説明

速乾性水性塗料組成物

【課題】乾燥性と良好な耐水性、保存安定性を発現する水性塗料組成物、特に路面表示用水性塗料組成物の提供。
【解決の手段】式[1]で示される無水ケイ酸と酸化ナトリウムの混合物を水系バインダー組成物100重量部に対して、0.05から10重量部配合してなる水性塗料組成物が上記課題を解決した。
NaO・nSiO [1]
(n=0.5〜5)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一液型の速乾性水性塗料組成物、特に路面表示用速乾性水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
路面表示用塗料は、道路、駐車場などのコンクリートやアスファルト表面への車線、駐車スペースなどの表示や文字による指示などのために使用される特殊な塗料である。
この路面表示用塗料は、貯蔵安定性がよく、塗布後は速乾性で密着性、耐候性、耐摩耗性が高いといった特性が要求されるが、特に重要な性質は、貯蔵安定性と塗布後の乾燥性である。塗布後の乾燥に至るまでの時間は、道路等における車の通交遮断時間を意味するので、車の通交量の大きな道路では、できる限り乾燥時間の短い塗料が要求される。
易揮発性の有機溶剤を用いた速乾性塗料は、塗布後迅速に乾燥するが、溶剤蒸気による作業者および環境への悪影響が懸念されるうえ、引火の危険性も大きい。そこでこれらの有機溶剤系塗料に代わって種々の水性塗料が検討されてきた。
一般に水性塗料は有機溶剤系塗料に比して乾燥に至る時間が長く、特に低温下や高湿下では、乾燥までに数時間以上を要することもある。そこで、一液型でありながら貯蔵安定性が高く、塗布後の乾燥時間が短く、路面への密着性、耐摩耗性および耐水性の良好な路面表示水性塗料が強く求められ、これまでにもいくつかの提案がなされてきた。
【0003】
それらの技術の1つに、塗料の隠蔽性、反射性および乾燥性の向上を目的として、内部が空洞、すなわち内部が空気で満たされている中空ポリマー微粒子と造膜性樹脂水分散体(本明細書においては、バインダー粒子分散体と実質的に同義に用いられる。)を同時または別々に路面に塗布する路面表示用水性塗料が提案されている(特許文献1、特許文献2)。これらは、塗布後、中空ポリマー微粒子の空洞に水分散体中の水分を吸収させ、乾燥を早めるという技術であるが、バインダー粒子水分散体と中空ポリマー微粒子の二成分を使用前から混合すると貯蔵中に水分が中空ポリマーの空隙に移行してきて塗料の粘度が上昇するので、別々に貯蔵しておき、使用時混合するという煩雑な操作が必要である。
さらに、上記バインダー粒子水分散体と中空ポリマー微粒子を含む水性塗料組成物において、中空ポリマー微粒子に揮発物質の水溶液を内包させておき、塗布後は、中空ポリマー微粒子内の揮発性物質とバインダー粒子水分散体中の水を入れ替えることにより乾燥を早めるという技術も知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2001−212504号
【特許文献2】特開2002−30257号
【特許文献3】特開2004−263001号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、一液性で、貯蔵安定性がよく、塗布後はより速乾性で、路面への密着性、耐水性、耐摩耗性も良好な路面表示用水性塗料組成物を得るために鋭意研究を重ねてきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
その結果、本発明者らは、式[1]で示される無水ケイ酸と酸化ナトリウムの混合物(以下ケイ酸ナトリウムということがある。)を水に溶解した液をバインダー樹脂水分散体の樹脂分100重量部に対して、0.1〜10重量部配合した水性塗料組成物が貯蔵安定性に優れ、塗布後の乾燥が早く、耐水性、密着性等路面表示用塗料に要求される特性をすべて備えたものであることを突き止めた。
NaO・nSiO [1]
(n=0.5〜5)
更に、このバインダー樹脂の水分散体と内部が親水性の揮発物質を溶解した水、たとえばアンモニア水などで満たされた中空ポリマー粒子の水分散体、着色顔料、充填剤等を配合した一液性の水性塗料組成物が特に貯蔵安定性に優れ、塗布後の乾燥が早く、耐水性、密着性等路面表示用塗料に要求される特性をすべて備えたものであることも知見した。本発明は、これらの知見を基に更に研究を重ね完成したものである。
【0006】
すなわち本発明は、
(1)式[1]で示される無水ケイ酸と酸化ナトリウムの混合物(以下ケイ酸ナトリウムということがある。)をバインダー樹脂水分散体の樹脂分100重量部に対して、0.05〜10重量部含有させた速乾性水性塗料組成物、
NaO・nSiO [1]
(n=0.5〜5)
(2)バインダー樹脂が−10〜50℃のガラス転移温度を有するものである(1)記載の速乾性水性塗料組成物、
(3)バインダー樹脂水分散体の粒子の平均粒子径が50〜400nmである(1)記載の速乾性水性塗料組成物、
(4)バインダー樹脂が重合性ビニル系モノマーの共重合により得られるものであり、その重合性ビニル系モノマーとしてカルボキシル基含有ビニルモノマーを0.1〜5重量%用いた(1)記載の速乾性水性塗料組成物、
(5)カルボキシル基含有ビニルモノマーがアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸モノエチルエステルから選択される1種類あるいは2種類以上の混合物である(4)記載の速乾性水性塗料組成物、
(6)バインダー樹脂水分散体にさらに内部に揮発性物質を内包する中空ポリマー粒子の水分散体を混合してなる(1)記載の速乾性水性塗料組成物、
(7)バインダー樹脂水分散体と中空ポリマー粒子水分散体の固形分の合計100重量部に更に着色顔料10〜150重量部、充填剤100〜300重量部が配合された(6)記載の速乾性水性塗料組成物、
である。
【0007】
本発明に使用される式[1]で示される無水ケイ酸と酸化ナトリウムの混合物、
NaO・nSiO [1]
(n=0.5〜5)
は、ケイ酸ナトリウムとも称され、モル比nによって連続的に変化する。本発明において用いられるのは、nが0.5〜5、好ましくは1.5〜4.0、更に好ましくは2〜3のものである。商品としても各種組成の化合物があるが、その中でJIS K1408により定められた1号、2号、3号、1種、2種のメタケイ酸ソーダの5種類が存在し、そのいずれもが使用できる。このケイ酸ナトリウムの水溶液は水ガラスと呼ばれ、無色で、濃厚液は粘度が高く増粘剤、粘着剤などとして用いられている。
【0008】
本発明においては、このケイ酸ナトリウムをバインダー樹脂水分散体の樹脂分100重量部に対して、0.05〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、最も好ましくは0.2〜3重量部を混合、溶解させる。
【0009】
本発明に使用されるバインダー樹脂水分散体は、従来水性塗料用として一般に用いられるものであれば特に限定されない。しかし本発明の塗料組成物が、常温で乾燥されることが多いので、その造膜最低温度が40℃以下、特に30℃以下のものが好ましい。
またバインダー樹脂のガラス転移温度は通常−10〜50℃、好ましくは−10〜30℃である。バインダー樹脂微粒子の平均粒子径は通常50〜400nm、好ましくは50〜300nmである。平均粒子径が50nm未満では塗料の粘度が上がり、塗布性、作業性に支障をきたす場合があり、平均粒子径が400nmを超えると、乾燥性、耐水性が悪くなる場合がある。
バインダー樹脂微粒子は重合性ビニル系共重合体の重合により製造することができる。共重合体を構成する重合性ビニル系モノマーとして、カルボキシル基を含有する重合性ビニル系モノマー、すなわちエチレン系不飽和カルボン酸単量体
を含有するものが特に好ましい。
このカルボキシル基を含有する重合性ビニル系モノマーとしては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸や、それらの無水物、例えば、マレイン酸メチル、イタコン酸メチルなどの不飽和ジカルボン酸のモノエステル、すなわち半エステルなどを挙げることができる。これらの中でメタクリル酸(MAA)が特に好ましい。これらのエチレン系不飽和カルボン酸単量体は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。またこれらのエチレン系不飽和カルボン酸単量体はアルカリ金属塩またはアンモニウム塩としても用いることができる。
このようなカルボキシル基を含有する重合性ビニル系モノマーの使用量は、樹脂の原料である共重合性ビニルモノマー混合物100重量部中、0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部、さらに好ましくは0.3〜2重量部の範囲である。
【0010】
カルボキシル基を含有する重合性ビニル系モノマー以外の共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、などの芳香族ビニル化合物、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドなどのエチレン系不飽和カルボン酸アミド、例えば、酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、例えば、メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ビニルピリジンなどのエチレン系不飽和アミンなどを挙げることができる。これらは単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチルが特に好ましい。
これらの共重合性ビニル系モノマーに、その100重量部に対して0.1〜3重量部、好ましくは0.5〜2重量部の、例えばジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、エチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート等の架橋剤を併用してもよい。
【0011】
本発明に用いられるバインダー樹脂水分散体、通常水性エマルジョンは、自体公知の共重合可能なビニル系単量体の乳化重合により製造することができる。
この乳化重合に用いられる重合開始剤としては過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸化水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の水性ラジカル重合開始剤またはこれらの混合物が挙げられ、使用量はモノマー全重量に対して通常は0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。このような開始剤はまた、還元剤と組み合わせレドックス系を形成することができる。そのような還元剤としては亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩、L-アスコルビン酸、酒石酸などのカルボン酸類が挙げられ、使用量はモノマー全重量に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。
なお、本発明のアクリル共重合体の製造法においては、硫酸第一鉄、硫酸アンモニウム第一鉄、ナフテン酸第一銅などの鉄、銅、ニッケル、コバルト、クロモ、モリブテン、バナジウム、セリウムのような遷移金属の塩なども用いることができるが、路面表示用塗料組成物に着色などが観られる場合がある。
【0012】
本発明における乳化重合に用いられる界面活性剤は少なくとも1種のアニオン性、ノニオン性、または両性界面活性剤、またはその混合物を用いることができる。アニオン性界面活性剤の例としてはアルキルまたはアルキルアリル硫酸塩、アルキルまたはアルキルアリルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩などのアルカリ金属塩、またはアンモニウム塩が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。両性界面活性剤としてはベタイン、アミノ酸の誘導体が挙げられる。これら界面活性剤の使用量はモノマー全重量に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜3重量部である。この使用量が0.1重量部よりも少ない場合は反応が不安定となり、凝集物が生成する場合がある。反対に5重量部よりも多い場合は路面表示塗料としての乾燥性、耐水性が悪くなる場合がある。
【0013】
また、本発明においては、必要に応じて、乳化重合をエチレンジアミン4酢酸ナトリウムなどのキレート剤、ポリカルボン酸塩などの分散剤、リン酸塩、炭酸塩などの無機塩、チオール化合物、ハロゲン化合物などの連鎖移動剤の存在下に行ってもよい。
重合は通常0〜100℃の温度で、単量体の添加率が99%以上に達するまで行われる。
【0014】
本発明におけるケイ酸ナトリウムを溶解したバインダー粒子水分散体にさらに中空ポリマー粒子水分散体を混合することにより塗布後の乾燥性をより高めることができる。その場合のそれぞれの使用割合は、バインダー粒子水分散体の固形分100重量部に対し、中空ポリマー粒子水分散体の固形分が1〜70重量部、好ましくは10〜50重量部である。
【0015】
本発明のバインダー粒子水分散体とケイ酸ナトリウムの混合物に更に必要により中空ポリマー粒子水分散体を用いて路面表示用塗料組成物を得るには、それらの混合物に着色顔料および充填材およびその他の添加剤を混合することにより行うことができる。
【0016】
本発明に用いられる親水性の揮発性物質を内包する中空ポリマー粒子の調製法は、たとえば特願昭56−32513号公報により知られている。そこには、乳化重合によりエチレン性不飽和カルボン酸単量体を共重合させてコア粒子を調製した後、エチレン性不飽和単量体をカバー重合してシエル層を形成させ、得られた粒子にアンモニア等の揮発性物質によりコア部のカルボン酸を中和して粒子を膨潤させる方法が記載されている。
また、このような内部に揮発性物質を内包する中空ポリマー粒子の水分散体に、凍結防止剤としての効果を兼ね備えたメタノール、エタノール等の低級アルコール類を加えると、これらのアルコール類が空洞内に浸透し、内部に揮発性物質とアルコール類が溶解した水溶液を内包する中空ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。
【0017】
親水性の揮発性物質は、塗料が路面に塗布されると中空ポリマー粒子の殻(シェル)部を通過して大気中に散逸するような物質で、アンモニアの外揮発性のアミン類、たとえばジエタノールアミンやトリエタノールアミン、低級アルコール類、たとえばメタノール、エタール、n−プロパノール、n−ブタノール等が例として挙げられるが、アンモニア、メタノール、エタノールが好ましい。
中空ポリマー粒子の平均粒子径は50〜2000nm、好ましくは100〜1500nmで、中空ポリマー粒子中の空隙率は粒子の体積の10〜75%、好ましくは25〜70%である。
また内包する揮発性物質の濃度は10ppm〜10wt%、好ましくは1000ppm〜3wt%である。
【0018】
着色顔料としては、二酸化チタン、黄鉛、カーボンブラック等の無機顔料、シアニンブルー、シアニングリーン等の有機顔料が挙げられるが、路面表示用塗料組成物には、二酸化チタンが繁用される。
着色顔料の使用割合は、ビニル系共重合体の固形分100重量部に対して、通常10〜150重量部、好ましくは、30〜100重量部である。
【0019】
充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、タルク、クレー、セライト、マイカ、アルミナ、シリカ、ガラス粉末等の無機充填剤が挙げられるが、炭酸カルシウムが便宜に使用される。
充填剤の使用量は、ビニル系共重合体の固形分100重量部に対して、通常100〜350重量部、好ましくは、150〜300重量部である。
【0020】
水性塗料組成物組成物のpHは通常5〜12、好ましくは7〜11の範囲である。このpH値がこの範囲より低いときは、本発明による塗料組成物の機械的安定性が不十分となり、この範囲を超えると塗装後の乾燥性が悪くなることがあるので、pH調節剤により適当な範囲に調節するのが好ましい。pH調節剤としては、アンモニア、炭酸ソーダ、水酸化ナトリウム、モルフォリン、低級アルキルアミンなどのアルカリ性物質や、硫酸等の酸性物質などが挙げられる。
【0021】
本発明の水性塗料組成物には、さらに増粘剤を配合することにより、組成物の粘性を向上させることができる。増粘剤としては、例えばカゼイン、グルー、ゼラチン等の動物性増粘剤、アルギン酸塩、でんぷん、アラビヤガム等の植物性増粘剤、ベントナイト等の鉱物性増粘剤、ポリカルボン酸塩、アクリル共重合体、架橋型アクリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド等の高分子系増粘剤、カルボキシル化メチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサントゲン酸セルロース、カルボキシル化でんぷん等の繊維素誘導体、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルピリジニウムブロマイド等のカチオン系増粘剤等が挙げられる。
その他、分散剤、凍結防止剤、可塑剤、消泡剤、保存剤、架橋剤などの適量を適宜加えてもよい。
【0022】
本発明の水性塗料組成物における固形分の占める割合は、通常50〜80重量%、好ましくは、55〜75重量%である。
このようにして得られた水性塗料組成物は、たとえば金属、ガラス、プラスチック製の密閉容器に貯蔵する。使用時には、よく攪拌して均一化し、スプレイガンや刷毛塗りにより直接路面に塗布する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の水性塗料組成物は、速乾性、耐水性に優れ、かつ水性であるため安全性が高く、大気汚染の心配がないという特長を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、実施例、比較例および試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、これらにおいて、「部」および「%」は断りのない限り重量基準である。
【実施例】
【0025】
バインダー樹脂水分散体の製造法
[重合例 A−1]
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入口を備えた重合容器に、脱イオン水50部、ラウリル硫酸ナトリウム0.1部およびpH緩衝剤として重炭酸ナトリウム0.33部を仕込み攪拌しながら80℃に加熱した後、窒素置換した。この中にアクリル酸ブチル45部、メタクリル酸メチル54部、メタクリル酸1部、ドデシルメルカプタン1.2部、ラウリル硫酸ナトリウム0.5部、脱イオン水30部からなる乳化モノマー液の3重量%に相当する3.95部を添加し、10分後に1.8部の脱イオン水に溶解した過硫酸アンモニウム0.28部を添加し種重合を行った。発熱開始から20分後、残りの乳化モノマー液127.75部と6.3部の脱イオン水に溶解した過硫酸アンモニウム0.12部を攪拌下、温度を80℃に保ちながら3時間かけて滴下し、滴下終了後1時間80℃を維持し重合を終了させた。これを室温まで冷却した後に、希釈水、25%アンモニア水を加え固形分を50%、pHを8〜10に調整した。最終生成物(A−1)は固形分50.1%、ブルックフィールド粘度270mPa・s(30rpm)、平均粒子径170nm、pH=9.6であった。
【0026】
[重合例 A―2]
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入口を備えた重合容器に、脱イオン水45部、ラウリル硫酸ナトリウム0.1部およびpH緩衝剤として重炭酸ナトリウム0.33部を仕込み攪拌しながら80℃に加熱した後、窒素置換した。この中にアクリル酸ブチル45部、メタクリル酸メチル54部、メタクリル酸1部、ドデシルメルカプタン1.2部、ラウリル硫酸ナトリウム0.5部、脱イオン水25部からなる乳化モノマー液の2.5重量%に相当する3.17部を添加し、10分後に1.8部の脱イオン水に溶解した過硫酸アンモニウム0.28部を添加し種重合を行った。発熱開始から20分後、残りの乳化モノマー液123.53部と5.7部の脱イオン水に溶解した過硫酸アンモニウム0.12部を攪拌下、温度を80℃に保ちながら3時間かけて滴下し、滴下終了後1時間80℃を維持し重合を終了させた。これを室温まで冷却した後に、希釈水、25%アンモニア水を加え固形分を55%、pHを8〜10に調整した。最終生成物(A−2)は固形分55.5%、ブルックフィールド粘度370mPa・s(30rpm)、平均粒子径192nm、pH=9.0であった。
【0027】
[重合例 A−3〜A−8]
重合例1と同様にして表1に示されるモノマー組成で重合を行った。ただし、重合例4は種重合に使用した乳化モノマー量を作成した乳化モノマーの1重量%に相当する1.32部に変更して重合を行った。
得られたエマルジョンの性状値は表1のとおりであった。
【0028】
【表1】

重合安定性は以下の基準により判定した。
○:反応器、攪拌ばねの汚れがほとんど無く、ろ過残留物もほとんど無かった。
△:反応器、攪拌ばねが汚れていた、あるいはろ過残留物が多かった。
×:ゲル化した、またはろ過できなかった。
【0029】
標準塗料配合
表1に示す水系バインダー組成物と表2に示すケイ酸ナトリウム2号(2NaO・5SiO水溶液)を表3に示す標準塗料配合により塗料化した。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
〔実施例1〜14〕
表4に示されるとおりにバインダー樹脂水分散体とケイ酸ナトリウム水溶液を配合し、標準塗料配合により塗料化して実施例1〜14の塗料を調製した。
実施例8は中空エマルジョン(ローペークOP−62/ローム&ハース社製)をバインダー樹脂組成物の10%分量配合した。得られた塗料及び塗膜の特性を表4に示した。
【0033】
表4

【0034】
〔比較例1〜6〕
表5に示す水系バインダー組成物を用い、ケイ酸ナトリウムを配合しない以外は標準塗料配合に従って塗料化し、得られた比較例1〜6の塗料につき塗膜の特性を測定した。結果は表5のとおりであった。
【0035】
【表5】

【0036】
塗料、塗膜の特性評価は以下に基づいて行った。
(1)粘度
ブルックフィールド粘度、BM型、12rpm、25℃
(2)TI
ブルックフィールド粘度、BM型、6rpm/60rpmの値、25℃
(3)乾燥性
作成した塗料を23℃×50%RH雰囲気下で1日養生後、同雰囲気下でガラス板にアプリケーターを用いて10ミルの厚さで塗料を塗布した。試験はJIS K5665に準じた方法で行った。試験用ロールに塗料が付着しなくなった時間をタイヤ付着性、手で触った時に塗料が付着せず、塗膜が変形しない時間を指触乾燥性として評価した。
(4)耐水性
乾燥性と同様な方法で塗布した試験体を23℃×50%RH下で20分乾燥後、20℃に調整した水浴に浸し、1日後の塗膜の様子を観察した。判定は以下の基準で行った。
◎:全く異常が観られなかった。
○:一部フクレが観られた。
△:塗膜全体にフクレが観られた。
×:塗膜がガラス板から浮いてしまっていた。
(5)保存安定性
A)−10℃凍結安定性
−10℃雰囲気下で3日静置後、室温で1日静置を1サイクルとして、10サイクル行い、塗料の流動性を下記の判定基準で評価した。
◎:10サイクル後も流動性が確保され粘度変化が初期値に対して10%以内であった。
○:10サイクル後も流動性が確保され粘度変化が初期値に対して10%を超えた。
△:5〜10サイクルで固化した。
×:5サイクルまでに固化した。
B)80℃保存安定性
塗料を80℃×3時間保存した前後の粘度変化を測定し、下記の判断基準で評価した。
◎:初期の粘度の10%以内
○:初期の粘度の10%を超えるが流動性あり。
△:流動性がない
×:固化
【0037】
〔実施例15、16、比較例7〜9〕
実施例1に使用した酸化チタン、炭酸カルシウム配合量を表6に示される配合量に変更した場合に得られた塗料および塗膜の特性は表6に示すとおりであった。
【0038】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の水性塗料組成物は、一液性で、貯蔵安定性がよく、塗布面への密着性、耐水性、耐摩耗性も良好であるのみならず、塗布後の接触可能時間が極めて短いため、あらゆる種類の路面や工場、各種施設の敷地内で、部分的に極短時間の使用を制限するだけで工事を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[1]で示される無水ケイ酸と酸化ナトリウムの混合物(以下ケイ酸ナトリウムということがある。)をバインダー樹脂水分散体の樹脂分100重量部に対して、0.05〜10重量部含有させた速乾性水性塗料組成物。
NaO・nSiO [1]
(n=0.5〜5)
【請求項2】
バインダー樹脂が−10〜50℃のガラス転移温度を有するものである請求項1記載の速乾性水性塗料組成物。
【請求項3】
バインダー樹脂水分散体の粒子の平均粒子径が50〜400nmである請求項1記載の速乾性水性塗料組成物。
【請求項4】
バインダー樹脂が重合性ビニル系モノマーの共重合により得られるものであり、その重合性ビニル系モノマーとしてカルボキシル基含有ビニルモノマーを0.1〜5重量%用いた請求項1記載の速乾性水性塗料組成物。
【請求項5】
カルボキシル基含有ビニルモノマーがアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸モノエチルエステルから選択される1種類あるいは2種類以上の混合物である請求項4記載の速乾性水性塗料組成物。
【請求項6】
バインダー樹脂水分散体にさらに内部に揮発性物質を内包する中空ポリマー粒子の水分散体を混合してなる請求項1記載の速乾性水性塗料組成物。
【請求項7】
バインダー樹脂水分散体と中空ポリマー粒子水分散体の固形分の合計100重量部に更に着色顔料10〜150重量部、充填剤100〜300重量部が配合された請求項6記載の速乾性水性塗料組成物。

【公開番号】特開2008−239855(P2008−239855A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84121(P2007−84121)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(592230542)ガンツ化成株式会社 (38)
【Fターム(参考)】