説明

造影剤の注入を受けるヒトの処置方法

【課題】造影剤の注入を受けるヒトに対する新規の、改善されたそして有効な処置方法の提供。特に造影剤の注入の結果としての、急性腎不全(ARF)の治療法の提供。
【解決手段】造影剤の注入を受けるヒトは、鉄キレート剤の投与によって処置される。鉄キレート剤の投与は、ヒトにおける急性腎不全の発病を実質的に予防する。鉄キレート剤の投与は、急性腎不全の重篤度を減少させることができ、および/または急性腎不全の結果としての腎疾患の重篤度を減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2004年8月6日に出願された米国仮出願第60/599,449号明細書に基づく優先権を主張し、その全教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
急性腎不全(ARF)とは、廃棄物を排出し、尿を濃縮し、そして電解質を保持する腎臓の能力の突然の喪失である。ARFは、糸球体濾過率(GFR)の急激な低下および血液中の窒素性廃棄物(例えば、血液尿素窒素)の停留と関連する。ARFは、造影剤の注入の結果として生じ得る。ARFは、入院を必要とする患者の5%および集中治療室への入院の30%において報告されている(Hou, S.H.,ら, Am J. Med 74:243−248頁(1983年))。ARFの患者をケアすることに関連する費用は、年間80億ドルと見積もられる。ARFは、増加する罹患率および死亡率、ケアの費用ならびに長期間の入院費用と関連づけられてきた(Levy, E.M.,ら, J Am Med Assoc 275: 1516−1517頁(1996年);Gruberg, L.,ら J Am College Cardiol 36: 1542−1548頁(2000年))。ARFについての現在の利用可能な治療選択肢としては、ドーパミン、利尿薬、カルシウムチャネルアンタゴニスト、アミノフィリン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、インスリン誘導成長因子(insulin−derived growth factor)、アセチルシステインおよび水和物の投与が挙げられる。しかし、このような治療は、ARFを緩和せず、ARFの進行を防止せず、または造影剤の注入の結果としての不可逆的腎損傷を予防しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、造影剤の注入を受けるヒトに対する新規の、改善されたそして有効な処置方法を、特に造影剤の注入の結果としてのARFの治療のために、開発する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の要旨
本発明は、造影剤の注入を受けるヒトの処置方法に関する。本発明は、造影剤の注入を受けるヒトに鉄キレート剤を投与する工程を含むヒトの処置方法である。
本明細書に記載される発明は、造影剤の注入を受けるヒトの処置方法を提供する。特定の実施形態において、造影剤の注入を受けるヒトへの鉄キレート剤の投与は、ヒトにおける急性腎不全の発病を本質的に予防し、ヒトにおける急性腎不全の重篤度を減少させ、または造影剤の注入の結果としての不可逆的腎損傷を予防する。したがって、特許請求される本発明の利点は、例えば、急性腎不全、急性腎不全の進行または腎臓への不可逆的な変化を緩和する様式での、ヒトに造影剤を注入した結果生じる急性腎不全の治療を含み得る。本発明の方法は、大きな副作用なくヒトを治療し得る。本発明の方法は、造影剤の注入を受けるヒトを治療し、それによってそのヒトの生活の質および寿命を増加させる有効な様式を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1は、デフェリプロンの即時放出、遅延放出または持続放出製剤の投与に続く24時間毎の、ヒトにおけるデフェリプロン濃度の定常状態血漿レベルを示す。
【図2】図2は、デフェリプロンの即時放出、遅延放出または持続放出製剤の投与に続く12時間毎の、ヒトにおけるデフェリプロン濃度の定常状態血漿レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
発明の詳細な説明
本発明の特徴およびその他の詳細は、本発明の各工程として、または本発明の部分の組み合わせとして、ここでより詳しく説明され、特許請求の範囲に示される。本発明の特定の実施形態は例として示されるのであって、本発明を限定するものではないことが理解される。本発明の主な特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の実施形態において使用され得る。
【0007】
本発明は、造影剤の注入を受けるヒトに鉄キレート剤を投与する工程を含む、ヒトの処置方法である。「造影剤」は、本明細書中で使用される場合、X線画像またはスキャニング画像(例えば、CAT(コンピュータ体軸断層撮影)スキャン、MRI(磁気共鳴画像法)スキャン)などの画像における内部身体構造の視認性を改善するために使用される化合物をいう。用語造影剤はまた、本明細書中において、放射線造影剤をいう。造影剤は、種々の診断(例えば、心臓カテーテル法)および治療(例えば、血管シャント設置)の過程において使用される。
【0008】
一実施形態において、造影剤は、イオン性造影剤であり得る。別の実施形態において、造影剤は、非イオン性造影剤であり得る。
【0009】
本発明の方法における使用に好適なイオン性造影剤としては、以下が挙げられる:Renovue(登録商標)−DIP(ヨーダミドメグルミン)(Squibb)、Conray(登録商標)30(イオタラム酸メグルミン)(Mallinckrodt)、Hypaque(登録商標)Meglumine30%(ジアトリゾ酸メグルミン)(Winthrop)、Reno−M−DIP(登録商標)(アミドトリゾ酸メグルミン;ジアトリゾ酸メグルミン)(Squibb)、Urovist(登録商標)Meglumine DIU/CT(ジアトリゾ酸メグルミン)(Berlex)、Hypaque(登録商標)Sodium25%(ジアトリゾ酸ナトリウム)(Winthrop)、Conray(登録商標)43(イオタラム酸メグルミン)(Mallinckrodt)、Angiovist(登録商標)282(ジアトリゾ酸メグルミン)(Berlex)、Hypaque(登録商標)Meglumine60%(ジアトリゾ酸メグルミン)(Winthrop)、Reno−M−60(登録商標)(ジアトリゾ酸メグルミン)(Squibb)、Conray(登録商標)(イオタラム酸メグルミン)(Mallinckrodt)、Angiovist(登録商標)292(ジアトリゾ酸メグルミンナトリウム)(Berlex)、MD−60(登録商標)(ジアトリゾ酸メグルミンナトリウム)(Mallinckrodt)、Renografin(登録商標)−60(ジアトリゾ酸メグルミンナトリウム)(Squibb)、Hypaque(登録商標)Sodium50%(ジアトリゾ酸ナトリウム)(Winthrop)、Renovue(登録商標)−65(ヨーダミドメグルミン)(Squibb)、Urovist(登録商標)Sodium300(ジアトリゾ酸ナトリウム)(Berlex)、Renovist(登録商標)II(ジアトリゾ酸メグルミンナトリウム)(Squibb)、Hexabrix(イオキサグレートメグルミンナトリウム)(Mallinckrodt)、Conray(登録商標)325(イオタラム酸ナトリウム)(Mallinckrodt)、Diatrizoate Meglumine76%(ジアトリゾ酸メグルミン)(Squibb)、Angiovist(登録商標)370(ジアトリゾ酸メグルミンナトリウム)(Berlex)、Hypaque(登録商標)−76(ジアトリゾ酸メグルミンナトリウム)(Winthrop)、MD−76(登録商標)(ジアトリゾ酸メグルミンナトリウム)(Mallinckrodt)、Renografin(登録商標)−76(ジアトリゾ酸メグルミンナトリウム)(Squibb)、Renovist(登録商標)(ジアトリゾ酸メグルミンナトリウム)(Squibb)、Hypaque(登録商標)−M、75%(ジアトリゾ酸メグルミンナトリウム)(Winthrop)、Conray(登録商標)400(イオタラム酸ナトリウム)(Mallinckrodt)、Vascoray(登録商標)(イオタラム酸メグルミンナトリウム)(Mallinckrodt)、Hypaque(登録商標)−M、90%(ジアトリゾ酸メグルミンナトリウム)(Winthrop)およびAngio Conray(登録商標)(イオタラム酸ナトリウム)(Mallinckrodt)。
【0010】
本発明での使用に好適な非イオン性造影剤としては、以下が挙げられる:Isovue(登録商標)−128(Squibb)(イオパミドール26.1%)、Omnipaque(登録商標)140(Winthrop)(イオヘキソール30.2%)、Optiray(登録商標)160(Mallinckrodt)(イオベルソール33.9%)、Isovue(登録商標)−200(Squibb)(イオパミドール40.8%)、Omnipaque(登録商標)240(Winthrop)(イオヘキソール51.8%)、Optiray(登録商標)240(Mallinckrodt)(イオベルソール50.9%)、Isovue(登録商標)−300(Squibb)(イオパミドール61.2%)、Omnipaque(登録商標)−300(Winthrop)(イオヘキソール64.7%)、Optiray(登録商標)320(Mallinckrodt)(イオベルソール67.8%)、Omnipaque(登録商標)350(イオヘキソール75.5%)(Winthrop)、Isovue(登録商標)−370(Squibb)(イオパミドール75.5%)およびイオジキサノール。
【0011】
造影剤は、例えば、非経口注入(例えば、静脈内、動脈内、髄腔内(intra−thecally)、腹腔内、皮下、筋肉内)によって、または経口的に(例えば、錠剤もしくは飲料として)、あるいは浣腸としてヒトに投与され得る。特定の実施形態において、造影剤の注入は、非経口注入である。
【0012】
造影剤の注入と関連して、本明細書中で使用される場合、「受ける(undergoing)」は、ヒトへの造影剤の投与の前(before)(本明細書中で前(prior to)ともいう)、投与の間(during)(本明細書中で本質的に同時に(essentially simultaneously)ともいう)、または投与に続いて(following)(本明細書中で「後」(after)ともいう)のいかなる時間をも意味する。例えば、投与(例えば、造影剤の注入)の前(例えば、数日、数時間、数分)に、鉄キレート剤がヒトに投与され得る。あるいはまたはさらに、造影剤の投与と本質的に同時に、鉄キレート剤がヒトに投与され得る。同様に、造影剤の投与後に、例えば、造影剤の投与に続いて数分、数時間または数日に、鉄キレート剤がヒトに投与され得る。別の実施形態において、造影剤の投与の前、投与の間および投与の後に、鉄キレート剤がヒトに投与され得る。
【0013】
一実施形態において、造影剤の注入は、心臓手術(例えば、心臓カテーテル法)の間に行われる。「心臓手術」は、本明細書中で使用される場合、心臓および心臓に関連する血管(動脈、静脈)に対するあらゆる技術を指す。
【0014】
別の実施形態において、造影剤の注入は、非心臓手術の間に行われる。「非心臓手術」は、本明細書中で使用される場合、心臓手術ではない、いかなる器官(例えば、腸、腎臓、脳)、身体の領域(例えば、胸郭、頭、骨盤)または血管に対するあらゆる技術を指す。
【0015】
「間に行われる」は、本明細書中で使用される場合、心臓または非心臓手術が、造影剤の投与(例えば、注入)と本質的に同時にまたはこれに比較的迅速に引き続いて行われることを意味する。例えば、心臓カテーテル法は、血管への、そして次いで心臓へのカテーテルの設置を含む。狭窄または閉塞が冠状動脈に存在するかどうかを評価し、そして心臓弁および心筋がどのように機能するかを評価するために、造影剤がカテーテルを介して注入される。したがって、造影剤の注入は、心臓手術の間に行われる。
【0016】
非心臓手術は、血管造影であり得る。血管造影は、大動脈、頚動脈血管、腸骨血管、大腿血管、腸間膜血管および大脳血管からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーの血管の造影であり得る。血管は、動脈または静脈であり得る。造影はまた、静脈造影であり得る。
【0017】
造影は、頭部、胸部、腹部、骨盤部(例えば、腎盂)、上肢部(例えば、手、前腕、腕)および下肢部(例えば、足、脚、大腿)からなる群から選択されるヒトの身体の領域の少なくとも1つの造影であり得る。例えば、頭部の造影は、脳ならびに脳へのおよび脳からの脈管(血管およびリンパ管)の血管造影を挙げることができ;胸部の造影図としては、肺、心臓、食道ならびに肺、心臓および食道に関連する血管の造影を挙げることができ;腹部の血管造影としては、胃、小腸、肝臓、膵臓、脾臓および関連する血管の造影を挙げることができ;そして骨盤部の血管造影としては、生殖器、腎臓、尿管および関連する血管の造影を挙げることができる。
【0018】
なお別の実施形態において、非心臓手術は、瘻孔造影(例えば、透析シャント瘻孔造影)である。
【0019】
「鉄キレート剤」は、本明細書中で使用される場合、鉄、Fe3+またはFe2+のいずれかと相互作用し得る任意の分子であって、Fe3+からの触媒鉄の形成を防止するかあるいはハーバーワイス反応またはヒドロキシルラジカルを生成し得る任意の他の反応において、鉄(Fe3+またはFe2+)が相互作用、機能もしくは参加するのを防止、阻止または妨害する任意の分子をいう。鉄キレート剤と鉄(Fe3+、Fe2+のいずれか、または両方)との相互作用は、例えば、結合相互作用、立体障害の結果としての相互作用、あるいは鉄と鉄キレート剤との任意の相互効果であり得る。鉄キレート剤は、例えば、Fe2+へのFe3+の変換を防止し、それによってハーバーワイス反応における過酸化水素の還元およびヒドロキシルラジカルの形成を間接的に防止し得る。あるいは、またはさらに、鉄キレート剤は、Fe2+と直接相互作用し、ハーバーワイス反応におけるヒドロキシルラジカル形成を防止し得る。あるいは、またはこれに加えて、鉄キレート剤は、Fe2+と直接相互作用して、例えば、ハーバーワイス反応におけるヒドロキシルラジカル形成を防止し得る。
【0020】
鉄キレート剤は、天然または非天然(天然において見られないアミノ酸)アミノ酸を含むペプチド、ポリエチレングリコールカルバメート、親油性または非親油性ポリアミノカルボン酸、ポリアニオン性アミン(polyanionic amines)または置換ポリアザ化合物(substituted polyaza compounds)であり得る。好ましい実施形態において、鉄キレート剤は、デフェリプロン(1,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−ピリド−4−オン)L1である。鉄キレート剤は、市販されているか、または慣用手順を使用して生物学的供給源から精製されるかもしくは合成され得る。鉄キレート剤の典型的な説明および議論は、いくつかの参照文献、例えば、米国特許第5,047,421号明細書(1991年);米国特許第5,424,057号明細書(1995年);米国特許第5,721,209号明細書(1998年);米国特許第5,811,127号明細書(1998年);Olivieri, N.F.ら、 New Eng. J. Med. 332:918−922頁(1995年);Boyce, N.W.ら、 Kidney International. 30:813−817頁(1986年);Kontoghiorghes, GJ. Indian J. Peditr. 50:485−507頁(1993年);Hershko, C.ら、 Brit. J. Haematology 101:399−406頁(1998年);Lowther, N.ら、 Pharmoc, Res. 16:434頁(1999年)において見られ、これらの全ての教示は、それらの全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0021】
鉄キレート剤の量をいう場合、「有効量」は、ヒトに投与される場合、治療効果のために十分である鉄キレート剤の量(本明細書中で「用量」ともいう)を意味する(例えば、急性腎不全の発病を予防するため、急性腎不全の重篤度を減少させるため、または不可逆的腎損傷を予防するため、例えば、ヒトから得られる血液サンプル中の血液尿素窒素またはクレアチニンを減少させるため;またはヒトにおけるGFRを増加させるために十分な量)。鉄キレート剤の有効量はまた、ヒトに投与される場合、鉄キレート剤での治療前若しくは治療の間のパラメータと比較して、または対照(本明細書中で「正常」ともいう)のヒト若しくは腎疾患ではないヒト若しくは造影剤の注入を受けないヒトと比較して、造影剤の注入を受けるヒトにおける腎損傷を示すパラメータのさらなる増加または追加の増加(例えば、尿触媒鉄含有量の増加、血液尿素窒素の増加、GRFの減少)を防止する鉄キレート剤の量をいう。このようなパラメータは、鉄キレート剤の投与の前、間または後に、鉄キレート剤での治療を受けるヒトの尿または血清において測定され得る。
【0022】
一実施形態において、鉄キレート剤は、単一用量で投与される。別の実施形態において、鉄キレート剤は、複数用量で投与される。鉄キレート剤は、ヒトの体重の約20mg/kg〜ヒトの体重の約150mg/kgの範囲の用量で経口投与され得る。鉄キレート剤は、造影剤の注入の前および後、数日間、数週間または数ヶ月間、ヒトの体重の約20mg/kg〜ヒトの体重の約150mg/kgの範囲の用量で1日数回(例えば、1日3回)投与され得る。
【0023】
腎疾患に関連するパラメータ(例えば、血清および尿クレアチニン、血液尿素窒素)および鉄キレート剤はまた、米国特許第6,906,052号明細書、および同第6,908,733号明細書;ならびに米国特許出願公開第20040192663号明細書および同第20050026814号明細書において記載されており、これらの全ての教示は、それらの全体が、参照により本明細書中に組み込まれる。
【0024】
造影剤の注入を受けるまたは受けないヒトへの鉄キレート剤の投与は、例えば、米国特許第6,906,052号明細書および同第6,908,733号明細書ならびに米国特許出願公開第20050026814号明細書および同第20040192663号明細書に記載されるように、さらに、ヒトから得られる尿サンプル中の触媒鉄含有量を測定することを含み得る。
【0025】
「触媒鉄」とはFe2+をいう。触媒鉄は、フリーラジカル反応を触媒し得る。Fe2+状態の鉄は、過酸化水素を還元しそしてヒドロキシルラジカルの形成を促進するハーバーワイス反応を触媒し得る。ハーバーワイス反応は、以下のように示される:
【化1】

【0026】
触媒鉄が、ハーバーワイス反応以外の反応においてヒドロキシルラジカルの形成を生じさせ得ることも予想される。
【0027】
触媒鉄含有量を測定する方法は、公知であり(例えば、Gutteridge, J.M.C.ら、 Biochem J. 199:263−265頁(1981年);Yergey, A. L. J. Nutrition 126:355S−361S頁(1996年);Iancu, T.C.ら., Biometals 9:57−65頁(1996年);Artiss, J.D.ら、 Clin. Biochem. 14:311−315頁(1981年);Smith, F.E.ら、 Clin. Biochem. 17:306−310頁(1984年);Artiss, J.D.,ら、 Microchem. J. 25:275−284頁(1983年)を参照のこと。これらの全ての教示は、それらの全体が、参照により本明細書中に組み込まれる)、そして実施例において記載される。該方法としては、分光測光、質量分析(例えば、熱イオン化質量分析、レーザーマイクロプローブ質量分析、誘導結合プラズマ質量分析、原子衝撃−二次イオン質量分析)が挙げられる。触媒鉄含有量はまた、触媒鉄の量、レベルまたは濃度と呼ばれる。
【0028】
触媒鉄含有量は、尿サンプル中の参照蛋白質に対して定量され得る。“参照蛋白質に対して”とは、本明細書中で使用される場合、尿中の蛋白質の濃度(例えば、ミリグラム)当たりの測定単位(例えば、ナノモル)として尿中の触媒鉄含有量を表現することをいう。触媒鉄は、例えば、尿中の蛋白質のミリグラム(mg)当たりの触媒鉄のナノモル(nmoles)として表現され得る。参照蛋白質は、尿中クレアチニンであり得る。
【0029】
尿中の触媒鉄含有量はまた、糸球体濾過率(GFR)、特に、クレアチニンクリアランスに関連して測定され得る。GFRは、一般的に腎臓(renal)(本明細書中で腎臓(kidney)ともいう)排出能をいう、腎機能の指標である。糸球体濾過を評価する指標としては、例えば、クレアチニンクリアランスおよびイヌリンクリアランスが挙げられる。糸球体濾過率(例えば、クレアチニンクリアランス)を含む、腎機能を評価する技術の典型的な説明および議論は、例えば、Larsen, K. Clin. Chem. Acta. 41:209−217頁(1972年);Talke, H.ら、 Klin, Wscr 41:174頁(1965年);Fujita, Y.ら、 Bunseki Kgaku 32:379−386頁(1983年);Rolin, H.A. Ill, ら., In:「The Principles and Practice of Nephrology」 2nd ed., Jacobson, H.R.,ら, Mosby− Year Book, Inc., St. Louis, MO, 8−13頁(1995年);Carlson, J.A.,ら、 In:「Diseases of the Kidney」 5th Ed., Schrier, R.W.ら、 eds., Little, Brown and Co., Inc., Boston, MA, 361−405頁(1993年)において見られ、これらの全ての教示は、それらの全体が、参照により本明細書中に組み込まれる。例えば、内因性クレアチニンクリアランスは、以下のように測定され得る。
【0030】
【数1】

【0031】
別の実施形態において、クレアチニン、血液尿素窒素、または両方が、造影剤の注入を受けるヒトへの鉄キレート剤の投与の前、投与の間または投与の後、1つまたはそれ以上の時点で、ヒトから得られる血液サンプル中において測定される。血液サンプルは、動脈血サンプルまたは静脈血サンプルであり得る。血液サンプルは、血清または血漿血液サンプルであり得る。血液サンプルを得、そして血液サンプルを処理し、血液尿素窒素含有量およびクレアチニン含有量を測定する方法は、当業者に周知である。(例えば、Karlinsky, M.L.ら、 Kidney Int. 17:293−302頁(1980年);Tomford, R.C.ら、 J. Clin. Invest. 68:655−664頁(1981年);Baliga, R.ら、 Biochem J. 291:901−905頁(1993年)を参照のこと。これらの全ての教示は、それらの全体が、参照により本明細書中に組み込まれる)。
【0032】
別の実施形態において、シスタチンC含有量もまた、造影剤の注入を受けるヒトから得られる血液サンプルで測定され得る。血液サンプル中のシスタチンCを測定する技術は、当業者に公知である(例えば、Massey, D., J Clin. Lab. Analysis 18:55−60頁(2004年);Laterza, O.F.,ら、 Clin Chem. 48:699−707頁(2002年);Delanaye, P.,ら、 Intensive Care Med. 30:980−983頁(2004年);およびHerget−Rosenthal, S.,ら、 Ann Clin Biochem. 41:111−118頁(2004年)を参照のこと)。
【0033】
造影剤の注入を受けるヒトにおいては、血液サンプル中のシスタチンC含有量、血清クレアチニン、血液尿素窒素含有量は増加することがあり、そしてGFRは減少することがある。血清クレアチニン、血液尿素窒素およびシスタチンCの増加;ならびにGFRの減少は、造影剤の注入を受けるヒトにおける急性腎不全を示す。さらに、造影剤の注入の結果としての急性腎不全に関連する機能的および構造的変化は、例えば、腎血管収縮、利尿、ナトリウム排泄増加、酵素尿および細胞質空胞化を含む。造影剤の注入を受けるヒトへの鉄キレート剤の投与は、ヒトにおける急性腎不全の発病を実質的に予防し得る。
【0034】
「急性腎不全の発病を実質的に予防する」は、本明細書中で使用される場合、ヒトにおける急性腎不全が生じるのを有効に阻止または予防することを意味する。鉄キレート剤の投与が急性腎不全の発病を本質的に予防するかどうかを決定するための指標としては、例えば、コントロールレベル(例えば、急性腎不全ではないヒト、造影剤の注入を受けないヒト、または造影剤の注入前に観察されるレベル)と比較した場合のGFRの減少、血液尿素窒素、血清クレアチニンおよび/または血清シスタチンCの増加などの、急性腎不全に関連するパラメータの評価が挙げられる。
【0035】
造影剤の注入を受けながら鉄キレート剤で処置されるヒトは、造影剤の注入の結果としての急性腎不全を有し得る。「造影剤の注入の結果としての」は、本明細書中で使用される場合、造影剤が、腎損傷または疾患(例えば、急性腎不全)と関連する腎臓の機能的および構造的変化を誘発することを意味する。典型的な変化としては、例えば、腎血管収縮、減少したGFR、ナトリウム排泄増加、酵素尿、細胞質空胞化、血液中の窒素性廃棄物の停留が挙げられ、コントロールレベルまたは造影剤の注入前に観察されるレベルと比較した場合の血液尿素窒素もしくは血清クレアチニンの増加(例えば、約0.3mg/dL超)またはシスタチンCの増加(例えば、少なくとも約25%増加)によって測定される。
【0036】
造影剤の注入を受けるヒトへの鉄キレート剤の投与は、造影剤の注入の結果としての急性腎不全の重篤度を減少させ得る。ヒトにおける急性腎不全を参照する場合に本明細書中で使用される場合、「重篤度を減少させる」は、腎臓の機能を弱め急性腎不全と関連する腎臓に対する損傷(例えば、構造的または機能的)のいかなる削減、改善または低下をも意味する(例えば、低下GFR、血液中の窒素性廃棄物の停留、例えば、血液尿素窒素の増加)。鉄キレート剤の投与に続くヒトにおける腎損傷の削減、改善または低下は、鉄キレート剤を投与する前のヒトからのパラメータとまたはコントロールと比較され得る。ヒトにおける急性腎不全の重篤度を減少させることは、例えば、腎臓(例えば、糸球体もしくは細管への損傷)あるいは生物学的機能を行う(例えば、血液尿素窒素などの窒素性廃棄物を排出する)腎臓の能力に悪影響を与える他の器官の原発性病理学の改善から生じ得る。したがって、ヒトにおける急性腎不全の重篤度を減少させることは、ヒトにおける急性腎不全の減少の直接的または間接的な効果であり得る。ヒトにおける急性腎不全の重篤度の減少は、急性腎不全の結果としての腎損傷の減少であり得、例えば、腎血管収縮利尿、GFRの増加、血清クレアチニンの減少またはシスタチンCの減少によって評価される。
【0037】
造影剤の注入を受けるかまたは受けないヒトへの鉄キレート剤の投与は、造影剤の注入の結果としての不可逆的腎損傷を予防し得る。「不可逆的腎損傷」は、本明細書中で使用される場合、腎臓が永久的な構造的または機能的喪失を被ることを意味する。造影剤の注入の結果として、腎臓は、腎臓機能に影響を与える様式で損傷され得、そして腎損傷の特徴的なパラメータ(例えば、減少されたGFRおよび増加された血液尿素窒素)によって臨床的に観察され得る。造影剤の注入を受けるヒトへの鉄キレート剤の投与は、造影剤の注入の結果としての不可逆的腎損傷を予防し得る。例えば、造影剤の注入を受けるヒトは、GFRの減少を有し得る。ヒトへの鉄キレート剤の投与によって、GFRが増加し得るか、またはGFRの減少が防止され得る。不可逆的腎損傷の予防は、コントロール値(例えば、腎損傷ではないヒトにおいて観察される値)に接近するGFRの増加、あるいは腎臓が損傷される場合に観察されるものを超える値への増加によって評価され得る。
【0038】
健康でありそして正常な腎臓の(例えば、病を患っていない)ヒトにおける急性腎不全の重篤度あるいは造影剤の注入の結果としての急性腎不全は、珍しい。造影剤の注入の結果としての健康なヒトにおける不可逆的腎損傷は、稀である。しかし、腎灌流の減少を生じさせる条件または減少された腎機能を有するヒトにおいて、造影剤の注入は、腎毒性(即ち、造影腎毒性)の発症へ導き得る。造影色素の注入の結果としての急性腎不全を発症するための危険因子としては、例えば、年齢、糖尿病、慢性腎機能不全、うっ血性心不全および減少された腎灌流が挙げられる(例えば、Eisenberg, R.L.,ら、 Am. J. Roentgenology, 136: 859−861頁(1981年);Lautin, E. M.,ら、 Am. J. Roentgenol. 157: 59−65頁(1995年);Barrett, B.J., J. Am. Soc. Nephrol. 2: 125−137頁(1994年)を参照のこと。これらの全ての教示は、それらの全体が、参照により本明細書中に組み込まれる)。
【0039】
動物モデルがいくつかの腎疾患を研究するために使用されてきたが、動物モデルは、ヒト腎疾患診断および治療へ拡張される場合、多数の制限を受ける。例えば、腎疾患の動物モデルは、ヒトの腎疾患を必ずしも描写せず、そして実験動物モデルの腎疾患の多くの治療は、ヒトにおける急性腎不全の治療において相対的に無効である(Siegel, N.J.ら、 Kidney Int. 25:906−911頁(1984年);Cronin, R.E.,ら、 Am. J Physiol. 248:F332−F339頁(1985年);Cronin, R.E.,ら、 Am. J. Physiol. 251: F408−F416頁(1986年);Seiken, G.ら、 Kidney Int. 45:1622−1627頁(1994年);Shaw, S.G.ら、 J. Clin. Invest. 80:1232−1237頁(1987年); Allgren, R.L.ら、 N. Eng. J. Med. 336:828−834頁(1997年); Paller, M.S., Sem. Nephrol 18:482−489頁(1998年))。動物において有効であると判明した治療(Hannsら J Am Soc Nephrol 1:612頁、1990年)は、ヒトにおいて有効であるとは必ずしも予想され得ない。
【0040】
造影剤の注入の結果としての急性腎不全を含む、急性腎不全のために利用可能な有効な治療は、現在のところ存在しない。ドーパミン、利尿薬、カルシウムチャネルアンタゴニスト、アミノフィリン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、フェノルドパム(fenoldopam)およびアンギオテンシン変換酵素阻害薬の投与などの治療選択肢を用いての急性腎不全を治療する試みは、造影剤の注入の結果としての急性腎不全を含む急性腎不全の重篤度を抑えずまたは減少させず(Solomon R.,ら、 New Eng J Med 33:1416−1420頁(1994年);Erickson C.W.,ら、 Am J. Kid Di 39: A16, (2002年);Stevens M.A., J Am College Cardiol, 33:402−411頁(1999年);Chu V.L., Ann Pharmacother 35:1278−1282頁(2001年);Early C.M.,ら、 Kidney Int 45:1425−1431頁(1994年);Durham J.D.,ら、 Kidney Int 62:2202−2207頁(2002年);Kurnick BRら、 Am J Kid Dis 31:674−680頁(1998年))、あるいは造影剤の注入の結果としての不可逆的腎損傷を予防せず、急性腎不全に関連する死亡率およびケア費用を抑えない(Levy EM,ら、 J Am Med Assoc, 275:1516−1517頁(1996年);Gruberg L,ら、 J Am College Cardiol 36:1542−1548頁(2000年), Riha I.C.S.,ら、 Circulation 105: 2259−64頁(2002年))。最近、アセチルシステインが、急性腎不全のヒトに投与されているが、結果は一致しておらず(Misrad,ら、 Clinical Card, 27:11:607−610頁(2004年);Alonso,ら、 Am J Kidney Dis 43:1頁(2004年);Birk,ら、 Lancet 362:598−603頁(2003年);Isanbargerら、 Am J of Card 92:1454−1458頁(2003年);Kshisagerら、 J Am Soc Nephrol, 15:761−769頁(2004年);Pannuら、 KI, 65:1366頁(2004年))、効果が観察されなかったものを含む(Nallamothuら、 Am J Med 117:938−947頁(2005年))。
【0041】
急性腎不全、特に、CNは、腎機能の障害、例えば、造影剤注入後3日以内で25%または0.3mg/dL(ベースラインから44ミクロモル/L)を超える血清クレアチニンの増加を含み得る。CNは、院内腎不全の顕著な原因である(Morcos, S.K., J Vasc. Interv. Radiol. 16: 13−23 (2005))。急性腎不全(例えば、CN)を発症する高い危険にあるのは、既存の腎臓機能障害(1.5mg/dL(1.30モル/L)を超える血清クレアチニンレベル)を有するヒトであり、特に腎機能の減少が糖尿病と関連している場合である(Solomon, R., Kidney Int. 53: 230−242頁(1998年);Morcos, S.K.,ら Eur. Radiol. 9; 1602−1613頁(1999年))。「既存の腎臓機能障害」は、本明細書中で使用される場合、例えば、GFR、クレアチニンクリアランス、血液尿素窒素、血清または血漿クレアチニン、血清シスタチンC、またはそれらの任意の組み合わせによって評価されるような、腎臓の機能的または構造的な特性の減少を意味する。
【0042】
既存の腎臓機能障害は、進行性腎疾患であり得る。本明細書中で記載される方法によって治療される進行性腎疾患は、最終的にエンドステージの腎疾患となり得る、いかなる腎疾患をも含む。進行性腎疾患は、糸球体腎疾患、例えば、糖尿病性腎症(例えば、I型またはII型糖尿病あるいは全身性ループスの結果として)、原発性糸球体腎炎(例えば、膜性腎症、巣状分節状糸球体硬化症、膜性増殖性糸球体腎炎、びまん性増殖性糸球体腎炎、膜性巣状分節状糸球体硬化症)および続発性糸球体腎炎(例えば、糖尿病性腎症、虚血性腎症)であり得る。
【0043】
進行性腎疾患は、慢性腎疾患を含み得る。慢性腎疾患は、廃棄物を排出し、尿を濃縮し、そして電解質を保持する腎臓の能力の段階的かつ進行性の喪失である。慢性腎疾患はまた、慢性腎機能不全および慢性腎不全とも呼ばれる。腎臓機能のその突然の可逆的な不全を伴う急性腎不全とは異なり、慢性腎不全は、緩徐進行性である。それは、腎臓機能の徐々の喪失を引き起こすいかなる疾患からも生じ得、そして腎臓の軽度の不全から重篤な腎不全まで及び得る。慢性腎臓疾患の進行は、最終段階の腎疾患へと続き得る。慢性腎臓疾患は、通常、腎臓の内部構造が徐々に損傷を受けるので、多年にわたって生じる。慢性腎臓疾患を示す臨床パラメータとしては、クレアチニンレベルの増加、血液尿素窒素レベルの増加、クレアチニンクリアランスの減少およびGFRの減少が挙げられる。造影剤の注入を受ける進行性腎疾患(例えば、慢性腎疾患)のヒトは、造影剤の注入の結果としての急性腎不全であり得る。造影剤の注入の結果としての急性腎不全および進行性腎疾患のヒトへの鉄キレート剤の投与は、急性腎不全の重篤度を減少させ得る。
【0044】
造影剤の注入を受けるヒトへの(例えば、慢性腎疾患などの既存の腎臓機能障害のヒトへの)鉄キレート剤の投与は、ヒトの血清サンプル中の血液尿素窒素またはクレアチニン含有量を低下させ得;コントロールレベルの程度へGFRを増加させ得る。「コントロールレベル」は、本明細書中で使用される場合、既存の腎臓機能障害を有しない、造影剤の注入を受けないヒトおよび/または造影剤の注入を受けるヒトにおける、問題のパラメータのレベル(例えば、血液サンプル中または尿中のクレアチニン含有量または血液尿素窒素;あるいはGFR)を意味し、造影剤の注入を受けながら鉄キレート剤で治療されるヒトと年齢、性別、民族性および健康歴などの変数について必要に応じて一致する。コントロールレベルはまた、ヒトにおける問題のパラメータの期待されるレベルであり得る。本発明の方法によって治療されるヒトにおける問題のパラメータの「期待されるレベル」は、本明細書中で使用される場合、造影剤の注入を受けないおよび/または既存の腎臓機能障害(例えば、進行性腎疾患)もしくは急性腎不全ではないヒトにおいて通常観察される量であり得る。期待されるレベルはまた、造影剤の注入を受けないヒトにおける慢性腎疾患と関連するまたは急性腎不全の結果として予想されるレベル未満であるか、あるいは鉄キレート剤での治療前のレベル未満である、問題のパラメータのいかなるレベルでもあり得る。
【0045】
造影剤の注入を受けるヒトへの鉄キレート剤の投与は、急性腎不全に関連する罹患率または死亡率を抑え得る。
【0046】
本発明の方法は、腸内または非経口手段によって鉄キレート剤鉄の投与により達成され得る。詳細には、1つの投与経路は、経口摂取(例えば、錠剤、カプセル剤形態)による。鉄キレート剤は、造影剤の注入を受けるヒトまたは受けないヒトへ、即時放出錠剤、遅延放出錠剤および/または持続放出/徐放錠剤で投与され得る。他の投与経路もまた、本発明によって包含され得、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、または皮下経路、および経鼻投与が挙げられる。坐剤または経皮パッチもまた使用され得る。
【0047】
鉄キレート剤は、造影剤の注入を受けるヒトまたは受けないヒトへ、即時放出錠剤、遅延放出錠剤および/または持続放出/徐放錠剤で投与され得る。本明細書中で使用される場合、鉄キレート剤の、「即時放出」は、該鉄キレート剤が、ヒトへの投与後約1時間以内に投与経路(例えば、錠剤)から放出されることを意味する。本明細書中で使用される場合、鉄キレート剤の、「持続放出」は、該鉄キレート剤が、ヒトへの投与後約1時間〜約3時間に投与経路(例えば、錠剤)から放出されることを意味する。持続放出はまた、本明細書中で「徐放」とも呼ばれる。本明細書中で使用される場合、鉄キレート剤の、「遅延放出」は、該鉄キレート剤が、ヒトへの投与の少なくとも約3時間後に投与経路(例えば、錠剤)から放出されることを意味する。遅延放出はまた、本明細書中で「腸内放出」とも呼ばれる。
【0048】
鉄キレート剤の即時放出錠剤、遅延放出錠剤および/または持続放出/徐放錠剤を投与されるヒトは、腎疾患であり得る。腎疾患は、進行性腎疾患または腎機能不全であり得る。腎機能不全は、腎不全とも呼ばれ、腎臓が正常な健康状態を維持するに十分な腎臓機能をもはや有さなくなった際に生じる。急性腎不全および慢性腎機能不全は、2種類の腎機能不全である。「慢性腎機能不全(CRI)」は、本明細書中で使用される場合、腎臓が、廃棄物を排出し、尿を濃縮しそして塩および水を保持する能力などの、正常に機能するそれらの能力を徐々に喪失することを意味する。成長における腎臓の役割もまた低下され得、これにより、成長不全になり得る。
【0049】
鉄キレート剤は、ヒトに投与される際、単独でまたは任意に組み合わせて、使用され得る。例えば、デフェリプロンは、造影剤の注入を受けるヒトを治療するために、別の鉄キレート剤(例えば、デフェロキサミン)と同時投与され得る。1つ以上の鉄キレート剤は、例えば、造影剤の注入の結果としてのヒトにおける急性腎不全を治療するために、造影剤の注入を受けるヒトにおける急性腎不全の発病を予防するために、造影剤の注入の結果としてのヒトにおける急性腎不全の重篤度を減少させるために、および/または造影剤の注入の結果としてのヒトにおける不可逆的腎損傷を予防するために、他の治療薬(例えば、ドーパミン、利尿薬、カルシウムチャネルアンタゴニスト、アミノフィリン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、インスリン誘導成長因子、アセチルシステインおよび水和物)と同時投与され得ることも想定される。同時投与は、2つ以上の鉄キレート剤の同時または逐次投与を含むことを意味する。複数の投与経路(例えば、筋肉内、経口、経皮)が1つ以上の鉄キレート剤を投与するために使用され得ることも想定される。
【0050】
鉄キレート剤は、単独で、あるいは従来の賦形剤(例えば、該鉄キレート剤と有害反応しない腸内または非経口適用に好適な、薬学的に、または生理学的に、許容される有機担体物質、もしくは無機担体物質)との混合物として、投与され得る。好適な薬学的に許容される担体としては、水、食塩水(例えば、リンゲル溶液)、アルコール、油、ゼラチンおよび炭水化物(例えば、ラクトース、アミロースまたはスターチ)、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、およびポリビニルピロリドンが挙げられる。このような調製物は、滅菌され得、そして、必要に応じて、該鉄キレート剤と有害反応しない滑沢剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与えるための塩、緩衝剤、着色剤、および/または芳香族物質などのような助剤と混合され得る。
【0051】
非経口適用が必要とされるかまたは望ましい場合、鉄キレート剤に特に好適な混合物は、注射可能な、滅菌溶液、好ましくは油性または水性溶液、ならびに懸濁液、乳濁液、またはインプラントである(坐剤を含む)。特に、非経口投与のための担体としては、デキストロースの水溶液、生理食塩水、純水、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、落花生油、ゴマ油、ポリオキシエチレン−ブロックポリマーなどが挙げられる。アンプル剤は、便利な単位投与量である。鉄キレート剤はまた、経皮ポンプまたはパッチ(transdermal pumps or patches)を介して投与され得る。本発明における使用に好適な薬学的混合物は、当業者に周知であり、そして、例えば、Pharmaceutical Sciences (17th Ed., Mack Pub. Co., Easton, PA)および国際公開第96/05309号パンフレットにおいて記載されており、それら両方の教示は、参照により本明細書中に組み込まれる。
【0052】
ヒトに投与される鉄キレート剤の投与量および頻度(単一または複数用量)は、以下を含む、種々の因子に依存して変動し得る:そのヒトのサイズ、年齢、性別、健康状態、体重、ボディマス指数、および食事;造影剤の注入の結果としての腎臓への損傷および腎疾患または造影剤の注入の結果としての急性腎不全の症状の程度および性質、現在の治療の種類(例えば、ドーパミン、利尿薬、カルシウムチャネルアンタゴニスト、アミノフィリン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、インスリン誘導成長因子、アセチルシステインおよび水和物)、造影剤の注入からの合併症、造影剤の注入の結果としての急性腎不全、ヒトにおける既存の腎臓機能障害または他の健康関連問題。例えば、ヒトは、約2〜6ヶ月間、1日当たり、約30mg/kg〜約75mg/kg体重での、鉄キレート剤(例えば、500mgカプセル剤中のデフェリプロン)の用量で、1日3回、治療され得る。他の治療措置または薬剤が、本発明の鉄キレート剤治療方法と組み合わせて使用され得る。例えば、鉄キレート剤の投与は、ドーパミン、利尿薬、カルシウムチャネルアンタゴニスト、アミノフィリン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、インスリン誘導成長因子、アセチルシステインおよび/または水和物の投与が伴い得る。確立された投与量の調節および取り扱い(例えば、頻度および期間)は、十分に、当業者の能力の範囲内である。
【0053】
本発明は、さらに、以下の実施例によって例示されるが、これは決して限定することを意図していない。
【実施例】
【0054】
実施例
デフェリプロンの薬物動態学
オープンラベル、単一投与、無作為化、三元配置、クロスオーバー試験を行い、ここで、軽度の腎機能不全(50〜80ml/分のクレアチニンクリアランス)の12被検体は、3研究期間の各々において1800mg(2つの900mg錠剤)の単一経口用量のデフェリプロンを受容し、続いて一晩絶食した。評価した3つの製剤は、900mg即時放出錠剤(治療A)、900mg腸溶コーティング錠剤(本明細書中で、「遅延放出」とも呼ばれる)(治療B)および900mg持続/持続放出錠剤(治療C)であった。血液サンプルを、各投与の直前および投与の後の48時間回収し、そしてデフェリプロンの濃度を測定した。血漿濃度測定から算出された薬物動態パラメータは、下記表ならびに図1および2に示されるように、曲線下面積(AUC)、最大濃度(Cmax)、最大濃度の時間(Tmax)、分布の見掛け体積(Vdss/F)および最終排出半減期である。
【0055】
【表1】

【0056】
軽度〜中程度の腎機能不全の患者におけるデフェリプロンの薬物動態プロフィールは、正常な腎機能の患者で報告されたものと非常に類似している。これは、デフェリプロンがこれらの患者において使用され得ることを示している。即時放出、遅延(腸溶コーティングされた)、および持続放出/徐放調製物の薬物動態データの比較は、徐放および腸溶コーティングされた調製物は、即時放出について1日3回とは対照的に、代わりに、1日2回使用され得ることを示す。デフェリプロンを用いての以前の研究は、鉄過剰状態の患者において行われてきた。これらのデータは、正常な鉄貯蔵の患者において類似の薬物動態プロフィールを示す。
【0057】
等価物
本発明は、特に、その好ましい実施形態を参照して示されそして記載されたが、形態および詳細の種々の変更が、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範囲を逸脱することなく、本明細書で行われ得ることが当業者によって理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影剤の注入を受けるヒトに鉄キレート剤を投与する工程を含む、ヒトの処置方法。
【請求項2】
前記造影剤がイオン性造影剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記造影剤が非イオン性造影剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記注入が非経口注入である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記非経口注入が動脈内注入である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記非経口注入が静脈内注入である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記注入が心臓手術の間に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記心臓手術が心臓カテーテル法である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記注入が非心臓手術の間に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記非心臓手術が血管造影である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記血管造影が血管の造影である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記血管が、大動脈、頚動脈血管、腸骨血管、大腿血管、腸間膜血管および大脳血管からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記血管が動脈である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記血管が静脈である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記血管造影が、頭部、胸部、腹部、骨盤部、上肢部および下肢部からなる群から選択される前記ヒトの身体の領域の少なくとも1つである、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記非心臓手術が瘻孔造影である、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記瘻孔造影が透析シャント瘻孔造影である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記鉄キレート剤が、デフェリプロン、デフェロキサミン、ポリアニオン性アミンおよび置換ポリアザ化合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記鉄キレート剤が、ヒトの体重に対して1日当たり約20mg/kg〜約150mg/kgの範囲の用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記鉄キレート剤が、複数用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記鉄キレート剤が経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記ヒトから得られる尿サンプル中の触媒鉄含有量を測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記触媒鉄が、前記尿サンプル中の参照蛋白質に対して定量される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記参照蛋白質が、尿中クレアチニンである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ヒトから得られる血液サンプル中のクレアチニンを測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記ヒトから得られる血液サンプル中の血液尿素窒素含有量を測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記ヒトから得られる血液サンプル中のシスタチンC含有量を測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記鉄キレート剤の投与が、前記ヒトにおける急性腎不全の発病を実質的に予防する、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記ヒトが、前記造影剤の注入の結果として急性腎不全を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記鉄キレート剤の投与が、前記ヒトにおける急性腎不全の重篤度を減少させる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記造影剤の注入前に前記鉄キレート剤を前記ヒトに投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記造影剤の注入中に前記鉄キレート剤を前記ヒトに投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記造影剤の注入後に前記鉄キレート剤を前記ヒトに投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記鉄キレート剤の投与が、前記造影剤の注入の結果としての前記ヒトにおける不可逆的腎損傷を予防する、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記ヒトが既存の腎臓機能障害を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
前記既存の腎臓機能障害が進行性腎疾患である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記進行性腎疾患が慢性腎疾患である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記鉄キレート剤の投与が、前記ヒトにおける急性腎不全の発病を実質的に予防する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記ヒトが、前記造影剤の注入の結果としての急性腎不全を有する、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記鉄キレート剤の投与が、急性腎不全の重篤度を減少させる、請求項39に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−102110(P2012−102110A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−274990(P2011−274990)
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【分割の表示】特願2007−524981(P2007−524981)の分割
【原出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(507036810)シバ バイオメディカル,エルエルシー (3)
【Fターム(参考)】