説明

速度推定装置及びコンピュータプログラム及び速度推定方法

【課題】合成開口レーダによって観測された観測対象の速度を正しく推定する。
【解決手段】圧縮観測算出部(アジマス圧縮部120)は、複数の推定速度それぞれについて、上記受信信号から生成された所定のサンプリング間隔を有する一連の観測値と、上記推定速度に対応する参照信号との間の相関を取ることにより、上記所定のサンプリング間隔よりも短いサンプリング間隔を有する一連の圧縮観測値を算出する。ピーク抽出部141は、上記複数の推定速度それぞれについて、上記圧縮観測算出部が算出した一連の圧縮観測値のピークを抽出する。速度推定部151は、上記複数の推定速度のなかから、上記ピーク抽出部141が抽出したピークが極大となる推定速度を求めて、上記観測対象の推定速度とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成開口レーダによって観測された観測対象の速度を推定する速度推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合計開口レーダにおいては、合成開口処理(アジマス圧縮処理)によって、アジマス方向の分解能を高めている。
合成開口レーダによって観測された観測対象が移動していると、観測対象の画像がぼやけたり、アジマス方向の位置がずれたりする場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−14700号公報
【特許文献2】特開2006−29979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アジマス圧縮に用いる参照信号を、観測対象の移動速度に合致したものにすれば、観測対象の画像の焦点を合わせ、正しいアジマス方向の位置を観測することができる。
しかし、観測対象の移動速度に合致した参照信号を用いるためには、観測対象の移動速度を正しく推定する必要がある。
特に、移動速度が異なる複数の観測対象が比較的狭い範囲内に密集しているような状況では、複数の観測対象それぞれの移動速度を正しく推定する必要がある。
この発明は、例えば上記のような課題を解決するためになされたものであり、観測対象の速度を正しく推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明にかかる速度推定装置は、
合成開口レーダが受信した受信信号に基づいて、観測対象の速度を推定する速度推定装置において、
圧縮観測算出部と、ピーク抽出部と、速度推定部とを有し、
上記圧縮観測算出部は、複数の推定速度それぞれについて、上記受信信号から生成された所定のサンプリング間隔を有する一連の観測値と、上記推定速度に対応する参照信号との間の相関を取ることにより、上記所定のサンプリング間隔よりも短いサンプリング間隔を有する一連の圧縮観測値を算出し、
上記ピーク抽出部は、上記複数の推定速度それぞれについて、上記圧縮観測算出部が算出した一連の圧縮観測値のピークを抽出し、
上記速度推定部は、上記複数の推定速度のなかから、上記ピーク抽出部が抽出したピークが極大となる推定速度を求めて、上記観測対象の推定速度とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明にかかる速度推定装置によれば、圧縮観測算出部が、一連の観測値のサンプリング間隔よりも短いサンプリング間隔を有する一連の圧縮観測値を生成するので、圧縮観測値のピークをより正確に捉えることができ、観測対象の速度を正しく推定することができる。
特に、移動速度が異なる複数の観測対象が比較的狭い範囲内に密集しているような圧縮観測値のピークを捉えにくい状況であっても、圧縮観測値のピークを正確に捉えることができ、複数の観測対象それぞれの速度を正しく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施の形態1における合成開口レーダシステム800の全体構成の一例を示すシステム構成図。
【図2】実施の形態1における観測結果解析装置100のハードウェア構成の一例を示すハードウェア構成図。
【図3】実施の形態1における観測結果解析装置100の機能ブロックの一例を示すブロック構成図。
【図4】実施の形態1における速度推定処理S610の流れの一例を示すフローチャート図。
【図5】実施の形態1におけるアジマス圧縮部120の動作を説明するための図。
【図6】一連の圧縮観測値のピークを説明するための図。
【図7】アジマスシフトを説明するための図。
【図8】観測装置810と観測対象850との間の距離の変化を示す図。
【図9】圧縮観測値のサンプリング間隔が広い場合に生じる課題とその原因を説明するための図。
【図10】圧縮観測値のサンプリング間隔を狭くすることによる効果を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施の形態1.
実施の形態1について、図1〜図10を用いて説明する。
【0009】
図1は、この実施の形態における合成開口レーダシステム800の全体構成の一例を示すシステム構成図である。
合成開口レーダシステム800は、観測装置810と、観測結果解析装置100とを有する。
観測装置810は、例えば人工衛星や航空機などの移動体に搭載され、所定の方向に移動速度711で移動しながら、所定の方向(例えば移動方向に対して垂直な方向)を中心とする比較的広い範囲に向けて、電波701を放射する。観測装置810が放射する電波701は、例えば、所定の時間間隔(例えば1マイクロ秒)で放射されるパルス状のチャープ信号である。観測装置810は、放射した電波が観測対象850に当たって反射した反射波702(受信信号)を受信する。観測対象850は、静止しているか、あるいは、観測装置810の移動速度711に比べて比較的小さい移動速度721で移動している。観測対象850の移動速度721のうち、観測装置810の移動方向と平行な方向の成分を「アジマス方向移動速度」(722)、観測装置810の移動方向に対して垂直な方向の成分を「レンジ方向移動速度」(723)と呼ぶ。
観測結果解析装置100(速度推定装置)は、観測装置810が受信した反射波702を解析して、合成開口レーダ画像を生成する。観測結果解析装置100は、観測対象850の位置や移動速度721を求める。観測結果解析装置100は、観測装置810と同じ移動体に搭載されていてもよいし、地上など観測結果解析装置100とは異なる場所に設置されていてもよい。
【0010】
図2は、この実施の形態における観測結果解析装置100のハードウェア構成の一例を示すハードウェア構成図である。
観測結果解析装置100は、例えばコンピュータである。観測結果解析装置100は、例えば、記憶装置914と、処理装置911と、入力装置912と、出力装置913とを有する。
記憶装置914は、処理装置911が実行するプログラムや、処理装置911が処理するデータなどを記憶する。記憶装置914は、例えば、揮発性メモリや不揮発性メモリなどの一次記憶装置や、磁気ディスクや光学ディスクなどの記憶媒体を用いてプログラムやデータを記憶する二次記憶装置などである。
処理装置911は、記憶装置914が記憶したプログラムを実行することにより、データを処理し、観測結果解析装置100全体を制御する。
入力装置912は、観測結果解析装置100の外部から情報を入力し、処理装置911が処理できる形式のデータに変換する。入力装置912が変換したデータは、処理装置911が直接処理してもよいし、記憶装置914が一時的に記憶してもよい。入力装置912は、例えば、キーボードやマウスなど使用者の操作を入力する操作入力装置、アナログ信号を入力してデジタルデータに変換するアナログデジタル変換装置、他の装置が送信した信号を受信して復調する受信装置などである。
出力装置913は、処理装置911が処理したデータや記憶装置914が記憶したデータを、観測結果解析装置100の外部へ出力する。出力装置913は、例えば、表示装置やスピーカなど人間が知覚できる形式で情報を出力する情報出力装置、デジタルデータをアナログ信号に変換して出力するデジタルアナログ変換装置、変調信号を生成して他の装置に対して送信する送信装置などである。
【0011】
以下に説明する観測結果解析装置100の機能ブロックは、記憶装置914が記憶したコンピュータプログラムを処理装置911が実行することにより実現される。なお、これらの機能ブロックは、コンピュータプログラムを処理装置911が実行することによって実現するのではなく、デジタル回路やアナログ回路などの電気的構成やその他の構成によって実現されるものであってもよい。
【0012】
図3は、この実施の形態における観測結果解析装置100の機能ブロックの一例を示すブロック構成図である。
観測結果解析装置100は、例えば、アジマス圧縮部120と、ピーク抽出部141と、速度推定部151とを有する。
【0013】
アジマス圧縮部120(圧縮観測算出部)は、処理装置911を用いて、観測装置810が受信した反射波702から生成された観測値データ列をアジマス圧縮することにより、アジマス方向の分解能を高める。アジマス圧縮部120が入力する観測値データ列は、所定のサンプリング周波数でサンプリングされた時間領域における一連の観測値を表わすデータである。サンプリングのもととなる信号は、例えば、観測装置810が受信した反射波702をレンジ圧縮することによりレンジ方向の分解能を高めた信号である。あるいは、アジマス圧縮部120は、レンジ圧縮の結果として生成される時間領域における一連のデータ列を、そのまま観測値データ列として入力する構成であってもよい。
アジマス圧縮部120は、処理装置911を用いて、観測値データ列と参照信号との間の相関を取ることにより、アジマス方向の分解能を高めた圧縮観測値データ列を生成する。アジマス圧縮部120が生成する圧縮観測値データ列は、時間領域における一連の圧縮観測値を表わすデータである。
【0014】
アジマス圧縮で用いる参照信号は、観測対象850の移動速度721に合ったものを用いる必要がある。観測対象850の移動速度721に合わない参照信号を用いてアジマス圧縮をすると、焦点がぼやける。逆に言えば、複数の推定速度に対応する参照信号を用いてアジマス圧縮を行い、最も焦点が合うものを見つけることにより、観測対象850の移動速度721を推定することができる。観測結果解析装置100は、このようにして、観測対象850の移動速度721を推定する。
【0015】
また、アジマス圧縮部120が生成する圧縮観測値データ列のサンプリング周波数は、アジマス圧縮部120が入力する観測値データ列のサンプリング周波数よりも高い。すなわち、圧縮観測値の間の時間間隔は、観測値の間の時間間隔よりも短く、圧縮観測値の数は、観測値の数よりも多い。アジマス圧縮部120は、例えば内挿(補間)処理をすることにより、入力した観測値データ列よりも時間間隔が短い圧縮観測値データ列を生成する。
【0016】
アジマス圧縮部120は、例えば、レンジ方向推定速度選択部121と、アジマス方向推定速度選択部122と、周波数領域参照信号生成部123と、フーリエ変換部131と、乗算部132と、ゼロ詰め部133と、逆フーリエ変換部134とを有する。
【0017】
レンジ方向推定速度選択部121は、処理装置911を用いて、観測対象850のレンジ方向移動速度723として可能性のある複数のレンジ方向推定速度のなかから、レンジ方向推定速度を一つずつ選択する。
アジマス方向推定速度選択部122は、処理装置911を用いて、観測対象850のアジマス方向移動速度722として可能性のある複数のアジマス方向推定速度のなかから、アジマス方向推定速度を一つずつ選択する。
【0018】
周波数領域参照信号生成部123は、処理装置911を用いて、レンジ方向推定速度選択部121が選択したレンジ方向推定速度と、アジマス方向推定速度選択部122が選択したアジマス方向推定速度とに基づいて、その推定速度の組に対応する参照信号を生成する。なお、観測値データ列との相関処理は、周波数領域で行う。このため、周波数領域参照信号生成部123は、参照信号をフーリエ変換した周波数領域における一連の参照信号値(周波数領域参照信号値)を表わすデータ(周波数領域参照信号値データ列)を生成する。例えば、周波数領域参照信号生成部123は、記憶装置914を用いて、あらかじめ、各推定速度の組に対応する周波数領域参照信号値データ列を記憶しておく。周波数領域参照信号生成部123は、処理装置911を用いて、記憶した周波数領域参照信号値データ列のなかから、レンジ方向推定速度選択部121が選択したレンジ方向推定速度と、アジマス方向推定速度選択部122が選択したアジマス方向推定速度との組に対応する周波数領域参照信号値データ列を選択する。
【0019】
フーリエ変換部131は、処理装置911を用いて、観測値データ列に基づいて、時間領域における一連の観測値をフーリエ変換して、周波数領域における一連の観測値(周波数領域観測値)を算出し、算出した一連の周波数領域観測値を表わすデータ(周波数領域観測値データ列)を生成する。フーリエ変換部131は、例えば、ウィンドウ処理により観測値データ列から所定の数の観測値を取り出し、高速フーリエ変換アルゴリズムを用いて、取り出した一連の観測値を離散フーリエ変換する。フーリエ変換部131が算出する周波数領域観測値の数は、フーリエ変換部131が取り出す観測値の数と等しい。
【0020】
乗算部132は、処理装置911を用いて、フーリエ変換部131が生成した周波数領域観測値データ列と、周波数領域参照信号生成部123が生成した周波数領域参照信号データ列とに基づいて、周波数ごとに、周波数領域観測値と周波数領域参照信号値とを乗算した積(周波数領域圧縮観測値)を算出する。乗算部132は、算出した一連の周波数領域圧縮観測値を表わすデータ(周波数領域圧縮観測値データ列)を生成する。
畳み込み定理によれば、周波数領域において各周波数ごとの積を算出することは、時間領域において畳み込み積分をすることに相当する。すなわち、乗算部132は、周波数領域において各周波数ごとの積を算出することにより、時間領域において一連の観測値と参照信号との間の相関を取る。
【0021】
ゼロ詰め部133は、処理装置911を用いて、乗算部132が生成した周波数領域圧縮観測値データ列の真ん中に、1個以上の0値を表わすデータを挿入して付加し、周波数領域圧縮観測値の数を増やす。
離散フーリエ変換によって得られる一連の値の真ん中は、サンプリング周波数の半分の周波数に相当する。サンプリング周波数の半分の周波数は、そのサンプリング周波数によるサンプリングによって再現できる最も高い周波数である。ここに0値を挿入して付加すると、サンプリング周波数の半分の周波数よりも高い周波数の成分が0であるものと仮定して、サンプリング周波数を高くしたことになる。
【0022】
逆フーリエ変換部134は、処理装置911を用いて、ゼロ詰め部133が0値を表わすデータを付加した周波数領域圧縮観測値データ列を逆フーリエ変換して、時間領域における一連の圧縮観測値を算出し、算出した一連の圧縮観測値を表わすデータ(圧縮観測値データ列)を生成する。逆フーリエ変換部134は、例えば、高速フーリエ変換アルゴリズムを用いて、周波数領域圧縮観測値データ列が表わす一連の周波数領域圧縮観測値を離散フーリエ逆変換する。逆フーリエ変換部134が算出する圧縮観測値の数は、ゼロ詰め部133が0値を付加した周波数領域圧縮観測値の数と等しい。すなわち、逆フーリエ変換部134が算出する一連の圧縮観測値の数は、ゼロ詰め部133が付加した0値の数だけ、フーリエ変換部131が取り出した一連の観測値の数よりも多い。一方、逆フーリエ変換部134が算出する一連の圧縮観測値に相当する時間は、フーリエ変換部131が取り出した一連の観測値に相当する時間と同じである。すなわち、圧縮観測値の間の時間間隔は、観測値の間の時間間隔よりも短くなる。
【0023】
アジマス圧縮部120は、例えばこのようにして、入力した観測値データ列よりもサンプリング周波数が高い圧縮観測値データ列を生成する。
【0024】
ピーク抽出部141は、処理装置911を用いて、アジマス圧縮部120が生成した圧縮観測値データ列に基づいて、一連の圧縮観測値のピークを抽出する。一連の圧縮観測値のピークは、観測対象850に相当し、焦点が合っているほどピークが大きくなる。また、観測対象850が複数存在する場合には、それに対応して、圧縮観測値のピークも複数になる。ピーク抽出部141は、例えば、一連の圧縮観測値のピークのうち、所定の閾値より大きいピークをすべて抽出する。あるいは、ピーク抽出部141は、一連の圧縮観測値のピークのうち、最大のピークを一つだけ抽出する構成であってもよい。
ピーク抽出部141は、レンジ方向推定速度選択部121が選択したレンジ方向推定速度と、アジマス方向推定速度選択部122が選択したアジマス方向推定速度との組それぞれについて、アジマス圧縮部120が算出した一連の圧縮観測値のピークを抽出する。
【0025】
速度推定部151は、処理装置911を用いて、レンジ方向推定速度選択部121が選択したレンジ方向推定速度と、アジマス方向推定速度選択部122が選択したアジマス方向推定速度との組のなかから、ピーク抽出部141が抽出したピークが極大となる推定速度の組を求める。速度推定部151は、処理装置911を用いて、判定した推定速度の組が、観測対象850の移動速度721(アジマス方向移動速度722及びレンジ方向移動速度723)であると推定する。速度推定部151は、出力装置913を用いて、推定した推定速度(アジマス方向推定速度及びレンジ方向推定速度)を出力する。
【0026】
上述したように、ピーク抽出部141が抽出する一連の圧縮観測値のピークは、焦点が合っているほど大きくなるから、ピークが極大となる推定速度の組が、観測対象850の移動速度721に最もよく適合している。すなわち、ピークが極大となる推定速度の組が、観測対象850のアジマス方向移動速度722及びレンジ方向移動速度723に最も近い。このため、速度推定部151は、ピーク抽出部141が抽出したピークが極大となる推定速度の組が、観測対象850の移動速度721であると推定する。
【0027】
なお、観測対象850が複数あり、各観測対象850の移動速度721が異なる場合、観測対象850ごとに焦点が合う推定速度の組が異なる。一連の圧縮観測値のピークは、各観測対象850に対応して現れるから、速度推定部151は、複数のピークが現れた場合、各ピークごとにピークが極大となる推定速度の組を求めることにより、各観測対象850の移動速度721を推定することができる。
また、ピーク抽出部141が最大のピークを一つだけ抽出する構成である場合も、複数の観測対象850のうちのいずれかに焦点が合えば、ピーク抽出部141が抽出したピークが極大となる。このため、ピーク抽出部141が抽出したピークが極大となる推定速度の組が複数現れる。したがって、速度推定部151は、ピーク抽出部141が抽出したピークが極大となる推定速度の組をすべて求めることにより、各観測対象850の移動速度721を推定することができる。
【0028】
図4は、この実施の形態における速度推定処理S610の流れの一例を示すフローチャート図である。
速度推定処理S610において、観測結果解析装置100は、観測対象850の移動速度721を推定する。速度推定処理S610は、例えば、フーリエ変換工程S611と、レンジ方向推定速度選択工程S612と、アジマス方向推定速度選択工程S613と、周波数領域参照信号生成工程S614と、乗算工程S615と、ゼロ詰め工程S616と、逆フーリエ変換工程S617と、ピーク抽出工程S618と、速度推定工程S619とを有する。
【0029】
フーリエ変換工程S611において、フーリエ変換部131は、処理装置911を用いて、観測値データ列が表わす一連の観測値をフーリエ変換して、一連の周波数領域観測値を算出する。
【0030】
レンジ方向推定速度選択工程S612において、レンジ方向推定速度選択部121は、処理装置911を用いて、所定の複数のレンジ方向推定速度のなかから、未処理のレンジ方向推定速度を一つ選択する。すべてのレンジ方向推定速度が処理済であり、未処理のレンジ方向推定速度がない場合、レンジ方向推定速度選択部121は、処理装置911を用いて、速度推定工程S619へ処理を進める。未処理のレンジ方向推定速度がある場合、レンジ方向推定速度選択部121は、処理装置911を用いて、未処理のレンジ方向推定速度のなかから、レンジ方向推定速度を一つ選択し、アジマス方向推定速度選択工程S613へ処理を進める。
【0031】
アジマス方向推定速度選択工程S613において、アジマス方向推定速度選択部122は、処理装置911を用いて、所定の複数のアジマス方向推定速度のなかから、レンジ方向推定速度選択工程S612でレンジ方向推定速度選択部121が選択したレンジ方向推定速度との組が未処理のアジマス方向推定速度を一つ選択する。すべてのアジマス方向推定速度が処理済であり、未処理のアジマス方向推定速度がない場合、アジマス方向推定速度選択部122は、処理装置911を用いて、レンジ方向推定速度選択工程S612に処理を戻し、レンジ方向推定速度選択部121が次のレンジ方向推定速度を選択する。未処理のアジマス方向推定速度がある場合、アジマス方向推定速度選択部122は、処理装置911を用いて、未処理のアジマス方向推定速度のなかから、アジマス方向推定速度を一つ選択し、周波数領域参照信号生成工程S614へ処理を進める。
【0032】
周波数領域参照信号生成工程S614において、周波数領域参照信号生成部123は、処理装置911を用いて、レンジ方向推定速度選択工程S612でレンジ方向推定速度選択部121が選択したレンジ方向推定速度と、アジマス方向推定速度選択工程S613でアジマス方向推定速度選択部122が選択したアジマス方向推定速度との組に対応する周波数領域参照信号値データ列を生成する。
【0033】
乗算工程S615において、乗算部132は、処理装置911を用いて、フーリエ変換工程S611でフーリエ変換部131が算出した一連の周波数領域観測値と、周波数領域参照信号生成工程S614で周波数領域参照信号生成部123が生成した周波数領域参照信号値データ列が表わす一連の周波数領域参照信号値とを周波数ごとに乗算して、一連の周波数領域圧縮観測値を算出する。
【0034】
ゼロ詰め工程S616において、ゼロ詰め部133は、処理装置911を用いて、乗算工程S615で乗算部132が算出した一連の周波数領域圧縮観測値の真ん中に、1個以上の0値を挿入して付加する。
【0035】
逆フーリエ変換工程S617において、逆フーリエ変換部134は、処理装置911を用いて、ゼロ詰め工程S616でゼロ詰め部133が0値を付加した一連の周波数領域圧縮観測値を逆フーリエ変換して、一連の圧縮観測値を算出する。
【0036】
ピーク抽出工程S618において、ピーク抽出部141は、処理装置911を用いて、逆フーリエ変換工程S617で逆フーリエ変換部134が算出した一連の圧縮観測値のピークを抽出する。ピーク抽出部141は、記憶装置914を用いて、抽出したピークを表わすデータを記憶する。
ピーク抽出部141は、処理装置911を用いて、アジマス方向推定速度選択工程S613に処理を戻し、アジマス方向推定速度選択部122が次のアジマス方向推定速度を選択する。
【0037】
速度推定工程S619において、速度推定部151は、処理装置911を用いて、複数のレンジ方向推定速度と複数のアジマス方向推定速度との組のなかから、ピーク抽出工程S618が記憶したデータが表わすピークが極大となる推定速度の組を判定し、観測対象850の移動速度721の推定値とする。
速度推定部151は、出力装置913を用いて、推定した観測対象850の移動速度721の推定値を出力する。
【0038】
図5は、この実施の形態におけるアジマス圧縮部120の動作を説明するための図である。
【0039】
フーリエ変換部131は、一連の観測値510をフーリエ変換して、一連の周波数領域観測値520を算出する。フーリエ変換部131がフーリエ変換する一連の観測値510は、N個の複素数からなる。Nは、高速フーリエ変換アルゴリズムの性質上、2の累乗であることが好ましく、例えば65536(2の16乗)である。フーリエ変換部131が算出する一連の周波数領域観測値520は、一連の観測値510と同じく、N個の複素数からなる。
【0040】
周波数領域参照信号生成部123は、推定速度に対応する一連の周波数領域参照信号値530を生成する。周波数領域参照信号生成部123が生成する一連の周波数領域参照信号値530は、一連の周波数領域観測値520と同じく、N個の複素数からなる。
【0041】
乗算部132は、一連の周波数領域観測値520と、一連の周波数領域参照信号値530とを周波数ごとに乗算して、一連の周波数領域圧縮観測値540を算出する。乗算部132が算出する一連の周波数領域圧縮観測値540は、一連の周波数領域観測値520や一連の周波数領域参照信号値530と同じく、N個の複素数からなる。
【0042】
ゼロ詰め部133は、一連の周波数領域圧縮観測値540のちょうど真ん中に、M個の0値を付加して、一連の周波数領域圧縮観測値550にする。ゼロ詰め部133が0値を付加した一連の周波数領域圧縮観測値550は、一連の周波数領域圧縮観測値540の前半[N/2]個の複素数のあとに、M個の0値が続き、そのあとに、一連の周波数領域圧縮観測値540の後半[N/2]個の複素数が続く、全部で[N+M]個の複素数からなる。
【0043】
逆フーリエ変換部134は、一連の周波数領域圧縮観測値550を逆フーリエ変換して、一連の圧縮観測値560を算出する。逆フーリエ変換部134が算出する一連の圧縮観測値560は、一連の周波数領域圧縮観測値550と同じく[N+M]個の複素数からなる。[N+M]も、Nと同様、高速フーリエ変換アルゴリズムの性質上、2の累乗であることが好ましく、例えば262144(2の18乗)である。
N個の複素数からなる一連の観測値510と、[N+M]個の複素数からなる一連の圧縮観測値560とは、同じ長さの時間に対応するので、一連の観測値510のサンプリング周期Tと、一連の圧縮観測値560のサンプリング周期T’との間には、T’=T・N/(N+M)という関係が成り立つ。例えば、Nが65536、[N+M]が262144であれば、T’は、Tの4分の1になる。
【0044】
図6は、一連の圧縮観測値のピークを説明するための図である。
実線で示した包絡線570a及び破線で示した包絡線570bは、異なるレンジ方向推定速度で算出した一連の圧縮観測値の包絡線である。包絡線570aのほうが、包絡線570bよりも、幅が狭く、ピークが大きい。これは、包絡線570aのレンジ方向推定速度のほうが、包絡線570bのレンジ方向推定速度よりも、観測対象850のレンジ方向移動速度723に近いことを意味している。
また、包絡線570aと、包絡線570bとでは、ピークの大きさだけでなく、ピークの時刻(アジマス時間)が異なる。これは、アジマスシフトとして知られている現象に起因する。
【0045】
図7は、アジマスシフトを説明するための図である。
観測装置810は移動速度711で移動しているので、観測対象850が静止している場合、観測装置810を基準として見ると、観測対象850は、観測装置810の移動方向と反対の方向に、移動速度731で移動しているように見える。また、観測対象850が移動速度721で移動している場合、観測装置810を基準としてみると、観測対象850は、移動速度721と移動速度731とを合成した移動速度732で移動しているように見える。
観測対象850が静止している場合、観測装置810の移動方向に対して垂直な方向に観測対象850が来たときに、観測装置810と観測対象850との間の距離が最短距離741になる。
これに対して、観測対象850が移動速度721で移動している場合、観測装置810の移動方向に対して垂直な方向に観測対象850が来るよりも少し前、観測対象850が位置751に来たときに、観測装置810と観測対象850との間の距離が最短距離742になる。これは、観測対象850のレンジ方向移動速度723が観測装置810から遠ざかる方向を向いているからであり、観測対象850のレンジ方向移動速度723が観測装置810に近づく方向を向いている場合には、逆に、観測装置810の移動方向に対して垂直な方向を観測対象850が通過した少し後に、観測装置810と観測対象850との間の距離が最短になる。観測装置810と観測対象850との間の距離が最短になるのは、観測装置810から見て、観測対象850の見かけの移動速度732に対して垂直な方向の位置に観測対象850が来たときである。
【0046】
図8は、観測装置810と観測対象850との間の距離の変化を示す図である。
破線で示した距離761は、観測対象850が静止している場合を示す。実線で示した距離762は、観測対象850が移動速度721で移動している場合(アジマス方向移動速度723が観測装置810から遠ざかる方向である場合)を示す。
上述したように、観測対象850が静止している場合、観測装置810と観測対象850との間の距離761が最短になるのは、観測装置810の移動方向に対して垂直な方向に観測対象850が来た時刻771である。
これに対して、観測対象850が移動速度721で移動している場合、観測装置810と観測対象850との間の距離762が最短になるのは、観測装置810から見た観測対象850の見かけの移動速度732に対して垂直な方向に観測対象850が来た時刻772である。
【0047】
アジマス圧縮では、観測装置810の移動方向に対して垂直な方向に観測装置810が来た時刻に、圧縮観測値のピークが現れるよう構成された参照信号を用いる。例えば、観測対象850が静止していると仮定した参照信号を用いてアジマス圧縮をすると、観測装置810と観測対象850との間の距離が最短になった時刻に、圧縮観測値のピークが現れる。
このため、観測対象850が実際には移動速度721で移動しているにも関わらず、観測対象850が静止していると仮定した参照信号を用いてアジマス圧縮をすると、観測対象850の実際のアジマス方向位置に対応する時刻771ではなく、観測装置810と観測対象850との間の距離が最短になった時刻772に、圧縮観測値のピークが現れる。これに対し、観測対象850のレンジ方向移動速度723に合致した参照信号を用いてアジマス圧縮をすれば、観測対象850の実際のアジマス方向位置に対応する時刻771に、圧縮観測値のピークが現れる。
【0048】
このように、レンジ方向推定速度を変えると、圧縮観測値のピークの大きさだけでなく、圧縮観測値のピークが現れる時刻(アジマス時間)が変化する。
【0049】
図9は、圧縮観測値のサンプリング間隔が広い場合に生じる課題とその原因を説明するための図である。
一連の圧縮観測値580aは、あるレンジ方向推定速度で算出した圧縮観測値である。一連の圧縮観測値580bは、圧縮観測値580aとわずかに異なるレンジ方向推定速度で算出した圧縮観測値である。
この例において、一連の圧縮観測値580bの算出に用いたレンジ方向推定速度のほうが、一連の圧縮観測値580aの算出に用いたレンジ方向推定速度よりも、観測対象850の実際のレンジ方向移動速度723に近い。このため、本来であれば、一連の圧縮観測値580bのピークのほうが、一連の圧縮観測値580aのピークよりも大きくなるはずである。しかし、一連の圧縮観測値580aには、圧縮観測値がピークになる時刻を捉えた圧縮観測値があるのに対し、一連の圧縮観測値580bには、圧縮観測値がピークになる時刻を捉えた圧縮観測値がない。これは、アジマスシフトにより、圧縮観測値がピークになる時刻がずれるためである。その結果、一連の圧縮観測値580aのほうが、一連の圧縮観測値580bよりも、圧縮観測値のピークが大きくなっている。
ピーク値590Aは、レンジ方向推定速度を少しずつ変化させて算出した一連の圧縮観測値のピークを表わす。上述した現象により、圧縮観測値の本当のピークを捉えられない場合があるため、ピーク値590Aは、この図に示したように、ギザギザに変化する。このため、ピークが極大となるレンジ方向推定速度の判別が困難になる。
【0050】
移動速度721が異なる多数の観測対象850が比較的狭い範囲内に密集している場合は、更に状況が悪化する。複数の観測対象850に対応する複数のピークを位置で区別することができないので、複数の観測対象850に対応する複数のピークが重なり合い、ピークが極大となる複数のレンジ方向推定速度の判別は、ほとんど不可能になる。
【0051】
図10は、圧縮観測値のサンプリング間隔を狭くすることによる効果を説明するための図である。
一連の圧縮観測値580cは、あるレンジ方向推定速度で算出した圧縮観測値である。一連の圧縮観測値580dは、圧縮観測値580cとわずかに異なるレンジ方向推定速度で算出した圧縮観測値である。
一連の圧縮観測値580cには、圧縮観測値がピークになる時刻を捉えた圧縮観測値があるのに対し、一連の圧縮観測値580dには、圧縮観測値がピークになる時刻を捉えた圧縮観測値がない。しかし、サンプリング間隔が狭いので、一連の圧縮観測値580dのピークは、本当のピークにほぼ近い値となる。
ピーク値590Bは、レンジ方向推定速度を少しずつ変化させて算出した一連の圧縮観測値のピークを表わす。サンプリング間隔が狭いので、圧縮観測値の本当のピークを捉えられない場合でも、本当のピークにほぼ近い値を得ることができ、ピーク値590Bのギザギザは、ピーク値590Aよりも小さくなる。このため、ピークが極大となるレンジ方向推定速度の判別が比較的容易になる。
【0052】
移動速度721が異なる多数の観測対象850が比較的狭い範囲内に密集している場合、複数の観測対象850に対応する複数のピークを位置で区別することができないので、複数の観測対象850に対応する複数のピークが重なり合う。しかし、1つの観測対象850に対応するピークの波形が、この図に示すようになだらかな形をしているので、これが複数重なり合ったとしても、ピークが極大となる複数のレンジ方向推定速度を、容易に判別することができる。
【0053】
一連の観測値510のサンプリング周波数が高いほど、フーリエ変換部131がフーリエ変換をするのに必要な計算量が増える。このため、一連の観測値510のサンプリング周波数は、なるべく低い周波数であることが好ましい。この点を考慮して、一連の観測値510のサンプリング周波数は、合成開口レーダシステム800に求められるアジマス方向分解能に基づいて、なるべく低い周波数に設定される。
【0054】
一連の圧縮観測値560のサンプリング周波数が一連の観測値510のサンプリング周波数と同じであれば、設計どおりのアジマス方向分解能を発揮することができるが、上述したように、圧縮観測値の本当のピークを捉えることができないため、観測対象850のレンジ方向移動速度723を正しく推定するには不十分である。
一連の圧縮観測値560のサンプリング周波数が一連の観測値510のサンプリング周波数よりも高くすることにより、圧縮観測値の本当のピークを捉えることができ、観測対象850のレンジ方向移動速度723を正しく推定することができる。
【0055】
一連の圧縮観測値560のサンプリング周波数が高いほど、圧縮観測値の本当のピークを確実に捉えることができるが、逆フーリエ変換部134が逆フーリエ変換をするのに必要な計算量が増える。しかし、ゼロ詰め部133が付加した0値は、値が0であることがあらかじめわかっているので、逆フーリエ変換部134は、ゼロ詰め部133が付加した0値についての計算を省略する構成とすることができる。このように逆フーリエ変換部134の構成を最適化すれば、逆フーリエ変換部134が逆フーリエ変換をするのに必要な計算量の増加をある程度抑えることができる。
【0056】
なお、一連の圧縮観測値560のサンプリング周波数を、一連の観測値510のサンプリング周波数より高くする方式(リサンプリング)には、上記説明したように、周波数領域で0値を付加して逆フーリエ変換をする方式のほか、逆フーリエ変換をして時間領域に戻したのちに、内挿処理(例えば、最近隣(nearest−neighbor)内挿法、線形(linear)内挿法、三次畳み込み(cubic−convolution)内挿法など)をする方式がある。アジマス圧縮部120は、このような他の内挿方式を用いて、一連の圧縮観測値560のサンプリング周波数を、一連の観測値510のサンプリング周波数より高くする構成であってもよい。ただし、最近隣内挿法や線形内挿法による内挿をする場合、アジマス圧縮部120は、内挿により圧縮観測値の数を増やしたのち、低域通過フィルタにより、もとのサンプリング周波数よりも高い周波数の成分を除去する処理が必要になる。三次畳み込み内挿法による内挿をする場合には、低域通過フィルタにより高周波成分を除去する処理は必要ない。
【0057】
時間領域で内挿処理をする方式と比べ、周波数領域で0値を付加する方式は、以下の点で優れている。
第一に、周波数領域で0値を付加する方式は、圧縮観測値の本当のピークの再現性が最も高い。圧縮観測値の本当のピークが非常に鋭いからである。
第二に、周波数領域で0値を付加する方式は、他の内挿方式に比べて計算量が少なくて済む。一般的に言えば、周波数領域で0値を付加する方式は、周波数領域での操作をするためにフーリエ変換をし、時間領域に戻すために逆フーリエ変換をする必要があり、他の内挿方式よりも計算量が多くなる。しかし、アジマス圧縮においては、参照信号との相関を取るために、フーリエ変換・逆フーリエ変換をする。したがって、別途、フーリエ変換・逆フーリエ変換をする必要はなく、計算量の増加を抑えることができる。
このような利点があるため、アジマス圧縮部120が、一連の圧縮観測値560のサンプリング周波数を、一連の観測値510のサンプリング周波数より高くする方式は、周波数領域で0値を付加する方式が望ましい。
【0058】
ゼロ詰め部133が付加する0値の数は、あらかじめ定めた定数であってもよいし、観測結果解析装置100の利用者が指定した数であってもよい。例えば、ゼロ詰め部133は、入力装置912を用いて、利用者が指定した0値の数を入力し、記憶装置914を用いて記憶する。ゼロ詰め部133は、処理装置911を用いて、記憶した0値の数に基づいて、乗算部132が算出した一連の周波数領域圧縮信号値に0値を付加する。
【0059】
この実施の形態における観測結果解析装置100は、合成開口レーダ(観測装置810)が受信した受信信号(反射波702)に基づいて、観測対象(850)の速度を推定する速度推定装置である。
速度推定装置(観測結果解析装置100)は、圧縮観測算出部(アジマス圧縮部120)と、ピーク抽出部(141)と、速度推定部(151)とを有する。
圧縮観測算出部(120)は、複数の推定速度それぞれについて、上記受信信号から生成された所定のサンプリング間隔を有する一連の観測値(510)と、上記推定速度に対応する参照信号との間の相関を取ることにより、上記所定のサンプリング間隔よりも短いサンプリング間隔を有する一連の圧縮観測値(560)を算出する。
ピーク抽出部(141)は、上記複数の推定速度それぞれについて、上記圧縮観測算出部(120)が算出した一連の圧縮観測値(560)のピークを抽出する。
速度推定部(151)は、上記複数の推定速度のなかから、上記ピーク抽出部(141)が抽出したピークが極大となる推定速度を求めて、上記観測対象(850)の推定速度とする。
【0060】
圧縮観測算出部が、一連の観測値のサンプリング間隔よりも短いサンプリング間隔を有する一連の圧縮観測値を生成するので、圧縮観測値のピークをより正確に捉えることができ、観測対象の速度を正しく推定することができる。
特に、移動速度が異なる複数の観測対象が比較的狭い範囲内に密集しているような圧縮観測値のピークを捉えにくい状況であっても、圧縮観測値のピークを正確に捉えることができ、複数の観測対象それぞれの速度を正しく推定することができる。
【0061】
圧縮観測算出部(120)は、フーリエ変換部(131)と、周波数領域参照信号生成部(123)と、乗算部(132)と、ゼロ詰め部(133)と、逆フーリエ変換部(134)とを有する。
フーリエ変換部(131)は、上記一連の観測値(510)をフーリエ変換して一連の周波数領域観測値(520)を算出する。
周波数領域参照信号生成部(123)は、上記複数の推定速度それぞれについて、上記推定速度に対応する参照信号をフーリエ変換した一連の周波数領域参照信号値(530)を生成する。
乗算部(132)は、上記複数の推定速度それぞれについて、上記フーリエ変換部(131)が算出した一連の周波数領域観測値(520)と、上記周波数領域参照信号生成部(123)が生成した一連の周波数領域参照信号値(530)との積をそれぞれ算出して、一連の周波数領域圧縮観測値(540)とする。
ゼロ詰め部(133)は、上記複数の推定速度それぞれについて、上記乗算部(132)が算出した一連の周波数領域圧縮観測値(540)に1個以上の0値を付加する。
逆フーリエ変換部(134)は、上記複数の推定速度それぞれについて、上記ゼロ詰め部(133)が0値を付加した一連の周波数領域圧縮観測値(550)を逆フーリエ変換して、上記一連の圧縮観測値(560)を算出する。
【0062】
ゼロ詰め部が、周波数領域で0値を付加することにより、一連の圧縮観測値のサンプリング間隔を一連の観測値のサンプリング間隔よりも短くするので、少ない計算量で、圧縮観測値のピークを再現することができる。
【0063】
圧縮観測算出部(120)は、複数のレンジ方向推定速度それぞれについて、上記一連の圧縮観測値(560)を算出する。
ピーク抽出部(141)は、上記複数のレンジ方向推定速度それぞれについて、上記圧縮観測算出部(120)が算出した一連の圧縮観測値(560)のピークを抽出する。
速度推定部(151)は、上記複数のレンジ方向推定速度のなかから、上記ピーク抽出部(141)が抽出したピークが極大となるレンジ方向速度を求めて、上記観測対象(850)のレンジ方向推定速度とする。
【0064】
レンジ方向推定速度を変えるとアジマスシフトにより圧縮観測値のピークを捉えにくくなるが、圧縮観測算出部が、一連の観測値のサンプリング間隔よりも短いサンプリング間隔を有する一連の圧縮観測値を生成するので、圧縮観測値のピークをより正確に捉えることができ、観測対象のレンジ方向移動速度を正しく推定することができる。
【0065】
圧縮観測算出部(120)は、複数のレンジ方向推定速度から選択したレンジ方向推定速度と、複数のアジマス方向推定速度から選択したアジマス方向推定速度との組それぞれについて、上記一連の圧縮観測値(560)を算出する。
ピーク抽出部(141)は、上記レンジ方向推定速度とアジマス方向推定速度との組それぞれについて、上記圧縮観測算出部(120)が算出した一連の圧縮観測値(560)のピークを抽出する。
速度推定部(151)は、上記レンジ方向推定速度とアジマス方向推定速度との組のなかから、上記ピーク抽出部(141)が抽出したピークが極大となるレンジ方向推定速度とアジマス方向推定速度との組を求めて、上記観測対象(850)のレンジ方向推定速度及びアジマス方向推定速度とする。
【0066】
レンジ方向推定速度とアジマス方向推定速度との組それぞれについて、圧縮観測算出部が一連の圧縮観測値を算出し、算出した一連の圧縮観測値のピークをピーク抽出部が抽出して、抽出したピークが極大になるレンジ方向推定速度とアジマス方向推定速度との組を速度推定部が求めるので、観測対象のレンジ方向速度とアジマス方向速度とを同時に推定することができる。
特に、移動速度が異なる複数の観測対象が比較的狭い範囲内に密集しているような圧縮観測値のピークを捉えにくい状況であっても、観測対象のレンジ方向速度とアジマス方向速度とを同時に推定することにより、複数の観測対象に対応するピークを捉えることができ、複数の観測対象それぞれの移動速度を正確に推定することができる。
【0067】
この実施の形態における観測結果解析装置100は、コンピュータを上記速度推定装置として機能させるコンピュータプログラムを、コンピュータが実行することにより実現することができる。
【符号の説明】
【0068】
100 観測結果解析装置、120 アジマス圧縮部、121 レンジ方向推定速度選択部、122 アジマス方向推定速度選択部、123 周波数領域参照信号生成部、131 フーリエ変換部、132 乗算部、133 ゼロ詰め部、134 逆フーリエ変換部、141 ピーク抽出部、151 速度推定部、510 観測値、520 周波数領域観測値、530 周波数領域参照信号値、540,550 周波数領域圧縮観測値、560,580 圧縮観測値、570 包絡線、590 ピーク値、701 電波、702 反射波、711,721,722,723,731,732 移動速度、741,742,761,762 距離、751 位置、771,772 時刻、800 合成開口レーダシステム、810 観測装置、850 観測対象、911 処理装置、912 入力装置、913 出力装置、914 記憶装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成開口レーダが受信した受信信号に基づいて、観測対象の速度を推定する速度推定装置において、
圧縮観測算出部と、ピーク抽出部と、速度推定部とを有し、
上記圧縮観測算出部は、複数の推定速度それぞれについて、上記受信信号から生成された所定のサンプリング間隔を有する一連の観測値と、上記推定速度に対応する参照信号との間の相関を取ることにより、上記所定のサンプリング間隔よりも短いサンプリング間隔を有する一連の圧縮観測値を算出し、
上記ピーク抽出部は、上記複数の推定速度それぞれについて、上記圧縮観測算出部が算出した一連の圧縮観測値のピークを抽出し、
上記速度推定部は、上記複数の推定速度のなかから、上記ピーク抽出部が抽出したピークが極大となる推定速度を求めて、上記観測対象の推定速度とすることを特徴とする速度推定装置。
【請求項2】
上記圧縮観測算出部は、フーリエ変換部と、周波数領域参照信号生成部と、乗算部と、ゼロ詰め部と、逆フーリエ変換部とを有し、
上記フーリエ変換部は、上記一連の観測値をフーリエ変換して一連の周波数領域観測値を算出し、
上記周波数領域参照信号生成部は、上記複数の推定速度それぞれについて、上記推定速度に対応する参照信号をフーリエ変換した一連の周波数領域参照信号値を生成し、
上記乗算部は、上記複数の推定速度それぞれについて、上記フーリエ変換部が算出した一連の周波数領域観測値と、上記周波数領域参照信号生成部が生成した一連の周波数領域参照信号値との積をそれぞれ算出して、一連の周波数領域圧縮観測値とし、
上記ゼロ詰め部は、上記複数の推定速度それぞれについて、上記乗算部が算出した一連の周波数領域圧縮観測値に1個以上の0値を付加し、
上記逆フーリエ変換部は、上記複数の推定速度それぞれについて、上記ゼロ詰め部が0値を付加した一連の周波数領域圧縮観測値を逆フーリエ変換して、上記一連の圧縮観測値を算出することを特徴とする請求項1に記載の速度推定装置。
【請求項3】
上記圧縮観測算出部は、複数のレンジ方向推定速度それぞれについて、上記一連の圧縮観測値を算出し、
上記ピーク抽出部は、上記複数のレンジ方向推定速度それぞれについて、上記圧縮観測算出部が算出した一連の圧縮観測値のピークを抽出し、
上記速度推定部は、上記複数のレンジ方向推定速度のなかから、上記ピーク抽出部が抽出したピークが極大となるレンジ方向速度を求めて、上記観測対象のレンジ方向推定速度とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の速度推定装置。
【請求項4】
上記圧縮観測算出部は、複数のレンジ方向推定速度から選択したレンジ方向推定速度と、複数のアジマス方向推定速度から選択したアジマス方向推定速度との組それぞれについて、上記一連の圧縮観測値を算出し、
上記ピーク抽出部は、上記レンジ方向推定速度とアジマス方向推定速度との組それぞれについて、上記圧縮観測算出部が算出した一連の圧縮観測値のピークを抽出し、
上記速度推定部は、上記レンジ方向推定速度とアジマス方向推定速度との組のなかから、上記ピーク抽出部が抽出したピークが極大となるレンジ方向推定速度とアジマス方向推定速度との組を求めて、上記観測対象のレンジ方向推定速度及びアジマス方向推定速度とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の速度推定装置。
【請求項5】
コンピュータが実行することにより、上記コンピュータが請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の速度推定装置として機能することを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項6】
圧縮観測算出部と、ピーク抽出部と、速度推定部とを有する速度推定装置が、合成開口レーダが受信した受信信号に基づいて、観測対象の速度を推定する速度推定方法において、
上記圧縮観測算出部が、複数の推定速度それぞれについて、上記受信信号を所定のサンプリング間隔でサンプリングした一連の観測値を用いて、上記受信信号と、上記推定速度に対応する参照信号との間の相関を取ることにより、上記所定のサンプリング間隔よりも短い時間間隔を有する一連の圧縮観測値を算出し、
上記ピーク抽出部が、上記複数の推定速度それぞれについて、上記圧縮観測算出部が算出した一連の圧縮観測値のピークを抽出し、
上記速度推定部が、上記複数の推定速度のなかから、上記ピーク抽出部が抽出したピークが極大となる速度を求めて、上記観測対象の推定速度とすることを特徴とする速度推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−63152(P2012−63152A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205444(P2010−205444)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(591102095)三菱スペース・ソフトウエア株式会社 (148)
【Fターム(参考)】