではない。
【0033】
図5は、電極31と配線32との固定層33による接続を示す平面図である。図5に示すように、配線32及び固定層33は、電極31のスリットSを塞がないように、隣接するスリットSの間に配置されている。
【0034】
以上に説明したようなスリットSを設けることにより、電極による通電加熱面積を担体の周方向に広げることができ、通電加熱を効果的に行うことができる。さらに、スリットSの長さL及び間隔dを工夫することにより、電極31全体が、外部から電流が流入する接続領域31aにおいて幅が狭く(配線抵抗が大きく)、接続領域31aから遠ざかるにつれて幅が広く(配線抵抗が小さく)なるような電流経路(配線)とすることができる。従来は、このような電流経路ではなかったため、接続領域31aである中央部での電流量が多く、接続領域31aから遠ざかる程、電流量が少なくなっていた。そのため、接続領域31aが最も加熱され、接続領域31aから遠ざかる程、加熱され難くなり、温度分布を小さくして加熱することが難しかった。しかしながら、本実施の形態に係る電極31では、周方向及び軸方向(長手方向)に亘って電流が流れ、その結果、電極により通電加熱面積が担体の周方向に広がり、担体に対する通電加熱を効果的に行うことができる。
【0035】
また、スリットSの導入により、溶射時における凝固収縮に伴う残留応力を緩和することができる。さらに、通電加熱時における担体20と電極31との線膨張係数差による応力を緩和することができる。従って、電極31の担体20からの剥離を抑制することができる。
【0036】
(その他の実施の形態)
次に、図6〜8を参照して、その他の実施の形態について説明する。図6は、他の実施の形態に係る電極31の平面図である。図7は、他の実施の形態に係る電極31の平面図である。図8は、他の実施の形態に係る電極31の断面図である。
【0037】
図6に示すように、スリットSの幅は、配線32が接続される領域である中央部において広く、中央部から遠ざかるにつれて狭くなっていてもよい。これにより、長手方向により均一に加熱することができる。
図7に示すように、スリットSは、長辺に対して垂直に形成されている必要はなく、斜めに形成されていてもよい。
図8に示すように、スリットSは、配線32が接続される領域である中央部において薄く、中央部から遠ざかるにつれて厚くなっていてもよい。これにより、長手方向により均一に加熱することができる。
【0038】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
20 担体
31 電極
31a 接続領域
32 配線
33 固定層
100 通電加熱式触媒装置
S スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒が担持されたセラミックスからなる担体と、
前記担体の外周面に互いに対向して形成された一対の電極と、
前記電極へ外部から電力を供給する配線と、を備え、前記電極を通じて前記担体を通電加熱する通電加熱式触媒装置であって、
前記電極は、前記担体の軸方向に延設され、かつ、前記担体の周方向から交互にスリットが入れられていることを特徴とする通電加熱式触媒装置。
【請求項2】
隣接する前記スリット同士の間隔が、前記電極において前記配線が接続された接続領域から遠ざかるにつれて、大きくなっていることを特徴とする請求項1に記載の通電加熱式触媒装置。
【請求項3】
前記スリットの長さが、前記接続領域から遠ざかるにつれて、短くなっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の通電加熱式触媒装置。
【請求項4】
前記接続領域が、前記電極の長手方向の中央部に位置することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の通電加熱式触媒装置。
【請求項5】
前記電極が、溶射により形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の通電加熱式触媒装置。
【請求項6】
前記セラミックスが、SiCを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の通電加熱式触媒装置。
【請求項7】
前記電極が、Ni−Cr合金(但し、Cr含有量は20〜60質量%)又はMCrAlY合金(但し、MはFe、Co、Niのうち少なくとも一種)からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の通電加熱式触媒装置。
【請求項8】
前記スリットの幅が、前記接続領域から遠ざかるにつれて、狭くなっていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の通電加熱式触媒装置。
【請求項9】
前記電極の膜厚が、前記接続領域から遠ざかるにつれて、厚くなっていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の通電加熱式触媒装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−83162(P2013−83162A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221875(P2011−221875)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】