説明

速硬剤および速硬性セメント組成物

【課題】 セメント組成物に対して用いるための、高い初期強度発現性を具備し、しかも中・長期の強度発現性も良好な速硬剤であって、施工や打設時の作業時間を十分確保できるような可使時間を得ることができる速硬剤の提供。
【解決手段】 β型半水石膏(B)と無水石膏(C)を質量比(C/B)=2〜20で含有し、且つβ型半水石膏と無水石膏の合計含有量100質量部に対し、カルシウムアルミネート70〜200質量部を含有する速硬剤。また、前記速硬剤10〜150質量部とセメント100質量部を含有する速硬性セメント組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系組成物に速硬性を付与するための速硬剤及びこれを用いた速硬性のセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルやコンクリートなどのセメント組成物の凝結に要する時間を短縮し、且つ注水から短時間で高い強度を発現可能な硬化物にせしめる為に、セメント組成物に例えばカルシウムアルミネートやアルミン酸ナトリウムなどを有効成分とする速硬剤が添加されている。速硬剤が配合されたセメント組成物では、注水から凝結が始発するまでの時間も短く、始発時間が短くなり過ぎると、モルタルやコンクリートの打設に要する作業時間が確保できないことがある他、長期的な強度発現性が低く、耐久性の点から必ずしも満足できるものが得難いといった問題がある。かかる問題解決の為、例えばクエン酸や酒石酸などのオキシカルボン酸類のような中性〜弱酸性領域の凝結遅延剤を配合することで凝結が遅延し、可使時間を長くできることが知られている。(例えば、特許文献1参照。)そして、可使時間を長く確保するには、このような有機系凝結遅延剤の配合量を増加させれば良いが、増加に伴い初期強度発現性が急激に低下し、速硬性が失われ易い。また、無水石膏を配合することで、中・長期の強度発現性が向上し、オキシカルボン酸類ほどではないものの、多少とも可使時間の確保が行える。こちらの方も、配合量を増すほど可使時間の確保が多少とも容易になるが、配合量を増すに連れて膨張するため、作業時間を十分確保するための可使時間を得ようとすると、かなりの量を使用せねばならず、その結果過膨張を起こし、ひび割れが発生する虞がある。(例えば、特許文献2参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−108352号公報
【特許文献2】特開2006−62888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のように、セメント組成物に速硬剤を配合した系では、可使時間の長期化と速硬性の発現は相容れない性状であり、何れか一方の性状を満足できる水準まで高めると、他方の性状発現が阻害される。本発明はかかる問題を解決するものであり、即ち、高い初期強度発現性の具備し、しかも中長期の強度発現性も良好で、且つ例えば施工や打設時の作業時間を十分確保できるような可使時間を得ることが可能な速硬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題解決のため鋭意検討した結果、驚くことに、結晶構造がβ型の半水石膏と無水石膏を特定の量比としたものをカルシウムアルミネートに配合した速硬剤がかかる課題を総じて解決できるものであることを見出し、本発明をなすに至った。
【0006】
即ち、本発明は、次の(1)で表される速硬剤及び(2)〜(3)で表される速硬性セメント組成物である。(1)β型半水石膏(B)と無水石膏(C)を質量比(C/B)=2〜20で含有し、且つβ型半水石膏と無水石膏の合計含有量100質量部に対し、カルシウムアルミネート70〜200質量部を含有する速硬剤。(2)前記(1)の速硬剤10〜150質量部とセメント100質量部を含有する速硬性セメント組成物。(3)石膏類を除く凝結遅延成分を含まない前記(2)の速硬性セメント組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の速硬剤をモルタルやコンクリート等のセメント組成物に用いれば、有機系凝結遅延剤を用いなくとも施工や打設時に必要とされる作業時間を確保することが可能なため、高い初期強度が支障なく発現でき、さらに、中・長期の強度発現性も向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の速硬剤に含有する無水石膏とβ型半水石膏の石膏類は、注水後のカルシウムアルミネートの初期水和を抑制し、凝結の始発時間を遅らせることができる。よって、可使時間を確保する手段として本発明では当該石膏類の含有が不可欠である。このうち、本発明の速硬剤の含有成分である無水石膏は、何れのものでも良く、入手の容易性等からはII型の無水石膏とする。無水石膏の使用は可使時間を得ることに大きく寄与し、また中長期の強度発現性を向上する。
【0009】
本発明の速硬剤の含有成分であるβ型半水石膏は、石膏類(半水石膏、二水石膏及び無水石膏)の結晶の中でも水への溶解速度が最も早いものであることから、注水後にいち早く硫酸イオンを放出し、カルシウムアルミネートの初期水和物からのエトリンガイト相の生成を早め、初期強度発現性を高めることができる。β型以外の結晶構造の半水石膏や二水石膏などではこのような作用がかなり弱くなる。即ち、β型半水石膏は、無水石膏の配合使用により凝結の始発から終結までの間が長くなるのを避けることができ、一方で無水石膏などと同様に凝結始発時間を遅らせて可使時間の確保を容易にする作用も具備する。このようにβ型半水石膏と無水石膏の関係は可使時間確保と速硬性発現に深く関わるものであるため、本発明の速硬剤中の両石膏の含有量も、β型半水石膏(B)と無水石膏(C)が質量比(C/B)=2〜20となる関係を満たす必要がある。質量比(C/B)が2未満では可使時間を十分確保できないので好ましくなく、また質量比(C/B)が20を超えると、初期強度の低下に加え、中長期の強度発現性も低下することがあるので好ましくない。
【0010】
また、本発明の速硬剤の含有成分であるカルシウムアルミネートは、化学成分としてCaOとAl23からなる結晶質やガラス化が進んだ構造の水和活性物質であれば何れのものでも良く、CaOとAl23に加えて他の化学成分が加わった化合物、固溶体、ガラス質物質又はこれらの混合物等でも本発明の効果を実質喪失させない限り何れのものでも良い。前者は、例えば12CaO・7Al23、CaO・Al23、3CaO・Al23、CaO・2Al23、CaO・6Al23等が挙げられ、後者は、例えば4CaO・3Al23・SO3、11CaO・7Al23・CaF2、Na2O・8CaO・3Al23等を挙げられる。好ましくは、低温での強度発現性に優れていることから、非晶質の12CaO・7Al23、CaO・Al23又は/及び3CaO・Al23を少なくとも一部含むものが良い。このようなカルシウムアルミネートの調整方法は、例えば所定配合比にしたCaO源とAl23源の原料混合物を加熱溶融し急冷すれば得られるが、市販のアルミナセメントを使用することもできる。本速硬剤において、カルシウムアルミネートは速硬作用を発現させるために用いられる。カルシウムアルミネートによる速硬性付与の機構は、注水後の初期水和物が石膏類と反応し、強固なエトリンガイト相を急速に生成することによる。カルシウムアルミネートの含有量は、エトリンガイト形成の際の硫酸イオン供給源になる石膏類の量との相対関係で定まり、本発明の速硬剤中に含まれるβ型半水石膏と無水石膏の合計量100質量部に対し、70〜200質量部とする。70質量部未満では、初期強度発現性が低くなり、速硬性が得られ難くなったり、過膨張を起こす虞があるので好ましくない。また、200質量部を超えると、所望の可使時間の確保が困難になるので好ましくない。
【0011】
本発明の速硬剤は、前記の無水石膏、β型半水石及びカルシウムアルミネート以外の成分を本発明の効果を阻害しない範囲で含有することができる。含有可能な成分の一例を挙げると、例えばアルカリ金属の硫酸塩、炭酸塩若しくは硝酸塩、硫酸アルミニウム、硝酸カルシウム又は硝酸カルシウム等の凝結促進剤の他、セルロース誘導体、カルシウムサルホアルミネート、シリカフューム、フライアッシュ、分散成分等である。また、本発明の速硬剤は、石膏類以外の凝結遅延成分を含まないものであることが望ましい。該凝結遅延成分の含有使用は可使時間確保には有効であるが、初期強度を始めとする強度発現性が総じて低下し易くなる傾向があるので好ましくない。この傾向は例えばオキシカルボン酸やその塩などの凝結遅延作用が強いものほど概して強くなる。また、本発明の速硬剤の粒度は用途等に応じて適宜選定すれば良く、特に制限されるものではない。実用的な例を示すと、可使時間の確保が行い易く且つ速硬性を満たすに適当な粒度として、ブレーン比表面積で約3000〜9000cm2/g、より高い速硬性を安定して得ようとする場合はコスト面も考慮するとブレーン比表面積で4000〜8000cm2/gが挙げられる。
【0012】
また、本発明の速硬性のセメント組成物は、セメントと上述の速硬剤を含有するものである。セメントは何れの水硬性のセメントでも良く、例えば普通、早強、超早強、中庸熱、低熱等の各種ポルトランドセメント、高炉セメントやシリカセメント等の混合セメント、白色セメント、アルミナセメントやエコセメント等の特殊セメントなどが挙げられ、2種以上を併用しても良い。好ましくは、カルシウムアルミネートとの併用で高い初期強度が得られ、作業性も比較的良好なことから、普通又は早強ポルトランドセメントが好ましい。本発明のセメント組成物中の前記速硬剤の含有量は、セメント100質量部に対し、10〜150質量部とする。10質量部未満では速硬性が実質得られないことがあるので好ましくなく、150質量部を超えると可使時間の確保が困難になるので好ましくない。
【0013】
本発明の速硬性のセメント組成物は、セメントと上述の速硬剤以外の成分を、本発明の効果を実質喪失させない限り、含有することができる。このような成分として、例えば、骨材、各種の減水剤(分散剤)、収縮低減剤、膨張材、繊維、セメント用ポリマー、増粘剤、空気連行剤、消泡剤、白華防止剤、撥水剤、保水剤、顔料、ポゾラン反応性物質、硬化促進剤等を挙げることができる。また、本発明のセメント組成物は、より高い強度発現性を十分得たい場合などでは、その構成材たる速硬剤中を含め、石膏類を除く凝結遅延成分を一切含まないものであっても良い。また、本発明のセメント組成物の注水に使用される水の量は特に制限されない。推奨例を示すと、セメント100質量部に対し、15〜100質量部であれば、施工性等に支障を及ぼすことなく高い強度発現性が得易い。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は記載された実施例に限定されるものではない。
【0015】
[速硬剤の作製]
石灰石とバン土頁岩の粉砕物を混合したものを電気炉で1550±50℃で1時間加熱し、当該温度から焼成物を常温室内に炉外急冷し、表1に記載の化学成分含有率にせしめた2種類のカルシウムアルミネートを作製した。何れのカルシウムアルミネートも粉砕・分級処理によってブレーン比表面積で約5000cm2/gに調整した。これらのカルシウムアルミネートに、表2に記載する各種石膏類(何れも市販試薬でブレーン比表面積約6000cm2/gに調整。)を混合し、速硬剤(本発明品1〜9、参考品1〜9)を作製した。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
[セメント組成物(モルタル)の作製]
前記の如く作製した速硬剤、普通ポルトランドセメント(市販品)、細骨材(JIS R 5201「セメントの物理試験方法」で規定された「セメントの強さ試験用標準砂」に相当)及び水を用い、必要によりクエン酸(市販試薬)、高炉水砕スラグ粉(市販品、ブレーン比表面積約8000cm2/g)若しくはフライアッシュ粉末(ブレーン比表面積約6000cm2/g)を添加使用し、表3に表す配合となるようホバートミキサで常温で約4分間混練し、モルタルを作製した。
【0019】
[セメント組成物(モルタル)の評価]
作製したモルタルは、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」で規定されたフロー試験を行い、15打フロー値が120mm以上である時間範囲を可使時間とすべく測定した。但し、測定は時間範囲が90分迄で打ち切り、90分を超えるのが確実なものについては可使時間「>90(分)」と表記した。また、混練直後のモルタルを、内径50mm、内寸高さ100mmの円柱形成型型枠に充填し、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に規定された脱型・養生手段を履行し、圧縮強度測定用の供試体を作製した。材齢24時間及び7日の供試体に対し、一軸圧縮強度を常温で測定した。以上の結果を表3に纏めて記す。
【0020】
【表3】

【0021】
表3の結果から、本発明の速硬剤を適量使用したモルタル(実施例1〜9)は、いずれも高い初期強度を呈しするとともに通常の施工や打設時に必要とされるに十分な可使時間を確保されていることがわかる。しかも、中期的(材齢7日体)にも強度の向上傾向が確認されたことにより、期間に拘わらず高い強度発現性が得られることが十分察せられる。これに対し、本発明から外れるのモルタルは、可使時間が本発明品よりもかなり短い(比較例1〜3)、長い可使時間が得られても初期強度発現性が低く、速硬性を具備しない(比較例6〜9)か、又は可使時間及び強度発現性とも低迷したもの(比較例4〜5)となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β型半水石膏(B)と無水石膏(C)を質量比(C/B)=2〜20で含有し、且つβ型半水石膏と無水石膏の合計含有量100質量部に対し、カルシウムアルミネート70〜200質量部を含有する速硬剤。
【請求項2】
請求項1記載の速硬剤10〜150質量部とセメント100質量部を含有する速硬性セメント組成物。
【請求項3】
石膏類を除く凝結遅延成分を含まない請求項2記載の速硬性セメント組成物。

【公開番号】特開2013−95624(P2013−95624A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239052(P2011−239052)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】