説明

造水方法

【課題】
ウイルスを含有する被処理水に凝集剤を添加して凝集水を得た後、凝集液を多孔質膜で膜ろ過して膜ろ過水を得る造水方法において、被処理水中のウイルスの除去率を正確に予測し、それに基づいて凝集剤の添加濃度を制御することで、造水装置全体での低コスト、省エネルギー運転を達成する。
【解決手段】
膜ろ過時に発生する膜由来の膜間差圧をΔPm、膜ろ過前後でのウイルス除去率をVm、凝集剤濃度をC、凝集剤の添加前後でのウイルス除去率をVcとしたときに、ΔPmとVmとの関係およびCとVcとの関係に基づいて、ΔPmの変動に応じてCを制御することを特徴とする造水方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスを含有する被処理水に凝集剤を添加して凝集水を得た後、凝集液を多孔質膜で膜ろ過して膜ろ過水を得る造水方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水処理プロセスに膜処理装置の導入が進められてきているが、従来の水処理プロセスでは除去が困難なクリプトスポリジウム等の成分を除去するのに好適であることが、導入が進められてきた理由の一つである。
【0003】
近年では、クリプトスポリジウムより粒径の小さいウイルス類の除去にも膜処理装置、特に孔径の小さい限外ろ過膜(UF膜)を備えた膜処理装置の導入が進められている。特に近年盛んとなってきている下水再利用において、再利用水の衛生学的安全性の観点からウイルス類の除去も要求される水質項目の一つとなっており、米国カリフォルニア州のTitle22では下水処理水を農業用途に再利用する場合、ウイルス除去率5.2logといった高い除去率を要求している。
【0004】
下水再利用用途にUF膜の適用が進められているが、要求ウイルス除去率が高く、UF膜のみでは要求ウイルス除去率の達成が困難な場合は、その前段に凝集設備を設けたり(特許文献1)、前後に消毒設備を設けたりする(特許文献2)といった対策を実施して、不足するウイルス除去率を補っている。凝集設備を設ける場合では、ウイルスを含む原水に対して凝集剤を添加し、ウイルスをフロック中に取り込むことで膜でのウイルス除去性能を上げる方法が挙げられる。一方、消毒設備を設ける場合では、ウイルスを含む原水に対して塩素等の消毒剤を注入してウイルスを不活化したり、紫外線(UV)を照射することでウイルスを不活化したりする方法が挙げられる。
【0005】
また、膜でのウイルス除去性能の変化に関する知見として、膜でのウイルス除去性能は差圧に応じて変化することが非特許文献1に示されており、差圧と膜ろ過流束から算出されるろ過抵抗がウイルス除去率と相関があることが非特許文献2に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−25143号公報
【特許文献2】特開平11−239789号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Farahbakhsh K. and Smith D. W., 2004, Removal of coliphages in secondary effluent by microfiltration−mechanisms of removal and impact of operating parameters, Water Research, 38(3), 585−592.
【非特許文献2】Lv W., et al, 2006, Virus removal performance and mechanism of a submergedmembrane bioreactor,Process Biochemistry, 41(2), 299−304.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に示されている処理技術は膜での除去性能の変化に関係なく凝集剤の注入濃度や消毒設備の強度が設定されており、処理システムの効率化が図れていない。処理システムの効率化の観点では、膜での除去性能の変化に応じて凝集設備や消毒設備の強度を調整することが望ましい。また、膜での除去性能の変化に関しては、非特許文献1、2に示されているものの、これらの差圧やろ過抵抗に基づいてウイルス除去率を推算した場合では正確性が不十分であり、運転管理を行う上では好適ではなかった。
【0009】
そこで、本発明は、ウイルスを含有する被処理水に凝集剤を添加して凝集水を得た後、凝集液を多孔質膜で膜ろ過して膜ろ過水を得る造水方法において、被処理水中のウイルスの除去率を正確に予測し、それに基づいて凝集剤の添加濃度を制御することで、造水装置全体での低コスト、省エネルギー運転を達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下のとおり構成される。
【0011】
(1)ウイルスを含有する被処理水に凝集剤を添加して凝集水を得た後、凝集液を多孔質膜で膜ろ過して膜ろ過水を得る造水方法であって、膜ろ過時に発生する膜由来の膜間差圧をΔPm、膜ろ過前後でのウイルス除去率をVm、凝集剤濃度をC、凝集剤の添加前後でのウイルス除去率をVcとしたときに、ΔPmとVmとの関係およびCとVcとの関係に基づいて、ΔPmの変動に応じてCを制御することを特徴とする造水方法。
【0012】
(2)ウイルスを含有する被処理水に凝集剤を添加して凝集水を得た後、凝集液を多孔質膜で膜ろ過して膜ろ過水を得る造水方法であって、膜ろ過時に発生する膜由来のろ過抵抗をRm、膜ろ過前後でのウイルス除去率をVm、凝集剤濃度をC、凝集剤の添加前後でのウイルス除去率をVcとしたときに、RmとVmとの関係およびCとVcとの関係に基づいて、Rmの変動に応じてCを制御することを特徴とする造水方法。
【0013】
(3)VmおよびVcが、次式(1)および(2)で表されることを特徴とする(1)または(2)に記載の造水方法。
Vc=1−{(凝集液中の浮遊態ウイルス濃度)/(被処理水中の浮遊態ウイルス濃度)}
Vm=1−{(膜ろ過水中の浮遊態ウイルス濃度)/(凝集液中の浮遊態ウイルス濃度)}
(4)浮遊態ウイルスが、平均孔径が多孔質膜の最大孔径の1倍以上100倍以下であるフィルターによってろ過されたろ液中のウイルスであることを特徴とする(3)に記載の造水方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、除去対象となる被処理水中のウイルスの除去率を正確に予測することが可能となり、それに基づいて凝集剤の添加濃度を制御することで、造水装置全体での低コスト、省エネルギー運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の水処理装置の一実施態様を示すフロー図である。
【図2】本発明の膜処理ユニットにて発生する圧力損失のイメージ図である。
【図3】本発明の膜処理ユニット1におけるろ過抵抗Rmとウイルス除去率Vmとの関係図である。
【図4】本発明の凝集ユニット2における凝集剤(PAC)濃度Cとウイルス除去率Vcとの関係図である
【図5】本発明の制御ユニット21におけるろ過抵抗Rmと凝集剤(PAC)濃度Cの関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に関する水処理装置の運転方法ならびに水処理装置について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明の範囲がこれらに限られるものではない。
【0017】
図1は本発明に係る水処理装置の概略図である。
【0018】
この水処理装置は、被処理水を処理する膜処理ユニット1と、その前段に備えられた凝集ユニット2と、膜処理ユニット1の前後に備えられた第1の圧力計11ならびに第2の圧力計12、流量計13、温度計14と、それぞれの指示値Pin、Pout、f、Tを基に凝集ユニット2の凝集条件を調整する制御ユニット21で構成されている。本水処理装置においては、除去対象となる被処理水中に含まれるウイルスは膜処理ユニット1と凝集ユニット2によって除去される。なお、流量計13ならびに温度計14は膜処理ユニット1の後段に備えてもよい。
【0019】
膜処理ユニット1でのウイルスの除去率、すなわち膜ろ過前後でのウイルス除去率Vmは、運転を継続するに従い進行する膜細孔の閉塞やケーク層の蓄積により上昇する。そのため、膜処理ユニット1でのウイルスの除去率は、膜細孔の閉塞やケーク層の蓄積により上昇する膜処理ユニット1の膜間差圧ΔP(=Pin−Pout)と相関関係にある。
【0020】
一方、凝集ユニット2におけるウイルスの除去率、すなわち凝集剤の添加前後でのウイルス除去率Vcは、凝集ユニット2における凝集剤濃度Cによって変動する。一般的には凝集剤濃度Cを増大させることでウイルスの除去率Vcは増加し、反対に凝集剤濃度Cを低減することでウイルスの除去率Vcは減少する。
【0021】
そのため、凝集ユニット2における凝集剤濃度Cが一定である場合、運転を継続するに従い膜処理ユニット1におけるウイルスの除去率Vmが上昇することで、膜処理ユニット1と凝集ユニット2を合わせた合計のウイルスの除去率は増加することとなる。水処理装置全体に要求されるウイルスの除去率が一定である場合、運転を継続するに従い水処理装置全体でのウイルスの除去率は上昇するが、その結果ウイルスを過剰に除去することとなり、コスト、エネルギーの観点から過剰な処理を施していることとなる。そのため、膜処理ユニット1におけるウイルスの除去率Vmの上昇に従い、凝集ユニット2における凝集剤濃度Cを低減することがコスト、エネルギー低減の観点から有効である。
【0022】
そこで、制御ユニット21を用いて、膜処理ユニット1の膜間差圧ΔPの変動に伴い凝集ユニット2における凝集剤濃度Cを調整する。膜間差圧ΔPが上昇した場合には凝集ユニット2における凝集剤濃度Cを低減し、過剰な処理を抑制する一方、ΔPが低下した場合は、凝集ユニット2における凝集剤濃度Cを増大させることで、要求される除去率を達成しながら凝集剤の添加濃度を低減することができる。
【0023】
しかしながら、膜間差圧ΔPと膜処理ユニット1におけるウイルス除去率Vmには一部相関関係がない場合もあり、膜処理ユニット1におけるウイルス除去率Vmを正確に予測することが困難である。そこで本発明の造水方法では、膜処理ユニット1におけるウイルス除去率Vmの予測に膜由来の膜間差圧ΔPmを用いることでこの問題を解決可能な技術を提供する。
【0024】
ΔPmは、式(1)、図2に示したようにΔPから配管やモジュールで発生する圧損ΔPlossや膜面に堆積したケーク層で発生する圧損ΔPcakeを差し引くことで算出される。
ΔPm=ΔP−ΔPloss−ΔPcake ・・・式(1)
ΔPlossは配管形状やモジュール形状、さらには膜ろ過流束(単位膜面積あたりの膜ろ過流量)により異なるため、水処理装置、運転条件に応じた圧力損失を算出する必要があるが、運転条件が一定であれば所定の値をとる定数である。ΔPcakeはろ過サイクルの開始から所定時間ろ過した際に上昇した膜間差圧から算出される値であるが、所定時間ろ過した際に上昇した膜間差圧から空気洗浄や逆圧洗浄などの物理洗浄では回復しない膜間差圧を引いて算出された値を用いることもできる。
【0025】
対象成分の除去率を正確に予測する上では、ΔPmを用いることが好ましい。これはΔPlossやΔPcakeを含む膜間差圧ΔPを用いた場合、膜間差圧ΔPの値としては増加するがそれに伴ってウイルスの除去率が上昇しない場合もあり、要求ウイルス除去率を達成できない場合があるためである。
【0026】
さらに好ましくは、前記膜間差圧ΔPmと膜ろ過流束J、粘性係数μから、式(2)にて算出される膜ろ過時に発生する膜由来のろ過抵抗Rmを用いることである。なお膜ろ過流束Jは流量計13の指示値fと膜処理ユニット内の多孔質膜の膜面積から計算される値であり、粘性係数μは温度計14の指示値Tにおける値である。
【0027】
Rm=ΔPm/μJ ・・・式(2)
ΔPmは膜ろ過流束により変動するパラメータであり、運転期間中に膜ろ過流束Jを変更した場合は、変更後の膜ろ過流束JにおけるΔPmとウイルスの除去率の関係を把握しておく必要があるのに対し、ろ過抵抗Rmは膜ろ過流束には影響を受けないパラメータであることから、事前のデータ取得や運転期間中の制御方法がより簡便となる。
【0028】
膜間差圧ΔPmもしくはろ過抵抗Rmに基づいて凝集ユニット2における凝集剤濃度Cを調整する制御ユニット21については特に制限はないが、予め把握された膜間差圧ΔPmやろ過抵抗Rmとウイルス除去率Vmの関係ならびに凝集剤濃度Cとウイルス除去率Vcの関係に基づき、式(3)のように凝集剤濃度Cを膜間差圧ΔPmやろ過抵抗Rmの関数Fとして表した関係式に基づいて、制御する方法が好ましい。
【0029】
C=F(ΔPm)、 C=F(Rm) ・・・式(3)
式(3)において関数Fについては特に制限はないが、膜間差圧ΔPmやろ過抵抗Rmに対して連続的に変化する関数や不連続的に変化する関数が適用できる。しかし、膜間差圧ΔPmやろ過抵抗Rmは物理洗浄や薬品洗浄によって値が大きく上下するため、不連続的に変化する関数を用いて制御する方法が好ましい。また凝集剤濃度Cを調整するタイミングとしては、値の変動に応じて調整する方法も挙げられるが、膜間差圧ΔPmやろ過抵抗Rmが所定の値を所定時間超過あるいは下回り続けた後に増減するといった方法を用いることが好ましい。
【0030】
次に、ウイルス除去率Vmならびにウイルス除去率Vcは式(4)、(5)にて算出された値を用いることが好ましい。
【0031】
Vm=1−{(膜ろ過水中の浮遊態ウイルス濃度)/(凝集液中の浮遊態ウイルス濃度)} ・・・式(4)
Vc=1−{(凝集液中の浮遊態ウイルス濃度)/(被処理水中の浮遊態ウイルス濃度)} ・・・式(5)
水中のウイルス濃度の測定方法としては測定対象となるウイルスにより種々の方法があるが、培養にてウイルス数を計数する方法や、PCRにてウイルス遺伝子のコピー数を計数する方法等を用いることができる。
【0032】
ここで式(4)、(5)に示した浮遊態ウイルスについて述べる。浮遊態ウイルスとは、濁質に吸着もしくは付着しておらず、遊離している状態で存在するウイルスを示し、一方濁質に吸着もしくは付着しているウイルスを懸濁態ウイルスとしている。これら2つの形態のウイルスは、所定の孔径を有するフィルターにて分離した後、培養法やPCR法にてウイルス濃度を測定する。
【0033】
膜処理ユニット1においては、懸濁態ウイルスは100%除去でき、浮遊態ウイルスについては所定の除去率で除去することとなる。膜処理ユニット1におけるウイルス除去率Vmを評価するに当たり、懸濁態ウイルスは100%除去可能であることから、浮遊態ウイルスの除去率を正確に評価することが重要となる。浮遊態ウイルスと懸濁態ウイルスの両画分に存在する総ウイルス濃度にて除去率を評価した場合、膜での除去率を過大評価する可能性があり、ウイルス除去率の正確な評価は困難である。そのため膜処理ユニット1におけるウイルス除去率Vmを評価する際には式(4)を用いることが好ましい。
【0034】
また凝集ユニット2においては、被処理水中に存在するウイルス、特に浮遊態ウイルスを凝集させ、懸濁態ウイルスとすることでその後の膜処理ユニット1で除去可能な画分に移行させることが凝集ユニット2におけるウイルス除去である。凝集ユニット2におけるウイルス除去率Vcを評価するに当たり、総ウイルス濃度にて評価した場合、ウイルスの形態は浮遊態から懸濁態へと変化するが総ウイルス濃度には大きな変化はなく、除去率の評価が困難である。そのため、凝集ユニット2においてはウイルス除去率Vcを評価する際には浮遊態ウイルスから懸濁態ウイルスへの移行度を表す式(5)を用いることが好ましい。
【0035】
さらに、ウイルス除去率Vm、Vcは対数表記で記載してもよい。すなわち式(4)、(5)の代わりに式(6)、(7)にて算出された値を使用しても、同様に評価可能である。
【0036】
Vm=log{(凝集液中の浮遊態ウイルス濃度)/(膜ろ過水中の浮遊態ウイルス濃度)} ・・・式(6)
Vc=log{(被処理水中の浮遊態ウイルス濃度)/(凝集液中の浮遊態ウイルス濃度)} ・・・式(7)
次に、浮遊態ウイルスと懸濁態ウイルスを分離するフィルターの平均孔径は、膜処理ユニット1に使用される多孔質膜の最大孔径よりも大きな孔径であることが好ましい。多孔質膜の最大孔径よりも平均孔径が小さいフィルターを用いた場合、当該フィルターで分離された懸濁態ウイルスの中にも膜を通過するウイルスが存在する可能性が高くなり、膜におけるウイルス除去率の評価が不正確なものとなる。一方、多孔質膜の最大孔径よりも平均孔径が過剰に大きなフィルターにて分画した場合、浮遊態ウイルスに分画されたウイルスのほとんどが膜で除去される可能性があり、正確な浮遊態ウイルス除去率の評価はできない。そのため分画に用いられるフィルターの平均孔径としては多孔質膜の最大孔径の1倍以上100倍以下、さらに好ましくは1倍以上10倍以下である。
【0037】
なお、本発明における多孔質膜の最大孔径ならびにフィルターの平均孔径の評価方法は以下の通りである。多孔質膜の最大孔径はバブルポイントによって決められる。なおバブルポイントの測定方法は、基本的にはJIS K 3832(1990)に準じる。フィルターの平均孔径は次のように求める。逆浸透膜透過水、蒸留水などの精製水に任意の平均粒径のポリスチレンラテックス微粒子を10ppm程度の濃度になるように分散させてなる原液を用い、原液を撹拌しながら温度25℃、10kPa程度のろ過差圧を駆動力に分離膜を透過させ、原液と透過液についてそれぞれの濃度から、式(8)によって阻止率を求める。
【0038】
阻止率=[(原液濃度−透過液濃度)/原液濃度]×100 ・・・式(8)
平均粒径が異なる数種類以上のポリスチレンラテックス微粒子について阻止率を求め、ポリスチレンラテックス微粒子平均粒径と阻止率の関係をプロットしてなめらかに結び、阻止率が90%となるポリスチレンラテックス微粒子の平均粒径を平均孔径とする。このましくは阻止率が99%となるポリスチレンラテックス微粒子の平均粒径を平均孔径とすることであり、さらに好ましくは阻止率が99.9%となるポリスチレンラテックス微粒子の平均粒径を平均孔径とすることである。
【0039】
また分離に用いるフィルターの素材に特に制限はないが、ウイルス粒子の吸着性が低い親水性の素材を用いることが好ましい。
【0040】
本発明における膜処理ユニット1に用いる膜についても特に制限はなく、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、ナノろ過膜(NF膜)、逆浸透膜(RO膜)といった様々な孔径の膜を、目的とするウイルスに応じて適宜選択し、用いることができるが、本発明における運転方法の効果が顕著に現れるのがウイルス粒子の粒径に近い孔径を持つMF膜、UF膜である。さらに好ましくは、よりウイルス類の大きさと孔径の近いUF膜を用いることである。UF膜の孔径は一般的には10nm〜100nmであるが、平均孔径が10nm〜20nmのUF膜を用いることが好ましい。NF膜、RO膜を用いてもウイルス類は完全に除去可能であるが、運転にかかるコスト、エネルギーが高くなる問題点がある。
【0041】
なお、UF膜の平均孔径は、UF膜の任意の表面を走査型電子顕微鏡で観察し、無作為に抽出した10〜50個の孔径の平均をとることで測定されるものである。
【0042】
また、膜の材質についても特に制限はなく、有機素材や無機素材を用いることができる。有機素材を使用する場合、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、およびクロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース等が使用でき、無機素材を使用する場合はセラミック等が使用できる。この中でも膜孔径を小さく制御可能な有機素材を使用することが好ましい。
【0043】
膜の形状についても中空糸型や、平膜型や、スパイラル型や、チューブラ型の膜を用いることができる。膜モジュールについても特に制限はなく、目的に応じて加圧型、浸漬型のモジュールを適宜選択し、用いることができる。
【0044】
次に、凝集ユニット2においてウイルス除去率Vcを制御するパラメータとしては、ウイルス除去率Vcに及ぼす影響の大きさを鑑み凝集剤濃度を用いることが好適であるが、その他のパラメータを用いることも可能であり、撹拌強度や撹拌時間、さらにはpHといったパラメータを適用することも可能である。凝集ユニット2における凝集方法についても特に制限はなく、膜処理設備1の前段に撹拌槽を設け、所定の強度、時間撹拌する方法や、膜処理設備1前段の配管中に凝集剤注入設備を設け、その後ラインミキサーで撹拌するといった方法を用いることができる。また、膜処理設備1の前段に撹拌槽と沈殿槽を設け、凝集沈殿処理といった方法も用いることができる。また、凝集剤についても特に制限はなく、ポリ塩化アルミニウム(PAC)や塩化第二鉄(FeCl)、ポリシリカ鉄(PSI)といった無機系凝集剤や高分子凝集剤を用いることができるが、ウイルス類は一般的に水中では負に帯電していることから、カチオン系の凝集剤を用いることが好ましい。
【0045】
さらには凝集ユニット2の代わりに塩素処理ややオゾン処理、UV処理といった消毒ユニットを用いることも可能である。すなわち膜処理ユニット1のΔPmもしくはRmに応じて消毒剤注入量や、接触時間を調整することで、凝集ユニットと同様に効率的な消毒を実施可能である。なお消毒ユニットは、消毒効率の観点から膜処理ユニットの後段に備えることが好適である。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
下水二次処理水を被処理水として、図1に示した水処理装置を用いて試験を実施した。本実施例では大腸菌ファージであるMS2をモデルウイルスとして、水処理装置全体で5.2logのウイルス除去率を達成できるよう試験を実施した。
【0048】
被処理水は配管中に備えられた凝集剤注入ユニットから凝集剤を注入され、ラインミキサーにて撹拌された後、UF膜に導入した。この時、膜ろ過流束は2m/dにて運転を行った。凝集剤にはポリ塩化アルミニウム(PAC)を用い、UF膜には東レ(株)製中空糸型UF膜(公称孔径0.01μm)を用いた。
【0049】
予めUF膜におけるろ過抵抗Rmとウイルス除去率の関係ならびに凝集ユニット2におけるPAC濃度とウイルス除去率の関係を測定した結果、図3、4のような関係性が得られた。なお、浮遊態ウイルスと懸濁態ウイルスの分画には、孔径0.45μmのメンブレンフィルター(ADVANTEC製)を用いた。
【0050】
制御ユニット21においては図5に示したように、ろ過抵抗RmとPAC濃度の関係を入力し、ろ過抵抗Rmが変動した場合、図5の関係性に基づいてPAC濃度を調整する制御を実施した。
【0051】
その結果、全運転期間を通してウイルス除去率5.2log以上を達成することができた。さらに、平均のPAC濃度は13.4ppmとなり、PAC濃度を抑制しながら運転することができた。
【0052】
<比較例1>
制御ユニットにおいて、ろ過抵抗Rmの値に関わらずPAC濃度を30ppmに調整する制御を実施した以外は、実施例1に記載した方法と同様の方法で試験を行った。
【0053】
その結果、全運転期間を通してウイルス除去率5.2log以上を達成することができた。一方平均のPAC濃度は30ppmであり、実施例1と比較して倍以上の凝集剤を使用する結果となった。
【0054】
<比較例2>
制御ユニットにおいて、ろ過抵抗Rmではなく、ΔPを用いてPAC濃度を調整する制御を実施した以外は、実施例1に記載した方法と同様の方法で試験を行った。
【0055】
その結果、PAC濃度は実施例1と同水準まで抑制しながら運転することができたが、全運転期間のうち5%の期間でウイルス除去率5.2logを達成できていなかった。
【0056】
<比較例3>
制御ユニットにおいて、ろ過抵抗Rmではなく、式(9)にて算出されるろ過抵抗Rを用いてPAC濃度を調整する制御を実施した以外は、実施例1に記載した方法と同様の方法で試験を行った。
【0057】
R=ΔP/μJ ・・・式(9)
その結果、PAC濃度は実施例1と同水準まで抑制しながら運転することができたが、全運転期間のうち5%の期間でウイルス除去率5.2logを達成できていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、ウイルスを含有する被処理水に凝集剤を添加して凝集水を得た後、凝集液を多孔質膜で膜ろ過して膜ろ過水を得る造水方法が適用される浄水場ならびに下水処理場、さらには下水再生処理場において好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1:膜処理ユニット
2:凝集ユニット
11:第1の圧力計
12:第2の圧力計
13:流量計
14:温度計
21:制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスを含有する被処理水に凝集剤を添加して凝集水を得た後、凝集液を多孔質膜で膜ろ過して膜ろ過水を得る造水方法であって、膜ろ過時に発生する膜由来の膜間差圧をΔPm、膜ろ過前後でのウイルス除去率をVm、凝集剤濃度をC、凝集剤の添加前後でのウイルス除去率をVcとしたときに、ΔPmとVmとの関係およびCとVcとの関係に基づいて、ΔPmの変動に応じてCを制御することを特徴とする造水方法。
【請求項2】
ウイルスを含有する被処理水に凝集剤を添加して凝集水を得た後、凝集液を多孔質膜で膜ろ過して膜ろ過水を得る造水方法であって、膜ろ過時に発生する膜由来のろ過抵抗をRm、膜ろ過前後でのウイルス除去率をVm、凝集剤濃度をC、凝集剤の添加前後でのウイルス除去率をVcとしたときに、RmとVmとの関係およびCとVcとの関係に基づいて、Rmの変動に応じてCを制御することを特徴とする造水方法。
【請求項3】
VmおよびVcが、次式(1)および(2)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の造水方法。
Vc=1−{(凝集液中の浮遊態ウイルス濃度)/(被処理水中の浮遊態ウイルス濃度)}
Vm=1−{(膜ろ過水中の浮遊態ウイルス濃度)/(凝集液中の浮遊態ウイルス濃度)}
【請求項4】
浮遊態ウイルスが、平均孔径が膜多孔質膜の最大孔径の1倍以上100倍以下であるフィルターによってろ過されたろ液中のウイルスであることを特徴とする請求項3に記載の造水方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−86069(P2013−86069A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231436(P2011−231436)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り The 4th IWA−ASPIRE Organizing Committee、The 4th IWA−ASPIRE Conference&Exhibition 予稿集、発行日平成23年10月2日
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】