説明

連続溶融金属めっき用シンクロール、連続溶融金属めっき装置および連続溶融金属めっき鋼板の製造方法

【課題】シンクロール側板に設けられた開口穴によってボトムドロスを巻き上げる流れが発生するのを防止できる連続溶融金属めっき用シンクロールを提供する。また、鋼板表面へのドロス付着の問題を改善できる連続溶融金属めっき装置と連続溶融金属めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】円筒状の胴部2と、前記胴部2の軸芯線に略直交するように設置した一対乃至は複数対の側板3を備えて中空円筒形状をなすとともに、前記側板3は中空円筒形状部5の外側に延在するように取り付けた棒状の軸4を有し、かつ前記側板3の外周側に中空円筒形状部5の内部と外部を連通する少なくとも1つの開口部6を有する連続溶融金属めっき用シンクロール1であって、前記胴部2と前記側板3を一体化せず、前記胴部2を前記側板3の外周を外転可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続溶融金属めっき用シンクロール、連続溶融金属めっき装置および連続溶融金属めっき鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続溶融金属めっき装置は、図5に示すように、溶融金属を満たしためっき浴槽21中の下部に、浴中ロールとしてのシンクロール22が配置されている。このシンクロール22は、連続溶融金属めっき装置のロール支持部23に水平状態で支持され、軸受けを介して回転自在に配置されている。所定の通板速度でめっき浴槽21中に進入してきた鋼板24は、浴槽下部のシンクロール22の外周上を周回して進行方向が転換され、浴槽外部に引き上げられることで、連続的にめっき付着処理が行われる。
【0003】
前記のシンクロールには種々の形状のものがあるが、円筒状の胴部の両端部に一対の側板を一体化して取り付けて中空円筒形状としたシンクロールが知られている。この形状のシンクロールは、通常、ロール中空部と外部が連通するように側板に開口穴を設けており、めっき浴槽中に配置したときに開口穴からロール中空部に溶融金属を流入させることで浮力の発生を抑制し、めっき浴槽から引き上げるときに開口穴からロール中空部の溶融金属を外部に排出させることで引上げ作業を容易にしている。
【0004】
ところで、溶融Zn系めっきや溶融Al系めっきなどの溶融金属めっきを行う際に、溶融金属めっきを行うめっき浴槽中では、鋼板から溶出したFeがめっき浴槽中の溶融金属と反応し、ドロスと呼ばれる不純物が生成される。このドロスは、一部はめっき浴槽の底部に堆積し、ボトムドロスを形成する。
【0005】
めっき浴槽の底部に堆積したボトムドロスは、シンクロールと鋼板の随伴流によって、めっき浴槽中に巻き上げられて、鋼板の表面に付着する。付着したドロスは、鋼板表面にめっき不均一部分を生じさせ、美観を悪化させるだけでなく、耐食性も劣化させることから、ドロス付着を防止することが必要である。
【0006】
めっき浴槽底部に堆積したボトムドロスがめっき浴槽中に巻き上げられる理由の一つは、回転するシンクロールの側板に設けられた開口穴によって溶融金属中にボトムドロスを巻き上げる流れが発生するためである。製品品質の向上を図るためには、側板に開口部を有するシンクロールにおいて、開口穴によってボトムドロスを巻き上げる流れを発生させないようにする必要がある。
【0007】
実開平5−54547号公報には、シンクロールの側板の開口穴に平滑面を有する邪魔板を配することで、ボトムドロスを巻き上げる流れを発生させないようにすることが提案されている。しかし、この邪魔板は、側板の側面から張り出すような形で設置されるため、シンクロールの回転抵抗が大きくなり、シンクロールが空転して鋼板に擦り傷が発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平5−54547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、シンクロール側板に設けられた開口穴によってボトムドロスを巻き上げる流れが発生するのを防止できる連続溶融金属めっき用シンクロールを提供することを目的とする。また、本発明は、鋼板表面へのドロス付着の問題を改善できる連続溶融金属めっき装置および連続溶融金属めっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
シンクロールの側板に設けられた開口穴によってボトムドロスを巻き上げる流れが発生するのは次のように考えられる。開口穴に存在する溶融金属は、開口穴の壁面によって囲まれているため開口穴と一緒に回転してしまい、その結果として強い遠心力を受ける。遠心力を受けた溶融金属は、開口穴の外部に勢い良く流出し、めっき浴槽内の流れとなってドロスを巻き上げ、運搬する。
【0011】
本発明者等は、シンクロールの側板の形状と、側板の回転に起因するめっき浴槽内の流れについて種々の検討を行った。その結果、シンクロールの側板と胴部を別々の構造物とし、側板を回転させない構造としたときに、ドロスを巻き上げる流れが低減されることが分かった。
【0012】
上記課題を解決する本発明の手段は以下の通りである。
【0013】
(1)円筒状の胴部と、前記胴部の軸芯線に略直交するように設置した一対乃至は複数対の側板を備えて中空円筒形状をなすとともに、前記側板は中空円筒形状部の外側に延在するように取り付けた棒状の軸を有し、かつ前記側板の外周側に中空円筒形状部の内部と外部を連通する少なくとも1つの開口部を有する連続溶融金属めっき用シンクロールであって、前記胴部と前記側板を一体化せずに前記胴部を前記側板の外周を外転可能としたことを特徴とする連続溶融金属めっき用シンクロール。
【0014】
(2) (1)に記載のシンクロールを装着してなる連続溶融金属めっき装置であって、前記軸は、該軸を支えるシンクロール支持部に回転しないように固定されてなることを特徴とする連続溶融金属めっき装置。
【0015】
(3) (2)に記載の連続溶融金属めっき装置を用いて鋼板に溶融金属めっき処理を施すことを特徴とする連続溶融金属めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の連続溶融金属めっき用シンクロールは、胴部と側板とが一体化されず、胴部が側板の外周を外転可能に構成されている。シンクロールの側板の軸を連続溶融金属めっき装置のシンクロール支持部に回転しないように固定することで、鋼板走行時に側板は回転せず、胴部だけが回転する。側板の開口部によってボトムドロスを巻き上げる流れが発生しないため、ボトムドロスの巻き上げが抑制され、鋼板のドロス欠陥を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のシンクロールの第1の実施の形態を示す図で、(a)は斜視図、(b)は軸方向断面図である。
【図2】本発明のシンクロールの種々の実施形態を示す図で、シンクロールの片側の側板付近の断面拡大図である。
【図3】コンピュータ上のシミュレーションに使用する数値流体解析モデルである。
【図4】コンピュータ上のシミュレーションによる溶融亜鉛の流速評価を説明する図で、(a)は流速評価場所を示し、(b)はシンクロール胴端部下方における胴部外周からの距離と流速の絶対値(最大流速)の関係を示す。
【図5】連続溶融金属めっき装置の要部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る連続溶融金属めっき装置のシンクロールの実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明のシンクロールの第1の実施の形態を示す図で、(a)は斜視図、(b)は軸方向断面図である。本実施形態のシンクロール1は、円筒状の胴部2と、この胴部2の両端開口部を閉塞する左右一対の円形状の側板3、3とによりロール中空部5が設けられている。側板3には、ロール中空部5と外部とを連通する開口穴6が1つまたは複数個形成されている。側板3の中心には軸4がロール中空部の外側に延在するようにして取り付けられ、固定されている。胴部2の内周側端部近傍の円周方向に溝7が形成され、該溝7内に側板3の外周部が緩く嵌め込まれ、胴部2は側板3の外周を自由に外転することが可能な構造となっている。胴部2、側板3、軸4を構成する材料は、従来からシンクロールの胴部、側板、軸に使用されている公知の材料を使用できる。
【0020】
シンクロール1を連続溶融金属めっき装置に装着するときは、軸4を、シンクロールを支持する構造体であるシンクロール支持部に軸4が回転しないように固定する。例えば、軸4を断面が多角形となる形状に形成し、シンクロール支持部は、軸4の断面形状に対応する寸法形状の孔部を形成し、この孔部に軸4を挿入し回転しないように固定する。
【0021】
本発明のシンクロールを装着した連続溶融めっき装置を用いた溶融めっき処理方法は常法でよい。鋼板をめっき浴中に浸漬通板すると、側板3は回転せず、胴部2だけが側板3の外周を外転する。側板3が回転しないことで、側板3の開口穴6の壁面で遠心力を受けることがなくなる、つまり、側板の開口部によるボトムドロスを巻き上げる流れの発生が防止される。側板の開口穴6から流出する溶融亜鉛の流速は、側板が回転する従来装置の場合より低下することで、ボトムドロスの巻き上げが抑制され、めっき鋼板のドロス付着が低減する。
【0022】
シンクロール1の側板3には、ロール中空部5と外部とを連通する開口穴6が1つまたは複数個形成されている。シンクロール1を連続溶融金属めっき装置のめっき浴槽中に配置する際は、開口穴6からロール中空部5に溶融金属が流入してシンクロール1の浮力の発生が抑制され、めっき浴槽から引き上げる際には、開口穴6からロール中空部5の溶融金属が外部に排出されるので、シンクロール1の引き上げ作業も容易である。
【0023】
図2は、本発明のシンクロール1の種々の実施形態を示したもので、1対の側板3のうちの片側部分を拡大して示した断面図である。図2(a)は、図1の第1の実施形態と同じもので、シンクロール1の側板3が単純な平板状の形状をしたものである。これに対し、図2(b)は本発明の第2の実施形態であり、側板3が円錐状の形状をしたものである。このように、本発明は、側板3が平板でない場合にも適用が可能である。図2(c)は本発明の第3の実施形態であり、側板3の厚みが一様でなく、軸4に近い部分で厚みが増すような構造になっている。図2(d)は本発明の第4の実施形態であり、側板3のうち、シンクロール胴部2に近い部分は同じ厚みの単純な平板となっており、軸4に近い部分は中心に向かって厚みが増すような構造になっている。
【0024】
図3に示す数値流体解析モデル8を使用して、図1の第1の実施形態のシンクロール1から発生する溶融金属の流れをコンピュータ上のシミュレーションで評価した。図3に示す数値流体解析モデル8は、溶融亜鉛11を満たしている浴槽10と、8rad/sの回転速度で回転するシンクロール9とを備えている。シンクロール9は側板12と胴部13を備え、側板12には8つの開口穴が設けられている。
【0025】
胴部と側板を一体化せず、鋼板通板時に胴部だけが回転する本発明例のシンクロール、及び、軸と側板と胴部が一体化され鋼板通板時にこれらが一体的に回転する従来例のシンクロールについて、各々シンクロール胴端部下方での溶融亜鉛の流速を、シンクロール胴部外周からの距離を変えて評価した。図4(a)は、溶融亜鉛の流速を評価した場所を示す。図4(b)は、シンクロール胴端部下方における胴部外周からの距離と流速の絶対値(最大流速)の関係を示したものである。
【0026】
図4から、本発明例のシンクロールと、従来例のシンクロールを比べると、シンクロール胴部外周から5cm離れた場所においても、50cm離れた場所においても、本発明のシンクロールを用いることで溶融亜鉛の流速を低く抑えることが可能であることがわかる。
【0027】
このことから、本発明に係るシンクロールは、ドロスの巻上げを低減させることが可能になるため、ドロス付着を低減し高品質なめっき鋼板の製造に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のシンクロールは、鋼板表面へのドロス付着を低減できる連続溶融金属めっき装置に装着されるシンクロールとして利用することができる。本発明の連続溶融金属めっき装置は、鋼板表面へのドロス付着を低減できる高品質なめっき鋼板の製造装置として利用することができる。本発明の連続溶融金属めっき鋼板の製造方法は、鋼板表面へのドロス付着を低減できる高品質なめっき鋼板の製造方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 シンクロール
2 胴部
3 側板
4 軸
5 ロール中空部
6 開口穴
7 溝
8 数値流体解析モデル
9 シンクロール
10 浴槽
11 溶融亜鉛
12 シンクロール側板
13 シンクロール胴部
14 流速測定ポイント
21 めっき浴槽
22 シンクロール
23 ロール支持部
24 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴部と、前記胴部の軸芯線に略直交するように設置した一対乃至は複数対の側板を備えて中空円筒形状をなすとともに、前記側板は中空円筒形状部の外側に延在するように取り付けた棒状の軸を有し、かつ前記側板の外周側に中空円筒形状部の内部と外部を連通する少なくとも1つの開口部を有する連続溶融金属めっき用シンクロールであって、前記胴部と前記側板を一体化せず、前記胴部を前記側板の外周を外転可能としたことを特徴とする連続溶融金属めっき用シンクロール。
【請求項2】
請求項1に記載のシンクロールを装着してなる連続溶融金属めっき装置であって、前記軸は、該軸を支えるシンクロール支持部に回転しないように固定されてなることを特徴とする連続溶融金属めっき装置。
【請求項3】
請求項2に記載の連続溶融金属めっき装置を用いて鋼板に溶融金属めっき処理を施すことを特徴とする連続溶融金属めっき鋼板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate