説明

連結型自己昇降式作業台船及び外洋における風力発電施設の設置方法

【課題】外洋における洋上風力発電施設の設置に適しかつ汎用性を兼ね備えたSEP及びこれを用いた外洋における風力発電施設の設置方法を提供する。
【解決手段】外洋において風力発電施設の基礎上に風力発電施設を設置するための連結型自己昇降式作業台船1であって、各々の船体長さ方向の一端同士を合わせて分離可能に連結固定された同一寸法の2台の沿海用自己昇降式作業台船からなる台船本体2a,2bと、台船本体2a,2bの左右側面に取り付けられた2個のフローター3a,3bと、組立済みのタワーマストを船体長さ方向に並置可能なタワーマスト載置台22と、1台のクレーン23と、複数の組立済みのブレード部を縦置き状態で仮取り付け可能なブレード部仮置き台31と、タワーマスト吊り起こし補助装置32と、フローターの下面に設けた推進装置35とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に外洋に風力発電施設を設置するために用いる自己昇降式作業台船及びその設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境及びエネルギー問題に対する関心が高まる状況下にあって、地球環境にやさしい、新エネルギー源として、クリーンで再生可能な風力エネルギーを利用する風力発電が有望視されている。風力発電施設の設置場所として、陸上と洋上のいずれも可能であるが、洋上における風速は陸上と比べて強く、また良好で安定した風が吹くという特長がある。加えて、洋上には障害物が少なく、騒音、電波障害もない。また、大規模な電力消費地帯は沿岸区域に集中しており、その他の電力系設備も沿岸部の方が整備されている傾向がある。これらの理由から、洋上は、陸上よりも風力発電に有利な条件を備えている。洋上風力発電施設は、多くの国において採用されており、一般的に沿岸から数百m〜数kmの距離に設置されている。
【0003】
洋上風力発電施設では、例えば、2MW級の場合、タワーマストの高さが80m、ブレード部の直径が80mの大型のものが用いられている。洋上に風力発電施設を設置する場合、先ず基礎を施工した後、基礎の上にタワーマスト、ナセル及びブレード部からなる風力発電施設を組み立てる作業を行う。
【0004】
特許文献1では、モノパイル式基礎の上に風力発電施設を組み立てる洋上風力発電施設の設置方法が開示されている。図7は、特許文献1に記載された洋上風力発電施設の設置方法の各工程を概略的に示した流れ図であり、図8(a)は、図7の設置方法における設置現場での工程の一部を示す図であり、(b)は、(a)に示されている自己昇降式作業台船100の概略平面図である。
波浪のある洋上での風力発電施設の設置作業には、浮体式作業台船では不安定であるため、四脚式油圧ジャッキアップシステムを備えた自己昇降式作業台船(Self Elevating Platform:以下「SEP」と略称する)を使用する。図8(a)に示すように、設置現場において、SEP100の四隅にそれぞれ設けられた4本のレグ(脚)121を海底80に固定し、船体を海面90より高い洋上にジャッキアップする。これにより、波浪の影響を受けることなく安定した作業が確保される。
【0005】
図8を参照しつつ図7の設置方法を説明する。ステップS11において、設置現場で基礎の施工が完了しているものとする。特許文献1では、基本的に風力発電施設を一基毎に設置することを前提としている。先ず、1隻のタワーマスト運搬用SEPを、陸上岸壁近くの海上にジャッキアップして固定し、1本のタワーマストを複数に分割した組立部材105a、105bを積み込む(ステップS12)。続いて、タワーマスト運搬用SEPを設置現場まで曳航するか又は自航させて、タワーマストの組立部材を運搬する(ステップS13)。設置現場に到着したならば、タワーマスト運搬用SEPを洋上にジャッキアップして固定する(ステップS14)。タワーマスト運搬用SEPに搭載したクレーン123を用いて、タワーマストの組立部材を順次吊り上げ、基礎107の上に設置していく。これにより、タワーマスト105の設置を完了する(ステップS15)。
【0006】
その後、一旦、岸壁に戻り、1隻の風車運搬用SEP(タワーマスト運搬用SEPと同じものでもよい)を、陸上岸壁近くの海上にジャッキアップして固定し、1台の風車の組立部材(ナセル、ハブ、ブレード)を積み込む(ステップS16)。そして、風車運搬用SEPに搭載したクレーンを用いて、積み込んだ組立部材を組立て、風車を完成させ、風車運搬用SEPに設けられた仮置き台に積載する(ステップS17)。続いて、風車運搬用SEPを設置現場まで曳航するか又は自航させて、風車の組立部材を運搬する(ステップS18)。設置現場に到着したならば、風車運搬用SEPを洋上にジャッキアップして固定する(ステップS19)。風車運搬用SEPに搭載したクレーンを用いて、風車を吊り上げ、タワーマストの上に設置する。これにより、1つの風力発電施設の設置を完了する(ステップS20)。
【0007】
風力発電施設の設置作業に用いられる従来のSEPの寸法は、SEPとしては中型の範疇に含まれるものである。図8(b)に示す船体長さLが約34〜35m、船体幅Bが約20〜22m、船体高さが約3〜3.5m程度である。レグ121の長さは、約38〜40mであるので、水深が数m〜約30mの範囲の設置現場に適用可能である。
【0008】
また、特許文献2にも、洋上風力発電施設の施工方法が開示されている。特許文献2では、洋上風力発電施設の大型化に伴い、従来のSEPが能力的に限界になっており、大型起重機船を使用する必要が生じている問題を解決するために、従来のSEPに替えて、鋼板製で箱状のフローティングドッグの四隅にレグを取り付けた特殊作業船を用いることを提示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−37397号公報
【特許文献2】特開2004−1750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の洋上風力発電施設の設置方法は、陸地に比較的近い内海では問題ないが、外洋に設置する場合には、以下のような問題点がある。
(1)外洋では、周期が数秒〜20秒の通常の波浪以外に、周期が60秒程度の長周期波の発生頻度が高い。この長周期波は、波高が10cm程度でも船舶に大きな揺れを引き起こすことが知られている。長周期波は、設置現場に固定されたSEPにも大きな負荷を及ぼす。上述の従来のSEPの寸法では、その固有周期と長周期波の周期が近いために影響が大きい。この結果、作業の安全性を確保できないおそれがある。従って、上述の従来のSEPは、専ら内海用SEPであり、外洋での使用には適さない。
(2)外洋は、内海に比べて波浪の波高が大きいため、上述の従来のSEPの寸法では、曳航する場合にも自航させる場合にも復元力が不足し、安定な航行が確保できないおそれがある。
(3)洋上風力発電施設は、複数基を並設する場合が多いが、上述の従来のSEPの寸法ではタワーマストと風車を同時に運搬できないため、一基の設置につき設置現場と陸上岸壁との間で2往復する必要がある。この結果、遠距離かつ複数基の設置には相当の作業日数がかかる。
【0011】
欧州などでは、上述の従来のSEPよりも大型のSEPが利用される例がある。しかし、そのような大型のSEPは、外洋での作業以外には利用し難く、汎用性がない。1隻のSEPの製造コストは極めて高いため、外洋での風力発電施設の設置以外にも多様な作業に利用できることが好ましい。当然ながら大型のSEPは、内海での作業には使いづらいため、利用範囲が限られてしまう。特許文献2のような箱型の特殊作業船についても、他の用途に転用し難いという点で、同様である。
【0012】
以上のような種々の問題点に鑑み、本発明は、特に外洋における洋上風力発電施設の設置に用いるに適しかつ汎用性を兼ね備えたSEP及びこれを用いた外洋における風力発電施設の設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成する本発明の構成は以下の通りである。括弧内の数字は、後述する図面中の符号であり、参考のために付する。
本発明の第1の態様は、外洋の設置現場において、風力発電施設のための基礎(7)の施工を完了した後に該基礎上に風力発電施設を設置するための連結型自己昇降式作業台船(1)であって、各々の船体長さ方向の一端同士を合わせて分離可能に連結固定された同一寸法の2隻の沿海用自己昇降式作業台船からなる台船本体(2a,2b)と、前記台船本体(2a,2b)の全体を左右から挟むように左右側面に取り付けられた2個のフローター(3a,3b)と、複数の組立済みのタワーマストを船体長さ方向に並置可能であり前記台船本体(2a,2b)上に艤装されたタワーマスト載置台(22)と、前記台船本体(2a,2b)上に艤装された1台のクレーン(23)と、複数の組立済みのブレード部を縦置き状態で仮取り付け可能であり一方の前記フローター(3a)の上に艤装されたブレード部仮置き台(31)と、他方の前記フローター(3b)の端部近傍の上に艤装されたタワーマスト吊り起こし補助装置(34)と、前記2個のフローター(3a,3b)の各々の下面に設けられた推進装置(35)と、を有するものである。
【0014】
上記第1の態様において、長さ60〜80mのタワーマストを載置可能である前記連結型自己昇降式作業台船(1)の船体長さは、該タワーマストよりも長くかつ65〜85mの範囲内であることが好適である。
また、前記連結型自己昇降式作業台船(1)の船体幅が、27〜30mの範囲内であることが好適である。
【0015】
本発明の第2の態様は、外洋の設置現場において風力発電施設のための基礎(7)の施工を完了した後に該基礎上に風力発電施設を設置する方法であって、(A)2隻の沿海用自己昇降式作業台船の各々の船体長さ方向の一端同士を合わせて分離可能に連結固定することにより台船本体(2a,2b)とし、各々の下面に推進装置(35)をそれぞれ設けられた2個のフローター(3a,3b)により該台船本体(2a,2b)を船体長さ全体に亘って左右から挟むように該2個のフローターを該台船本体の左右側面に取り付けた後、複数の組立済みのタワーマストを船体長さ方向に並置可能であるタワーマスト載置台(22)と1台のクレーン(23)とを該台船本体(2a,2b)上に艤装し、複数の組立済みのブレード部を縦置き状態で仮取り付け可能なブレード部仮置き台(31)を一方の該フローター(3a)の上に艤装し、かつ、他方の該フローター(3b)の端部近傍の上にタワーマスト吊り起こし補助装置(34)とを艤装することにより、1隻の連結型自己昇降式作業台船(1)を組み立てる作業台船組立工程と、(B)前記連結型自己昇降式作業台船(1)を陸上岸壁に固定し、前記タワーマスト載置台(22)に1又は複数の組立て済みのタワーマスト(4a,4b,4c)を載置し、前記ブレード部仮置き台(31)に前記タワーマストと同数の組立済みのブレード部(5)を取り付け、前記タワーマストと同数のナセル(6)を積み込む風力発電施設部材積込工程と、(C)前記連結型自己昇降式作業台船(1)を設置現場まで曳航するか又は自航させる運搬工程と、(D)1つの風力発電施設の設置現場において前記連結型自己昇降式作業台船(1)をジャッキアップして固定する作用台船固定工程と、(E)前記クレーン(23)及び前記タワーマスト吊り起こし補助装置(34)を用いて前記他方のフローター(3b)の上に載置した1本の前記タワーマスト(4a)を吊り起こし、該クレーン(23)を用いて該タワーマスト(4a)を前記基礎(7)上に設置した後、該クレーン(23)を用いて前記ナセル(6)及びブレード部(5)を該タワーマスト(4a)に取り付ける風力発電施設組立工程と、を有するものである。
【0016】
上記第2の態様において、外洋の設置現場において複数の基礎(7)の各々の上に複数の風力発電施設をそれぞれ設置する場合であって、前記風力発電施設組立工程により1つの風力発電施設の設置を完了した後、前記連結型自己昇降式作業台船(1)に対し舵取りのための曳舟を繋ぎかつ前記2個のフローター(3a,3b)の各々の下面に設けられた推進装置(35)を用いて自航させることにより次の風力発電施設の設置現場へと移動させ、その設置現場にジャッキアップして固定し、前記前記クレーン(23)を用いて次のタワーマスト(4b,4c)を前記タワーマスト載置台(22)から前記他方のフローター(3b)の上に移動させて載置させ、その後、前記風力発電施設組立工程を繰り返すことにより次の風力発電施設を組み立てることが、好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明による連結型自己昇降式作業台船すなわち連結型SEPは、2隻の沿海用SEPを船体長さ方向に連結し、さらに左右側面に2個のフローターを取り付けたことにより、沿海用SEPの2倍の船体長さと、沿海用SEPよりも2個のフローターの幅だけ拡張した船体幅とを有する。この結果、特に船体長さが、外洋での長周期波による影響を受け難いものとなり、作業の安全性を確保できる。
また、連結型SEPは、船体長さと船体幅を拡張したことにより、復元力が増強されて外洋航行に適したものとなったことでも安全性及び稼働率の向上を図れる。
さらに、連結型SEPは、大型の風力発電施設用の長尺かつ大径のタワーマストを組立済みの状態で運搬可能であるので、設置現場でのタワーマストの組立作業が不要となり、作業効率が向上する。
タワーマスト吊り起こし補助装置により、安全かつ迅速な作業が可能となる。台船本体上のタワーマスト載置台に載置されたタワーマストは、左右いずれかのフローターまで移動してからタワーマスト吊り起こし補助装置により吊り起こす。このように、タワーマスト吊り起こし補助装置が、左右いずれかのフローターの端部近傍に艤装されているので、作業しやすい。
またさらに、本発明の連結型SEPに艤装されたタワーマスト載置台及びブレード部仮置き台は、複数のタワーマスト及び複数のブレード部を運搬できるので、設置現場に複数の風力発電施設を設置する場合に、岸壁との間の往復回数を従来よりも格段に低減することができ、作業効率が増し、作業日数を短縮できる。これにより、大型化しつつある洋上風力発電施設の施工コストを抑制ないしは低減することができる。
また、タワーマスト及びブレード部の双方を、組立済みの状態で設置現場に運搬できるので、設置現場において組み立て作業を行う必要がない。特に、外洋では、精密なクレーン作業を行うことが困難であるので、設置現場でのクレーン作業を軽減できることは有益である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による連結型自己昇降式作業台船すなわち連結型SEPの平面図である。
【図2】本発明による連結型SEPの側面図である。
【図3】本発明による連結型SEPの背面図である。
【図4】(a)〜(d)は、本発明の連結型SEP1の組立工程を説明する平面図である。
【図5】本発明の連結型SEPを用いた外洋における風力発電施設の設置方法の各工程を概略的に示した流れ図である。
【図6】(a)(b)は、図5の設置方法における設置現場での工程の一部を示す図である。
【図7】特許文献1に記載された洋上風力発電施設の設置方法の各工程を概略的に示した流れ図である。
【図8】(a)は、図7の設置方法における設置現場での工程の一部を示す図であり、(b)は、(a)に示されている内海用SEPの概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を示した図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明による連結型自己昇降式作業台船すなわち連結型SEP(符号1で示す)の平面図であり、図2は側面図(ブレード部の先端を一部図示省略)であり、図3は背面図である。
【0020】
図1〜図3に示す本発明による連結型SEP1は、外洋の設置現場に風力発電施設を設置するためのものである。連結型SEP1により運搬する設備部材は、基礎上に設置されるタワーマスト4a、4b、4c、ブレード部5(3枚のブレードと中心のハブからなる)及びナセル6である。
【0021】
連結型SEP1は、従来、風力発電施設の施工に用いていた中型SEPすなわち沿海用SEP(符号2a、2bで示す)を2隻連結した形態である。1隻の沿海用SEPは、図8に例示したように、平面形状が略長方形であり、平坦な甲板を備えている。各沿海用SEP2a、2bは、船体長さLが約34〜35m、船体幅Bが約20〜22m、船体高さが約3〜3.5m程度である。四隅を貫通する4本のレグ(脚)21の長さは、約38〜40mである。各レグ21には、昇降装置21aがそれぞれ設けられている。昇降装置21aにより、レグ21を台船本体に対して相対的に上下に動かすことができる。
【0022】
図1に示す連結型SEP1は、向かって左側に位置する一端が船首であり、向かって右側に位置する他端が船尾である。
【0023】
本発明の連結型SEP1は、同一寸法の2隻の沿海用SEP2a、2bの船体長さ方向の一端同士を互いに合わせて連結固定することにより、台船本体を形成している。各沿海用SEP2a、2bの船体長さLが約34〜35mならば、連結型SEP1の船体長さ2Lは、約68〜70mとなる。本発明においては、組立て済みのタワーマストの全長が甲板から突出することなく連結型SEP1に載置できるようにする。
【0024】
洋上風力発電施設のタワーマストの長さは、通常60〜80mの範囲内で、種々の長さのものが存在することを考慮すると、連結型SEP1の船体長さ2Lは、ほぼ65〜85mの範囲内に収まることが適切である。また、船体長さをこのような範囲とすることにより、外洋に発生し易い長周期波の影響を受けにくくなる効果も得られる。この結果、レグ21を海底に固定し、洋上にジャッキアップした際に不測の揺れを生じることなく、作業の安全性を確保できる。
【0025】
連結型SEP1における台船本体部分の幅Bは、沿海用SEP2a、2bの船体幅Bと同じであり、約20〜22mである。
【0026】
さらに、台船本体の全体を左右から挟むように、2個のフローター3a、3bを左右側面にそれぞれ取り付けている。各フローター3a、3bの長さは、台船本体の船体長さ2Lと同じである。各フローター3a、3bの幅BFは、例えば3.6mである。従って、連結型SEP1の船体幅は、約27〜30mとなる。このように連結型SEP1では、船体長さを拡張するだけでなく、2個のフローター3a、3bを側面に取り付けて船体幅を拡張することで、復元力が向上し、外洋航行における安定性を確保できる。各フローター3a、3bの下面には推進装置35が設けられている。この推進装置35は、外洋の設置現場において複数基の風力発電施設を設置する場合に、1つの設置現場から次の設置現場へ移動する際に用いられる(詳細は後述)。
【0027】
台船本体上には、タワーマスト載置台22が艤装されている。図示の例では、船体長さ方向に沿って4箇所に高さ約5mのタワーマスト載置台22が設けられており、3本のタワーマストを載置して運搬可能である。図1では、タワーマスト載置台22上には、2本のタワーマスト4b、4cのみを図示している。タワーマストを載置する際には、タワーマストの基部を船首側に、タワーマストの頭部を船尾側に揃えて並置する。なお、タワーマスト載置台22に載置可能な3本に加えて、一方のフローター3b上にもタワーマスト(符号4aで示す)を1本載置可能であるから、図示の例の場合、最高で4本のタワーマストを運搬できる。
【0028】
台船本体の一側面の船尾近傍には、1台のクレーン23が艤装されている。クレーンの種類は、ジブクレーン又はクローラクレーン等があり、必要に応じて適切な性能のものを搭載する。例えば、ジブクレーンの場合、高さ約20mの架台を設置してその上に据え付ける。
【0029】
さらに、一方のフローター3a上には、複数の組立済みのブレード部(ここでは中心のハブも含む)を縦置き状態で仮取り付け可能なブレード部仮置き台31が艤装される。図示の例では、4個のブレード部仮置き台31が設けられており、4個の組立済みのブレード部を運搬可能である。ブレード部仮置き台31の高さは、例えば、約20mである。なお、ブレード部仮置き台31の上面には、ナセル6と同形状で軽量のダミーであるブレード部取付部材32を取り付ける。図1では、最も船首側に位置する1個のブレード部仮置き台31に対して仮に取り付けた1個のブレード部5のみを図示している。その隣のブレード部仮置き台31にブレード部5を仮取り付けする場合は、反対向き(図1では上向き)に取り付ける。船尾側の2個のブレード部仮置き台31についても同様である。このように、ブレード部を縦置き状態で取り付けた場合、船体より突出する部分が少いため、周囲に対して安全である。
【0030】
またさらに、他方のフローター3b上には、その船尾側の端部近傍にタワーマスト吊り起こし補助装置34が艤装される。タワーマスト吊り起こし補助装置34は、フローター3b上に載置されたタワーマスト4aをクレーン23により吊り起こす際に、タワーマスト4aの基部を支持するための装置である。
【0031】
なお、タワーマスト載置台22上に載置されたタワーマスト4b、4cを、フローター3b上に移動する際には、クレーン23を用いてタワーマスト4b、4cの基部と頭部を反対向き(水平面内で180°回転)に入れ替える。
【0032】
各沿海用SEP2a、2bには4本のレグ21があるため、連結型SEP1のレグ21は、合計8本となる。
【0033】
図示した例では、連結型SEP1で運搬可能なタワーマスト及びブレード部は、最高4組である。本発明の連結型SEP1の寸法範囲と、平均的な大型風力発電施設の寸法を考慮すると、最高4組が適切である。この場合、一回の運搬で最高4基の風力発電施設を設置可能である。図1に示すように、連結型SEP1の空きスペースに、タワーマスト及びブレード部と同数の、複数のナセル6を積み込み運搬することが好ましい。タワーマスト、ブレード部及びナセルを同数ずつ積み込み、設置現場に運搬することで、複数基の風力発電施設を効率よく設置することができる。
【0034】
なお、図示の都合上、図1〜図3では1個のブレード部5のみを示している(後述する図6も同様)。
【0035】
本発明の連結型SEP1は、外洋での作業に適した寸法とするために2隻の沿海用SEPを連結することを特徴とする。しかしながら、再び分離して2隻の沿海用SEPに戻し、別の作業に利用することも可能である。このように、必要に応じて、2隻の沿海用SEPを連結したり分離したりできるため、製造コストの高いSEPを、多様な用途に無駄なく利用できることになる。仮に、本発明の連結型SEP1と同じ寸法の一体型SEPを製造した場合、その製造コストは極めて高くなり、また、内海での作業には大きすぎて適さず、汎用性のないものとなる。
【0036】
図4(a)〜(d)は、本発明の連結型SEP1の組立工程を説明する平面図である。
(a)は、上が平面図、下が側面図(レグは図示省略)である。先ず、2隻の沿海用SEP2a、2bを海上に浮かせた状態で、各々の船体長さ方向の一端同士を近づけるように誘導する。一端同士を合わせたならば、仮に連結する。側面図に示すように、各沿海用SEP2a、2bは、船首2a1、2b1の端部下面が隅切りされている。好適には、各沿海用SEP2a、2bの船尾2a2、2b2同士を連結する。これにより、連結型SEP1は、艤装次第でどちらを船首とすることもできる。
続いて、(b)では、8本のレグ21を海底に固定し、連結された2隻の沿海用SEP2a、2bをジャッキアップして海上に持ち上げる。適宜の固定具25を用いて、2隻の沿海用SEP2a、2bの連結部分を固定する。固定具25は、鋼板材とボルト等を組み合わせたものであり、強固に固定できるものであればどのようなものでもよい。このようにして、台船本体が形成される。
続いて、(c)では、台船本体を再び海上に降ろし、台船本体を左右両側から挟むように、台船本体の左右側面に一対のフローター3a、3bをそれぞれ連結固定する。固定具は、ボルト等の適宜のものである。各フローター3a、3bの内部には、4室または6室のバラスト室36が設けられている。バラスト室36は、設備部材を積み込んだ連結型SEP1における全体のバランスをとるために利用される。また、図1で示したように各フローター3a、3bの下面の凹部には、推進装置35が予め内設されている。この推進装置35は、インペラと駆動機構を備えている。例えば、ナカシマプロペラ(株)により輸入販売されているドイツのSCHOTTEL社製の「ポンプ・ジェット推進装置(商品名)」がある。推進装置35は、台船本体上の操作室(図示せず)から操作され、設置現場の海域での移動及び定位置保持のために用いられる。
さらに、(d)では、甲板上及びフローター上に各種の設備を艤装する。台船本体の甲板上には、タワーマスト載置台22を適宜の箇所に設置する。クレーン23は、タワーマスト載置台22に載置されたタワーマストをフローター3bへ移動させる際に支障とならない位置に設置する。好適には、クレーン23は、甲板上の左右いずれかの側面近傍かつ船体長さ方向のいずれかの端部近傍に設置する。一方のフローター3a上には、ブレード部仮置き台31を取り付ける。他方のフローター3b上には、タワーマスト吊り起こし補助装置34を設置し、端部にローラーゴム防舷材33を取り付ける。このようにして、連結型SEPが完成する。
【0037】
図5は、本発明の連結型SEPを用いた外洋における風力発電施設の設置方法の各工程を概略的に示した流れ図である。また、図6(a)(b)は、図5の設置方法における設置現場での工程の一部を示す図である。
【0038】
ステップS1において、設置現場で基礎の施工が完了しているものとする。本発明による設置方法では、複数基の風力発電施設の設備部材を一度に運搬して設置することが可能である。先ず、1隻の連結型SEPを、陸上岸壁近くの海上にジャッキアップして固定し、複数本の組立済みのタワーマストを積み込み、タワーマスト載置台上に並べて載置する。(ステップS2)。
続いて、連結型SEPに複数基分のブレード部組立部材(1枚ずつのブレードとハブ)と、ブレード部取付部材(ダミーナセル)とを積み込む(ステップS3)。
続いて、連結型SEPのクレーンを用いて、積み込んだブレード部組立部材を組立て、複数のブレード部を完成させ、そして、ブレード部取付部材をブレード部仮置き台上に固定した後、ブレード部取付部材にブレード部を取り付ける(ステップS4)。必要な数のナセルも連結型SEPに積み込む。
次に、連結型SEPを海上に降ろし、設置現場まで曳航するか又は自航させて、風力発電施設の設備部材を運搬する(ステップS5)。
設置現場に到着したならば、図6(a)に示すように、連結型SEPのレグを海底80に降ろし、連結型SEP1を海面90よりジャッキアップして固定する(ステップS6)。
続いて、連結型SEP1に搭載したクレーン23を用い、タワーマスト吊り起こし補助装置33を利用して1本のタワーマスト4aを吊り起こし、クレーン23で吊り上げ、1つの基礎7の上にタワーマスト4aを設置する(図6(a)を参照)。さらに、1つのナセル6をタワーマスト4a上に取付け、1つのブレード部5をナセル6に取り付ける(図6(b)を参照)。これにより、一基の風力発電施設の設置を完了する(ステップS7)。
その後、連結型SEP1を海上に降ろし、次の風力発電施設の設置現場へ移動する。このとき、連結型SEP1に対し舵取りのための曳舟を繋ぎかつ2個のフローター3a、3bの各々の下面に設けられた推進装置35、35により自航させて次の風力発電施設の設置現場へと移動させる。その後、上記ステップS6及びS7を繰り返し、複数基の風力発電施設を設置する(ステップS8)。このようにして、一度の運搬で、複数基の風力発電施設の設置を行うことができる。
【符号の説明】
【0039】
1 連結型自己昇降式作業台船(連結型SEP)
2a、2b 沿海用自己昇降式作業台船(沿海用SEP)
21 レグ
21a 昇降装置
23 クレーン
3a、3b フローター
31 ブレード部仮置き台
32 ブレード部取付部材(ダミーナセル)
33 ローラーゴム防舷材
34 タワーマスト吊り起こし補助装置
35 推進装置
36 バラスト室
4a、4b、4c タワーマスト
5 ブレード部
6 ナセル
7 基礎
80 海底
90 海面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外洋の設置現場において、風力発電施設のための基礎(7)の施工を完了した後に該基礎上に風力発電施設を設置するための連結型自己昇降式作業台船(1)であって、
各々の船体長さ方向の一端同士を合わせて分離可能に連結固定された同一寸法の2隻の沿海用自己昇降式作業台船からなる台船本体(2a,2b)と、
前記台船本体(2a,2b)の全体を左右から挟むように左右側面に取り付けられた2個のフローター(3a,3b)と、
複数の組立済みのタワーマストを船体長さ方向に並置可能であり前記台船本体(2a,2b)上に艤装されたタワーマスト載置台(22)と、
前記台船本体(2a,2b)上に艤装された1台のクレーン(23)と、
複数の組立済みのブレード部を縦置き状態で仮取り付け可能であり一方の前記フローター(3a)の上に艤装されたブレード部仮置き台(31)と、
他方の前記フローター(3b)の端部近傍の上に艤装されたタワーマスト吊り起こし補助装置(34)と、
前記2個のフローター(3a,3b)の各々の下面に設けられた推進装置(35)と、を有することを特徴とする連結型自己昇降式作業台船。
【請求項2】
長さ60〜80mのタワーマストを載置可能である前記連結型自己昇降式作業台船(1)の船体長さは、該タワーマストよりも長くかつ65〜85mの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の連結型自己昇降式作業台船。
【請求項3】
前記連結型自己昇降式作業台船(1)の船体幅が、27〜30mの範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の連結型自己昇降式作業台船。
【請求項4】
外洋の設置現場において風力発電施設のための基礎(7)の施工を完了した後に該基礎上に風力発電施設を設置する方法であって、
(A)2隻の沿海用自己昇降式作業台船の各々の船体長さ方向の一端同士を合わせて分離可能に連結固定することにより台船本体(2a,2b)とし、各々の下面に推進装置(35)をそれぞれ設けられた2個のフローター(3a,3b)により該台船本体(2a,2b)を船体長さ全体に亘って左右から挟むように該2個のフローターを該台船本体の左右側面に取り付けた後、複数の組立済みのタワーマストを船体長さ方向に並置可能であるタワーマスト載置台(22)と1台のクレーン(23)とを該台船本体(2a,2b)上に艤装し、複数の組立済みのブレード部を縦置き状態で仮取り付け可能なブレード部仮置き台(31)を一方の該フローター(3a)の上に艤装し、かつ、他方の該フローター(3b)の端部近傍の上にタワーマスト吊り起こし補助装置(34)とを艤装することにより、1隻の連結型自己昇降式作業台船(1)を組み立てる作業台船組立工程と、
(B)前記連結型自己昇降式作業台船(1)を陸上岸壁に固定し、前記タワーマスト載置台(22)に1又は複数の組立て済みのタワーマスト(4a,4b,4c)を載置し、前記ブレード部仮置き台(31)に前記タワーマストと同数の組立済みのブレード部(5)を取り付け、前記タワーマストと同数のナセル(6)を積み込む風力発電施設部材積込工程と、
(C)前記連結型自己昇降式作業台船(1)を設置現場まで曳航するか又は自航させる運搬工程と、
(D)1つの風力発電施設の設置現場において前記連結型自己昇降式作業台船(1)をジャッキアップして固定する作用台船固定工程と、
(E)前記クレーン(23)及び前記タワーマスト吊り起こし補助装置(34)を用いて前記他方のフローター(3b)の上に載置した1本の前記タワーマスト(4a)を吊り起こし、該クレーン(23)を用いて該タワーマスト(4a)を前記基礎(7)上に設置した後、該クレーン(23)を用いて前記ナセル(6)及びブレード部(5)を該タワーマスト(4a)に取り付ける風力発電施設組立工程と、を有することを特徴とする外洋における風力発電施設の設置方法。
【請求項5】
外洋の設置現場において複数の基礎(7)の各々の上に複数の風力発電施設をそれぞれ設置する場合であって、前記風力発電施設組立工程により1つの風力発電施設の設置を完了した後、
前記連結型自己昇降式作業台船(1)に対し舵取りのための曳舟を繋ぎかつ前記2個のフローター(3a,3b)の各々の下面に設けられた推進装置(35)を用いて自航させることにより次の風力発電施設の設置現場へと移動させ、その設置現場にジャッキアップして固定し、前記前記クレーン(23)を用いて次のタワーマスト(4b,4c)を前記タワーマスト載置台(22)から前記他方のフローター(3b)の上に移動させて載置させ、その後、前記風力発電施設組立工程を繰り返すことにより次の風力発電施設を組み立てることを特徴とする請求項4に記載の外洋における風力発電施設の設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−42257(P2011−42257A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191856(P2009−191856)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(594062938)第一建設機工株式会社 (5)
【Fターム(参考)】