説明

連続濃縮法によるガス分析装置及び方法

【課題】シンプルで操作や取り扱いが簡単な構造の濃縮器によって、サンプルガスを濃縮して測定する。
【解決手段】サンプルガスSGを濃縮する濃縮器1は、非多孔膜中空糸を多数本束ねた分離フィルタ12を備えており、サンプルガスSGを分離フィルタ12に通過させて濃縮サンプルガスSG1とする。さらに、分離フィルタ12は収容管11に収容されており、分離フィルタ12の長手方向が収容管11の長手方向に向けて配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離フィルタを利用することで低濃度ガスを濃縮して分析するガス分析装置及び方法に関し、特に、濃縮器で連続的に濃縮して分析を行うことが可能なガス分析装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス分析装置の一例としてガスクロマトグラフ装置がある。ガスクロマトグラフによる測定装置は、例えば特許文献1に開示されている。そして、このガスクロマトグラフ測定において、サンプルガス中の検出対象ガスの濃度が低くて検出できない場合に、検出感度を向上させるために、サンプルガスを濃縮して検出対象ガスの濃度を高くして測定する。低濃度のサンプルガスを濃縮する器具は、例えば特許文献2に開示されている。
【0003】
従来の濃縮器によれば、サンプルガスは、検出器に導入される前に、吸着剤を充填したトラップ管内を通過する。トラップ管は、液体窒素により極低温に冷却されており、サンプルガスがトラップ管内で凝縮される。その後、液体窒素からトラップ管を取り出し、トラップ管に外装されたヒータを加熱して、サンプルガスを吸着剤から分離する。これにより、サンプルガスは濃縮され、トラップ管に導入されるキャリヤーガスと共に分離カラムに導入される。
【0004】
しかし、上記の濃縮器は、液体窒素やトラップ管、ヒータ等を用いるので非常に複雑で大掛かりな構成であって、操作も煩雑である。また、液体窒素などの冷媒はデュアー瓶での貯蔵が難しく、揮散するので随時補充しなければならず非常に煩雑である。また、上記の方式は、断続的な測定に適しており、連続的に濃縮サンプルガスを分析器に導入することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−99910号公報
【特許文献2】特開平7−31801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、シンプルで操作や取り扱いが簡単な構造の濃縮器によって、サンプルガスを連続的に濃縮して測定することが可能なガス分析装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るガス分析装置は、
サンプルガスを濃縮器で濃縮して測定を行うガス分析装置において、濃縮器は、非多孔膜中空糸を多数本束ねた分離フィルタを備えており、サンプルガスを分離フィルタに通過させて濃縮サンプルガスとする。
【0008】
好ましくは、分離フィルタは収容管に収容されており、分離フィルタの長手方向が収容管の長手方向に向けて配置され、収容管は、その長手方向の一端にサンプルガスを供給するための供給流路と、その長手方向の他端にサンプルガスを排出する第1排出流路と、その外周面にサンプルガスを排出する第2排出流路とを備え、第1排出流路又は第2排出流路から排出された濃縮サンプルガスを測定する。
【0009】
好ましくは、濃縮サンプルガスは連続的に分析器に導入されて連続測定される。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るガス分析方法は、
サンプルガスを濃縮器で濃縮して測定を行うガス分析方法において、非多孔膜中空糸を多数本束ねた分離フィルタを備えた濃縮器を準備し、サンプルガスを分離フィルタに通過させて濃縮サンプルガスとする。
【0011】
好ましくは、分離フィルタを収容管に収容し、分離フィルタの長手方向が収容管の長手方向に向けて配置され、収容管は、その長手方向の一端にサンプルガスを供給するための供給流路と、その長手方向の他端にサンプルガスを排出する第1排出流路と、その外周面にサンプルガスを排出する第2排出流路とを備え、第1排出流路又は第2排出流路から排出された濃縮サンプルガスを測定する。
【0012】
好ましくは、濃縮サンプルガスを連続的に分析器に導入して連続測定する。
【発明の効果】
【0013】
上記の通り、本発明に係るガス分析装置及び方法は、非多孔膜中空糸を多数本束ねた分離フィルタを備えた濃縮器を使用する。分離フィルタは非多孔膜中空糸で構成されているので、サンプルガスを分離フィルタに通過させることで、サンプルガス中における各気体を選択的に透過・不透過して分離する。
【0014】
例えば、水素を主成分とするサンプルガス中におけるアルゴン、窒素等(検出対象ガス)を検出する場合、所定量の水素だけを分離フィルタに透過させて外側へ排出することで、分離フィルタの内側で水素中におけるアルゴン、窒素等(検出対象ガス)の濃度を高くできる。
【0015】
また逆に、アルゴン、窒素等を主成分とするサンプルガス中における水素(検出対象ガス)を検出する場合、分離フィルタに水素だけを外側に透過することによって、外側の水素(検出対象ガス)の濃度を高くできる。
【0016】
即ち、相対的にベースガスが低分子(例えば水素)中の微量高分子成分(例えばアルゴン、窒素)を濃縮して測定したり、ベースガスが高分子(例えばアルゴン、窒素)中の微量低分子成分(例えば水素)を濃縮して測定できるので、ベースガスが低分子・高分子の双方で濃縮測定可能となっている。
【0017】
このように、シンプルな構造の分離フィルタを用いてサンプルガスを濃縮できるので、操作及び取り扱いが非常に簡単なよう構成されている。さらに、サンプルガスを濃縮器に通過させて濃縮できるので、連続的に分析器に導入して連続測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ガスクロマトグラフ装置の第1実施形態を示すブロック図である。
【図2】濃縮器を示す断面図である。
【図3】非多孔膜中空糸を示す斜視図である。
【図4】ガスクロマトグラフ装置の第2実施形態を示すブロック図である。
【図5】ガスクロマトグラフ装置によって得られたクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて、本発明に係るガス分析装置及び方法について説明する。なお下記では、ガス分析装置及び方法について、ガスクロマトグラフ装置及び方法を適用して説明するが、ガスクロマトグラフ−質量分析計、NOx計、SOx計等その他のガス測定用分析器についても適用可能である。
【0020】
[第1実施形態]
先ず、ガスクロマトグラフ装置の第1実施形態について説明する。
図1の通り、ガスクロマトグラフ装置は、サンプルガスSGを濃縮するための濃縮器1を備える。サンプルガスSGは、例えば水素を主成分とする試料ガスである。サンプルガスSGは供給流路5aを通じて濃縮器1へ供給される。供給流路5aは、一定速度で一定流量のサンプルガスSGを計測して送るためのフローコントローラFC及びストップバルブST1を備える。
【0021】
図2の通り、濃縮器1は、円筒状の収容管11を備えており、収容管11に分離フィルタ12が収納されている。分離フィルタ12は、多数本の非多孔膜中空糸10(図3)が平行に束ねられて構成されており、その長手方向が収納管11の長手方向に向くように配置されている。
【0022】
図3の通り、非多孔膜中空糸10は、空孔10aを備えた円筒状の膜10bで構成されている。膜10bはポリイミド等で構成されており、熱振動で生成する分子間隙によって、サンプルガスSGの主成分(例えば水素)を透過ガスSG2として選択的に透過させるようになっている。
【0023】
そして、図2の通り、収納管11は、一端1aが供給流路5aに接続され、他端1bが第1排出流路5bに接続されている。これにより、供給流路5aを通じて収納管11に供給されたサンプルガスSGは、分離フィルタ12における多数本の中空糸10の空孔10aを通じて排出される。収納管11は、外周面1cが第2排出流路7に接続されている。
【0024】
第2排出流路7は、吸引ポンプ4で吸引されている。従って、収納管11に供給されたサンプルガスSGは、中空糸10を通る際に、膜10bを透過する所定量の透過ガスSG2が第2排出流路7から排出される。これにより、サンプルガスSGは、所定量の主成分(例えば水素)が透過ガスSG2として排出されるので、膜10bを透過しない検出対象ガス(例えばアルゴン等)が多く含まれる濃縮された濃縮サンプルガス(分析ガス)SG1が第1排出流路5bから排出される。
【0025】
図1の通り、第2排出流路7は、透過ガスSG2を一定速度で吸引する吸引ポンプ4と、濃縮率に応じて吸引速度を可変するニードルバルブNV2とを備える。また、第1排出流路5bは、濃縮サンプルガスSG1の濃縮量を調整するニードルバルブNV1と、大気平衡を保つ大気平衡バルブST2とを備える。
【0026】
また、図1の通り、測定前には、ストップバルブST3を制御して、濃縮器1に接続された流路6を通じてパージガスPGを流し、不要な空気成分等が残存している前ガスを取り除くためにパージする。
【0027】
そして、例えば、主成分ガス10.0L/minに対して濃縮サンプルガスを100ml/minにした場合、主成分ガス(透過ガスSG2)は第2排出流路7から9.9L/minで排出され、濃縮サンプルガス(分析ガスSG1)は第1排出流路5bから100ml/minで排出される。ここで濃縮サンプルガス中には検出対象ガスが透過せずに残留するので、約100倍の濃縮率で濃縮されることになる。なお、濃縮率は、サンプルガスSGの成分や検出器3の性能等に応じて、最も精度良く測定できる濃度にトライアルによって決定することができる。
【0028】
ガスクロマトグラフ装置は、サンプリングバルブSV及び計量管SLを備える。非測定時は、サンプリングバルブSVの流路は実線の状態になる。濃縮サンプルガスSG1は、第1排出流路5bから導入され、計量管SLを経てフローメータFMを通じて流路5eから廃棄される。キャリアガスCGは、流路5cを通じて制御弁PR及び圧力計PMを経て、サンプリングバルブSVから流路5dを通じて分離カラム2に送られる。
【0029】
測定時(サンプルガス導入時)は、サンプリングバルブSVの流路は破線の状態になる。キャリアガスCGは、サンプリングバルブSV及び計量管SLを経て分離カラム2に流れる。計量管SLにより採取された一定量の濃縮サンプルガスSG1は、キャリアガスCGによって分離カラム2に送り込まれ、分離カラム2で分離した成分が検出器3により測定される。
【0030】
[第2実施形態]
次に、図4の通り、ガスクロマトグラフ装置の第2実施形態について説明する。第2実施形態は、連続的に濃縮サンプルガスSG1を測定できるよう構成されている。即ち、濃縮器1から排出された濃縮サンプルガスSG1は、第1排出流路5bを通じて、サンプリングバルブSV等を介することなく、検出器3に送り込まれ測定される。これにより、濃縮サンプルガスSG1は、断片的な測定ではなく、連続的に測定を行うことが可能である。なお、第2実施形態では、連続的に測定するために、分離カラム2の代わりに流量制御用のキャピラリーチューブ(抵抗管)2’を備える。
【0031】
上記各実施形態では、第1排出流路5bから排出されるガスを測定したが、第2排出流路7から排出されるガスを測定することもできる。即ち、サンプルガスSGが、アルゴン、窒素等を主成分としており、水素が検出対象ガスであるとき、第2排出流路7から排出される透過ガス(水素ガス)SG2が検出対象ガスとなるので、透過ガスSG2を測定する。
【0032】
このように、第1排出路5b又は第2排出路7から排出されるサンプルガスは、分子の大きさによって、主成分ガスが低分子の場合(例えば水素)は第1排出路5bから濃縮サンプルガス(例えばアルゴン、窒素)が排出され、主成分ガスが高分子の場合(例えばアルゴン、窒素)は第2排出路7から濃縮サンプルガス(例えば水素)が排出される。測定流路を選択することによって、簡単にいずれかの濃縮サンプルガスを分析器に導入できる。
【0033】
また、被濃縮サンプルガスは1成分に限らず複数成分であっても、分離フィルタを介する非透過作用によって、濃縮サンプルガスを濃縮することができる。
【0034】
図5は、図1のガスクロマトグラフ装置によって得られたクロマトグラムの一例を示す。このデータでは、主成分は水素、低濃度測定成分としてAr、N、CH、COが各々約20ppm含まれているサンプルガスについて測定した。濃縮率約20倍で濃縮して測定した結果、Arの測定値は約395ppmとなり、濃縮率に一致した(他成分も同様)。従って、ガスクロマトグラフの検出感度は一般的に1ppm程度であるのに対し、検出下限値以下、例えば0.1ppm以下の濃度であっても流量比率を20〜100倍に変えることによって簡単に濃縮率を上げ、測定可能な濃度範囲として測定することができる。濃縮率はサンプルガスの成分や検出器の性能等に応じて、また消費ガス流量を考慮した上、最も精度良く測定できる濃度にトライアルによって決定することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 濃縮器
2 分離カラム
2’ キャピラリーチューブ
3 検出器
1a 収納管の一端
1b 収納管の他端
1c 収納管の外周面
10 非多孔膜中空糸
11 収容管
12 分離フィルタ
SG サンプルガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルガスを濃縮器で濃縮して測定を行うガス分析装置において、前記濃縮器は、非多孔膜中空糸を多数本束ねた分離フィルタを備えており、前記サンプルガスを前記分離フィルタに通過させて濃縮サンプルガスとすることを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
前記分離フィルタは収容管に収容されており、前記分離フィルタの長手方向が前記収容管の長手方向に向けて配置され、前記収容管は、その長手方向の一端に前記サンプルガスを供給するための供給流路と、その長手方向の他端に前記サンプルガスを排出する第1排出流路と、その外周面に前記サンプルガスを排出する第2排出流路とを備え、前記第1排出流路又は前記第2排出流路から排出された前記濃縮サンプルガスを測定することを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記濃縮サンプルガスは連続的に分析器に導入されて連続測定されることを特徴とする請求項2に記載のガス分析装置。
【請求項4】
サンプルガスを濃縮器で濃縮して測定を行うガス分析方法において、非多孔膜中空糸を多数本束ねた分離フィルタを備えた濃縮器を準備し、前記サンプルガスを前記分離フィルタに通過させて濃縮サンプルガスとすることを特徴とするガス分析方法。
【請求項5】
前記分離フィルタを収容管に収容し、前記分離フィルタの長手方向が前記収容管の長手方向に向けて配置され、前記収容管は、その長手方向の一端に前記サンプルガスを供給するための供給流路と、その長手方向の他端に前記サンプルガスを排出する第1排出流路と、その外周面に前記サンプルガスを排出する第2排出流路とを備え、前記第1排出流路又は前記第2排出流路から排出された前記濃縮サンプルガスを測定することを特徴とする請求項4に記載のガス分析方法。
【請求項6】
前記濃縮サンプルガスを連続的に分析器に導入して連続測定することを特徴とする請求項5に記載のガス分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−64527(P2011−64527A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214083(P2009−214083)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(508116975)株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ (7)
【Fターム(参考)】