連続式加熱炉の炉温設定方法及び炉温制御システム、連続式加熱炉、並びに金属材料の製造方法
【課題】加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件をより確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能な、連続式加熱炉の炉温設定方法を提供する。
【解決手段】所定の制御周期毎に少なくとも1の燃焼帯の温度を該燃焼帯からの各スラブの目標抽出温度に基づいて設定する、連続式加熱炉の炉温設定方法であって、温度設定を行う燃焼帯のうち1の燃焼帯を作業燃焼帯として選択する工程と、初期時刻において作業燃焼帯の内部に存在する各スラブおよび作業燃焼帯に導入される直前のスラブの予想抽出温度が各スラブの目標抽出温度以上となるような作業燃焼帯の設定炉温軌道を計算する工程と、計算した作業燃焼帯の設定炉温軌道のうち少なくとも一部を作業燃焼帯の炉温設定に反映する工程と、を有する炉温設定方法とする。
【解決手段】所定の制御周期毎に少なくとも1の燃焼帯の温度を該燃焼帯からの各スラブの目標抽出温度に基づいて設定する、連続式加熱炉の炉温設定方法であって、温度設定を行う燃焼帯のうち1の燃焼帯を作業燃焼帯として選択する工程と、初期時刻において作業燃焼帯の内部に存在する各スラブおよび作業燃焼帯に導入される直前のスラブの予想抽出温度が各スラブの目標抽出温度以上となるような作業燃焼帯の設定炉温軌道を計算する工程と、計算した作業燃焼帯の設定炉温軌道のうち少なくとも一部を作業燃焼帯の炉温設定に反映する工程と、を有する炉温設定方法とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続式加熱炉の炉温設定方法及び炉温制御システム、連続式加熱炉、並びに金属材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材は、鉄鉱石から精錬及び鋳造により製造され、その後、薄く延ばしたり、中空管などの形状にしたりするために熱間圧延が行われる。鋼材は、この熱間圧延の前に加熱炉(以下「炉」ということがある。)での加熱により、設定された目標抽出温度にされる。目標抽出温度は、熱間圧延時の鋼材温度の違いにより鋼の性質が異なることから、その鋼材から製造される製品に必要な性質により決定される。
【0003】
一般に、熱間圧延を行うために連続式加熱炉にてスラブの加熱を行う際には、スラブを炉から抽出する際に、スラブ毎に設定した目標抽出温度までスラブ温度が上昇しているように各燃焼帯の炉温を設定し、操業する。
【0004】
各燃焼帯の炉温を設定するにあたっては、上記目標抽出温度を満足することだけではなく、スラブ表面とスラブ内部との温度差の低減(均熱度の確保)、加熱時間の短縮、燃料使用量の低減などを考慮することが多い。連続式加熱炉の炉温設定方法に関する技術として、例えば特許文献1には、各燃焼帯に複数存在するスラブのそれぞれについてその抽出時に目標抽出温度まで加熱するように、炉温変化がスラブ抽出温度の変化に及ぼす影響係数を計算し、それに基づく各燃焼帯の炉温設定値を算出し、各燃焼帯の炉温変化の各スラブ抽出温度への影響係数を重みとした重み付き平均により、最終的な各燃焼帯の設定炉温とすることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、連続式加熱炉の燃焼帯からの抽出位置だけでなく、抽出位置以外の途中位置にも目標位置を設定し、各スラブについて目標位置で満足するべき目標スラブ温度や目標均熱度を設定し、それを満足するような各燃焼帯の設定炉温をスラブ毎に算出し、燃焼帯毎にスラブ毎算出値の最高値あるいはスラブの優先準位に基づく加重平均値を採用することで最終的な設定炉温とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−157760号公報
【特許文献2】特開2008−24966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炉温設定における最大の課題はスラブを目標抽出温度で抽出することである。このため、通常、燃焼帯の出側においてスラブ温度が目標抽出温度となるような制御が行われる。さらに、連続式加熱炉の一の燃焼帯内には複数のスラブが存在し、各スラブには製造される製品に合わせた熱処理条件が設定されていることが多い。異なる熱処理条件を設定されている複数のスラブを加熱炉中に装入する場合には、一のスラブの加熱条件を満足しつつ、熱処理条件の異なる別のスラブの加熱条件を満足するように加熱炉の制御を行う必要がある。その一方で、加熱炉の制御には様々な制約条件が課される。制約条件としては、例えば炉温の設定上限や、隣接する燃焼帯との温度差の上限等を挙げることができる。
【0008】
特許文献1に記載の技術は、各燃焼帯の抽出位置(出側)のみにおいてスラブ温度について目標値を設定して炉温の制御を行うものである。これに対して、特許文献2に記載の技術は、各燃焼帯の出側におけるスラブ温度に加えて、出側以外の所定の位置におけるスラブ温度についても目標値を設定して炉温の制御を行うものであり、加熱精度の向上が図られている。しかし、これら従来の制御技術は言わば点での制御であるため、制約条件との関係で細かな制御を行い得るには至っていなかった。その結果、制約条件によりスラブ温度を目標抽出温度とする制御が困難となる場合があり、スラブ温度が目標抽出温度に達しない事態が発生するおそれがあった。スラブ温度が目標抽出温度を下回ると、スラブを加熱炉から抽出した後の加工に支障を来すおそれや、加工が可能ではあっても得られる製品の品質が低下し、歩留まりの低下を招くおそれがある。
加えて、加熱炉の制御は制約条件及び目標抽出温度を同時に満足させる必要があることから、場合によってはスラブの目標抽出温度を大きく超えて高い炉温を設定せざるを得ないこともあり、その結果燃料消費量が増大するおそれがあった。近年の環境保全等の観点から、燃料消費量の削減への要求は高まる一方であり、目標抽出温度及び制約条件の両方を満足しつつも、燃料消費量をさらに削減することが望まれている。
【0009】
そこで本発明は、上記の事情に鑑み、加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件をより確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能な、連続式加熱炉の炉温設定方法を提供することを課題とする。また、連続式加熱炉の炉温制御システム、連続式加熱炉、並びに金属材料の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来よりさらに細かな制御を行うことを検討し、スラブの温度を燃焼帯の現時点より任意の未来までを制御する、言い換えれば、スラブの温度軌道を制御する着想を得た。本発明者らはさらなる検討の結果、燃焼帯の設定炉温軌道を調整してスラブの温度軌道を制御することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の第1の態様は、所定の制御周期毎に少なくとも1の燃焼帯の温度を、該燃焼帯からの各スラブの目標抽出温度に基づいて設定する、連続式加熱炉の炉温設定方法であって、温度設定を行う燃焼帯のうち1の燃焼帯を、作業燃焼帯として選択する、燃焼帯選択工程と、初期時刻において作業燃焼帯の内部に存在する各スラブおよび作業燃焼帯に導入される直前のスラブの作業燃焼帯からの予想抽出温度が、作業燃焼帯からの各スラブの目標抽出温度以上となるような、作業燃焼帯の設定炉温軌道を計算する、設定炉温軌道計算工程と、計算した作業燃焼帯の設定炉温軌道のうち少なくとも一部を、作業燃焼帯の炉温設定に反映する、設定炉温軌道反映工程と、を有することを特徴とする、連続式加熱炉の炉温設定方法である。
【0012】
ここに、本発明において、「温度設定を行う燃焼帯のうち1の燃焼帯を、作業燃焼帯として選択する」とは、温度設定を行う燃焼帯が複数存在する場合の他、温度設定を行う燃焼帯が1つのみ存在する場合をも包含する概念である。なお、「作業燃焼帯」とは、温度設定を行う燃焼帯のうち着目する一の燃焼帯を他の燃焼帯と区別するための概念であって、「作業燃焼帯」という名の燃焼帯が連続式加熱炉に存在することを要求するものではない。「初期時刻」とは、その制御周期の開始時刻を意味する。「作業燃焼帯に導入される直前のスラブ」とは、その後作業燃焼帯に導入される作業燃焼帯の入口前のスラブをいうが、その数は1に限られない。「設定炉温軌道」とは、その燃焼帯の炉温の設定計画を表す、時刻を変数とする関数である。また、「設定炉温軌道のうち少なくとも一部を、作業燃焼帯の炉温設定に反映する」とは、上記時間の関数である設定炉温軌道が計算されている時間区間のうち少なくとも一部の時間区間について、その設定炉温軌道を作業燃焼帯の実際の炉温設定に反映することを意味する。
【0013】
本発明の第1の態様において、設定炉温軌道計算工程が、初期時刻において作業燃焼帯の内部に存在するスラブおよび前記作業燃焼帯に導入される直前のスラブのうち、作業燃焼帯から1番目に抽出される最先スラブの作業燃焼帯からの予想抽出温度が目標抽出温度以上となるような、初期時刻から最先スラブの予定抽出時刻までの時間区間に係る作業燃焼帯の設定炉温軌道を計算する、第1計算工程と、初期時刻において作業燃焼帯の内部に存在するスラブおよび作業燃焼帯に導入される直前のスラブのうち作業燃焼帯から2番目以降に抽出される各スラブの作業燃焼帯からの予想抽出温度がそれぞれ該各スラブの目標抽出温度以上となるような、作業燃焼帯の設定炉温軌道を計算する、第2計算工程と、を有し、第2計算工程において、初期時刻において作業燃焼帯の内部に存在するスラブおよび作業燃焼帯に導入される直前のスラブの個数をNs個とし、jを2以上Ns以下の整数とするとき、作業燃焼帯からj番目に抽出される第jスラブについて、初期時刻から、第jスラブの一つ前に抽出される第j−1スラブの予定抽出時刻までは、最先スラブから第j−1スラブまでの各スラブの目標抽出温度を満足するように既に計算した設定炉温軌道に従って加熱することを前提として、第jスラブの目標抽出温度を満足するような、第j−1スラブの予定抽出時刻から第jスラブの予定抽出時刻までの時間区間に係る設定炉温軌道を計算し、計算した設定炉温軌道が作業燃焼帯の炉温設定の制約条件を満足しない場合に、kを1以上j−1以下のいずれかの整数として、作業燃焼帯からj−k番目に抽出される第j−kスラブから第jスラブまでの各スラブの作業燃焼帯からの予想抽出温度がそれぞれ該各スラブの目標抽出温度を満足するような、下記(A)又は(B)の時間区間:
(A)第j−kスラブが最先スラブと同一である場合には、初期時刻から第jスラブの予定抽出時刻までの時間区間;
(B)第j−kスラブが最先スラブと同一でない場合には、第j−kスラブの一つ前の第j−k−1スラブの予定抽出時刻から第jスラブの予定抽出時刻までの時間区間、
に係る設定炉温軌道を、下記(C)又は(D)の条件:
(C)上記(A)の場合には、既に計算した初期時刻以降の設定炉温軌道に従って加熱する時間を設けない条件;
(D)上記(B)の場合には、初期時刻から第j−k−1スラブの予定抽出時刻までは、最先スラブから第j−k−1スラブまでの各スラブの目標抽出温度を満足するように既に計算した設定炉温軌道に従って加熱する条件、
に基づいて計算することが好ましい。
【0014】
本発明において、「目標抽出温度」とは、作業燃焼帯からの、当該スラブの目標抽出温度を意味する概念であって、一般には当該スラブの連続式加熱炉からの最終的な目標抽出温度を意味しない。ただし、作業燃焼帯が連続式加熱炉における最後の燃焼帯である場合には、当該作業燃焼帯からの目標抽出温度はそのスラブの連続式加熱炉からの最終的な目標抽出温度に一致する。「予定抽出時刻」とは、作業燃焼帯からの当該スラブの予定抽出時刻を意味する概念であって、一般には当該スラブが連続式加熱炉から抽出される予定時刻を意味しない。ただし、作業燃焼帯が連続式加熱炉における最後の燃焼帯である場合には、当該作業燃焼帯からの予定抽出時刻はそのスラブの連続式加熱炉からの予定抽出時刻に一致する。あるスラブについて「目標抽出温度を満足する」とは、当該スラブの作業燃焼帯からの予想抽出温度が、当該スラブの作業燃焼帯からの目標抽出温度以上となることを意味する。
【0015】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る連続式加熱炉の炉温設定方法により、燃焼帯の炉温を設定することを特徴とする、連続式加熱炉の炉温制御システムである。
【0016】
本発明の第3の態様は、本発明の第2の態様に係る連続式加熱炉の炉温制御システムを備えることを特徴とする、連続式加熱炉である。
【0017】
本発明の第4の態様は、本発明の第1の態様に係る連続式加熱炉の炉温設定方法によって、連続式加熱炉の炉温を設定する工程と、該連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程と、を有することを特徴とする、金属材料の製造方法である。
【0018】
ここで、本発明の第4の態様は、上記連続式加熱炉の炉温を設定する工程と、該連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程とが同時に並行して実行される形態を包含する。
【0019】
本発明の第4の態様に係る金属材料の製造方法は、本発明の第3の態様に係る連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程を有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の態様に係る連続式加熱炉の炉温設定方法によれば、設定炉温軌道計算工程及び設定炉温軌道反映工程を有するので、燃焼帯の炉温軌道を制御することにより、燃焼帯における各スラブの温度軌道を制御することができる。よって、加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件をより確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能な、連続式加熱炉の炉温設定方法を提供することができる。
【0021】
設定炉温軌道計算工程が上記第1計算工程及び第2計算工程を有する形態の本発明の第1の態様によれば、燃焼帯内に存在するスラブのうち先行するスラブ(先スラブ)の抽出後に燃焼帯の炉温を制御しても残りの遅行するスラブ(遅スラブ)の目標抽出温度及び制約条件の両方を満足することができないと予測される場合に、先スラブの温度軌道を調整するように燃焼帯の設定炉温軌道を計算するので、目標抽出温度及び制約条件の両方を満足する設定炉温軌道を発見することが一層容易になる。また、このような臨機応変な計算により、燃料消費量を低減することも一層容易になる。
【0022】
本発明の第2の態様に係る連続式加熱炉の炉温制御システムによれば、連続式加熱炉の炉温設定が、本発明の第1の態様にかかる連続式加熱炉の炉温設定方法によって行われる。したがって、本発明の第2の態様によれば、加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件をより確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能な、連続式加熱炉の炉温制御システムを提供することができる。
【0023】
本発明の第3の態様に係る連続式加熱炉は、本発明の第2の態様に係る連続式加熱炉の炉温制御システムを備える。本発明の第2の態様に係る連続式加熱炉の炉温制御システムは、上記効果を奏するものである。したがって、本発明の第3の態様によれば、加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件をより確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能な、連続式加熱炉を提供することができる。
【0024】
本発明の第4の態様に係る金属材料の製造方法によれば、金属材料を加熱する連続式加熱炉の炉温設定が、本発明の第1の態様に係る連続式加熱炉の炉温設定方法によって行われる。上記したように、本発明の第1の態様に係る連続式加熱炉の炉温設定方法によれば、加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件をより確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能である。よって、本発明の第4の態様によれば、製品品質及び製造歩留まりを向上させ、また、燃料費を低減することが可能な、金属材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法を説明するフローチャートである。
【図2】連続式加熱炉の模式図である。
【図3】燃焼帯の状況を説明する模式図である。
【図4】設定炉温軌道計算工程を説明するフローチャートである。
【図5】抽出予定順の早いスラブから設定炉温軌道を計算する手順を説明する図である。
【図6】スラブsjにおいて炉温制約条件を満足できない場合の設定炉温軌道の計算を説明する図である。
【図7】本発明の連続式加熱炉の炉温制御システムを説明する図である。
【図8】本発明の連続式加熱炉を説明する図である。
【図9】本発明の金属材料の製造方法を説明するフローチャートである。
【図10】本発明例及び比較例における第2加熱帯の設定炉温の推移を示す図である。
【図11】本発明例及び比較例における均熱帯の設定炉温の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の上記した作用および利得は、以下に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明がこれらの形態に限定されるものではない。
【0027】
<1.連続式加熱炉の炉温設定方法>
本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法について説明する。図1は、連続式加熱炉の炉温設定方法S10(以下、「炉温設定方法S10」又は単に「S10」ということがある。)を説明するフローチャートである。図2は、S10が適用される連続式加熱炉10を示す模式図である。図3は、燃焼帯の状況を説明する模式図である。また、図4は、炉温設定方法S10が有する設定炉温軌道計算工程S12を説明するフローチャートである。
以下、図1〜4を参照しつつ、本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法について説明する。
【0028】
図2に示すように、連続式加熱炉10においては、炉壁1によって炉内と炉外とが隔てられている。炉内の空間はさらに、炉壁1によって、予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4、及び均熱帯5に分画されており、これら4つの燃焼帯はこの順に紙面左側から右側へ並んでいる。上記4つの燃焼帯にはスキッド6が配されており、スラブ装入口7から矢印Aの如く装入されたスラブ9、9、…は、このスキッド6上を予熱帯2から順に、矢印Bの方向に各燃焼帯を移動し、所望の温度まで加熱された後、最終的にスラブ抽出口8から矢印Cの如く取り出される。
本発明の炉温設定方法は、図2のように複数の燃焼帯を有する連続式加熱炉において、各燃焼帯に複数存在するスラブを各スラブ及び各燃焼帯について予め設定された目標抽出温度まで加熱してから抽出するにあたり、所定の制御周期毎に炉温設定モデルを起動し、燃焼帯の設定炉温の更新を行う。
【0029】
図1に示すように、炉温設定方法S10は、燃焼帯選択工程S11と、設定炉温軌道計算工程S12と、設定炉温軌道反映工程S13と、終了判断工程S14とを有する。
【0030】
(燃焼帯選択工程S11)
燃焼帯選択工程S11(以下、単に「S11」ということがある。)は、炉温設定を行う燃焼帯のうち一の燃焼帯を作業燃焼帯として選択する工程である。炉温設定を行う燃焼帯の個数をNz個とすると、該計Nz個の燃焼帯は、例えばスラブが通過する順に、z1、…、zNzと表わすことができる。例えば図2の連続式加熱炉10で第2加熱帯4及び均熱帯5の炉温を設定する場合には、Nz=2、第2加熱帯4がz1、均熱帯5がz2となる。
S11においては、この中から一の燃焼帯zi(ただしiは1以上Nz以下の整数)を、後に続く設定炉温軌道計算工程S12及び設定炉温軌道反映工程S13で着目する作業燃焼帯として選択する。作業燃焼帯を選択する方法は、後述する終了判断工程S14と組み合わせて漏れ及び重複が生じない方法を特に制限なく採用できる。例えば、iを1から順にNzまで1ずつ増加させる形態を挙げることができる。
【0031】
(設定炉温軌道計算工程S12)
設定炉温軌道計算工程S12(以下、単に「S12」ということがある。)は、S10を開始した時刻、すなわち炉温設定モデル起動時の時刻t0(以下において、「初期時刻t0」又は単に「t0」ということがある。)において、上記S11で選択した作業燃焼帯ziの内部に存在する各スラブおよび前記作業燃焼帯に導入される直前のスラブの作業燃焼帯ziからの予想抽出温度が、作業燃焼帯ziからの該各スラブの目標抽出温度以上となるような、作業燃焼帯ziの設定炉温軌道を計算する工程である。以下にその詳細を説明する。なお、ある変数tの関数F(t)及びtの条件式Φ(t)について、F(t|Φ(t))とは、F(t)においてtに条件式Φ(t)を課していることを意味するものとする。
【0032】
図3に示すように、作業燃焼帯ziに存在するスラブおよび前記作業燃焼帯に導入される直前のスラブの個数をNs個とし、該Ns個のスラブを抽出予定順にs1、…、sNsとする。これらのスラブは図3紙面左から右方向へ搬送されている。以下、時刻tにおける燃焼帯ziの設定炉温をTfur[zi](t)で表わし、時刻tにおける燃焼帯zi中のスラブsj(ただしjは1以上Ns以下の整数)のスラブ温度をTslb[sj](t)で表す。また、スラブsjの燃焼帯ziからの予定抽出時刻をtextslb[sj]で表わし、スラブsjの燃焼帯ziからの目標抽出温度をTLextslb[sj]で表わす。
【0033】
1以上Ns以下の全てのjについて、スラブsjが燃焼帯ziの図3における右端を出る予定時刻、すなわち予定抽出時刻textslb[sj]に、スラブ温度Tslb[sj](t|t=textslb[sj])が目標抽出温度TLextslb[sj]以上となるように、燃焼帯ziの炉温を設定しながら操業する必要がある。なお、ここでいうスラブ温度Tslb[sj](t)の定義は適宜選択することができ、例えばスラブ中心温度やスラブ平均温度を挙げることができる。目標抽出温度TLextslb[sj]についても同様である。ただし、スラブ温度Tslb[sj](t)の定義と目標抽出温度TLextslb[sj]の定義とは揃える必要がある。例えばスラブ温度Tslb[sj](t)の定義にスラブ中心温度を採用したならば、目標抽出温度TLextslb[sj]の定義もスラブ中心温度とする必要がある。
【0034】
図4は、S12を説明するフローチャートである。S12は、第1計算工程S121(以下において、単に「S121」ということがある。)と、第2計算工程S122(以下において、単に「S122」ということがある。)とを有する。図4に示すように、第1計算工程S121はステップSS1〜2を有し、第2計算工程S122はステップSS3〜8を有する。
【0035】
(第1計算工程S121)
第1計算工程S121は、初期時刻t0において燃焼帯ziの中に存在するスラブのうち、燃焼帯ziから1番目に抽出される最先スラブs1の燃焼帯ziからの予想抽出温度Tslb[s1](t|t=textslb[s1])が目標抽出温度TLextslb[s1]以上となるような、初期時刻t0から最先スラブs1の予定抽出時刻textslb[s1]までの時間区間に係る燃焼帯ziの設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[s1])を計算する工程である。ただし初期時刻t0においては、初期時刻の設定炉温Tfur[zi](t0)を前提とする。第1計算工程S121においては、ステップSS1においてjに1を代入し、ステップSS2においてTfur[zi](t|t0<t≦textslb[sj])を計算する。
【0036】
(第1計算工程S121:ステップSS1)
ステップSS1においてjに1が代入される。これによりsjが最先スラブs1を意味することになる。
【0037】
(第1計算工程S121:ステップSS2)
ステップSS2において上記の目標抽出温度の条件、すなわち下記式(1)
【0038】
【数1】
【0039】
を充足する設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[s1])を計算する。このようなTfur[zi]は例えば次のようにして決定することができる。
【0040】
まず、初期時刻t0における炉温Tfur[zi](t0)を維持したまま時間区間t0<t≦textslb[s1]で操業したと仮定して、燃焼帯ziからの抽出時(t=textslb[s1])の予想スラブ温度T0extslb[s1]を計算する。板状のスラブに対する計算は例えば、下記式(2)〜(4)からなる公知の二次元非定常熱伝導方程式を解くことにより行うことができる。
【0041】
【数2】
【0042】
【数3】
【0043】
【数4】
【0044】
ただし、Qは入熱量[J/s]である。σはStefan−Boltzmann定数[J/s・m2・K4]である。Fは形態係数である。φcgは熱放射率調整係数である。Tfur[zi]は燃焼帯ziの炉温[K]である。Tsurfaceはスラブの表面温度[K]である。tは計算時間メッシュ[s]である。xは長方向メッシュ[m]である。yは厚方向メッシュ[m]である。cは比熱[J/kg・K]である。ρは密度[kg/m3]である。また、λは熱伝導率[J/s・m・K]である。上記式(2)〜(4)においては、Q、Tfur[zi]、及びTsurface以外は、定数又は設定により与えられる値である。
上記式(2)〜(4)を陽解法、陰解法、クランク−ニコルソン法といった差分法等の公知の数値解法を用いて解くことにより、燃焼帯ziの炉温を初期温度Tfur[zi](t0)のまま維持した場合の最先スラブs1の予想抽出温度T0extslb[s1]を算出できる。
【0045】
次に、燃焼帯ziの炉温を初期温度Tfur[zi](t0)からΔTfur[zi]だけ変更した条件下で、上記同様に時間区間t0<t≦textslb[s1]で操業すると仮定して、燃焼帯ziからの抽出時の予想スラブ温度T1extslb[s1]を計算する。計算した2つの予想抽出温度T0extslb[s1]、T1extslb[s1]を用いて、燃焼帯ziの炉温変更がスラブs1の抽出温度に及ぼす影響を表す影響係数∂Textslb[s1]/∂Tfur[zi]を下記式(5)で近似する。
【0046】
【数5】
【0047】
上記式(5)で得た影響係数∂Textslb[s1]/∂Tfur[zi]を用いて、上記式(1)の条件を満たす、すなわちs1の予想抽出温度が目標抽出温度の条件を満たすような時間区間t0<t≦textslb[s1]に係る設定炉温Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[s1])を、一次近似により下記式(6)で決定できる。
【0048】
【数6】
【0049】
なお、上記計算にあたっては、ΔTfur[zi]の値は特に制限されるものではない。ただし、ΔTfur[zi]の値は5K以上100K以下とすることが好ましく、例えば20Kとすることができる。ΔTfur[zi]を5K以上とすることにより、T1extslb[s1]とT0extslb[s1]との差を確保することが容易になる。またΔTfur[zi]を100K以下とすることにより、上記式(6)の計算において左辺の良好な近似値を得ることが容易になる。
【0050】
(第2計算工程S122)
第2計算工程S122は、初期時刻t0において作業燃焼帯ziの内部に存在するスラブおよび作業燃焼帯ziに導入される直前のスラブs1、…、sNsのうち該燃焼帯ziから2番目以降に抽出される各スラブsj(ただしjは2以上Ns以下の整数)の燃焼帯ziからの予想抽出温度Tslb[sj](t|t=textslb[sj])がそれぞれ該各スラブsjの目標抽出温度TLextslb[sj]以上となるような、燃焼帯ziの設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sNs])を計算する工程である。図4に示すように、第2計算工程S122は、ステップSS3〜SS8を有する。
【0051】
(第2計算工程S122:ステップSS3)
ステップSS3は、jを1増加させることにより、着目するスラブを1つ後ろのスラブにする工程である。例えばステップSS3の直前がステップSS2であった場合には、ステップSS3を経ることによりj=2となり、着目するスラブがs1からs2に移る。
【0052】
(第2計算工程S122:ステップSS4)
ステップSS4は、後述するステップSS5で用いる整数kを0に初期化する工程である。ステップSS4を経ることにより、スラブsj−kはスラブsjに一致し、スラブsj−k−1はスラブsj−1すなわちスラブsjの一つ前の先スラブに一致する。
【0053】
(第2計算工程S122:ステップSS5)
ステップSS5は、0以上j−1以下の整数kによって定まるsj−k、…、sjの各スラブについて、初期時刻t0からスラブsj−k−1の予定抽出時刻textslb[sj−k−1]までの時間区間t0<t≦textslb[sj−k−1]においては、最先スラブs1からスラブsj−k−1までの各スラブについて目標抽出温度を満足するように既に計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sj−k−1])に従って加熱することを前提として、各スラブsj−k、…、sjの目標抽出温度TLextslb[sj−k]、…、TLextslb[sj]を満足する、すなわちj−k以上j以下の全ての整数pについてスラブspの予想抽出温度が下記式(7)の目標抽出温度条件:
【0054】
【数7】
【0055】
を満足するような、textslb[sj−k−1]<t≦textslb[sj]の時間区間に係る設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[sj−k−1]<t≦textslb[sj])を計算する工程である。
ただし、j−k=1すなわちスラブsj−kが最先スラブs1と同一である場合には、既に計算した初期時刻t0以降の設定炉温軌道に従って加熱する時間を設けない前提で、j−k=1以上j以下の全ての整数pについてスラブspの予想抽出温度が上記式(7)の目標抽出温度条件を満足するような、t0<t≦textslb[sj]の時間区間に係る設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sj])を計算する。
【0056】
例えば、ステップSS5に至るまで上記ステップSS1〜SS4を順に経てきた場合にはj=2、k=0であるから、ステップSS5は、「スラブs2について、時間区間t0<t≦textslb[s1]においては、スラブs1について目標抽出温度を満足するように既に計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[s1])に従って加熱することを前提として、スラブs2の目標抽出温度TLextslb[s2]を満足する、すなわちスラブs2の予想抽出温度が下記式(8)の目標抽出温度条件:
【0057】
【数8】
【0058】
を満足するような、textslb[s1]<t≦textslb[s2]の時間区間に係る設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[s1]<t≦textslb[s2])を計算する工程」である。この場合には、図5に示すように、時間区間t0<t≦textslb[s1]においてはTfur[zi](t|t0<t≦textslb[s1])に従って加熱することを前提として、スラブs1抽出時のスラブs2の予想温度Tslb[s2](textslb[s1])を、上記非定常熱伝導方程式(2)〜(4)を解くことにより算出する。その後、上記同様の方法により、スラブs2が上記式(8)を満足するような時間区間textslb[s1]<t≦textslb[s2]に係る設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[s1]<t≦textslb[s2])を下記式(9)により算出できる。
【0059】
【数9】
【0060】
なお、ここでT0extslb[s2]とは、炉温をTfur[zi](textlsb[s1])のまま、時間区間textslb[s1]<t≦textslb[s2]の間維持したと仮定した場合のスラブs2の予想抽出温度であり、上記非定常熱伝導方程式(2)〜(4)を解くことにより算出できる。また、∂Textslb[s2]/∂Tfur[zi]とは、燃焼帯ziの炉温変更がスラブs2の抽出温度に及ぼす影響を表す影響係数である。この影響係数は、上記同様に、燃焼帯ziの炉温をs1抽出時の温度Tfur[zi](textlsb[s1])からΔTfur[zi]だけ変更した条件下で、上記同様に時間区間textslb[s1]<t≦textslb[s2]で操業すると仮定して、燃焼帯ziからの抽出時の予想スラブ温度T1extslb[s2]を計算し、計算した2つの予想抽出温度T0extslb[s2]及びT1extslb[s2]を用いて、下記式(10)により算出できる。
【0061】
【数10】
【0062】
(第2計算工程S122:ステップSS6)
ステップSS6は、上記ステップSS5で計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[sj−k−1]<t≦textslb[sj])が、燃焼帯ziの炉温設定に課せられた制約条件を満足するか否か判断する工程である。制約条件としては、連続式加熱炉10の仕様等に起因する制約条件、例えば設定炉温の上限値THfur[zi]等を挙げることができる。
【0063】
例えば、ステップSS6に至るまでステップSS1〜SS5を順に経てきた場合には、j=2、k=0であるから、ステップSS6は、「ステップSS5で計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[s1]<t≦textslb[s2])が、燃焼帯ziの炉温設定に課せられた制約条件を満足するか否か」を判断する工程である。
【0064】
ステップSS6で肯定判断がなされた場合(制約条件が満足される場合)には、ステップSS7に処理が移る。ステップSS6で否定判断がなされた場合(制約条件が満足されない場合)には、後述するステップSS8に処理が移る。
【0065】
(第2計算工程S122:ステップSS7)
ステップSS7は、j=Nsか否か、すなわちスラブsjが燃焼帯ziの内部に存在するスラブおよび燃焼帯ziに導入される直前のスラブの中の最遅スラブsNsと同一であるか否かを判断する工程である。ステップSS7で肯定判断がなされた場合には、s1、…、sNsの全てのスラブについて目標抽出温度及び制約条件を満足する設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sNs])の計算が完了したことを意味するので、設定炉温軌道計算工程S12を終了する。ステップSS7で否定判断がなされた場合、すなわちj<Nsの場合には、まだ考慮すべきスラブが残っているので、ステップSS3に処理を移し、jを1増加させてステップSS4以降の処理を行う。
【0066】
(第2計算工程S122:ステップSS8)
ステップSS8は、上記ステップSS6で否定判断がなされた場合に行われる工程である。ステップSS8では、kを1増加させた後、上記ステップSS5に処理を戻す。
上述したようにステップSS5は、「sj−k、…、sjの各スラブについて、時間区間t0<t≦textslb[sj−k−1]においては既に計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sj−k−1])に従って加熱することを前提として、各スラブsj−k、…、sjの目標抽出温度TLextslb[sj−k]、…、TLextslb[sj]を満足する設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[sj−k−1]<t≦textslb[sj])を計算する工程」である。
【0067】
kを1増加させた上でステップSS5を再度行うことにより、スラブの目標抽出温度を満足するために設定炉温軌道を操作できる時間区間がスラブ1個分広がる。例えば図6に示すように、ステップSS8の直前にk=0であった場合には、直前のステップSS5は、「スラブsjについて、時間区間t0<t≦textslb[sj−1]においては既に計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sj−1])に従って加熱することを前提として、スラブsjの目標抽出温度TLextslb[sj]を満足する設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[sj−1]<t≦textslb[sj])を計算する工程」であるが、ステップSS8を経てから再度行うステップSS5は、「sj−1、sjの各スラブについて、時間区間t0<t≦textslb[sj−2]においては既に計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sj−2])に従って加熱することを前提として、各スラブsj−1、sjの目標抽出温度TLextslb[sj−1]、TLextslb[sj]を満足する設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[sj−2]<t≦textslb[sj])を計算する工程」である。
【0068】
このように、ステップSS8を経てからステップSS5を再度実行することにより、スラブの目標抽出温度を満足するために設定炉温軌道を操作できる時間区間がスラブ1個分広がるので、目標抽出温度及び制約条件を共に満足できる、時刻textslb[sj]までの設定炉温軌道を発見できる可能性が一層高くなる。
【0069】
また、ステップSS8を経て再度実行したステップSS5においても制約条件を満足する設定炉温軌道が発見できない場合には、ステップSS6で再び否定判断がなされて処理がステップSS8に移るので、kがさらに1増加された上でステップSS5に処理を移される。設定炉温軌道を操作できる時間区間がさらにスラブ1個分広がるので、目標抽出温度及び制約条件を共に満足できる、時刻textslb[sj]までの設定炉温軌道を発見できる可能性がより一層高くなる。
【0070】
なお、ステップSS5、SS6、及びSS8の繰り返しにより最終的に得られた、目標抽出温度及び制約条件を共に満足する時刻textslb[sj]までの設定炉温軌道のうち、既に計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sj−k−1])と重複する時間区間については、新たに計算した設定炉温軌道で上書きする。例えば上記の例では、時間区間textslb[sj−2]<t≦textslb[sj−1]に係る部分が重複するので、該部分を新たに計算した設定炉温軌道で上書きする。
【0071】
上記ステップSS1〜SS8を有する設定炉温軌道計算工程S12により、各スラブs1、…、sNsについて目標抽出温度及び制約条件を共に満足する、初期時刻から最遅スラブsNsの予定抽出時刻までの設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sNs])を計算することができる。
【0072】
(設定炉温軌道反映工程S13)
設定炉温軌道反映工程S13(以下において、単に「S13」ということがある。)は、上記S12で計算された設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sNs])のうち、初期時刻t0からスラブsNsの予定抽出時刻textslb[sNs]以前の任意の時刻までの時間区間に係る部分を、燃焼帯ziの実際の炉温設定に反映させるものとして採用する工程である。例えば、初期時刻t0から次回の制御周期開始時刻までの時間区間に係る部分を採用するものとすることができる。これは、一般的に制御周期の開始時刻(モデル起動時)において一の燃焼帯中に存在する全てのスラブが抽出されるまでに1時間〜3時間程度かかるのに対して、一の制御周期を開始してから次回の制御周期を開始(モデルを起動)可能になる時刻までは3分程度であり、一の制御周期で計算可能な設定炉温軌道の時間範囲に対し、制御周期(モデル起動周期)が短いためである。
【0073】
(終了判断工程S14)
終了判断工程S14(以下において、単に「S14」ということがある。)は、炉温軌道の設定が炉温設定を行うべき全ての燃焼帯z1、…、zNzについて完了したか否かを判断する工程である。S14で肯定判断がなされた場合には、炉温設定を行うべき全ての燃焼帯について炉温軌道の設定が完了しているので、炉温設定方法S10を終了する。S14で否定判断がなされた場合には、炉温設定を行うべき燃焼帯がまだ残っているので、処理がS11に戻され、まだ炉温を設定していない燃焼帯の中から新たな作業燃焼帯ziが選択された後、以降の工程S12、S13が行われ、再びS14に処理が戻ってくる。このようにして、工程S11〜S14により、炉温設定を行うべき全ての燃焼帯について炉温軌道の設定が完了する。
【0074】
本発明に関する上記説明においては、設定炉温軌道計算工程S12のステップSS5において影響係数を用いる一次近似によって設定炉温軌道を計算する態様を例示したが、本発明は当該態様に限定されない。スラブsjの抽出時の温度が目標抽出温度TLextslb[sj]以上となる設定炉温軌道(例えばk=0であれば、Tfur[zi](t|textslb[sj−1]<t≦textslb[sj]))を計算できる方法であれば、特に制限なく用いることができる。そのような方法として上記説明で例示した以外のものとしては、例えば、目標抽出温度+固定温度(例えば10℃)によって設定炉温軌道を計算する態様等を挙げることができる。
【0075】
本発明に関する上記説明では、板状のスラブを仮定し、スラブ温度の計算を式(2)〜(4)の二次元非定常熱伝導方程式を解くことにより行う態様を例示したが、本発明は当該態様に限定されない。スラブ温度の計算方法は、炉温の値に基づいてスラブ温度を予測できる方法であれば特に制限なく採用できる。スラブの形状は板状以外の形状、例えば円柱形状でもよく、温度軌道の計算は上記式(2)〜(4)以外の熱伝導方程式により行ってもよい。
【0076】
本発明に関する上記説明では、設定炉温軌道計算工程S12のステップSS8において、kの値を1ずつ増加させる(設定炉温軌道を操作する時間範囲をスラブ1個分ずつ増やす)態様を例示したが、本発明は当該態様に限定されない。kの値を増加させる幅は適宜選択可能であり、例えば3以上のjについてはkを2以上の整数値ずつ増加させる態様も可能である。ただし、先の計算結果をより有効に利用できる観点からは、kの値を1ずつ増加させることが好ましい。
【0077】
<2.連続式加熱炉の炉温制御システム>
図7は、本発明の連続式加熱炉の炉温制御システム20(以下、単に「炉温制御システム20」ということがある。)を説明する図である。炉温制御システム20は、連続式加熱炉10(図2参照)が有する4つの燃焼帯の炉温を、上記炉温設定方法S10によって設定し、制御するシステムである。図7に示すように、炉温制御システム20は、制御手段11に、記憶手段12と、入力手段13と、出力手段14と、炉温測定手段15と、装入前スラブ温度測定手段16と、炉温調整手段17と、が接続されてなる。図7において、矢印は情報が流れる向きを表す。以下、各構成要素について順に説明する。
【0078】
制御手段11は、炉温制御システム20全体を制御する構成要素である。炉温制御システム20において、入力か出力かを問わず、存在する全ての情報は制御手段11によって管理され、処理を加えられ、他の構成要素へと伝達される。制御手段11には、電子計算機その他の公知の制御装置を特に制限なく用いることができる。
【0079】
記憶手段12は、炉温制御システム20における全ての情報を制御手段11から受け取って保管し、制御手段11から要求があったときに制御手段11に出力する構成要素である。記憶手段12には、上記した炉温設定方法S10を実行するためのアルゴリズムA1(以下、「アルゴリズムA1」という。)が格納される他、S10を実行するにあたって必要な情報が格納される。S10を実行するにあたって必要な情報には、現在の設定炉温Tfur[zi](t)(i=1、…、Nz)、各燃焼帯zi(i=1、…、Nz)中にあるスラブsj(j=1、…、Ns)の燃焼帯ziからの目標抽出温度TLextslb[sj]、影響係数∂Textslb[sj]/∂Tfur[zi](i=1、…、Nz;j=1、…、Ns)、及び炉温上限THfur[zi](i=1、…、Nz)等の制約条件式が含まれる。記憶手段12には、磁気記憶装置や揮発性メモリ(RAM)等の公知の記憶装置を特に制限なく用いることができる。
【0080】
入力手段13は、炉温制御システム20において、現在の炉温及び装入前スラブ温度以外の必要な情報を操作者及び/又は上位コンピュータが入力するための構成要素である。入力手段13から入力された情報は制御装置11に伝達され、記憶手段12に格納される。入力手段13には、キーボード等の公知の入力装置や、シリアルポート等の公知の通信装置を特に制限なく用いることができる。
【0081】
出力手段14は、炉温制御システム20において、操作者及び/又は上位コンピュータが知るべき情報を制御手段11から受け取って操作者又は上位コンピュータに対して表示するための構成要素である。出力手段14には、設定炉温、現在の炉温、スラブ温度、スラブの加熱状況、燃料流量、空気流量その他の必要な情報が表示または出力される。出力手段14には、ディスプレイ等の公知の表示装置や、シリアルポート等の公知の通信装置を特に制限なく用いることができる。
【0082】
炉温測定手段15は、各燃焼帯の炉温を測定する構成要素である。図7に示すように、炉温測定手段15は炉温センサ15a、15b、15c、15d(以下において、「炉温センサ15a〜15d」ということがある。)を有し、これら4つの炉温センサは各燃焼帯に1個ずつ設置されている。炉温測定手段15により取得された炉温情報は制御手段11に伝達され、記憶手段12に格納される。炉温センサ15a〜15dには、熱電対、放射温度計等の高温域の測定に適した公知の温度センサを特に制限なく用いることができる。
【0083】
装入前スラブ温度測定手段16は、連続式加熱炉10に装入する前の各スラブの温度を測定する構成要素である。装入前スラブ温度測定手段16により取得された装入前のスラブの温度情報は、制御手段11に伝達され、記憶手段12に格納される。装入前スラブ温度測定手段16には、熱電対、放射温度計等の公知の温度センサを特に制限なく用いることができる。
【0084】
炉温調整手段17には、各燃焼帯のバーナーであるバーナー21a、21b、21c、21d(以下において、「バーナー21a〜21d」ということがある。)が接続されている。炉温調整手段17は、制御装置11によって決定される設定炉温軌道に合わせて、バーナー21a〜21dの各燃焼量を調整する構成要素である。炉温調整手段17は制御装置11から各燃焼帯の設定炉温軌道及び現在の実際の炉温を取得し、実際の炉温が設定炉温軌道に沿うようにバーナー21a〜21dの各燃焼量を調整する。バーナー燃焼量の調整は、各バーナーに供給される燃料及び燃焼用空気の流量を調整することにより行う。炉温調整手段17としては、上記の働きをする公知の炉温調整手段を特に制限なく用いることができる。
【0085】
以下、炉温制御システム20の動作について説明する。
【0086】
(情報の入力)
操作者及び/又は上位コンピュータは、入力手段13により、各スラブの目標抽出温度その他、炉温設定方法S10による炉温の設定に必要な情報を入力する。制御手段11は入力された情報を取得し、記憶手段12に格納する。
【0087】
(操業:スラブの加熱)
操作者及び/又は上位コンピュータは、入力手段13により設定炉温の更新開始を制御装置11に指示する。制御装置11は、装入前スラブ温度測定手段16により各スラブの装入前の温度情報を取得し、記憶手段12に格納する。制御装置11は、記憶手段12からアルゴリズムA1を読み込んで実行し、炉温設定方法S10による設定炉温軌道の更新を例えば制御周期3分毎に繰り返す。
【0088】
設定炉温軌道が更新される毎に、制御装置11は炉温調整手段17に各燃焼帯の新たな設定炉温軌道及び現在の炉温を伝達する。炉温調整手段17は、新たな設定炉温軌道に基き、実際の炉温情報を制御装置11から常時受け取って監視しながら、各燃焼帯のバーナーの燃焼を調整することにより、炉温を更新された設定炉温軌道に沿うように変化させる。
【0089】
本発明に関する上記説明では、4つの燃焼帯の炉温を制御する形態の炉温制御システム20を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。制御すべき連続式加熱炉の形態に合わせ、4つ未満、あるいは5つ以上の燃焼帯の炉温を制御する形態とすることも可能である。
【0090】
<3.連続式加熱炉>
図8は、本発明の連続式加熱炉30を説明する図である。連続式加熱炉30は、上記した炉温制御システム20を備える連続式加熱炉である。図8に示すように、連続式加熱炉30は、炉壁1によって炉外と隔てられかつ区分された予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4、及び均熱帯5を有し、さらにスキッド6、スラブ装入口7、及びスラブ抽出口8を有する。予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4、及び均熱帯5は、スラブ装入口7の側からスラブ抽出口8の側へ向けてこの順に並んでいる。スキッド6はスラブ装入口7からスラブ抽出口8まで、各燃焼帯に存在し、スキッド6の上をスラブ装入口7からスラブ抽出口8へ向けてスラブ9、9、…が移動する。スキッド6のうち、燃焼帯内部にある部分には不図示の冷却水路が設けられており、不図示のポンプによって冷却水が循環させられている。各燃焼帯はそれぞれバーナー21a、21b、21c、21dを一基ずつ備え、さらに炉温センサ15a〜15dが1つずつ配されている。また、スラブ装入口7の直前には装入前スラブ温度測定手段16が配されている。バーナー21a〜21dはそれぞれ、炉温制御システム20の炉温調整手段17(図7参照)に接続されており、各バーナーへの燃料及び燃焼用空気の供給流量は炉温調整手段17によって調整される。図8において、炉温センサ15a〜15d及び装入前スラブ温度測定手段16は炉温制御システム20の一部である。
【0091】
バーナー21a〜21dとしては、連続加熱バーナーや蓄熱式切り替えバーナー等の公知のバーナーを特に制限なく用いることができる。ただし、設定温度軌道の変化に柔軟に対応できる等の観点からは、蓄熱式切り替えバーナーを用いることが好ましい。
【0092】
連続式加熱炉30においては、装入前スラブ温度測定手段16によって装入される直前のスラブ温度情報が測定される。また、炉温センサ15a〜15dにより各燃焼帯の炉温情報が取得される。これらの情報は炉温制御システム20によって処理され、炉温制御システム20によって炉温軌道が設定される。設定された炉温軌道は、炉温制御システム20によるバーナー21a〜21dの制御によって実際の炉温に反映される。炉温制御システム20は所定の制御周期毎に設定炉温軌道の更新を繰り返しており、設定炉温軌道が更新される毎に、更新された設定炉温軌道を実際の炉温制御に反映している。炉温制御システム20による炉温軌道の設定及び炉温の調整については既に述べたので説明を省略する。
【0093】
本発明に関する上記説明では、4つの燃焼帯を有する形態の連続式加熱炉30を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。4つ未満、あるいは5つ以上の燃焼帯を有する形態とすることも可能である。
【0094】
本発明に関する上記説明では、一の燃焼帯につき一基のバーナーが備えられる形態の連続式加熱炉30を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。一の燃焼帯に複数のバーナーを備える燃焼帯を有する形態とすることも可能である。このような形態によれば、単に火力が増すだけでなく、燃焼帯内の温度むらを低減することが容易になり好ましい。さらには、炉温制御システム20により全バーナーを個別に制御する形態とすることも可能である。このような形態によれば、各燃焼帯の炉温及び温度分布についてより詳細な制御が容易になり好ましい。
【0095】
本発明に関する上記説明では、一の燃焼帯につき一の炉温測定手段が備えられる形態の連続式加熱炉30を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。一の燃焼帯に複数の炉温測定手段を備える燃焼帯を有する形態とすることも可能である。このような形態によれば、燃焼帯の内部で一か所だけでなく複数箇所で温度を監視することができるので、各燃焼帯の炉温及び温度分布についてより詳細な制御が容易になり好ましい。
【0096】
また、本発明に関する上記説明では、全ての燃焼帯を炉温制御システム20により炉温制御する形態の連続式加熱炉30を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明の連続式加熱炉は、少なくとも一つの燃焼帯が本発明の炉温設定方法に基いて炉温制御されていればよく、炉温制御システム20により炉温制御されない燃焼帯を有する形態とすることも可能である。ただし、加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件をより確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能になるという効果を最大限に発揮する観点からは、炉温制御システム20により炉温制御される燃焼帯が多いことが好ましく、究極的には全ての燃焼帯が炉温制御システム20により炉温制御される形態、又は予熱帯を除く全ての燃焼帯が炉温制御システム20により炉温制御される形態とすることが好ましい。また、計算コスト等の観点から一部の燃焼帯について炉温制御システム20により炉温制御する場合には、後段側の燃焼帯を炉温制御システム20により炉温制御することが好ましい。
【0097】
<4.金属材料の製造方法>
本発明の金属材料の製造方法について説明する。図9は、熱延鋼板の製造方法S20(以下、単に「S20」ということがある。)を説明するフローチャートである。S20では、上記した連続式加熱炉30(図8参照)を用いてスラブを加熱した後、熱間圧延を行って熱延鋼板を製造する。図9に示すように、S20は、スラブ準備工程S21と、スラブ加熱工程S22と、熱間圧延工程S23とをこの順に有する。以下、順に説明する。
【0098】
スラブ準備工程S21(以下、単に「S21」ということがある。)は、S20において熱間圧延すべきスラブを準備する工程である。S21は、スラブを鋳造する工程と、鋳造したスラブを連続式加熱炉30まで搬送する工程とを有する。
【0099】
スラブ加熱工程S22(以下、単に「S22」ということがある。)は、S21で準備したスラブを、連続式加熱炉30により目標抽出温度以上まで加熱する工程である。連続式加熱炉30は、図8に示すように、予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4及び均熱帯5の計4つの燃焼帯を有する。連続式加熱炉30は、炉温制御システム20によって、炉温設定方法S10に従い、4つ全ての燃焼帯について制御周期3分で繰り返し設定炉温軌道を更新され、炉温制御されている。S22においては、スラブをスラブ装入口7から連続式加熱炉30に装入し、予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4及び均熱帯5をこの順に経つつ、目標抽出温度以上の温度まで加熱する。加熱したスラブはスラブ抽出口8から抽出する。
【0100】
熱間圧延工程S23(以下、単に「S23」ということがある。)は、S22で目標抽出温度まで加熱したスラブに熱間圧延を行うことにより、熱延鋼板とする工程である。S23での熱間圧延に際しては、熱延鋼板の製造に用いられる公知の圧延装置を特に制限なく用いることができる。
【0101】
本発明の金属材料の製造方法に関する上記説明では、熱延鋼板を製造する形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。熱間圧延の後、酸洗及び冷間圧延を行うことにより、冷延鋼板を製造する形態とすることも可能である。また、冷延鋼板にさらにめっき処理を施すことにより、めっき鋼板を製造する形態とすることも可能である。また、冷間圧延を経た後、調質圧延を行うことにより、靭性等の特性を所望の範囲に調整する形態とすることも可能である。また、上記熱延鋼板、冷延鋼板、又はめっき鋼板に化学処理等の表面処理を施す、表面処理工程を備える形態とすることも可能である。
【0102】
本発明の金属材料の製造方法に関する上記説明では、鋼板を製造する形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明の金属材料の製造方法は、本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法により炉温を設定している連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程を有していればよい。例えば鋼管を製造する形態とすることも可能である。
【0103】
また、本発明の金属材料の製造方法に関する上記説明では、鋼を加工する形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。金属材料は鋼に限定されず、非鉄金属や合金その他の、鋼以外の金属材料であってもよい。鋼以外の金属材料を製造する形態であっても、製品品質及び製造歩留まりを向上させ、また、燃料費を低減しつつ、金属材料を製造することが可能である。
【実施例】
【0104】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳述する。
【0105】
本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法についてシミュレーション実験を行った。シミュレーション実験は、本発明の炉温設定方法を適用する連続式加熱炉を、スラブ装入口側から、予熱帯、第1加熱帯、第2加熱帯、及び均熱帯をこの順に有する連続式加熱炉とし、該4つの燃焼帯のうち第2加熱帯、及び均熱帯の炉温を設定するものとした。
【0106】
(本発明例)
上述した連続式加熱炉の炉温設定方法S10に従い、炉温軌道の設定を行った。なお制御周期は3分とした。また、加熱するスラブの条件は、スラブ240個、第2加熱帯からの目標抽出温度1095℃〜1115℃(平均値1098℃、標準偏差7℃)、均熱帯からの目標抽出温度1095℃〜1115℃(平均値1098℃、標準偏差7℃)とし、これらのスラブデータは実際の操業におけるスラブ情報を基にしたものであり、装入順も参考にしたスラブデータの実際の装入順に基づくものである。
【0107】
(比較例)
特許文献2に記載の炉温設定方法において、全スラブについて目標抽出温度を満足すべく各燃焼帯のスラブ設定炉温の最大値を採用するものとし、他の条件は上記本発明例と同様にして炉温設定を行った。
【0108】
(評価結果)
本発明例及び比較例における、第2加熱帯の設定炉温の推移のシミュレーション結果を図10に示す。また、本発明例及び比較例における、均熱帯の設定炉温の推移のシミュレーション結果を図11に示す。また、本発明及び比較例における、燃料消費量、及び、目標抽出温度に到達しなかったスラブの数を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1に示すように、本発明例、比較例共に全てのスラブについて目標抽出温度を満足できた。その一方で、合計燃料消費量を見ると、本発明例では約110397kcalであったのに対し比較例では約113387kcalであり、本発明例は比較例に対して燃料消費量を約3%削減できた。
【0111】
本発明例及び比較例の設定炉温の推移(図10、図11)を比較すると、本発明例が比較例よりも設定炉温が低い場合が多く、シミュレーションの合計時間の58%において本発明の設定炉温が比較例の設定炉温を下回っていた。このことから、本発明例においては、燃焼帯内のスラブ状況に応じて臨機応変に設定炉温を下げるように設定炉温軌道を調整していることが確認できる。上記燃料消費量の削減は、この臨機応変な設定炉温軌道の調整により達成されたものである。
【0112】
以上の実験結果から、本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法によれば、加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件を確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能であることが示された。
【0113】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う連続式加熱炉の炉温設定方法及び炉温制御システム、連続式加熱炉、並びに金属材料の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法及び炉温制御システムは、連続式加熱炉の炉温設定に好適に用いることができ、本発明の連続式加熱炉は、金属材料の加熱に好適に用いることができ、また、本発明の金属材料の製造方法は、加熱を要する金属材料の製造に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0115】
1 炉壁
2 予熱帯
3 第1加熱帯
4 第2加熱帯
5 均熱帯
6 スキッド
7 スラブ装入口
8 スラブ抽出口
9 スラブ
10 連続式加熱炉
11 制御手段
12 記憶手段
13 入力手段
14 出力手段
15 炉温測定手段
15a、15b、15c、15d 炉温センサ
16 装入前スラブ温度測定手段
17 炉温調整手段
20 連続式加熱炉の炉温制御システム
21a、21b、21c、21d バーナー
30 連続式加熱炉
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続式加熱炉の炉温設定方法及び炉温制御システム、連続式加熱炉、並びに金属材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材は、鉄鉱石から精錬及び鋳造により製造され、その後、薄く延ばしたり、中空管などの形状にしたりするために熱間圧延が行われる。鋼材は、この熱間圧延の前に加熱炉(以下「炉」ということがある。)での加熱により、設定された目標抽出温度にされる。目標抽出温度は、熱間圧延時の鋼材温度の違いにより鋼の性質が異なることから、その鋼材から製造される製品に必要な性質により決定される。
【0003】
一般に、熱間圧延を行うために連続式加熱炉にてスラブの加熱を行う際には、スラブを炉から抽出する際に、スラブ毎に設定した目標抽出温度までスラブ温度が上昇しているように各燃焼帯の炉温を設定し、操業する。
【0004】
各燃焼帯の炉温を設定するにあたっては、上記目標抽出温度を満足することだけではなく、スラブ表面とスラブ内部との温度差の低減(均熱度の確保)、加熱時間の短縮、燃料使用量の低減などを考慮することが多い。連続式加熱炉の炉温設定方法に関する技術として、例えば特許文献1には、各燃焼帯に複数存在するスラブのそれぞれについてその抽出時に目標抽出温度まで加熱するように、炉温変化がスラブ抽出温度の変化に及ぼす影響係数を計算し、それに基づく各燃焼帯の炉温設定値を算出し、各燃焼帯の炉温変化の各スラブ抽出温度への影響係数を重みとした重み付き平均により、最終的な各燃焼帯の設定炉温とすることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、連続式加熱炉の燃焼帯からの抽出位置だけでなく、抽出位置以外の途中位置にも目標位置を設定し、各スラブについて目標位置で満足するべき目標スラブ温度や目標均熱度を設定し、それを満足するような各燃焼帯の設定炉温をスラブ毎に算出し、燃焼帯毎にスラブ毎算出値の最高値あるいはスラブの優先準位に基づく加重平均値を採用することで最終的な設定炉温とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−157760号公報
【特許文献2】特開2008−24966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炉温設定における最大の課題はスラブを目標抽出温度で抽出することである。このため、通常、燃焼帯の出側においてスラブ温度が目標抽出温度となるような制御が行われる。さらに、連続式加熱炉の一の燃焼帯内には複数のスラブが存在し、各スラブには製造される製品に合わせた熱処理条件が設定されていることが多い。異なる熱処理条件を設定されている複数のスラブを加熱炉中に装入する場合には、一のスラブの加熱条件を満足しつつ、熱処理条件の異なる別のスラブの加熱条件を満足するように加熱炉の制御を行う必要がある。その一方で、加熱炉の制御には様々な制約条件が課される。制約条件としては、例えば炉温の設定上限や、隣接する燃焼帯との温度差の上限等を挙げることができる。
【0008】
特許文献1に記載の技術は、各燃焼帯の抽出位置(出側)のみにおいてスラブ温度について目標値を設定して炉温の制御を行うものである。これに対して、特許文献2に記載の技術は、各燃焼帯の出側におけるスラブ温度に加えて、出側以外の所定の位置におけるスラブ温度についても目標値を設定して炉温の制御を行うものであり、加熱精度の向上が図られている。しかし、これら従来の制御技術は言わば点での制御であるため、制約条件との関係で細かな制御を行い得るには至っていなかった。その結果、制約条件によりスラブ温度を目標抽出温度とする制御が困難となる場合があり、スラブ温度が目標抽出温度に達しない事態が発生するおそれがあった。スラブ温度が目標抽出温度を下回ると、スラブを加熱炉から抽出した後の加工に支障を来すおそれや、加工が可能ではあっても得られる製品の品質が低下し、歩留まりの低下を招くおそれがある。
加えて、加熱炉の制御は制約条件及び目標抽出温度を同時に満足させる必要があることから、場合によってはスラブの目標抽出温度を大きく超えて高い炉温を設定せざるを得ないこともあり、その結果燃料消費量が増大するおそれがあった。近年の環境保全等の観点から、燃料消費量の削減への要求は高まる一方であり、目標抽出温度及び制約条件の両方を満足しつつも、燃料消費量をさらに削減することが望まれている。
【0009】
そこで本発明は、上記の事情に鑑み、加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件をより確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能な、連続式加熱炉の炉温設定方法を提供することを課題とする。また、連続式加熱炉の炉温制御システム、連続式加熱炉、並びに金属材料の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来よりさらに細かな制御を行うことを検討し、スラブの温度を燃焼帯の現時点より任意の未来までを制御する、言い換えれば、スラブの温度軌道を制御する着想を得た。本発明者らはさらなる検討の結果、燃焼帯の設定炉温軌道を調整してスラブの温度軌道を制御することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の第1の態様は、所定の制御周期毎に少なくとも1の燃焼帯の温度を、該燃焼帯からの各スラブの目標抽出温度に基づいて設定する、連続式加熱炉の炉温設定方法であって、温度設定を行う燃焼帯のうち1の燃焼帯を、作業燃焼帯として選択する、燃焼帯選択工程と、初期時刻において作業燃焼帯の内部に存在する各スラブおよび作業燃焼帯に導入される直前のスラブの作業燃焼帯からの予想抽出温度が、作業燃焼帯からの各スラブの目標抽出温度以上となるような、作業燃焼帯の設定炉温軌道を計算する、設定炉温軌道計算工程と、計算した作業燃焼帯の設定炉温軌道のうち少なくとも一部を、作業燃焼帯の炉温設定に反映する、設定炉温軌道反映工程と、を有することを特徴とする、連続式加熱炉の炉温設定方法である。
【0012】
ここに、本発明において、「温度設定を行う燃焼帯のうち1の燃焼帯を、作業燃焼帯として選択する」とは、温度設定を行う燃焼帯が複数存在する場合の他、温度設定を行う燃焼帯が1つのみ存在する場合をも包含する概念である。なお、「作業燃焼帯」とは、温度設定を行う燃焼帯のうち着目する一の燃焼帯を他の燃焼帯と区別するための概念であって、「作業燃焼帯」という名の燃焼帯が連続式加熱炉に存在することを要求するものではない。「初期時刻」とは、その制御周期の開始時刻を意味する。「作業燃焼帯に導入される直前のスラブ」とは、その後作業燃焼帯に導入される作業燃焼帯の入口前のスラブをいうが、その数は1に限られない。「設定炉温軌道」とは、その燃焼帯の炉温の設定計画を表す、時刻を変数とする関数である。また、「設定炉温軌道のうち少なくとも一部を、作業燃焼帯の炉温設定に反映する」とは、上記時間の関数である設定炉温軌道が計算されている時間区間のうち少なくとも一部の時間区間について、その設定炉温軌道を作業燃焼帯の実際の炉温設定に反映することを意味する。
【0013】
本発明の第1の態様において、設定炉温軌道計算工程が、初期時刻において作業燃焼帯の内部に存在するスラブおよび前記作業燃焼帯に導入される直前のスラブのうち、作業燃焼帯から1番目に抽出される最先スラブの作業燃焼帯からの予想抽出温度が目標抽出温度以上となるような、初期時刻から最先スラブの予定抽出時刻までの時間区間に係る作業燃焼帯の設定炉温軌道を計算する、第1計算工程と、初期時刻において作業燃焼帯の内部に存在するスラブおよび作業燃焼帯に導入される直前のスラブのうち作業燃焼帯から2番目以降に抽出される各スラブの作業燃焼帯からの予想抽出温度がそれぞれ該各スラブの目標抽出温度以上となるような、作業燃焼帯の設定炉温軌道を計算する、第2計算工程と、を有し、第2計算工程において、初期時刻において作業燃焼帯の内部に存在するスラブおよび作業燃焼帯に導入される直前のスラブの個数をNs個とし、jを2以上Ns以下の整数とするとき、作業燃焼帯からj番目に抽出される第jスラブについて、初期時刻から、第jスラブの一つ前に抽出される第j−1スラブの予定抽出時刻までは、最先スラブから第j−1スラブまでの各スラブの目標抽出温度を満足するように既に計算した設定炉温軌道に従って加熱することを前提として、第jスラブの目標抽出温度を満足するような、第j−1スラブの予定抽出時刻から第jスラブの予定抽出時刻までの時間区間に係る設定炉温軌道を計算し、計算した設定炉温軌道が作業燃焼帯の炉温設定の制約条件を満足しない場合に、kを1以上j−1以下のいずれかの整数として、作業燃焼帯からj−k番目に抽出される第j−kスラブから第jスラブまでの各スラブの作業燃焼帯からの予想抽出温度がそれぞれ該各スラブの目標抽出温度を満足するような、下記(A)又は(B)の時間区間:
(A)第j−kスラブが最先スラブと同一である場合には、初期時刻から第jスラブの予定抽出時刻までの時間区間;
(B)第j−kスラブが最先スラブと同一でない場合には、第j−kスラブの一つ前の第j−k−1スラブの予定抽出時刻から第jスラブの予定抽出時刻までの時間区間、
に係る設定炉温軌道を、下記(C)又は(D)の条件:
(C)上記(A)の場合には、既に計算した初期時刻以降の設定炉温軌道に従って加熱する時間を設けない条件;
(D)上記(B)の場合には、初期時刻から第j−k−1スラブの予定抽出時刻までは、最先スラブから第j−k−1スラブまでの各スラブの目標抽出温度を満足するように既に計算した設定炉温軌道に従って加熱する条件、
に基づいて計算することが好ましい。
【0014】
本発明において、「目標抽出温度」とは、作業燃焼帯からの、当該スラブの目標抽出温度を意味する概念であって、一般には当該スラブの連続式加熱炉からの最終的な目標抽出温度を意味しない。ただし、作業燃焼帯が連続式加熱炉における最後の燃焼帯である場合には、当該作業燃焼帯からの目標抽出温度はそのスラブの連続式加熱炉からの最終的な目標抽出温度に一致する。「予定抽出時刻」とは、作業燃焼帯からの当該スラブの予定抽出時刻を意味する概念であって、一般には当該スラブが連続式加熱炉から抽出される予定時刻を意味しない。ただし、作業燃焼帯が連続式加熱炉における最後の燃焼帯である場合には、当該作業燃焼帯からの予定抽出時刻はそのスラブの連続式加熱炉からの予定抽出時刻に一致する。あるスラブについて「目標抽出温度を満足する」とは、当該スラブの作業燃焼帯からの予想抽出温度が、当該スラブの作業燃焼帯からの目標抽出温度以上となることを意味する。
【0015】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る連続式加熱炉の炉温設定方法により、燃焼帯の炉温を設定することを特徴とする、連続式加熱炉の炉温制御システムである。
【0016】
本発明の第3の態様は、本発明の第2の態様に係る連続式加熱炉の炉温制御システムを備えることを特徴とする、連続式加熱炉である。
【0017】
本発明の第4の態様は、本発明の第1の態様に係る連続式加熱炉の炉温設定方法によって、連続式加熱炉の炉温を設定する工程と、該連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程と、を有することを特徴とする、金属材料の製造方法である。
【0018】
ここで、本発明の第4の態様は、上記連続式加熱炉の炉温を設定する工程と、該連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程とが同時に並行して実行される形態を包含する。
【0019】
本発明の第4の態様に係る金属材料の製造方法は、本発明の第3の態様に係る連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程を有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の態様に係る連続式加熱炉の炉温設定方法によれば、設定炉温軌道計算工程及び設定炉温軌道反映工程を有するので、燃焼帯の炉温軌道を制御することにより、燃焼帯における各スラブの温度軌道を制御することができる。よって、加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件をより確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能な、連続式加熱炉の炉温設定方法を提供することができる。
【0021】
設定炉温軌道計算工程が上記第1計算工程及び第2計算工程を有する形態の本発明の第1の態様によれば、燃焼帯内に存在するスラブのうち先行するスラブ(先スラブ)の抽出後に燃焼帯の炉温を制御しても残りの遅行するスラブ(遅スラブ)の目標抽出温度及び制約条件の両方を満足することができないと予測される場合に、先スラブの温度軌道を調整するように燃焼帯の設定炉温軌道を計算するので、目標抽出温度及び制約条件の両方を満足する設定炉温軌道を発見することが一層容易になる。また、このような臨機応変な計算により、燃料消費量を低減することも一層容易になる。
【0022】
本発明の第2の態様に係る連続式加熱炉の炉温制御システムによれば、連続式加熱炉の炉温設定が、本発明の第1の態様にかかる連続式加熱炉の炉温設定方法によって行われる。したがって、本発明の第2の態様によれば、加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件をより確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能な、連続式加熱炉の炉温制御システムを提供することができる。
【0023】
本発明の第3の態様に係る連続式加熱炉は、本発明の第2の態様に係る連続式加熱炉の炉温制御システムを備える。本発明の第2の態様に係る連続式加熱炉の炉温制御システムは、上記効果を奏するものである。したがって、本発明の第3の態様によれば、加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件をより確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能な、連続式加熱炉を提供することができる。
【0024】
本発明の第4の態様に係る金属材料の製造方法によれば、金属材料を加熱する連続式加熱炉の炉温設定が、本発明の第1の態様に係る連続式加熱炉の炉温設定方法によって行われる。上記したように、本発明の第1の態様に係る連続式加熱炉の炉温設定方法によれば、加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件をより確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能である。よって、本発明の第4の態様によれば、製品品質及び製造歩留まりを向上させ、また、燃料費を低減することが可能な、金属材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法を説明するフローチャートである。
【図2】連続式加熱炉の模式図である。
【図3】燃焼帯の状況を説明する模式図である。
【図4】設定炉温軌道計算工程を説明するフローチャートである。
【図5】抽出予定順の早いスラブから設定炉温軌道を計算する手順を説明する図である。
【図6】スラブsjにおいて炉温制約条件を満足できない場合の設定炉温軌道の計算を説明する図である。
【図7】本発明の連続式加熱炉の炉温制御システムを説明する図である。
【図8】本発明の連続式加熱炉を説明する図である。
【図9】本発明の金属材料の製造方法を説明するフローチャートである。
【図10】本発明例及び比較例における第2加熱帯の設定炉温の推移を示す図である。
【図11】本発明例及び比較例における均熱帯の設定炉温の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の上記した作用および利得は、以下に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明がこれらの形態に限定されるものではない。
【0027】
<1.連続式加熱炉の炉温設定方法>
本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法について説明する。図1は、連続式加熱炉の炉温設定方法S10(以下、「炉温設定方法S10」又は単に「S10」ということがある。)を説明するフローチャートである。図2は、S10が適用される連続式加熱炉10を示す模式図である。図3は、燃焼帯の状況を説明する模式図である。また、図4は、炉温設定方法S10が有する設定炉温軌道計算工程S12を説明するフローチャートである。
以下、図1〜4を参照しつつ、本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法について説明する。
【0028】
図2に示すように、連続式加熱炉10においては、炉壁1によって炉内と炉外とが隔てられている。炉内の空間はさらに、炉壁1によって、予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4、及び均熱帯5に分画されており、これら4つの燃焼帯はこの順に紙面左側から右側へ並んでいる。上記4つの燃焼帯にはスキッド6が配されており、スラブ装入口7から矢印Aの如く装入されたスラブ9、9、…は、このスキッド6上を予熱帯2から順に、矢印Bの方向に各燃焼帯を移動し、所望の温度まで加熱された後、最終的にスラブ抽出口8から矢印Cの如く取り出される。
本発明の炉温設定方法は、図2のように複数の燃焼帯を有する連続式加熱炉において、各燃焼帯に複数存在するスラブを各スラブ及び各燃焼帯について予め設定された目標抽出温度まで加熱してから抽出するにあたり、所定の制御周期毎に炉温設定モデルを起動し、燃焼帯の設定炉温の更新を行う。
【0029】
図1に示すように、炉温設定方法S10は、燃焼帯選択工程S11と、設定炉温軌道計算工程S12と、設定炉温軌道反映工程S13と、終了判断工程S14とを有する。
【0030】
(燃焼帯選択工程S11)
燃焼帯選択工程S11(以下、単に「S11」ということがある。)は、炉温設定を行う燃焼帯のうち一の燃焼帯を作業燃焼帯として選択する工程である。炉温設定を行う燃焼帯の個数をNz個とすると、該計Nz個の燃焼帯は、例えばスラブが通過する順に、z1、…、zNzと表わすことができる。例えば図2の連続式加熱炉10で第2加熱帯4及び均熱帯5の炉温を設定する場合には、Nz=2、第2加熱帯4がz1、均熱帯5がz2となる。
S11においては、この中から一の燃焼帯zi(ただしiは1以上Nz以下の整数)を、後に続く設定炉温軌道計算工程S12及び設定炉温軌道反映工程S13で着目する作業燃焼帯として選択する。作業燃焼帯を選択する方法は、後述する終了判断工程S14と組み合わせて漏れ及び重複が生じない方法を特に制限なく採用できる。例えば、iを1から順にNzまで1ずつ増加させる形態を挙げることができる。
【0031】
(設定炉温軌道計算工程S12)
設定炉温軌道計算工程S12(以下、単に「S12」ということがある。)は、S10を開始した時刻、すなわち炉温設定モデル起動時の時刻t0(以下において、「初期時刻t0」又は単に「t0」ということがある。)において、上記S11で選択した作業燃焼帯ziの内部に存在する各スラブおよび前記作業燃焼帯に導入される直前のスラブの作業燃焼帯ziからの予想抽出温度が、作業燃焼帯ziからの該各スラブの目標抽出温度以上となるような、作業燃焼帯ziの設定炉温軌道を計算する工程である。以下にその詳細を説明する。なお、ある変数tの関数F(t)及びtの条件式Φ(t)について、F(t|Φ(t))とは、F(t)においてtに条件式Φ(t)を課していることを意味するものとする。
【0032】
図3に示すように、作業燃焼帯ziに存在するスラブおよび前記作業燃焼帯に導入される直前のスラブの個数をNs個とし、該Ns個のスラブを抽出予定順にs1、…、sNsとする。これらのスラブは図3紙面左から右方向へ搬送されている。以下、時刻tにおける燃焼帯ziの設定炉温をTfur[zi](t)で表わし、時刻tにおける燃焼帯zi中のスラブsj(ただしjは1以上Ns以下の整数)のスラブ温度をTslb[sj](t)で表す。また、スラブsjの燃焼帯ziからの予定抽出時刻をtextslb[sj]で表わし、スラブsjの燃焼帯ziからの目標抽出温度をTLextslb[sj]で表わす。
【0033】
1以上Ns以下の全てのjについて、スラブsjが燃焼帯ziの図3における右端を出る予定時刻、すなわち予定抽出時刻textslb[sj]に、スラブ温度Tslb[sj](t|t=textslb[sj])が目標抽出温度TLextslb[sj]以上となるように、燃焼帯ziの炉温を設定しながら操業する必要がある。なお、ここでいうスラブ温度Tslb[sj](t)の定義は適宜選択することができ、例えばスラブ中心温度やスラブ平均温度を挙げることができる。目標抽出温度TLextslb[sj]についても同様である。ただし、スラブ温度Tslb[sj](t)の定義と目標抽出温度TLextslb[sj]の定義とは揃える必要がある。例えばスラブ温度Tslb[sj](t)の定義にスラブ中心温度を採用したならば、目標抽出温度TLextslb[sj]の定義もスラブ中心温度とする必要がある。
【0034】
図4は、S12を説明するフローチャートである。S12は、第1計算工程S121(以下において、単に「S121」ということがある。)と、第2計算工程S122(以下において、単に「S122」ということがある。)とを有する。図4に示すように、第1計算工程S121はステップSS1〜2を有し、第2計算工程S122はステップSS3〜8を有する。
【0035】
(第1計算工程S121)
第1計算工程S121は、初期時刻t0において燃焼帯ziの中に存在するスラブのうち、燃焼帯ziから1番目に抽出される最先スラブs1の燃焼帯ziからの予想抽出温度Tslb[s1](t|t=textslb[s1])が目標抽出温度TLextslb[s1]以上となるような、初期時刻t0から最先スラブs1の予定抽出時刻textslb[s1]までの時間区間に係る燃焼帯ziの設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[s1])を計算する工程である。ただし初期時刻t0においては、初期時刻の設定炉温Tfur[zi](t0)を前提とする。第1計算工程S121においては、ステップSS1においてjに1を代入し、ステップSS2においてTfur[zi](t|t0<t≦textslb[sj])を計算する。
【0036】
(第1計算工程S121:ステップSS1)
ステップSS1においてjに1が代入される。これによりsjが最先スラブs1を意味することになる。
【0037】
(第1計算工程S121:ステップSS2)
ステップSS2において上記の目標抽出温度の条件、すなわち下記式(1)
【0038】
【数1】
【0039】
を充足する設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[s1])を計算する。このようなTfur[zi]は例えば次のようにして決定することができる。
【0040】
まず、初期時刻t0における炉温Tfur[zi](t0)を維持したまま時間区間t0<t≦textslb[s1]で操業したと仮定して、燃焼帯ziからの抽出時(t=textslb[s1])の予想スラブ温度T0extslb[s1]を計算する。板状のスラブに対する計算は例えば、下記式(2)〜(4)からなる公知の二次元非定常熱伝導方程式を解くことにより行うことができる。
【0041】
【数2】
【0042】
【数3】
【0043】
【数4】
【0044】
ただし、Qは入熱量[J/s]である。σはStefan−Boltzmann定数[J/s・m2・K4]である。Fは形態係数である。φcgは熱放射率調整係数である。Tfur[zi]は燃焼帯ziの炉温[K]である。Tsurfaceはスラブの表面温度[K]である。tは計算時間メッシュ[s]である。xは長方向メッシュ[m]である。yは厚方向メッシュ[m]である。cは比熱[J/kg・K]である。ρは密度[kg/m3]である。また、λは熱伝導率[J/s・m・K]である。上記式(2)〜(4)においては、Q、Tfur[zi]、及びTsurface以外は、定数又は設定により与えられる値である。
上記式(2)〜(4)を陽解法、陰解法、クランク−ニコルソン法といった差分法等の公知の数値解法を用いて解くことにより、燃焼帯ziの炉温を初期温度Tfur[zi](t0)のまま維持した場合の最先スラブs1の予想抽出温度T0extslb[s1]を算出できる。
【0045】
次に、燃焼帯ziの炉温を初期温度Tfur[zi](t0)からΔTfur[zi]だけ変更した条件下で、上記同様に時間区間t0<t≦textslb[s1]で操業すると仮定して、燃焼帯ziからの抽出時の予想スラブ温度T1extslb[s1]を計算する。計算した2つの予想抽出温度T0extslb[s1]、T1extslb[s1]を用いて、燃焼帯ziの炉温変更がスラブs1の抽出温度に及ぼす影響を表す影響係数∂Textslb[s1]/∂Tfur[zi]を下記式(5)で近似する。
【0046】
【数5】
【0047】
上記式(5)で得た影響係数∂Textslb[s1]/∂Tfur[zi]を用いて、上記式(1)の条件を満たす、すなわちs1の予想抽出温度が目標抽出温度の条件を満たすような時間区間t0<t≦textslb[s1]に係る設定炉温Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[s1])を、一次近似により下記式(6)で決定できる。
【0048】
【数6】
【0049】
なお、上記計算にあたっては、ΔTfur[zi]の値は特に制限されるものではない。ただし、ΔTfur[zi]の値は5K以上100K以下とすることが好ましく、例えば20Kとすることができる。ΔTfur[zi]を5K以上とすることにより、T1extslb[s1]とT0extslb[s1]との差を確保することが容易になる。またΔTfur[zi]を100K以下とすることにより、上記式(6)の計算において左辺の良好な近似値を得ることが容易になる。
【0050】
(第2計算工程S122)
第2計算工程S122は、初期時刻t0において作業燃焼帯ziの内部に存在するスラブおよび作業燃焼帯ziに導入される直前のスラブs1、…、sNsのうち該燃焼帯ziから2番目以降に抽出される各スラブsj(ただしjは2以上Ns以下の整数)の燃焼帯ziからの予想抽出温度Tslb[sj](t|t=textslb[sj])がそれぞれ該各スラブsjの目標抽出温度TLextslb[sj]以上となるような、燃焼帯ziの設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sNs])を計算する工程である。図4に示すように、第2計算工程S122は、ステップSS3〜SS8を有する。
【0051】
(第2計算工程S122:ステップSS3)
ステップSS3は、jを1増加させることにより、着目するスラブを1つ後ろのスラブにする工程である。例えばステップSS3の直前がステップSS2であった場合には、ステップSS3を経ることによりj=2となり、着目するスラブがs1からs2に移る。
【0052】
(第2計算工程S122:ステップSS4)
ステップSS4は、後述するステップSS5で用いる整数kを0に初期化する工程である。ステップSS4を経ることにより、スラブsj−kはスラブsjに一致し、スラブsj−k−1はスラブsj−1すなわちスラブsjの一つ前の先スラブに一致する。
【0053】
(第2計算工程S122:ステップSS5)
ステップSS5は、0以上j−1以下の整数kによって定まるsj−k、…、sjの各スラブについて、初期時刻t0からスラブsj−k−1の予定抽出時刻textslb[sj−k−1]までの時間区間t0<t≦textslb[sj−k−1]においては、最先スラブs1からスラブsj−k−1までの各スラブについて目標抽出温度を満足するように既に計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sj−k−1])に従って加熱することを前提として、各スラブsj−k、…、sjの目標抽出温度TLextslb[sj−k]、…、TLextslb[sj]を満足する、すなわちj−k以上j以下の全ての整数pについてスラブspの予想抽出温度が下記式(7)の目標抽出温度条件:
【0054】
【数7】
【0055】
を満足するような、textslb[sj−k−1]<t≦textslb[sj]の時間区間に係る設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[sj−k−1]<t≦textslb[sj])を計算する工程である。
ただし、j−k=1すなわちスラブsj−kが最先スラブs1と同一である場合には、既に計算した初期時刻t0以降の設定炉温軌道に従って加熱する時間を設けない前提で、j−k=1以上j以下の全ての整数pについてスラブspの予想抽出温度が上記式(7)の目標抽出温度条件を満足するような、t0<t≦textslb[sj]の時間区間に係る設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sj])を計算する。
【0056】
例えば、ステップSS5に至るまで上記ステップSS1〜SS4を順に経てきた場合にはj=2、k=0であるから、ステップSS5は、「スラブs2について、時間区間t0<t≦textslb[s1]においては、スラブs1について目標抽出温度を満足するように既に計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[s1])に従って加熱することを前提として、スラブs2の目標抽出温度TLextslb[s2]を満足する、すなわちスラブs2の予想抽出温度が下記式(8)の目標抽出温度条件:
【0057】
【数8】
【0058】
を満足するような、textslb[s1]<t≦textslb[s2]の時間区間に係る設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[s1]<t≦textslb[s2])を計算する工程」である。この場合には、図5に示すように、時間区間t0<t≦textslb[s1]においてはTfur[zi](t|t0<t≦textslb[s1])に従って加熱することを前提として、スラブs1抽出時のスラブs2の予想温度Tslb[s2](textslb[s1])を、上記非定常熱伝導方程式(2)〜(4)を解くことにより算出する。その後、上記同様の方法により、スラブs2が上記式(8)を満足するような時間区間textslb[s1]<t≦textslb[s2]に係る設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[s1]<t≦textslb[s2])を下記式(9)により算出できる。
【0059】
【数9】
【0060】
なお、ここでT0extslb[s2]とは、炉温をTfur[zi](textlsb[s1])のまま、時間区間textslb[s1]<t≦textslb[s2]の間維持したと仮定した場合のスラブs2の予想抽出温度であり、上記非定常熱伝導方程式(2)〜(4)を解くことにより算出できる。また、∂Textslb[s2]/∂Tfur[zi]とは、燃焼帯ziの炉温変更がスラブs2の抽出温度に及ぼす影響を表す影響係数である。この影響係数は、上記同様に、燃焼帯ziの炉温をs1抽出時の温度Tfur[zi](textlsb[s1])からΔTfur[zi]だけ変更した条件下で、上記同様に時間区間textslb[s1]<t≦textslb[s2]で操業すると仮定して、燃焼帯ziからの抽出時の予想スラブ温度T1extslb[s2]を計算し、計算した2つの予想抽出温度T0extslb[s2]及びT1extslb[s2]を用いて、下記式(10)により算出できる。
【0061】
【数10】
【0062】
(第2計算工程S122:ステップSS6)
ステップSS6は、上記ステップSS5で計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[sj−k−1]<t≦textslb[sj])が、燃焼帯ziの炉温設定に課せられた制約条件を満足するか否か判断する工程である。制約条件としては、連続式加熱炉10の仕様等に起因する制約条件、例えば設定炉温の上限値THfur[zi]等を挙げることができる。
【0063】
例えば、ステップSS6に至るまでステップSS1〜SS5を順に経てきた場合には、j=2、k=0であるから、ステップSS6は、「ステップSS5で計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[s1]<t≦textslb[s2])が、燃焼帯ziの炉温設定に課せられた制約条件を満足するか否か」を判断する工程である。
【0064】
ステップSS6で肯定判断がなされた場合(制約条件が満足される場合)には、ステップSS7に処理が移る。ステップSS6で否定判断がなされた場合(制約条件が満足されない場合)には、後述するステップSS8に処理が移る。
【0065】
(第2計算工程S122:ステップSS7)
ステップSS7は、j=Nsか否か、すなわちスラブsjが燃焼帯ziの内部に存在するスラブおよび燃焼帯ziに導入される直前のスラブの中の最遅スラブsNsと同一であるか否かを判断する工程である。ステップSS7で肯定判断がなされた場合には、s1、…、sNsの全てのスラブについて目標抽出温度及び制約条件を満足する設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sNs])の計算が完了したことを意味するので、設定炉温軌道計算工程S12を終了する。ステップSS7で否定判断がなされた場合、すなわちj<Nsの場合には、まだ考慮すべきスラブが残っているので、ステップSS3に処理を移し、jを1増加させてステップSS4以降の処理を行う。
【0066】
(第2計算工程S122:ステップSS8)
ステップSS8は、上記ステップSS6で否定判断がなされた場合に行われる工程である。ステップSS8では、kを1増加させた後、上記ステップSS5に処理を戻す。
上述したようにステップSS5は、「sj−k、…、sjの各スラブについて、時間区間t0<t≦textslb[sj−k−1]においては既に計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sj−k−1])に従って加熱することを前提として、各スラブsj−k、…、sjの目標抽出温度TLextslb[sj−k]、…、TLextslb[sj]を満足する設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[sj−k−1]<t≦textslb[sj])を計算する工程」である。
【0067】
kを1増加させた上でステップSS5を再度行うことにより、スラブの目標抽出温度を満足するために設定炉温軌道を操作できる時間区間がスラブ1個分広がる。例えば図6に示すように、ステップSS8の直前にk=0であった場合には、直前のステップSS5は、「スラブsjについて、時間区間t0<t≦textslb[sj−1]においては既に計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sj−1])に従って加熱することを前提として、スラブsjの目標抽出温度TLextslb[sj]を満足する設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[sj−1]<t≦textslb[sj])を計算する工程」であるが、ステップSS8を経てから再度行うステップSS5は、「sj−1、sjの各スラブについて、時間区間t0<t≦textslb[sj−2]においては既に計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sj−2])に従って加熱することを前提として、各スラブsj−1、sjの目標抽出温度TLextslb[sj−1]、TLextslb[sj]を満足する設定炉温軌道Tfur[zi](t|textslb[sj−2]<t≦textslb[sj])を計算する工程」である。
【0068】
このように、ステップSS8を経てからステップSS5を再度実行することにより、スラブの目標抽出温度を満足するために設定炉温軌道を操作できる時間区間がスラブ1個分広がるので、目標抽出温度及び制約条件を共に満足できる、時刻textslb[sj]までの設定炉温軌道を発見できる可能性が一層高くなる。
【0069】
また、ステップSS8を経て再度実行したステップSS5においても制約条件を満足する設定炉温軌道が発見できない場合には、ステップSS6で再び否定判断がなされて処理がステップSS8に移るので、kがさらに1増加された上でステップSS5に処理を移される。設定炉温軌道を操作できる時間区間がさらにスラブ1個分広がるので、目標抽出温度及び制約条件を共に満足できる、時刻textslb[sj]までの設定炉温軌道を発見できる可能性がより一層高くなる。
【0070】
なお、ステップSS5、SS6、及びSS8の繰り返しにより最終的に得られた、目標抽出温度及び制約条件を共に満足する時刻textslb[sj]までの設定炉温軌道のうち、既に計算した設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sj−k−1])と重複する時間区間については、新たに計算した設定炉温軌道で上書きする。例えば上記の例では、時間区間textslb[sj−2]<t≦textslb[sj−1]に係る部分が重複するので、該部分を新たに計算した設定炉温軌道で上書きする。
【0071】
上記ステップSS1〜SS8を有する設定炉温軌道計算工程S12により、各スラブs1、…、sNsについて目標抽出温度及び制約条件を共に満足する、初期時刻から最遅スラブsNsの予定抽出時刻までの設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sNs])を計算することができる。
【0072】
(設定炉温軌道反映工程S13)
設定炉温軌道反映工程S13(以下において、単に「S13」ということがある。)は、上記S12で計算された設定炉温軌道Tfur[zi](t|t0<t≦textslb[sNs])のうち、初期時刻t0からスラブsNsの予定抽出時刻textslb[sNs]以前の任意の時刻までの時間区間に係る部分を、燃焼帯ziの実際の炉温設定に反映させるものとして採用する工程である。例えば、初期時刻t0から次回の制御周期開始時刻までの時間区間に係る部分を採用するものとすることができる。これは、一般的に制御周期の開始時刻(モデル起動時)において一の燃焼帯中に存在する全てのスラブが抽出されるまでに1時間〜3時間程度かかるのに対して、一の制御周期を開始してから次回の制御周期を開始(モデルを起動)可能になる時刻までは3分程度であり、一の制御周期で計算可能な設定炉温軌道の時間範囲に対し、制御周期(モデル起動周期)が短いためである。
【0073】
(終了判断工程S14)
終了判断工程S14(以下において、単に「S14」ということがある。)は、炉温軌道の設定が炉温設定を行うべき全ての燃焼帯z1、…、zNzについて完了したか否かを判断する工程である。S14で肯定判断がなされた場合には、炉温設定を行うべき全ての燃焼帯について炉温軌道の設定が完了しているので、炉温設定方法S10を終了する。S14で否定判断がなされた場合には、炉温設定を行うべき燃焼帯がまだ残っているので、処理がS11に戻され、まだ炉温を設定していない燃焼帯の中から新たな作業燃焼帯ziが選択された後、以降の工程S12、S13が行われ、再びS14に処理が戻ってくる。このようにして、工程S11〜S14により、炉温設定を行うべき全ての燃焼帯について炉温軌道の設定が完了する。
【0074】
本発明に関する上記説明においては、設定炉温軌道計算工程S12のステップSS5において影響係数を用いる一次近似によって設定炉温軌道を計算する態様を例示したが、本発明は当該態様に限定されない。スラブsjの抽出時の温度が目標抽出温度TLextslb[sj]以上となる設定炉温軌道(例えばk=0であれば、Tfur[zi](t|textslb[sj−1]<t≦textslb[sj]))を計算できる方法であれば、特に制限なく用いることができる。そのような方法として上記説明で例示した以外のものとしては、例えば、目標抽出温度+固定温度(例えば10℃)によって設定炉温軌道を計算する態様等を挙げることができる。
【0075】
本発明に関する上記説明では、板状のスラブを仮定し、スラブ温度の計算を式(2)〜(4)の二次元非定常熱伝導方程式を解くことにより行う態様を例示したが、本発明は当該態様に限定されない。スラブ温度の計算方法は、炉温の値に基づいてスラブ温度を予測できる方法であれば特に制限なく採用できる。スラブの形状は板状以外の形状、例えば円柱形状でもよく、温度軌道の計算は上記式(2)〜(4)以外の熱伝導方程式により行ってもよい。
【0076】
本発明に関する上記説明では、設定炉温軌道計算工程S12のステップSS8において、kの値を1ずつ増加させる(設定炉温軌道を操作する時間範囲をスラブ1個分ずつ増やす)態様を例示したが、本発明は当該態様に限定されない。kの値を増加させる幅は適宜選択可能であり、例えば3以上のjについてはkを2以上の整数値ずつ増加させる態様も可能である。ただし、先の計算結果をより有効に利用できる観点からは、kの値を1ずつ増加させることが好ましい。
【0077】
<2.連続式加熱炉の炉温制御システム>
図7は、本発明の連続式加熱炉の炉温制御システム20(以下、単に「炉温制御システム20」ということがある。)を説明する図である。炉温制御システム20は、連続式加熱炉10(図2参照)が有する4つの燃焼帯の炉温を、上記炉温設定方法S10によって設定し、制御するシステムである。図7に示すように、炉温制御システム20は、制御手段11に、記憶手段12と、入力手段13と、出力手段14と、炉温測定手段15と、装入前スラブ温度測定手段16と、炉温調整手段17と、が接続されてなる。図7において、矢印は情報が流れる向きを表す。以下、各構成要素について順に説明する。
【0078】
制御手段11は、炉温制御システム20全体を制御する構成要素である。炉温制御システム20において、入力か出力かを問わず、存在する全ての情報は制御手段11によって管理され、処理を加えられ、他の構成要素へと伝達される。制御手段11には、電子計算機その他の公知の制御装置を特に制限なく用いることができる。
【0079】
記憶手段12は、炉温制御システム20における全ての情報を制御手段11から受け取って保管し、制御手段11から要求があったときに制御手段11に出力する構成要素である。記憶手段12には、上記した炉温設定方法S10を実行するためのアルゴリズムA1(以下、「アルゴリズムA1」という。)が格納される他、S10を実行するにあたって必要な情報が格納される。S10を実行するにあたって必要な情報には、現在の設定炉温Tfur[zi](t)(i=1、…、Nz)、各燃焼帯zi(i=1、…、Nz)中にあるスラブsj(j=1、…、Ns)の燃焼帯ziからの目標抽出温度TLextslb[sj]、影響係数∂Textslb[sj]/∂Tfur[zi](i=1、…、Nz;j=1、…、Ns)、及び炉温上限THfur[zi](i=1、…、Nz)等の制約条件式が含まれる。記憶手段12には、磁気記憶装置や揮発性メモリ(RAM)等の公知の記憶装置を特に制限なく用いることができる。
【0080】
入力手段13は、炉温制御システム20において、現在の炉温及び装入前スラブ温度以外の必要な情報を操作者及び/又は上位コンピュータが入力するための構成要素である。入力手段13から入力された情報は制御装置11に伝達され、記憶手段12に格納される。入力手段13には、キーボード等の公知の入力装置や、シリアルポート等の公知の通信装置を特に制限なく用いることができる。
【0081】
出力手段14は、炉温制御システム20において、操作者及び/又は上位コンピュータが知るべき情報を制御手段11から受け取って操作者又は上位コンピュータに対して表示するための構成要素である。出力手段14には、設定炉温、現在の炉温、スラブ温度、スラブの加熱状況、燃料流量、空気流量その他の必要な情報が表示または出力される。出力手段14には、ディスプレイ等の公知の表示装置や、シリアルポート等の公知の通信装置を特に制限なく用いることができる。
【0082】
炉温測定手段15は、各燃焼帯の炉温を測定する構成要素である。図7に示すように、炉温測定手段15は炉温センサ15a、15b、15c、15d(以下において、「炉温センサ15a〜15d」ということがある。)を有し、これら4つの炉温センサは各燃焼帯に1個ずつ設置されている。炉温測定手段15により取得された炉温情報は制御手段11に伝達され、記憶手段12に格納される。炉温センサ15a〜15dには、熱電対、放射温度計等の高温域の測定に適した公知の温度センサを特に制限なく用いることができる。
【0083】
装入前スラブ温度測定手段16は、連続式加熱炉10に装入する前の各スラブの温度を測定する構成要素である。装入前スラブ温度測定手段16により取得された装入前のスラブの温度情報は、制御手段11に伝達され、記憶手段12に格納される。装入前スラブ温度測定手段16には、熱電対、放射温度計等の公知の温度センサを特に制限なく用いることができる。
【0084】
炉温調整手段17には、各燃焼帯のバーナーであるバーナー21a、21b、21c、21d(以下において、「バーナー21a〜21d」ということがある。)が接続されている。炉温調整手段17は、制御装置11によって決定される設定炉温軌道に合わせて、バーナー21a〜21dの各燃焼量を調整する構成要素である。炉温調整手段17は制御装置11から各燃焼帯の設定炉温軌道及び現在の実際の炉温を取得し、実際の炉温が設定炉温軌道に沿うようにバーナー21a〜21dの各燃焼量を調整する。バーナー燃焼量の調整は、各バーナーに供給される燃料及び燃焼用空気の流量を調整することにより行う。炉温調整手段17としては、上記の働きをする公知の炉温調整手段を特に制限なく用いることができる。
【0085】
以下、炉温制御システム20の動作について説明する。
【0086】
(情報の入力)
操作者及び/又は上位コンピュータは、入力手段13により、各スラブの目標抽出温度その他、炉温設定方法S10による炉温の設定に必要な情報を入力する。制御手段11は入力された情報を取得し、記憶手段12に格納する。
【0087】
(操業:スラブの加熱)
操作者及び/又は上位コンピュータは、入力手段13により設定炉温の更新開始を制御装置11に指示する。制御装置11は、装入前スラブ温度測定手段16により各スラブの装入前の温度情報を取得し、記憶手段12に格納する。制御装置11は、記憶手段12からアルゴリズムA1を読み込んで実行し、炉温設定方法S10による設定炉温軌道の更新を例えば制御周期3分毎に繰り返す。
【0088】
設定炉温軌道が更新される毎に、制御装置11は炉温調整手段17に各燃焼帯の新たな設定炉温軌道及び現在の炉温を伝達する。炉温調整手段17は、新たな設定炉温軌道に基き、実際の炉温情報を制御装置11から常時受け取って監視しながら、各燃焼帯のバーナーの燃焼を調整することにより、炉温を更新された設定炉温軌道に沿うように変化させる。
【0089】
本発明に関する上記説明では、4つの燃焼帯の炉温を制御する形態の炉温制御システム20を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。制御すべき連続式加熱炉の形態に合わせ、4つ未満、あるいは5つ以上の燃焼帯の炉温を制御する形態とすることも可能である。
【0090】
<3.連続式加熱炉>
図8は、本発明の連続式加熱炉30を説明する図である。連続式加熱炉30は、上記した炉温制御システム20を備える連続式加熱炉である。図8に示すように、連続式加熱炉30は、炉壁1によって炉外と隔てられかつ区分された予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4、及び均熱帯5を有し、さらにスキッド6、スラブ装入口7、及びスラブ抽出口8を有する。予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4、及び均熱帯5は、スラブ装入口7の側からスラブ抽出口8の側へ向けてこの順に並んでいる。スキッド6はスラブ装入口7からスラブ抽出口8まで、各燃焼帯に存在し、スキッド6の上をスラブ装入口7からスラブ抽出口8へ向けてスラブ9、9、…が移動する。スキッド6のうち、燃焼帯内部にある部分には不図示の冷却水路が設けられており、不図示のポンプによって冷却水が循環させられている。各燃焼帯はそれぞれバーナー21a、21b、21c、21dを一基ずつ備え、さらに炉温センサ15a〜15dが1つずつ配されている。また、スラブ装入口7の直前には装入前スラブ温度測定手段16が配されている。バーナー21a〜21dはそれぞれ、炉温制御システム20の炉温調整手段17(図7参照)に接続されており、各バーナーへの燃料及び燃焼用空気の供給流量は炉温調整手段17によって調整される。図8において、炉温センサ15a〜15d及び装入前スラブ温度測定手段16は炉温制御システム20の一部である。
【0091】
バーナー21a〜21dとしては、連続加熱バーナーや蓄熱式切り替えバーナー等の公知のバーナーを特に制限なく用いることができる。ただし、設定温度軌道の変化に柔軟に対応できる等の観点からは、蓄熱式切り替えバーナーを用いることが好ましい。
【0092】
連続式加熱炉30においては、装入前スラブ温度測定手段16によって装入される直前のスラブ温度情報が測定される。また、炉温センサ15a〜15dにより各燃焼帯の炉温情報が取得される。これらの情報は炉温制御システム20によって処理され、炉温制御システム20によって炉温軌道が設定される。設定された炉温軌道は、炉温制御システム20によるバーナー21a〜21dの制御によって実際の炉温に反映される。炉温制御システム20は所定の制御周期毎に設定炉温軌道の更新を繰り返しており、設定炉温軌道が更新される毎に、更新された設定炉温軌道を実際の炉温制御に反映している。炉温制御システム20による炉温軌道の設定及び炉温の調整については既に述べたので説明を省略する。
【0093】
本発明に関する上記説明では、4つの燃焼帯を有する形態の連続式加熱炉30を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。4つ未満、あるいは5つ以上の燃焼帯を有する形態とすることも可能である。
【0094】
本発明に関する上記説明では、一の燃焼帯につき一基のバーナーが備えられる形態の連続式加熱炉30を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。一の燃焼帯に複数のバーナーを備える燃焼帯を有する形態とすることも可能である。このような形態によれば、単に火力が増すだけでなく、燃焼帯内の温度むらを低減することが容易になり好ましい。さらには、炉温制御システム20により全バーナーを個別に制御する形態とすることも可能である。このような形態によれば、各燃焼帯の炉温及び温度分布についてより詳細な制御が容易になり好ましい。
【0095】
本発明に関する上記説明では、一の燃焼帯につき一の炉温測定手段が備えられる形態の連続式加熱炉30を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。一の燃焼帯に複数の炉温測定手段を備える燃焼帯を有する形態とすることも可能である。このような形態によれば、燃焼帯の内部で一か所だけでなく複数箇所で温度を監視することができるので、各燃焼帯の炉温及び温度分布についてより詳細な制御が容易になり好ましい。
【0096】
また、本発明に関する上記説明では、全ての燃焼帯を炉温制御システム20により炉温制御する形態の連続式加熱炉30を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明の連続式加熱炉は、少なくとも一つの燃焼帯が本発明の炉温設定方法に基いて炉温制御されていればよく、炉温制御システム20により炉温制御されない燃焼帯を有する形態とすることも可能である。ただし、加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件をより確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能になるという効果を最大限に発揮する観点からは、炉温制御システム20により炉温制御される燃焼帯が多いことが好ましく、究極的には全ての燃焼帯が炉温制御システム20により炉温制御される形態、又は予熱帯を除く全ての燃焼帯が炉温制御システム20により炉温制御される形態とすることが好ましい。また、計算コスト等の観点から一部の燃焼帯について炉温制御システム20により炉温制御する場合には、後段側の燃焼帯を炉温制御システム20により炉温制御することが好ましい。
【0097】
<4.金属材料の製造方法>
本発明の金属材料の製造方法について説明する。図9は、熱延鋼板の製造方法S20(以下、単に「S20」ということがある。)を説明するフローチャートである。S20では、上記した連続式加熱炉30(図8参照)を用いてスラブを加熱した後、熱間圧延を行って熱延鋼板を製造する。図9に示すように、S20は、スラブ準備工程S21と、スラブ加熱工程S22と、熱間圧延工程S23とをこの順に有する。以下、順に説明する。
【0098】
スラブ準備工程S21(以下、単に「S21」ということがある。)は、S20において熱間圧延すべきスラブを準備する工程である。S21は、スラブを鋳造する工程と、鋳造したスラブを連続式加熱炉30まで搬送する工程とを有する。
【0099】
スラブ加熱工程S22(以下、単に「S22」ということがある。)は、S21で準備したスラブを、連続式加熱炉30により目標抽出温度以上まで加熱する工程である。連続式加熱炉30は、図8に示すように、予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4及び均熱帯5の計4つの燃焼帯を有する。連続式加熱炉30は、炉温制御システム20によって、炉温設定方法S10に従い、4つ全ての燃焼帯について制御周期3分で繰り返し設定炉温軌道を更新され、炉温制御されている。S22においては、スラブをスラブ装入口7から連続式加熱炉30に装入し、予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4及び均熱帯5をこの順に経つつ、目標抽出温度以上の温度まで加熱する。加熱したスラブはスラブ抽出口8から抽出する。
【0100】
熱間圧延工程S23(以下、単に「S23」ということがある。)は、S22で目標抽出温度まで加熱したスラブに熱間圧延を行うことにより、熱延鋼板とする工程である。S23での熱間圧延に際しては、熱延鋼板の製造に用いられる公知の圧延装置を特に制限なく用いることができる。
【0101】
本発明の金属材料の製造方法に関する上記説明では、熱延鋼板を製造する形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。熱間圧延の後、酸洗及び冷間圧延を行うことにより、冷延鋼板を製造する形態とすることも可能である。また、冷延鋼板にさらにめっき処理を施すことにより、めっき鋼板を製造する形態とすることも可能である。また、冷間圧延を経た後、調質圧延を行うことにより、靭性等の特性を所望の範囲に調整する形態とすることも可能である。また、上記熱延鋼板、冷延鋼板、又はめっき鋼板に化学処理等の表面処理を施す、表面処理工程を備える形態とすることも可能である。
【0102】
本発明の金属材料の製造方法に関する上記説明では、鋼板を製造する形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明の金属材料の製造方法は、本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法により炉温を設定している連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程を有していればよい。例えば鋼管を製造する形態とすることも可能である。
【0103】
また、本発明の金属材料の製造方法に関する上記説明では、鋼を加工する形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。金属材料は鋼に限定されず、非鉄金属や合金その他の、鋼以外の金属材料であってもよい。鋼以外の金属材料を製造する形態であっても、製品品質及び製造歩留まりを向上させ、また、燃料費を低減しつつ、金属材料を製造することが可能である。
【実施例】
【0104】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳述する。
【0105】
本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法についてシミュレーション実験を行った。シミュレーション実験は、本発明の炉温設定方法を適用する連続式加熱炉を、スラブ装入口側から、予熱帯、第1加熱帯、第2加熱帯、及び均熱帯をこの順に有する連続式加熱炉とし、該4つの燃焼帯のうち第2加熱帯、及び均熱帯の炉温を設定するものとした。
【0106】
(本発明例)
上述した連続式加熱炉の炉温設定方法S10に従い、炉温軌道の設定を行った。なお制御周期は3分とした。また、加熱するスラブの条件は、スラブ240個、第2加熱帯からの目標抽出温度1095℃〜1115℃(平均値1098℃、標準偏差7℃)、均熱帯からの目標抽出温度1095℃〜1115℃(平均値1098℃、標準偏差7℃)とし、これらのスラブデータは実際の操業におけるスラブ情報を基にしたものであり、装入順も参考にしたスラブデータの実際の装入順に基づくものである。
【0107】
(比較例)
特許文献2に記載の炉温設定方法において、全スラブについて目標抽出温度を満足すべく各燃焼帯のスラブ設定炉温の最大値を採用するものとし、他の条件は上記本発明例と同様にして炉温設定を行った。
【0108】
(評価結果)
本発明例及び比較例における、第2加熱帯の設定炉温の推移のシミュレーション結果を図10に示す。また、本発明例及び比較例における、均熱帯の設定炉温の推移のシミュレーション結果を図11に示す。また、本発明及び比較例における、燃料消費量、及び、目標抽出温度に到達しなかったスラブの数を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1に示すように、本発明例、比較例共に全てのスラブについて目標抽出温度を満足できた。その一方で、合計燃料消費量を見ると、本発明例では約110397kcalであったのに対し比較例では約113387kcalであり、本発明例は比較例に対して燃料消費量を約3%削減できた。
【0111】
本発明例及び比較例の設定炉温の推移(図10、図11)を比較すると、本発明例が比較例よりも設定炉温が低い場合が多く、シミュレーションの合計時間の58%において本発明の設定炉温が比較例の設定炉温を下回っていた。このことから、本発明例においては、燃焼帯内のスラブ状況に応じて臨機応変に設定炉温を下げるように設定炉温軌道を調整していることが確認できる。上記燃料消費量の削減は、この臨機応変な設定炉温軌道の調整により達成されたものである。
【0112】
以上の実験結果から、本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法によれば、加熱条件の異なる複数のスラブを連続式加熱炉に装入して加熱する場合であっても、スラブの目標抽出温度及び制約条件を確実に満足し、かつ燃料消費量を低減することが可能であることが示された。
【0113】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う連続式加熱炉の炉温設定方法及び炉温制御システム、連続式加熱炉、並びに金属材料の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法及び炉温制御システムは、連続式加熱炉の炉温設定に好適に用いることができ、本発明の連続式加熱炉は、金属材料の加熱に好適に用いることができ、また、本発明の金属材料の製造方法は、加熱を要する金属材料の製造に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0115】
1 炉壁
2 予熱帯
3 第1加熱帯
4 第2加熱帯
5 均熱帯
6 スキッド
7 スラブ装入口
8 スラブ抽出口
9 スラブ
10 連続式加熱炉
11 制御手段
12 記憶手段
13 入力手段
14 出力手段
15 炉温測定手段
15a、15b、15c、15d 炉温センサ
16 装入前スラブ温度測定手段
17 炉温調整手段
20 連続式加熱炉の炉温制御システム
21a、21b、21c、21d バーナー
30 連続式加熱炉
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の制御周期毎に少なくとも1の燃焼帯の温度を、該燃焼帯からの各スラブの目標抽出温度に基づいて設定する、連続式加熱炉の炉温設定方法であって、
温度設定を行う燃焼帯のうち1の燃焼帯を、作業燃焼帯として選択する、燃焼帯選択工程と、
初期時刻において前記作業燃焼帯の内部に存在する各スラブおよび前記作業燃焼帯に導入される直前のスラブの前記作業燃焼帯からの予想抽出温度が、前記作業燃焼帯からの前記各スラブの目標抽出温度以上となるような、前記作業燃焼帯の設定炉温軌道を計算する、設定炉温軌道計算工程と、
計算した前記作業燃焼帯の設定炉温軌道のうち少なくとも一部を、前記作業燃焼帯の炉温設定に反映する、設定炉温軌道反映工程と、
を有することを特徴とする、連続式加熱炉の炉温設定方法。
【請求項2】
前記設定炉温軌道計算工程が、
前記初期時刻において前記作業燃焼帯の内部に存在するスラブおよび前記作業燃焼帯に導入される直前のスラブのうち、前記作業燃焼帯から1番目に抽出される最先スラブの前記作業燃焼帯からの予想抽出温度が目標抽出温度以上となるような、前記初期時刻から前記最先スラブの予定抽出時刻までの時間区間に係る前記作業燃焼帯の設定炉温軌道を計算する、第1計算工程と、
前記初期時刻において前記作業燃焼帯の内部に存在するスラブおよび前記作業燃焼帯に導入される直前のスラブのうち前記作業燃焼帯から2番目以降に抽出される各スラブの前記作業燃焼帯からの予想抽出温度がそれぞれ該各スラブの目標抽出温度以上となるような、前記作業燃焼帯の設定炉温軌道を計算する、第2計算工程と、
を有し、
前記第2計算工程において、前記初期時刻において前記作業燃焼帯の内部に存在するスラブおよび前記作業燃焼帯に導入される直前のスラブの個数をNs個とし、jを2以上Ns以下の整数とするとき、前記作業燃焼帯からj番目に抽出される第jスラブについて、
前記初期時刻から、前記第jスラブの一つ前に抽出される第j−1スラブの予定抽出時刻までは、前記最先スラブから前記第j−1スラブまでの各スラブの目標抽出温度を満足するように既に計算した設定炉温軌道に従って加熱することを前提として、前記第jスラブの目標抽出温度を満足するような、前記第j−1スラブの予定抽出時刻から前記第jスラブの予定抽出時刻までの時間区間に係る設定炉温軌道を計算し、
計算した設定炉温軌道が前記作業燃焼帯の炉温設定の制約条件を満足しない場合に、kを1以上j−1以下のいずれかの整数として、前記作業燃焼帯からj−k番目に抽出される第j−kスラブから前記第jスラブまでの各スラブの前記作業燃焼帯からの予想抽出温度がそれぞれ該各スラブの目標抽出温度を満足するような、下記(A)又は(B)の時間区間:
(A)前記第j−kスラブが前記最先スラブと同一である場合には、前記初期時刻から前記第jスラブの予定抽出時刻までの時間区間;
(B)前記第j−kスラブが前記最先スラブと同一でない場合には、前記第j−kスラブの一つ前の第j−k−1スラブの予定抽出時刻から前記第jスラブの予定抽出時刻までの時間区間、
に係る設定炉温軌道を、下記(C)又は(D)の条件:
(C)前記(A)の場合には、既に計算した前記初期時刻以降の設定炉温軌道に従って加熱する時間を設けない条件;
(D)前記(B)の場合には、前記初期時刻から前記第j−k−1スラブの予定抽出時刻までは、前記最先スラブから前記第j−k−1スラブまでの各スラブの目標抽出温度を満足するように既に計算した設定炉温軌道に従って加熱する条件、
に基づいて計算することを特徴とする、請求項1に記載の連続式加熱炉の炉温設定方法。
【請求項3】
前記第2計算工程において、前記作業燃焼帯の炉温設定の制約条件を満足する設定炉温軌道が得られるまで、前記kの値を1から順に増加させながら計算を繰り返すことを特徴とする、請求項2に記載の連続式加熱炉の炉温設定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の連続式加熱炉の炉温設定方法により、燃焼帯の炉温を設定することを特徴とする、連続式加熱炉の炉温制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載の連続式加熱炉の炉温制御システムを備えることを特徴とする、連続式加熱炉。
【請求項6】
請求項1〜3に記載の連続式加熱炉の炉温設定方法によって、連続式加熱炉の炉温を設定する工程と、
前記連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程と、
を有することを特徴とする、金属材料の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程を有することを特徴とする、金属材料の製造方法。
【請求項1】
所定の制御周期毎に少なくとも1の燃焼帯の温度を、該燃焼帯からの各スラブの目標抽出温度に基づいて設定する、連続式加熱炉の炉温設定方法であって、
温度設定を行う燃焼帯のうち1の燃焼帯を、作業燃焼帯として選択する、燃焼帯選択工程と、
初期時刻において前記作業燃焼帯の内部に存在する各スラブおよび前記作業燃焼帯に導入される直前のスラブの前記作業燃焼帯からの予想抽出温度が、前記作業燃焼帯からの前記各スラブの目標抽出温度以上となるような、前記作業燃焼帯の設定炉温軌道を計算する、設定炉温軌道計算工程と、
計算した前記作業燃焼帯の設定炉温軌道のうち少なくとも一部を、前記作業燃焼帯の炉温設定に反映する、設定炉温軌道反映工程と、
を有することを特徴とする、連続式加熱炉の炉温設定方法。
【請求項2】
前記設定炉温軌道計算工程が、
前記初期時刻において前記作業燃焼帯の内部に存在するスラブおよび前記作業燃焼帯に導入される直前のスラブのうち、前記作業燃焼帯から1番目に抽出される最先スラブの前記作業燃焼帯からの予想抽出温度が目標抽出温度以上となるような、前記初期時刻から前記最先スラブの予定抽出時刻までの時間区間に係る前記作業燃焼帯の設定炉温軌道を計算する、第1計算工程と、
前記初期時刻において前記作業燃焼帯の内部に存在するスラブおよび前記作業燃焼帯に導入される直前のスラブのうち前記作業燃焼帯から2番目以降に抽出される各スラブの前記作業燃焼帯からの予想抽出温度がそれぞれ該各スラブの目標抽出温度以上となるような、前記作業燃焼帯の設定炉温軌道を計算する、第2計算工程と、
を有し、
前記第2計算工程において、前記初期時刻において前記作業燃焼帯の内部に存在するスラブおよび前記作業燃焼帯に導入される直前のスラブの個数をNs個とし、jを2以上Ns以下の整数とするとき、前記作業燃焼帯からj番目に抽出される第jスラブについて、
前記初期時刻から、前記第jスラブの一つ前に抽出される第j−1スラブの予定抽出時刻までは、前記最先スラブから前記第j−1スラブまでの各スラブの目標抽出温度を満足するように既に計算した設定炉温軌道に従って加熱することを前提として、前記第jスラブの目標抽出温度を満足するような、前記第j−1スラブの予定抽出時刻から前記第jスラブの予定抽出時刻までの時間区間に係る設定炉温軌道を計算し、
計算した設定炉温軌道が前記作業燃焼帯の炉温設定の制約条件を満足しない場合に、kを1以上j−1以下のいずれかの整数として、前記作業燃焼帯からj−k番目に抽出される第j−kスラブから前記第jスラブまでの各スラブの前記作業燃焼帯からの予想抽出温度がそれぞれ該各スラブの目標抽出温度を満足するような、下記(A)又は(B)の時間区間:
(A)前記第j−kスラブが前記最先スラブと同一である場合には、前記初期時刻から前記第jスラブの予定抽出時刻までの時間区間;
(B)前記第j−kスラブが前記最先スラブと同一でない場合には、前記第j−kスラブの一つ前の第j−k−1スラブの予定抽出時刻から前記第jスラブの予定抽出時刻までの時間区間、
に係る設定炉温軌道を、下記(C)又は(D)の条件:
(C)前記(A)の場合には、既に計算した前記初期時刻以降の設定炉温軌道に従って加熱する時間を設けない条件;
(D)前記(B)の場合には、前記初期時刻から前記第j−k−1スラブの予定抽出時刻までは、前記最先スラブから前記第j−k−1スラブまでの各スラブの目標抽出温度を満足するように既に計算した設定炉温軌道に従って加熱する条件、
に基づいて計算することを特徴とする、請求項1に記載の連続式加熱炉の炉温設定方法。
【請求項3】
前記第2計算工程において、前記作業燃焼帯の炉温設定の制約条件を満足する設定炉温軌道が得られるまで、前記kの値を1から順に増加させながら計算を繰り返すことを特徴とする、請求項2に記載の連続式加熱炉の炉温設定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の連続式加熱炉の炉温設定方法により、燃焼帯の炉温を設定することを特徴とする、連続式加熱炉の炉温制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載の連続式加熱炉の炉温制御システムを備えることを特徴とする、連続式加熱炉。
【請求項6】
請求項1〜3に記載の連続式加熱炉の炉温設定方法によって、連続式加熱炉の炉温を設定する工程と、
前記連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程と、
を有することを特徴とする、金属材料の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程を有することを特徴とする、金属材料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−95982(P2013−95982A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241551(P2011−241551)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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