説明

連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体

【課題】 発泡及び硬化時における発熱温度をより短時間で低下させることができ、スコーチによる変色を抑制することができる連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体を提供する。
【解決手段】 連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、炭酸水素塩を配合し、ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させることにより得られる。炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムが好ましい。炭酸水素塩の配合量は、ポリオール類100質量部当たり好ましくは10〜100質量部である。その炭酸水素塩は、ポリウレタン発泡体の製造過程で加熱により分解されて炭酸塩を生成し、生成される炭酸塩の比重は2〜3であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば家具類、寝具類、自動車のシート類等を形成するクッション材に用いられる連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体として密度25kg/m3以下の軟質ポリウレタン発泡体を製造する際に、発泡剤を水のみとした場合、水の添加量を増加させる必要があることから発泡及び硬化時における発熱温度が170℃以上に達する。このため、ポリウレタンの酸化劣化(スコーチ)に基づく自己発火の可能性があるとともに、スコーチにより、得られる軟質ポリウレタン発泡体に変色が発生する。そのような事態を回避するために、従来の水の添加量のままで発泡助剤として塩化メチレンや液化炭酸ガスを添加することが知られている。
【0003】
しかし、塩化メチレンは環境等に悪影響を与える物質の一つであって、使用が規制されている。一方、液化炭酸ガスによる発泡は、液化炭酸ガスを高圧で供給する専用の設備が必要であり、発泡を円滑に行うためには製造条件が限定されるうえに、製造コストも上昇する。そこで、吸熱を目的として、ポリエチレンパウダー等のポリオレフィンパウダーを添加する技術が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。
【特許文献1】特表2002−532596号公報(第2頁)
【特許文献2】特開平6−199973号公報(第2頁及び第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記従来のポリオレフィンパウダーを添加する技術においては、発泡及び硬化時における発熱温度の低下に対して効果は認められるが、発熱量を効果的に抑制するためにはポリオレフィンパウダーを増量させることが必要である。その場合、増量されたポリオレフィンパウダーにより、得られる軟質ポリウレタン発泡体の密度が高くなり過ぎるとともに、引張強度等の物性が低下する。このような物性の低下を防ぐためにはポリオレフィンパウダーを十分に配合することができないことから、発泡及び硬化時における発熱温度を短時間で低下させることができず、その結果スコーチによる変色を抑制することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、発泡及び硬化時における発熱温度をより短時間で低下させることができ、スコーチによる変色を抑制することができる連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、炭酸水素塩を配合し、前記ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させて得られることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、請求項1に係る発明において、前記炭酸水素塩は、ポリウレタン発泡体の製造過程で加熱により分解されて炭酸塩を生成し、その炭酸塩の比重が2〜3であることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記炭酸水素塩は、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明において、前記炭酸水素塩の配合量は、ポリオール類100質量部当たり10〜100質量部であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、ポリウレタン発泡体原料に対し、炭酸水素塩を配合し、前記ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させて得られるものである。炭酸水素塩はポリウレタン発泡体の製造過程で加熱され分解されて水を生成し、その水の蒸発によって蒸発潜熱(気化熱)が奪われ、ポリウレタン発泡体原料の反応に基づく発熱が抑制される。しかも、炭酸水素塩の分解反応は吸熱反応であることから、ポリウレタン発泡体原料の反応による発熱を抑制することができる。従って、発泡及び硬化時における発熱温度をより短時間で低下させることができ、スコーチによる変色を抑制することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体においては、炭酸水素塩は、ポリウレタン発泡体の製造過程で加熱により分解されて炭酸塩を生成し、その炭酸塩の比重が2〜3である。このように、ポリウレタン発泡体中に残留する炭酸塩の比重が従来のポリエチレンパウダーの比重0.93に比べて大きいことから、密度、硬さ等のポリウレタン発泡体の物性に与える影響が小さく、従って請求項1に係る発明の効果に加え、ポリウレタン発泡体の物性の変化を抑制することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体においては、炭酸水素塩は、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムである。これらの炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムは、分解開始温度が低く、ポリウレタン発泡体の生成に沿って分解されて機能を発揮することができる。このため、請求項1又は請求項2に係る発明の効果を向上させることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体においては、炭酸水素塩の配合量は、ポリオール類100質量部当たり10〜100質量部に設定され、炭酸水素塩の分解が過剰又は不足することなく適度に行われる。従って、請求項1から請求項3のいずれか一項に係る発明の効果を一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態における連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体(以下、単に発泡体ともいう)は次のようにして得られるものである。すなわち発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、炭酸水素塩を配合し、ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させて得られるものである。ここで、連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、発泡体中に存在する気泡(セル)が連通構造を有し、柔軟性があって圧縮荷重に対し復元性を示すものを意味し、軟質ポリウレタン発泡体、半硬質ポリウレタン発泡体等が含まれる。
【0015】
そして、炭酸水素塩が発泡体の製造時に加熱され、分解されて生成する水の蒸発潜熱により、さらには炭酸水素塩の分解反応が吸熱反応であることにより、前記発泡及び硬化に基づく発熱を抑制できる機能が発現されるものと考えられる。発泡及び硬化時の温度が例えば160℃以上、さらには170℃以上に上昇すると、発泡体に酸化劣化すなわちスコーチが起きて発泡体に変色が発生する。この現象を、炭酸水素塩の分解を利用して抑制するのである。本実施形態の発泡体は、常温大気圧下に発泡、硬化させて得られるスラブ発泡体及び成形型内にポリウレタン発泡体原料(反応混合液)を注入、型締めして型内で発泡、硬化させて得られるモールド発泡体のいずれの方法により製造されるものであってもよい。この場合、スラブ発泡体の方が一般に連続生産によりブロック体を高さ1m程度の嵩高に成形することから、蓄熱しやすく黄変しやすいため、スコーチによる黄変対策として本実施形態の製造方法が有効である。
【0016】
まず、前記ポリウレタン発泡体原料について説明する。
ポリオール類としては、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールが用いられる。これらのうち、ポリイソシアネート類との反応性に優れているという点と、ポリエステルポリオールのように加水分解をしないという点から、ポリエーテルポリオールが好ましい。ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、多価アルコールにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加重合させた重合体よりなるポリエーテルポリオール、それらの変性体等が用いられる。多価アルコールとしては、グリセリン、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0017】
ポリエーテルポリオールとして具体的には、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させ、更にエチレンオキシドを付加重合させたトリオール、ジプロピレングリコールにプロピレンオキシドを付加重合させ、更にエチレンオキシドを付加重合させたジオール等が挙げられる。ポリエーテルポリオール中のポリエチレンオキシド単位は10〜30モル%程度である。ポリエチレンオキシド単位の含有量が多い場合には、その含有量が少ない場合に比べて親水性が高くなり、極性の高い分子、ポリイソシアネート類等との混合性が良くなる。その結果、反応性が高くなる。このポリオール類は、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の官能基数や水酸基価を変えることができる。
【0018】
ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオール類と反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが用いられる。
【0019】
前記ポリオール類と反応させるポリイソシアネート類はイソシアネート基を複数個有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、これらの変性物等が用いられる。ポリイソシアネート類のイソシアネートインデックスは100以下又は100を越えてもよいが、通常90〜130程度の範囲である。ここで、イソシアネートインデックスは、ポリオール類の水酸基及び発泡剤としての水に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。
【0020】
発泡剤はポリウレタン樹脂を発泡させて連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体とするためのもので、例えば水のほかペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、炭酸ガス等が用いられる。発泡剤が水の場合には、ポリウレタン発泡体の密度を好ましくは25kg/m3以下、さらに好ましくは15〜20kg/m3にするため、その配合量をポリオール類100質量部に対して5〜13質量部とすることが好ましい。水の配合量が5質量部未満では発泡量が少なく、ポリウレタン発泡体の密度が25kg/m3を越える傾向となり、13質量部を越えると発泡及び硬化時に温度が上昇しやすくなり、その温度を低下させることが難しくなる。
【0021】
触媒はポリオール類とポリイソシアネート類とのウレタン化反応を促進するためのものであり、具体的にはトリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン等の第3級アミン、オクチル酸スズ(スズオクトエート)等の有機金属化合物、酢酸塩、アルカリ金属アルコラート等が用いられる。
【0022】
ポリウレタン発泡体原料にはその他必要に応じて、整泡剤、架橋剤、充填剤、安定剤、着色剤、難燃剤、可塑剤等が配合される。整泡剤としては、シリコーン化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、ポリエーテルシロキサン、フェノール系化合物等が用いられる。
【0023】
次に、ポリウレタン発泡体原料に配合される炭酸水素塩は、加熱されることにより分解される化合物である。例えば、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)は下記の反応式(1)に基づいて分解し、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、水(H2O)及び二酸化炭素(CO2)を生成する。
【0024】
2NaHCO3 → Na2CO3+H2O+CO2 ・・・(1)
また、炭酸水素カリウム(KHCO3)は下記の反応式(2)に基づいて分解し、炭酸カリウム(K2CO3)、水(H2O)及び二酸化炭素(CO2)を生成する。
【0025】
2KHCO3 → K2CO3+H2O+CO2 ・・・(2)
炭酸水素塩としては、分解開始温度が低く、ポリウレタン発泡体の生成に沿って分解されて機能を発揮することができる点から、炭酸水素アルカリ金属塩である炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムが好ましい。また、ポリウレタン発泡体の生成時の温度上昇に沿って炭酸水素塩の分解が開始されて機能を発揮することができる点から、炭酸水素塩の分解開始温度は50〜100℃であることが好ましい。炭酸水素ナトリウムの分解開始温度は50℃であり、炭酸水素カリウムの分解開始温度は100℃である。この分解開始温度が50℃未満の場合には、分解開始の時期が早過ぎて炭酸水素塩の分解生成物である水が発泡剤として機能したり、二酸化炭素によって発泡のバランスが崩れたりして好ましくない。一方、分解開始温度が100℃を越える場合には、分解開始の時期が遅過ぎてその分解反応による効果を十分に得ることができなくなる。
【0026】
炭酸水素塩としては、平均粒子径が好ましくは10〜50μm程度の粉末が用いられる。炭酸水素塩の平均粒子径が10μm未満の場合には粉末が細かくなり過ぎて粉塵となりやすく、取扱いが不便であり、50μmを越える場合にはポリウレタン発泡体原料に対する分散性が悪くなって炭酸水素塩の機能が十分に発揮されなくなる。また、炭酸水素塩をポリウレタン発泡体原料に配合する場合には、発泡剤としての水等に混合して配合するよりポリオール類に分散させて配合することが好ましい。炭酸水素塩を水に混合して配合すると、発泡の状態が変化し、その制御が難しくなる。
【0027】
炭酸水素塩の配合量は、炭酸水素塩の分解を過剰又は不足することなく適度に行うために、ポリオール類100質量部当たり10〜100質量部であることが好ましい。炭酸水素塩の配合量が10質量部未満のときには、炭酸水素塩の分解生成物である水の生成量が少なく、また分解反応による吸熱量が少なく、炭酸水素塩の機能を十分に果たすことができなくなる。一方、100質量部を越えるときには、水の生成量が多く、過剰な水が発泡剤として機能したり、過剰な二酸化炭素に基づく発泡により発泡体の物性が変化したりして好ましくない。
【0028】
炭酸水素塩は、前述のようにポリウレタン発泡体の製造過程で加熱により分解されて炭酸塩を生成し、生成された炭酸塩の比重が通常2〜3である。このように、ポリウレタン発泡体中に残留する炭酸塩の比重が従来のポリエチレンパウダーの比重0.93に比べて大きく、その体積が小さくなることから、ポリウレタン発泡体の物性に与える影響が小さい。さらに、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸水素塩は、水に溶解してpH8〜9程度のアルカリ性を示すことから、ポリオール類とポリイソシアネート類とのウレタン化反応を促進する触媒としての機能を発揮する。このため、前記ウレタン化反応を促進するための第3級アミン等の触媒量を低減させることができる。その結果、第3級アミン等の触媒による揮発性有機化合物(VOC)の発生を抑制することができる。
【0029】
そして、ポリウレタン発泡体原料を反応させて発泡及び硬化させることにより連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体を製造するが、その際の反応は複雑であり、基本的には次のような反応が主体となっている。すなわち、ポリオール類とポリイソシアネート類との付加重合反応(ウレタン化反応)、ポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化(発泡)反応及びこれらの反応生成物とポリイソシアネート類との架橋(硬化)反応である。ポリウレタン発泡体を製造する場合には、ポリオール類とポリイソシアネート類とを直接反応させるワンショット法或はポリオール類とポリイソシアネート類とを事前に反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを得、それにポリオール類を反応させるプレポリマー法のいずれも採用される。
【0030】
このようにして得られる連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体では、発泡及び硬化に基づく最高発熱温度を160℃以下、その最高温度より10℃下がる時間を10分以下にでき、発泡及び硬化時における温度の高い部位と温度の低い部位とにおける色差を5以下にすることができる。ここで、色差は発泡及び硬化時における温度の高い部位と温度の低い部位におけるイエローインデックスの差(ΔYI)である。さらに、ポリウレタン発泡体は、JIS K6400で規定された密度を15〜20kg/m3という低密度にすることができる。
【0031】
このように、ポリウレタン発泡体は低密度のものであり、クッション性が良く、軽量なものであるとともに、色差が小さく、変色の点でも問題のないものである。また、JIS K6400で規定された硬さは110〜130Nであることが好ましい。硬さが110N未満の場合にはポリウレタン発泡体が柔らかくなり過ぎて、その上に座ったときに沈み込みが大きくなったりし、130Nを越える場合にはポリウレタン発泡体が硬くなり過ぎて、クッション性が低下したりするおそれがある。ポリウレタン発泡体中には炭酸水素塩の分解により生成した炭酸塩が残留されているが、その炭酸塩は前記のように比重が2〜3であり、その体積が小さくポリウレタン発泡体の物性に与える影響が少ない。このような物性をもつポリウレタン発泡体は、椅子、ソファー等の家具類、ベッド、マットレス、枕等の寝具類、自動車のシート、ドアの内張り材、天井材等の自動車内装材類等を形成するクッション材等として好適に用いられる。
【0032】
さて、連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体を製造する場合には、例えばポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤としての水及びアミン触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、炭酸水素ナトリウム等の炭酸水素塩を、ポリオール類100質量部当たり10〜100質量部配合する。そして、ポリオール類とポリイソシアネート類とを反応させるとともに、ポリイソシアネート類と水とを反応させて発泡させ、さらに硬化させることによりポリウレタン発泡体が製造される。
【0033】
この製造過程において、発泡及び硬化時に、炭酸水素塩が50℃以上に加熱されることにより分解されて水を生成し、生成した水が蒸発する。その水の蒸発によって蒸発潜熱が奪われ、発泡及び硬化に基づく発泡体の発熱が抑えられる。それと同時に、炭酸水素塩の分解反応による吸熱作用により、発泡体の発熱が抑えられる。それらの相乗的作用により、発泡及び硬化時における発熱温度を短時間のうちに低下させることができる。発泡及び硬化時における発泡体の温度は、炭酸水素塩を配合しないときに160℃を越えるのに比べて、発泡及び硬化時における温度を160℃以下に抑えることができる。従って、160℃以上の高温に晒されることで発生する発泡体のスコーチを抑制することができる。
【0034】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、ポリウレタン発泡体原料に炭酸水素塩を配合し、ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させることにより得られる。その場合、炭酸水素塩は加熱され分解して水を生成し、その水の蒸発によって蒸発潜熱を奪い、かつ炭酸水素塩の分解反応の吸熱効果により、発泡及び硬化時の発熱を抑制することができる。従って、発泡及び硬化時における発熱温度をより短時間で低下させることができ、スコーチによる変色を抑制することができる。
【0035】
・ また、炭酸水素塩は、ポリウレタン発泡体の製造過程で加熱により分解されて炭酸塩を生成し、生成された炭酸塩がポリウレタン発泡体中に残留する。その炭酸塩の比重は2〜3であって、従来のポリエチレンパウダーの比重0.93に比べて大きいことから、密度、硬さ、引張強度、伸び等のポリウレタン発泡体の物性に与える影響が小さく、ポリウレタン発泡体の物性の変化を抑制することができる。
【0036】
・ さらに、炭酸水素塩として炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムを用いることにより、これらの炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムは、分解開始温度が低く、ポリウレタン発泡体の生成に沿って分解されて機能を発揮することができる。
【0037】
・ しかも、炭酸水素塩の配合量を、ポリオール類100質量部当たり10〜100質量部に設定することにより、炭酸水素塩の分解を過剰又は不足することなく適度に行うことができる。
【0038】
・ 上記のようにして得られた連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、発泡、硬化する際に過度の発熱を抑えることで、従来高温部となっていた部位の酸化劣化が少なくなり、結果として発泡及び硬化時における温度の高い部位と温度の低い部位とにおける色差を5以下に抑えることができる。従って、製品が前記温度の高い内部と温度の低い表面部との双方に渡る場合でも、変色による不具合を防止することができる。その上、JIS K6400で規定された密度を15〜20kg/m3という低密度にすることができるとともに、硬さ、引張強度、伸び等の物性を家具類、寝具類、自動車内装材類等を形成するクッション材に適合させることができる。
【0039】
・ なお、炭酸水素塩の分解によって生成する二酸化炭素により、泡化反応によるアミン化合物、さらにはウレア化合物の生成が抑えられ、発泡体の硬さを下げる傾向を示すと推測される。しかしながら、炭酸水素塩の配合量が多いため、ポリウレタン発泡体中には炭酸水素塩の分解生成物である炭酸塩の含有量が多くなり、その炭酸塩がフィラーとして作用し発泡体の硬さが上がり、結果として発泡体の硬さが大きく変化するのを抑制することができる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、前記実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜4及び比較例1〜3)
まず、各実施例及び比較例で用いたポリエチレンパウダー及び炭酸水素塩を以下に示す。
【0041】
ポリエチレンパウダー: 三井化学(株)製、比重0.93、平均粒子径40μmの低密度ポリエチレンパウダー。
炭酸水素ナトリウム: 平均粒子径が40μmの炭酸水素ナトリウム。
【0042】
炭酸水素カリウム: 平均粒子径が20μmの炭酸水素カリウム。
なお、水の蒸発熱は2259J/g、ポリエチレンパウダーの融解潜熱は198J/gであり、水の吸熱効果はポリエチレンパウダーより格段に優れていることがわかる。
【0043】
そして、表1及び表2に示すポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、整泡剤及び触媒よりなるポリウレタン発泡体原料に、前記ポリエチレンパウダー又は炭酸水素塩を混合して混合物を調製した。但し、炭酸水素塩はポリオール類に分散させて配合した。ここで、比較例1では炭酸水素塩等の添加物を何も加えない例、比較例2及び比較例3ではポリエチレンパウダーの配合量を変えて加えた例を示した。
【0044】
これらの混合物を縦、横及び深さが各500mmの発泡容器内に注入し、常温、大気圧下で発泡させた後、加熱炉を通過させて加熱反応(硬化)させることにより軟質スラブ発泡体を得た。得られた軟質スラブ発泡体を切り出すことによってシート状のポリウレタン発泡体を製造した。このポリウレタン発泡体について、密度、硬さ、引張強度、伸び、最高発熱温度、最高発熱温度より10℃下がるまでの時間及び色差を以下の測定方法に従って測定した。それらの結果を表1及び表2に示した。表1及び表2における略号の意味を次に示す。
(測定方法)
密度(kg/m3)、硬さ(N)、引張強度(kPa)及び伸び(%): JIS K6400に準じて行った。
【0045】
最高発熱温度(℃): 発泡用容器の中央部に熱電対を差込み、発泡及び硬化時において上昇した最も高い温度を示した。
最高発熱温度より10℃下がるまでの時間: 最高発熱温度(℃)を測定した後、その最高発熱温度(℃)より10℃低下するまでの時間(分)を測定した。
【0046】
色差: 発泡及び加熱反応時における温度の高い発泡体の部位(中央部)と温度の低い部位(側面部)について、色差計〔スガ試験機(株)製、SMカラーコンピューター SM−4〕により黄変度(白色度)を測定し、それらの色差(ΔYI)で示した。
(表1及び表2における略号)
ポリオールGP3000: ポリエーテルポリオール、三洋化成工業(株)製、水酸基価56(mgKOH/g)
アミン触媒LV33: 中京油脂(株)製のアミン系触媒
シリコーン整泡剤 B8110: ゴールドシュミット社製
オクチル酸第1スズ MRH110: 城北化学工業(株)製
ポリイソシアネート T−80: 日本ポリウレタン工業(株)製、トリレンジイソシアネート(2,4-トリレンジイソシアネート80質量%と2,6-トリレンジイソシアネート20質量%との混合物)
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

表1及び表2に示したように、実施例1〜4においては、発泡及び硬化時における最高発熱温度を144℃以下に抑えることができ、その最高温度より10℃下がるまでの時間を9分以下に抑えることができるとともに、色差を3.0以下に抑制することができた。そして、得られた軟質ポリウレタン発泡体は、密度が17.1〜19.8(kg/m3)という低密度、硬さが117〜130(N)で比較的低く、引張強度が117〜133(kPa)及び伸びが140〜183%で十分な性能であった。一般に、マットレス等の家具類に用いられる軟質ポリウレタン発泡体では色差の目安が5以下とされ、そのような基準を十分に満たすことができた。
【0049】
このように、発熱温度を低く抑えることができ、色差を十分に抑制することができ、かつ低発泡の軟質ポリウレタン発泡体を得ることができた理由は、次のように推測される。すなわち、発泡及び硬化時における発熱により炭酸水素塩が分解して生成した水が蒸発し、その蒸発に伴い蒸発潜熱が奪われて発熱温度が低下すると同時に、炭酸水素塩の分解反応が吸熱反応であってその吸熱作用が発現されて発熱温度が低下することに基づくものと推測される。
【0050】
また、実施例3においては、炭酸水素カリウムを多量に用いたことから、その炭酸水素カリウムがウレタン化反応の触媒として機能し、アミン触媒であるLV33を添加することなく発泡させることができた。
【0051】
これに対し、表2に示したように、炭酸水素塩等の添加物を含まない場合(比較例1)には、最高発熱温度が187℃という高い温度になり、かつ最高発熱温度より10℃下がるまでの時間が22分という長い時間を要した。そのため、色差が12.1という高い値を示した。ポリエチレンパウダーを30質量部加えた場合(比較例2)には、最高発熱温度より10℃下がるまでの時間が18分と長いため、すなわち高温に晒されている時間が長いため、色差が5.1という高い値を示した。前記のように、色差の目安は5以下とされており、その基準を満たすことができなかった。さらに、ポリエチレンパウダーを100質量部配合した場合(比較例3)には、ポリウレタン発泡体原料がペースト状になって発泡が不可能であった。
【0052】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 炭酸水素塩として複数種類を組合せ、それらの配合量を調整して使用することもできる。例えば、炭酸水素ナトリウムと炭酸水素カリウムとを等量ずつ使用することにより、ポリウレタン発泡体の製造過程で50℃を越えると炭酸水素ナトリウムが分解して水を生成し、100℃を越えると炭酸水素カリウムが分解して水を生成することから、炭酸水素塩の作用を十分に発揮させることができる。
【0053】
・ 炭酸水素塩として、炭酸水素マグネシウムカリウム(KMgH(CO32)等を用いることもできる。
・ 前記無機化合物の水和物として、硫酸マグネシウムの7水和物(MgSO4・7H2O、比重1.68、分解温度70〜116℃)、硫酸カルシウム・2水和物(CaSO4・2H2O、二水石膏、比重2.32、分解温度130〜148℃)、硫酸鉄の1水和物から5水和物(FeSO4・H2OからFeSO4・5H2O、比重2.97、分解温度100〜130℃)、酢酸ナトリウムの3水和物(CH3COONa・3H2O、比重1.44、分解温度100〜120℃)等を配合することもできる。
【0054】
・ 水を吸収して膨潤し、加熱時には吸収された水が蒸発して吸熱する吸水性材料、例えば(メタ)アクリル酸単位又は(メタ)アクリル酸塩単位を主構成単位とする水不溶性の(メタ)アクリル系吸水性樹脂を、水を含んだ状態で配合することもできる。
【0055】
・ 水を吸収する多孔質の無機質材料、例えば半水石膏、ゼオライト、珪藻土、活性炭等を、水を含んだ状態で配合することもできる。
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0056】
・ 炭酸塩を含有し、JIS K6400に基づく密度が15〜20(kg/m3)であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体。このように構成した場合、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加え、低密度で、硬さ等の物性の変化を抑制することができる。
【0057】
・ ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、炭酸水素塩を配合し、前記ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させることを特徴とする連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体の製造方法。この製造方法によれば、発泡及び硬化時における発熱温度をより短時間で低下させることができるとともに、スコーチによる変色が抑制されたポリウレタン発泡体を容易に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、炭酸水素塩を配合し、前記ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させて得られることを特徴とする連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体。
【請求項2】
前記炭酸水素塩は、ポリウレタン発泡体の製造過程で加熱により分解されて炭酸塩を生成し、その炭酸塩の比重が2〜3であることを特徴とする請求項1に記載の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体。
【請求項3】
前記炭酸水素塩は、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体。
【請求項4】
前記炭酸水素塩の配合量は、ポリオール類100質量部当たり10〜100質量部であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体。

【公開番号】特開2006−199869(P2006−199869A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14367(P2005−14367)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】