説明

連続した長尺の金属ナノチューブ製造方法およびこの方法で製造した長尺の金属ナノチューブ

【課題】電界紡糸法により一次元的に伸びた繊維を用いて長尺の一本の金属ナノチューブが調整できる金属ナノチューブ製造方法およびこの方法で製造した長尺の金属ナノチューブを提供する。
【解決手段】電界紡糸によりナノファイバーを調製し、このファイバーの表面を無電解めっきにより金属層で被覆した後、ファイバーを加熱除去する金属ナノチューブの製造方法。
ナノファイバーには、ポリメタクリル酸メチルを使用し、ナノファイバーに被覆する金属層には、Niを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界紡糸ナノファイバーを利用して連続した長尺の金属ナノチューブを製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
数nmオーダのナノチューブはエレクトロニクス、医療、エネルギーなどの分野においてその応用が期待されている。
【0003】
金属製のナノチューブの製造については各種の技術が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
例えば、特許文献1には、各種電池の電極等に好適に使用できる金属ナノチューブの製法として、芳香環を有する化合物を酸化重合して、三次元連続構造を有するフィブリル状ポリマーを生成させる工程と、得られたフィブリル状ポリマーの表面にNi、Ptなどの金属層を形成する工程と、表面に金属層が形成されたフィブリル状ポリマーを焼成してフィブリル状ポリマー部分を除去し、三次元連続構造を有する金属ナノチューブを生成させる工程とを経て金属ナノチューブを製造する方式が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、繊維状物を形成し得る両性化合物を用い、繊維状物で形成された芯材と金属材又は金属酸化物で形成された外装材とを有する被覆繊維状物を形成し、繊維状物で形成された芯材を溶解する工程を有する中空形状物の製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2007−152492号公報
【特許文献2】特開2003−193335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1では、金属の中空化に、酸化重合により得られる高分子化合物を用いているが、これで形成される高分子は、連続した繊維状のものではなく、網状につながった金属の網状体の形状を有している。さらに、酸化重合を用いてポリマーを合成しており、鋳型となる繊維径や形状の制御を厳密に行うことも困難である。したがって、連続した長尺の金属チューブを形成することができない。
【0007】
また、前記特許文献2では、鋳型となる繊維形状は低分子化合物が自発的に形成する分子集合体であり、長さはμmオーダであり、鋳型となる繊維の形状や長さを任意に制御することは極めて困難である。また、溶解では、溶媒が行き届かない部分が出てくる可能性があるため、極細繊維からできている不織布全体から、完全に繊維を除去することが難しいという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、電界紡糸法により一次元的に伸びた繊維を用いて長尺の一本の金属ナノチューブが調整できる金属ナノチューブ製造方法およびこの方法で製造した長尺の金属ナノチューブを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の金属ナノチューブの製造方法は、電界紡糸によりナノファイバーを調製し、このファイバーの表面を無電解めっきにより金属層で被覆した後、ファイバーを加熱除去することを特徴とする。
【0010】
電解紡糸により、数cm〜数メートルの1本の連続したナノファイバーの製造が可能である。
【0011】
ナノファイバーは、加熱除去するので、無電解めっきした金属の融点以下の温度で熱分解するポリマーを使用し、約500℃くらいまでで熱分解可能なポリマーが適している。ポリマーの種類は、例えば、ポリメタクリル酸メチルの他、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニルなどである。
【0012】
ナノファイバーに被覆する金属は、無電界めっき可能な金属あるいは合金であり、例えば、具体的には、Au、Ag、Cu、Ni、Ni−P、Sn、Pd、Co、Cr、Fe、Mn、Mo、Pb、Ti、Zn、W、あるいはこれらをベースとする合金などが挙げられるが、ナノチューブに要求される特性により適宜選択する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、電界紡糸により生成した長尺の一本のナノファイバーを利用するので、長尺の金属ナノチューブを製造することが可能となる。
【0014】
長尺の金属ナノチューブにより、液体や気体輸送(マイクロリアクター用など)高分子材料などに分散させ、強度を高めるフィラー、高表面積触媒、微小注射針、磁性材料や形状記憶合金で作ればアクチュエータなどの応用が可能となる。
【0015】
通常の紡糸ノズルでは、目的の繊維径に、それぞれの径のノズルが必要になり、簡便に準備することはできないのに対して、本発明では電界紡糸を用いることにより、紡糸溶液の濃度、印加電圧などの紡糸条件を変えることで繊維径を簡便に変えうるので、内径を容易に調製できる。
【0016】
また、本発明は、焼成することで、素早く繊維を除去できる。また、溶媒が行き渡る際に、金属の中空構造を破壊する可能性もなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0018】
(1) 電界紡糸法による極細繊維の調製
本発明では公知の電界紡糸法を使用することができる。図1は電界紡糸装置の一例の概略を示す説明図である。図1において、電界紡糸装置は、シリンジ1、ステンレス板のコレクター2、高電圧電源装置3から構成されている。シリンジ針4−ステンレス板2の間に高電圧を印加することによって、シリンジ内に充填されたポリマー溶液を射出させ、ステンレス板2上でナノファイバーが得られる。ステンレス板2上のナノファイバーをほぐすことにより、数cm〜数メートルの1本の連続したナノファイバーの製造が可能である。
【0019】
本実施例では、まず、クロロホルム4mlにポリメタクリル酸メチル(PMMA)0.3454g、塩化パラジウム0.0050gを加えて72時間撹拌し、さらに2時間超音波処理を行い、PMMAが5.5質量%のPMMA/PdCl溶液とした。
【0020】
このPMMA/PdCl溶液を入れた3mlシリンジ針4に高電圧電源の陽極、ろ紙を貼り付けたステンレス板2に陰極を接続した。ステンレス板2とシリンジ針4の先端の距離は10cmで、15kVの電圧を印加した。シリンジ1はシリンジポンプに取り付け、シリンジ針4の先から1.00ml/hで溶液を押し出し、PMMA/PdCl溶液0.20mlをろ紙上に電界紡糸した。
【0021】
その後、循環式乾燥器を用いて60℃で24時間、さらに減圧下60℃で24時間溶媒除去を行った。同様にして電界紡糸を行ったろ紙を3枚用意した。
【0022】
(2)無電解メッキの浴組成と方法
NiSO・6HO2.9962g、Na・2HO1.5886g、CHCOONH2.4650g、NaHPO・2HO2.3325gをこの順番にイオン交換水に溶かし、無電解めっき液100mlを調製した。pH6前後であった。
【0023】
次に、無電解ニッケルめっき溶液をビーカーにおよそ3等分し、それぞれ1枚ずつ前項で調製したファイバーをろ紙と共に浸漬し、めっき溶液を60℃に保った。めっき溶液内で気泡が発生し始めたときをめっき開始時間として、めっき時間を30分、60分、120分と変化させた。
【0024】
その後めっきしたファイバーを、循環乾燥器を用いて40℃で4時間、減圧下60°Cで24時間乾燥した。
【0025】
30分間、60分間120分間めっきを行ったファイバーをそれぞれNi−P/PMMA/PdCl−30、Ni−P/PMMA/PdCl−60、Ni−P/PMMA/PdCl−120と以後表記する。
【0026】
(3)熱処理による中空化
調製したファイバーをるつぼに入れ、10℃/minで空気中において加熱し、400℃、550℃でそれぞれ焼成時間を2、4時間と変化させて結果を比較した。
なお、(1)〜(2)については、以下のようにPVDF−HFPを用いても、同様に実施している。
【0027】
図2(a)〜(d)は本実施例で得られたナノチューブである。中空化の際に、(a)、(b)および(c)は400℃で焼成したもの、(d)および(e)は550℃で焼成したものである。図2に示されるとおり、ファイバーが焼成により除去されて中空に形成されていることが確認できる。
【実施例2】
【0028】
(1)電界紡糸溶液の調製
アセトン1.4mlとN、N−ジメチルホルムアミド(DMF)0.6 mlの混合溶媒にビニリデンフルオライド‐ヘキサフルオロプロピレンポリマー(PVDF−HFP) 0.2498g、塩化パラジウム0.0027gを加えて77時間撹拌し、PVDF−HFPが13質量%のPVDF−HFP/PdCl溶液とした。
【0029】
このPVDF−HFP溶液を入れた3mlシリンジに高電圧電源の陽極、ろ紙を貼り付けたステンレス板に陰極を接続した。ステンレス板とシリンジ針先の距離は12cmで、15kVの電圧を印加した。シリンジはシリンジポンプに取り付け、シリンジ針先から0.75ml/hで溶液を押し出し、ろ紙上にPMMA/PdCl溶液0.10 mlの電界紡糸を行った。
【0030】
その後、循環式乾燥器を用いて60℃で24時間、さらに減圧下60℃で24時間溶媒除去を行った。
【0031】
(2)無電解メッキの浴組成と方法
NiSO・6HO2.9961g、Na・2HO1.5891g、CHCOONH2.4655g、NaHPO・2HO2.3338gをこの順番にイオン交換水に溶かし、無電解めっき液100mlを調製した。pH6前後であった。
【0032】
めっき溶液100mlを入れたビーカーに2−5−2で調製したファイバーをろ紙と共に浸漬し、めっき溶液を60℃に保った。めっき溶液内で気泡が発生し始めたときをめっき開始時間として、60分間めっきを行った。
【0033】
(3)熱処理による中空化
実施例1と同様に、調製したファイバーをるつぼに入れ、10℃/minで空気中において加熱し、400℃、550℃でそれぞれ焼成時間を2、4時間と変化させて結果を比較した。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】電界紡糸装置の一例の概略を示す説明図である。
【図2】本実施例のナノチューブを示す写真である。
【符号の説明】
【0035】
1:シリンジ
2:ステンレス板
3:高電圧電源装置
4:シリンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界紡糸により加熱により熱分解するナノファイバーを調製し、このファイバーの表面を無電解めっきにより金属層で被覆した後、ファイバーを加熱除去することを特徴とする連続した長尺の金属ナノチューブの製造方法。
【請求項2】
ナノファイバーが加熱により熱分解し且つ熱分解温度が金属層の融点以下のポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の連続した長尺の金属ナノチューブの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属ナノチューブの製造方法で製造された連続した長尺の金属ナノチューブ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−37592(P2010−37592A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200965(P2008−200965)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年7月5日 日本分析化学会九州支部、高分子学会九州支部、繊維学会西部支部、日本農芸化学会西日本支部、化学工学会九州支部、日本化学会九州支部、有機合成化学協会九州山口支部、電気化学会九州支部主催の「第45回 化学関連支部合同九州大会 外国人研究者交流国際シンポジウム」において文書をもって発表
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】