説明

速溶解性錠剤

【課題】唾液等の水分によって、例えば、5〜60秒以内の短期間で溶解又は崩壊する口腔内崩壊性錠剤を提供する。
【解決手段】(1)薬効成分又は食物成分と、(2)ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロール、プルラン、寒天、ゼラチン及びアルギン酸ナトリウムからなる群から選択される水溶性結合剤と、(3)フマル酸ステアリルナトリウムとを含有する。これらの成分の乾燥混合物を、形態を保持するのに必要な最低限の圧力で打錠し、錠剤を加湿し、錠剤を乾燥することによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品や食品として使用することができる、優れた速溶解性を有する速溶解性錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医薬製品を錠剤として成形することは公知であり、例えば、特開平8-291051号公報に記載されているように、薬効成分と、水溶性結合剤と、水溶性賦形剤とを、低圧力で錠剤に成形し、吸湿させた後、乾燥することにより、優れた速溶解性錠剤が得られることが知られている。この方法によって得られた速溶解性錠剤は、従来の錠剤に比べて、口腔内に入れた場合に、唾液等の水分によって、例えば、5〜60秒以内の短期間で溶解又は崩壊する。従って、このようにして製造された速溶解性錠剤は、例えば、老人や子供等にとって容易に嚥下することのできる優れた口腔内崩壊性錠剤である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、医薬品又は食品として使用することのできる、更に、優れた速溶解性を有する錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、特定の滑沢剤として、フマル酸ステアリルナトリウムを使用することにより、更に優れた速溶解性を有する速溶解性錠剤が得られることを見出し、本発明に到達したものである。即ち、本発明は、(1)薬効成分又は食物成分と、(2)水溶性結合剤と、(3)フマル酸ステアリルナトリウムとを含有することを特徴とする速溶解性錠剤に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明で使用される薬効成分としては、薬効成分を使用した速溶解性錠剤が、その効果を達成することができる限り、各種の薬効成分を使用することができる。薬効成分は、水溶性であっても、水溶性でなくてもよい。このような薬効成分としては、水溶性の薬効成分としては、例えば、ビタミンB2 、C、パントテン酸カルシウム等の水溶性ビタミン剤や、アセトアミノフェン、アスピリン等の解熱鎮痛剤、リン酸ジヒドロコデイン、臭化水素酸デキストロメトルファン等の鎮咳去痰剤、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸メクリジン、シメチジン等の抗ヒスタミン剤、ジアスターゼ、リパーゼ等の消化酵素類、生薬抽出エキス等が挙げられる。
【0006】
また、非水溶性の薬効成分としては、例えば、ビタミンA、E等の脂溶性ビタミン剤や、スクラルファート、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の制酸剤、生薬粉砕末等を挙げることができる。非水溶性の薬効成分の場合には、口腔内において良好な崩壊性を付与したり、打錠処理における材料の流動性を改善するため、粒径は、例えば、500μm 以下、好ましくは、300μm 以下の粉末又は顆粒であることが、適当である。本発明で使用される食物成分としては、各種の成分が使用できる。例えば、粉末ジュース成分や、クロレラ、ファイバー(食物繊維)、ギムネマエキス等の抽出粉末等を挙げることができる。薬効成分の場合と同様に、水溶性でない場合には、例えば、粒径が、500μm 以下、好ましくは、300μm 以下、特に好ましくは、100μm 以下の粉末又は顆粒であることが適当である。
【0007】
これらの薬効成分又は食物成分は、速溶解性錠剤の重量に基づいて、例えば、0.01〜60重量%、好ましくは、0.05〜40重量%、特に好ましくは、0.1〜20重量%で使用することが適当である。本発明で使用される水溶性結合剤としては、例えば、ポリビニルピロリドンや、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロール、プルラン、寒天、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。水溶性結合剤の量は、本発明の速溶解性錠剤の重量に基づいて、例えば、0.1〜8重量%、好ましくは、0.2〜4重量%、特に好ましくは、0.5〜2重量%であることが適当である。本発明で使用されるフマル酸ステアリルナトリウムは、本発明の速溶解性錠剤の重量に基づいて、例えば、0.1〜5重量%、好ましくは、0.3〜2重量%、特に好ましくは、0.5〜1.5重量%であることが適当である。
【0008】
本発明の速溶解性錠剤は、好ましくは、上記特開平8-291051号公報に記載の方法によって製造することができる。この方法では、薬効成分又は食物成分、水溶性結合剤及びフマル酸ステアリルナトリウムの乾燥混合物を、形態を保持するのに必要な最低限の圧力、例えば、0.01〜1トン、好ましくは、0.03〜0.5トン、特に好ましくは、0.05〜0.2トンで、打錠機によって錠剤を形成し、次いで、例えば、相対湿度が70%以上、好ましくは、80〜99%において、例えば、室温〜60℃、好ましくは30〜50℃、加湿時間が、例えば、10〜120秒、好ましくは、30〜90秒の条件内で、錠剤を加湿し、最後に、錠剤を、例えば、室温〜100℃、好ましくは、室温〜60℃で、例えば、加熱乾燥や、減圧乾燥、除湿乾燥、マイクロ波乾燥等の各種の方法によって乾燥することによって製造することができる。
【0009】
必要に応じて、本発明の速溶解性錠剤には、本発明の錠剤の速溶解性に影響を与えない成分を適宜添加することができる。このような添加剤としては、例えば、甘味料や、着色剤、顔料、着香料、界面活性剤を使用することができる。甘味料としては、溶解性に優れたマンニトールやエリスリトール等の甘味料が好適である。
【実施例】
【0010】
以下、本発明について、実施例及び比較例により、更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例及び比較例によって何等限定されるものではない。
【0011】
実施例及び比較例
以下の実施例及び比較例では、菊水製作所製の打錠機CP−12HUKを使用した。また、得られた錠剤の硬度は、木屋式10kg計を用いて測定し、試料10錠の平均値で示した。更に、錠剤の崩壊時間は、日本薬局方第13局の錠剤の崩壊試験法に準じて行い、6錠の平均値で示した。
【0012】
表1
ビタミン複合錠 1錠重量=1.2g
処方(重量部) 実施例1A 比較例1B
ビタミンB2 及びC複合顆粒 注1) 48.5 48.5
(平均径500μm )
ビタミンEゼラチンコー 注2) 0.5 0.5
ティングビーズ(平均径100μm )
マンニトール顆粒(平均径500μm ) 50 50
フマル酸ステアリル 1 −−−− 注3)
ナトリウム
ショ糖脂肪酸エステル −−−− 1
製法
混合 それぞれ上記処方量を均一に混合した
打錠 杵:直径15mm
打錠圧:0.2t
打錠後の錠剤処理
加 湿 温度40℃
相対湿度90%
30秒間
乾 燥 通風乾燥60℃
5分間
錠剤の性状 異常なし 異常なし
錠剤の物性
錠剤硬度(kg) 6.5 3.8
崩壊時間(分) 0.6 2.7
13) 「−−−−」は、条件を採用しない場合(以下、同様)。
【0013】
使用した顆粒及びビーズの組成は以下の通りである。
【0014】
ビタミンB2 及びC複合顆粒
組成 ビタミンB2 (リボフラビン) 0.05
ビタミンC(アスコルビン酸) 25
エリスリトール 73.95
P.V.P−K25 1
100

ビタミンEゼラチンビーズ
組成 ビタミンE(酢酸トコフェロール) 30
ゼラチン 70
100
【0015】
比較例1Bでは、滑沢剤として通常使用されるショ糖脂肪酸エステルを使用した。錠剤1Bは、錠剤1Aと比べ、性状においては同等であるが、錠剤硬度及び崩壊時間において劣っていた。錠剤1Aは、性状及び物性ともに満足する結果が得られた。
【0016】
この実施例では、コーティングされたペレットや、顆粒を使用したものではあるが、打錠時の圧力によって、コーティング膜が破壊されることはなかった。従って、ビタミンEのように油性の場合に、親水性を付与するために、ゼラチンでコーティングしても、打錠を低圧で行なっているので、コーティングが破壊されることはないため、油分が侵出することがなく、外観的に優れた錠剤が得られる。
【0017】
表2
総合胃腸薬錠 1錠重量=1.0g
処方(重量部) 実施例2A 比較例2B
ジアスターゼ 注4) 30 30
(蛋白消化酵素)顆粒(平均径300μm )
制酸剤複合顆粒(平均径500μm )注5) 69 69
フマル酸ステアリル 1 −−−−
ナトリウム
ステアリン酸 −−−− 1
マグネシウム
製法
混合 それぞれ上記処方量を均一に混合
打錠 する量を均一に混合した
杵:直径9mm
打錠圧:0.1t
打錠後の錠剤処理
加 湿 温度40℃
相対湿度95%
30秒間
乾 燥 通風乾燥60℃
5分間
ジアスターゼ仕込量 97.1% 96.8%
に対する回収率
錠剤の物性
錠剤硬度(kg) 6.5 3.8
崩壊時間(分) 0.8 1.6
4,5) 使用した顆粒の組成は以下の通りである。
【0018】

【0019】
ステアリン酸マグネシウムを添加し、低圧打錠後、加湿続いて乾燥により得られた錠剤2Bは、錠剤2Aと比べて、ジアスターゼ仕込量に対する回収率においては同等であるが、錠剤硬度及び崩壊時間において劣っていた。錠剤2Aは、性状及び錠剤の物性ともに満足する結果が得られた。
【0020】
一般に、消化酵素製剤や、消炎酵素製剤等においては、打錠時の圧力に応じて酵素の力価が低下することが知られている。本発明では、低圧打錠することにより、酵素の失活を最小限に抑えることができる。
【0021】
表3
解熱鎮痛剤 1錠重量=0.3g
処方(重量部) 実施例3A 比較例3B
アセトアミノフェン顆粒 注6) 99 99
(500μm )
フマル酸ステアリル 1 −−−−
ナトリウム
ステアリン酸マグネシウム −−−− 1
製法
混合 それぞれ上記処方量を均一に混合した
打錠 杵:直径9mm
打錠圧:0.2t
打錠後の錠剤処理
加 湿 温度40℃、相対湿度90%、60秒間
乾 燥 通風乾燥60℃、8分間
打錠時のトラブル なし なし
錠剤の物性
錠剤硬度(kg) 4.6 3.8
崩壊時間(分) 0.9 2.8
6) 使用した顆粒は以下の組成を有する。
【0022】
アセトアミノフェン顆粒
組成 アセトアミノフェン 30
エリスリトール 69
P.V.P−K25 1
100
ステアリン酸マグネシウムを添加し、低圧打錠後、加湿続いて乾燥により得られた錠剤3Bは、打錠時のトラブルの発生は見られなかったものの、錠剤3Aと比べて、特に崩壊時間において劣っていた。錠剤3Aは、打錠時のトラブルの発生もなく、錠剤硬度及び崩壊時間ともに満足する結果が得られた。
【0023】
配合する薬物あるいは、その添加量によっては、加圧しても錠剤成形されにくい場合や、高圧打錠によってキャッピング、ラミネーションなどの打錠障害が発生する場合がある。低圧にて打錠後、硬化処理を行うことで、成型性を上げることが可能である。
【0024】
表4
鎮咳去痰剤 1錠重量=0.6g
処方(重量部) 実施例4A 比較例4B
リン酸ジヒドロ 10 10
コデイン顆粒(平均径300 μm ) 注7)
エリスリトール顆粒(平均径500 μm )注8) 89 89
フマル酸ステアリル 1 −−−−
ナトリウム
ステアリン酸 −−−− 1
マグネシウム
製法
混合 それぞれ上記処方量を均一に混合した
打錠 杵:直径11mm
打錠圧:0.1t
打錠後の錠剤処理
加 湿 温度40℃、相対湿度90%、60秒間
乾 燥 通風乾燥60℃、2分間の後
除湿乾燥25℃、24時間
錠剤の物性
錠剤硬度(kg) 6.5 4.8
崩壊時間(分) 0.2 1.3
7,8) 使用した顆粒は以下の組成を有する。
【0025】

【0026】
ステアリン酸マグネシウムを添加し、低圧打錠後、加湿続いて乾燥により得られた錠剤4Bは、錠剤硬度及び崩壊時間において、錠剤4Aに比べ劣っていた。錠剤4Aは、十分な錠剤硬度と極めて速い崩壊特性を有していた。
【0027】
生薬エキス等、成型時の圧力に応じて、崩壊性が著しく延長する薬剤を配合する場合、あるいは迅速な崩壊性が要求される錠剤の場合、低圧で打錠することにより、通常打錠時と比べて極めて速い崩壊性を有する錠剤が得られる。
【0028】
本発明によれば、フマル酸ステアリルナトリウムを配合することにより、医薬品又は食品として使用することのできる、更に優れた速溶解性を有する錠剤が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)薬効成分又は食物成分と、
(2)ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロール、プルラン、寒天、ゼラチン及びアルギン酸ナトリウムからなる群から選択される水溶性結合剤と、
(3)フマル酸ステアリルナトリウムと、
を含有することを特徴とする口腔内崩壊性錠剤。
【請求項2】
フマル酸ステアリルナトリウムが、0.5〜1.5重量%である、請求項1に記載の口腔内崩壊性錠剤。
【請求項3】
請求項1に記載の口腔内崩壊性錠剤の製造方法であって、
(1)前記薬効成分又は食物成分、前記水溶性結合剤及び前記フマル酸ステアリルナトリウムの乾燥混合物を、形態を保持するのに必要な最低限の圧力で打錠する工程、(2)前記錠剤を加湿する工程、次いで、
(3)前記錠剤を乾燥する工程、
を有することを特徴とする方法。
【請求項4】
フマル酸ステアリルナトリウムが、0.5〜1.5重量%である、請求項3に記載の口腔内崩壊性錠剤。

【公開番号】特開2010−70576(P2010−70576A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297997(P2009−297997)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【分割の表示】特願平10−216072の分割
【原出願日】平成10年7月30日(1998.7.30)
【出願人】(592142670)佐藤製薬株式会社 (17)
【Fターム(参考)】