説明

造水装置

【課題】膜蒸留による造水装置であって、簡易な構造からなる簡易な設備で、煩雑な操作も必要とせずに、海水等の処理水から浄水を回収でき、かつ運転コストも低い造水装置を提供する。
【解決手段】内部に気相部を有する筒状容器、前記気相部内に設けられ、水を透過しないが水蒸気は透過する疎水性多孔質膜により形成されている処理水流路、一端が前記筒状容器の外側面に接続して前記気相部に通気可能に連結しかつ他端が浄水槽に連結している冷却管、及び浄水槽を有することを特徴とする造水装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水や汚水等から膜蒸留により、飲用等に利用可能な浄水を取り出すための造水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活に必要な水資源の確保のために、海水、使用済みの生活排水、人体に毒性のある成分を含む井戸水等、飲用等の利用に適さない水(以下、「処理水」と言うことがある。)から、利用可能な水(浄水、淡水)を分離回収するための造水技術が検討されている。
【0003】
海水等から塩分や有毒成分等を含まない浄水を分離回収する造水技術としては、水から発生させた水蒸気を冷却し凝結して回収する蒸発法と、水を通すが塩分等を通さない逆浸透膜に浸透圧以上の高圧をかけて濾過して水を分離回収する逆浸透法に大きく分類される。蒸発法としては、フラッシュ法、効用缶法等とともに、海水等を加熱して、塩分や水は透過しないが水蒸気は透過する疎水性多孔質膜の一方の面に接触させ、膜を透過してくる水蒸気を他方の面から回収する膜蒸留法が知られている。
【0004】
逆浸透法には、高圧ポンプの設置費用とそれを運転する電力の費用及び膜の洗浄等のメンテナンス費用が問題点として指摘されている。一方、一般に蒸発法では蒸気を発生させるための大容量の設備と熱源を要する点が問題であるが、膜蒸留法では、疎水性多孔質膜をモジュール化することで設備をコンパクトにすることが可能であり、蒸発法の問題として指摘されている設備の大型化の問題は緩和されている。さらに、他の蒸発法に比して比較的低温の水、例えば80℃以下の水を処理できるので、熱源の問題もクリアしやすく、太陽光の利用による運転コストの低減も容易である。
【0005】
そこで、近年、その検討が盛んに行われており、例えば、特許文献1では、「海水または黒みを帯びた水または工程水から脱塩水を生じさせる目的で液体を膜蒸留で浄化する方法」が記載されている。又、特許文献2では、熱源として太陽光を利用した膜蒸留による海水浄水化装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−519001号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平9−1143号公報(請求項1、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、途上国等において、設置が簡単、安価であって、設置後の操作や保守も容易な造水システムが求められている。しかし、前記の造水装置、造水システムは、装置の複雑さの点で、又は、その運転に煩雑な操作を要するので、これらの要望を満たすものではない。
【0008】
そこで、より簡易な構造で、メンテナンス等が容易な造水システム、造水装置が望まれている。中でも、砂漠地帯等で、簡易な構造で使用が容易であり運転コストも低い凝結手段を有する造水装置が望まれている。砂漠地帯では、太陽光が豊富であり水の加熱手段や蒸発手段の確保は比較的容易であるが、蒸気を回収して水に戻す凝結手段の確保、設置が困難であるので、設置や使用が容易で運転コストも低い凝結手段を有する造水装置が望まれるのである。
【0009】
本発明は、従来技術に対する前記の要望を満たす造水装置であり、膜蒸留による造水装置であって、簡易な構造からなる簡易な設備で、煩雑な操作も必要とせずに、海水等の処理水から浄水を回収でき、かつ運転コストも低い造水装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討をした結果、疎水性多孔質膜からなる処理水流路をその内部に有する筒状の蒸発モジュールの外筒に、複数の中空管からなる冷却部(冷却管)を複数接続するとの簡易な設備により、疎水性多孔質膜の外表面から発生した蒸気が、前記の冷却管内に導かれ、この冷却管内で凝結して飲用等に利用可能な浄水を取り出すことができることを見出し、本発明を完成した。すなわち、前記の課題は以下に述べる構成からなる造水装置により達成される。
【0011】
請求項1の発明は、内部に気相部を有する筒状容器、前記気相部内に設けられ、水を透過しないが水蒸気は透過する疎水性多孔質膜により形成されている処理水流路、一端が前記筒状容器の外側面に接続して前記気相部に通気可能に連結しかつ他端が浄水槽に連結している冷却管、及び浄水槽を有することを特徴とする造水装置である。
【0012】
この発明では、筒状容器及びその内部に設けられた処理水流路により、処理水の蒸発部(蒸発モジュール)が構成されている。処理水流路は、筒状容器の内部の気相部に設けられており、又、疎水性多孔質膜により形成されている。この疎水性多孔質膜は、水をはじく疎水性の材質からなり、水蒸気を透過させるための微細な貫通孔(気孔)を多数有する膜である。
【0013】
疎水性の材質の種類及び気孔の孔径は、気体である水蒸気を透過し、液体である処理水(水を含んだ液体)を透過しない範囲で選択される。すなわち、水蒸気が透過しやすいほど造水効率(造水速度)が向上するので、疎水性多孔質膜には、水蒸気の透過しやすさが求められる。そして、水蒸気の透過しやすさのためには孔径は大きい方が好ましい。しかし、孔径が大きいと処理水の透過(漏出)が生じやすくなる。そこで両者を考慮して最適な孔径が選択される。
【0014】
又、水蒸気の透過しやすさのためには、膜の体積に占める気孔の体積の割合すなわち気孔率は高い方が好ましく、又膜も薄い方が好ましい。しかし、膜には、操業中に処理水から受ける圧力に十分耐える機械的強度が求められるので、両者を考慮して最適な気孔率や膜の厚みが選択される。
【0015】
処理水が処理水流路を通るときに、処理水より生じた水蒸気は、前記疎水性多孔質膜を通り、前記気相中に放出する。この時、処理水中の塩分やその他の(不揮発性)不純物は疎水性多孔質膜を通ることができないので、除去される。
【0016】
造水効率は、蒸発部と凝結部の蒸気圧差、すなわち温度差が大きいほど向上する。従って、造水効率の向上のために、処理水の温度の上昇が望まれる。そこで、好ましくは、処理水流路に処理水が流入する前に、処理水の加温手段が設置される。処理水の加温手段としては、太陽光加熱装置、工場の廃熱を使用した加熱装置等が挙げられる。砂漠地帯では、太陽光の利用が容易であり太陽光加熱装置が好ましく用いられる。又、特別な装置を設けず、蒸発モジュールへ処理水が流入する流路(配管)を温度の高い地表等に設けて処理水を加熱する方法も考えられ、この方法は、システムの簡単化のためには好ましい。
【0017】
筒状容器の外側面には、複数本の冷却管の一端が接続されており、この冷却管は筒状容器内の気相部に通気可能に連結している。従って、前記気相部に放出された水蒸気は、この冷却管に導かれこの管内で凝結する。凝結により生じた水は、塩分や不純物を含まない浄水である。すなわち、冷却管によりこの造水装置の凝結部が構成されている。
【0018】
冷却管の他端は、浄水槽に接続している。凝結により生じた浄水は浄水槽に貯留し、適時浄水槽から抜き出され使用に供せられる。造水効率は、凝結部における凝結面の面積、すなわち冷却管の内壁の面積にも依存する。又、冷却管が細いほど、管により蒸気が冷却されやすく凝結効率がよい。そこで、冷却管の内壁の面積を大きくし、凝結効率を高めるためには、長く細い冷却管を多数設けることが好ましい。一方、冷却管が長く細くなると水蒸気の流通が妨げられ、凝結水により閉塞される場合も生じやすくなるので、これらの問題を考慮しながら最適の長さ、細さ、本数が選択される。
【0019】
このように本発明の造水装置では、蒸発モジュールと浄水槽は分離、独立しておりそれらの間には冷却管、好ましくは長くかつ細い冷却管が設けられている。蒸発モジュール内では、長期間使用した場合の汚染等により、疎水性多孔質膜の膜壁表面が水に濡れやすくなり、処理水が蒸発モジュールの気相部内に漏れる場合がある。しかし、この漏れが生じても、蒸発モジュールと浄水槽間は長くかつ細い冷却管により分離されているので、漏れた処理水が浄水へ混合することはなく、浄水の汚染は防がれている。
【0020】
冷却管をその外部より冷却することによっても、蒸発部と凝結部の蒸気圧差、すなわち温度差を大きくし、凝結による浄水の生成速度を上げ、造水効率を向上することができる。冷却管の冷却は、冷却水槽や冷却水の循環システム等の特別な冷却手段を設けて行うことができるが、冷却管を温度の低い環境に設置するだけとの簡易な方法により行うこともできる。温度の低い環境としては、海水や河川水中、地下の地中や地下水中、外気例えば夜間の冷気等を挙げることができ、この方法によれば、特別な冷却手段を設ける必要はなく、冷却管を温度の低い環境中に露出させるだけとの簡易な設備で冷却管の冷却を行うことができる。
【0021】
すなわちこの造水装置では、冷却管が凝結部の作用をしており、特別な冷却手段を設けることなく浄水を造水することができる。従って、簡易な構造からなる簡易な設備であり、設備の大型化、複雑化の問題もなく、必要な操作は、処理水をその流路中に通すだけであるので煩雑な操作も必要とせずに海水等の処理水から浄水を回収できる。さらに、この造水装置は、80℃以下の比較的低温の処理水を用いた場合でも運転が可能であり、太陽光等の利用により処理水の加熱のコストを低くすることができるので運転コストも低い。
【0022】
請求項2の発明は、前記疎水性多孔質膜が、中空糸状疎水性多孔質膜であり、その中空が処理水流路であることを特徴とする請求項1に記載の造水装置である。
【0023】
造水効率は、蒸発部における蒸発面の面積にも依存する。すなわち、造水効率の向上のためには、蒸発面である疎水性多孔質膜の面積が大きいことも望まれる。疎水性多孔質膜を管状の疎水性多孔質膜とすることにより、同じ体積で大きな膜面積が得られ、蒸発モジュール内にその体積に比し広い面積の疎水性多孔質膜を設置できるので好ましい。
【0024】
管状の疎水性多孔質膜の中でも、従来の蒸発モジュールに広く用いられている中空糸状疎水性多孔質膜が、その柔軟性、加工性の点からも好ましく用いられる。中空糸状の疎水性多孔質膜を用いることで本発明の目的である簡易な構造からなる設備で、煩雑な操作も必要とせずに海水等から淡水を回収でき、かつ運転コストも低い造水システムが容易に得られる。
【0025】
請求項3の発明は、前記疎水性多孔質膜が、ポリテトラフルオロエチレンの延伸多孔質膜であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の造水装置である。疎水性多孔質膜を形成する疎水性の材質としては、その機械的強度、耐薬品性、作りやすさの点でポリテトラフルオロエチレンの延伸多孔質体が好ましい。
【0026】
請求項4の発明は、前記冷却管が、柔軟な樹脂からなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の造水装置である。
【0027】
冷却管の材質としては、冷却管をその外部より冷却し造水効率を向上するためには、蒸気の熱を周囲にすばやく伝達する熱伝導率が高い材質が好ましい。又、蒸発モジュール、浄水槽及びそれらを連結する多数の長い冷却管を、地形やその他の状況に応じて柔軟に対応して設置するためには、柔軟性、加工性に優れた材質からなる冷却管が好ましい。
【0028】
熱伝導性の点からは、冷却管は、金属製、さらに常時凝結水と接することから防錆性に優れたステンレス製とすることが望ましい。しかし、金属は、柔軟性、加工性に劣る問題がある。コスト面、軽量であること、柔軟性、加工性に優れ、可撓性による扱いやすさの面からは樹脂製の冷却管が好適である。
【0029】
特に、柔軟性、加工性に優れ、かつ熱伝導率が高い樹脂製が好ましい。この樹脂としては、柔軟性、加工性に優れた樹脂中に、熱伝導率が高いフィラー(熱伝導性フィラー)を分散させた樹脂組成物を挙げることができる。熱伝導性フィラーとしては、カーボンを挙げることができる。請求項5の発明は、この態様に該当し、前記冷却管がカーボンを含有した熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の造水装置である。
【0030】
又、柔軟性、加工性に優れた樹脂としては、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂が好ましい。特に、電子線の照射により架橋されたポリオレフィンは、機械的強度等に優れるので好ましい。請求項6の発明は、この態様に該当し、前記熱可塑性樹脂が電子線架橋されたポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の造水装置である。
【0031】
冷却管の形状は、中空糸状の冷却管が、同じ体積で大きな内壁面積が得られるので好ましい。柔軟性、加工性に優れ、かつ熱伝導率が高い樹脂からなり、長い中空糸状の冷却管を多数設けることにより、本発明の目的である簡易な構造・操作で造水できる造水システムを得ることがより容易となる。
【0032】
請求項7の発明は、前記筒状容器を覆うように前記冷却管を配置していることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の造水装置である。
【0033】
前記のように、造水効率の向上のためには、冷却管は、冷却するか、温度の低い環境に置くことが好ましい。一方、蒸発モジュールは、蒸発熱以外による処理水の冷却がされないように保温されることが好ましい。そこで、蒸発モジュールの外周を多数の冷却管の束により覆うことが好ましい。冷却管の束により覆われた蒸発モジュールを、低温の環境に置くことにより、冷却管を冷却することができるが、この場合でも、蒸発モジュールを覆う冷却管の束により、蒸発モジュールを低温の環境と遮断できるし、又冷却管内での水蒸気の凝結により生じる凝結熱により、蒸発モジュールを保温することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の造水装置は、筒状容器内に疎水性多孔質膜からなる処理水流路を設けた蒸発モジュールの外筒に、複数の冷却管を接続するとの簡易な構造であって、設備の大型化、複雑化の問題もなく、又その運転に煩雑な操作も必要としない。さらに、比較的低温の処理水を用いた場合でも運転が可能であり処理水の加熱のコストを低くすることができる等、運転コストも低いものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の造水装置の一例を模式的に表す断面図である。
【図2】本発明の造水装置の一例の一部切欠き斜視図である。
【図3】本発明の造水装置の一例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、本発明を実施するための形態を具体的に説明する。なお、本発明はこの形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない限り、他の形態へ変更することができる。
【0037】
本発明の造水装置により処理される処理水としては、摂取あるいは使用の限界以上のミネラル分や塩分、ヒ素等の重金属、藻類や大腸菌等のバクテリア、ウィルス等の人体に不要および有害な成分を含み飲用や生活用水に適さないような、井戸や河川、海からの取水、又は生活排水等を挙げることができる。例えば、本発明の造水装置は、海水淡水化や、バングラディッシュにおけるヒ素汚染井戸水やエジプトの砂漠における塩分を含む井戸水の浄化・飲用水化等に適用できる。
【0038】
疎水性多孔質膜の材質としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、およびその混合物あるいは変性樹脂等の疎水性の樹脂を挙げることができる。本発明においては、容易に多孔質膜を得られる点で、PTFE(延伸法)、PVDF(溶媒相転移法)が主材料としては適している。中でも、PTFEは、疎水性、機械的強度、化学的耐久性(耐薬品性)に優れるとともに、延伸法により、容易に均一孔径を有し高い気孔率のPTFE延伸多孔質膜を製造できるので好適である。
【0039】
中空糸状のPTFE延伸多孔質膜を用いることで本発明の目的である簡易な構造からなる設備で、煩雑な操作も必要とせずに海水等から淡水を回収でき、かつ運転コストも低い造水システムが容易に得られる。延伸法によるPTFE延伸多孔質膜の製造は、例えば次のようにして得ることができる。
【0040】
PTFEファインパウダーに灯油を20〜30重量部助剤として加えて容器を回転させる等してなるべく剪断力を加えないように混合し、ラム押出によってシート状あるいは中空糸状など所望の形状に成形する。この押出時の加圧、変形の際に加わる剪断力によってファインパウダーの粒子の表面で分子の絡みによる結合が生まれる。
【0041】
次に該押出品を60〜80℃の熱風循環炉などで助剤が除去されるまで乾燥させ、その後加熱しながら延伸する。このとき押出で生じたPTFE微粒子間の結合が延伸方向に張力を受けて、PTFE微粒子の結晶から繊維が引き出される。延伸後のPTFE成形品はこの引き出された繊維とその隙間の空間からなる多孔質構造となる。その後、PTFEの融点以上に加熱することで繊維の一部が融けて、延伸と垂直方向に接着して塊状となった結節という構造が生まれ、これが冷えて固定されることで、繊維と結節から構成され全体として力学的強度を持ったPTFE延伸多孔質膜(PTFE多孔質体)が得られる。
【0042】
PTFEからなる疎水性多孔質膜の孔径としては、実質的に2〜3μmが上限と考えられる。10μmの孔径でも水をはじき、常圧では水を通さないが、圧がかかると簡単に漏れる。一方、気孔率は高いほど造水効率が優れるが、延伸法による多孔質体の場合、原理的に、延伸率が高ければ気孔率が上がるが同時に孔径も大きくなる。従って、一般に孔径が小さいと気孔率も小さくなり、耐水圧が高くなるが水の生成速度は低くなる。
【0043】
熱伝導率が高い樹脂製の冷却管の製造に、熱伝導性フィラーとして用いられるカーボンとしては、鱗片状、繊維、粉などの炭素が挙げられ、一般に流通するデンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、トーカブラック(通称名および商品名)等のカーボンブラックやカーボン繊維を挙げることができる。又、カーボンナノチューブも好適に用いられる。
【0044】
加熱手段として用いられる太陽光加熱装置は、太陽光を受光する受光部分、及び受光した太陽光を熱に変換し、その熱を処理水に伝達する熱伝達部分を有する装置である。受光部分にガラスを用い他の部分をステンレス等の金属により形成した太陽光加熱装置も用いることができるが、例えば、受光部分が、気泡を含みかつ太陽光の透過率が高い樹脂から構成され、熱伝達部分が、光熱変換物質を含む熱可塑性樹脂から構成される太陽熱加熱装置は、軽量であり取り扱いも容易であるので好ましく用いられる。
【0045】
熱可塑性樹脂の熱伝達率は金属より2桁以上悪いが、熱可塑性樹脂に光熱変換物質を含ませることにより、光エネルギーを効率よく熱に変換することができるので、処理水の加熱の効率も、従来の金属からなる熱伝達部分の場合に近いものとすることができる。
【0046】
光熱変換物質として、炭素は、熱伝達効率や熱吸収・熱変換効率が優れるので好ましい。特に炭素繊維は、低い配合量で熱伝達効率や熱吸収・熱変換効率を高めることが可能である。従って、配合により熱可塑性樹脂の強度低下を小さくすることができるので好適である。さらに炭素はラジカル吸収剤としての役割もあるため、熱可塑性樹脂の劣化を防止し、耐久性を飛躍的に向上させる効果を持っている点でも好ましい。
【0047】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンの他に、非晶性で透明性に優れる環状オレフィン系の樹脂(例えば、Topas Advanced Polymers GmbH社製の商品名TOPAS)等を挙げることができる。中でもポリエチレンは、結晶性のために透明性が劣るものの安価であり、特に低密度及び中密度ポリエチレンは柔軟で、曲げや形状変化が容易であるので好ましい。耐熱性の向上や加水分解による劣化防止を目的として、このようなポリエチレンを電子線照射により架橋したものが好ましく用いられる。
【0048】
図1は本発明の造水装置の一例の模式図である。この造水装置は、複数の中空糸状疎水性多孔質膜を束ねた蒸発モジュール、浄水の貯水槽、両者を両端で接続する中空糸状冷却管から構成される。蒸発モジュール内の気相と中空糸状冷却管の気相は連続しており、中空糸状疎水性多孔質膜から蒸発モジュール内に発生した水蒸気は中空糸状冷却管の内壁で凝結して水となり、貯水槽に溜まる。
【0049】
先ず蒸発モジュールについて、図1に基づきより具体的に説明する。図中、1は蒸発モジュールを構成する筒状容器であり、2は筒状容器1内の気相4の中に設けられた処理水流路である、処理水流路2は、中空糸状疎水性多孔質膜3の中空部である。
【0050】
筒状容器1には、処理水入口1a、処理水流入部1b、処理水流出部1c、処理水出口1dが設けられており、処理水流入部1bと処理水流出部1cとの間が複数本の中空糸状疎水性多孔質膜3により連結されている。なお、図示の簡略化のため、図1では3本の中空糸状疎水性多孔質膜3のみが描かれているが、実際に使用される蒸発モジュールでは、はるかに多数本の中空糸状疎水性多孔質膜が束ねられて設けられていることが多い。
【0051】
処理水(好ましくは太陽光加熱装置等により加熱された処理水)は、図中の実線の矢印(矢印A)が示すように、処理水入口1aより処理水流入部1bに流入し、その後、処理水流路2(中空糸状疎水性多孔質膜3の中空)内を通り、処理水流出部1cに流入して処理水出口1dより排出される。処理水流路2内を処理水が通る間に、中空糸状疎水性多孔質膜3の表面より、処理水中の水が水蒸気となって、図中の破線矢印Bが示すように、気相4中に放出される。この際、処理水中の塩や(不揮発性の)不純物は中空糸状疎水性多孔質膜3を通過することはできない。
【0052】
図中の1eは、筒状容器1の下部に設けられたドレンである。造水装置を長期間使用した場合、汚染等により疎水性多孔質膜の膜壁表面が水に濡れやすくなり、処理水が蒸発モジュールの気相部内に漏れる場合があるが、この場合漏出水を除去するためにドレン1eが設けられている。万一、処理水が中空糸状疎水性多孔質膜3から漏れた場合もドレン1eから排出されて浄水には混入しない。
【0053】
次に、中空糸状冷却管及び浄水の貯水槽について、図1に基づきより具体的に説明する。図中の5は、中空糸状の冷却管であり、8は、浄水槽である。浄水槽8中には、浄水9が貯留されている。冷却管5の一端は気相4と連結し、他端は浄水槽8と連結している。なお、図中では簡略化のため、中空糸状冷却管5は4本のみ描かれているが、実際には多数が束ねられて設けられている。
【0054】
蒸発モジュール内の気相4と中空糸状冷却管の中空(気相)は連続しており、気相4中に放出された水蒸気は、図中の破線矢印Cが示すように、冷却管5の中空内に導入され、その内壁で冷却され凝結する。図中の6は、このようにして生成した凝結水を表わす。凝結水6は、浄水槽8に流入し浄水9として貯留する。貯留した浄水9は、浄水槽8に設けられた浄水取出口8aより適時取出され使用に供せられる。
【0055】
図中の7(破線部分)は、冷却管5を冷却するために設けられた冷却手段を表わす。冷却手段7としては、冷却用水槽、中空糸状冷却管の外側に冷却水が流れるように構成したものを挙げることができる。本発明の造水装置では、疎水性多孔質膜における水の蒸発及び冷却管内での水蒸気の凝結により蒸発熱、凝結熱が発生し、熱の移動が必ず起こる。したがって装置の造水効率を上げるためには、この熱の流れをいかに効率的に行うかが鍵となる。そこで、この熱の流れを効率的に行うために冷却手段を設ける場合がある。ただし、特別な冷却手段を設けなくても、冷却管5を、(外気や海水中等の)低温の環境内に設けるとの簡易な設備により、冷却管5を冷却することは可能であり、設備の簡略化のためには好ましい。
【0056】
なお、処理水を上記のように通液させるために、(図示されていない)送液手段を設けてもよい。送液手段としては、従来の膜蒸留における送液手段と同様な手段、例えば、ポンプが使用できる。
【0057】
図2は、本発明の造水装置の一例の一部切欠き斜視図である。図3は、この造水装置の斜視図である。
【0058】
図中11は、蒸発モジュールの筒状容器を表わし、11a、11b、11c及び11dは、それぞれ処理水入口、処理水流入部、処理水流出部及び処理水出口を表わす。図では、筒状容器11の左側部分の外筒及び処理水流出部11cを取り除いた状態を表わしており、その部分の13は、中空糸状疎水性多孔質膜を表わし、14は、蒸発モジュール内の気相部を表わし、15aは筒状容器11の外筒部に設けられた蒸気出口である。
【0059】
図中、15は、蒸気出口15aに一端が接続している中空糸状の冷却管であり、冷却管の他端は、浄水槽18に連結している。図2に示されるように、この例では、筒状容器11(蒸発モジュール)の外筒壁に蒸気出口15a(気相14の出口)が複数設けられており、それぞれの蒸気出口15aには、複数の束ねられた中空糸状冷却管15が気相14と通気可能に連結している。
【0060】
又、複数の中空糸状冷却管15の束により筒状容器11(蒸発モジュール)の周囲が覆われている。すなわち、多数の中空糸状冷却管15が蒸気出口15aから蒸発モジュールの外側に伸びているので、この蒸気出口15aを蒸発モジュールの外筒側面に多数設け、この蒸気出口15aから延びる多数の冷却管を、図3に示すように、螺旋状および網目状に配置することで蒸発モジュールを取り囲む壁を形成している。
【0061】
この装置は、装置の中心付近を流れる処理水が水蒸気となり、装置の外側の冷却管網(冷却管15により形成した網)に移動して、熱(凝結熱)を冷却源である外部の環境に放出する構造となっており、熱の流れが効率的で、蒸発熱として蒸気と共に移動する熱以外の放熱による熱損失も少ない。本装置を空冷或いは冷却用の水槽内に設置することで効率的に外部に放熱し、効率的に造水を行うことが可能となる。
【0062】
冷却手段として、冷却水槽(図示されていない)を用いる場合、冷却水槽に移動した熱は、夜間などの時間を利用して周囲から自然冷却で放熱される。たとえば太陽光によって処理水を加熱する場合、膜蒸留は太陽高度が高い昼間にもっぱら行われる。工場の廃熱の場合も同様に工場が主として稼働する昼間である。したがって膜蒸留を行わない夜間は熱の増加はなく、例えば昼は暑くても夜間は急激に低温になる砂漠などでは、冷却水槽の水温は自然放熱だけで25℃程度の室温まで冷却が可能である。
【0063】
冷却水槽は地上に設けた容器としても良いが、地下に掘った井戸や池のようにすることも可能で、岩や土は空気よりも熱を伝えやすいため放熱の効率が高い。この場合は中空糸状冷却管(図2、3における15)を井戸や池の上部から水中に沈めて利用する。
【符号の説明】
【0064】
1、11 筒状容器
1a、11a 処理水入口
1b、11b 処理水流入部
1c、11c 処理水流出部
1d、11d 処理水出口
1e ドレン
2、12 処理水流路
3、13 中空糸状疎水性多孔質膜
4、14 気相
5、15 冷却管
6 凝結水
7 冷却手段
8、18 浄水槽
9 浄水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に気相部を有する筒状容器、前記気相部内に設けられ、水を透過しないが水蒸気は透過する疎水性多孔質膜により形成されている処理水流路、一端が前記筒状容器の外側面に接続して前記気相部に通気可能に連結しかつ他端が浄水槽に連結している冷却管、及び浄水槽を有することを特徴とする造水装置。
【請求項2】
前記疎水性多孔質膜が、中空糸状疎水性多孔質膜であり、その中空が処理水流路であることを特徴とする請求項1に記載の造水装置。
【請求項3】
前記疎水性多孔質膜が、ポリテトラフルオロエチレンの延伸多孔質膜であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の造水装置。
【請求項4】
前記冷却管が、柔軟な樹脂からなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の造水装置。
【請求項5】
前記冷却管がカーボンを含有した熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の造水装置。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が電子線架橋されたポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の造水装置。
【請求項7】
前記筒状容器を覆うように前記冷却管を配置していることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の造水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−34928(P2013−34928A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171738(P2011−171738)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】