説明

連続式摩耗試験装置

【課題】バッチ式ではなく、下部タンクや上部タンクを開放せずに連続的に継続して摩耗試験を行うことができ、効率向上を図り得る連続式摩耗試験装置を提供する。
【解決手段】粉粒体Sが貯留される上部タンク1と、該上部タンク1から投下される粉粒体Sを試験片Tに衝突させることにより該試験片Tを摩耗させる摩耗試験部2と、該摩耗試験部2で試験片Tに衝突させた粉粒体Sを受ける下部タンク3とに加え、該下部タンク3で受けた粉粒体Sを前記上部タンク1へ戻す搬送手段11と、該搬送手段11により上部タンク1へ戻される粉粒体Sの積算流量を計測する積算流量計測手段12とを追加装備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続式摩耗試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、各種材料の耐摩耗性を調査するために、砂等の粉粒体を試験片に衝突させることにより該試験片を摩耗させる摩耗試験装置が知られている。
【0003】
図4は従来の摩耗試験装置の一例を示す概要構成図であって、該摩耗試験装置は、砂等の粉粒体Sが貯留される上部タンク1と、該上部タンク1から投下される粉粒体Sを試験片Tに衝突させることにより該試験片Tを摩耗させる摩耗試験部2と、該摩耗試験部2で試験片Tに衝突させた粉粒体Sを受ける下部タンク3とを備えてなる構成を有している。
【0004】
前記摩耗試験部2は、図4(a)に示される如く、真空ポンプ4により真空引きされる真空容器5の内部にプラットホーム6を設置し、該プラットホーム6の中心部に、半径方向へ放射状に延びる粉粒体Sの噴射管路7b(図4(b)参照)が穿設された噴射ディスク7をモータ8により回転駆動可能となるよう設け、該噴射ディスク7の中心部に開口する粉粒体Sの導入口7a(図4(c)参照)に、前記上部タンク1から垂下される粉粒体Sの投下管9の先端を接続すると共に、前記プラットホーム6の周縁部に、前記噴射ディスク7の周囲を取り囲むように試験片Tを配置してなる構成を有している。
【0005】
尚、図4(a)中、10は粉粒体Sを下部タンク3へ導く回収管である。
【0006】
図4に示される従来の摩耗試験装置においては、摩耗試験部2の真空容器5の内部を真空ポンプ4により真空引きした状態で、噴射ディスク7をモータ8により回転駆動しつつ、上部タンク1から投下管9を介して砂等の粉粒体Sを摩耗試験部2の噴射ディスク7の導入口7aに落とすと、該粉粒体Sは、遠心力により噴射ディスク7の噴射管路7bから放射状に噴射されて試験片Tに衝突した後、回収管10を経て下部タンク3に回収されるようになっている。
【0007】
尚、前述の如き従来の摩耗試験装置を示すものとしては、例えば、非特許文献1がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Nuclear Science and Technology Vol.30 , No.9(1993)pp.881-889 "Erosion of Gaseous Suspension Flow Duct due to Particle Collision, (I) Experimental Determination of Erosion Rate by Individual Collision "
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前述の如き摩耗試験は数週間という非常に長い時間を要するが、図4に示されるような従来の摩耗試験装置は、いわゆるバッチ式の試験装置であって、上部タンク1に貯留された砂等の粉粒体Sを全量使い切った後は、その都度、摩耗試験装置の運転を停止して下部タンク3で受けた粉粒体Sを上部タンク1へ戻す必要があり、該下部タンク3や上部タンク1の蓋や配管等の接続フランジを取り外す手間がかかるだけでなく、前記真空容器5内部の真空状態が解除されて大気圧に戻ってしまうと、試験を再開するには真空容器5内部を再び真空にしなければならず、非常に効率が悪いという欠点を有しており、しかも、バッチ式では試験中、前述の如き下部タンク3で受けた粉粒体Sの上部タンク1への戻し作業等を行うために人がついている必要があり、夜間運転も行いにくい状況となっていた。
【0010】
又、摩耗試験の場合、粉粒体Sの積算流量を計測する必要があるが、粉粒体Sの総量は、試験前或いは試験後に上部タンク1又は下部タンク3の重量変化を計測して求める以外に方法がなく、試験実施に伴う効率を更に低下させる要因となっていた。
【0011】
更に又、砂ではなく灰等のように人体に影響を及ぼす可能性のある粉塵摩耗の試験等では、前記下部タンク3や上部タンク1を開放するたびに、粉塵が周囲に飛散しないようにする対策も必要となっていた。
【0012】
本発明は、斯かる実情に鑑み、バッチ式ではなく、下部タンクや上部タンクを開放せずに連続的に継続して摩耗試験を行うことができ、効率向上を図り得る連続式摩耗試験装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、粉粒体が貯留される上部タンクと、
該上部タンクから投下される粉粒体を試験片に衝突させることにより該試験片を摩耗させる摩耗試験部と、
該摩耗試験部で試験片に衝突させた粉粒体を受ける下部タンクと、
該下部タンクで受けた粉粒体を前記上部タンクへ戻す搬送手段と、
該搬送手段により上部タンクへ戻される粉粒体の積算流量を計測する積算流量計測手段と
を備えたことを特徴とする連続式摩耗試験装置にかかるものである。
【0014】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0015】
上部タンクに貯留された粉粒体は、摩耗試験部に投下され試験片に衝突することにより該試験片を摩耗させ、該摩耗試験部で試験片に衝突した粉粒体は、下部タンクへ落下した後、搬送手段により上部タンクへ戻され、該搬送手段により上部タンクへ戻される粉粒体の積算流量は、積算流量計測手段により計測される。
【0016】
この結果、バッチ式の従来の摩耗試験装置とは異なり、上部タンクに貯留された粉粒体は循環する形で使用されるため、摩耗試験装置の運転を停止して下部タンクで受けた粉粒体を人が上部タンクへ戻す必要がなくなり、該下部タンクや上部タンクの蓋や配管等の接続フランジを取り外す手間がかからず、摩耗試験部を真空に保持する場合であっても内部の真空状態が解除されて大気圧に戻ってしまうことがなく、試験を再開するために内部を再び真空にしなくて済み、非常に効率が良くなり、しかも、バッチ式では試験中、下部タンクで受けた粉粒体の上部タンクへの戻し作業等を行うために人がついている必要があるが、本発明では、昼夜を問わず連続運転を行うことが可能となる。
【0017】
又、前記搬送手段により上部タンクへ戻される粉粒体の積算流量は、積算流量計測手段により計測されることから、従来のように、粉粒体の総量を求めるために試験前或いは試験後に上部タンク又は下部タンクの重量変化を計測する必要がなくなり、試験実施に伴う効率を更に向上させる上で有利となる。
【0018】
更に又、砂ではなく灰等のように人体に影響を及ぼす可能性のある粉塵摩耗の試験等であっても、試験の途中で前記下部タンクや上部タンクを開放しなくて済むため、粉塵が周囲に飛散する心配もない。
【0019】
前記連続式摩耗試験装置においては、前記積算流量計測手段を、
前記上部タンク内に設けられた水平軸を中心として揺動自在に配設され且つ前記搬送手段により上部タンクへ戻される粉粒体を一定容量受けるたびに揺動して該粉粒体を排出可能な転倒マスと、
該転倒マスの容量及び揺動回数に基づき前記粉粒体の積算流量を求める演算器と
から構成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の連続式摩耗試験装置によれば、バッチ式ではなく、下部タンクや上部タンクを開放せずに連続的に継続して摩耗試験を行うことができ、効率向上を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例を示す全体概要構成図である。
【図2】本発明の実施例における積算流量計測手段の転倒マスを示す斜視図である。
【図3】本発明の実施例における積算流量計測手段の転倒マスの連続的な作動を示す図である。
【図4】従来の摩耗試験装置の一例を示す概要構成図であって、(a)は摩耗試験部の斜視図、(b)はプラットホーム及び噴射ディスクの平面図、(c)は噴射ディスクの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0023】
図1〜図3は本発明の実施例であって、図中、図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図4に示す従来のものと同様であるが、本実施例の特徴とするところは、図1〜図3に示す如く、粉粒体Sが貯留される上部タンク1と、該上部タンク1から投下される粉粒体Sを試験片Tに衝突させることにより該試験片Tを摩耗させる摩耗試験部2と、該摩耗試験部2で試験片Tに衝突させた粉粒体Sを受ける下部タンク3とに加え、該下部タンク3で受けた粉粒体Sを前記上部タンク1へ戻す搬送手段11と、該搬送手段11により上部タンク1へ戻される粉粒体Sの積算流量を計測する積算流量計測手段12とを追加装備した点にある。
【0024】
本実施例の場合、前記搬送手段11としては、モータ13によって回転駆動される駆動スプロケット14と、従動スプロケット15とを上下方向へ所要間隔をあけてそれぞれ回転自在に配設し、該駆動スプロケット14と従動スプロケット15との間にチェーン16を無端状に掛け回し、該チェーン16に多数のバケット17を取り付けてなるバケットエレベータ18を用いるようにしてある。尚、前記搬送手段11としては、バケットエレベータ18に限らず、例えば、二枚のベルト間に粉粒体Sを挟んで搬送するベルトコンベヤ等を用いることも可能である。
【0025】
又、前記積算流量計測手段12は、前記上部タンク1内に、搬送手段11により上部タンク1へ戻される粉粒体Sを受けるホッパ19を配置し、該ホッパ19の下方位置に、前記搬送手段11により上部タンク1へ戻される粉粒体Sを一定容量受けるたびに該粉粒体Sを排出可能な転倒マス20を、前記上部タンク1内に設けられた水平軸21を中心として揺動自在に配設し、該転倒マス20の容量及び揺動回数に基づき演算器22により前記粉粒体Sの積算流量を求めるよう構成してある。前記転倒マス20は、図2に示す如く、水平軸21を中心として左右対称形状とした二つの受部20a,20bを有し、且つ水平軸21より鉛直上方位置に重心Gが存在し、二つの受部20a,20bが空の状態では、いずれか一方の受部が上方に位置するよう傾斜して静止する構造としてあり、図3に示すように、転倒マス20の一方の受部20aが上方に位置するよう傾斜してホッパ19の直下に位置した状態から、一定容量の粉粒体Sが転倒マス20の一方の受部20aに貯まると、該転倒マス20が粉粒体Sの重みで一方の側に転倒するように揺動して下方へ粉粒体Sを排出し、続いて、他方の側の受部20bに粉粒体Sが落下して貯まっていき、該転倒マス20が粉粒体Sの重みで今度は他方の側に転倒するように揺動して下方へ粉粒体Sを排出し、以下、同様の動作を繰り返す形となり、転倒マス20が転倒するたびに発生する電気パルスをデータロガー等の前記演算器22にて記録することにより、前記粉粒体Sの積算流量を求めるようにしてある。
【0026】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0027】
上部タンク1に貯留された砂等の粉粒体Sは、真空ポンプ4により真空引きされた摩耗試験部2内の噴射ディスク7の導入口7aに投下管9を介して投下され、該噴射ディスク7はモータ8により回転駆動されているため、前記粉粒体Sは、遠心力により噴射ディスク7の噴射管路7bから放射状に噴射されて試験片Tに衝突し、該試験片Tを摩耗させ、回収管10を経て下部タンク3に回収された後、バケットエレベータ等の搬送手段11により上部タンク1へ戻され、該搬送手段11により上部タンク1へ戻される粉粒体Sの積算流量は、積算流量計測手段12により計測される。
【0028】
ここで、前記積算流量計測手段12としての転倒マス20においては、図3に示すように、転倒マス20の一方の受部20aが上方に位置するよう傾斜してホッパ19の直下に位置した状態から、一定容量の粉粒体Sが一方の受部20aに貯まると、該転倒マス20が粉粒体Sの重みで一方の側に転倒するように揺動して粉粒体Sが下方へ排出され、続いて、他方の側の受部20bに粉粒体Sが落下して貯まっていき、該転倒マス20が粉粒体Sの重みで今度は他方の側に転倒するように揺動して粉粒体Sが下方へ排出され、以下、同様の動作が繰り返される形となり、転倒マス20が転倒するたびに発生する電気パルスがデータロガー等の前記演算器22にて記録されることにより、前記粉粒体Sの積算流量が求められる。
【0029】
この結果、図4に示されるようなバッチ式の従来の摩耗試験装置とは異なり、上部タンク1に貯留された砂等の粉粒体Sは循環する形で使用されるため、摩耗試験装置の運転を停止して下部タンク3で受けた粉粒体Sを人が上部タンク1へ戻す必要がなくなり、該下部タンク3や上部タンク1の蓋や配管等の接続フランジを取り外す手間がかからず、摩耗試験部2を真空に保持する場合であっても前記真空容器5内部の真空状態が解除されて大気圧に戻ってしまうことがなく、試験を再開するために真空容器5内部を再び真空にしなくて済み、非常に効率が良くなり、しかも、バッチ式では試験中、下部タンク3で受けた粉粒体Sの上部タンク1への戻し作業等を行うために人がついている必要があるが、本実施例では、昼夜を問わず連続運転を行うことが可能となる。
【0030】
又、前記搬送手段11により上部タンク1へ戻される粉粒体Sの積算流量は、積算流量計測手段12により計測されることから、従来のように、粉粒体Sの総量を求めるために試験前或いは試験後に上部タンク1又は下部タンク3の重量変化を計測する必要がなくなり、試験実施に伴う効率を更に向上させる上で有利となる。
【0031】
更に又、砂ではなく灰等のように人体に影響を及ぼす可能性のある粉塵摩耗の試験等であっても、試験の途中で前記下部タンク3や上部タンク1を開放しなくて済むため、粉塵が周囲に飛散する心配もない。
【0032】
こうして、バッチ式ではなく、下部タンク3や上部タンク1を開放せずに連続的に継続して摩耗試験を行うことができ、効率向上を図り得る。
【0033】
尚、本発明の連続式摩耗試験装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0034】
1 上部タンク
2 摩耗試験部
3 下部タンク
4 真空ポンプ
5 真空容器
7 噴射ディスク
8 モータ
9 投下管
10 回収管
11 搬送手段
12 積算流量計測手段
20 転倒マス
20a 受部
20b 受部
21 水平軸
22 演算器
S 粉粒体
T 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉粒体が貯留される上部タンクと、
該上部タンクから投下される粉粒体を試験片に衝突させることにより該試験片を摩耗させる摩耗試験部と、
該摩耗試験部で試験片に衝突させた粉粒体を受ける下部タンクと、
該下部タンクで受けた粉粒体を前記上部タンクへ戻す搬送手段と、
該搬送手段により上部タンクへ戻される粉粒体の積算流量を計測する積算流量計測手段と
を備えたことを特徴とする連続式摩耗試験装置。
【請求項2】
前記積算流量計測手段を、
前記上部タンク内に設けられた水平軸を中心として揺動自在に配設され且つ前記搬送手段により上部タンクへ戻される粉粒体を一定容量受けるたびに揺動して該粉粒体を排出可能な転倒マスと、
該転倒マスの容量及び揺動回数に基づき前記粉粒体の積算流量を求める演算器と
から構成した請求項1記載の連続式摩耗試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−22052(P2011−22052A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168381(P2009−168381)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)