説明

連続した2ホウ化マグネシウム(MgB2)の基材およびドーピングした2ホウ化マグネシウム線を形成する方法

化学的にドーピングされたホウ素のコーテイングはCVDにより炭化ケイ素フアイバに施され、次いでコーテイングされたフアイバはマグネシウム蒸気に曝されて、ドーピングされたホウ素がドーピングされた2ホウ化マグネシウム(MgB2)に変換され、結果として 超伝導性になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超伝導性、取扱性などの良好な機械的特性を有する2ホウ化マグネシウム(MgB2)線を得るための、2ホウ化マグネシウム(MgB2)に転換されるホウ素基体ないしホウ素基材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2ホウ化マグネシウム(MgB2)は転移温度約40Kの超伝導体ないし超伝導材料であることが発見されている。2ホウ化マグネシウム(MgB2)はマグネシウム元素とホウ素元素 との反応によりつくられる。このプロセスの結果、商業的に役立つ微細な粉末が得られる。この材料の小さな結晶についての実験が、高磁場での高い電流持続の可能性や、2ホウ化マグネシウム(MgB2)を、強力な磁石が必要とされるMRIなどへの適用が非常に有用 な特性を有することが実証されている。しかし、2ホウ化マグネシウム(MgB2)はこのよ うな適用に必要とされる連続した線をつくるのに必要な伸線プロセスに対し順応性がない材料である。
【0003】
ホウ化マグネシウム線はクラツド材の合成管に微細な粉末を充填し、合成管を小径に引き伸ばすという「powder-in-tube」プロセスによりつくられている(S.Jim他,鋼被覆超 伝導線,Nature,Vol.410,63(2001)。このプロセスは高コストのものであり、それても複 合された線に最適な特性は引き出せない。
【0004】
2ホウ化マグネシウム(MgB2)線をつくる他の手段として、マグネシウム蒸気(ガス、以下同じ)との反応により、ホウ素フイラメントを変換している。ホウ素フイラメントは連続的なCVD(化学的蒸着)プロセスでつくられる。つまり、12μmのタングステン基材(ないし基体)に、径100μmのホウ素フイラメントを被覆した長さ数kmを超えるものが商業的に得られる。これらのフイラメントのセグメントは密封タンタル管の内部でマグネシウム蒸気と反応される。(カンフイールド他,高密度2ホウ化マグネシウム(MgB2)線 の超伝導性,Phys.Rev.Lett.,Vol.86,2424(2001))。フイラメントセグメントは2ホウ 化マグネシウム(MgB2)線に転換の後、線の姿に維持され、良好な超伝導性を示した。し かし、得られた線は壊れやすく、取扱いが難しい。
【特許文献1】米国特許第4,481,257号明細書
【非特許文献1】カンフイールドおよびブンコ,Physics World, 2001.1.29. S.Jim他,鋼被覆超伝導線,Nature,Vol.410,63(2001) 以下の実験は発明者の研究ノート第3〜114頁「超伝導材料と してのホウ素」に詳述されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は以下に示すように、良好な超伝導性と、取扱性などの良好な機械的特性とを保持する、連続した線の姿の2ホウ化マグネシウム(MgB2)に転換されるホウ素基材 を得ることである。
【0006】
本発明の他の目的は原子の種にCVDによる制御方法でドーピングし、ホウ素を2ホウ化マグネシウム(MgB2)に変換して、超伝導材料の電流持続性を高める磁気渦場 pinning siteを形成する連続ホウ素基材およびその製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のドーピングされたホウ素の製造方法は、反応容器にホウ素を含む蒸気を導入する工程と、反応容器にドーピング材蒸気を導入して、ドーピング材蒸気とホウ素を含む蒸気との混合物を得る工程とを経て、前記混合物を加熱してドーピングされたホウ素を得るものである。
【0008】
2ホウ化マグネシウム(MgB2)のもつ超伝導性の他の様相は不純物の効果である。不純 物の存在は磁気渦 pinningにより超伝導材料の電流持続性を高めることができる。つまり、抑制された渦は電気抵抗0を保持する実例を現す(カンフイールドおよびブンコ,Physics World, 2001.1.29.)。2ホウ化マグネシウム(MgB2)の特性を高めるのに有用なことが分つている不純物には、酸化マグネシウム、炭素、炭化ケイ素、ホウ化チタンが含まれる。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、化学的にドーピングしたホウ素のコーテイングが炭化ケイ素フアイバにCVDにより施される。炭化ケイ素フアイバは500kpsi(35kg/mm2)を超える引張強さ、50mpsi(0.35kg/mm2)を超えるヤング率を有する高い機械的特性を呈する。
【0010】
ドーピングされたホウ素のコーテイングは、炭化ケイ素フアイバ以外の基材にも凝着される。タングステン線、モリブデン線、炭素モノフイラメントは、例えばホウ素の凝着に有用であり、コーテイングされたホウ素の凝着にも可能である。この場合、炭化ケイ素の使用による特殊な機械的特性は高められないが、コーテイングがマグネシウムと反応して2ホウ化マグネシウムを形成した後にも、超伝導限界電流強度や上限電磁場がまだ得られるなどの超伝導特性の改善が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、化学的にドーピングしたホウ素のコーテイングが炭化ケイ素フアイバにCVDにより施される。つまり、これらのコーテイングされたフアイバはマグネシウム蒸気(ガス)に曝されて、ドーピングされたホウ素をドーピングされた2ホウ化マグネシウム(MgB2)に変換する。炭化ケイ素フアイバは商業的なエネルギ物質SCS−9またはSC S−9A(名目上の径3mm)またはSCS−6(径5.6mm)である。これらの炭化ケイ素フアイバは500kpsi(35kg/mm2)を超える引張強さ、50mpsi(0.35kg/mm2)を超えるヤング率を有する高い機械的特性を呈する。SCSフアイバは炭素質表面層を有する。フアイバの合成物ないし複合体への利用を高める。炭化ケイ素フアイバは炭素質の多い表面層がなくても製造できる。化学的にドーピングしたホウ素のコーテイングは、通常ホウ素の蒸着に用いる蒸気流れに対するドーピング材蒸気の添加量を制御することにより形成される。こうして、コーテイングにおけるドーピング材の濃度が制御される。例えば、通常ホウ素の蒸着に用いられる粗化学量の水素と3塩化ホウ素との混合物に対する4塩化チタン蒸気の添加は、ホウ化チタンでドーピングされたホウ素の凝着が得られ、ホウ化チタンの濃度は4塩化チタンの蒸気圧を介して制御できる。ホウ素/ホウ化チタン(B/TiB2)をコーテイングした炭化ケイ素 (SiC)は高温のマグネシウム蒸気に曝され、結果としてホウ化チタンでドーピングした2ホウ化マグネシウムをコーテイングされた強靭な炭化ケイ素 (SiC)フアイバとなる。
【0012】
2ホウ化マグネシウムに有用な他のドーピング材は、酸化マグネシウムである。これはホウ素の凝着に用いられる蒸気の流れに対して制御量のB2O2C12を添加することにより製 造することができる。こうして製造された酸素でドーピングされたホウ素は、上のようなプロセスで酸化マグネシウムでドーピングされた2ホウ化マグネシウムに変換される。
【0013】
炭化ケイ素は2ホウ化マグネシウムに有用なドーピング材であることが明らかになつている。ドーピングされた2ホウ化マグネシウム(MgB2)は、密封管の内部でホウ素、マグネシウム、炭化ケイ素の各粉末の混合物の反応によりペレツトとして得られる。CVDにより(3塩化ホウ素の水素還元により)つくられたホウ素は、メチルトリクロロシランのような計量された有機シランを添加することにより、制御量の炭化ケイ素でドーピングされる。したがつて、連続的に炭化ケイ素(SiC)でドーピングされた2ホウ化マグネシウム(MgB2)線 を形成するよりも好都合な方法は、CVDにより炭化ケイ素(SiC)でドーピングさ れたホウ素基材を形成し、次いでマグネシウムとの反応により基材をドーピングされた2ホウ化マグネシウム(MgB2)に変換することを含むプロセスである。CVDプロセスはドーピング材の均一な分散を制御された複合体の連続的な基材を組織化ないし複合化する手段を提供する。
【0014】
同様に、ドーピング材としての炭素は、有機シランに代わるホウ素凝着中に炭化水素がめっきないし凝着蒸気に添加されるという上述のプロセスを経て、連続した2ホウ化マグネシウム(MgB2)線に組み込むことができる。
【0015】
ホウ素を含むコーテイングを炭化ケイ素に施すことは公知であるが(スプリンスカス他米国特許第4,481,257号明細書)、該明細書は複合体に炭化ケイ素が補強効果を提供するという、複合体に対する結合度を高めることに限定される。超伝導線の形成に対する本願は新規なものである。
【0016】
ドーピングされたホウ素のコーテイングは、炭化ケイ素フアイバ以外の基材にも凝着される。タングステン線、モリブデン線、炭素モノフイラメントは、例えばホウ素の凝着に有用であり、コーテイングされたホウ素の凝着にも可能である。この場合、炭化ケイ素の使用による特殊な機械的特性は高められないが、コーテイングがマグネシウムと反応して2ホウ化マグネシウムを形成した後にも、超伝導限界電流強度や上限電磁場がまだ得られるなどの超伝導特性の改善が得られる。2ホウ化マグネシウムへの変換はコールフイールド他のプロセスを用いることで明らかにされているが、コーテイングされたホウ素を超伝導材料に変換する他の手段も可能であり、例えば、連続的にドーピングされたホウ素は鍋の中の溶融したマグネシウムを通過させてもよい。ホウ素とマグネシウムの反応に用いる方法は、ここに述べた発明とは別のものである。
【実施例】
【0017】
実施例1
外径3mmのSCS−9のフアイバが通常は連続するホウ素フアイバの凝着に用いられる反応器を通された。連続する炭化ケイ素フアイバは水銀蒸気シールと電極を経て反応器の上部へ入り、同様のシールと電極を経て反応器の底部へ出る。反応器の底部から出るフアイバは、種々の速度で回転する取上げリールに巻き上げられる。反応器を通過するフアイバの速度は毎分20フイート(6m/min.)であつた。反応蒸気は反応器の頂部へ供給され、底部から排出された。流量3.1lit./min.の水素と流量4.2lit./min.の3塩化ホウ素が反応器を貫流された。炭化ケイ素は反応器の頂部と底部のシール/電極の水銀蒸気に発生した電流により抵抗加熱された。200mAの電流で炭化ケイ素フアイバは1100〜1300℃に加熱された。次いで、水素の流れは4塩化チタン液体を含むバブラ(泡沫、粗いガラスのフリツト)を通過する方へ向けられた。バブラは氷水の桶に浸された。4塩化チタン(TiCl4)に浸された熱電対は3゜Cを示した。バブラから現われた4塩化水素/ チタンの混合物は3塩化ホウ素と混合され、反応器を貫流された。反応器から現われるフアイバの直径は、反応器へ入るSCS−9の3mmと比べて約3.3mmであつた。このコーテイングされたフアイバのサンプルは巻取リールで回収された。
【0018】
回収されたサンプルの試験は平滑かつ均一に結合されたコーテイングが厚さ約4μmであることを示した。コーテイングの錐孔削取り分析によれば、コーテイングが約90%のホウ素と10%のチタンからなることが分つた。このフアイバの断片はアイオワ州立大学のドウグ・フイネモアの研究所で、コウフイールド(loc.cit.)他に説明されている方法によりタンタル管の内部に密封され、950℃に1時間加熱された。ここで変換されたフアイバは転移温度約39Kで超伝導を示した。続く計測の結果、温度5K、磁場0.1テスラで、限界電流密度が5百万A/cm2であることが分つた。超伝導についての同様の計測か ら、純粋のホウ素から最大値約600,000A/cm2の電流密度が得られた。こうして得 られた線は扱いやすく、損傷することなく、外径半インチ(12.7mm)の円周に沿つて湾曲できた。
【0019】
実施例2
外径3mmの炭化ケイ素フアイバを上述の反応器に通過させた。フアイバが反応器を通過する速度は毎分20フイート(6m/min.)であつた。流量3.1lit./min.の水素と4. 2lit./min.の3塩化ホウ素を反応器に通過させた。炭化ケイ素フアイバに162mAの電 流を通じて約1100℃に抵抗加熱した。水素の流れの一部が温度27〜34℃でメチルトリクロロシラン液体を含むバブラ(粗いガラスのフリツト)を通過するように脇へ向けられた。一連の実験では下表に示すように、バブラへ向けられた水素の全流量の割合は体系的に変えられた。全ての例で、炭化ケイ素に平滑に結合されたコーテイングは、厚さ2〜4μmであつた。コーテイングの組成はエレクトロン走査型顕微鏡でのエネルギ拡散X線解析により決定された。各例で見い出されたケイ素の原子%は下表に示される。データはホウ素のコーテイングの制御されたドーピングが達成されていることを実証する。
─────────────────────────────
実験番号 バブラを通過する流量% ケイ素の原子%
─────────────────────────────
1 0 0
2 18 1.5
3 36 5.0
4 55 6.3
5 73 8.1
【0020】
実施例3
外径3mmの炭化ケイ素フアイバを上述の反応器に通過させた。フアイバが反応器を通過する速度は毎分20フイート(6m/min.)であつた。流量3.1lit./min.の水素と4. 2lit./min.の3塩化ホウ素を反応器に通過させた。炭化ケイ素フアイバに下表に示すよ うに162〜178mAの電流を通じで抵抗加熱した。水素と3塩化ホウ素に加えて、流量0〜950cm3/min.(SCCM)のメタンガスが反応器に加えられた。一連の実験では下表に示すように、電流とメタンの流量が変えられた。全ての例で、炭化ケイ素に円滑に結合されたコーテイングは、厚さ2〜4μmであつた。コーテイングの組成はエレクトロン走査型顕微鏡でのエネルギ拡散X線解析により決定された。各例で見い出された炭素の原子%は下表に示される。データはホウ素のコーテイングに制御されたドーピングが達成されていることを実証する。
─────────────────────────────
実験番号 メタン流量(SCCM) 電流(mA) 炭素の原子%
─────────────────────────────
1 0 165 0
2 250 162 1.5
4 500 170 3.3
6 950 178 6.3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器にホウ素を含む蒸気を導入する工程と、反応容器にドーピング材蒸気を導入して、ドーピング材蒸気とホウ素を含む蒸気との混合物を得る工程とを経て、前記混合物を加熱してドーピングされたホウ素を得る、ドーピングされたホウ素の製造方法。
【請求項2】
前記ホウ素を含む蒸気が水素と3塩化ホウ素蒸気との混合物である、請求項1に記載のドーピングされたホウ素の製造方法。
【請求項3】
前記ドーピング材蒸気が4塩化チタン蒸気である、請求項1に記載のドーピングされたホウ素の製造方法。
【請求項4】
前記ホウ素を含む蒸気が水素と3塩化ホウ素蒸気との混合物である、請求項3に記載のドーピングされたホウ素の製造方法。
【請求項5】
前記水素と3塩化ホウ素蒸気との混合物が、概略的化学量の混合物である、請求項4に記載のドーピングされたホウ素の製造方法。
【請求項6】
コーテイング時にドーピングされたホウ素を受け入れるために、フアイバ基材を反応容器に供給する工程を含む、請求項1に記載のドーピングされたホウ素の製造方法。
【請求項7】
前記ホウ素を含む蒸気が水素と3塩化ホウ素蒸気との混合物である、請求項6に記載のドーピングされたホウ素の製造方法。
【請求項8】
前記ドーピング材蒸気が4塩化チタン蒸気である、請求項6に記載のドーピングされたホウ素の製造方法。
【請求項9】
前記ホウ素を含む蒸気が水素と3塩化ホウ素蒸気との混合物である、請求項8に記載のドーピングされたホウ素の製造方法。
【請求項10】
チタン化合物でドーピングした2ホウ化マグネシウムをコーテイングしてなるフアイバ基材からなる超伝導材料。
【請求項11】
前記フアイバ基材が炭化ケイ素基材である、請求項10に記載の超伝導材料。

【公表番号】特表2006−507208(P2006−507208A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555265(P2004−555265)
【出願日】平成15年7月1日(2003.7.1)
【国際出願番号】PCT/US2003/020628
【国際公開番号】WO2004/048292
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(505193438)
【Fターム(参考)】