説明

造影剤含有有機−無機ハイブリッド型粒子

【課題】 MRI造影剤を安定に標的部位へデリバリーするためのキャリヤーの提供
【解決手段】 非荷電性親水性ポリマー鎖セグメントと側鎖にカルボキシラートイオン基を有する繰り返し単位を含むポリマー鎖セグメントを含んでなるブロック共重合体、カルシウムイオン(Ca2+)、リン酸イオン(PO3−)もしくは炭酸イオン(CO2−)またはこれらのアニオンの混合物、および造影剤を必須成分として含んでなる有機−無機ハイブリッド型粒子、が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は造影剤含有する有機−無機ハイブリッド型粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん患者のQOL向上のためがんの早期発見が重要であることが指摘されている。例えば、胃がんの患者の5年生存率のグラフによると、初期8(1期)に発見された胃がん患者の生存率は90%であるのに対し、末期(4期)の胃がん患者の生存率は10%をきっている。このことから、現在のがん治療において患者におけるがんの早期診断は非常に重要である。また、初期がんについては自覚症状がない場合が多いため、上記の早期診断を確実なものにするには、全く健康な人に対してもがんの診断を行う必要がある。そのためには、非侵襲的かつ安全な診断法の開発が求められている。
【0003】
非侵襲的かつ安全であるとの観点に立てば、磁場やラジオ波を用いるため放射線の被爆などを心配する必要のないMRI(核磁気共鳴映像法)の利用が考えられる。しかしながら、現在の技術ではMRIで初期のがんを発見できるに至っていない。MRIの感度を上げるべく大きなコントラストが得られるよう、また、取り扱いの容易な形態にある多種多様な造影剤が提案されている(例えば、非特許文献1、2および3参照)。これらの造影剤の中には広く実用されている、Gd−DTPA(ガドジアミド)等の優れた造影剤が存在するもの、未だ、さらなる改善が可能であるなら、検討する価値があるかも知れない。
【0004】
他方、本発明者等は、特定のブロック共重合体等を使用したドラッグデリバリーシステムを開発し、例えば、腫瘍組織選択移行性を高めたある種の抗がん剤を提供することに成功し、臨床試験でも好ましい治療効果が得られることを確認している。
【0005】
また、本発明者等の一部は、従来、細胞内にDNAを導入する手段として提案されていた、カルシウム水溶液とリン酸水溶液を、過飽和状態になるように混合したときに形成されるリン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)結晶のDNAと結合する性質を利用して形成した複合体を用いる方法に随伴する短所を改善すべく、当該複合体の形成に際して、親水性で非イオン性であるポリエチレングリコール(PEG)セグメントとカルボキシル基に由来するポリアニオン性セグメントを含んでなる特定のブロック共重合体を共存させることで、リン酸カルシウム粒子をその粒径をコントロールしながら形成しうることを見出した。こうして得られる粒子は、比較的狭い粒度分布を持ち、その上、平均粒径が、必要によりサブミクロンオーダー(数100nm)以下にも制御できるとともに、これらの粒子を含有する水性分散系は、周囲条件下では沈殿を生ずることなく、安定に貯蔵できることも確認した。その結果、薬物として、DNAまたはその他の生物活性物質を担持し、該薬物をがん組織乃至がん細胞にデリバリーすることのできる新規な有機−無機ハイブリッド型粒子系を提案した(特許文献1参照)。
【特許文献1】国際公開第03/018690号パンフレット(WO 03/018690 A1)
【非特許文献1】Peter Caravan et al.,“Gadolinium(III) Chelates as MRI Contrast Agents:Structure,Dynamics,and Applications.”Chem.Rev.1999,99,2293−2352
【非特許文献2】Vincent Jacques,et al.,“New Classes of MRI Contrast Agents”Topics in Current Chemistry(Springer−Verlag)Contrast Agents 1 Magnetic Resonance Imaging Edited by Werner Krause,2002,221,123−164
【非特許文献3】D.D.Schwert,et al.,“Non−Gadolinium−Based MRI Contrast Agents.”Topics in Current Chemistry(Springer−Verlag)Contrast Agents 1 Magnetic Resonance Imaging Edited by Werner Krause,2002,221,165−199
【発明の開示】
【0006】
ここに、上記の特許文献1に記載したような、特定の有機−無機ハイブリッド粒子系では、DNAまたはTGF−β、腫瘍壊死因子、インスリン等のポリペプチド系生物活性物質以外にも、特定の造影剤をその粒子内に効果的に内包でき、しかも、上記の有機−無機ハイブリッド粒子は水性溶液中でpH応答性をしめすが、それらのリン酸イオンを炭酸イオンに代えるか、または炭酸イオンとリン酸イオンの混合物を用いる新たに提案する系では、より迅速なpH応答性を有する粒子が提供できることを見出した。
【0007】
したがって、本発明によれば、一般式(I)一般式(I)
ポリ(hph)−block−ポリ(carbo) (I)
(式中、ポリ(hph)は非荷電性親水性ポリマー鎖セグメントを示し、そしてポリ(carbo)は側鎖にカルボキシラートイオン基を有する繰り返し単位を含むポリマー鎖セグメントを示す)
で表される構造を含んでなるブロック共重合体、カルシウムイオン(Ca2+)、リン酸イオン(PO3−)もしくは炭酸イオン(CO2−)またはこれらのアニオンの混合物、および造影剤を必須成分として含んでなる有機−無機ハイブリッド型粒子が提供される。
【0008】
さらに好ましい別の態様の発明として、一般式(I)
ポリ(hph)−block−ポリ(carbo) (I)
(式中、ポリ(hph)は非荷電性ポリマー鎖セグメントを示し、そしてポリ(carbo)は側鎖にカルボキシラートイオン基を有する繰り返し単位を含むポリマー鎖セグメントを示す)
で表される構造を含んでなるブロック共重合体、カルシウムイオン(Ca2+)および炭酸イオン(CO2−)または炭酸イオンとリン酸イオン(PO3−)の混合物を必須成分として含んでなる有機−無機ハイブリッド型粒子、並びにその使用が提供される。
【0009】
この好ましい態様の粒子は、中性付近より若干低いpHの水性溶液において、易崩壊性を示す。例えば、血流中では安定に粒子の形態を保持する滞留性を示すが、一方で、中性付近より若干低いpHにある環境下(例えば、一定の腫瘍組織内)では崩壊されて粒子の内包物を放出する性質を示す。このような炭酸イオンを含有する有機−無機ハイブリッド粒子に備わった性質は、特に造影剤として、キレート型のGd錯体を使用する場合には、さらに特有の効果を発揮する。Gd錯体は、鉄微粒子やMRI以外の造影剤のように造影剤それ自体の存在が信号を高めるのとは異なり、周りのプロトン(主として、水のプロトン)に影響を及ぼして信号を高める。MRIにおいて、強力な静磁場のもとパルス波をかけた場合、Gdの周りに水のプロトンの緩和時間が短縮され、信号強度が高まる。したがって、信号を発する場所では当該ハイブリッド粒子から造影剤が放出され、その場の水と接近できることが重要である。
【0010】
上記の炭酸イオンを含有する有機−無機ハイブリッド粒子は、それらの腫瘍組織指向性とともに、その場での易崩壊性を示すので、Gd錯体型の造影剤を内包させた場合は、例えば、血流内と腫瘍組織内の間で顕著なコントラストをもたらすことができる。
【0011】
本願発明によれば、造影剤がさらに担持されるか、不存在であるかにかかわらず、実質的に球形の粒子が提供され、さらに粒子の平均粒径が調節され、かつ粒度の分布の狭い均一な粒子が提供される。このような平均粒径としては、約5〜約5000nm、好ましくは約10〜1000nm、より好ましくは約50〜約600nmの粒子が提供できる。
【0012】
<発明の詳細な記述>
本発明によれば、リン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)、特に、炭酸カルシウムを生成する系において、一般式(I):
ポリ(hph)−block−ポリ(carbo) (I)
(式中、ポリ(hph)は非荷電性親水性ポリマー鎖セグメントを示し、そしてポリ(carbo)は側鎖にカルボキシラートイオン基を有する繰り返し単位を含むポリマー鎖セグメントを示す)で表される構造を含んでなるブロック共重合体を使用することに特徴がある。
【0013】
上記のごとく、本明細書において「リン酸カルシウム」または「炭酸カルシウム」という場合には、これらを形成するイオンと上記のブロック共重合体が水性媒体中で相互作用することにより、生成されるアモルファス状の微小魂を意味し、完全な結晶質を意味しない。理論により拘束されるものでないが、水性媒体中で、ブロック共重合体は、そのポリカルボキシラート含有鎖セグメントがカルシウムイオン、リン酸イオンもしくは炭酸イオンまたはこれらのアニオンの混合物と相互作用をして、上記微小魂を形成し、一方で非荷電性親水性ポリマー鎖セグメントは、当該微小魂の周りを取り囲む、親水性のシェル状の層を形成すると理解されている。
【0014】
したがって、上記のブロック共重合体として、上記のように機能し、目的の有機−無機ハイブリッド粒子を形成でき、一般式(I)について定義した範疇に入る重合体は、いずれかのセグメントが天然物に由来するか、合成ポリマーに由来するか等にかかわりなくいかなる種類の共重合体も使用できる。しかし、限定されるものではないが、具体的な共重合体としては、ポリ(hph)が、ポリエチレングリコール(以下、PEGという場合あり)、2−メチル−2−ポリオキサゾリン、2−エチル−2−ポリオキサゾリン、2−イソプロピル−2−ポリオキサゾリン、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸ヒドロキシエチル)およびポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)からなる群より選ばれるポリマーに由来するポリマー鎖セグメントを含むものを挙げることができる。具体的な共重合体としては、他方、ポリ(carbo)が、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)およびポリ(リンゴ酸)、並びにこれらのポリマーを製造するためのモノマー2種以上か製造されるランダムもしくはブロック共重合体からなる群より選ばれるポリマーに由来するポリマー鎖セグメントであることができる。ポリ(hph)とポリ(carbo)の、それぞれいずれかの組合せからなる共重合が、本発明で使用できるより具体的な共重合体である。
【0015】
これらの重合体の一部は市販されているものもあるが、それぞれ当該技術分野で周知の方法化、またはその改変方法により取得できる。例えば、ポリ(carbo)がポリ(アスパラギン酸)またはポリ(グルタミン酸)由来のセグメントである場合には、ポリ(オキサゾリン)やポリエレングリコールの片末端をアミン化したものを開始剤に対応するβ−もしくはγ−カルボキシル基が保護されたN−カルボキシル酸無水物を開環重合し、その後保護基を加水分解して脱離すればよい(例えば、Macromolecules 1997,30,4013−4017参照)。また、例えば、ポリ(carbo)が、ポリ(メタクリル酸)またはポリ(アクリル酸)に由来するセグメントを有する場合には、非荷電性セグメントの片末端にラジカルを出すような開始剤を修飾し、各モノマーを重合さ
せればよい。またさらに、アニオンセグメントと非荷電性セグメントを、マイケル付加反応等を利用してカップリングしてもよい。
【0016】
上記のポリ(carbo)は、前記ブロック共重合体の製造方法に応じて、一定のカルボキラートイオンがアルカリ金属(ナトリウム、カリウム、等)由来の対イオンを有するか、またはエステル(例えば、炭素原子6個までの低級アルキル、またはベンジルエステル)の形態にあることができる。かようなエステルの形態の残基は、本発明に従って、リン酸カルシウムまたは炭酸カルシウムへの該ブロック共重合体の取り込みまたは吸着が阻害されない限り、50%程度まで含まれていてもよいが、好ましくは10%未満、特に好ましくは0%である。
【0017】
また、式(I)で表される「構造を含んでなる」とは、本発明の目的に沿う限り、ポリ(hph)とポリ(carbo)との間の連結基、さらにはポリ(もしくはポリ(carbo)の末端は如何なる基または部分をも含み得ることを意図している。上記各ポリマーセグメントは、上記の機能を奏する限り、主として、共重合体の製造方法に基き、多種多様な結合様式(またはリンカーを介するか、あるいは介することなく)をとることができる。これらの両セグメントは、通常、炭素、酸素、硫黄および窒素原子から適当に選ばれる、原子1〜20個が線状に連続して存在しうるリンカーにより結合されていてもよい。
【0018】
限定されるものではないが、さらに具体的で好ましい共重合体としては、下記式(II−a)、(II−b)、(III−a)、(III−b)および(IV)で表されるブロック共重合体を挙げることができる。
【0019】
【化1】

【0020】
上記式中、各記号はそれぞれ独立した意味を有し、そして
Aは水素原子または置換もしくは未置換の炭素原子12個までのアルキル基を表し、
Lは直接結合またはニ価の連結基、例えば、O、NH、COまたはX(CHYであって、ここでXはOCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONHもしくはCOOを表し、YはNHもしくはCOを表し、pは1〜6の整数を表し、
Tは水素原子、ヒドロキシル基または−ZRであって、ここでZは単結合、CO、OもしくはNHを表し、Rは置換もしくは未置換の炭素原子12個までの炭化水素基を表し、
mは4〜2500の整数であり、
nは5〜10000、好ましくは、10〜3000、より好ましくは10〜500の整数であり、そして
x+yまたはzは5〜1000、好ましくは10〜3000、より好ましくは10〜500の整数であるが、但し、存在するカルボキシラートイオンは50%までが上記のアルカリ金属由来の対イオン有するかまたはカルボキシエステル残基を形成することができる。また、上記式(II−a)および(II−b)中のα−アスパラギン酸単位とβ−アスパラギン酸単位との間の「・」は、これらの単位がランダムに存在することを意味する。
【0021】
上式中の各基または各部分の定義は、より具体的には、次のごとき意味を有する。「炭素原子12個(以下、C12のように略記する場合あり。このような記載様式は、他の炭素原子を有する基を表示する場合にも同様に用いられる。)までのアルキル基」とは、直鎖もしくは分岐鎖であってもよいアルキル基であって、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシルおよびn−もしくはiso−ドデシルを表す。このようなアルキル基の置換基としては、本発明の目的に沿う限り、どのような基であってもよいが、好ましくは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、式 RCH− (ここで、RおよびRは独立して、C1−10アルキルオキシ、アリールオキシもしくはアリール−C1−3アルキルオキシを表すか、一緒になってC1−6アルキルで置換されていてもよいエチレンジオキシ(−O−CH(R′)−CH−O−、ここで、R′は水素原子またはC1−6アルキル基である)を表わす)の基、式 R′R′NCH− (ここで、R′およびR′は独立して、有機シリル型のアミノ保護基、例えばトリアルキルシリル基またはR′およびR′はそれらが結合する窒素原子と一緒になって、4〜7員環のジシラ−アザシクロヘテロ環式環を形成しうる原子団である)の基を挙げることができる。例えば、式 RCH− の基は、所謂、アセタール部分を示し、緩和な加水分解によって、容易にOCH−(アルデヒド基)に転化できる。他方、式 R′R′NCH− の基は、例えば、テトラアルキルアンモニウムフロリドを含む溶液中で容易にHN−に転化できる。したがって、このような置換基を有する一般式(I)、(II−a)、(II−b)、(III−a)、(III−b)または(IV)で表されるブロック共重合体は、それらを用いて、本発明に従う有機−無機ハイブリッド型粒子(例えば、ポリマーミセル)を形成した後、通常、該粒子のシェルまたは表面に存在する上記の置換基をアルデヒド基またはアミノ基に転化し、こうして得られた官能基を介して、例えば、ラクトース等の糖残基、抗体等の特異的な結合性を示すポリペプチドを該粒子に共有結合するのに好都合である。こうして該粒子はさらなる標的指向性を付与することもできる。このような置換基を有するポリエチレンセグメントの取得方法は既知であり、例えば、RCH−基の場合は、WO96/33233(または対応するUS−A−5,925,720)を参にすることができる。
【0022】
こうして取得されるブロック共重合体は、上式(II−a)、(II−b)、(III−a)および(III−b)におけるTまたはそれに相当する末端基は、通常、水素原子またはヒドロキシル基であるが、これらの末端基にそれ自体既知の方法で−ZR基を導入することができる。このようなRとしては、限定されるものでないが、−CH、−CHCH、−CH=CH、−C(CH)=CH
【0023】
【化2】

【0024】
等の炭化水素基を挙げることができる。このような基の導入方法も、上記のUS−A−5,925,720に記載の方法に従って実施できる。
【0025】
本発明に従い、有機−無機ハイブリッド型粒子に含められる造影剤は、上記微小魂の表面に付着しているか、好ましくは全体が内包されている形態にある。このような造影剤は、本発明の目的に沿うものである限り、どのような種類のものであってもよいが、好ましくは、上記の非特許文献1、非特許文献2または非特許文献3に記載されているものを上げることができる(これらの文献は、引用することにより、それらの内容の全てが本明細書の内容となる)。限定されるものでないが、具体的なものとしては、ガドリニウム(G
d)、ユーロピウム(Eu)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)および銅(Cu)からなる群より選ばれる金属であることができ、さらにこれらの金属は、多座配位子との金属キレートの形態にあることができる。このような多座配位子としては、アミノカルボン酸もしくはリン酸系、ポルフィリン系およびデフェリオックスアミンB系から選ばれる多座配位子であることができる。限定されるものでないが、アミノカルボン酸もしくはリン酸系多座配位子としては、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエキレンテトラミン六酢酸、エチレングリコールテトラミン四酢酸、テトラアザシクロドデカン四酢酸、テトラアザシクロドデカン三酢酸およびテトラアザシクロドデカン四リン酸等が挙げられ、ポルフィリン系多座配位子としては、ポルフィリン等が挙げられ、デフェリオックスアミン系多座配位子としてはデフェリオックスアミンB等が挙げられる。
【0026】
本発明によれば、かようなブロック共重合体、ならびにカルシウムイオンおよびリン酸イオン、炭酸イオンまたはこれらのイオンの混合物(特に、炭酸イオン)を必須の成分として含んでなる上記の造影剤を含む有機−無機ハイブリッド型粒子を形成するための水性分散組成物も提供される。ここにいう「水性分散組成物」または後述する「水性分散体」とは、水を主たる溶媒とし、場合によって、水と混和性の有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、アセトン等)を本発明の目的を達成する上で悪影響を及ぼさない範囲内で少量含んでもよい溶媒系からなる溶液、分散液、懸濁液を意味する。これらの液には、pHを6.0〜8.0に調節することのできる緩衝剤が含まれていることが好ましい。これらの液に含まれるカルシウムイオンおよびリン酸イオンまたは炭酸イオンは、それぞれ相当する水溶性の塩に由来するものであることができ、典型的には、前者は塩化カルシウムから、そして後者はリン酸水素二ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムから誘導される。
【0027】
カルシウムイオンとリン酸イオンまたは炭酸イオンの含有割合は、本発明においては、かなり重要であり、両者が反応して上記のリン酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを生成するのに必要な当量より、通常、過剰な量でカルシウムイオンが存在することが必要である。具体的には、Ca2−対PO3−またはCO2−は、モル濃度で、1〜1000対1であることができる。このような割合でカルシウムイオンとリン酸イオンがまたは炭酸イオンが存在すると、これらと前記ブロック共重合体が都合よく相互作用しうる。
【0028】
さらにまた、前記水性組成物中において、Ca2−は、限定されるものでないが、10mM〜1000mMで、そしてPO3−またはCO2−は、限定されるものでないが、0.4mM〜10mMで存在できる。またこのような割合は、本発明に従う、前記水性組成物に造影剤を含め、かような造影剤を担持もしくは内包する有機−無機ハイブリッド型粒子を含んでなる水性分散体を提供するにも好適である。
【0029】
他方、前記水性組成物中で、ブロック共重合体は、限定されるものでないが、10μg/ml〜1000μg/mlで存在することができる。前記水性組成物中の上述のCa2−およびPO3−またはCO2−の濃度と、直前に記載したブロック共重合体の濃度は、該水性組成物中で形成される有機−無機ハイブリッド型粒子(造影剤不含)または、水性分散体における有機−無機ハイブリッド型粒子(造影剤含有)を水性液中で一般的に安定に分散させておくのに好都合である。しかし、上述の濃度を超える濃度で各成分を用いても、本発明の目的に沿う水性組成物または水性分散体を提供できる。また、このような水性分散体は、常法により、例えば、凍結乾燥法により乾燥形態にすることができる。このような乾燥形態の組成物は水性媒体で、再度、安定な水分散体に構成することもできる。また、乾燥形態のまま、必要により他の結合剤等を用いて、他の形態の製剤に調製することもできる。
【0030】
すでに、部分的には上記で言及してきた本発明に従う水性分散体は、上述の水性組成物に生物活性物質を共存させることにより調製できる。より具体的には、限定されるもので
ないが、(A)造影剤、カルシウムイオンおよび必要により緩衝剤を含む第一の水溶液を調製し、独立して、(B) 一般的(I)
ポリ(hph)−block−ポリ(carbo) (I)
(式中、ポリ(hph)およびポリ(carbo)は上記の意味を有する)
で表される構造を含んでなるブロック共重合体、炭酸イオンまたはリン酸イオンおよび必要により緩衝剤を含む第二の水溶液を調製し、そして
(C) 前記第一の水溶液と第二の水溶液を、炭酸カルシウムまたはリン酸カルシウムが生成するのに十分な条件下で混合することにより調製できる。なお、第二の水溶液には塩化ナトリウムなどの塩を含めることができ、使用する場合の緩衝剤は、最終分散液のpHを6.0〜8.0に調節することができるように選ぶのがよい。
【0031】
このような調製方法に限定されるものでないが、本発明に従う、水性分散体に含まれる粒子は、上述したブロック共重合体、カルシウムイオン、炭酸イオンまたはリン酸イオンおよび造影剤から生成される造影剤を担持する粒子であって、分散体の動的光散乱測定による場合には、平均粒子径が5〜2000の範囲内で容易に調節できる。本発明の上記調製方法によれば、例えば、ブロック共重合体濃度を選ぶことにより、粒子径が50〜600nmのいずれかの大きさをもち、多分散度が0.1以下の極めて均一の粒子を含んでなる水性分散体を提供できる。勿論、必要があれば、調製時間を延長することにより600nmを越え数μmオーダーの粒子を形成することもできる。これらの水性分散体は、周囲条件下(例えば、室温など)において、数日間〜1ケ月間実質的に沈殿もしくは相分離を起こすことなく貯蔵できるので、そのまま、必要により、余剰のイオン低分子化合物などを透析もしくは限外濾過することにより除去し、注射用組成物として用いることも可能である。
【0032】
限定されるものでないが、本発明に従う有機−無機ハイブリッド型粒子は、例えば次の各成分のばあいには、重量比で、ブロック共重合体:CaCO:Gd−DTPA=0.2〜1.6:0.3:0.05〜0.1またはブロック共重合体:Ca(PO:Gd−DTPA=0.2〜1.6:0.465:0.05〜0.1であることができる。
【0033】
本発明に従う有機−無機ハイブリッド型粒子は、中性pH付近の生物学的流体、例えば、血液では安定に維持乃至保存でき、しかも腫瘍組織指向性がある。特に、無機アニオンとして、炭酸イオンまたは炭酸イオンとリン酸イオンの混合物を含むハイブリッド型粒子は、中性より若干低いpHを有する環境下で、容易に崩壊し得るとのpH感受性を示す。したがって、当該粒子は、腫瘍組織内では、容易に崩壊し得るものと理解できる。
【0034】
以下、本発明を、具体例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明をこれらの例に限定することを意図するものではない。
【0035】
例1.Gd錯体とリン酸カルシウムの複合体粒子の粒径制御
この実験は、リン酸カルシウム(以下、CaPと略記する)の沈殿形成の阻害またはある一定以下の粒径の粒子にコントロールされた生成に、特定のブロック共重合体が有効であることを示すものである。
【0036】
<実験方法>
(1)以下の水溶液を調製した。
溶液A:250mM Ca2+(CaClを用いる)
1mM Tris−HCl Buffer(pH7.6)
PEG−block−ポリ(メタクリル酸)(以下、PEG−PMAと略
記する。)
400−3200μg/ml
溶液B:6mM PO3−(NaHPOを用いる)
50mM HEPES Buffer(pH6.6または 7.1)
140mM NaCl
1mM ガドリニウム-ジエチレントリアミン五酢酸(Gd−DTPAと
略記する。(Magnevist(R))シェーリングより入手。)
上記でPEG−PMA(Polymer Sourceより入手)は、
次式、
CHO(CHCHO)−(CHCH(CH)(COOH))
で表され、PEGセグメントの分子量が約7800、PMAセグメントの分子量が
約2000のブロック共重合体(7800−2000と略記する)と、PEGセグ
メントの分子量が約7500、PMAセグメントの分子量が約15500のブロッ
ク共重合体(7500−15500と略記する)をNa塩にして使用した。
(2)溶液Aと溶液Bを37℃で混合し、に4時間以上37℃で静置した後、分散体の動
的光散乱測定(DLS)により粒径を評価した。測定装置としては、Malver
n社のZetasizer NanoZSを用いた。ヘリウムネオンレーザーの波
長633nmの光を入射光として使用し、測定は37℃で行った。入射光に対する
角度173°方向の散乱光を検出し、その強度変化の時間依存性をキュムラント法
により粒子の拡散係数を求めた。得られた拡散係数は、Stokes−Einst
einの下記式により、粒径へと変換した。
R = kT / (6πηD)
式中、R=粒径、k=ボルツマン係数、T=温度、η=粘性係数、D=拡散係数
また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてCaP粒子像も撮像した。用いたTE
Mは、HitachiのH−7000で加速電圧は75kVである。
【0037】
<結果>
作製したミセルの粒径に対する仕込みのpH、ポリマー鎖長、濃度の影響を図1に示す。PEG−PMA(7800−2000)を使用した場合、ポリマー濃度0.4mg/ml以上で粒径制御(多分散度が0.2以下)できており、その粒径はpH6.6で約100nm、pH7.1で200nm前後であった。PEG−PMA(7500−15500)を使用した場合、ポリマー濃度0.8mg/ml以上で粒径制御できており、ポリマー濃度1.6mg/mlではpH6.6、pH7.1共に粒径が約100nmであった。TEM画像(図2)に示されるように、コアがCaP粒子、シェルがポリマーでできている粒計100nm前後の単分散粒子ができていることが確認できる。粒径制御に対するpHの影響は7800−2000では大きく出ているが、7500−15500ではほとんど出なかった。また、ポリマー濃度が濃いほど粒径制御されやすい傾向が出ており、PEGが粒径に及ぼす影響が非常に強いと考えられる。
【0038】
例2.CaP粒子中に取り込まれている(または内包された)Gd−DTPA量の決定
CaP粒子は例1にしたがって調製した。調製したミセル溶液1mlを15000G 30minかけて遠心分離を行い、上澄み100μlを取る。0.1M HCl溶液4.9mlで50倍希釈したのち、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)にて溶液中のGd濃度を測定する。これにより、リン酸カルシウムに内包されていないGd−DTPA濃度が分かり、Gd−DTPA内包率を計算し、定量化した。結果を図3に示す。内包量はポリマーの種類・濃度によって多少違ったが、基本的には仕込み量(1mM Gd−DTPA)の10−20%程度内包することが分かった。
【0039】
例3.CaP粒子の安定性評価
pHに応答して粒子が壊れるかどうかを評価するために、pH5.5とpH7.4での安定性評価を行った。
【0040】
<実験方法>
サンプルは例1にしたがって、PEG−PMA(7500−15500)3.2mg/ml pH6.6の条件で作製したものを使用した。次に、細胞外溶液(2mM CaCl、1mM NaHPO、25mM Tris、140mM NaCl)と重mM
PBS、&140mM NaCl溶液をそれぞれpH7.4と5.5にあらかじめ調製しておき、サンプル溶液200μlと用意した溶液800μlを混和し、動的光散乱測定を12時間測定し続け、粒径変化を見る。以下に用意した溶液を記す。
細胞外pH7.4:2mM CaCl、1mM NaHPO、25mM Tris−HCl Buffer(pH7.4)、140mM NaCl
細胞外pH5.5:2mM CaCl、1mM NaHPO、25mM Tris−HCl Buffer(pH5.5)、140mM NaCl
重mM PBS pH7.4:10mMリン酸バッファー(pH7.4)、140mM NaCl
10mM PBS pH5.5:10mMリン酸バッファー(pH5.5)、140mM
NaCl
【0041】
<結果>
結果を図4に示す。CaP粒子は、リン酸濃度によって大きく安定性が変化する。例えば、pH7.4の状態でリン酸濃度を10mM以上にすると瞬時に凝集する。一方で、pH5.5にすると、リン酸カルシウムが少し溶け出している様子が伺えるものの、そのpH応答性はそれほどない。
【0042】
例4.Gd錯体と炭酸カルシウムの複合体粒子の粒径制御
この実験は、炭酸カルシウム(以下、CaCOと略記する)の沈殿形成の阻害またはある一定以下の粒径の粒子にコントロールされた生成に、特定のブロック共重合体が有効であることを示すものである。
【0043】
<実験方法>
(1)以下の水溶液を調製した。
溶液A:250mM Ca2+(CaClを用いる)
1mM Tris−HCl Buffer(pH7.6)
PEG−PMA 400−3200μg/ml
溶液B:6mM CO2−(NaHCOを用いる)
50mM HEPES Buffer(pH6.6 または 7.1)
140mM NaCl
1mM Gd−DTPA
上記のPEG−PMAは、7800−2000と7500−15500をNa塩に
して使用した。
(2)溶液Aと溶液Bを37℃で混合し、24時間以上37℃で静置した後、例1と同様
に分散体の動的光散乱測定(DLS)により粒径を評価した。
【0044】
<結果>
作製したミセルの粒径に対する仕込みのpH、ポリマーの鎖長、濃度の影響を図8に示す。PEG−PMA(7800−2000)を使用した場合、一見ポリマー濃度やpHによって差があるものの、多分散度が0.2以上あるため、ほとんど粒径制御ができていないことが分かった。PEG−PMA(7500−15500)を使用した場合、ポリマー濃度、pHに関係なく粒径制御できており、粒径が約100nm、多分散度が0.1以下であった。このことから、炭酸カルシウムの粒径制御はアニオンセグメントの長さが粒径
制御に大きく影響していることが分かった。これらの粒径制御は仕込みのGd−DTPAの濃度に全く影響されないことも確認した。
【0045】
例5.CaCO粒子中に取り込まれている(または内包された)Gd−DTPA量の決定
CaCO粒子は例1にしたがって調製したCaCO粒子を、例2に記載したのと同様にGd−DTPAの内包量について定量した。結果を図6に示す。内包量はpH7.1で作製したCaP粒子のものとほぼ同一である。
【0046】
例6.CaCO粒子の安定性評価
pHに応答して粒子が壊れるかどうかを評価するために、pH5.5とpH7.4での安定性評価を行った。
【0047】
<実験方法>
サンプルは例1にしたがって、PEG−PMA(7500−15500)3.2mg/ml pH6.6の条件で作製したものを使用した。次に、細胞外溶液(2mM CaCl、1mM NaHPO、25mM Tris、140mM NaCl)と10mM PBS、&140mM NaCl溶液をそれぞれpH7.4と5.5にあらかじめ調製しておき、サンプル溶液200μlと用意した溶液800μlを混和し、動的光散乱測定を12時間測定し続け、粒径変化を見る。以下に用意した溶液を記す。
10mM PBS pH7.4:10mMリン酸バッファー(pH7.4)、140mM
NaCl
10mM PBS pH5.5:10mMリン酸バッファー(pH5.5)、140mM
NaCl
【0048】
<結果>
結果を図7に示す。pH7.4では、少し粒径や散乱強度の増加が見られるものの、基本的に12時間以上、安定に存在できることを確認した。一方、pH5.5では、一瞬にして粒径及び散乱強度が極端に減少していることが分かる。これは、CaCO粒子がpH5.5では不安定で一瞬にして溶けてしまったことが考えられる。
【0049】
例7.Gd錯体とCaP&CaCOハイブリッド化複合体粒子の粒径制御(その1)
例1、4では、共重合体の濃度やポリマー鎖長を変化させることにより複合体粒子の粒径を調節することを示したが、本例では、共重合体の濃度やポリマーの種類やリン酸と炭酸の比率を変えることにより、該粒径がさらに調節できることを示す。
【0050】
<実験方法>
(1)以下の水溶液を調製した。
溶液A:250mM Ca2+(CaClを用いる)
1mM Tris−HCl Buffer(pH7.6)
PEG−PMA(7500−15500) または PEG−ポリアスパ
ラギン酸(PEG−PAspと略記する。)400−3200μg/ml
溶液B:6mM PO3−(NaHPOを用いる)
50mM HEPES Buffer(pH7.1)
140mM NaCl
1mM Gd−DTPA
溶液C:6mM CO2―(NaHCOを用いる)
50mM HEPES Buffer(pH7.1)
140mM NaCl
1mM Gd−DTPA
上記でPEG−PAspは、
次式、
CHO(CHCHO)−(COCH(CHCOO−)NH)
(CO CHCH(COO−)NH)
で表され、PEGセグメントの分子量が約12000、PAspセグメントの重合
度(x+y)が87と38であるものとを製造して用いた(12−87、12−3
8と略記する)。上記の溶液BとCをそれぞれ100:0、80:20、60:4
0、40:60、20:80、0:100の比に混和し、溶液Dを作製する。
(2)溶液Aと溶液Dを37℃で混合し、24時間以上37℃で静置した後、例1と同様
に分散体の動的光散乱測定(DLS)により粒径を評価した。
【0051】
<結果>
作製したミセルの粒径に対する仕込みのリン酸塩対炭酸塩の比率、ポリマーの種類、濃度の影響を図8に示す。PEG−PMA(7500−15500)を使用した場合、ポリマー濃度3.2mg/mlのときは、リン酸塩対炭酸塩の比率関係なく粒径が変化しないことが分かった。多分散度が0.2以下であることから、この濃度では粒径制御が可能であることが分かった。また、リン酸塩対炭酸塩の比率がリン酸側に偏ると、ポリマー濃度が低くなるほど凝集する傾向になることも分かった。一方、PEG−PAsp(12−87)を使用した場合、粒径制御できるポリマー濃度がPEG−PMA(7500−15500)に比べ、狭い範囲になっていることが分かった。CaCO 100%の時は、低ポリマー濃度に粒径制御ができる濃度範囲があるが、リン酸塩の比率が上がってくると、その粒径制御の範囲は広がり、高ポリマー濃度側にシフトしていき、高ポリマー濃度&高リン酸濃度のほうが、粒径が小さくなる傾向が出た。PEG−PAsp(12−38)を使用した場合、CaP粒子は広い濃度範囲で粒径制御が可能であるが、CaCO粒子は全く形成されない。CaPとCaCOのハイブリッドタイプにすると、リン酸塩の比率が40−100%の時は広い濃度範囲で粒径制御が可能になった。
【0052】
例8.Gd錯体とCaP&CaCOハイブリッド化複合体粒子の粒径制御(その2)
例7では、共重合体の濃度やポリマーの種類やリン酸と炭酸の比率を変えることにより複合体粒子の粒径を調節することを示したが、本例では、例7(([Ca2+]=250mM)と違うCa濃度([Ca2+]=25mM)で、該粒径がさらに調節できることを示す。
【0053】
<実験方法>
(1)以下の水溶液を調製した。
溶液A:25mM Ca2+(CaClを用いる)
1mM Tris−HCl Buffer(pH7.6)
PEG−PMA(7800−2000、7500−15500) または
PEG−PAsp(12−87、12−38)400−3200μg/m

溶液B:6mM PO3−(NaHPOを用いる)
50mM HEPES Buffer(pH7.1)
140mM NaCl
1mM Gd−DTPA
溶液C:6mM CO2−(NaHCOを用いる)
50mM HEPES Buffer(pH7.1)
140mM NaCl
1mM Gd−DTPA
上記の溶液BとCをそれぞれ100:0、80:20、60:40、40:60、
20:80、0:100の比に混和し、溶液Dを作製する。
(2)溶液Aと溶液Dを37℃で混合し、24時間以上37℃で静置した後、例1と同様
に分散体の動的光散乱測定(DLS)により粒径を評価した。
【0054】
<結果>
作製したミセルの粒径に対する仕込みのリン酸塩対炭酸塩の比率、ポリマーの種類、濃度の影響を図9に示す。PEG−PMA(7800−2000)を使用した場合、CaCOはほとんど粒子形成がされなかったが、リン酸塩が20%以上はいると広い濃度範囲で粒子形成が行われること分かった。PEG−PMA(7500−15500)を使用した場合、Ca濃度が低くなったためか、ある限られたポリマー濃度範囲でしかCaCO粒子が形成されないことが確認された。また、リン酸塩比率が大きくなると粒子形成がしやすくなるものの、ポリマー濃度範囲も高濃度側にシフトしていく様子が見えた。PEG−PAsp(12−87)を使用した場合、粒径制御できるポリマー濃度が狭い範囲になっていることが分かった。しかし、ポリマー濃度が0.4mg/mlのときはリン酸塩比率に関係なく粒子形成が行われていた。PEG−PAsp(12−38)を使用した場合、CaP粒子は広い濃度範囲で粒径制御が可能であるが、CaCO粒子は全く形成されない。CaPとCaCOのハイブリッドタイプにすると、リン酸塩の比率が40−100%の時は広い濃度範囲で粒径制御が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】動的光散乱測定によるCaP粒子の粒径測定の結果を示すグラフである。(a)は、PEG−PMA(7800−2000)濃度に対するCaP粒子の粒径のグラフである((△)pH7.1の溶液B、(◇)pH6.6の溶液B)。(b)は、PEG−PMA(7500−15500)濃度に対するCaP粒子の粒径のグラフである((△)pH7.1の溶液B、(◇)pH6.6の溶液B)。
【図2】CaP粒子の図面に代わるTEM画像写真である。サンプルは、溶液Aが3.2mg/ml PEG−PMA(7500−15500)、溶液BがpH7.1のときのものである。ここでは、コアがCaP粒子、シェルがポリマー等の有機分子層の有機無機ハイブリッドミセルができている様子が観察される。
【図3】ICP−MSによるCaP粒子に内包されたGd−DTPAの定量結果を示すグラフ。(a)は、PEG−PMA(7800−2000)濃度に対するCaP粒子のGd内包量のグラフである((△)pH7.1の溶液B、(◇)pH6.6の溶液B)。(b)は、PEG−PMA(7500−15500)濃度に対するCaP粒子のGd内包量のグラフである((△)pH7.1の溶液B、(◇)pH6.6の溶液B)。
【図4】動的光散乱測定によるCaP粒子(PEG−PMA(7500−15500)3.2mg/ml pH6.6)が粒径の経時変化を示すグラフである。ここでは、環境に応答してCaP粒子が壊れていく様子が見える。((□)細胞外液(pH7.4)、(◇)細胞外液(pH5.5)、(△)10mM PBS(pH7.4)&140mM NaCl、(○)10mM PBS(pH5.5)&140mM NaCl)
【図5】動的光散乱測定によるCaCO粒子の粒径測定の結果を示すグラフである。(a)は、PEG−PMA(7800−2000)濃度に対するCaCO粒子の粒径のグラフである((△)pH7.1の溶液B、(◇)pH6.6の溶液B)。(B)は、PEG−PMA(7500−15500)濃度に対するCaCO粒子の粒径のグラフである((△)pH7.1の溶液B、(◇)pH6.6の溶液B)。
【図6】ICP−MSによるCaCO粒子に内包されたGd−DTPAの定量結果を示すグラフ。PEG−PMA(7500−15500)濃度に対するCaCO粒子のGd内包量のグラフである((◇)pH7.1の溶液B)。
【図7】動的光散乱測定によるCaCO粒子(PEG−PMA(7500−15500)3.2mg/ml pH7.1)の粒径の経時変化を示すグラフである。ここでは、環境に応答してCaCO粒子が壊れていく様子が見える。((△)10mM PBS(pH7.4)&140mM NaCl、(○)10mM PBS(pH5.5)&140mM NaCl)
【図8】動的光散乱測定によるCaP&CaCOハイブリッド粒子((Ca2+)=250mM)の粒径測定の結果を示すグラフである。(a)は、PEG−PMA(7500−15500)濃度及び、CaP:CaCO比率に対するCaP&CaCOハイブリッド粒子の粒径のグラフ、(b)は、PEG−PAsp(12−38)濃度及び、CaP:CaCO比率に対するCaP&CaCOハイブリッド粒子の粒径のグラフ、(c)はPEG−PAsp(12−87)濃度及び、CaP:CaCO比率に対するCaP&CaCOハイブリッド粒子の粒径のグラフ、(d)はPEG−PAsp(12−38)濃度及び、CaP:CaCO比率に対するCaP&CaCOハイブリッド粒子の粒径のグラフである((◇)1.6mg/ml、(□)0.8mg/ml、(△)0.4mg/ml、(×)0.2mg/ml)。
【図9】動的光散乱測定によるCaP&CaCOハイブリッド粒子((Ca2+)=25mM)の粒径測定の結果を示すグラフである。(a)は、PEG−PMA(7800−2000)濃度及び、CaP:CaCO比率に対するCaP&CaCOハイブリッド粒子の粒径のグラフ、(b)は、PEG−PMA(7500−15500)濃度及び、CaP:CaCO比率に対するCaP&CaCOハイブリッド粒子の粒径のグラフ、(c)はPEG−PAsp(12−38)濃度及び、CaP:CaCO比率に対するCaP&CaCOハイブリッド粒子の粒径のグラフ、(d)はPEG−PAsp(12−87)濃度及び、CaP:CaCO比率に対するCaP&CaCOハイブリッド粒子の粒径のグラフである((◇)1.6mg/ml、(□)0.8mg/ml、(△)0.4mg/ml、(×)0.2mg/ml)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
ポリ(hph)−block−ポリ(carbo) (I)
(式中、ポリ(hph)は非荷電性親水性ポリマー鎖セグメントを示し、そしてポリ(carbo)は側鎖にカルボキシラートイオン基を有する繰り返し単位を含むポリマー鎖セグメントを示す)
で表される構造を含んでなるブロック共重合体、カルシウムイオン(Ca2+)、リン酸イオン(PO3−)もしくは炭酸イオン(CO2−)またはこれらのアニオンの混合物、および造影剤を必須成分として含んでなる有機−無機ハイブリッド型粒子。
【請求項2】
一般式(I)
ポリ(hph)−block−ポリ(carbo) (I)
(式中、ポリ(hph)は非荷電性親水性ポリマー鎖セグメントを示し、そしてポリ(carbo)は側鎖にカルボキシラートイオン基を有する繰り返し単位を含むポリマー鎖セグメントを示す)
で表される構造を含んでなるブロック共重合体、カルシウムイオン(Ca2+)、および炭酸イオン(CO2−)または炭酸イオンとリン酸イオンの混合物を必須成分として含んでなる造影剤を担持するための有機−無機ハイブリッド型粒子。
【請求項3】
ポリ(hph)がポリエチレングリコール、2−メチル−2−ポリオキサゾリン、2−エチル−2−ポリオキサゾリン、2−イソプロピル−2−ポリオキサゾリン、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸ヒドロキシエチル)およびポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)からなる群より選ばれる水溶性ポリマーに由来し、そしてポリ(carbo)がポリ(アスパラギン酸)、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリル酸)およびポリ(リンゴ酸)からなる群より選ばれるアニオン性ポリマーに由来する請求項1または2記載のハイブリッド型粒子。
【請求項4】
ポリ(hph)がポリエチレングリコールに由来し、そしてポリ(carbo)がポリ(アスパラギン酸)、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリル酸)およびポリ(リンゴ酸)からなる群より選ばれるアニオン性ポリマーに由来する請求項1または2記載のハイブリッド型粒子。
【請求項5】
造影剤がガドリニウム(Gd)、ユーロピウム(Eu)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)および銅(Cu)からなる群より選ばれる金属である請求項1または2記載のハイブリッド型粒子。
【請求項6】
造影剤がガドリニウム(Gd)、ユーロピウム(Eu)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)および銅(Cu)からなる群より選ばれる金属であり、かつ、多座配位子との金属キレートの形態にある請求項1または2記載のハイブリッド型粒子。
【請求項7】
造影剤がガドリニウム(Gd)、ユーロピウム(Eu)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)および銅(Cu)からなる群より選ばれる金属であって、かつ、アミノカルボン酸もしくはリン酸系、ポルフィリン系およびデフェリオックスアミンB系から選ばれる多座配位子との金属キレートの形態にある請求項1または2記載のハイブリッド型粒子。
【請求項8】
多座配位子がアミノカルボン酸もしくはリン酸系である請求項7記載のハイブリッド型粒子。
【請求項9】
アミノカルボン酸もしくはリン酸系多座配位子がエチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエキレンテトラミン六酢酸、エチレングリコールテトラミン四酢酸、テトラアザシクロドデカン四酢酸、テトラアザシクロドデカン三酢酸およびテトラアザシクロドデカン四リン酸からなる群より選ばれる請求項8記載のハイブリッド型粒子。
【請求項10】
請求項1または2記載のハイブリッド型粒子であって、該粒子の水性分散体中における平均粒子径が動的光散乱測定により10〜1000nmである、上記ハイブリッド型粒子。
【請求項11】
一般式(I)
ポリ(hph)−block−ポリ(carbo) (I)
(式中、ポリ(hph)は非荷電性親水性ポリマー鎖セグメントを示し、そしてポリ(carbo)は側鎖にカルボキシラートイオン基を有する繰り返し単位を含むポリマー鎖セグメントを示す)
で表される構造を含んでなるブロック共重合体、カルシウムイオン(Ca2+)および炭酸イオン(CO2−)または炭酸イオンとリン酸イオン(PO3−)の混合物を必須成分として含んでなる有機−無機ハイブリッド型粒子。
【請求項12】
ブロック共重合体が、下記式(II−a)、(II−b)、(III−a)、(III−b)および(IV)で表されるブロック共重合体から選ばれる請求項11記載の有機−無機ハイブリッド型粒子:
【化1】

上記式中、各記号はそれぞれ独立した意味を有し、そして
Aは水素原子または置換もしくは未置換の炭素原子12個までのアルキル基を表し、
Lは直接結合または二価の連結基を表し、
Tは水素原子、ヒドロキシル基または−ZRであって、ここでZは単結合、CO、OもしくはNHを表し、Rは置換もしくは未置換の炭素原子12個までの炭化水素基を表し、
mは4〜2500の整数であり、
nは5〜10000、好ましくは、10〜3000、より好ましくは10〜500の整数であり、そして
x+yまたはzは5〜1000、好ましくは10〜3000、より好ましくは10〜500の整数であるが、但し、存在するカルボキシラートイオンは50%までが上記のアルカリ金属由来の対イオン有するかまたはカルボキシエステル残基を形成することができる。
【請求項13】
Lが連結基を表し、かつ、O、NH、COおよびX(CHYからなる群より選ばれ、ここでXはOCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONHも
しくはCOOを表し、YはNHもしくはCOを表し、pは1〜6の整数を表す、請求項12記載の有機−無機ハイブリッド型粒子。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−143805(P2008−143805A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330436(P2006−330436)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年9月5日 社団法人 高分子学会発行の「高分子学会予稿集 55巻 2号 2006」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年11月27日 日本バイオマテリアル学会発行の「第28回日本バイオマテリアル学会大会 予稿集 2006」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】