説明

連続発酵による化学品の製造方法

【課題】分離膜を用いて発酵により連続的に化成品を製造する連続発酵装置において、濁質濃度の高い発酵液についてクロスフロー濾過を効率的に行い、かつ発酵の安定化、運転コストを大幅に低減する連続発酵の運転方法を提供する。
【解決手段】分離膜2の一次側に供給する発酵液の圧力を、変動させることを特徴とする連続発酵装置の運転方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜を用いて発酵により連続的に化学品を製造する連続発酵装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物や培養細胞の培養を伴う物質生産方法である発酵法は、大きく(1)回分発酵法(Batch発酵法)および流加発酵法(Fed−Batch発酵法)と、(2)連続発酵法とに分類することができる。
【0003】
上記(1)の回分発酵法および流加発酵法は、設備的には簡素であり、短時間で培養が終了し雑菌汚染による被害が少ないという利点がある。しかしながら、時間経過と共に発酵培養液中の化学品濃度が高くなり、浸透圧あるいは化学品阻害等の影響により生産性および収率が低下してくる。そのため、長時間にわたり安定して高収率かつ高生産性を維持することが困難である。
【0004】
また、上記(2)の連続発酵法は、発酵槽内で目的化学品が高濃度に蓄積することを回避することによって、長時間にわたって高収率かつ高生産性を維持できるという特徴がある。この連続発酵法については、L−グルタミン酸やL−リジンの発酵についての連続培養法が開示されている(非特許文献1参照)。しかしながら、この例では、発酵培養液に原料の連続的な供給を行うと共に、微生物や培養細胞を含んだ発酵培養液を抜き出すために、発酵培養液中の微生物や培養細胞が希釈されることから、生産効率の向上は限定されたものであった。
【0005】
そこで、連続発酵法において、微生物や培養細胞を分離膜で濾過し、濾液から化学品を回収すると同時に濃縮液中の微生物や培養細胞を発酵培養液に保持または還流させることにより、発酵培養液中の微生物や培養細胞濃度を高く維持する方法が提案されている。例えば、分離膜として有機高分子からなる平膜を用いた連続発酵装置において、連続発酵する技術が提案されている。(特許文献1参照)。
【0006】
一方、分離膜については、上述したよう発酵分野への適用を含め、飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野、食品工業分野等様々な方面で利用されている。飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野においては、分離膜が従来の砂ろ過、凝集沈殿過程の代替として水中の不純物を除去するために用いられている。浄水処理や排水処理などの水処理分野においては、処理水量が大きいため、透水性能の向上が求められており、透水性能が優れている分離膜で膜面積を減らし、膜面積あたりの設置面積が小さい中空糸膜モジュールやスパイラル式モジュールを使用することで、装置のコンパクト化、設備費および膜交換費の低減を試みている。
【0007】
これより、より効率的な連続発酵による生産を行うために、膜面積あたりの設置面積が小さく、膜モジュールの交換費用が少ない中空糸膜モジュールなどを用いた技術が開示されている(特許文献2)。この技術では、微生物や培養細胞を、分離膜に中空糸膜モジュール分離膜を用いて、濾液から化学品を回収すると同時に濃縮液中の微生物や培養細胞を発酵培養液に保持または還流させることにより、発酵培養液中の微生物や培養細胞濃度を高く維持することが可能となっており、ここで、発酵培養液を中空糸膜モジュールに送液し、一部は濾過をして、大部分は発酵槽に還流させるクロスフロー濾過を採用しており、このクロスフロー濾過の流れの剪断力により、膜表面の汚れを除去し、効率的な濾過を長期間継続することも可能であった。
【0008】
しかし、分離膜1次側に通液するクロスフローの流束については、例えば外圧式中空糸膜モジュールでは0.1〜1m/s、内圧式中空糸膜モジュールでは0.5〜3m/sと、高い流束で運転を行うのが一般的である。これは前述したクロスフローの流れの剪断力により、膜表面の汚れを除去することや、内圧式中空糸膜の場合は、発酵液が中空糸膜内部の流路が狭い部分を通液されるため詰まり防止の目的も含まれる。
【0009】
以上を前提として、工業化における設備対応を考えると、大きいものでは数百mの発酵槽にて連続発酵を行うことも想定されるが、各モジュールに供給するクロスフロー流量の総量は、数百〜数千m3/時間にもなる。この場合、この流量に対応できるように、発酵槽から各モジュールへ送液する配管、バルブおよび送液ポンプなどの機器、設備を大型化する必要があり、そのため、送液配管等の容量が増加する。これより、発酵槽においては、原料の供給、また好気発酵では酸素供給が行われ、発酵培養の環境が適正に整えられているが、この発酵槽の容量に対し、発酵槽以外の送液配管等の容量が相対的に大きくなり、発酵効率が低下する懸念がある。さらに、機器、設備が大型化することによる設備費が増加、またクロスフロー流量の増加により送液ポンプ電力が増加し、コストアップの大きな問題がある。そのため、できるだけクロスフロー流量を抑えつつ、クロスフローで除去できる分離膜表面への微生物等の堆積を抑制するための手段が必要である。
【0010】
分離膜に超音波振動子を付設して振動させることで、分離膜表面への堆積防止を図る技術(特許文献3)や、発酵液の濾過で、クロスフローろ過で使用する分離膜を振動させることにより、濾過性が向上する技術(非特許文献2)が開示されている。しかし、共に振動させるための設備が複雑で、設備費が増大する問題があり、また分離膜を振動させるため装置の耐久性が劣る可能性、さらに駆動部からの雑菌混入によるコンタミネーションの懸念もあり、工業用に使用する大型の発酵槽では適用は難しい。
【0011】
この様に従来の膜分離連続発酵法では、分離膜モジュールの使用方法について、産業的応用が難く、効率的な連続発酵における化学品の製造は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−252367号公報
【特許文献2】特開2010−57389号公報
【特許文献3】特開昭63−188387号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Toshihiko Hirao et al.(ヒラノ・トシヒコ ら)、 Appl. Microbiol. Biotechnol.(アプライド マイクロバイアル アンド マイクロバイオロジー),32,269−273(1989)
【非特許文献2】Soren Prip Beier,Maria Guerra,Arvid Garde,Gunnar Jonsson, Dynamic microfiltration with a vibrating hollow fiber membrane module:Filtration of yeast suspensions,Journal of Membrane Science 281 (2006) 281-287
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、濁質濃度の高い発酵液について、クロスフロー濾過を効率的に行い、かつ発酵の安定化、運転コストを大幅に低減する化学品の製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記目標を達成するために、次のような構成をとる。
【0016】
(1)発酵原料を微生物の発酵培養により化学品を含有する発酵液へと変換する発酵工程と、該発酵液から分離膜により濾過液として化学品を回収する膜分離工程を含む連続発酵による化学品の製造方法であって、分離膜の一次側に供給する発酵液の圧力を変動させることを特徴とする連続発酵による化学品の製造方法。
【0017】
(2)分離膜の一次側に発酵液を供給する際に、同時に気体を供給する(1)に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上述の連続発酵による化学品の製造方法により、濁質濃度の高い発酵液について、クロスフロー濾過を効率的に行うことができ、広く発酵工業において、発酵生産物である化学品を低コストで安定に生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明で用いられる膜分離型連続発酵装置の例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を用いた連続発酵による化学品の製造で使用する、微生物または培養細胞について述べる。
【0021】
本発明の連続発酵による化学品の製造において使用される微生物や培養細胞については特に制限はなく、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、大腸菌、コリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌、動物細胞、昆虫細胞などが挙げられる。また、使用する微生物や培養細胞は、自然環境から単離されたものでもよく、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【0022】
本発明の製造方法で得られる化学品すなわち変換後物質は、上記の微生物や培養細胞が発酵液中に生産する物質である。化学品としては、例えば、アルコール、有機酸、アミノ酸および核酸など発酵工業において大量生産されている物質を挙げることができる。また、本発明は、酵素、抗生物質および組換えタンパク質のような物質の生産に適用することも可能である。例えば、アルコールとしては、エタノール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールおよびグリセロール等が挙げられる。また、有機酸としては、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸およびクエン酸等を挙げることができ、核酸であればイノシン、グアノシンおよびシチジン等を挙げることができる。
【0023】
また、本発明の製造方法で得られる化学品は、化成品、乳製品、医薬品、食品または醸造品のうち、少なくとも1種を含む流体物、または排水であることが好ましい。ここで化成品としては、例えば、有機酸、アミノ酸および核酸のように、膜分離濾過後の工程により化学製品を作ることに適用可能な物質、乳製品としては、例えば、低脂肪牛乳など、膜分離濾過後の工程により乳製品として適用可能な物質、医薬品としては、例えば、酵素、抗生物質、組み換えタンパク質のように、膜分離濾過後の工程により医薬品を作ることに適用可能な物質、食品としては、例えば、乳酸飲料など、膜分離濾過後の工程により食品として適用可能な物質、醸造品としては、例えば、ビール、焼酎など、膜分離濾過後の工程によりアルコールを含む飲料として適用可能な物質、排水としては、例えば、食品洗浄排水、乳製品洗浄排水などの生産品洗浄後の排水や、有機物を豊富に含む家庭排水などが挙げられる。
【0024】
本発明で乳酸を製造する場合、真核細胞であれば酵母、原核細胞であれば乳酸菌を用いることが好ましい。このうち酵母は、乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子を細胞に導入した酵母が好ましい。このうち乳酸菌は、消費したグルコースに対して対糖収率として50%以上の乳酸を産生する乳酸菌を用いることが好ましく、更に好ましくは対糖収率として80%以上の乳酸菌であることが好適である。
【0025】
本発明で乳酸を製造する場合に好ましく用いられる乳酸菌としては、例えば、野生型株では、乳酸を合成する能力を有するラクトバチラス属(Lactobacillus)、バチラス属(Bacillus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)、テトラゲノコッカス属(Genus Tetragenococcus)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、バゴコッカス属(Genus Vagococcus)、ロイコノストック属(Genus Leuconostoc)、オエノコッカス属(Genus Oenococcus)、アトポビウム属(Genus Atopobium)、ストレプトコッカス属(Genus Streptococcus)、エンテロコッカス属(Genus Enterococcus)、ラクトコッカス属(Genus Lactococcus)およびスポロラクトバチルス属(Genus Sporolactobacillus)に属する細菌が挙げられる。
【0026】
また、乳酸の対糖収率や光学純度が高い乳酸菌を選択して用いることができ、例えば、D−乳酸を選択して生産する能力を有する乳酸菌としてはスポロラクトバチルス属に属するD−乳酸生産菌が挙げられ、好ましい具体例として、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス(Sporolactobacillus laevolacticus)またはスポロラクトバチルス・イヌリナス(Sporolactobacillus inulinus)が使用できる。さらに好ましくは、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC 23492、ATCC 23493、ATCC 23494、ATCC 23495、ATCC 23496、ATCC 223549、IAM12326、IAM 12327、IAM 12328、IAM 12329、IAM 12330、IAM 12331、IAM 12379、DSM 2315、DSM 6477、DSM 6510、DSM 6511、DSM 6763、DSM 6764、DSM 6771などとスポロラクトバチルス・イヌリナスJCM 6014などが挙げられる。
【0027】
L−乳酸の対糖収率が高い乳酸菌としては、例えば、ラクトバシラス・ヤマナシエンシス(Lactobacillus yamanashiensis)、ラクトバシラス・アニマリス(Lactobacillus animalis)、ラクトバシラス・アジリス(Lactobacillus agilis)、ラクトバシラス・アビアリエス(Lactobacillus aviaries)、ラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・デルブレッキ(Lactobacillus delbruekii)、ラクトバシラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバシラス・ルミニス(Lactobacillus ruminis)、ラクトバシラス・サリバリス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバシラス・シャーピイ(Lactobacillus sharpeae)、ラクトバシラス・デクストリニクス(Pediococcus dextrinicus)、およびラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)などが挙げられ、これらを選択して、L−乳酸の生産に用いることが可能である。
【0028】
本発明の連続発酵による化学品の製造は、発酵原料を使用する。使用される発酵原料としては、培養する微生物の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものであればよい。
【0029】
使用される発酵原料は、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸やビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地が良い。炭素源としては、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトースおよびラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、酢酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、およびグリセリンなどが使用される。窒素源としては、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜添加することができる。
【0030】
連続発酵による化学品の製造に使用する微生物または培養細胞が生育のために特定の栄養素を必要とする場合には、その栄養物を標品もしくはそれを含有する天然物として添加する。また、消泡剤を必要に応じて使用することができる。連続発酵による化学品の製造において、培養液とは、発酵原料に微生物または培養細胞が増殖した結果得られる液のことを言う。追加する発酵原料の組成は、目的とする化学品の生産性が高くなるように、培養開始時の発酵原料組成から適宜変更しても良い。
【0031】
また、適当な時期から原料培養液の供給および培養物、また必要に応じて発酵槽内から微生物または培養細胞の引き抜きを行うことが可能である。
【0032】
本発明において、発酵・膜分離工程において用いられる分離膜について説明する。
【0033】
本発明に用いられる分離膜は、有機膜、無機膜を問わず、耐薬品性を持つ分離膜であれば良い。分離性能及び透水性能、さらには耐汚れ性の観点から、有機高分子化合物を好適に使用することができる。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂およびセルローストリアセテート系樹脂などが挙げられ、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物であってもよい。
【0034】
本発明においては、溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂およびポリアクリロニトリル系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂が、化学的強度(特に耐薬品性)と物理的強度を併せ有する特徴をもつため最も好ましく用いられる。
【0035】
ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられる。さらに、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体を用いても構わない。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよび三塩化フッ化エチレンなどが例示される。
【0036】
さらに好ましくは、フッ素樹脂系高分子を含む中空糸膜であり、三次元網目構造と球状構造の両方を有し、親水性を持たせるために、三次元網目構造中に脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子、またはセルロースエステルを含有する中空糸膜である。
【0037】
ここで、三次元網目構造とは、固形分が三次元的に網目状に広がっている構造をいう。三次元網目構造は、網を形成する固形分に仕切られた細孔およびボイドを有する。
【0038】
また、球状構造とは、多数の球状もしくは略球状の固形分が、直接もしくは筋状の固形分を介して連結している構造のことをいう。
【0039】
さらに、球状構造層と三次元網目構造層の両方を有していれば特に限定されないが、球状構造層と三次元網目構造層とが積層されたものであることが好ましい。一般に層を多段に重ねると、各層の界面では層同士が互いに入り込むために緻密になり、透過性能が低下する。層同士が互いに入り込まない場合は、透過性能は低下しないが、界面の剥離強度が低下する。従って、各層の界面の剥離強度と透過性能を考慮すると、球状構造層と三次元網目構造層の積層数は少ない方が好ましく、球状構造層1層と三次元網目構造層1層の合計2層からなるようにすることが特に好ましい。また、球状構造層と三次元網目構造層以外の層、例えば多孔質基材などの支持体層を含んでいても良い。多孔質基材としては、有機材料、無機材料等、特に限定されないが、軽量化しやすい点から有機繊維が好ましい。さらに好ましくは、セルロース系繊維、酢酸セルロース系繊維、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維などの有機繊維からなる織布や不織布である。
【0040】
三次元網目構造層と球状構造層の上下や内外の配置は、濾過方式によって変えることができるが、三次元網目構造層が分離機能を担い、球状構造層が物理的強度を担うため、三次元網目構造層を分離対象側に配置することが好ましい。特に、汚れ物質の付着による透過性能の低下を抑制するためには、分離機能を担う三次元網目構造層を分離対象側の最表層に配置することが好ましい。
【0041】
また平均細孔径は、透水性能が上述の範囲にあれば使用する目的や状況に応じて適宜決定することができるが、ある程度小さい方が好ましく、通常は0.01μm以上1μm以下であることが良い。中空糸膜の平均細孔径が0.01μm未満であると、糖や蛋白質などの成分やその凝集体などの膜汚れ成分が細孔を閉塞して、安定運転ができなくなる。透水性能とのバランスを考慮した場合、好ましくは0.02μm以上であり、さらに好ましくは0.03μm以上である。また、1μmを超える場合、膜表面の平滑性と膜面の流れによる剪断力や、逆洗やエアースクラビングなどの物理洗浄による細孔からの汚れの成分の剥離が不十分となり、安定運転ができなくなる。さらに中空糸膜の平均細孔径が微生物もしくは培養細胞の大きさに近づくと、これらが直接孔を塞いでしまう場合がある。また発酵培養液中の微生物もしくは培養細胞の一部が死滅することにより細胞の破砕物が生成する場合があり、これらの破砕物によって中空糸膜の閉塞することから回避するために、平均細孔径は0.4μm以下が好ましく、0.2μm以下であれば、より好適に実施することができる。
【0042】
ここで、平均細孔径は、倍率10,000倍以上の走査型電子顕微鏡観察で観察される複数の細孔の直径を測定し、平均することにより求めることができる。10個以上、好ましくは20個以上の細孔を無作為に選び、それら細孔の直径を測定し、数平均して求めることが好ましい。細孔が円状でない場合などは画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円、すなわち等価円を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求めることも好ましく採用できる。
【0043】
本発明で用いられる分離膜モジュールの形態としては、中空糸膜、スパイラル式などいずれの形状のものも採用することができ、中空糸膜モジュールであれば、外圧式、内圧式のいずれの形状のものも採用することができる。
【0044】
本発明において、微生物や培養細胞の発酵液を膜モジュール中の分離膜で濾過処理する際の膜間差圧は、微生物や培養細胞および培地成分が容易に目詰まりしない条件であればよいが、膜間差圧を0.1kPa以上20kPa以下の範囲にして濾過処理することが重要である。膜間差圧は、好ましくは0.1kPa以上10kPa以下の範囲であり、さらに好ましくは0.1kPa以上5kPaの範囲である。上記膜間差圧の範囲を外れた場合、原核微生物および培地成分の目詰まりが急速に発生し、透過水量の低下を招き、連続発酵運転に不具合を生じることがある。
【0045】
濾過の駆動力としては、発酵液と多孔性膜処理水の液位差(水頭差)を利用したサイホン、またはクロスフロー循環ポンプにより分離膜に膜間差圧を発生させることができる。また、濾過の駆動力として分離膜処理水側に吸引ポンプを設置してもよい。また、クロスフロー循環ポンプを使用する場合には、吸引圧力により膜間差圧を制御することができる。更に、発酵液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によっても膜間差圧を制御することができる。これら圧力制御を行う場合には、発酵液側の圧力と多孔性膜処理水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。
【0046】
連続発酵による化学品の製造において、発酵培養液中の糖類濃度は5g/l以下に保持されることが好ましい。発酵培養液中の糖類濃度を5g/l以下に保持することが好ましい理由は、発酵培養液の引き抜きによる糖類の流失を最小限にするためである。
【0047】
微生物もしくは培養細胞の培養は、通常、pH3以上8以下、温度20℃以上60℃以下の範囲で行われる。発酵培養液のpHは、無機の酸あるいは有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、炭酸カルシウムおよびアンモニアガスなどによって、通常、pH3以上8以下範囲内のあらかじめ定められた値に調節する。酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を21%以上に保つ、発酵培養液を加圧する、攪拌速度を上げる、あるいは通気量を上げるなどの手段を用いることができる。
【0048】
また連続発酵における化学品の製造において、分離膜の洗浄に逆圧洗浄や薬液浸漬による洗浄などを行うため、これらに対する耐久性を有することが要求される。例えば逆圧洗浄液には、水や濾過液を用いる他、発酵に大きく阻害しない範囲で、アルカリ、酸または酸化剤を使用することができる。ここで、アルカリは、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液などを挙げることができる。酸は、シュウ酸、クエン酸、塩酸、硝酸などを挙げることができる。また酸化剤は、次亜塩素酸塩水溶液、過酸化水素水などを挙げることができる。この逆圧洗浄液は100℃未満の高温で使用することもできる。ここで、逆圧洗浄とは、分離膜の2次側である濾過液側から、1次側である発酵液側へ液体を送ることにより、膜面の汚れ物質を除去する方法である。
【0049】
なお、逆圧洗浄液の逆圧洗浄速度は、膜濾過速度の0.5倍以上5倍以下の範囲であり、より好ましくは1倍以上3倍以下の範囲である。逆圧洗浄速度がこの範囲より高いと、分離膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より低いと洗浄効果が充分に得られないことがある。
【0050】
逆圧洗浄液の逆圧洗浄周期は、膜差圧および膜差圧の変化により決定することができる。逆圧洗浄周期は、時間あたり0.5回以上12回以下の範囲であり、より好ましくは時間あたり1回以上6回以下の範囲である。逆圧洗浄周期がこの範囲より多いと、分離膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より少ないと、洗浄効果が充分に得られないことがある。
【0051】
逆圧洗浄液の逆圧洗浄時間は、逆圧洗浄周期、膜差圧および膜差圧の変化により決定することができる。逆圧洗浄時間は、1回あたり5秒以上300秒以下の範囲であり、より好ましくは1回あたり30秒以上120秒以下の範囲である。逆圧洗浄時間がこの範囲より長いと、分離膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より短いと、洗浄効果が充分に得られないことがある。
【0052】
また逆圧洗浄をする際に、一旦濾過を停止し、逆圧洗浄液で分離膜を浸漬することができる。浸漬時間は、浸漬洗浄周期、膜差圧および膜差圧の変化により決定することができる。浸漬時間は、好ましくは1回あたり1分以上24時間以下、より好ましくは1回あたり10分以上12時間以下の範囲である。
【0053】
分離膜を複数系列とし、分離膜を逆圧洗浄液で浸漬洗浄する際に、系列を切り替えて、濾過が全停止しないようにすることも好ましく採用できる。
【0054】
洗浄液保管タンク、洗浄液供給ポンプ、洗浄液保管タンクからモジュールまでの配管およびバルブは、耐薬品性に優れるものを使用すれば良い。逆圧洗浄液の注入は手動でも可能だが、ろ過・逆洗制御装置を設け、ろ過ポンプおよびろ過側バルブ、洗浄液供給ポンプおよび洗浄液供給バルブを、タイマーなどにより自動的に制御して注入することが望ましい。
【0055】
連続発酵による化学品の製造では、培養初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って、微生物濃度を高くした後に、連続発酵(引き抜き)を開始しても良い。または、微生物濃度を高くした後に、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続発酵を行っても良い。連続発酵による化学品の製造では、適当な時期から原料培養液の供給および培養物の引き抜きを行うことが可能である。原料培養液供給と培養物の引き抜きの開始時期は必ずしも同じである必要はない。また、原料培養液の供給と培養物の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。
【0056】
原料培養液には菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。発酵培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、発酵培養液の環境が微生物または培養細胞の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが、効率よい生産性を得る上で好ましい態様である。発酵培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、一例として、SL乳酸菌を用いたD−乳酸発酵では、乾燥重量として、微生物濃度を5g/L以上に維持することにより良好な生産効率が得られる。
【0057】
連続発酵の運転においては、微生物発酵槽の微生物濃度をモニタリングすることが望ましい。微生物濃度の測定はサンプルを採取し、測定することでも可能だが、微生物発酵槽に、MLSS測定器など、微生物濃度センサーを設置し、微生物濃度の変化状況を連続的にモニタリングすることが望ましい。
【0058】
連続発酵による化学品の製造では、必要に応じて発酵槽内から微生物または培養細胞を引き抜くことができる。例えば、発酵槽内の微生物または培養細胞濃度が高くなりすぎると、分離膜の閉塞が発生しやすくなることから、引き抜くことで、閉塞から回避することができる。また、発酵槽内の微生物または培養細胞濃度によって化学品の生産性能が変化することがあり、生産性能を指標として微生物または培養細胞を引き抜くことで生産性能を維持させることも可能である。
【0059】
連続発酵による化学品の製造では、発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、菌体を増殖させつつ生産物を生成する連続培養法であれば、発酵反応槽の数は問わない。連続発酵による化学品の製造では、連続培養操作は、通常、培養管理上単一の発酵反応槽で行うことが好ましい。発酵反応槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵反応槽を用いることも可能である。この場合、複数の発酵反応槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても発酵生産物の高生産性は得られる。
【0060】
本発明で用いられる連続発酵装置について、図を用いて説明する。
【0061】
図1は、本発明の連続発酵による化学品の製造方法で用いられる連続発酵装置を例示説明するための概略側面図である。図1は、分離膜モジュール2が、発酵槽1の外部に設置された代表的な連続発酵装置の例である。図1において、連続発酵装置は、発酵槽1と分離膜モジュール2と洗浄液供給部で基本的に構成されている。ここで、分離膜モジュール2には、多数の中空糸膜が組み込まれている。また、洗浄液供給部は、濾過バルブ13と洗浄液供給ポンプ12と洗浄液バルブ14で構成される。また、分離膜モジュール2は、循環ポンプ8を介して発酵槽1に接続されている。
【0062】
図1において、培地供給ポンプ9によって培地を発酵槽1に投入し、必要に応じて、撹拌装置4で発酵槽1内の発酵液を撹拌し、また、必要に応じて、気体供給装置15によって必要とする気体を供給することができる。このとき、供給された気体を回収リサイクルして再び気体供給装置15で供給することができる。また必要に応じて、pHセンサー・制御装置5および中和剤供給ポンプ10によって発酵液のpHを調節することにより、生産性の高い発酵生産を行うことができる。
【0063】
さらに、装置内の発酵液は、循環ポンプ8によって発酵槽1と分離膜モジュール2の間を循環する。発酵生産物を含む発酵液は、分離膜モジュール2によって微生物と発酵生産物にろ過・分離され、装置系から取り出すことができる。また、濾過・分離された微生物は、装置系内にとどまることにより装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産性の高い発酵生産を可能としている。ここで、分離膜モジュール2による濾過・分離には、循環ポンプ8による圧力によって、特別な動力を使用することなく実施可能であるが、必要に応じて濾過ポンプ11を設け、差圧センサー・制御装置7によって発酵液量を適当に調整することができる。必要に応じて、温度制御装置3によって、発酵槽1の温度を一定に維持することができ、微生物濃度を高く維持することができる。
【0064】
この循環ポンプ8には、ダイヤフラムやプランジャーの往復運動により液体の吸い込み、吐き出し作用を行う容積型の往復ポンプを用いることが望ましい。例えばダイヤフラムポンプは、ダイヤフラムと二つの弁で構成されるポンプで、ダイヤフラムを上下または左右に運動させて、ダイヤフラムの容積を変化させ、吸い込み、吐き出し作用を行うことができる。この容積を変化させる際にポンプの吐出圧力に圧力変動が生じる。一つのポンプでダイヤフラムを複数並列して送液するポンプや、ダイヤフラムポンプを複数並列して送液する場合、ダイヤフラムのストローク数、ストローク長、ダイヤフラム径を変更することで、送液時のポンプ吐出圧力の圧力変動幅、周期を変更することができる。
【0065】
例えば、ダイヤフラムポンプを3台並列運転する場合、一般的なダイヤフラムポンプの吐出圧力はサインカーブの様に時間変化し増減するが、3台のダイヤフラムポンプのサインカーブの周期をずらすことで、1台ずつではサインカーブの様に変動する吐出圧力も、3台並列では平均化されて吐出圧力の変動は小さくなる。また、3台のダイヤフラムポンプのサインカーブの周期を同じにすると、サインカーブが増幅される形となり、吐出圧力の変動は大きくなる。
【0066】
またポンプ吐出側に制御バルブを設けることにより、圧力を制御することもできる。例えば、ダイヤフラムポンプ以外の遠心ポンプなどのポンプでも、吐出側に制御バルブを設け、はじめは全開としていたバルブの開度を徐々に小さくし、制御バルブでの圧力損失を増大させ、制御バルブ出の圧力を低下させる。その後、バルブ開度を徐々に大きくし、制御バルブでの圧力損失を減少させ、制御バルブでの圧力を増加させ、これを繰り返すことで周期的な変動を発生させることもできる。制御バルブの開度の調整幅により、圧力の変動幅を変更することもできる。
【0067】
本発明では、この循環ポンプ8で発酵液を循環する際に、分離膜モジュール2の一次側に供給する発酵液の圧力を変動させることが特徴である。循環ポンプ8の吐出圧力の圧力変動により局所的に乱流領域をつくることができ、クロスフローの発酵液の剪断力が増大し、分離膜表面に堆積した微生物等の堆積物を除くことができ、分離膜の濾過性能を良好に維持することができる。
【0068】
この供給する発酵液の圧力の変動については、連続的に変動させることもできるし、通常はほぼ一定のポンプ吐出圧力で運転しているが、設定の時間のみ、制御バルブを操作することなどにより、設定した時間のみ変動させ断続的に変動させることもできる。
【0069】
循環ポンプ8の吐出圧力の変動により、循環ポンプ8の吐出圧力の圧力変動により分離膜表面に堆積した微生物等の堆積物を除くことができるが、この圧力変動が小さすぎると、除去効果も小さく、また圧力変動が大きすぎると、送液配管のハンチングによる接続部からの漏れが発生する懸念もある。そのため、循環ポンプ8の圧力変動の大きさは、吐出圧力に対して、3%以上20%以下であることが望ましい。
【0070】
好気発酵においては、発酵槽に気体を供給し、発酵液に酸素を溶解させて発酵を行うが、連続発酵法において、微生物や培養細胞を分離膜で濾過する際、濾液から化学品を回収すると同時に濃縮液中の微生物や培養細胞を発酵培養液に保持または還流させるため、分離膜モジュールに発酵液をクロスフロー循環させる。この循環を行う送液ラインや分離膜モジュールに気体を供給することで、発酵槽とは別の場所で、発酵液に酸素を溶解させることもでき、かつ気体の剪断力により分離膜表面へ堆積した微生物等を除去することができる。
【0071】
ここで、気体については、好気性発酵の場合は、酸素が含まれた気体が好ましく、純酸素で供給しても良く、発酵に悪影響のない気体、例えば、空気、窒素、二酸化炭素、メタン、または前記気体らの混合気体などを混合して酸素の濃度を調整した気体でも良い。一方で嫌気性発酵の場合において、酸素の供給速度を下げる必要があれば、二酸化炭素、窒素、メタンおよびアルゴンなど、酸素を含まないガスを空気に混合して供給することも可能である。
【0072】
気体供給源は、気体を圧縮した後、一定な圧力で気体を供給することが可能な装置、または、気体が圧縮されていて、一定な圧力で気体を供給することが可能なタンクで良い。ガスボンベ、ブロアー、コンプレッサー、あるいは配管によって供給される圧縮ガスなどを使用することができる。
【0073】
また、気体供給源から気体供給口までの配管には流量計などを設置し、気体供給量の測定ができるようにし、前記配管にバルブなどを設置し、供給流量を制御する。バルブは気体の流量を調整することができるもので、自動バルブを設け、気体供給を間欠的に行うことができる。気体供給は、バルブを用いて手動で行うことも可能だが、気体供給量を制御する装置を設け、ろ過ポンプおよびろ過側バルブ、気体供給バルブおよび流量計を、タイマーなどにより自動的に制御して供給することが望ましい。前記流量計、バルブ、制御装置を設置しなくても、供給する気体の流量が確認でき、その流量を制御することができるものであれば、特に限定されない。
【0074】
気体供給源から気体供給口までの配管には、発酵系の中に雑菌が入らないように、滅菌用装置や滅菌用フィルタなどを設置することが好ましい。
【0075】
気体供給口は、気体供給源から分離膜モジュールの1次側に気体を供給することができれば良い。気体供給口は、分離膜モジュールの下部に設けることも良く、さらには、発酵槽と分離膜モジュールとを連通する配管に設けることもできる。ポンプを用いて発酵槽から分離膜モジュールまで発酵液を送液する際には、発酵液とポンプの間、またはポンプと分離膜モジュールの間に気体供給口を設けることができる。
【0076】
気体供給口の大きさは、気体供給量が供給可能で、かつ、発酵液により詰まりが発生しないような大きさであれば良い。発酵系の中に雑菌が入らないように、滅菌用フィルタなどを設置することもできる。
【0077】
本発明では、分離膜モジュール2の一次側に供給する発酵液の圧力を変動させる際に、クロスフロー循環の送液ライン、または分離膜モジュールに同時に気体を供給し、圧力変動を伴い供給する発酵液中に気体を混入させることで、気体の剪断力を増加させることができ、分離膜表面へ堆積した微生物等の除去効果をさらに増大させることができる。
【0078】
嫌気発酵では発酵液中の溶存酸素濃度を低くする必要があることから、空気や酸素によるスクラビングを適用できず、前記の様に酸素を含まないガスを空気に混合して供給することも可能であるが、コストが高くなる懸念がある。そのため、代わりに分離膜モジュール2の一次側に供給する発酵液の圧力を変動させる本発明のクロスフロー圧変動を適用することで、分離膜表面に堆積した微生物等の堆積物を除去し、良好な分離膜濾過性を維持することができる。好気発酵でも嫌気発酵と同様に、発酵液中の溶存酸素濃度が制限される場合があるため、発酵槽、または発酵槽に循環する送液ラインや分離膜モジュールなどの付帯設備に供給する空気量の制限があるが、代わりに分離膜モジュール2の一次側に供給する発酵液の圧力を変動させる本発明のクロスフロー圧変動を適用することで、分離膜表面に堆積した微生物等の堆積物を除去し、良好な分離膜濾過性を維持することができる。
【0079】
洗浄液の供給方法で用いられる洗浄液供給部は、濾過バルブ13と洗浄液供給ポンプ12と洗浄液バルブ14で構成される。
【0080】
また発酵槽1には直接、水を添加することができ、水供給部は、水供給ポンプ16で構成される。連続発酵装置に添加される物質は、コンタミによる汚染を防止し、発酵を効率よく行うため、滅菌されていることが必要である。例えば、培地原料については、培地原料を調製後に加熱して滅菌しても良い。また、培地原料、pH調製液および発酵槽に添加する水は、必要に応じて、滅菌用フィルターを通すなどして無菌化したものを用いる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の効果をさらに詳細に、上記化学品としてD−乳酸を選定し、実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
(参考例1)中空糸膜の作製
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマーとγ−ブチロラクトンとを、それぞれ38重量%と62重量%の割合で170℃の温度で溶解した。この高分子溶液をγ−ブチロラクトンを中空部形成液体として随伴させながら口金から吐出し、温度20℃のγ−ブチロラクトン80重量%水溶液からなる冷却浴中で固化して球状構造からなる中空糸膜を作製した。次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製、CAP482−0.5)を1重量%、N−メチル−2−ピロリドンを77重量%、T−20Cを5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を、球状構造からなる中空糸膜の表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元編目構造を形成させた中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜の被処理水側表面の平均細孔径は、0.04μmであった。次に、上記の分離膜である中空糸多孔性膜について純水透水量を評価したところ、5.5×10-93/m2/s/Paであった。透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。
【0083】
(実施例1)
参考例1の中空糸膜を用いて分離膜モジュールを製作した。分離膜モジュールケースにはポリスルホン樹脂製筒状容器である成型品を用いて中空糸膜モジュールを作製した。製作した多孔性中空糸膜および膜ろ過モジュールを用いて、実施例1を行った。実施例1における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
発酵槽容量:2(L)
発酵槽有効容積:1.5(L)
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン中空糸膜104本(有効長8cm、総有効膜面積 0.036(m2))
中空糸膜モジュール本数:1本
温度調整:37(℃)
発酵槽通気量:窒素ガス0.2(L/min)
発酵槽攪拌速度:600(rpm)
pH調整:3N Ca(OH)2によりpH6に調整
乳酸発酵培地供給:発酵槽液量が約1.5Lで一定になる様に制御して添加
発酵液循環装置によるクロスフロー流束:0.3(m/s)
膜濾過流量制御:吸引ポンプによる流量制御
間欠的な濾過処理:濾過処理(9分間)〜濾過停止処理(1分間)の周期運転
膜濾過流束:0.01(m/day)以上0.3(m/day)以下の範囲で膜間差圧が20kPa以下となる様に可変。膜間差圧が範囲を超えて上昇し続けた場合は、連続発酵を終了した。
【0084】
培地は121℃、20分での飽和水蒸気下の蒸気滅菌をして用いた。微生物としてSporolactobacillus laevolacticus JCM2513(SL株)を用い、培地として表1に示す組成の乳酸発酵培地を用い、生産物である乳酸の濃度の評価には、下記に示したHPLCを用いて以下の条件下で行った。
【0085】
【表1】

【0086】
カラム:Shim-Pack SPR-H(島津社製)
移動相:5 mM p-トルエンスルホン酸(0.8 mL/min)
反応相:5 mM p-トルエンスルホン酸、20 mM ビストリス、0.1 mM EDTA・2Na(0.8 mL/min)
検出方法:電気伝導度
カラム温度:45℃
なお、乳酸の光学純度の分析は、以下の条件下で行った。
カラム:TSK-gel Enantio L1(東ソー社製)
移動相 :1 mM 硫酸銅水溶液
流束:1.0 mL/分
検出方法 :UV 254 nm
温度 :30℃
L-乳酸の光学純度は、次式(5)で計算される。
光学純度(%)=100×(L-D)/(D+L) ・・・(5)
また、D-乳酸の光学純度は、次式(6)で計算される。
光学純度(%)=100×(D-L)/(D+L) ・・・(6)
ここで、LはL-乳酸の濃度を表し、DはD-乳酸の濃度を表す。
【0087】
培養は、まずSL株を試験管で5mLの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコで24時間、30℃で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示す連続発酵装置の1.5Lの発酵槽に培地を入れて植菌し、発酵槽1を付属の攪拌機4によって攪拌し、発酵槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、発酵培養液循環ポンプ8を稼働させることなく、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、発酵培養液循環ポンプ8を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、乳酸発酵培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵液量を1.5Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるD−乳酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、定量濾過ポンプ11により濾過量が発酵培地供給流量と同一となるように制御した。適宜、膜透過発酵液中の生産されたD−乳酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。
【0088】
循環ポンプ8の吐出側に循環ポンプ出制御バルブ17を設け、循環ポンプの吐出圧力の変動幅が10%で、変動周期は2秒となるように発酵液を送液した。連続発酵試験を行った結果を表2に示す。図1に示す連続発酵装置において、連続発酵を400時間行うことができ、D−乳酸生産速度は最大5.0g/L/hrであった。
【0089】
【表2】

【0090】
(比較例1)
循環ポンプ8により発酵液を送液する際、発酵液供給圧力について、圧力変動幅が3%未満で、その他は実施例1と同様として連続発酵試験を行った結果を表2に示す。連続発酵時間は330時間で、D−乳酸生産速度は最大3.1g/L/hrであった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の方法によれば、簡便な運転条件で、長時間にわたり安定して高生産性を維持した連続発酵が可能となり、広く発酵工業において、発酵生産物である化学品を低コストで安定に生産することが可能となる。
【符号の説明】
【0092】
1:発酵槽
2:分離膜モジュール
3:温度制御装置
4:撹拌装置
5:pHセンサー・制御装置
6:レベルセンサー・制御装置
7:差圧センサー・制御装置
8:循環ポンプ
9:培地供給ポンプ
10:中和剤供給ポンプ
11:濾過ポンプ
12:洗浄液供給ポンプ
13:濾過バルブ
14:洗浄液バルブ
15:気体供給装置
16:水供給ポンプ
17:循環ポンプ出制御バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵原料を微生物の発酵培養により化学品を含有する発酵液へと変換する発酵工程と、該発酵液から分離膜により濾過液として化学品を回収する膜分離工程を含む連続発酵による化学品の製造方法であって、分離膜の一次側に供給する発酵液の圧力を変動させることを特徴とする連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項2】
分離膜の一次側に発酵液を供給する際に、同時に気体を供給する請求項1に記載の連続発酵による化学品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−135249(P2012−135249A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289639(P2010−289639)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】