説明

連続焼鈍炉の板温制御装置および板温制御方法

【課題】最適な中央ライン速度および板温目標値を設定し、中央ライン速度の減速要因発生から中央ライン速度の回復までの燃料原単位を最適化することが可能な板温制御装置を提供する。
【解決手段】本発明の板温制御装置は、ストリップを移動させる中央ライン速度の減速要因に応じて、減速要因の発生から解消までの中央ライン速度の減速量が最小となるように、中央ライン速度の推移を表す中央ライン速度パターンを設定する速度制御部と、中央ライン速度パターンと、任意に設定された板温目標値の推移を表す目標板温パターンおよび連続焼鈍炉に供給される燃料の燃料流量パターンとに基づいて、ストリップの板温推移を推定し、推定された推移板温が製品品質を保証可能な管理範囲内にあり、かつ燃料供給量が最少である燃料流量パターンを最適燃料流量パターンとする板温パターン制御部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ストリップの連続焼鈍炉における板温制御装置および板温制御方法に関し、より詳細には、連続焼鈍炉に通板される金属ストリップの板温が板温目標値となるように制御する板温制御装置および板温制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鋼板のような金属ストリップの製造ラインにおいて、連続焼鈍炉は、複数の金属ストリップの終端と先端とを順に繋げて一続きとしたストリップを、加熱炉を含む一連の炉に通板して連続焼鈍を行い、最終製品の機械的性質等の材質を調整するための設備である。ストリップを連続的に炉に通板させる通板速度は、板温に大きく影響し、さらには製品品質にも影響する。このため、製品品質を確保するには、操業を安定的に継続することが要求される。
【0003】
しかし、ストリップ同士の接続不備や、ストリップの巻き取り機等における操業上のトラブル等、連続焼鈍炉内におけるストリップの通板速度である中央ライン速度を減速させなければならない減速要因が発生することがある。このような中央ライン速度の減速要因が発生した場合、中央ライン速度を落とす一方で、連続焼鈍炉の前後にそれぞれ設置された入側ルーパや出側ルーパのルーパ量(ルーパのロール間のストリップの長さ)を増減させて、減速要因解消までの時間を確保して、操業を継続させている。すなわちルーパは通板のバッファとして働く。このとき、中央ライン速度を減速させることにより通板中ストリップの在炉時間が長くなるためストリップを過加熱してしまい、加熱炉の出側におけるストリップの出側板温が規定の上限値を超えてしまうことがある。そこで、減速要因が発生したときには、板温制御により加熱炉の目標炉温を低く設定することで、連続焼鈍炉の出口における板温(出側板温)を規定の範囲内に収めて通板するようにしている。
【0004】
減速要因が解消した後は、低く設定した炉温は元の目標炉温まで高められる。しかし、炉温が元の目標炉温まで上昇されるまでには所定の時間が必要であり、この間は中央ライン速度を通常の操業時の中央ライン速度に戻すことができず、生産性が低下する。したがって、中央ライン速度の減速は極力避けるべきである。
【0005】
このような問題を解決するために、例えば特許文献1には、中央ライン速度の減速開始時刻および減速要因が解消するまでの所要時間を予測して、所要時間が予め設定された設定時間より短い場合には目標板温を管理範囲上限値を超えない範囲内で管理目標値より高く設定することにより、炉温の低下を防止する技術が開示されている。また、例えば特許文献2には、トラブル発生時、通板速度を減速するとともに、発生したトラブルを解消するまでに要する作業時間の大小によって、加熱炉の炉温を炉温制御モードの選択時の炉温又は任意の炉温に保持するように燃料ガス流量を設定して炉温を一定に制御し、かつ出側板温を設定された公差内に収めるように監視する技術が開示されている。これにより、減速要因が解消した後、直ちにストリップの通板速度を急激に加速して減速前の状態に復帰させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−176746号公報
【特許文献2】特開平10−195546号公報
【特許文献3】特開平01−184233号公報
【特許文献4】特開平06−126333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1では、中央ライン速度や炉温、燃料流量、板温等に関係して状況に応じて変動する設定時間の選定が不適切であれば、燃料原単位が劣化してしまうという問題があった。また、上記特許文献2においても、トラブルを解消するまでに要する作業時間に応じて燃料ガス流量の設定値が変化するため、作業時間の選定によっては燃料原単位の悪化が生ずることもある。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、連続焼鈍炉を通板されるストリップについて、減速要因が発生したときに最適な中央ライン速度および板温目標値を柔軟に設定し、中央ライン速度の減速要因発生から中央ライン速度の回復までの燃料原単位を最適化することが可能な、新規かつ改良された連続焼鈍炉の板温制御装置および板温制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、連続焼鈍炉に通板されるストリップの板温が板温目標値となるように制御する板温制御装置が提供される。かかる板温制御装置は、ストリップを移動させる中央ライン速度の減速要因に応じて、減速要因の発生から解消までの中央ライン速度の減速量が最小となるように、中央ライン速度の推移を表す中央ライン速度パターンを設定する速度制御部と、中央ライン速度パターンと任意に設定された板温目標値の推移を表す目標板温パターンおよび連続焼鈍炉に供給される燃料の燃料流量パターンとに基づいて、ストリップの板温推移を推定し、推定された推移板温が製品品質を保証可能な管理範囲内にあり、かつ燃料供給量が最少である燃料流量パターンを最適燃料流量パターンとする板温パターン制御部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、まず、速度制御部により、減速要因発生時に中央ライン速度を極力減速させないように、中央ライン速度パターンが設定される。板温パターン制御部は、速度制御部により設定された中央ライン速度パターンと、これに対応して設定された目標板温パターンおよび燃料流量パターンより、ストリップの板温応答をシミュレーションして、減速要因の発生から当該減速要因が解消されるまでの板温の推移を取得する。そして、板温パターン制御部は、推定された推移板温より、製品品質を保証可能な管理範囲内にあり、かつ燃料供給量が最少となる燃料流量パターンを最適燃料流量パターンとする。このように、連続焼鈍炉へ供給する燃料供給量を決定することにより、減速要因解消時から通常の操業状態への回復を早めることができるので、生産量の減少を抑えることができ、燃料消費量も低減することができる。
【0011】
ここで、板温パターン制御部は、中央ライン速度パターンに対応する、板温目標値の推移を表す目標板温パターンを複数設定する目標板温パターン設定部と、各目標板温パターンについて、連続焼鈍炉に供給される燃料の燃料流量パターンを変化させて、ストリップの板温推移を推定する板温推定部と、各目標板温パターンについて、板温推定部による板温推移の推定結果に基づいて、板温実績値に追従する燃料流量パターンのうち一の燃料流量パターンを目標板温パターンの局所燃料流量パターンとする局所燃料流量パターン探索部と、各目標板温パターンの局所燃料流量パターンのうち、推定された板温が管理範囲内にあり、かつ燃料供給量が最少である局所燃料流量パターンを最適燃料流量パターンに決定する最適燃料流量パターン決定部と、を備えるように構成することができる。
【0012】
また、目標板温パターン設定部は、減速要因の発生時から解消予定時までの間において、板温目標値を、通常操業時の板温目標値よりも高く、かつ前記管理範囲内の温度に設定してもよい。
【0013】
さらに、局所燃料流量パターン探索部は、板温推定部による板温推移の推定結果と、板温目標値との差が最小となる燃料流量パターンを、局所燃料流量パターンとするようにしてもよい。
【0014】
また、最適燃料流量パターン決定部は、各目標板温パターンの局所燃料流量パターンのうち、推定された板温が管理範囲内である局所燃料流量パターンを抽出し、抽出した局所燃料流量パターンについて、燃料供給量が最小である局所燃料流量パターンを最適燃料流量パターンに決定するようにしてもよい。
【0015】
さらに、速度制御部は、減速要因を解消するまでに連続焼鈍炉の調整機構により中央ライン速度の減速が不要である調整可能時間を考慮して、最小となる中央ライン速度の減速量を算出してもよい。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、連続焼鈍炉に通板されるストリップの板温が板温目標値となるように制御する板温制御方法が提供される。かかる板温制御方法は、ストリップを移動させる中央ライン速度の減速要因に応じて、減速要因の発生から解消までの中央ライン速度の減速量が最小となるように、中央ライン速度の推移を表す中央ライン速度パターンを設定するステップと、中央ライン速度パターンと、任意に設定された板温目標値の推移を表す目標板温パターンおよび連続焼鈍炉に供給される燃料の燃料流量パターンとに基づいて、ストリップの板温推移を推定するステップと、推定された推移板温が製品品質を保証可能な管理範囲内にあり、かつ燃料供給量が最少である燃料流量パターンを最適燃料流量パターンとするステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、連続焼鈍炉を通板されるストリップについて、減速要因が発生したときに最適な中央ライン速度および板温目標値を柔軟に設定し、中央ライン速度の減速要因発生から中央ライン速度の回復までの燃料原単位を最適化することが可能な連続焼鈍炉の板温制御装置および板温制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る連続焼鈍設備の概略構成を示す説明図である。
【図2】同実施形態に係る板温制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】同実施形態に係る板温制御装置を用いた板温制御方法を示すフローチャートである。
【図4】中央ライン速度の減速下限値を決定する処理を示すフローチャートである。
【図5】板温目標値のパターンの一例を示す説明図である。
【図6】各目標板温パターンにおける最適燃料流量パターンの決定方法を示すフローチャートである。
【図7】一の板温目標パターンに対して設定された燃料流量パターンおよび加熱炉シミュレータにより推定された予測板温の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
[連続焼鈍設備の概略構成]
まず、金属ストリップの一例として鋼板を取り上げて、図1に基づいて、本発明の実施形態に係る板温制御装置100によって板温制御するストリップの連続焼鈍設備1の概略構成について説明する。なお、図1は、本実施形態に係る連続焼鈍設備1の一例の概略構成を示す説明図である。
【0021】
図1に示す連続焼鈍設備1は、溶接機10と、酸洗設備20と、焼鈍炉40と、焼鈍炉40の前後に設置された入側ルーパ30および出側ルーパ50と、スキンパスミル(調質圧延機。以下、「SPM」とする。)60と、からなる。
【0022】
溶接機10は、連続焼鈍設備1のライン入口から連続的に供給されるストリップ5について、先に供給されたストリップ5の終端と、その次に供給されたストリップ5の先端とを溶接する。このように一続きにされたストリップ5は、酸洗設備20へ移送されて洗浄された後、入側ルーパ30を介して焼鈍炉40へ移送される。入側ルーパ30は、焼鈍炉40へ供給するストリップ5の供給量を調節する装置である。連続焼鈍設備1においてストリップ5は通板用の搬送ロールによって駆動される。ストリップ5の通板速度はラインの要所に複数配設された、例えばPLG(回転計:Pulse Generator、図示せず。)により測定される。
【0023】
焼鈍炉40は、燃料ガスが流入されるラジアントチューブ(図示せず。)からの輻射熱により炉壁内を通過するストリップ5を加熱する加熱炉41と、加熱炉41により加熱されて徐々に昇温したストリップ5を所定温度に保持する均熱炉42と、加熱炉41および均熱炉42において加熱されたストリップ5を冷却する冷却炉43と、過時効帯44とからなる。焼鈍炉40に供給されたストリップ5は、複数のロールにより焼鈍炉内を移送されて、所定の機械的品質を備えるように熱処理が行われる。加熱炉41の入側および出側にそれぞれ配設された入側温度計46および出側温度計45により、ストリップ5の板温が測定される。
【0024】
焼鈍炉40により熱処理されたストリップ5は、出側ルーパ50にて繰り出し量が調整されて、SPM60へ移送される。SPM60は、ストリップ5を調質圧延して、熱処理されたストリップ5を巻き取るリールへ移送する。
【0025】
本実施形態に係る連続焼鈍設備では、焼鈍炉40内でのストリップ5を移送する速度(中央ライン速度)が何らかの減速要因によって減速しなければならない場合に、ストリップ5の製品品質を保持しつつ中央ライン速度を極力減速させないように、製品品質を保証可能な所定の温度範囲内に板温を制御する板温制御装置100を備える。本実施形態に係る板温制御装置100は、減速要因が解消するまでの所要時間の区間における減速時中央ライン速度を設定して、時間に関する中央ライン速度の推移パターンである中央ライン速度パターンを作成する。そして、板温制御装置100は、中央ライン速度パターンに対して、任意の目標板温パターンおよび燃料流量パターンを設定した場合の板温応答のシミュレーションを実施する。板温制御装置100は、当該シミュレーションにより、板温が製品品質を保証できる予め設定した管理範囲内であり、かつ燃料消費量が最少である目標板温パターンおよび燃料流量パターンを、加熱炉41の実際の板温制御に用いる制御情報として決定して、中央ライン速度および燃料流量を制御する。
【0026】
以下、図2〜図7に基づいて、本実施形態に係る板温制御装置100の構成とその機能について詳細に説明する。なお、図2は、本実施形態に係る板温制御装置100の構成を示すブロック図である。図3は、本実施形態に係る板温制御装置100を用いた板温制御方法を示すフローチャートである。図4は、中央ライン速度の減速下限値(減速時中央ライン速度)を決定する処理を示すフローチャートである。図5は、板温目標値のパターンの一例を示す説明図である。図6は、各目標板温パターンにおける最適燃料流量パターンの決定方法を示すフローチャートである。図7は、一の板温目標パターンに対して設定された燃料流量パターンおよび加熱炉シミュレータ124により推定された予測板温の一例を示す説明図である。
【0027】
[板温制御装置の構成]
板温制御装置100は、加熱炉41へ供給する燃料流量を決定して、最適な板温制御を行う装置であって、図2に示すように、速度制御部110と、板温パターン制御部120とから構成される。
【0028】
速度制御部110は、入側ルーパ30および出側ルーパ50のルーパ量の制約等を考慮して、減速要因発生時におけるストリップ5を通板する中央ライン速度の推移パターン(中央ライン速度パターン)を生成する。速度制御部110は、中央ライン速度を減速しなければならない減速要因および減速要因解消までに要する所要時間に基づき、所要時間を確保するための中央ライン速度の最低減速速度(減速時中央ライン速度)を決定する。なお、減速時中央ライン速度の決定方法については、後述する。速度制御部110で設定された減速時中央ライン速度に基づいて、ストリップ5を通板する搬送ロールの駆動モータの回転速度がモータ速度制御器により制御される(例えば特許文献4を参照)。
【0029】
板温パターン制御部120は、予め推定されている減速要因解消までに要する所要時間に基づいて、複数の目標板温パターンを生成する。そして、板温パターン制御部120は、各目標板温パターンについて、予測される板温の推移パターンおよび加熱炉41に供給する燃料流量パターンを推定し、これらのうち、板温が製品品質を保証できる管理範囲の下限値を下回ることがなく、かつ燃料消費量が最小となる目標板温パターンを選択する。選択された目標板温パターンに基づき、加熱炉41に燃料が供給される。このような板温パターン制御部120は、パターン設定部122と、加熱炉シミュレータ124と、局所燃料流量パターン探索部126と、最適燃料流量パターン決定部128とからなる。
【0030】
パターン設定部122は、所要時間の区間において、あるタイミングで通常操業時の温度よりも高い温度に板温目標値を設定し、減速要因解消予定時刻(すなわち、所要時間区間の最後)で板温目標値を通常操業時の温度に戻す目標板温パターンをN個生成する。すなわち、図5に示すように、N個の目標板温パターンは、通常操業時の温度よりも高い温度に板温目標値を設定するタイミングが異なり、板温目標値を通常操業時よりも高く設定する時間が相違する。なお、通常操業時よりも高い温度とは、製品品質を保証可能な管理範囲内の温度であって、例えば、管理範囲の上限値とすることができる。
【0031】
また、パターン設定部122は、設定された複数Nの目標板温パターンに対して、加熱炉シミュレータ124による板温推定に用いる燃料流量パターンを設定する。パターン設定部122は、例えば、後述するように、加熱炉シミュレータ124による板温応答のシミュレーション結果に基づいて、燃料流量パターンを更新していくことにより、図7に例を示すような複数の燃料流量パターンを作成することができる。
【0032】
加熱炉シミュレータ124は、目標板温パターン、燃料流量パターン、および中央ライン速度パターンを入力データとして、これらの操業条件における将来の加熱炉41内のストリップの板温推移を、予め設定された加熱炉41の燃焼および伝熱モデル式により演算して推定する。この燃焼および伝熱モデル式としては、例えば特許文献3に記載されているような定式を用いてもよい。すなわち、加熱炉シミュレータ124は、パターン設定部122により設定された複数Nの目標板温パターンそれぞれについて、燃料流量パターンを変化させて演算し、予測される板温の推移をシミュレーションにより推定する板温推定部として機能する。この基本的な考え方を次に説明する。
【0033】
従来の板温制御では、通常、中央ライン速度の変化に伴い、加熱炉41の温度が調整され、結果として板温が所定の板温目標値となるように制御される。このため、板温目標値が一定であるとき、中央ライン速度が減速すると、ストリップ5の炉内滞在時間が長くなり、板温が板温目標値よりも高くなる。そこで、本発明においては、板温を設定された板温目標値とするために、加熱炉41に供給する燃料流量を減少させて加熱炉41の温度を低くする。一方、中央ライン速度が加速すると、加熱炉41に供給する燃料流量を増加させて加熱炉41の温度を高くする。このような板温制御の基本的な考えに基づき、加熱炉シミュレータ124は、目標板温パターン、燃料流量パターンおよび中央ライン速度パターンに基づいて、加熱炉41の炉温の板温制御を行った場合に予測される板温の推移パターンを取得する。
【0034】
局所燃料流量パターン探索部126は、各目標板温パターンにおいて、燃料流量パターンを変化させて加熱炉シミュレータ124により推定した予測板温と目標板温パターンとの誤差二乗和を評価し、その大きさが許容範囲に収まる局所最適燃料流量パターンを探索する。局所最適燃料流量パターンは、加熱炉41の板温制御値として用いる最適燃料流量パターンの候補として最適燃料流量パターン決定部128へ出力される。また、局所燃料流量パターン探索部126は、燃料流量パターンを修正するための修正情報をパターン設定部122へ出力する。
【0035】
最適燃料流量パターン決定部128は、各目標板温パターンについて決定された局所最適燃料流量パターンから、最も燃料流量の少ない局所最適燃料流量パターンを最適燃料流量パターンとして決定する。そして、最適燃料流量パターン決定部128は、最適燃料流量パターンのうち次の制御タイミングの燃料流量設定値1点を加熱炉41の燃料流量設定器(図示せず。)へ出力する。加熱炉41は、最適燃料流量パターン決定部128より受けた燃料流量設定値に基づいて、流量調整弁等を燃料流量制御器による流量制御を行う(例えば特許文献3を参照)。
【0036】
実績収集部70は定周期で、PLGで構成された通板速度センサ(図示せず。)による速度実績値を基に入側ルーパ30あるいは出側ルーパ50のルーパ残量を計算し、予測される減速要因時間や入側板温計および出側板温計からの実績板温値等を取得して、板温制御装置100へ出力する。板温制御装置100は、各種センサにより測定され実績収集部70から入力された各種の操業情報を用いてシミュレーションを行い、加熱炉41への燃料流量設定を行うための最適燃料流量パターンを更新する。
【0037】
[板温制御方法]
次に、上述した板温制御装置100による板温制御方法について説明する。なお、本実施形態に係る板温制御方法においては、減速要因を解消するまでに必要な時間(所要時間)は、別途に既存の手法またはオペレータにより推定されているものとする。また、板温制御装置100は、Nステップ先の制御タイミングでの板温を推定可能であるとする。
【0038】
本実施形態に係る板温制御方法は、図3に示すように、速度制御部110により中央ライン速度パターンを設定する段階と、設定された中央ライン速度パターンに基づき、最適燃料流量パターンを決定する段階との2つの段階に大別できる。
【0039】
まず、連続焼鈍設備1において減速要因が発生すると、連続焼鈍設備1に設置されたPLG等の通板速度センサ、LAN等またはオペレータによる減速要因発生に関する情報入力に基づき、速度制御部110は、減速要因が解消されるまでの時間(所要時間)を確保するための中央ライン速度パターンを作成する(ステップS100)。速度制御部110は、例えばボタンスイッチやキーボード等の入力装置によるオペレータからの入力や、連続焼鈍設備1を含む製造ラインを管理する管理機構(例えばプロセスコンピュータ)からの入力によって所要時間を取得することができる。速度制御部110は、減速要因発生時刻から減速要因解消予定時刻までの間は、中央ライン速度を通常操業時の速度よりも遅い一定の速度(減速時中央ライン速度)でストリップ5を移動させるように設定する。通常操業時の速度から減速時中央ライン速度への減速、および減速時中央ライン速度から通常操業時の速度への加速は、連続焼鈍設備1の性能より変化させることの可能な最短時間で行うものとする。なお、本実施形態では、中央ライン速度の減速および加速は、等加速度で行うものとして中央ライン速度パターンを設定するが、本発明はかかる例に限定されない。
【0040】
中央ライン速度を減速させたときの速度である減速時中央ライン速度は、例えば、図4に示すフローチャートの処理にしたがって設定することができる。まず、速度制御部110は、連続焼鈍設備1における減速要因の発生箇所を取得する(ステップS200)。減速要因が発生する箇所としては、設備の入側、出側、そして炉内が考えられる。例えば、入側で発生する減速要因としては、ストリップ5の溶接不備等が考えられ、出側で発生する減速要因としては、ストリップ5を巻き取る際の操業上のトラブル等が考えられる。また、炉内で発生する減速要因としては、炉温調節不能のトラブル等がある。速度制御部110は、連続焼鈍設備1で発生している減速要因から、設備のどの箇所で減速要因が発生しているかを取得する。
【0041】
設備の入側で減速要因が発生している場合、速度制御部110は、入側ルーパ30の制約を考慮して中央ライン速度の減速量を算出し、減速時中央ライン速度を設定する(ステップS202)。設備の入側で減速要因が発生した場合には、入側ルーパ30でルーパ量(ルーパのロール間のストリップ5の長さ)を増減させて調節し、減速要因解消までの時間を確保するが、入側ルーパ30で確保可能な時間には限界がある。通常、ルーパの残量(ルーパ量実績値)は管理されており、本実施形態においても既知のルーパ残量管理方法を適用して、ルーパの残量を取得することができる。ルーパ残量管理方法においては、速度減速によって変動した通板量が、現在のルーパ容量を限界まで消費する量(ルーパ量実績値とルーパ消費限界量の差)と同値となるように処理される。すなわち、ルーパを可能な限り使用して減速要因を解消するために要する時間を確保し、極力中央ライン速度を減速させないようにする。
【0042】
このような入側ルーパ30によるルーパ量の制約を考慮して、例えば以下のように減速時中央ライン速度を算出することができる。ここで、入側ルーパ30の制約を受けた場合の中央ライン速度をViとする。また、入側ルーパ残量をli、入側ルーパ必要残量をLimin、減速要因を解消するために要する時間(所要時間)をT、通常操業時の速度から減速時中央ライン速度へ減速するまでの減速時間をα、減速時中央ライン速度から通常操業時の速度へ加速するまでの加速時間をβとする。このとき、中央ライン速度Viは、下記数式1により算出することができる。
Vi=(li−Limin)/(T+α+β) ・・・(数式1)
数式1では、時間調整のために使用可能なルーパ量を、中央ライン速度を通常の操業時より減速させている時間で除することにより、中央ライン速度Viを算出している。
【0043】
一方、設備の出側で減速要因が発生している場合、速度制御部110は、出側ルーパ50の制約を考慮して中央ライン速度の減速量を算出し、減速時中央ライン速度を設定する(ステップS204)。設備の出側で減速要因が発生した場合には、出側ルーパ50でルーパ量を増減させて調節し、減速要因解消までの時間を確保する。かかる場合にも設備の入側で減速要因が発生している場合と同様にルーパ残量が管理されており、ルーパを可能な限り使用して減速要因を解消するための所要時間を確保し、極力中央ライン速度を減速させないようにする。
【0044】
出側ルーパ50のルーパ量に関する制約を考慮して、例えば以下のように減速時中央ライン速度を算出することができる。出側ルーパ50の制約を受けた場合の中央ライン速度をVo、出側ルーパ残量をlo、出側ルーパ蓄積限界量をLomaxとしたとき、中央ライン速度Voは、下記数式2により算出することができる。数式2も、数式1と同様に、時間調整のために使用可能なルーパ量を、中央ライン速度を通常の操業時より減速させている時間で除することにより、中央ライン速度Voを算出している。
Vo=(Lomax−lo)/(T+α+β) ・・・(数式2)
【0045】
また、炉内で減速要因が発生している場合には、その減速要因に応じて中央ライン速度が決定される(ステップS206)。炉内で減速要因が発生している場合には、減速要因を解消するための時間をルーパ等で確保することができないため、中央ライン速度を減速せざるを得ない。したがって、炉内で減速要因が発生している場合には、その減速要因によってオペレータの設定入力によるか、または予めテーブル形式で設定しておく減速すべき速度に中央ライン速度が設定される。
【0046】
このように、減速時中央ライン速度は、減速要因の発生箇所に応じて設定される。なお、複数の箇所において減速要因が発生している場合には、発生箇所ごとに中央ライン速度を算出し、算出した速度のうち最小のものを減速時中央ライン速度として設定する。例えば、設備の入側と出側とにおいて減速要因が発生している場合には、速度制御部110は、ステップS202およびS204の処理を行い、速度Vi、Voを算出する。そして、速度Vi、Voのうち小さい方を減速時中央ライン速度とする。また、減速時中央ライン速度は、中央ライン速度の上限を超えないように設定される。なお、上記の数式1、数式2に示した中央ライン速度の算出方法は一例であって、連続焼鈍設備1および周辺設備における通板設備の構成による制約を考慮して設定すればよい。
【0047】
減速時中央ライン速度が設定されると、速度制御部110は、上述したように中央ライン速度パターンV(τ,*)を作成する。作成される中央ライン速度パターンは、図5に示すように、減速時間αの間に等加速で通常の操業時の速度から減速時中央ライン速度まで減速させ、減速要因発生時刻から減速要因解消予定時刻までの所要時間Tの間は減速時中央ライン速度とし、減速要因解消予定時刻から加速時間βの間に等加速で減速時中央ライン速度から通常の操業時の速度まで加速するようになる。そして、速度制御部110は、板温制御シミュレーションにおいて考慮する、現在時刻τから所定の時間t後までの区間を切り出し、中央ライン速度パターンV(τ,t)を設定する(ステップS102)。なお、図5に示した中央ライン速度パターンVでは、等速から等加速度への切り替え時に加速度が急変するが、加速度を徐々に切り替えるようにしてもよい。いずれにしても、中央ライン速度パターンを設定するための基本的速度パターンを予め設定しておくとよい。
【0048】
以上のように、本実施形態に係る板温制御方法では、減速要因発生のために中央ライン速度を減速させる減速量を極力低減させるような中央ライン速度パターンが設定される。これにより、減速要因が解消した後、通常の操業時の中央ライン速度に復旧するまでの時間を短縮することができるので、生産量の低減を抑えることができる。
【0049】
次いで、板温パターン制御部120により、速度制御部110にて設定された中央ライン速度パターンに基づき、最適燃料流量パターンを決定する処理が行われる。まず、パターン設定部122は、中央ライン速度パターンの所要時間Tの区間において、図5に示したようにN個のタイミングより板温制御の板温目標値を通常の操業時における板温目標値よりも高くする目標板温パターンをN個作成する(ステップS104)。
【0050】
例えば、板温目標値を通常(減速要因がないとき)の操業時の温度に固定した場合、中央ライン速度パターンにしたがって中央ライン速度が減速されると加熱炉41内のスリップの滞在時間が長くなるので、炉温を低くするため燃料供給量も減少される。しかし、燃料供給量の変化に炉温が追従して変化するときに、炉の熱容量により時間差(遅れ)がある。このため、ストリップ5の板温も、燃料供給量が変化してもすぐには変化せず、時間差をもって応答する。したがって、中央ライン速度を減速要因解消後に減速時中央ライン速度から通常の操業時の速度に最短時間で戻した場合、燃料供給量を増加させるタイミングが遅れると、板温が管理範囲外に低下する可能性がある。そこで、所要時間の区間内の減速要因解消予定時刻よりも前に板温目標値を高く設定して、燃料供給量を増加させる。
【0051】
N個の目標板温パターンは、例えば、所要時間Tの区間をN等分し、各分割点を板温目標値を上昇させるタイミングに設定して作成することができる。板温目標値の上昇区間ΔTが長くなるにつれて、燃料の供給量はさらに増加することになる。なお、板温目標値を上昇させたときの温度は、例えば製品品質を保証できる管理範囲の上限値とすることができる。こうして、図5に示すような板温目標値の上昇区間ΔTの異なる、板温目標値の変化を表す目標板温パターンがN個作成される。なお、所要時間Tの区間の分割方法としては、予め上記N値を設定しておく方法の他、分割区間幅dTを設定しておいてもよい。この場合N値は所要時間をdTで除算して決められる。
【0052】
目標板温パターンが作成されると、パターン設定部122は、第1の目標板温パターン(例えば、図5のパターン1)TSo(1)を用意し(ステップS106)、第1の目標板温パターンに対して最適な燃料流量パターン(局所最適燃料流量パターン)FLを計算する(ステップS108)。ここで、図6に、各目標板温パターンにおける局所最適燃料流量パターンの決定方法を示す。
【0053】
まず、パターン設定部122は、第1の目標板温パターンについて、燃料流量パターンを設定する(ステップS300)。ここで、パターン設定部122は、初回のシミュレーションにおいては予め設定された燃料流量パターンを用い、2回目以降のシミュレーションにおいてはその前のシミュレーションにて用いた燃料流量パターンを更新したものを燃料流量パターンとして用いる。パターン設定部122は、第1の目標板温パターンおよびこれに対応する燃料流量パターンを、加熱炉シミュレータ124へ出力する。
【0054】
次いで、加熱炉シミュレータ124は、第1の目標板温パターン、燃料流量パターン、および中央ライン速度パターンに基づいて、これらの操業条件における将来の板温推移を推定する(ステップS302)。板温の推移が推定されると、局所燃料流量パターン探索部126は、目標板温パターンについてのシミュレーションを終了するか否かを判定する(ステップS304)。シミュレーションの終了条件は、後述するように、評価関数Jt(数式4)を計算し、この評価関数Jtが許容範囲内に入るようになることとすることができる。
【0055】
シミュレーションの終了条件を満たさない場合には、局所燃料流量パターン探索部126は、パターン設定部122に対して、シミュレーションに用いる燃料流量パターンを次の燃料流量パターンに修正し、板温応答のシミュレーションを行うように指示する(ステップS306)。そして、シミュレーションの終了条件を満たすまで、ステップS300〜S306の処理を繰り返す。このような処理により、例えば図7に示すパターン2、・・・、パターンn−1、パターンnのような、燃料流量パターンおよび加熱炉シミュレータ124により推定された予測板温の推移パターンが得られる。
【0056】
一方、シミュレーションの終了条件を満たした場合、局所燃料流量パターン探索部126は、シミュレーションの終了条件を満たした燃料流量パターンを当該目標板温パターンにおける最適な燃料流量パターン(局所燃料流量パターン)として決定する(ステップS308)。
【0057】
このようにして、各目標板温パターンにおける最適燃料流量パターンを決定することができる。ここで、図6に示したある目標板温パターンに対する局所最適燃料流量パターンの設定方法の一例を説明する。ここでは、燃料流量が板温偏差および中央ライン速度により表される下記数式3を用いて算出されるものとする。
FL(t+1)=a×(TSo(t)−TS(t))+b×V(t)
・・・(数式3)
なお、TSo(t)は時刻tにおける板温目標値、TS(t)は時刻tにおける実績板温、V(t)は時刻tにおける中央ライン速度、aは板温偏差に係る係数、bは中央ライン速度に係る係数である。
【0058】
初回のシミュレーションにおいては、係数a、bには任意の値が設定されており、TS(t)には予測板温Tsimが用いられる。これより、パターン設定部122は、初回のシミュレーション時の燃料流量パターンを求め、加熱炉シミュレータ124へ出力する。その後、パターン設定部122は、局所燃料流量パターン探索部126を介して加熱炉シミュレータ124による板温応答のシミュレーション結果を受け取り、上記数式3の係数a、bを修正する。係数a、bの修正は、例えば下記数式4に示す評価関数Jtが小さくなる方向に設定するように行われる。数式4に示す評価関数では、目標板温とシミュレーションの板温との差の大きさを評価している。
Jt=Σ(TSo(t)−Tsim(t)) ・・・(数式4)
パターン設定部122は、修正された係数a、bを用いて燃料流量パターンを修正し、修正後の燃料流量パターンを用いて次の板温応答のシミュレーションが行われる。
【0059】
シミュレーションの終了条件としては、例えば評価関数Jtの値が所定の値以下となったときとすることができる。この場合、評価関数Jtの値が所定の値以下となったときの燃料流量パターンが局所最適燃料流量パターンとなる。なお、上記説明では、評価関数Jtが所定の値以下に収束したときの燃料流量パターンFLを局所最適燃料流量パターンとしたが、本発明はかかる例に限定されない。各目標板温パターンに対して設定される一の燃料流量パターンについては最適性は必ずしも必要ではなく、単純に評価関数の係数a、bを記憶するテーブル(図示せず。)を参照して設定してもよい。また、既存の他の燃料流量パターンの算出方法を用いてもよい。
【0060】
図3に戻り、目標板温パターン1について局所最適燃料流量パターンが決定されると、局所燃料流量パターン探索部126は、当該局所最適燃料流量パターンにより板温制御したときのシミュレーション結果から、板温が板温公差から外れているか否かを判定する(ステップS110)。燃料消費量を削減することは望ましいが、板温が板温公差外となると所望の品質を得ることができず、製品として使用することができなくなる。このような理由より、当該判定が行われる。すなわち、かかる判定により、管理範囲下限値を下回ることがなく、かつ燃料流量が最少の燃料流量パターンを特定することができる。
【0061】
板温が板温公差から外れている場合には、本目標板温パターンの局所最適燃料流量パターンを実際の加熱炉41の操業において設定する候補から除外する(ステップS112)。一方、板温が板温公差内である場合には、本目標板温パターンの局所最適燃料流量パターンを設定候補として、評価関数Jを計算する(ステップS114)。当該評価関数Jは、燃料消費量の大小を評価するために設定されており、例えば、下記数式5で表わされる。
J=ΣQ(t)FL(t) ・・・(数式5)
ここで、FL(t)は燃料流量であり、Q(t)は重みパラメータである。重みパラメータは、例えば指数平滑等を用いて直近の値に重きを置き、予測誤差の影響が軽減されるように設定することができる。評価関数Jは、燃料消費量が少ないほど小さい値を示す。局所燃料流量パターン探索部126は、計算した評価関数Jの値を最適燃料流量パターン決定部128へ出力する。
【0062】
その後、局所燃料流量パターン探索部126は、全目標板温パターンについて局所最適燃料流量パターンを計算したか否かを判定する(ステップS116)。そして、未計算の目標板温パターンがある場合には、次の目標板温パターンを用意して(ステップS118)、ステップS108からの処理を繰り返す。
【0063】
一方、すべての目標板温パターンについてステップS108〜S114の処理を終えた場合には、最適燃料流量パターン決定部128により、設定候補とされた局所燃料流量パターンのうち評価関数Jが最小である局所燃料流量パターンを最適燃料流量パターンFLoとして採用する(ステップS120)。上述したように、評価関数Jは燃料消費量の大小を評価するためのものであり、板温を板温公差内に収めることのできる局所燃料流量パターンのうち、評価関数Jが最小となる局所燃料流量パターンが燃料消費量が最小である燃料流量パターンということになる。そして、最適燃料流量パターンFLoより、現時点より1ステップ先の燃料流量設定値FLo(τ+1)を加熱炉41へ出力する(ステップS122)。
【0064】
加熱炉41の燃料流量制御器は、板温制御装置100の最適燃料流量パターン決定部128から入力される燃料流量設定値に基づいて、燃料流量調整弁により燃料流量を制御して加熱炉41を加熱する。そして、実績収集部70は、定周期で、ルーパ残量や減速要因を解消するための所要時間、実績板厚、実績板温等の実績情報を収集して、板温制御装置100へ出力する。このように、所定のタイミングで板温制御のシミュレーションを行い、最適な燃料流量パターンを取得して、加熱炉41の炉温を調整する。これにより、中央ライン速度を極力減速させることなく、加熱炉41を通過するストリップ5の板温を管理範囲内に収めることができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態に係る板温制御装置100およびこれを用いた板温制御方法について説明した。本実施形態によれば、減速要因を解消するための所要時間における中央ライン速度の減速量を最小にする中央ライン速度パターンを作成するとともに、作成された中央ライン速度パターンに対する板温応答のシミュレーション結果を踏まえて、板温が板温公差から外れることなく、かつ燃料原単位が最小となる板温制御の操作量を決定することができる。これにより、減速要因による生産量の減少を抑制することが可能となる。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0067】
例えば、上記実施形態では、パターン設定部122は複数の目標板温パターンをまとめて設定し、設定したすべての目標板温パターンについてシミュレーションを実施したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、推定された推移板温が製品品質を保証可能な管理範囲内にあり、かつ燃料供給量が所定の基準値以下である燃料流量パターンが取得されるまで、その都度目標板温パターンを設定して板温応答のシミュレーションを繰り返し行ってもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、ステップ状の目標板温パターンを作成したが、本発明はかかる例に限定されない。目標板温パターンは、減速要因が発生してから解消されるまでの所要時間において、減速要因解消予定時刻よりも前に板温目標値が高く設定されるパターンであればよく、板温目標値の推移の仕方は任意に設定できる。
【符号の説明】
【0069】
1 連続焼鈍設備
5 ストリップ
10 溶接機
20 酸洗設備
30 入側ルーパ
40 焼鈍炉
45 出側温度計
46 入側温度計
50 出側ルーパ
60 SPM(スキンパスミル)
70 実績収集部
100 板温制御装置
110 速度制御部
120 板温パターン制御部
122 パターン設定部
124 加熱炉シミュレータ
126 局所燃料流量パターン探索部
128 最適燃料流量パターン決定部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続焼鈍炉に通板されるストリップの板温が板温目標値となるように制御する板温制御装置であって、
前記ストリップを移動させる中央ライン速度の減速要因に応じて、前記減速要因の発生から解消までの前記中央ライン速度の減速量が最小となるように、前記中央ライン速度の推移を表す中央ライン速度パターンを設定する速度制御部と、
前記中央ライン速度パターンと、任意に設定された板温目標値の推移を表す目標板温パターンおよび前記連続焼鈍炉に供給される燃料の燃料流量パターンとに基づいて、前記ストリップの板温推移を推定し、推定された推移板温が製品品質を保証可能な管理範囲内にあり、かつ燃料供給量が最少である前記燃料流量パターンを最適燃料流量パターンとする板温パターン制御部と、
を備えることを特徴とする、板温制御装置。
【請求項2】
前記板温パターン制御部は、
前記中央ライン速度パターンに対応する、板温目標値の推移を表す目標板温パターンを複数設定する目標板温パターン設定部と、
前記各目標板温パターンについて、前記連続焼鈍炉に供給される燃料の燃料流量パターンを変化させて、前記ストリップの板温推移を推定する板温推定部と、
前記各目標板温パターンについて、前記板温推定部による前記板温推移の推定結果に基づいて、板温実績値に追従する燃料流量パターンのうち一の前記燃料流量パターンを前記目標板温パターンの局所燃料流量パターンとする局所燃料流量パターン探索部と、
前記各目標板温パターンの局所燃料流量パターンのうち、推定された板温が前記管理範囲内にあり、かつ燃料供給量が最少である前記局所燃料流量パターンを最適燃料流量パターンに決定する最適燃料流量パターン決定部と、
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の板温制御装置。
【請求項3】
前記目標板温パターン設定部は、前記減速要因の発生時から解消予定時までの間において、前記板温目標値を、通常操業時の板温目標値よりも高く、かつ前記管理範囲内の温度に設定することを特徴とする、請求項2に記載の板温制御装置。
【請求項4】
前記局所燃料流量パターン探索部は、前記板温推定部による板温推移の推定結果と、板温目標値との差が最小となる燃料流量パターンを、前記局所燃料流量パターンとすることを特徴とする、請求項2または3に記載の板温制御装置。
【請求項5】
前記最適燃料流量パターン決定部は、
前記各目標板温パターンの局所燃料流量パターンのうち、推定された板温が前記管理範囲内である前記局所燃料流量パターンを抽出し、
抽出した前記局所燃料流量パターンについて、燃料供給量が最小である前記局所燃料流量パターンを前記最適燃料流量パターンに決定することを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の板温制御装置。
【請求項6】
前記速度制御部は、前記減速要因を解消するまでに前記連続焼鈍炉の調整機構により前記中央ライン速度の減速が不要である調整可能時間を考慮して、最小となる前記中央ライン速度の減速量を算出する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の板温制御装置。
【請求項7】
連続焼鈍炉に通板されるストリップの板温が板温目標値となるように制御する板温制御方法であって、
前記ストリップを移動させる中央ライン速度の減速要因に応じて、前記減速要因の発生から解消までの前記中央ライン速度の減速量が最小となるように、前記中央ライン速度の推移を表す中央ライン速度パターンを設定するステップと、
前記中央ライン速度パターンと、任意に設定された板温目標値の推移を表す目標板温パターンおよび前記連続焼鈍炉に供給される燃料の燃料流量パターンとに基づいて、前記ストリップの板温推移を推定するステップと、
推定された前記推移板温が製品品質を保証可能な管理範囲内にあり、かつ燃料供給量が最少である前記燃料流量パターンを最適燃料流量パターンとするステップと、
を含むことを特徴とする、板温制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−157590(P2011−157590A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20162(P2010−20162)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】